5月12日(日)

 明治神宮
★新緑の枝差し交わす神の杜  正子
神の降臨して来る神社のある地の木立の枝が交差し、初夏の木々の若葉の緑が艶やかな美しくさをかもし出してる素晴らしい景ですね。 (小口泰與)

○今日の俳句
麦秋や暮れても青き赤城山/小口泰與
暮れても戸外が心地よい麦秋の季節。暮れのこる青い赤城山を見つつ、麦秋の心地よさを心身に感じる作者がいる。(高橋正子)

○踊子草

[踊子草/東京白金台/自然教育園]

★み吉野の踊子草の白がちに/稲畑汀子
★淡きあはき紅粧ふも踊子草/大橋敦子
★夜すがらに奔る水音踊子草/田千鶴子
★踊子草ときをり風は囃子方/豊田都峰
★雨垂れのまた揺らしたる踊子草/川合万里子

 オドリコソウ(踊子草、学名:Lamium album L. var. barbatum (Siebold et Zucc.) Franch. et Sav.[1][2])は、シソ科オドリコソウ属の多年草 。北海道、本州、四国、九州(及び韓半島、中国)に分布し、野山や野原、半日陰になるような道路法面に群生する。
 高さは30~50cmくらいになる。葉は対生し、その形は卵状3角形から広卵形で上部の葉は卵形で先がとがり、縁は粗い鋸歯状になり、基部は浅心形で葉柄がある。花期は4~6月で、唇形の白色またはピンク色の花を、数個輪生状態になって茎の上部の葉腋に数段につける。花のつき方が、笠をかぶった踊り子達が並んだ姿に似る。花の基部に蜜があり、観察実験の材料ともなる。
 近縁種:ヒメオドリコソウ(姫踊子草、学名:Lamium purpureum L.)、ホトケノザ(仏の座、学名:Lamium amplexicaule L.)。

 
◇生活する花たち「山躑躅・武蔵野きすげ・あやめ」(東京白金台・自然教育園)

5月12日(日)

小口泰與
鉄線の花の遊泳青き空★★★
卯月野や今日の利根川さざれ波★★★
夏祭り術後の酒の沁み渡り★★★

迫田和代
坂登り丘の新樹を全身で★★★★
坂を登ると丘に出る。そこには新樹が風に吹かれ、若々しい緑の光に煌め。その煌き、その匂いを全身に浴びた気持ちのよさ。(高橋正子)

水音を尋ね尋ねて夏の野に★★★
何となく香りの残る衣更え★★★

上島祥子
土手覆う詰め草白く立ち上がる★★★
新緑の厚み増したるケヤキかな★★★
薔薇の香の垣根を越えて届らる★★★

桑本栄太郎
水滴の楓若葉に朝日かな★★★
木洩れ日を愛でる散歩や夏浅し★★★
木洩れ日の楓若葉にゆらぎけり★★★

古田敬二
アカシヤの香る向こうへ陽が落ちる★★★★
よしきりの囀り鎮まる池夕日★★★
夕日さす若葉の森の十字架に★★★

5月11日(土)

小口泰與
D五一の蒸気硬しや夏の草★★★★
D五一も限られたところでしか走っていないが、蒸気機関車というのは、人間的な魅力のある機関車だ。「蒸気硬し」がこの句の面白さだが、慎重に蒸気を吐き出し、夏草の伸び始めた線路を走っている景を想像する。夏草がさほど茂っていない故の「蒸気硬し」だろう。(高橋正子)

石楠花や男体山の冷気みつ★★★
蛇の髭の花やひそっと田に居りぬ★★★

黒谷光子
豌豆の筋とる雨音聞きながら★★★
雨降って庭は緑を滴らす★★★
五月雨のひと日静かに暮れてゆく★★★

河野啓一
花蜜柑白き香りのとき想う★★★
庭の薔薇咲いて姿の美しき★★★
日ごと摘む庭の大きなサラダ菜を★★★

桑本栄太郎
延々とつづく鉄路の酸葉かな★★★★
銀色の丘となりけり茅花咲く★★★
さみどりの陽射し透き居り窓若葉★★★

多田有花
朝の雨高く咲きおり桐の花★★★
大橋はすっぽり初夏の霧の中★★★
須磨海岸夏のはじめの波寄せる★★★

5月11日(土)

★ビルの窓全てで五月の空なせり  正子
ビルの窓「全て」に映りだされた明るく輝く五月の空。ビル一面に新たに生みだされた五月の空の新鮮な感動が伝わり、いっそう清々しく美しい五月の空を感じさせてくれます。 (藤田洋子)

