4月8日(月)/花祭(はなまつり、別名:灌仏会)

★花御堂飾る花にも野のげんげ  正子
私は花御堂というものを写真でしか見たことが無いのですが、この季節、野にはげんげをはじめ沢山の花々で溢れていますね。花御堂だけでなく、花で溢れた野の風景までも見えてきます。(安藤智久)

○今日の俳句
切り出され杉は春野に積み上がる/安藤智久
伐採された杉の木は深い山を出て、今度は、明るい光の溢れる春の野に積まれる。まだまだ杉の香りも紛々として、春野に積まれることに、あらたな喜びを得たようである。(高橋正子)

○花祭(はなまつり、別名:灌仏会、釈迦の誕生日)
4月8日の花祭りは、仏教の開祖、釈迦の生誕を祝福する仏教行事。潅仏会(かんぶつえ)仏生会(ぶっしょうえ)といい、「花祭り」は明治以降の名称。浴像会、降誕会などともいわれます。古代から釈迦の生まれたインドで行われてきた行事からのもので、日本ではお盆とともに仏教伝来からの歴史があります。推古天皇代(606)、聖徳太子の提唱で元興寺で行われたのが最初とか。この日、各寺には花で飾った小堂、花御堂(はなみどう)がつくられます。金属製の幼仏像をその中にまつり、甘茶が参拝者によってその誕生仏にかけられます。甘茶を潅(そそ)ぐ行事なので「潅仏会」。 花御堂は釈迦が生まれたところルンピニ園の花園を表しています。甘茶とは砂糖入りのお茶というわけではなく、ユキノシタ科のアマチャやウリ科のアマチャヅルを煎じた飲料です。漢方薬店で売っているらしい。お寺で参拝のあとにいただけるところもあります。麦茶に似た色をしていてちょっと甘くちょっとにがく、とろりとした飲みごこちがします。

★稚き葉の白く開きて潅仏会  正子
★石段のゆるびし上の甘茶寺  〃
★甘茶仏甘茶のいろに輝けり  〃
★花御堂飾る花にも野のげんげ  〃

○紫雲英(げんげ)・蓮華草(れんげそう)・れんげ・げんげん

[げんげ/横浜日吉本町]

★十本の指ありげんげ摘んでいる/三橋鷹女
★紫雲英田の沖の白波一つ見ゆ/川崎展宏
★親牛も子牛もつけしげんげの荷/高野素十
★花束になりたい蓮華草の夢/岡村嵐舟
★げんげ咲くコースジョギング続けねば/山本翠公
★何を言わんとして一面の蓮華草/田頭良子

 ゲンゲ(紫雲英、翹揺 Astragalus sinicus)はマメ科ゲンゲ属に分類される越年草。中国原産。レンゲソウ(蓮華草)、レンゲ、とも呼ぶ。春の季語。かつて水田に緑肥として栽培され、現在でもその周辺に散見される。岐阜県の県花に指定されている。
湿ったところに生える。全体に柔らかな草である。茎の高さ10-25cm。根本で枝分かれして、暖かい地方では水平方向に匍匐し、60-150センチまで伸びる場合もある。茎の先端は上を向く。また、根本から一回り細い匍匐茎を伸ばすこともある。葉は一回羽状複葉、小葉は円形に近い楕円形、先端は丸いか、少しくぼむ。一枚の葉では基部から先端まで小葉の大きさがあまり変わらない。花茎は葉腋から出て真っ直ぐに立ち、葉より突き出して花をつける。花は先端に輪生状にひとまとまりにつく。花色は紅紫色だが、まれに白色(クリーム色)の株もある。
 ゲンゲの花のミツは、良い「みつ源」になる。蜂蜜の源となる蜜源植物として利用されている。ゆでた若芽は食用にもなる(おひたし、汁の実、油いため他)。民間薬として利用されることがある(利尿や解熱など)。ゲンゲの花を歌ったわらべ歌もある。「春の小川」などが有名。
ギリシア神話では、祭壇に捧げる花を摘みに野に出た仲良し姉妹の話が有名。ニンフが変身した蓮華草を誤って摘んでしまった姉のドリュオペが、代わりに蓮華草に変わってしまう。「花はみな女神が姿を変えたもの。もう花は摘まないで」、と言い残したという。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

