★朝は深し露草の青が育ち 正子
暑熱が去り、日毎に咲き増える露草の鮮やかな青が目にしみ、涼やかな気持ちになれます。露草の朝の清々しさに、迅速に秋の気配が深まる思いがいたします。(藤田洋子)
○今日の俳句
皿洗う秋夜の白と白重ね/藤田洋子
家族の明るい生活から生まれた佳句が多い。日々の生活に詩を見つけ、それを句にしている。(高橋正子)
○野菊
[野菊/横浜・四季の森公園] [野菊/横浜市港北区松の川緑道]
★撫子の暑さ忘るる野菊かな 芭蕉
★名もしらぬ小草花咲く野菊かな 素堂
★重箱に花なき時の野菊哉 其角
★朝見えて痩たる岸の野菊哉 支考
★なつかしきしをにがもとの野菊哉 蕪村
★足元に日のおちかかる野菊かな 一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな 夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香 前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり 原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址 杉田久女
横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子
横浜市港北区の東急日吉駅の近くから下田町の街並みに添って「松の川緑道」がある。慶大グランドを抜けて行く緑道だ。句美子が慶大の学生時代にここで体育の授業を受けた。せせらぎに添う緑道には、水引、犬蓼、溝蕎麦、野菊などが自由に育ち、無理のない空間を作っている。緑道散策の途中、サッカーの練習風景を見るのも楽しい。ときにはグランドの学生が網の塀越しに挨拶ををしてくれる。大学教授退官の身であれば、昔を懐かしく思い出す。野菊も昔懐かしい秋の野草である。可憐だが、逞しい路傍の野草である。(高橋信之)
野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本であるが、栽培種には形の変わったものもある。このような特徴のキク科植物は、非常に多い。ガーベラやヒマワリ、コスモスもそうである。しかしこれらの花が野生で存在しても野菊とは呼ばない。草の形で言えば、ヒマワリは大きすぎる。タンポポやガーベラのような、根出葉がロゼット状にあり、茎には葉がないものもそれらしく見えない。したがって、あまり背が高くならず、茎に葉がついた姿のものに限られる。また、アキノキリンソウのように頭花が小さいものもそれらしく見えない。さらに、菊と言えば秋の花であるから、秋に咲くものをこう呼ぶことが多い。
一般に野菊と呼ばれるのは以下のようなものと思われる。キク属 Dendranthema キクと同属のものは日本に15種ばかりある。舌状花を持たない菊らしくない花もあるが、多くは野菊と言えるものである。株立ちになり、茎は立ち、あるいは斜めに伸び、葉を互生する。葉は丸みのある概形で、大きな鋸歯があったり、やや深く裂けるものが多い。どれも管状花は黄色、舌状花は白のものと黄色のものがある。 代表的なのは山野に生えるものでは白い花のリュウノウギク D. japonicum、黄色い花のシマカンギク D. indicum 、キクタニギク D. boleare 、海岸に生える白い花のノジギク D. occidentali-japonense 、コハマギク D. arcticum subsp. maekawanum などがあるが、特に最初の二つが標準的な野菊らしいものである。この属のものはキクと同属なだけに、菊らしいものが多いが、イソギク D. pacificum など、舌状花のない花をつけるものもある。さらに、種間の雑種も知られるのでややこしい。
◇生活する花たち「藻の花・萩・藪蘭」(鎌倉・宝戒寺)

●小口泰與
かげろうに瀞の魚の夕まずめ★★★
きちこうや山の紫紺と湖の紺★★★
ひぐらしや同胞(はらから)集う大広間★★★
●桑本栄太郎
追い越して秋の野を往く新幹線★★★
秋雷の降るとも見えず曇りけり★★★
秋驟雨わが家の上の空だけに★★★
●多田有花
迷い込みし蝶逃がしやる秋の朝★★★
川に水重々しかり秋黴雨★★★
秋雨の時おり激し夜に入る★★★
●古田敬二
輝けり木曽の棚田に夕日射す★★★
露地奥に揺れるコスモス宿場町★★★
葛の花旧国道の壁に咲く★★★
●高橋秀之
長雨の途切れし空に秋夕焼け★★★
食卓に弁当ふたつ休暇明け★★★★
休暇が明け、今日からは、いつもの秩序で学校や業務が始まる。弁当が二つ、きりりと包
まれて食卓に置かれて、気分もあらたに出発である。(高橋正子)
軒先に雀の鳴き声秋の朝★★★
★草は花を娘の誕生日の空の下 正子
句美子さんのお誕生日は9月3日。おめでとうございます。「花冠」誕生の二日後のことで、信之先生が「女児誕生白萩の白咲ける日に」と詠んでおられます。(多田有花)
○今日の俳句
日々すべきことをなしつつ新涼に/多田有花
作者が、モンブランへ発つ直前の句であるから、その準備のための、「日々すべきこと」であろう。用意周到な計画と準備があって、初めて登頂は成功する。日々成し終えていく内に、季節も新涼へと移り変わっていった感慨がおおきい。(高橋正子)
○秋桜(コスモス)