○今日の俳句
若葉風自転車きらり輪が廻る/藤田洋子
若葉風に吹かれ、自転車の銀輪がきらりと輝いて廻る。初夏の解放感と若々しさの溢れた句。(高橋正子)

○睡蓮

[睡蓮/横浜都筑・ふじやとのみち] 

★睡蓮の花沈み今日のこと終へず/臼田亜浪
★睡蓮に日影とて見ぬ尼一人/飯田蛇笏
★睡蓮や鬢に手をあてて水鏡/杉田久女
★睡蓮の明暗たつきのピアノ打つ/中村草田男
★睡蓮に雨意あり胸の釦嵌む/中村草田男
★睡蓮の汀に睫長き子よ/星野立子
★睡蓮やまづ暮のいろ石にあり/加藤楸邨
★睡蓮のひかりを絵の具盛り描く/宮津昭彦

睡蓮(学名:Nymphaea)は、スイレン目スイレン属の植物の一つで、水生多年草。単にスイレン(睡蓮)と呼ぶことが多い。日本にはヒツジグサ(未草)の1種類のみ自生する。日本全国の池や沼に広く分布している。白い花を午後、未の刻ごろに咲かせる事からその名が付いたと言われる。水位が安定している池などに生息し、地下茎から長い茎を伸ばし、水面に葉や花を浮かべる。葉は円形から広楕円形で円の中心付近に葉柄が着き、その部分に深い切れ込みが入る。葉の表面に強い撥水性はない。多くの植物では気孔は葉の裏側にあるが、スイレンでは葉の表側に分布する。根茎から直接伸びる花柄の先端に直径5-10cmほどの花をつける。産地で大まかに分けると、熱帯産と温帯産に分けられる。温帯産は水面のすぐ上に花を付けるが、熱帯産は水面から高く突き出た茎の先端に花をつけるので、区別は容易である。また、熱帯産には夜や早朝にしか花を咲かせない種もある。

○生活する花たち「西洋おだまき・卯の花・錦木の花」(東京深川・芭蕉記念館とその近辺)

5月10日(金)

★初夏の夜の電車傾きつつ曲がる  正子
初夏の風を切って電車が進みます。カーブにさしかかると車体が傾き不安定な形になって進んでいきます。なぜか車内の人達の疲れた無表情な顔を想像してしまいました。(井上治代)

○今日の俳句
鳴き交わし夏鳥高き青空へ/井上治代
夏鳥の弾けるような鳴き声が楽しげだ。高く眩しい青空へ飛びゆく姿も生命の楽しさそのものだ。(高橋正子)

○杜若(かきつばた)

[かきつばた/東京白金台・自然教育園(左:2013年5月2日・右:2012年5月10日)] 

★宵々の雨に音なし杜若/与謝蕪村
★杜若けふふる雨に莟見ゆ/山口青屯
★森に池あり杜若濃き青に/高橋信之

カキツバタ(燕子花、杜若、Iris laevigata)はアヤメ科アヤメ属の植物で、湿地に群生し、5月から6月にかけて紫色の花を付ける。内花被片が細く直立し,外花被片(前面に垂れ下がった花びら)の中央部に白ないし淡黄色の斑紋があることなどを特徴とする。愛知県の県花でもあり、三河国八橋(現在の知立市八橋)が『伊勢物語』で在原業平がカキツバタの歌を詠った場所とされることに由来している。在原業平が詠んだ歌は「から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ」江戸時代の前半にはすでに多くの品種が成立しており、古典園芸植物の一つでもあるが、江戸時代後半には花菖蒲が非常に発展して、杜若はあまり注目されなかった。現代では再び品種改良が進められている。日本三大カキツバタ自生地は、愛知県刈谷市井ヶ谷町にある「小堤西池」、京都府京都市北区にある「大田の沢」、鳥取県岩美町唐川にある「唐川湿原」で、カキツバタの自生地として有名である。なお、「いずれがアヤメかカキツバタ」という慣用句がある。どれも素晴らしく優劣は付け難いという意味であるが、見分けがつきがたいという意味にも用いられる。

◇生活する花たち「芍薬・しゃが・繁縷(はこべ)」(横浜日吉本町)

5月10日(金)