4月8日(月)

●小口泰與
摘みてきし一輪草を供花とせり★★★
枝垂れ梅見事ですねと声掛かる★★★
青柳や利根の瀬頭波高し★★★

●河野啓一
雨上がり百合の芽伸びる速さかな★★★
名も知らぬ苗木の育つ庭の先★★★
陽のひかり若葉青葉の朝が来る★★★

●増田泰造
母やなし増毛の浜の春の潮★★
鰊群来見たさに銭函来つるかな★★
厩出しいななく主は栗毛色★★

●多田有花
時雨くる中を燕の旋回す★★★
ガレージに等間隔に燕の巣★★★
山桜いま満開の昼下がり★★★

●祝恵子
先頭を行く子はだあれチューリップ★★★
山吹の枝垂れて森の水の上★★★
大道芸子も手伝いて花吹雪く★★★★

●桑本栄太郎
イベントの台車の上や花の塵★★★
散り敷ける坂の艶めき花の冷え★★★
道野辺の片方(かたへ)に集い花の塵★★★

●小西 宏
低き雲ありて速きや夏蜜柑★★★
陽の眩し三葉躑躅の山の道★★★
残されし蕪(かぶら)の花の群れ咲けり★★★

●高橋秀之
チューリップ真っ直ぐ天へ赤々と★★★★
チューリップを代表する色はやはり赤。その赤色のチューリップが真っ直ぐに、新入生のように背筋をのばしている。迷いがなくすがすがしい。(高橋正子)

真っ白な靴で歩みゆく新学期★★★
若草に一筋の道河川敷★★★

●藤田洋子
売り声の丘を巡れり植木市★★★
さわさわと和紙の音して雛納む★★★★
雛納めんは、幾分寂しさがつきまとうが、この句はそうではなく、「さわさわと」した気持ちで雛を納めている。雛は美しいままに、次に飾られる日を待つであろう。(高橋正子)

水の面に落花一片ずつの色★★★

4月7日(日)

●小口泰與
渓流の音の蛇行や初わらび★★★★
「音」が蛇行するというのは、渓流の遠くの音までが微妙に違って聞こえてくること。その中にわらびが萌え出て、早春の若々しさがうれしい。(高橋正子)

あけぼのや雉の鋭声と犬の声★★★
笊下げて小川へ下りし花菜かな★★★

●河野啓一
一斉に芽吹いて街の銀杏かな★★★
欅若葉みどりは枝の先端に★★★
花韮のうすむらさきに揺れており★★★

●多田有花
嵐の夜明けて山野に木の芽の色★★★
一陣の風に放ちぬ花吹雪★★★
花屑を残し嵐の東へ去る★★★

●桑本栄太郎
花に酔ひ花の命を惜しみけり★★★
重なれば並木色濃き花の影★★★
菜種梅雨ときに嵐となることも★★★

●小西 宏
青空へまるく葉を巻き楢芽吹く★★★★
一木の下(もと)宴あり遅桜★★★
笛習う人の集うて花馬酔木★★★

●高橋秀之
嵐すぎ桜花びら真っ直ぐに★★★
石垣の上に枝垂桜咲く★★★
彦根城堀に桜と空映る★★★

●黒谷光子
朝よりの雨に煙りて花の土手★★★
たまさかに過ぎる公園花の雨★★★
近道をして春泥を避けられず★★★

●下地鉄
花園はサンバのりずむ春嵐★★★
サルビアの咲き揃いてや空の青★★★
春雲や明日帰郷する孫の顔★★★

4月7日(日)

★花淡し寺の甍がかがやけば  正子
桜の花が咲き、寺の屋根は春の陽に輝いています。「花淡し」と言いきったことで、よりいっそう桜特有の美しさが際立って伝わります。(井上治代)

