★台風裡河原撫子折れもせず 正子
台風の暴風に河原の撫子もさらされましたが、それでも折れることなくがんばっている様子は、植物の力強さを感じさせてくれます。(高橋秀之)
○今日の俳句
産声を待つ部屋の窓白木蓮/高橋秀之
子の誕生を待って落ち着かない父親の目に、白木蓮が映る。産着のような純白の白木蓮に、まもなく誕生する子が重なって見える。(高橋正子)
○狗尾草・猫じゃらし(えのころぐさ・ねこじゃらし)

[えのころぐさとめひしば/横浜日吉本町]_[チカラシバ/横浜下田町・松の川緑道]
○狗尾草
穂草のなかで、芒と並んで絵になる草かもしれない。花のないときは、一輪挿しにさして秋の風情を呼ぶ。また、畑の草取りのときなどは、引っ張れば根ごとすぐ抜けて除草には楽な草だ。今朝、ラジオにヘンデルの「ラルゴ」が流れていた。このところ、この曲を忘れていたのだが、聞いていると葬送の曲とも思える。空のどこかに、どこに連れてゆかれるかわからないが、導かれてゆくような曲だ。その空は、狗尾草を揺らしておけばよいような空だと思えた。
エノコログサ(狗尾草、学名:Setaria viridis)は、イネ科エノコログサ属の植物で、1年生草本である。ブラシのように毛の長い穂の形が独特な雑草である。夏から秋にかけてつける花穂が、犬の尾に似ていることから、犬っころ草(いぬっころくさ)が転じてエノコログサという呼称になったとされ、漢字でも「狗(犬)の尾の草」と表記する。ネコジャラシ(猫じゃらし)の俗称は、花穂を猫の視界で振ると、猫がじゃれつくことから。
草丈は40-70cmになる。茎は細く、基部は少し地表を這い、節から根を下ろす。夏には茎が立ち上がって伸び、先端に穂をつける。葉は匍匐茎にも花茎にも多数ついており、最大20cm位、イネ科としてはやや幅広く、細長い楕円形、薄く、緑色でつやがない。茎を包む葉鞘と、葉身の境目につく葉舌は退化して、その部分に毛だけが残る。
花序は円柱形で、一面に花がつき、多数の毛が突き出すので、外見はブラシ状になる。イヌビエなどの穂から出る毛は、小穂を包む鱗片(穎)の先端から伸びる芒であるが、エノコログサの場合、この毛は芒ではなく、小穂の柄から生じる長い突起である。エノコログサの小穂は、果実が熟すると、一個の種子(実際には果実)を鱗片が包んだものに見える。小穂の中には花は1つしかない。しかし、本来は2つの小花があるべきもので、そのうち1つが退化したものと解釈されている。
現在は、一般的に食用としては認識されていないが、粟の原種であるので食用に使える。若い葉と花穂は軽く火であぶり、醤油などで味付けしたり(風味はポップコーンに酷似)、天ぷらにしたりして食べられる。ただし、終戦直後大量に食べて中毒を起こした学者がいる。近代以前の農村では、酷い飢饉の際にカラスムギなどと共にこれを食用としたこともあった。オオエノコロは粟の遺伝子が流入しているので食用に供しやすい。
◇生活する花たち「山萩・鬼灯・蓮の花托」(横浜・四季の森公園)

●小口泰與
虫の音や今朝の赤城は靄の中★★★
芙蓉咲く赤城の風のやわらかし★★★
遠き日や名前刻みし椿の実★★★★
●多田有花
朝夕にほのかに秋の顔の見え★★★
山すその稲田群れ飛ぶ赤とんぼ★★★
秋口の風が揺らせるカレンダー★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省より>
水平線蒼き円みの盆の海★★★★
盆の海は、すでに秋の海となって幾分さびしさがある。遠く長い水平線は、地球の丸みで弧を描いている。「蒼き円み」である。そのような盆の海を眺めるときの心境の句。(高橋正子)
