4月12日(金)

★はこべらの花を撮りつつバスを待つ  正子
はこべらは春先、庭や道の辺に自生する春の七草の一つ。目立たない草ですが、バスを待つ間にも小さな草花に目を注がれる、作者の対象への思いが伝わってまいります。(小川和子)

○今日の俳句
高々と花満つ校舎の外窓へ/小川和子
校舎の高い窓に触れて桜が咲き満ちている。窓の内から見れば窓は桜に埋め尽くされている。今年は早い桜であるが、卒業や入学に重なる桜の花は、生徒たちの胸にいろんな思い出を残すことだろう。

○著莪(しゃが)

[著莪/横浜日吉本町(2013年1月9日)][著莪/東京・関口芭蕉庵(2013年1月9日)]

★紫の斑の仏めく著莪の花/高浜虚子
★著莪の花白きにわきて雲絶えず/加藤楸邨
★姫著莪の花に墨する朝かな/杉田久女
★著莪叢のとどく木洩れ日濡れてをり/稲畑汀子
★譲ることのみ多き日々著莪の花/塙 義子

 シャガ(射干、著莪、胡蝶花、学名:Iris japonica)は、アヤメ科アヤメ属の多年草である。人家近くの森林周辺の木陰などの、やや湿ったところに群生する。開花期は4 – 5月ごろで、白っぽい紫のアヤメに似た花をつける。花弁に濃い紫と黄色の模様がある。根茎は短く横に這い、群落を形成する。草丈は高さは50 – 60 センチ・メートル程度までになり、葉はつやのある緑色、左右から扁平になっている。いわゆる単面葉であるが、この種の場合、株の根本から左右どちらかに傾いて伸びて、葉の片面だけを上に向け、その面が表面のような様子になり、二次的に裏表が生じている。
 学名の種小名はjaponica(「日本の」という意味)ではあるが、シャガは中国原産で、かなり古くに日本に入ってきた帰化植物である[1]。三倍体のため種子が発生しない。このことから日本に存在する全てのシャガは同一の遺伝子を持ち、またその分布の広がりは人為的に行われたと考えることができる。したがって、人為的影響の少ない自然林内にはあまり自生しない。スギ植林の林下に見られる場所などは、かつては人間が住んでいた場所である可能性が高い。そういう場所には、チャノキなども見られることが多い。中国には二倍体の個体があり花色、花径などに多様な変異があるという。東京都でレッドリストの準絶滅危惧種に指定されている。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

4月12日(金)

●川名ますみ
春日傘ひかりを飛ばしくるくるり★★★
「ひかりを飛ばし」は、春日傘らしい。柔らかいようだが、日傘のいる日には光は強い。それが「飛ばし」となって、くるくる回して楽しむ余裕もある。(高橋正子)

いざ行かん芽ぐむ銀杏の並木道★★★
散る桜より雨粒の多くなり★★

●古田敬二
菜花摘む蝶の寄り来て吾に親し★★★
それぞれの丈持て葦の芽吹きけり★★★

水底へその影伸ばし葦芽吹く★★★★
葦の芽吹きは、その水と芽の緑との出会いが美しい。早春の芽吹きの中でも、水からの芽吹きはまた一味違って、きらめくものがある。水底へ影が伸びるのを確認できるほど、澄んでいる水もよい。(高橋正子)

●小口泰與
そよ風や春竜胆のしべ定か★★★
川速し杏の花の今日も散る★★★
牧の牛つつじの根もとたもとおる★★

●河野啓一
若葉風きらめく朝の狭庭かな★★★
街を出て蓮華の花を探し行く★★★
クローバの上に寝転び転がる子★★★★

●桑本栄太郎
昇降機降りて散り敷くにはざくら★★★
下校子のやや疲れおり葱坊主★★★
早すでに苗代ぐみの熟れ色に★★★

●多田有花
新入生みな制服のやや大き★★★
歩み入る桜天蓋の下へ★★★
増位山春三日月を戴きぬ★★★

●黒谷光子
土手上がり枝垂れ桜の紅濃きへ★★★★
土手の上の紅の濃い枝垂れ桜を遠くから眺めて、あの近くに行きたいと思う。土手を上って近づく艶やかな桜を近くで再び堪能する。「濃き紅」がいい。(高橋正子)

