★しろじろと穂芒空にそよぐなり 正子
○今日の俳句
新駅の高架工事や稲の花/桑本栄太郎
新駅は田園の中に建てられ、高架工事が進んでいる。おりしも田んぼには稲の花が咲き、暑さのなかにも秋の気配が漂う。開発が自然を押しやって進んでいるのも現代の景色だ。(高橋正子)
○釣舟草(ツリフネソウ)

[釣舟草/東京白金台・国立自然教育園] [黄釣舟(キツリフネ)/横浜・四季の森公園]
★日おもてに釣船草の帆の静か/上田日差子
★無事祈る小さき岬宮釣舟草 千恵子
★釣舟草琵琶湖の風の吹くままに 善清
★川せせらぐに黄釣舟草の黄がまぶし/高橋信之
★釣船草秋風吹けば走るかに/高橋正子
ツリフネソウ(釣船草、吊舟草、学名: Impatiens textori)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草である。ムラサキツリフネ(紫釣船)とも呼ばれる[3]。
東アジア(日本、朝鮮半島、中国、ロシア東南部)に分布する。日本では北海道・本州・四国・九州の低山から山地にかけて分布し、水辺などのやや湿った薄暗い場所に自生する。キツリフネとともに群生していることも多い。日本には同属では、ハガクレツリフネも生育している。草丈は、40-80 cmほどに生長する。葉は鋸歯(縁がギザギザになる)で、楕円形から広披針形、キツリフネより広披針形に近い傾向がある。花期は夏から秋(山地では 8月頃から、低地では 9-10月)。茎の先端部から細長い花序が伸び、そこに赤紫色で3-4 cmほどの横長の花が釣り下がるように多数咲く。稀に白い色の花がある。花弁状の3個の萼と唇形の3個の花弁をもち、距が長く筒状になっている。下の花弁の2個が大きく、雄しべが5個。その花が帆掛け船を釣り下げたような形をしていることや花器の釣舟に似ていることが名前の由来と考えられている。花の形はキツリフネに似るが、色が赤紫色であることと、花の後ろに伸びる距の先端が渦巻き状に巻くこと本種の特徴である。なお一般にツリフネソウ属の花は葉の下に咲くが、本種はその例外である。大きく深い花がたくさん咲き距の部分に蜜がたまり、主にマルハナバチなど大型のハナバチや、ツリアブ類などが好んで集まり、花粉を媒介する。
種子が熟すと、ホウセンカなどと同様に弾けて飛び散るように拡がる。
キツリフネ(黄釣船、学名: Impatiens noli-tangere)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草である。その黄色い花と、後ろに伸びる距の先が巻かずに垂れることが、ツリフネソウとの明確な相違点である。
◇生活する花たち「女郎花・葛の花・萩」(四季の森公園)

●小口泰與
そばの花出そろう畑や日のやさし★★★★
白粉花や赤城は雲を纏いおり★★★
ふた心持ちて浄土や稲の花★★★
●桑本栄太郎
<京都市内、新京極にて映画>
秋澄むや新京極へ映画見に★★★
異国語の流れ案内秋の京★★★
秋涼の香のかおりや新京極★★★
●多田有花
雨あがり秋蝉静かに鳴き始む★★★
秋の田のところどころに稗つんつん★★★
色変えた葉から散り初む桜かな★★★
●下地鉄
潮騒に暮れいく浜の晩夏かな★★★
振り返れば病もいとし秋の風★★★
夏雲のゆたり過ぎ行く空の色★★★
●祝恵子
二学期が始まる頃よかくれんぼ★★★★
水泳や花火、それにお盆などでそれぞれに過ごした夏休みも終わると、子供は自然と集まって、かくれんぼをして楽しむ。思い出せば、かくれんぼは、秋から冬によくしていた。(高橋正子)
学習田秋の燕のまだ残る★★★
尼寺の庭に見つけて酔芙蓉★★★
●古田敬二
夜もすがら木曽川瀬音秋の宿★★★
