9月27日

●小口泰與
菊咲きて誦経の僧の背中(そびら)かな★★★
山霧のまよい起ちけり里の渓★★★
おおかたは流れとともに行く柳★★★

●多田有花
青空へコスモスいっぱい身を揺らす★★★★
「いっぱい」はコスモスがいっぱいでもあるし、身を揺らすのが「大いに」の意味のいっぱいとも解せる。ともかく、たくさんのコスモスが精一杯風に花を揺らせているのだ。その所作がかわいい。(高橋正子)

秋冷の始まる夜のテニスコート★★★
一面の刈田一筋煙たつ★★★

●桑本栄太郎
刻々と雲の変化(へんげ)や野分晴れ★★★
想い出の影のごとくに藤は実に★★★
秋澄みてテニスコートの弾む音★★★

●黒谷光子
山並の分かつは秋の空と湖★★★★
海と空を分かつのが水平線であるのに対し、湖と空を分けているのが、横に伸びる山並。湖の国の秋空が広々として深い。(高橋正子)

秋蝶の湖辺の草に翅たたむ★★★
穏やかな湖見える土手緋のカンナ★★★

●河野啓一
★煮刈りて明るくなりし松手入れ
★天蚕の里に下り来て大きな翅紋★★★
★秋の空白雲包む日の光★★★

9月27日(金)

 イギリス・コッツウォルズ
★秋夕日羊にそれぞれ影生まる  正子
秋の夕日を浴びた羊の影は長く長く伸びまるでガリバーの巨人の世界のようですね。秋の爽やかさがひしひしと感じられますね。(小口泰與)

○今日の俳句
とんぼうととんぼの影の水面かな/小口泰與
とんぼうが水面を飛ぶ。そのとんぼの影も水面にある。澄んだ水面と、とんぼうの翅の透明感がよい。(高橋正子)


[白鳥(コッツウォルズ バイブリー)]     [シェイクスピアの家(ストラトフォード・アポン・エイボン)]

イギリス俳句の旅2011

○バイブリー
 コッツウォルズ地方と言えば、日本ではバイブリーの景色がなじみとなっている。この町は世界一きれいな町として、実際ここに住んだウィリアム・モリスが言っている。彼は町の保存に力を尽くしているが、もとはウールで栄えた町だった。産業が下火になり、家を建て替えたりする資金がなく、昔のままが保存されたということである。家は、近くで多く産出されるライムストーンという砂岩で出来たブロックを積んで造られて、独特の風合いとなっている。小川も大変きれいで、ウールで栄えたころの教会がある。ライムストーンは、湿度や気温などその土地によって、変色がさまざまであるそうだ。花が家を飾り、これが普段の人々の生活そのものであることに驚かされる。教会のとなりに小さな小学校があるが、しずかに授業をしている声が聞こえた。乗用車がひっきりなしに通るのも不思議なほどだ。

 水澄んで白鳥ふうわり流れくる

○ボードン・オン・ザ・ウォーター
 ボードン・オン・ザ・ウォーターは、町を浅い川がながれ、川のほとりは、芝生が植えられベンチが置いてある。川に六本橋がかかっているが、二〇歩ほどで渡れる橋だ。観光にきた老人も多く、町の人に交じってゆっくりお茶を楽しんでいる。ここのティーハウスで、お昼前だったが、クリームティーを句美子と楽しんだりした。クリームティーは、紅茶とスコーンのセットを楽しむお茶のことで、スコーンにジャムとバタークリームが付いて供された。アールグレイを頼むとゆったりとしたティーポットに入れてきてくれた。
 お茶のあと、観光街を外れてあるいていると、「ポッタリー175ヤード」の小さな標識があったので、そのポッタリーをさがして歩いた。ヤードはたぶん、「ひとひろ(両手をのばした長さ)」ではなかったかと、思いつつ歩くと間もなく見つかった。
店に入って驚いた。益子焼とバーナードリーチの作品に非常に似ている。なにかそういう影響を受けたのかと店の女主人に聞くとそうだという。彼女も芸術家で彫刻と絵付をしている。主人が焼いている。ミルクピッチャーを一つかった。益子焼に似ている。彼女によれば、浜田庄司の湯呑をひとつもっているとのことだった。パンフレットにはリーチイーストセンターでご主人が勉強したと書いてあった。近くで産出されるこれもライムストーンを使っているようであった。モリスにしろ、リーチの影響を受けたご主人にしろ、思ってもみなかった縁がここにあることに、驚かざるを得なかった。