半島の入日真紅や盆の海★★★
列車待つミンミン蝉の駅舎かな★★★
●小西 宏
白砂の波の碧にカヌー漕ぐ★★★
心地よき風に重たき石榴の実★★★
一日の火照り遠きや秋入日★★★
★桔梗は低し岩間に咲いており 正子
桔梗が石垣の間などに咲いているのを見かけたことがあります。水はけのよいところが好きなのでしょうか? 「桔梗」の音の響き、色合いが岩間に低く咲くというイメージによく合っており、涼しげに響きます。(小西 宏)
○今日の俳句
虫篭の軽きを子らのそれぞれに/小西 宏
虫篭をもった子がそれぞれ。篭に虫が入っているのか、いないのか。それはこの句では問題ではない。虫篭の軽さが子供の幼さ、風の軽さを表している。(高橋正子)
○稲の花

[稲の花/横浜市緑区北八朔町]
★いくばくの人の油よ稲の花 一茶
★南無大師石手の寺よ稲の花 子規
★稲の花今出の海の光りけり 子規
★湯槽から四方を見るや稲の花 漱石
★雨に出しが行手の晴れて稲の花 碧梧桐
★軽き荷を酔うてかつぐや稲の花 虚子
★酒折の宮はかしこや稲の花 虚子
★八十路楽し稲の花ひろびろと見る/高橋信之
★稲の花見つつ電車の駅までを/高橋正子
★稲の花雲なく晴れし朝のこと/高橋正子
イネ(稲、稻、禾)は、イネ科 イネ属の植物である。稲禾(とうか)や禾稲(かとう)ともいう。 収穫物は米と呼ばれ、世界三大穀物の1つとなっている。本来は多年生植物であるが、食用作物化の過程で、一年生植物となったものがある。また、多年型でも2年目以降は収穫量が激減するので、年を越えての栽培は行わないのが普通である。よって栽培上は一年生植物として扱う。属名 Oryza は古代ギリシア語由来のラテン語で「米」または「イネ」の意。種小名 sativa は「栽培されている」といった意味。用水量が少ない土壌で栽培可能なイネを陸稲(りくとう、おかぼ)と呼ぶ。日本国内に稲の祖先型野生種が存在した形跡はなく、海外において栽培作物として確立してから、栽培技術や食文化、信仰などと共に伝播したものと考えられている。稲を異常なまでに神聖視してきたという歴史的な自覚から、しばしば稲作の伝播経路に日本民族の出自が重ねられ、重要な関心事となってきた。一般に日本列島への伝播は、概ね3つの経路によると考えられている。南方の照葉樹林文化圏から黒潮にのってやってきた「海上の道」、朝鮮半島経由の道、長江流域から直接の道である。3つの経路はそれぞれ日本文化形成に重層的に寄与していると考えられている。現在日本で栽培されるイネは、ほぼ全てが温帯ジャポニカに属する品種であるが、過去には熱帯ジャポニカ(ジャバニカ)も伝播し栽培されていた形跡がある。
多くの節をもつ管状の稈を多数分岐させ、節ごとに1枚の細長い肉薄の葉をもつ。稈は、生殖成長期になると徒長して穂を1つつける。他殖性の風媒花であるが、栽培稲では98%程度が自家受粉する。開花時間は午前中から昼ごろまでの2-3時間と短い。花は、頴花(えいか)と呼ばれ、開花前後の外観は緑色をした籾(もみ)そのものである。籾の先端には、しなやかな芒(ぼう)が発達する。芒は元々は種子を拡散するための器官であるが、栽培上不要なため近代品種では退化している。農業上、種子として使われる籾は、生物学上の果実である玄米を穎(=籾殻:もみがら)が包んでいるもの。白米は、玄米から糠(ぬか)層、胚など取り除いた、胚乳の一部である。生態型によるジャポニカ種 (日本型、島嶼型)とインディカ種 (インド型、大陸型)という分類が広く知られている。