窓の外雨降り始む木曽の秋★★★
秋の水澄んで白瀬の薄暮かな★★★
●小西 宏
、トンボ待つ小川の傍の半ズボン★★★★
舐め挙げて櫟の幹の秋西日★★★
ひぐらしの蟋蟀となる夕の風★★★
●高橋秀之
秋暑し神社の階段一歩ずつ★★★
横須賀に入港する艦秋暑し★★★
公園に三笠の船形秋日影★★★
●河野啓一
街道に沿うて九月の箕面山★★★
隣人のはや退院したる九月かな★★★
許されて歩行練習窓の秋★★★
許されて歩行訓練窓は秋★★★
深み行く秋空ひろきベッドかな★★★★
入院生活も長くなられ、猛暑の夏を越して秋になった。ベッドから眺める秋空がひろびろと、色深くなってきて、もの思う作者の心境が察せられる。(高橋正子)
温め酒恋しき頃の近づけり★★★
●黒谷光子
手をすすぐ小川の小石の光る秋★★★
訪う家の垣根に紅濃く秋の薔薇★★★
入相に声を限りの秋の蝉★★★
酢に和えてほのぼの紅差す芋茎かな★★★
ほんのりと膳の酢の物赤芋茎★★★
虫の音の四方八方門閉める★★★★
四方八方から聞こえてくる虫の音を惜しむように門を閉める。門の閉める行為で四方八方の虫の音が際立ってくる。(高橋正子)
秋茄子を採れば確かに実のしまる★★★
半分もあれば充分南瓜切る★★★
送り出て秋の夜風の心地よき★★★
登り行く左右ひろびろ大花野★★★★
山風にいよよ紅濃く吾亦紅★★★
伊吹嶺のすっくと秋の青空に★★★
●古田敬二
木曽の入る開きしばかりの花芒★★★★
木曽は、一足季節が先にきている。開いたばかりの芒の穂がみずみずしい。(高橋正子)
白樺にかすかに紅葉始まれり★★★
コスモスを揺らして通る長野行き★★★
父に母に願い事告げ墓洗う★★★
子や孫の幸を祈りて墓洗う★★★
戦死者の苔むす墓を洗う人★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。
★水に触れ水に映りて蜻蛉飛ぶ 正子
川の流れすれすれに水に触れながら、また影を水に映しながら飛ぶ蜻蛉、おだやかな初秋の情景です。門の前を川が流れていますので、とても身近に感じ親しく読ませていただきました。(黒谷光子)
○今日の俳句
さみどりの稲穂のそよぎ湖近し/黒谷光子
ゆたかな湖をそばに、さみどりの稲穂のそよぎがやさしい。広くゆったりと、そしてこまやかなな詠みに、句が美しく仕上がった。(高橋正子)
○韮の花
[韮の花/ネットより] [韮の花/横浜日吉本町]
★韮の花坂としもなく息あへぐ/石田波郷
★足許にゆふぐれながき韮の花/大野林火
★おもてより裏口親し韮の花/水野節子
★天日を豊かに受けて韮の花/久我達子
★韮の花秩父は土の匂いして/城内明子
★一面に韮の花咲く里暮れし/阿部スミエ
昨日、ある家によく咲いていた酔芙蓉も今日は、ちっとも咲いていない。かわりに隣の家の酔芙蓉が咲いていた。花は全く一期一会。歩いていると、なんらかの花に偶然に出会う。一日が言えないし、一時間が言えない。今日は、韮の花がちょうど盛り。韮の花には小さな蝶がいつもせせり寄って蜜を吸っている。球形に小さな花が集まる花は良く見ればかわいらしい。ネットで「韮の花」を検索すると、春に咲く薄紫の「花韮」の画像が混じっている。ネットで気をつけないといけないところである。「花韮」は食用にしないし、咲く季節が違う。
生家の庭先の畑の端に石組みに沿って一列に韮が植えてあった。韮は冬から春がおいしかった。味噌汁に入れるのに、「ちょっと、韮を刈ってきて。」と言われることもあった。春を過ぎると葉が硬くなる。韮の花は、二学期がはじまるころに咲く。韮の花と言えば、「二学期が始まる暑さ」と、体に染みている。二学期が始まると、運動会の練習が始まる。日暮れがだんだん淋しくなり、昼間は汗をかいた簡単服(簡単なワンピース)では涼しすぎるようになる。韮の花が咲くと、九月特有の暑さを思い出す。