 秋夕日羊にそれぞれ影生まる

○ストラトフォード・アポン・エイボン
 シェークスピアの生家を訪ねる前に、妻のアンの生家を訪ねた。趣のある藁ぶき屋根の家で庭には当時植えられていたであろう花がいろいろ植えてあった。屋根には小さな金網を掛けてあり、小鳥が巣づくりで藁を抜いていかないようにするためと聞いた。
 シェークスピアの生家は、街のなかにあり、写真で見るより小さかった。シェークスピアが生まれた両親の部屋なども見たがベッドもずいぶん小さい。大きくなると、背に大きな枕当てて、半身を起して寝たようだ。体を伸ばして寝ると死んだように見えるからとも言っていた。暖炉があり、冬は湿った薪を焚くので、部屋は煙りがもうもうとなり窓を開けて寝たとも。そのために、ナイトキャップが必要とされたそうだ。父親は皮職人だったので、皮手袋をぶら下げて売っていた部屋もあった。今は裏庭に秋のはなが咲き乱れていたが、トサツ場であったようで、牛の骨が見つかっている。ドラマ仕立ての説明があったが、ドラマティックに仕立ててあって、演劇の素地がこの街にあることを十分に感じた。著名演劇人に交じって日本人では黒沢明の写真が1枚あった。
 この街の中学生や高校生をバスが停車しているとき見たが、日本人とわかると、「こんにちは。」と声をかけてくる。日本の普通の中学生と変わらない。明るい雰囲気のする街であった。シェークズピアが眠る教会を訪ねたが、アプローチに12使徒を表す菩提樹が12本両脇に植えてあった。エイボン川の流れが静かであった。

   シェイクスピアの生家
 秋晴るる日射し庭の花々に

◇生活する花たち「藻の花・萩・藪蘭」(鎌倉・宝戒寺)

9月26日

●小口泰與
竜胆や日を率いたる浅間山★★★

山路きて此処のみ日矢の野菊かな★★★★
山路のなかにスポットライトを当てられたように日が差している野菊が慎ましく、可憐である。(高橋正子)

燕去る里の田畑の和みけり★★★

●河野啓一
写経して色即是空天高し★★★

秋深し街道沿いも黄金色★★★
秋高し汗をぬぐいてシャワー浴★★★

●桑本栄太郎
<京の町家散策>
洋館の京の真中に秋うらら★★★
格子戸の路地の青空さるすべり★★★
寺町の式部の墓所の秋日差し★★★

●祝恵子
路一つ隔てて校舎案山子立つ★★★
束をとき枝豆もぎゆく丹波産★★★

寄りし娘に持たす枝豆ゆでたてを★★★★
ゆでたてのほっくりした枝豆に母のさりげない愛情が読み取れる。立ち寄る娘のさりげなさも、自然体で美しい。(高橋正子)

9月26日(木)

★もろこしのつめたさつまり露の冷え  正子
畑の玉蜀黍にそっと手を触れてみる。ひんやりとした肌触り。露を置いていたのだ。晴朗な空と秋の深まりをしみじみと感受することができる。(小西 宏)

○今日の俳句
木静かなる海の遠さや稲光/小西 宏
海ははるかに遠くに静かに横たわる。全く平らかに。ところが、その海をいらだたせるかのように、稲光が走る。平らな海と稲妻が好対照。(高橋正子)

○柚香菊(ゆうがぎく)

[柚香菊/東京小金台・国立自然教育園]

★花開ききったり柚香菊そこに/高橋信之
★花びらの欠けるかに咲き柚香菊/高橋正子
★やや寒し柚香菊の白を帯ぶ/〃
★茎すっと伸びて岐れて柚香菊/〃
★湖の縁にならんで柚香菊/高橋句美子

 ユウガギク(柚香菊、学名:Kalimelis pinnatifida) は、キク科ヨメナ属の多年草で、やや湿性の高い場所に自生し、いわゆる「野菊」の仲間である。草丈50cmほどで、しばしば1mを越える。上部で花茎を分け、花期は6月下旬~11月、茎頂に径3cm前後の白から淡紫色の典型的なキク型の花をつける。葉は、幅3cmほど、長さ8cm前後の卵状長楕円形で、通常、葉縁に鋭く浅い切れ込みか、または羽状の中裂が入る。本州の近畿地方以北に分布し、関東地方以北に分布するカントウヨメナにとてもよく似ている。近年、シロヨメナをヤマシロギクの別名としたり、その逆としたり、シロヨメナとヤマシロギクを混同する記載が結構目立つ。シロヨメナとヤマシロギクはともにノコンギクの亜種だが、別種である。ヤマシロギクは東海地方以西に分布し、シロヨメナの分布は本州~九州・台湾である。シロヨメナはしばしばヤマシロギクとの間に雑種を作るのでこのような混同がおきているのかもしれない。「柚香菊」は、ユズの香りがするとの命名だが、葉を揉んでもユズの香りは確認できていない。