稲の食用部分の主 成分であるでんぷんは、分子構造の違いからアミロースとアミロペクチンに別けられる。お米の食感は、両者の含有配分によって大きく異なる。すなわちアミロース含量が少ないお米は加熱時にやわらかくモチモチした食感になり、アミロース含量が多いとパサパサした食感になる。日本人の食文化では、低アミロースのお米を「美味しい」と感じる。この好みは、世界的には少数派となっている。通常の米は20%程度のアミロースを含んでいるが、遺伝的欠損によりアミロース含量が0%の品種もあり、これがモチ性品種で、モチ性品種が栽培されている地域は東南アジア山岳部の照葉樹林帯に限定されている。その特異性から、その地域を「モチ食文化圏」と呼称されることがある。日本列島自体が西半分を「モチ食文化圏」と同じ照葉樹林に覆われており、またハレの日にもち米を食べる習慣がある(オコワ、赤飯、お餅)ことから、日本文化のルーツの一つとして注目された。
◇生活する花たち「朝顔・芙蓉・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

8月19日
●小口泰與
秋の夜や雨の磴にも湯の煙★★★
秋の夜や雨に包まる湯の煙★★★
赤城より朝の冷気やとんぼ増ゆ★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省>
丘上の昔語りや盆迎え★★★★
墓地は丘の上にある。お盆迎えの墓参りにゆくと、村の人たちや帰省した家族などが墓参りに来て、しばし昔の話に花が咲く。これも帰省の楽しみであり、故郷をリアルに感じるときであろう。(高橋正子)
父母眠る丘の上より盆の海★★★
見晴るかす潮の流れや盆の海★★★
●小西 宏
夕暮れて風ながれくる法師蝉★★★
唇に触れ枝豆の夕の風★★★
秋涼し街に小さな川花火★★★
8月18日
●小口泰與
コスモスやリフト静かに行き違う★★★
湯煙をふわり包みし霧におう★★★
石段や霧の下はう湯の煙★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省>
星月夜眼下に灯りの道の駅★★★
山里の赤き瓦の残暑かな★★★
発電のプロペラ止まり盆の風★★★
●多田有花
初秋の風に吹かれて描きおり★★★★
暑さのなかにも、初秋には秋を感じさせる風が吹く。さらりとした初秋の風に吹かれて心地よく絵が描けることは嬉しい。(高橋正子)
夜明け前窓辺に虫の声を聞く★★★
稜線にたたずめば風新涼に★★★
●川名ますみ
夕暮れの空澄みゆきて遠花火★★★★
猛暑続きのこの夏、夕暮れの空が澄むことは。稀かもしれない。しかし、そんな夕暮れに遠花火が見えた。色も形もくっきりと、心に残る花火である。(高橋正子)
揚花火きれいな空に散りて落つ★★★
音もなく月下に花火しだれけり★★★
★追分の芒はみんな金色に 正子
野原のわかれ道で佇んでいられるのでしょうか、芒は皆輝き金色です。いい景色を存分に堪能されたことでしょう。(祝恵子)
○今日の俳句
足場組む上へと徐々に秋空へ/祝恵子
足場が徐々に組まれ行く様子を見上げて、秋空をよく感じている。丁寧な写生がよい。(高橋正子)
○カンナ
[カンナ/横浜市港北区日吉本町] [カンナ/横浜市港北区箕輪町]
★老いしとおもふ老いじと思ふ陽のカンナ/三橋鷹女
★鶏たちにカンナは見えぬかも知れぬ/渡辺白泉
★王様はこのごろ不安花カンナ/丸山海道
★押してゆく自転車カンナの海へ出る/西川碧桃
★カンナ咲く遥かな海を照らしつつ/鈴木夏子
★ピアニカを吹く緋のカンナ黄のカンナ/丹沢亜郎