○今日の俳句
楓の芽今開かんとして紅し/井上治代
楓の芽のかわいらしさと紅い色の美しさを端的に、みずみずしく詠んだ。「紅し」の言い切りが快い。(高橋正子)

○烏野豌豆(カラスノエンドウ)

[カラスノエンドウ/横浜日吉本町] 

★畦道に豆の花咲く別れかな/星野 椿
★子供よくきてからすのゑんどうある草地/川島彷徨子
★子等帰るからすのゑんどう吹きながら/照れまん
★野球ボール飛び込むからすのえんどうに/高橋正子

からすのえんどうは、小さいながらも、きっちり豆の花の形をしている。どう見ても豆の花のミニチュア版である。見るたびいつも、こう思う。

 ヤハズエンドウ(矢筈豌豆、Vicia sativa subsp. nigra[1])は、マメ科ソラマメ属の越年草。ヤハズエンドウが植物学的局面では標準的に用いられる和名だが、カラスノエンドウ(烏野豌豆)という名が一般には定着している(「野豌豆」は中国での名称)。
 本州から四国・九州・沖縄の路傍や堤防などのいたるところにごく普通に生育している。秋に発芽し、春になると高さ60 – 150cmに達する。茎には巻きひげがあり、近くのものに絡みつくこともあるが大体は直立する。茎は全体に毛があり四角柱状。花期は3 – 6月でエンドウに似た小型の紅紫色の花を付ける。豆果は熟すると黒くなって晴天の日に裂け、種子を激しく弾き飛ばす。
 原産地はオリエントから地中海にかけての地方であり、この地方での古代の麦作農耕の開始期にはエンドウなどと同様に栽培されて作物として利用された証拠が考古学的資料によって得られているが、その後栽培植物としての利用はほぼ断絶して今日では雑草とみなされている。そのため、若芽や若い豆果を食用にすることができるし、熟した豆も炒って食用にできる。また、未熟な果実の両端を切り落し、草笛にすることができる。一見するとソラマメの仲間とは思えないが、よく見ると、茎が角ばっていることと、豆のへそが長いというソラマメ属の特徴を満たしている。
 史記で伯夷・叔齋が山で餓死する前に食べていた「薇」(び)は、野豌豆の類ともいい、またワラビやゼンマイのことともいう。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月6日(土)

●迫田和代
散らばって土手の土筆を摘んでる子★★★★
「散らばって」が楽しい。土筆があちこちに生え、子たちも互いに間隔をとって土筆取りに夢中。いい写生だ。(高橋正子)

今通る桜を散らす雨と風★★★
白きもの少し混じった春の空★★★

●小口泰與
松籟や丘をいろどる黄水仙★★★
黄水仙海へ海へとなだれ咲く★★★
そよ風や下へしたへと枝垂れ梅★★★

●下地鉄
行く春の雨だれ音のひびきかな★★
春の海驟雨の中の青さかな★★★
直立し向きをそろえてグラジオラ★★★★
グラジオラスが咲きそろった感じがそのまま素直に表現されて、涼しげである。(高橋正子)

●多田有花
花やいま咲き満ちたりし一点に★★★
嵐来る前に桜を見に行かん★★★
花びらの舞い来る中を山へゆく★★★

●小西 宏
乳搾り紋白蝶の揺れ纏う★★★
丘なべて黄となり空へ菜花畑★★★
海苔粗朶の影波に立ち夕日落つ★★★

●河野啓一
柿若葉はや朝空に陽を透かし★★★★
柿若葉の緑は、空の青さに溶け込むように、光を透かしている。ほかの若葉に先駆けて若葉の美しさを見せてくれる。(高橋正子)
桜散る風強ければ宙を舞う★★★
春嵐来ぬ間のデイの花見かな★★★

●桑本栄太郎
桜桃のうすき花びらかく散りぬ★★★
連なれば鈴やみどりの土佐みづき★★★
辛夷散る丘をまあるく白く染め★★★

4月5日(金)

●祝恵子
流れゆく流れに乗りて残り鴨★★★
青饅は私の味にワケギ切る★★★
菜の花の摘みしばかりを前かごに★★★★
摘んだばかりの菜の花が自転車の前かごに風を受けて、生き生きとしている。自転車に乗る人もうららかな気持ちになる。(高橋正子)