湖の青きに向きて花見茣蓙★★★
紅桜大きくしだれ地に届く★★★

●小西 宏
唐土の詩や遥遥と黄砂来る★★★
春陽気ベンチに上着丸められ★★★
たらの芽を天麩羅にして愁いあり★★★★
たらの芽の天麩羅は、山菜の天麩羅のなかでも一品。「愁いあり」は、春愁か。(高橋正子)

4月11日(木)

 清洲橋
★ケルンの橋青く塗られて春の橋  正子
関東大震災の震災復興事業としてかけられた橋で、当時ドイツのケルン市にあった大吊り橋をモデルに作られた優美なデザインの橋です。この橋は国の重要文化財に指定されており、歴史と伝統を刻んで春のうららの墨田川にかかっています。 (多田有花)

○今日の俳句
春光や今日一片の雲もなし/多田有花
あまねく春光が差す「今日」。空には一片の雲もない。「今日」という日のうららかな春の日を詠んで、古いようだが、新しい感覚。(高橋正子)

○林檎の花

★面つゝむ津軽をとめや花林檎 虚子
★みちのくの山たたなはる花林檎 青邨
★彳みて林檎の花の四方の中 風生
★牛鳴いてのどかなるかな花林檎 立子
★一歩一歩に日光新た花林檎 林火
★まどろみの覚め白さびし花りんご 汀女
★蜂に蜜我等にむすび林檎咲く/矢島渚男
★ふるさとの空摘みあます花林檎/木村敏男

ブログ「FROMみちのく」:だんなさんの転勤で横浜から盛岡へ。 日々のコトなどきままに更新してます☆
http://yaplog.jp/ai1025/archive/143
 北東北の春は植物達にとって大忙し、梅・桃・桜・水仙にチューリップに芝桜がここぞとばかりに一遍に開花。その後を追ってお次は果樹の花が咲きます。 梨、そして林檎、街の中心から20分ほどの手代森では、水はけの良い土地と日差し降り注ぐ傾斜面に林檎畑が広がってます。食べるのはだーい好きな林檎だけれど、花を見たことが無かった。ちょうど良い時期だというので、林檎の花のお花見へ行ってきました。太陽を浴びて、満開の林檎の花♪
 外側が真っ赤な林檎の実とは違いほんのーりピンク色のお花、ほわっとまぁるいシルエットです。花の色は林檎の種類によっても違うみたい。林檎畑の真ん中へ目を移すと、何やら作業中のおとうさんを発見!!「こんにちはー」と近寄っていくと、花やつぼみを次々とむしり取ってました。先から一節、二節目まではここ1~2年で伸びた若い枝、なので実を付けないように花を摘むのだそう。この広大な林檎畑の全ての木を3.4日かかりで作業するんだって。林檎が実を付け私達の食卓へ運ばれるまでには作り手の手間がかかってるんだなぁ。ありがたやー。ほへ~っと美しい林檎畑の光景を見ていたら、ブンブンブン♪とたくさんの羽音が聞こえてきました。そう、この方達無しにはフルーツを食べることが難しくなる、忘れちゃならないフルーツ作りの陰の功労者ハッチさん御苦労さまでーす!
 福島県では、私がいつか行きたいと思っていた福島市庭坂のフルーツラインにある”あんざい果樹園”さんのカフェ、”CAFE in cave”が原発による小さいお子さんへの放射線の影響を考え、一旦閉店して北海道へ家族で移り住むことになったとブログにありました。ちょうど昨年から無農薬での林檎栽培も始めたそうで、今はご両親が果樹の世話をしているとのこと。盛岡の放射線量は風向きの関係もあってか横浜より少ないくらいだけれど、つい一週間ほど前には私の職場のある滝沢村の一部で牧場の牧草から基準値を超えた放射性セシウムが検出されました。農家の方畜産を営む方達は季節とともに動きだしているのに、もし手間暇かけた農作物や牛・豚・鶏をそういう影響で売ることが出来ないとしたら。それでも作り続けるしかないとしたら。天災は予防することしかできなくても、人災は私達が動けば無くしていくことができる。今までのように安心して魚や肉やお野菜やお米を口にできるように、安心して作ることができるように。私なりに考えて動いていければーと思ってます。
 田んぼや果樹畑が広がり道路沿いで牛や馬たちとすれ違う、作り手の見える盛岡。今年は福島や宮城の分まで頑張っていかないと!