★いつ見ても韮の花に蝶せせり/高橋正子
ニラ(韮)は、百合(ゆり)科ネギ属の多年草緑黄色野菜である。学名はAllium tuberosum。Allium:ネギ属、tuberosum:塊茎のある、塊茎状の。Allium(アリウム)は「ニンニク」の古いラテン名で、「匂い」という意味が語源。夏には葉の間から30 – 40cmほどの花茎を伸ばす。花期は8 – 10月頃。花は半球形の散形花序で白い小さな花を20 – 40個もつける。花弁は3枚だが、苞が3枚あり、花弁が6枚あるように見える。雄蕊(おしべ)は6本、子房は3室になっている。子房は熟すると割れて黒色の小さな種を散布する。中国西部が原産。日本では本州から九州に野生し、これを自生とする向きもあるが、疑わしい。株分けまたは種によって増やす。独特の臭気があることから「においきらう」(香嫌)、これが「にら」に変化したともいわれ、また、美味であることから「みら」(美辣)が「にら」に変化したともいわれる。この匂いのため、禅宗などの精進料理では五葷の一つとして忌避される。匂いの原因物質は硫化アリル(アリシン)などの硫黄化合物である。
◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

★鎌倉の朝が移れる酔芙蓉 正子
○今日の俳句
白桃届く箱から香り溢れさせ/古田敬二
白桃は、桃のなかでも香りが特に良い。白桃の入った箱から、もうよい香りがあふれている。みずみずしい白桃をもらった嬉しさがあふれている。(高橋正子)
○秋海棠

[秋海棠/ネットより][秋海棠/横浜日吉本町]
★秋海棠西瓜の色に咲にけり 芭蕉
★手拭に紅のつきてや秋海棠 支考
★画き習ふ秋海棠の絵具哉 子規
★北に向いて書院椽あり秋海棠 漱石
★節々に秋海棠の紅にじみ 虚子
★石灰を秋海棠にかくるなよ 鬼城
★秋海棠にそゝぐはげしや軒の雨 淡路女
★美しく乏しき暮し秋海棠 風生
★病める手の爪美くしや秋海棠 久女
★書を愛し秋海棠を愛すかな 青邨
★秋海棠母を大事の家のさま 汀女
★雲に濡れ秋海棠の茎の紅 悌二郎
愛媛の焼き物の町、砥部町に住んでいた。砥部の家は和風の平屋で、小住宅ながら土地が百坪あまりあって、椿をはじめ、いろんな植物を植えていた。秋の初めになると秋海棠の花が咲いた。北向きの玄関脇は朝日が斜めに当たったあとは日陰になる。そこにピンク色の秋海棠がほろほろと幾分大きめの葉から覗くように咲いて玄関の彩となった。そしてもう一か所、あとで取り付けた小さな濡れ縁の下にいつの間にか秋海棠が咲くようになった。節のある紅色の茎は水を含んでいた。ベゴニアに似ている。ベゴニア科なので言う間でもないが、秋海棠のほうがよどほ日本の家屋に馴染んで似合っている。砥部の家は、住み変わっているが、庭はそのままで楽しんでくれているらしい。そうならば、今も秋海棠が咲いているだろう。子どもたち二人もこの家が気に入っていたので、幼い時の子供たちのことも一緒に思い出す。
★一段と空澄み咲きつぐ秋海棠/高橋正子
★秋海棠の紅の茎また紅の花/〃
★縁に掛け足に触れたる秋海棠/〃
伊予双海の寺
★伊予灘の波の反射に秋海棠/〃
シュウカイドウ(秋海棠、学名:Begonia grandis)は、シュウカイドウ科シュウカイドウ属(ベゴニア属)に分類される多年生草本球根植物である。和名は中国名「秋海棠」の音読み。ヨウラクソウ(瓔珞草)とも呼ばれる。英名 hardy begonia。高さ約60センチ。秋、紅色の花が下垂して咲く。葉の付け根に小さいむかごをつけて増える。東南アジア原産で、日本へは寛永年間(一六二四〜四四)に渡来したといわれ、観賞用に庭園に栽培される。