カンナ科はカンナ属のみで構成されます。熱帯アメリカを中心に約50種が分布する毎年花をさかせる多年草で、地下に根茎(球根)をつくります。日本には江戸時代前期にカンナ・インディカ(和名:ダンドク)が渡来し、現在では河原などで半野生化しているものが見られます。カンナはギリシア語で「アシ(葦)」を意味し、その草姿がアシに似ているところに由来します。
草丈が1m-2mになる大型種と40cm-50cm程度におさまる矮性種(わいせいしゅ)に大きく分けられます。冬は地中の根茎の状態で越し、春に芽を出して葉を広げます。葉は長だ円形や先のとがったやや細長いかたちで、色は緑や赤銅色、葉脈に沿って美しい斑の入るものもあり花のない時期も充分楽しめます。
花どきは主に夏-秋、花の形態はやや特異で6本ある雄しべが1本を残してすべて花びらになり※1、雌しべはへら状になります。花色は緋色、ピンク、オレンジ、黄色、白などがあり、葉に斑点や模様のはいるものも多く非常にカラフルです。
生活する花たち「白むくげ・萩・藤袴」(東京・向島百花園)

★白萩のこぼれし花を掃く朝な 正子
白萩の咲く清澄な庭の風情を思い浮かべます。白萩の控えめな可憐な花が咲き、またこぼれているお庭に立ち、掃き清めていらっしゃるその朝な朝なにこそ心豊かな一時を味わっていらっしゃる姿が見えて参ります。(佃 康水)
○今日の俳句
潮の香の港にたてば銀河濃し/佃 康水
句材が整っている。潮の香がする夜の港は、港の明かりも家々の明かりも落されて、銀河の限りない星がはっきりと見える。無窮の空の銀河である。(高橋正子)
○芙蓉
[白芙蓉/横浜日吉本町] [酔芙蓉/横浜日吉本町]
★枝ぶりの日ごとに替る芙蓉かな 芭蕉
★露なくて色のさめたる芙蓉哉 子規
★露けさの庵を繞りて芙蓉かな 漱石
★芙蓉見て立つうしろ灯るや 碧梧桐
★母とあればわれも娘や紅芙蓉 かな女
★日輪病めり芙蓉の瓣の翳ふかく 亞浪
★さわさわと松風わたる芙蓉かな 風生
★三味線も器用に弾きて芙蓉かな 万太郎
★朝な梳く母の切髪花芙蓉 久女
★街道に芙蓉の家の静かかな 秋櫻子
★日輪のさやかに見ゆる芙蓉かな 淡路女
★狼藉や芙蓉を折るは女の子 虚子
★豊満の美に佛性や紅芙蓉 風生
★菜園のほとり芙蓉を咲かしめぬ 鷹女
★白芙蓉暁けの明星らんらんと 茅舎
★美しき芙蓉の蟲をつまはじき 夜半
★水櫛に髪しなやかや花芙蓉 汀女
★ふるさとを去ぬ日来向ふ芙蓉かな 不器男
★紅芙蓉白芙蓉又紅芙蓉 立子
★亡母訪ねくるよな夕焼白芙蓉 林火
★師の齢いくつ越えしや芙蓉は実に 波郷
松山の郊外に一時住んでいたときは、玄関に芙蓉があり、花に隠れて水道があった。そこでは、盥で洗濯をしたが、花の傍で水をいっぱい使って洗濯をすると、気分もさわやかだった。
★雲が来て風のそよげる花芙蓉/高橋正子
★深まれる秋の真中の酔芙蓉/〃
フヨウ(芙蓉、Hibiscus mutabilis)はアオイ科フヨウ属の落葉低木。種小名 mutabilisは「変化しやすい」(英語のmutable)の意。「芙蓉」はハスの美称でもあることから、とくに区別する際には「木芙蓉」(もくふよう)とも呼ばれる。原産地は中国で、台湾、日本の沖縄、九州・四国に自生する。日本では関東地方以南で観賞用に栽培される。幹は高さ1.5~3m。寒地では冬に地上部は枯れ、春に新たな芽を生やす。葉は互生し、表面に白色の短毛を有し掌状に浅く3~7裂する。7~10月始めにかけてピンクや白で直径10~15cm程度の花をつける。朝咲いて夕方にはしぼむ1日花で、長期間にわたって毎日次々と開花する。花は他のフヨウ属と同様な形態で、花弁は5枚で回旋し椀状に広がる。先端で円筒状に散開するおしべは根元では筒状に癒合しており、その中心部からめしべが延び、おしべの先よりもさらに突き出して5裂する。果実はさく果で、毛に覆われて多数の種子をつける。同属のムクゲと同時期に良く似た花をつけるが、直線的な枝を上方に伸ばすムクゲの樹形に対し、本種は多く枝分かれして横にこんもりと広がること、葉がムクゲより大きいこと、めしべの先端が曲がっていること、で容易に区別できる。