河野啓一
耕され蝶飛び交える初夏の野辺★★★
蓮華草早や鋤き込まれ地の中に★★★
活けられしジャスミン白き香を放ち★★★

小口泰與
朝涼や田水隅ずみ行き渡り★★★★
卯月野やジャズ洩れきたる丸太小屋★★★
夏草や雨にしっとり道祖神★★★

黒谷光子
特設の売場は茄子苗胡瓜苗★★★
夏野菜風除けもして植え終える★★★
夏野菜植え終え恵みの雨となる★★★

桑本栄太郎
さわさわと風に葉擦れや新樹冷ゆ★★★
木洩れ日の楓若葉よ青空よ★★★
花胡桃遠きむかしの恋なども★★★

多田有花
座につけば若葉の光一面に★★★
若葉山抜けて琵琶湖の真青なる★★★★
若葉の山を越えて見えるもは、真っ青に水を湛えた琵琶湖である。初夏の琵琶湖の真青さは、爽快に目に映るだろう。また、若葉の色と湖の青とが美しい色合いである。(高橋正子)

手毬花しずかに雨の降り出しぬ★★★

小西 宏
赤土の畝の緑の地の苺★★★
竹籠に赤いっぱいの苺狩り★★★
筍を炊いて若布の海の色★★★

5月9日(木)

★新緑の翳るときあり水があり  正子
新緑の明るさは特別です。燃え立つ生命力の明るさとでも言いましょうか。それがふと翳るときその新緑の陰にあった水の姿に気づかれました。あまりに眩しい戸外では空の青さと新緑の輝きに幻惑されます。(多田有花)

○今日の俳句
時はいまゆっくり流れ蝶の昼/多田有花
蝶の飛ぶ真昼。蝶の飛ぶ辺りは蝶の空間と時間となって、ゆっくりと時が過ぎている。春昼の気だるく長閑な時間が詠まれている。(高橋正子)

○芍薬

[芍薬/横浜日吉本町] 

★芍薬を画く牡丹に似も似ずも/正岡子規
★蕾日に焦げんとしては芍薬咲く/中村草田男
★芍薬の一ト夜のつぼみほぐれけり/久保田万太郎
★嫁ぎゆき芍薬の花咲きつづく/和知喜八
★そろひ咲く白芍薬よ朝の庭/阿部ひろし
★芍薬のピンクが白に近い色/高橋信之
★芍薬の白はふっくら日の溶けし/高橋正子

 (2012年の日記より)今日、5月28日は信之先生の81歳の誕生日。家族の都合で、昨日の日曜日に誕生祝いをした。四角な大きなケーキを句美子が作り、わたしは、たけのこ寿司を作った。ただそれだけの簡素なお祝い。芍薬の花を昼過ぎに買って花瓶に生けておいたら、夜には、蕾まで開きはじめて、開いていた花は、これ以上咲けないというほど開いた。花もちをよくする薬を入れたせいと、水切りがうまくいったのかもしれない。誕生日にふさわしく豪華に咲いた。砥部の庭には、臥風先生のお宅から移した芍薬があった。来年は、芍薬の根っこを買って鉢で育てようという話になった。
 花冠同人で今日の俳句に挙げた黒谷光子さんも、facebookで拝見すると、28日がお誕生日とのこと。光子さん、おめでとうございます。
 芍薬は牡丹が終わったころに咲く。牡丹ほど気取っていないので、砥部の庭にもあって、咲けば切って花瓶に挿して楽しんだ。小学生のころから芍薬は変わらずある。今はどうか知らないが、教室には教卓の近くに花瓶があって花が活けてあった。家に咲いた花を切って子どもたちが持ってきていたが、芍薬の咲く時期には、花瓶に挿しきれないほど芍薬が集まる。すると先生がバケツを用意してバケツに入れてくれる。このころは、芍薬だけでなく、あやめやいちはつなども次々に誰かがもって来ていた。

◇生活する花たち「黄菖蒲・睡蓮・芹の花」」(横浜都筑・ふじやとのみち)

5月9日(木)

小口泰與
花桐や嶺に渦まく雲一朶★★★
朝日射す志賀高原の初夏の色★★★
嬬恋の星や風生む桷の花 ★★★

佃 康水
芹の花倒して堰の水速し★★★★。
堰の下に育っている芹は堰の水に押し倒されながらも、水の流れをやり過ごして咲いている。芹の花を押し倒した水はどんどんと流れる。どちらもがあって、初夏の清流と芹の花が生き生きとなった。(高橋正子)