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月11日(木)

●川名ますみ
春愁小さき拳をこんこんと★★★
両岸に八重桜満つ夕の川★★★
陽を飛ばしみて春日傘くるくるり★★★

●小口泰與
吟行の人も見かけし花見かな★★★
花薺道は峠に続きけり★★★★
なずなの花の咲く道がずっと峠まで続いている。ただそれだけのことなのだが、なんと柔らかな気持ちになれることだろう。心情がいい。(高橋正子)

山吹の三ひらひとひら瀞に散る★★★

●多田有花
山笑う腹からトラック吐き出して★★★
春しぐれホットケーキを焼く窓に★★★
長距離ランナー飛花舞う下を駆け抜ける★★★★

●河野啓一
メタセコイヤ鮮やかに立つ若葉して★★★
残花はや芽吹きの森に遮られ★★★
遅さくら見んと出かける奥妙見★★★

●桑本栄太郎
花冷えの蘂の明かりや坂の道★★★
ひこばえや妻は赤子の手伝いへ★★★
学び舎の授業の声や花は葉に★★★

●小西 宏
どの石も塞がってます亀の春★★★
陽の溢れ花弁自由にチューリップ★★★
噴き出でて膨らむ紅の山躑躅★★★

4月10日(水)

★木苺の花が咲くなり森といい  正子
森の中に入ると思いもがけぬことに、木苺の花が咲いているのを見つけた。なんとなくあたたかい気持ちになった詠者です。(祝恵子)

○今日の俳句
春鳥の飛び去り棒の揺れるのみ/祝恵子
たとえば、畑に突っ立っている棒に、鳥が飛んで来て止まり、辺りを見たり、鳴いたりして、飛び去る。飛び去るときのはずみで棒が揺れる。春になると特に小さな生き物がいきいきと動き始める。春らしい景色。(高橋正子)

○チュ-リップ

[チュ-リップ/横浜日吉本町]

★ベルギーは山なき国やチューリップ/高浜虚子
★チューリップ喜びだけを持つてゐる/細見綾子
★チューリップ日向の色に加はりぬ/稻畑汀子
★すれ違ふどこかで見た子チューリップ/今井千鶴子
★チューリップ散って一茎天を指す/貞弘 衛
★チューリップ一輪挿せる夜の黙/金澤明子
★晴れ渡る日や正直にチューリップ/犬塚芳子
★チューリップ駅の未来図張り出され/高村洋子

 チューリップはユリ科チューリップ属の植物。球根ができ、形態は有皮鱗茎。和名は鬱金香(うこんこう、うっこんこう)、中近東ではラーレと呼ばれる。アナトリア、イランからパミール高原、ヒンドゥークシュ山脈、カザフスタンのステップ地帯が原産。
 多様な園芸品種が存在する。外観は、花弁の先端が丸いもの・尖ったもの・フリル状のものもある。咲き方は一重から八重。一つの球根から複数の花がつくもの。すぼまった状態で開花するものや花弁が外側へ反り返り全開して開花するものなど。花色も青以外の赤・黄・オレンジ・白・緑・紫などの単色や複数の色のものなど、数百品種のチューリップが存在する。青バラと同様に多くの育種家によって青いチューリップの開発が進められているが、花弁全体が青い品種は発表されていない。 チューリップの花を上から覗くと、花弁の根元に青い部分が存在する。その部分には青い色素がみられ、その青い部分を増やすことで青いチューリップを作る研究がされている。
 繁殖は主に分球で、実生(タネ)からは開花までに5年以上かかる。実生は品種改良の際に行われる。人気のある花だけに花形・花色・草姿・葉の模様・ブルームの有無・香り・早晩性・耐暑性・耐湿性・多花性・繁殖力、切花では切花寿命・無花粉化・花茎の硬さなど改良されるべき性質が多く、特に日本の高温多湿に強い品種が望まれる。ただし、野生種をはじめ交配に使える素材も多いため、時間は掛かるが品種改良は比較的容易である。
 開花前に裁縫に用いる針等を用いてチューリップの花の根元部分を貫通させ傷つけるとエチレンが発生し開花期間を長引かせることができ、開花後に同様のことを行なうと開花期間が短縮することがチューリップのみで確認されている。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