●河野啓一
紅かなめ萌え出で鄙の春深し★★★
雪柳わが世の春を謳うごと★★★
春眠の覚めてメジロの飛び交う朝★★★

●下地鉄
長き日の夢のつづきの叉寝かな★★★
舞姫の舞いかろやかに春の風★★★
残る世は何して生きむ梅の花★★★

●黒谷光子
物干して見遣る堤の朝桜★★★
嫋やかにうねる遠見の花の道★★★
畑仕事休みては見る桜かな★★★

●多田有花
夜桜や薄むらさきに照らさるる★★★
満開の桜の上に朝の月★★★
清明の光と風にシャツを干す★★★

●桑本栄太郎
うす曇る嶺に陽射しや黄沙降る★★★★
吹き上げる風を待ちいる落花かな★★★
春灯の橋を来る人帰るひと★★★

●小西 宏
タンカーの空へ消えゆく春霞★★★
雲も人もみな菜の花の中にいる★★★★
「雲も人も」を同列に配して意表をついているようだが、大きな視野で見れば自然なこと。やわらかさに包まれた春の景色。(高橋正子)

水張られ田に春光の耀けり★★★

4月6日(土)

★多摩川の奥へと桜咲き連らぬ  正子
多摩川の土手をお歩きになったのだろうと思います。時折は途切れることがあっても、つぎつぎと桜の並木が立ち現れ、上流へ上流へと咲き続いているのを目にすることができます。やがて源流まで桜の花が導いてくれるのでしょうか。(小西 宏)

○今日の俳句
囀りの光と風に青いぶらんこ/小西 宏
囀りが降り注ぐぶらんこが、「青いぶらんこ」であって、洒落ていて、メルヘンのようだ。(高橋正子)

○勿忘草(わすれなぐさ)

[勿忘草/横浜日吉本町]

★小さう咲いて勿忘草や妹が許/村上鬼城
★まさに瑠璃富士を前なる勿忘草/中村草田男
★奏でる海へ音なく大河勿忘草/中村草田男
★勿忘草わかものの墓標ばかりなり/石田波郷
★勿忘草光りて呼ぶはちさき水面/香西照雄
★勿忘草蒔けり女子寮に吾子を入れ/堀口星眠

ヨーロッパ原産の伝説とロマンに富む多年草。高さ30センチくらいで、春から初夏にかけて咲き、梢頭にかれんな藍色の花をつける。白、桃色等もある。「forget-me-not」と英語で言う。勿忘草は、英語からの翻訳。高校生ぐらいになると、教科書にこういう単語が例語として出てくる。実際の花は知らず、先にこの英語を知って、いろいろと想像を巡らせ、ヨーロッパの風景に憧れもしたものだ。花の藍色も花の形も、まさにヨーロッパ色と形という感じがする。
★植えつけて勿忘草に空映る/高橋正子