大釜で筍茹でる通し土間★★★
葉隠の青梅つぎつぎ見つかりぬ★★★

藤田裕子
遠足の列の賑わい楠並木★★★★
葉桜の一木大きく窓を占め★★★
路地裏を人声透る風五月★★★

河野啓一
森青くしんと静まる空の下★★★
森の辺の萱葺き屋根の鯉のぼり★★★
柿若葉大きくなりて吾を招く★★★

桑本栄太郎
茅花咲く校舎の土手にチャイムかな★★★
窓よりの授業の声や若葉吹く★★★
みどり児を遠くに想い胡桃咲く★★★

下地鉄
向日葵の頭(こうべ)重たき日暮かな★★★
鶏頭の揺れて日の影重きかな★★★
母の日や海鳴り遠く過ぎゆけり★★★

5月8日(水)

★野ばら咲く愛のはじめのそのように  正子
野薔薇の歌曲を何度も歌ったり、聞いたりした若き頃を思い出しました。少年とばらの感情の交流にはロマンが有りました。初夏の野へ咲き始めた可憐な白い野薔薇を見て、作者はふとあの歌を思い出されたのでしょうか。小さいながらも、生命力のある野薔薇を女性らしい優しい感覚で詠まれたと同時に詩情豊かなメルヘンの世界へ引き込まれる御句です。 (佃 康水)

○今日の俳句
 広島縮景園
茶摘女や手にさ緑の陽を返す/佃 康水
薫風の季節を迎え、茶摘みが始まる。茶葉を摘む女性のしなやかな手元から、きらきらと陽光がこぼれるように、茶葉が光る。「さ緑の陽」といい、季節の麗しさが詠まれた。(高橋正子)

○野茨(花いばら・野ばら)

★花いばら故郷の路に似たる哉/与謝蕪村
★愁ひつつ岡にのぼれば花いばら/与謝蕪村
★咲きはじむ野ばらの白よ旅衣を解く/高橋信之
★野ばら咲く愛のはじめのそのように/高橋正子

野茨(バラ目バラ科バラ属学名:Rosa multiflora)は、バラ科の落葉性のつる性低木。日本のノバラの代表的な種。沖縄以外の日本各地の山野に多く自生する。ノバラ(野薔薇)ともいう。高さは2mぐらいになる。葉は奇数羽状複葉で、小葉数は7-9、長さは10cmほど。小葉は楕円形、細かい鋸歯があり、表面に艶がない。花期は5~6月。枝の端に白色または淡紅色の花を散房状につける。個々の花は白く丸い花びらが5弁あり、径2cm程度。雄しべは黄色、香りがある。秋に果実が赤く熟す。野原や草原、道端などに生え、森林に出ることはあまり見ない。河川敷など、攪乱の多い場所によく生え、刈り込まれてもよく萌芽する、雑草的な性格が強い。古くはうまらと呼ばれ万葉集にも歌われている。

★道の辺の うまらの末(うれ)に 這(は)ほ豆の からまる君を はなれか行かむ/丈部鳥(はせつかべのとり)万葉集巻二十 4352

野薔薇は、シューベルトの歌曲で知られているが、与謝蕪村が好んで俳句に詠んでいる。蕪村の句は読んで非常に新しい感じがした。山裾の崖、河原の藪に絡むように育っているが、花は、一面に白い花が咲いて、可憐である。

◇生活する花たち「野茨・ひとりしずか・ふたりしずか」(東京白金台・自然教育園)

5月8日(水)

●小口泰與
くさり樋伝いし竹の落葉かな★★★
丹の橋の青葉若葉の耀えり★★★

土用芽のばら三寸伸びにけり★★★★
ばらの紅の芽が伸びる土用芽だけあって、その勢いと色が頼もしい。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<山口、国宝瑠璃光寺の五重の塔>
溜池の水の涸れきて夏浅し★★★
新緑の山肌峰に瑠璃光寺★★★
埋もれる青葉若葉や瑠璃光寺 ★★★

●河野啓一
<千里タウン半世紀>
年古れど新樹今年も鮮やかに★★★
街並や遠く生駒の山青し★★★
青芝の丘に描かるインターチェンジ ★★★

●小川和子
野アザミを残し庭師の草むしる★★★
青葉光絶え間なく湯の湧きいずる★★★
大窓を簾に透かせ鉱泉湯★★★

●黒谷光子
庭の花野の花集め花御堂★★★
大薬缶二つを脇に花御堂★★★
子ら寄って乾く間のなし甘茶佛★★★

●多田有花
朝風に土手の葉桜身を揺する★★★
<芦原温泉郷二句>
青嵐特急列車の迂回する★★★
明易し湯煙のたつ露天風呂★★★

●小西 宏
葉桜の道に色濃し光と影★★★
里山は水木の花に鎮まれり★★★
花韮の崖の階段選び行く★★★