スイフヨウ(酔芙蓉、Hibiscus mutabilis cv. Versicolor) 朝咲き始めた花弁は白いが、時間がたつにつれてピンクに変色する八重咲きの変種であり、色が変わるさまを酔って赤くなることに例えたもの。なお、「水芙蓉」はハスのことである。混同しないように注意のこと。 アメリカフヨウ(草芙蓉(くさふよう)、Hibiscus moscheutos、英: rose mallow) 米国アラバマ州の原産で、7~9月頃に直径20cmにもなる大きな花をつける。草丈は1mくらいになる。葉は裂け目の少ない卵形で花弁は浅い皿状に広がって互いに重なるため円形に見える。この種は多数の種の交配種からなる園芸品種で、いろいろな形態が栽培される。なかには花弁の重なりが少なくフヨウやタチアオイと似た形状の花をつけるものもある。
◇生活する花たち「葛の花・女郎花・萩」(東京・向島百花園)

※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
●祝恵子
国ことば飛び出し笑う盆の席★★★
家ごとの風鈴音色の違いあり★★★
夕暮れて木槿の花は眠り落つ★★★
●小口泰與
月明や未だ蚯蚓の声聞かぬ★★★
露草や雲ひとつ無き浅間山★★★
やわやわと釣鐘人参風の中★★★
●佃 康水
一区画早も反射の鳥威し★★★
抱く児のばたつく脚も盆踊り★★★
特訓の少年弾む盆太鼓★★★
●迫田和代
気付かずに桜の木陰の川風を★★★
滝しぶきかかる処に人溢れ★★★★
滝しぶきがかかるところは、一段と涼しい。そこに誰も彼もが寄って人が溢れている。今年の猛暑に天然の涼しさを恋うのも無理もない。(高橋正子)
もう会えぬ人と別れて花むくげ★★★
●友田修
完熟のトマトの赤き散歩道★★★★
弾けるように熟れた真っ赤なトマトを畑に見つけたのは新鮮な驚き。夏もそろそろ終わる頃、散歩を楽しむゆっくりした時間の、またフレッシュなこと。(高橋正子)
吹く風の柔らかきかな盂蘭盆会★★★
草笛を吹く川べりや盆休み★★★
●桑本栄太郎
<盆帰省夜間走行より>
街騒の街並み後に盆帰省★★★
山百合やヘッドライトのハイウェイに★★★
星涼し眼下に灯りのドライブイン★★★
●下地鉄
日暮時一寸ばかりの秋の影★★★
秋立ちて薄雲染める夕日かな★★★
落日は赤かったあの終戦日★★★
●高橋秀之
ふっと消える小川の上に秋の蝶★★★
せせらぎの流れに添うて赤とんぼ★★★
暑き日も夕暮れ時は秋の空★★★
★藤袴山野の空の曇り来し 正子
秋の七草の一つの藤袴、淡い紫紅色の小花がそこはかとなく郷愁を誘い、古来より日本人に愛されてきました。山野の「曇り来し」空のもと、地味ながら、野趣に富む藤袴の花の味わいがよりいっそう感じられます。(藤田洋子)
○今日の俳句
真珠筏浸し秋の海澄めり/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。(高橋正子)
○青柿
[青柿/横浜日吉本町]
★青柿やこの道に師と呼ばしめず/石田波郷
★柿青し鏡いらずの髭を剃る/石川桂郎
★お前も力つきたかと並ぶ青柿/加藤昭夫