 勿忘草(ワスレナグサ)は、広義には、ムラサキ科ワスレナグサ属の種の総称。狭義には、ワスレナグサ属の一種、シンワスレナグサ(学名:Myosotis scorpioides)の和名。ただし、園芸業界でワスレナグサとして流通しているのは、ノハラワスレナグサ (M. alpestris)、エゾムラサキ (M. sylvatica)、あるいはそれらの種間交配種である。一般には、広義の意味で称される。季語は春である。
 ヨーロッパ原産で、北半球の温帯から亜寒帯(ユーラシア大陸・アフリカ大陸・オセアニア)に約50種が分布している。日本に渡来したのは、明治時代に園芸業者がノハラワスレナグサ (M. alpestris) を輸入したのが最初と言われている。しかしワスレナグサ属ということでは、日本には元来、エゾムラサキ (M. sylvatica) 一種が自生分布している。
 野生化して各地に群生しており、日本全国(北海道・本州・四国)に分布している。一般に日当たりと水はけのよい湿性地を好み、耐寒性に優れているが、暑さには弱い。二年生もしくは多年生植物の宿根草であるが、日本で栽培すると夏の暑さに当てられて枯れてしまうことから、園芸上は秋まきの一年生植物として扱われる(北海道や長野県の高地など冷涼地では夏を越すことが可能である)。
 花期は3 – 5月(冷涼地では4月 – 7月)。春から夏にかけて薄青(紫)色・鮮青(紫)色(園芸種はさらに白色・ピンク色など)をした6–9ミリ径の小さい5弁の花を咲かせ、花冠の喉に黄色・白色の目(小斑点)をもつ。花は多数でさそり型花序をなし、開花とともにサソリの尾のような巻きは解けて真っ直ぐになる。高さは20–50センチになり、葉が互生に付く。葉は細長く平らで、長楕円形(葉の中央付近が最も葉の幅が広い)、もしくは倒披針形(葉先近くが最も葉の幅が広い)である。葉から茎まで軟毛に覆われており、属名の Myosotis は、そうした葉の様子(細長く多毛で柔らかい)が、ネズミの耳に似ていることに由来している(ギリシャ語の「二十日鼠 (myos) +耳 (otis)」が語源)。
 別名「フォーゲットミーノット、forget-me-not」は、本来の名前。和名はこれの和訳。”私を忘れないでください”ドイツの伝説で、ドナウ川の岸に咲くこの花を恋人ベルタに贈ろうとして、誤って川に落ちて死んでしまった騎士ルドルフの物語からきている。その後ベルタはその言葉を忘れず、この花を一生髪に飾り続けた。

◇生活する花たち「木苺の花・著莪(しゃが)・林檎の花」(横浜日吉本町)

4月4日(木)

●小口泰與
利根川の流れ荒ぶや山桜★★★
はくれんや白磁の花瓶本床に★★★
大木の根方の雪解まんまるよ★★★

●黒谷光子
青空へ枝を広げて白木蓮★★★
畑に採る茎立ち近き法蓮草★★★
葉の奥に花芽を宿し法蓮草★★★

●多田有花
木漏れ日を親しと思う四月かな★★★
見晴るかす嶺に展開山桜★★★
頂を囲みし三葉躑躅かな★★★

●河野啓一
丘染めて桜花朝日に耀けり★★★★
丘を埋めて咲く桜が朝日を受け、曙色に染まり耀くばかり。素晴らしい眺めを呈してくれる。(高橋正子)

野の池にさくらの姿淡く揺れ★★★
うぐいすを捕るとて網を持ちたる児★★★

●桑本栄太郎
花あはれ夜半に嵐の音を聞く★★★
風に舞い風を染め上げ花の塵★★★★
散り敷いた桜の花びらが風に舞い上がるときは、「風を染め上げ」の言葉通り。花の塵さえも美しい。(高橋正子)

花ももの紅白分かち乱れけり★★★

●藤田洋子
街騒の柳の岸に流れくる★★★
柳青みて水に照り水に垂る★★★★
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。(高橋正子)

雨あとの空より落花はじまれる★★★

●小西 宏
旅の途のひとつのけじめ桜散る★★★★
旅の途にあっても、桜が散るときが来て散る。「散る」を「ひとつのけじめ」として受け止めるのも、旅の思い。(高橋正子)

花覆い日々青みゆく楓の芽★★★
蒲公英の日影に咲いて陽の光★★★

●藤田裕子
もどり来し山路ゆかしき山吹よ★★★
静かなり桜は今を咲き誇る★★★
陽の包む山裾やさし朝桜★★★

4月5日(金)

★子らあそばす丘の平地の桃さくら  正子
小生の住まいします、すぐ近くにも丘の上に公園があり、グランドもあります。周囲には京都市による植樹がなされ季節の花が咲いています。丘の上の平地で遊ぶ子供らの、笑顔と歓声が聞こえて来るようです。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
自転車のみな横たわり春の風/桑本栄太郎
乗って来た自転車か、横倒しにされて銀輪が光る。集団で川土手にでも遊びにきたのであろうか。春の風がそよそよと吹く麗らかな日のことである。(高橋正子)

