●小口泰與
雨を得て和紙のようなり白あやめ★★★
風立つや瀞に渦まくえごの花★★★
そよぎては香り広ごるえごの花★★★
●河野啓一
黒潮の豊かに寄せて青岬★★★★
「黒潮」と「青岬」の取り合わせが絵画的で印象深い。黒潮寄せる、緑滴る岬。涼しさと強さをもった景色だ。(高橋正子)
緑陰に句帳離せぬ車椅子★★★
夏の雲窓開け放したるクールビズ★★★
●古田敬二
ヨシキリを遠くに聞いて鍬を振る★★★★
敬二さんの畑仕事は、周囲を楽しみながらの農作業である。鍬を振れば、ヨシキリが遠くで鳴いてくれる。よき野の友である。(高橋正子)
紫陽花にその色残し陽が沈む★★★
初胡瓜やさしき棘が我を刺す★★★
●桑本栄太郎
万緑を歩み辿れば池のふち★★★
人の世の世事は厭わず枇杷熟るる★★★
来てみればすでに波打つ青田かな★★★
●小西 宏
陽の丘に唐黍の苗縦一列★★★
紫陽花の庭に余りて咲き溢(こぼ)る★★★
ベランダの如露に緑のプチトマト★★★
★祭笛山あじさいも街中に 正子
○今日の俳句
トマトの芽つんでは青き香を散らす/祝恵子
「散らす」がこの句を生きいきとさせ、実際に、「青き香」が読み手まで届くようだ。トマトの青き香に夏らしい清々しさがある。(高橋正子)
○とまとの花

[とまとの花/横浜・四季の森公園]____[とまとの花/横浜日吉本町]
トマト(学名:Solanum lycopersicum)は、南アメリカのアンデス山脈高原地帯(ペルー、エクアドル)原産のナス科ナス属の植物。また、その果実のこと。多年生植物で、果実は食用として利用される。緑黄色野菜の一種である。日本語では唐柿(とうし)、赤茄子(あかなす)、蕃茄(ばんか)、小金瓜(こがねうり)などの異称もある。
トマトは長らく独自の属(トマト属 Lycopersicon)に分類されてきたが、1990年代ごろからの様々な系統解析の結果、最近の分類ではナス属 (Solanum) に戻すようになってきている。元々リンネはトマトをナス属に含めてlycopersicum(ギリシャ語lycos ‘狼’ + persicos ‘桃’)という種小名を与えたが、1768年にフィリップミラーがトマト属を設立して付けたLycopersicon esculentumが学名として広く用いられてきた。この学名は国際藻類・菌類・植物命名規約上不適切な(種小名を変えずにLycopersicon lycopersicumとすべき)ものであったが、広く普及していたため保存名とされてきた。しかし系統解析によりトマト属に分類されてきた植物がナス属の内部に含まれることが明らかとなったため、ナス属を分割するか、トマト属を解消してナス属に戻すかの処置が必要になった。したがってリンネのやり方に戻して、学名もSolanum lycopersicumとするようになっている。
植物学において、近年トマトはナス科のモデル植物として注目されている。Micro Tom は矮性で実験室でも育成が可能な系統として利用されている。また、国際的なゲノムプロジェクトも行われ、ゲノム(約3万5千の位置・構造、7億8千万の塩基配列)を解読した。
日本では冬に枯死するため一年生植物であるが、熱帯地方などでは多年生であり適切な環境の下では長年月にわたって生育し続け、延々と開花と結実を続けることができる。1本仕立てで1年間の長期栽培を行うとその生長量は8m〜10mにも達する。
トマトの花の形状は外観的には、がく(トマトのヘタになる部分)と、花びらと、筒状のおしべから構成されている。中央にある筒状のもの(雄しべが合着して筒になったもの)を半分に割ってみると、筒の中には雌しべが1本入っていて、この雌しべの元の部分に子房と呼ばれるトマトの実になる部分がついている。
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