4月10日(水)

●小口泰與
山葵田や水隅ずみへ行き渡り★★★★
春嵐地震の如くに家揺れし★★★
葱坊主部活ぶかつの春休★★★

●小西 宏
春休み終われば青き新世界★★★
球の来ぬ外野なずなの花咲けり★★★★
球が飛んで来ない外野。目をやれば、なずなの花が踏まれることもなく柔らかに咲いている。生き生きと動き、活躍するところの端に、「ほっとしたところ」があるのはいいことだ。(高橋正子)

尾を回し犬タンポポの野を駆ける★★★

●桑本栄太郎
さみどりも朱色もありぬ新芽立つ★★★
制服のどこか決まらず新入生★★★
坂道のしべの明かりや花は葉に★★★★
坂道には桜の大樹がある。桜の並木かもしれないが、蕊が降り敷いて紅色に染まっている。「しべの明かり」と思うほど。「花は葉に」なるころ、次の季節はそこまで来ている。(高橋正子)

●多田有花
木の大きければ花吹雪の大き★★★
花筏日差しを載せて浮かびおり★★★
花屑を踏みテニスコートに入る★★★

●河野啓一
都踊り銀杏並木のいっせいに★★
愛惜の念ひとしおに残花かな★★
この花に埋もれたきかな吉野山★★★

●上島祥子
ゆっくりと花を味わう嵐前★★★
日の丸の勢いそのまま新入生★★★
青嵐カードゲームの声高し★★

●黒谷光子
先客の傍を奥へと花見茣蓙★★★
湖北路の花見の梯子茣蓙積んで★★★
ほつほつと帰路の遠見の山桜★★★

4月9日(火)

★雪柳の自由な茎と空気と触れ  正子
雪が舞い降りたように白い小さな花を無数に咲かせた雪柳。自由奔放に枝垂れた茎の生命力が春の空気と触れ合っています。辺りは、生き生きとした清楚な美しさが漂っています。(藤田裕子)

○今日の俳句
木々の葉の春陽きらめく野道行く/藤田裕子
木々の葉にきらめく春陽を見ながら、野道を行けば、楽しさも倍加される。うららかな春の日のびやかな気分を分けてもらった。(高橋正子)

○白詰草(クローバー)

[白詰草/横浜日吉本町] 

★クローバーに雨すこし降りけふの会/山口青邨
★クローバに青年ならぬ寝型残す/西東三鬼          
★事務服のままクローバに出て憩ふ/内田耕人
★転勤の知らせ四つ葉のクローバー/田崎比呂古
★頬よせて四つ葉のクローバー多感なり/柴田美代子
★クローバ咲き泉光りて十九世紀/加藤かけい

 シロツメクサ(白詰草、学名:Trifolium repens)は、マメ科シャジクソウ属の多年草。別名、クローバー。原産地はヨーロッパ。花期は春から秋。茎は地上を這い、葉は3小葉からなる複葉であるが、時に4小葉やそれ以上のものもあり、特に4小葉のものは「四つ葉のクローバー」として珍重される。花は葉の柄よりやや長い花茎の先につく。色は白。雑草防止、土壌浸食防止等に利用されることもある。
 漢字表記は、「白詰草」。詰め草の名称は1846年 (弘化3年)にオランダから献上されたガラス製品の包装に緩衝材として詰められていたことに由来する。日本においては明治時代以降、家畜の飼料用として導入されたものが野生化した帰化植物。根粒菌の作用により窒素を固定することから、地味を豊かにする植物として緑化資材にも用いられている。
 花は「赤詰草」にそっくりだが、色が白なのと、花茎を伸ばした先に花が咲くことから区別できる。(赤詰草は葉っぱのすぐ上に花が咲く)また、葉っぱ自体も丸っこい。(赤詰草の葉っぱはややとがる)夜になると葉を閉じる。別名:「クローバー」「馬肥(うまごやし)」馬肥は、本来は、黄色いつぶつぶの別の花の名前。白詰草の別名でもある。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