[秋桜/横浜・四季の森公園]
★コスモスの花に蚊帳乾す田家かな 鬼城
★日曜の空とコスモスと晴れにけり 万太郎
★コスモスの相搏つ影や壁の午後 泊雲
★コスモスや二戸相倚れる柿葺 青畝
★コスモスの花咲きしなひ立もどり 虚子
★コスモスや墓名に彫りし愛の文字 風生
★コスモスを離れし蝶に谿深し 秋櫻子
★コスモスの乱れふし居り月の下 石鼎
★コスモスにみんな薄翅を立てし虫 かな女
★コスモスをうまごに折りて我も愉し 亞浪
★コスモスくらし雲の中ゆく月の暈 久女
★コスモスの月夜月光に消ゆる花も 青邨
★コスモスの花のとびとび葭の中 素十
★コスモスに藍濃き衣を好み著る 鷹女
★コスモスや鐵條網に雨が降る 汀女
★望郷や土塀コスモス咲き乱れ 立子
★満月光地上に高きコスモスに/高橋正子
★裏庭にコスモス咲かす自由さあり/〃
コスモス(英語: Cosmos、学名:Cosmos)は、キク科コスモス属の総称。また、種としてのオオハルシャギク Cosmos bipinnatus を指す場合もある。アキザクラ(秋桜)とも言う。秋に桃色・白・赤などの花を咲かせる。花は本来一重咲きだが、舌状花が丸まったものや、八重咲きなどの品種が作り出されている。本来は短日植物だが、6月から咲く早生品種もある。原産地はメキシコの高原地帯。18世紀末にスペインマドリードの植物園に送られ、コスモスと名づけられた。日本には明治20年頃に渡来したと言われる。秋の季語としても用いられる。日当たりと水はけが良ければ、やせた土地でもよく生育する。景観植物としての利用例が多く、河原や休耕田、スキー場などに植えられたコスモスの花畑が観光資源として活用されている。ただし、河川敷の様な野外へ外来種を植栽するのは在来の自然植生の攪乱であり、一種の自然破壊であるとの批判がある。
オオハルシャギク Cosmos bipinnatus Cav. 一般的なコスモスといえばこれを指す。高さ1 – 2m、茎は太く、葉は細かく切れ込む。 キバナコスモス Cosmos sulphureus Cav. 大正時代に渡来。オオハルシャギクに比べて暑さに強い。花は黄色・オレンジが中心。 チョコレートコスモス Cosmos atrosanguineus (Hook.) Voss 大正時代に渡来。黒紫色の花を付け、チョコレートの香りがする。多年草で、耐寒性がある。花言葉は少女の純真、真心。「コスモス」とはラテン語で星座の世界=秩序をもつ完結した世界体系としての宇宙の事である。
◇生活する花たち「あさざ・露草・うばゆり」(東京白金台・自然教育園)

●小口泰與
見え揃う稲穂の垂れし朝かな★★★
吹き降りに朝顔の蔓乱舞かな★★★
湯の町のとっぷり暮れて酔芙蓉★★★
●古田敬二
鍬の柄に憩えば足元ちちろ鳴く★★★
秋灯に三日まとめて書く日記★★★
茄子胡瓜袋に凸凹畦を踏む★★★★
茄子や胡瓜を収穫して袋に詰め、足元も危うい凸凹の畦道を踏んでもどってくる。いかにも手作りの茄子や胡瓜である。(高橋正子)
●桑本栄太郎
秋雷を屋根に聞ききつつ讃美せり★
小説の筋を追い居る秋夜かな★★★
雨音に目覚め窓閉む夜半の秋★★★
★しろじろと穂芒空にそよぐなり 正子
○今日の俳句
新駅の高架工事や稲の花/桑本栄太郎
新駅は田園の中に建てられ、高架工事が進んでいる。おりしも田んぼには稲の花が咲き、暑さのなかにも秋の気配が漂う。開発が自然を押しやって進んでいるのも現代の景色だ。(高橋正子)
○釣舟草(ツリフネソウ)