●小口泰與
百合の蘂赤城の風に逆らわず★★★
黒雲の透けて日矢射す矢車草★★★
定かなる鍋割山や立葵 ★★★
●迫田和代
麦秋の色の風吹く墓参り★★★★
麦秋のころの墓参は、お彼岸やお盆の墓参りと違って、故人の命日だったり、あるいは、たまたま思い立っての墓参だったりする。麦秋の色の風がしみじみと、懐かしく故人を思い出させる。(高橋正子)
渓流の鮎釣りの人に鮎の影★★★
ぎらぎらと入日が残す初夏の香を★★★
●河野啓一
夏星の溢れロベリア鉢植えに★★★
緑陰に句帳離せぬ車椅子★★★
アマリリスたくさん咲きし写真撮る★★★
●桑本栄太郎
雨降らぬ日差しうべない山法師★★★
花胡瓜の支柱の丈にまだ足らず★★★
あちこちへ穂がゆれ茅花流しかな★★★
●多田有花
<同窓会>
麦の秋みな過ぎし日を語りつつ★★★★
「麦の秋」は、セピア色となった過ぎし時を思い出させる季節である。セピア色となってゆく学生時代を懐かしみ、集うにはいい季節であろう。(高橋正子)
<星の子館・天文観察会二句>
麦星を仰ぐ街の灯を遠く★★★
梅雨晴れ間土星を覗く望遠鏡★★★
●佃 康水
山鳩のくぐもる声へ緑雨かな★★★
石垣の隙間湧き出る蟻の列★★★
伐り呉し白紫陽花やうす緑★★★
●藤田裕子
古きノートめくれば遠き初夏の詩★★★
青梅の太る日々なり雨なくも★★★
一つまたハイビスカスの黄を咲かせ★★★
★蛍ぶくろ霧濃きときは詩を生むや 正子
初夏の山野に咲く蛍ぶくろ。下向きに咲く花の姿に、控え目な優しい美しさを感じます。ましてや霧の濃きときは、霧の中にうっすら見える蛍ぶくろに、ますます詩情を感じます。霧の濃きときの蛍ぶくろの状景は、自然に詩が生まれてくるように思われます。(藤田裕子)
○今日の俳句
夏つばめ舞う朝うれしき時もてり/藤田裕子
「うれしき」という感動を率直にそのまま述べた。初夏であり、朝である。「うれしき時」である。感動には、言葉の技巧の必要がない。それがいいのだ。(高橋信之)
○花菖蒲

[花菖蒲/横浜・四季の森公園]
★何某の院のあととや花菖蒲/高浜虚子
★日の出前にぬれしや菖蒲花ゆたか/渡辺水巴
★菖蒲園かがむうしろも花昏れて/橋本多佳子
★風吹きゆかす花びら薄き花菖蒲/高橋信之
★菖蒲田の中へ木道まっすぐに/高橋信之
こどもの頃、菖蒲と言えば、生家の裏の池の黄菖蒲しか知らなかった。端午の節供には父がどこからか菖蒲を刈ってきて、いつも花がないなあと思った記憶がある。花菖蒲と菖蒲湯に使う菖蒲は違うものということだ。花菖蒲をよく知るようになったのは、嵯峨御流のお花を習ってからである。葉の特徴、花の向き、葉の組み方など手にとって良く見た。生花として活けるときは、水から出たばかりの葉もそれらしく、葉もきれいに組みなおして、花も尖った方を前にして活けるなどした。昭和40年代から50年代にかけて、松山近郊に菖蒲園があちこちできた。道後温泉から奥道後へゆく途中の山手に広い菖蒲園が開園となって見に出かけたことがある。もとは田圃であったのであろう。満目の菖蒲の花が風に翻るさまは、静かながらも華やかな世界である。足元を気にしながら、たいていは傘をさして、菖蒲園を巡る。近くでは、横浜の四季の森公園にも小規模ながら菖蒲園がある。菖蒲園というより菖蒲田という感じだ。山の水を引き込んである。ほとりの小川には蛍が飛び交うということだ。昨日6月11日、信之先生が、写真を撮りに出かけたら、ちょうど花菖蒲が咲き始め、それもかなり咲いていた。我が家のあたりは曇りであったし、天気予報も穏やかな曇りとあるので、傘を持たずに出かけたが、やはり山である四季の森公園は雨で、雨滴のついた花菖蒲の写真が出来上がった。色も紫、白、うすいピンク、それらの絞りなど、多彩。梅雨を迎えて花菖蒲、紫陽花と花が溢れている日本である。
★菖蒲田に山から水を引き入れし/高橋正子
花菖蒲(ハナショウブ、Iris ensata var. ensata)はアヤメ科アヤメ属の多年草である。 ハナショウブはノハナショウブ(学名I. ensata var. spontanea)の園芸種である。6月ごろに花を咲かせる。花の色は、白、ピンク、紫、青、黄など多数あり、絞りや覆輪などとの組み合わせを含めると5,000種類あるといわれている。大別すると、江戸系、伊勢系、肥後系の3系統に分類でき、古典園芸植物でもあるが、昨今の改良で系統色が薄まっている。他にも原種の特徴を強く残す山形県長井市で伝えられてきた長井古種や、海外、特にアメリカでも育種が進んでいる外国系がある。近年の考察では、おそらく東北地方でノハナショウブの色変わり種が選抜され、戦国時代か江戸時代はじめまでに栽培品種化したものとされている。これが江戸に持ち込まれ、後の三系統につながった。長井古種は、江戸に持ち込まれる以前の原形を留めたものと考えられている。一般的にショウブというと、ハナショウブを指すことが多い。しかし、菖蒲湯に使われるショウブは、ショウブ科またはサトイモ科に分類される別種の植物である。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)
◇生活する花たち「紫陽花・立葵・百日草」(横浜・四季の森公園)