○三葉躑躅(みつばつつじ)

[三葉躑躅/横浜日吉本町]

★日は白し三葉躑躅の塊りに/高橋正子
★咲き固まる三葉躑躅が門の内/高橋正子

ゴールデンウィークごろ、西日本最高峰の石鎚山に登ると、曙躑躅が満開となっている。芽吹き始めた木々の間に鮮やかなピンク色を見せる。山に登った甲斐があるというもの。この曙躑躅とイメージが似ているのが三葉躑躅。日吉に住むようになって、この三葉躑躅をはじめて知った。はじめ見たときは、曙躑躅だと思っていた。私にとっては新しい花である。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月4日(木)

★春水の流るる音をパソコンに  正子
春は降雨や雪解けなどで渓谷・河川・湖沼・畦田などは水嵩を増し、それがせせらぎ流れ、その上へ春の明るい日差しが照ると、冬涸れの後だけに、豊かに勢いづく感じがパソコンを打つ音にも伝わり、柔らかな調べのように静かな部屋に
伝わりますね。春らしい素晴らしい句ですね。 (小口泰與)

○今日の俳句
揚ひばり畑ねんごろに打ちにけり/小口泰與
ひばりが空高く揚がり、のどかな日和。畑の土を丁寧に打ち返す。行いを丁寧にすれば、心の内も平たんになる。また逆も。(高橋正子)

○木苺の花

[木苺の花/横浜日吉本町]

 キイチゴは木苺のことで、苺が草になるのに対し、木になるのでこう呼ばれる。仲間が非常に多いので、キイチゴ類と表現するのが正しい。分類上は、バラ科キイチゴ属(Rubus)の植物で、わが国には基本種だけで約40種が自生する。
 キイチゴ属の地上部は、1年で枯れるものから数年生きるものまであるが、大半は2年を寿命とする。つまり、1年目は枝を伸ばして葉を展開し、2年目に開花、結実して枯れる型が多い。花が咲いて茎が枯れるのは、草の特徴であり、茎は木質化してはいるものの、キイチゴ属は基本的には、草本の性質を持っているわけである。「竹は木か草か」の命題は、今でも我々を悩ませているが、キイチゴに関しては、草ということで解決済みということになる。
 「木苺」は初夏の季題である。俳句では果実の成熟する時期に視点を合わせている。ただし、近代に入ってから使われた季語のようで、江戸期の句は見つかっていない。
 木苺は前にも述べたように40種にも及ぶキイチゴ属の総称である。しかし、仙台市周辺で人気のあるのは、モミジイチゴで、他のキイチゴ類には、あまり興味がないようである。葉の形がモミジに似るのでこの名があり、果実は文字通り黄苺で、わずかな酸味と十分な甘味があって、そのみずみずしさはキイチゴ属では最上である。林縁部や林道の沿線に生え、手ごろな高さに実るので、里山の子供たちにとっても重要なおやつになっている。

     山路行くや木苺取って食ひながら         村上 鬼城
     木苺を摘みもて辿る塩の道             石井 桐陰
     木苺のしたたるばかり熟れにけり         布施 大望
     木苺に滝なす瀬あり峡の奥            水原 秋桜子
     書庫までの小径木苺熟れてゐる          山口 青邨

 「木苺の花」は初春の季語。モミジイチゴの花は、純白5弁で野生の清々しさがあり美しい。

     よく見れば木苺の花よかりけり          高浜 虚子
     燈台にはや木苺の花白し             山口 青邨

                         (宮城環境保全研究所のホームページより)

★木苺の花が小声に語り合う/高橋正子
★木苺の花が咲くなり森といい/高橋正子

木苺の実が生るところを知っている。そこに行けば毎年木苺が熟れているはずだが、たくさん実が熟れているのに出会うのは稀だ。そういうときは大変うれしい。ほとんどは、実が落ちたのか、だれか採ったのか、たった一個が残っているようなことが多い。熟れた実を宝石のように大事に持ち帰って、家人に見せる。

◇生活する花たち「木苺の花・著莪(しゃが)・林檎の花」(横浜日吉本町)