4月9日(火)

●小口泰與
菜の花や飯山線の一両車★★★
大根の花や紫紺の赤城山★★★
榛名湖も煙霞(えんか)なりけり花楓★★★

●多田有花
ひとつ咲きひとつ落ちては藪椿★★★
枝の間に青空を抱き山桜★★★★
山桜風のある日は風に添い★★★

●桑本栄太郎
しべのみの残る明かりや花の冷え★★★
青空を仰ぎ鎮座す落つばき★★★
おもかげの母は遠くに紫木蓮★★★

●黒谷光子
蒲公英の散らばっている造成地★★★
アネモネの真っ赤数本青草に★★★
楓の芽紅のほぐれて薄緑★★★★
楓の芽は大変やわらかな紅色。その芽がほぐれると、薄緑に変わる。紅から薄緑への変化の妙。どちらの色もそれぞれに美しい。(高橋正子)

●佃 康水
紅つぼみ開きて真白花りんご★★★
打ち靡く紅まんさくの庭明かり★★★
初蝶の野川越えしを見とどけり★★★★
初蝶を見たうれしさ。初蝶の危うそうな飛び方に、野川を越えてゆくまでを見届けるやさしさがこの句にはある。(高橋正子)

●増田泰造
春陰や棺の友と相別る★★★
妻歩く支えし杖や春日影★★
乳さがす子猫へ親の寝そべりや★★

●河野啓一
仏生会古木の花は散り終えず★★★
色浅き花や老樹の耐えて咲く★★
チューリップ私を見てよと咲いている★★

●古田敬二
鎌の先撥を鳴らして薺刈る★★★
花の名を一つ覚えし春句会★★
すかんぽの薄紅すくっと畦に伸び★★★

4月8日(月)/花祭(はなまつり、別名:灌仏会)

★花御堂飾る花にも野のげんげ  正子
私は花御堂というものを写真でしか見たことが無いのですが、この季節、野にはげんげをはじめ沢山の花々で溢れていますね。花御堂だけでなく、花で溢れた野の風景までも見えてきます。(安藤智久)

○今日の俳句
切り出され杉は春野に積み上がる/安藤智久
伐採された杉の木は深い山を出て、今度は、明るい光の溢れる春の野に積まれる。まだまだ杉の香りも紛々として、春野に積まれることに、あらたな喜びを得たようである。(高橋正子)

○花祭(はなまつり、別名:灌仏会、釈迦の誕生日)
4月8日の花祭りは、仏教の開祖、釈迦の生誕を祝福する仏教行事。潅仏会(かんぶつえ)仏生会(ぶっしょうえ)といい、「花祭り」は明治以降の名称。浴像会、降誕会などともいわれます。古代から釈迦の生まれたインドで行われてきた行事からのもので、日本ではお盆とともに仏教伝来からの歴史があります。推古天皇代(606)、聖徳太子の提唱で元興寺で行われたのが最初とか。この日、各寺には花で飾った小堂、花御堂(はなみどう)がつくられます。金属製の幼仏像をその中にまつり、甘茶が参拝者によってその誕生仏にかけられます。甘茶を潅(そそ)ぐ行事なので「潅仏会」。 花御堂は釈迦が生まれたところルンピニ園の花園を表しています。甘茶とは砂糖入りのお茶というわけではなく、ユキノシタ科のアマチャやウリ科のアマチャヅルを煎じた飲料です。漢方薬店で売っているらしい。お寺で参拝のあとにいただけるところもあります。麦茶に似た色をしていてちょっと甘くちょっとにがく、とろりとした飲みごこちがします。

★稚き葉の白く開きて潅仏会  正子
★石段のゆるびし上の甘茶寺  〃
★甘茶仏甘茶のいろに輝けり  〃
★花御堂飾る花にも野のげんげ  〃

○紫雲英(げんげ)・蓮華草(れんげそう)・れんげ・げんげん

[げんげ/横浜日吉本町]