●河野啓一
野萱草日ごとに切られ活けられて★★★★
野萱草は一日で咲き終わり、翌日はまた別の花が開く。日毎新しい花を切って活ける。清潔でいきいきとした一花を大切にする暮らしがいい。(高橋正子)
樹の陰にぽっかり赤い百合の花★★★
梅雨入りして毎日仰ぐ青い空★★★
●小口泰與
郭公や田水満たしてテータイム★★★★
田水も満たして、郭公の声を聞きながらのティータイム。のどかで、涼しく、心豊かなティータイム。(高橋正子)
昼顔や棚田の水のひろごれり★★★
山風に矢車草の綾なせり★★★
●桑本栄太郎
泰山木の花や陽射しのいま西へ★★★★
おおらかな泰山木の白い花に、西に傾く日が斜めに遠く日差している。泰山木の花は西日に少し染まっている。(高橋正子)
塀上の柏葉あじさい風のまま★★★
寄り添うて田の片隅や余り苗★★★
●河野啓一
島影の遠くに見えて瀬戸の夏★★★
緑陰に牛飼の像もあり花時計★★★
忘れ草日ごと摘まれて活き活きと★★★
★祭笛山あじさいも街中に 正子
○今日の俳句
射干の咲いて空には雲もなし/河野啓一
射干(ひおうぎ)は、葉が檜扇に似て、橙色に斑のあるこじんまりと品のある六弁花を開く。雲もない夏空に、日本的な射干の花の色が印象的である。(高橋正子)
○今日の俳句
ピーマンの分厚く光るを収穫す/祝恵子
よくそだったピーマンの質感をよく捉えている。「分厚く」に納得。(高橋正子)
○ブルーベリー

[ブルーベリー/横浜日吉本町自宅]
★ブルーベリー食べし瞳や雲の峰/けい
★ブルーベリー摘む指細し半夏生/けい
ブルーベリー(英: blueberry)は、ツツジ科スノキ属シアノコカス節に分類される北アメリカ原産の落葉低木果樹の総称である。栽培品種の成木の樹高は1.5-3m。春に白色の釣鐘状の花を咲かせ、花後に0.5-1.5cmほどの青紫色の小果実が生る。北米大陸でのみ栽培される野生種に近い品種は数十cm程度の低木である。果実は北アメリカでは古くから食用とされてきたが、20世紀に入り果樹としての品種改良が進み、ハイブッシュ系、ラビットアイ系、ハーフハイブッシュ系、ローブッシュ系の交配により多くの品種が作出された。
果実ブルーベリーは大まかに分けると2品種になる。栽培ブルーベリーと野生ブルーベリーとなる。(野生ブルーベリーがローブッシュブル-ベリーの事)ハイブッシュブルーベリー を品種改良して栽培ブルーベリーとしている。北(ノーザン)南(サザン)ハーフハイブッシュ(半分くらいの高い藪と言う意味) ノーザンハイブッシュブルーベリー系 サザンハイブッシュブルーベリー系 ハーフハイブッシュブルーベリー系 ラビットアイブルーベリー(ウサギの赤い目)系 となる。多品種あり育て方などに違いがある。
[2012年5月31日の日記より] 今朝ブルーベリーを初収穫。たったの三粒で、一人ひとつぶずつ。市販のものに比べ、すっぱくて、噛めば実が弾ける。このすっぱさが野生味があって、おいしい。すっぱい蜜柑がおいしいように。順次熟れ次第いただく。ただいまフェイスブック紫陽花句会中だが、ベランダに息抜きに出て実をもいだ。
★六月に入りたる朝摘むブルーベリー/高橋正子
★六月の葉末に熟るるブルーベリー/高橋正子
★ブルーベリー新樹の冷えにすっぱかり/高橋正子
◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)