[釣舟草/東京白金台・国立自然教育園] [黄釣舟(キツリフネ)/横浜・四季の森公園]
★日おもてに釣船草の帆の静か/上田日差子
★無事祈る小さき岬宮釣舟草 千恵子
★釣舟草琵琶湖の風の吹くままに 善清
★川せせらぐに黄釣舟草の黄がまぶし/高橋信之
★釣船草秋風吹けば走るかに/高橋正子
ツリフネソウ(釣船草、吊舟草、学名: Impatiens textori)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草である。ムラサキツリフネ(紫釣船)とも呼ばれる[3]。
東アジア(日本、朝鮮半島、中国、ロシア東南部)に分布する。日本では北海道・本州・四国・九州の低山から山地にかけて分布し、水辺などのやや湿った薄暗い場所に自生する。キツリフネとともに群生していることも多い。日本には同属では、ハガクレツリフネも生育している。草丈は、40-80 cmほどに生長する。葉は鋸歯(縁がギザギザになる)で、楕円形から広披針形、キツリフネより広披針形に近い傾向がある。花期は夏から秋(山地では 8月頃から、低地では 9-10月)。茎の先端部から細長い花序が伸び、そこに赤紫色で3-4 cmほどの横長の花が釣り下がるように多数咲く。稀に白い色の花がある。花弁状の3個の萼と唇形の3個の花弁をもち、距が長く筒状になっている。下の花弁の2個が大きく、雄しべが5個。その花が帆掛け船を釣り下げたような形をしていることや花器の釣舟に似ていることが名前の由来と考えられている。花の形はキツリフネに似るが、色が赤紫色であることと、花の後ろに伸びる距の先端が渦巻き状に巻くこと本種の特徴である。なお一般にツリフネソウ属の花は葉の下に咲くが、本種はその例外である。大きく深い花がたくさん咲き距の部分に蜜がたまり、主にマルハナバチなど大型のハナバチや、ツリアブ類などが好んで集まり、花粉を媒介する。
種子が熟すと、ホウセンカなどと同様に弾けて飛び散るように拡がる。
キツリフネ(黄釣船、学名: Impatiens noli-tangere)は、ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草である。その黄色い花と、後ろに伸びる距の先が巻かずに垂れることが、ツリフネソウとの明確な相違点である。
◇生活する花たち「女郎花・葛の花・萩」(四季の森公園)

●小口泰與
そばの花出そろう畑や日のやさし★★★★
白粉花や赤城は雲を纏いおり★★★
ふた心持ちて浄土や稲の花★★★
●桑本栄太郎
<京都市内、新京極にて映画>
秋澄むや新京極へ映画見に★★★
異国語の流れ案内秋の京★★★
秋涼の香のかおりや新京極★★★
●多田有花
雨あがり秋蝉静かに鳴き始む★★★
秋の田のところどころに稗つんつん★★★
色変えた葉から散り初む桜かな★★★
●下地鉄
潮騒に暮れいく浜の晩夏かな★★★
振り返れば病もいとし秋の風★★★
夏雲のゆたり過ぎ行く空の色★★★
●祝恵子
二学期が始まる頃よかくれんぼ★★★★
水泳や花火、それにお盆などでそれぞれに過ごした夏休みも終わると、子供は自然と集まって、かくれんぼをして楽しむ。思い出せば、かくれんぼは、秋から冬によくしていた。(高橋正子)
学習田秋の燕のまだ残る★★★
尼寺の庭に見つけて酔芙蓉★★★
●古田敬二
夜もすがら木曽川瀬音秋の宿★★★
窓の外雨降り始む木曽の秋★★★
秋の水澄んで白瀬の薄暮かな★★★
●小西 宏
、トンボ待つ小川の傍の半ズボン★★★★
舐め挙げて櫟の幹の秋西日★★★
ひぐらしの蟋蟀となる夕の風★★★
●高橋秀之
秋暑し神社の階段一歩ずつ★★★
横須賀に入港する艦秋暑し★★★
公園に三笠の船形秋日影★★★
●河野啓一
街道に沿うて九月の箕面山★★★
隣人のはや退院したる九月かな★★★
許されて歩行練習窓の秋★★★
許されて歩行訓練窓は秋★★★
深み行く秋空ひろきベッドかな★★★★
入院生活も長くなられ、猛暑の夏を越して秋になった。ベッドから眺める秋空がひろびろと、色深くなってきて、もの思う作者の心境が察せられる。(高橋正子)
温め酒恋しき頃の近づけり★★★
●黒谷光子
手をすすぐ小川の小石の光る秋★★★
訪う家の垣根に紅濃く秋の薔薇★★★
入相に声を限りの秋の蝉★★★
酢に和えてほのぼの紅差す芋茎かな★★★
ほんのりと膳の酢の物赤芋茎★★★
虫の音の四方八方門閉める★★★★
四方八方から聞こえてくる虫の音を惜しむように門を閉める。門の閉める行為で四方八方の虫の音が際立ってくる。(高橋正子)
秋茄子を採れば確かに実のしまる★★★
半分もあれば充分南瓜切る★★★
送り出て秋の夜風の心地よき★★★
登り行く左右ひろびろ大花野★★★★
山風にいよよ紅濃く吾亦紅★★★
伊吹嶺のすっくと秋の青空に★★★
●古田敬二
木曽の入る開きしばかりの花芒★★★★
木曽は、一足季節が先にきている。開いたばかりの芒の穂がみずみずしい。(高橋正子)
白樺にかすかに紅葉始まれり★★★
コスモスを揺らして通る長野行き★★★
父に母に願い事告げ墓洗う★★★
子や孫の幸を祈りて墓洗う★★★
戦死者の苔むす墓を洗う人★★★
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