★十本の指ありげんげ摘んでいる/三橋鷹女
★紫雲英田の沖の白波一つ見ゆ/川崎展宏
★親牛も子牛もつけしげんげの荷/高野素十
★花束になりたい蓮華草の夢/岡村嵐舟
★げんげ咲くコースジョギング続けねば/山本翠公
★何を言わんとして一面の蓮華草/田頭良子

 ゲンゲ(紫雲英、翹揺 Astragalus sinicus)はマメ科ゲンゲ属に分類される越年草。中国原産。レンゲソウ(蓮華草)、レンゲ、とも呼ぶ。春の季語。かつて水田に緑肥として栽培され、現在でもその周辺に散見される。岐阜県の県花に指定されている。
湿ったところに生える。全体に柔らかな草である。茎の高さ10-25cm。根本で枝分かれして、暖かい地方では水平方向に匍匐し、60-150センチまで伸びる場合もある。茎の先端は上を向く。また、根本から一回り細い匍匐茎を伸ばすこともある。葉は一回羽状複葉、小葉は円形に近い楕円形、先端は丸いか、少しくぼむ。一枚の葉では基部から先端まで小葉の大きさがあまり変わらない。花茎は葉腋から出て真っ直ぐに立ち、葉より突き出して花をつける。花は先端に輪生状にひとまとまりにつく。花色は紅紫色だが、まれに白色(クリーム色)の株もある。
 ゲンゲの花のミツは、良い「みつ源」になる。蜂蜜の源となる蜜源植物として利用されている。ゆでた若芽は食用にもなる(おひたし、汁の実、油いため他)。民間薬として利用されることがある(利尿や解熱など)。ゲンゲの花を歌ったわらべ歌もある。「春の小川」などが有名。
ギリシア神話では、祭壇に捧げる花を摘みに野に出た仲良し姉妹の話が有名。ニンフが変身した蓮華草を誤って摘んでしまった姉のドリュオペが、代わりに蓮華草に変わってしまう。「花はみな女神が姿を変えたもの。もう花は摘まないで」、と言い残したという。

◇生活する花たち「三葉躑躅(みつばつつじ)・葱坊主・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

4月8日(月)

●小口泰與
摘みてきし一輪草を供花とせり★★★
枝垂れ梅見事ですねと声掛かる★★★
青柳や利根の瀬頭波高し★★★

●河野啓一
雨上がり百合の芽伸びる速さかな★★★
名も知らぬ苗木の育つ庭の先★★★
陽のひかり若葉青葉の朝が来る★★★

●増田泰造
母やなし増毛の浜の春の潮★★
鰊群来見たさに銭函来つるかな★★
厩出しいななく主は栗毛色★★

●多田有花
時雨くる中を燕の旋回す★★★
ガレージに等間隔に燕の巣★★★
山桜いま満開の昼下がり★★★

●祝恵子
先頭を行く子はだあれチューリップ★★★
山吹の枝垂れて森の水の上★★★
大道芸子も手伝いて花吹雪く★★★★

●桑本栄太郎
イベントの台車の上や花の塵★★★
散り敷ける坂の艶めき花の冷え★★★
道野辺の片方(かたへ)に集い花の塵★★★

●小西 宏
低き雲ありて速きや夏蜜柑★★★
陽の眩し三葉躑躅の山の道★★★
残されし蕪(かぶら)の花の群れ咲けり★★★

●高橋秀之
チューリップ真っ直ぐ天へ赤々と★★★★
チューリップを代表する色はやはり赤。その赤色のチューリップが真っ直ぐに、新入生のように背筋をのばしている。迷いがなくすがすがしい。(高橋正子)

真っ白な靴で歩みゆく新学期★★★
若草に一筋の道河川敷★★★

●藤田洋子
売り声の丘を巡れり植木市★★★
さわさわと和紙の音して雛納む★★★★
雛納めんは、幾分寂しさがつきまとうが、この句はそうではなく、「さわさわと」した気持ちで雛を納めている。雛は美しいままに、次に飾られる日を待つであろう。(高橋正子)

水の面に落花一片ずつの色★★★