●小口泰與
昼顔の田川を攻めてなだれ咲く★★★
老木を雁字搦めや青蔦ぞ★★★
早朝の山の大気や草いちご★★★
●桑本栄太郎
部活子の少年追い抜き風青し★★★
青柿の葉陰の風にまどろみぬ★★★
人絶えて更地なりしや花うつぎ★★★
●川名ますみ
花槐メトロ出口に降りそそぐ★★★
地下鉄の出口に降るは花槐★★★
据がれきて団地の庭に実梅落つ★★★
●黒谷光子
夏草に座し湖からの風を聞く★★★
卯の花の傾れて湖の面に届く★★★
辻いくつ曲がりて大寺立葵★★★
●小西 宏
サングラス樹下に入り来て音失せり★★★★
サングラスの必要な明るい戸外を歩き、樹下に入ると、樹下はしんとして音もない。明暗の対比でいっそう樹下がしんとする。(高橋正子)
湧き水の闇に毒痛み大き群れ★★★
木道の青葦にある遠い鶯★★★
●古田敬二
芍薬に振れれば散れり潔し★★★
芍薬の薄紅一片残し散る★★★
潔く芍薬散るよ触れるとき★★★
★天草の乾いた軽さを腕が抱く 正子
○今日の俳句
郭公や頂上まではあとわずか/多田有花
登ってきて、あとわずかとなったところで、郭公の声を聞いた。山の緑にこだまする郭公の声に励まされ、自然を満喫する作者の姿が涼しげだ。(高橋正子)
○雛罌粟(ひなげし)・ポピー

[ひなげし/横浜日吉本町]
★我心或時軽し罌粟の花/高浜虚子
★咲きやんで雛罌粟雨に打たれ居り/前田普羅
★ひなげしの花びらを吹きかむりたる/高野素十
★ひなげしや妻ともつかで美しき/日野草城
★遅れ苗もうひなげしの花となる/阿波野青畝
★陽に倦みて雛罌粟いよよくれなゐに/木下夕爾
★ひなげしの揺れて風あることを知る/高橋信之
雛芥子(ヒナゲシ、学名:Papaver rhoeas)は、ヨーロッパ原産のケシ科の一年草。グビジンソウ(虞美人草)、シャーレイポピー (Shirley poppy) とも呼ばれる。耐寒性の一年草で、草丈50cm~1m位になる。葉は根生葉で、羽状の切れ込みがあり無毛である。初夏に花茎を出し、上の方でよく分枝し、茎の先に直径5~10cmの赤・白・ピンクなどの4弁花を開く。現在タネとして売られているものには、八重咲きの品種が多い。ケシやオニゲシに比べるとずっと華奢で、薄い紙で作った造花のようにも見える。移植を嫌うので、9月下旬から10月中旬頃に、花壇に直まきする。覆土はタネが見え隠れする程度でよい。かなり細かいタネなので、重ならないように丁寧に蒔き、発芽してきたら間引いて、株間が30cmくらいになるようにする。
「ひなげし」と言えば、ずいぶん昔から付き合ってきた。呼び方も自分でも「ひなげし」から「ポピー」に変わった。漱石にも『虞美人草』という小説があるが、この呼び方もいい。紙のように薄い花びらと、少し湾曲した茎と愛らしい花の形が絵になる。ひなげしを始めて育てたのは、愛媛の砥部に住んでいたとき。土地が100坪少しあったので、花は種から蒔いて、野菜は西瓜やトマトじゃが芋まで育てたころだ。二人の子供が小学生と幼稚園のときに花壇を作って、ポピーの種を蒔いた。土がよくなかったのか、苗はひ弱だったが、葉が育ち茎が伸び、いろんな色の花をつけた。八重より一重が好みだが、切り花にしてガラスの細口の花瓶に生けると絵のように様になる。ひなげしで思い出すのは、テレビで見た映画「ラストエンペラー」。なぜがひなげしの花と重なる。
★ラストエンペラーポピーの花は紙みたい/高橋正子
◇生活する花たち「蛍袋・時計草・紫陽花」(横浜日吉本町)