台風がくる9月、青柿が台風の風雨で落ちることがある。窓から柿の木が台風になぶられて青柿がぶつかりあっているのを見る。柿の木は田舎にはどの家にもあるほどで、「柿の木のある家」などという童話も記憶している。小学生のころ運動会は、10月の初めに行われた。ちょうど青蜜柑が出回るころで、柿もはやく熟れないかなあと待ち遠しかった。柿の花は、四角で座布団のようだといつも思うが、生り初めは、本当に花の通りに四角。育ってくると、富有柿などは丸みを帯びてくる。そのまま四角な柿もある。青柿を見れば、朱色に熟れる日が楽しみになる。
柿は日本だけのものと思っていたが、ドイツに旅行した時7月の終わりだったが、フランクフルトのマーケットで見た。林檎と同様に、オーストラリアから輸入されたものらしかった。カキとよばれるのか、パーシモンと呼ばれるのか、その時は確かめなかったが、世界の市場でも見られるようだ。ちなみに、柿の木は折れるから、登るなと木登りは厳禁であった。
★ガラス窓拭けば青柿丸見えに/高橋正子
★台風過ぎし庭に青き葉青き柿/〃
カキノキ(柿の木)は、カキノキ科(Ebenaceae)カキノキ属(Diospyros)の落葉樹カキノキ(D. kaki)である。東アジアの固有種で、特に長江流域に自生している。熟した果実は食用とされ、幹は家具材として用いられる。葉は茶の代わりとして加工され飲まれることがある。果実はタンニンを多く含み、柿渋は防腐剤として用いられ。現在では世界中の温暖な地域(渋柿は寒冷地)で果樹として栽培されている。雌雄同株であり、雌花は点々と離れて1か所に1つ黄白色のものが咲き、柱頭が4つに分かれた雌しべがあり、周辺には痕跡的な雄しべがある。雄花はたくさん集まって付き、雌花よりも小さい。日本では5月の終わり頃から6月にかけてに白黄色の地味な花をつける。果実は柿(かき)と呼ばれ、秋に橙色に熟す。枝は人の手が加えられないまま放って置かれると、自重で折れてしまうこともあり、折れやすい木として認知されている。
日本から1789年にヨーロッパへ、1870年に北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われている。英語で柿を表す「Persimmon」の語源はアメリカ合衆国東部の先住民であるアルゴンキン語族の言葉で「干し果物」を意味する名詞「ペッサミン」であり、先住民がアメリカガキ(Diospyros virginiana L.)の実を干して保存食としていた事実に基づく。近年、欧米ではイスラエル産の柿(渋抜きした「Triumph」種)が「シャロンフルーツ(Sharon Fruit)」という名称で流通するようになったため、柿は「Persimmon」よりも「Sharon Fruit」という名で知られている。
◇生活する花たち「落花生の花・ササゲの花・稲の花」(横浜市緑区北八朔町)

●小口泰與
したたかに伸び行く蔓や牽牛花★★★
単線の朽し犬釘明治草★★★
露草や浅間の空はいぶし銀★★★
●下地鉄
湾を抱く旱の空の蒼さかな★★★★
旱の空が湾を抱く。空もあくまでも蒼く、湾はあくまでも静か。旱がその静けさを奥深くさせる。(高橋正子)
その日のこと記憶も失せし終戦日★★★
金星を剥がれし人の敗戦日★★★
●多田有花
早稲の田を渡る風受け墓詣★★★★
暑い盛りの墓参だが、早稲の田は稲穂にも熟れ色が兆し、風を渡らせている。心静かで明るい墓参。(高橋正子)
四代の世代が集い墓参り★★★
盆過やつくつくぼうしの森となる★★★
●古田敬二
新涼を大きく吹きあげ飛騨の川★★★
飛騨川の緑の流れ涼新た★★★
緑色して飛騨川流れ終戦日★★★