◇生活する花たち「犬蓼・吾亦紅・チカラシバ」(横浜下田町・松の川緑道)

8月31日
●小口泰與
赤城より冷気あまねし水澄めり★★★
高原の秋気くまなく浴びにけり★★★
鳴きあぐる別れ鴉や忠治塚★★★
●迫田和代
土手道の窪みを満たす吾亦紅★★★★
吾亦紅は河原などに見られるが、土手道の窪んだところに、思わぬほど咲いていた。「満たす」は予期せぬ驚きと嬉しさ。(高橋正子)
空も澄み緑豊かな秋の庭★★★
ささやかな音に驚くよなべかな★★★
●小西 宏
不揃いの背丈を風に猫じゃらし★★★★
猫じゃらしは、背丈に注目すれば、意外とく高低さまざまだ。それぞれが風に吹かれる様子は、趣がある。(高橋正子)
山裾までただ平らかに稲の秋★★★
渇水の小河内ダムの赤とんぼ★★★
●桑本栄太郎
ベランダの今朝もほど良き秋すだれ★★★
竹林の仰ぐ高さや秋の空★★★
八月の果てて西空曇り来る★★★
●多田有花
コンサートはね秋雨の街へ出る★★★
台風は低気圧へと八月尽★★★
傷に刃を当て傷物の梨をむく★★★★
傷物の梨を剥こうとすれば、まず傷をとってからが普通の行為だが、「傷に刃を当て」と言われると神経がピリッとする。リアルな句だ。(高橋正子)
8月30日
●祝恵子
稲の花故郷を向くさくら号★★★★
傘に入れ雨の木槿の揺れを止め★★★
秋の田に立ち止まる猫と目を合わす★★★
●小口泰與
単線の天涯に消ゆ尾花かな★★★
退けて赤城離るる秋の雲★★★
とんぼうへ人さし指をまわしけり★★★
●桑本栄太郎
苦瓜の小さく色づきベランダに★★★
南瓜煮る妻のレシピや湯呑み入れ★★★
カーテンの触れる夜風や虫の声★★★
●川名ますみ
秋澄みて橋の向こうの船までも★★★
秋風に洗濯物のやさしい色★★★★
一読、「やさしい色」に納得した。秋風に吹かれる洗濯物が、やわらく、色もやさしい。秋の日差し、風の具合のせいもあるだろう。(高橋正子)
西瓜切る音のさらさらリズミカル★★★
●佃 康水
屈み見て砂より淡き草の花★★★
巡り終えかくもとりどり草の花★★★
草の花それぞれ摘みて束にする★★★★
★雲が来て風のそよげる花芙蓉 正子
たおやかな芙蓉の花が風にやさしくそよぐ姿が、やわらかな雲の流れくる背景によく調和し、秋の涼しさを明るく静かに感じさせてくれます。(小西 宏)
○今日の俳句
海近くトンボ集える墓参り/小西 宏
それぞれの家の墓地は、山裾にあったり、市街地を眺める丘にあったりする。宏さんの墓参は海の近くのお墓。見晴らしのよい墓地には、トンボが集い爽やかである。(高橋正子)
○薮蘭(やぶらん)

[薮蘭/鎌倉・宝戒寺] [薮蘭/ネットより]
★藪蘭は大樹の下にのびのびと/高橋信之
★藪蘭や涼しくなると思うころ/高橋正子
薮蘭(やぶらん、学名:Liriope muscari)は、スズラン亜科(Nolinoideae)ヤブラン属(Liriope)のる多年草。Liriope(リリオーペ)は、ギリシャ神話の女神の名前に由来。 東アジアに分布する。開花期は夏から秋。花は紫色の小さいもので、穂状に咲く。葉は細長く、先は垂れる。日陰に生える。日本庭園の木々の根元などにアクセントとして植えられることが多い。葉が斑入り(ふいり)のものもある。実(タネ)は黒い丸形。別名は「山菅」(やますげ)。ちなみに、万葉集で「山菅」として歌われたのは竜の髭(りゅうのひげ)のこと。万葉集では薮蘭は登場しないようだ。10月26日の誕生花。花言葉は「謙遜」。
◇生活する花たち「あさざ・露草・うばゆり」(東京白金台・自然教育園)