●小口泰與
石楠花や日矢の降りくる山の寺★★★
夏富士や山道人の切れ目無く★★★
黒雲の忍びより来し雷雨かな★★★
●多田有花
緑濃くなればつるりと冷奴★★★
山歩く片手にありぬ汗拭い★★★
頂はそこだけ日差し夏帽子★★★
●桑本栄太郎
立葵明日を生きるしるべとも★★★
まつとうに生きて働き梅雨の闇★★★
おうおうと部活の声や青嵐★★★
●黒谷光子
青芝を踏みて湖畔の句碑めぐる★★★★
湖畔の青芝がすっきりとして涼しげである。そんな所に立つ句碑の句をあれこれ読んで頷くのも、いいものだ。(高橋正子)、
葉桜を洩る陽きらめく湖の風★★★
空の色湖の色あり紫陽花苑★★★
●河野啓一
天と地を結ぶ棚田の早苗かな★★★★
早苗を植えた棚田が地から天まで続く。天と地が薄緑の早苗で結ばれた。この発想が大きい。(高橋正子)
庭の隅むらさき露草涼しげに★★★
夏落葉の見分け方聞く苑の道★★★
鎌倉街道
★昼顔を眸に映し旅ひとり 正子
昼顔というのは(私の印象では、朝顔に比べ)弱々しい花の姿です。その昼顔を「眸に映し」ての「旅ひとり」とは、しかし意外に力強い意思をもっての旅行だったのかもしれません。いずれにせよ、雑念のない清らかな決意が感じられます。 (小西 宏)
○今日の俳句
草原を母さんと行く藁帽子/小西 宏
広く、青い草原を麦わら帽子を冠った母と子が行く。草原と母と子のみ。ことさらに何もない世界がいい。(高橋正子)
○沙羅(しゃら)の花(夏椿)

[沙羅/横浜日吉本町]
★沙羅の花捨身の落花惜しみなし/石田波郷
★咲くよりも落花の多し夏椿/松崎鉄之介
★夏椿思へばそんなやうなひと/行方克巳
★亡き母のものに着替へん沙羅の花/斉藤志野
夏椿(ナツツバキ、学名:Stewartia pseudocamellia)は、ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木。別名はシャラノキ
(娑羅樹)。仏教の聖樹、フタバガキ科の娑羅双樹(さらそうじゅ)に擬せられ、この名がついたといわれる。原産地は日本から朝鮮半島南部にかけてであり、日本では宮城県以西の本州、四国、九州に自生し、よく栽培もされる。樹高は10m程度になる。樹皮は帯紅色でツルツルしており「サルスベリ」の別名もある(石川県など)。葉は楕円形で、長さ10cm程度。ツバキのように肉厚の光沢のある葉ではなく、秋には落葉する。花期は6月~7月初旬である。花の大きさは直径5cm程度で、花びらは5枚で白く雄しべの花糸が黄色い。朝に開花し、夕方には落花する一日花である。ナツツバキより花の小さいヒメシャラ(Stewartia monadelpha)も山地に自生し、栽培もされる。 ナツツバキ属(Stewartia)は東アジアと北アメリカに8種ほど分布する。
これが夏椿だと最初に意識して見たのは、愛媛県の砥部動物園へ通じる道に植樹されたものであった。砥部動物園は初代園長の奇抜なアイデアが盛り込まれて、動物たちにも楽しむ我々にものびのびとした動物園であった。小高い山を切り開いて県立総合運動公園に隣接して造られているので、自然の地形や樹木が残されたところが多く、一日をゆっくり楽しめた。自宅からは15分ぐらい歩いての距離だったので、子どもたちも小さいときからよく連れて行った。その道すがら、汗ばんだ顔で見上げると、夏椿が咲いて、その出会いが大変嬉しかった。このとき、連れて行った句美子が「すいとうがおもいなあせをかいちゃった」というので、私の俳句ノートに書き留めた記憶がある。緑濃い葉に、白い小ぶりの花は、つつましく、奥深い花に思えた。
今住んでいる日吉本町では、姫しゃらや夏椿を庭に植えている家が多い。都会風な家にも緑の葉と小ぶりの白い花が良く似合っている。
植物とは全く違う話だが、まだ夏椿の花を見たことがないとき、かぎ針編みの模様に「夏椿」というのがあって、自分に似合うと思ったのだろう、この模様で製図までしてベストを編んでしばらく着た。
★夏椿葉かげ葉かげの白い花/高橋正子
◇生活する花たち「紫陽花」(北鎌倉・東慶寺)