★野菊持ちし女の童に逢ひぬ鈴鹿越/正岡子規
★足元に日のおちかかる野菊かな  一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな/夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香/前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり/原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址/杉田久女
 横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子

 柚香菊は、野菊の仲間である。野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
 野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本である。

◇生活する花たち「ノダケ・シロバナサクラタデ・ユウガギク」(東京白金台・国立自然教育園)

9月25日

●小口泰與
山風に湯気まよい立つあきつかな★★★
ひぐらしや山の湯煙まよい立つ★★★
秋海棠一花とて色あやまたぬ★★★

●河野啓一
天蚕の山野超え来て翅ひろげ★★★★
小鳥来る稔りも近き頃ならむ★★★
アオサギの塑像のごとく何狙う★★★

●桑本栄太郎
<京の路地、町家散策>
坪庭の京の町家よ酔芙蓉★★★
秋日さす路地に張り出し犬矢来★★★
格子戸のつづく家並みや秋日影★★★

●佃 康水
蓮根堀る空の重さよ基地の町★★★★
基地の町は岩国であろう。岩国蓮根はほっくりとしていて有名だ。稲の実りに合わせるように、蓮田では蓮根が太ってくる。うすら寒い鉛色の空の下、軍用機の飛ぶ空の下で蓮根堀の作業がつづく。(高橋正子)

稔田へ夕日とどめて黄金色★★★
破蓮やくの字くの字に折れし尽くし★★★

9月25日(水)

★林檎手に送られ来しが赤ほのと  正子
産地から送られてきた林檎を手に取ってみる。陽光をたっぷり受けて育ったのであろう。ほんのりとした赤みがいかにも好ましく嬉しい。(河野啓一)

○今日の俳句
深み行く秋空ひろきベッドかな/河野啓一
入院生活も長くなられ、猛暑の夏を越して秋になった。ベッドから眺める秋空がひろびろと、色深くなってきて、もの思う作者の心境が察せられる。(高橋正子)

○酔芙蓉

[酔芙蓉/横浜・四季の森公園]           [酔芙蓉/横浜日吉本町]

★震度四芙蓉の酔ひをうながしぬ/水原春郎
★無雑作な土鉢に風の酔芙蓉/皆川盤水
★歌詠みの留守を預けし酔芙蓉/品川鈴子
★漲るは朝の大気の酔芙蓉/稲畑汀子
★酔芙蓉向かうをむいてをりにけり/高橋将夫
★日の暮れの日のあるうちの酔芙蓉/鷹羽狩行
★枝ぶりの日ごとに替る芙蓉かな 芭蕉
★日輪病めり芙蓉の瓣の翳ふかく 亞浪

 松山の郊外に一時住んでいたときは、玄関に芙蓉があり、花に隠れて水道があった。そこでは、盥で洗濯をしたが、花の傍で水をいっぱい使って洗濯をすると、気分もさわやかだった。

★深まれる秋の真中の酔芙蓉/高橋正子

 フヨウ(芙蓉、Hibiscus mutabilis)はアオイ科フヨウ属の落葉低木。種小名 mutabilisは「変化しやすい」(英語のmutable)の意。「芙蓉」はハスの美称でもあることから、とくに区別する際には「木芙蓉」(もくふよう)とも呼ばれる。原産地は中国で、台湾、日本の沖縄、九州・四国に自生する。日本では関東地方以南で観賞用に栽培される。
 同属のムクゲと同時期に良く似た花をつけるが、直線的な枝を上方に伸ばすムクゲの樹形に対し、本種は多く枝分かれして横にこんもりと広がること、葉がムクゲより大きいこと、めしべの先端が曲がっていること、で容易に区別できる。
 スイフヨウ(酔芙蓉、Hibiscus mutabilis cv. Versicolor) 朝咲き始めた花弁は白いが、時間がたつにつれてピンクに変色する八重咲きの変種であり、色が変わるさまを酔って赤くなることに例えたもの。なお、「水芙蓉」はハスのことである。混同しないように注意のこと。 アメリカフヨウ(草芙蓉(くさふよう)、Hibiscus moscheutos、英: rose mallow) 米国アラバマ州の原産で、7~9月頃に直径20cmにもなる大きな花をつける。草丈は1mくらいになる。葉は裂け目の少ない卵形で花弁は浅い皿状に広がって互いに重なるため円形に見える。この種は多数の種の交配種からなる園芸品種で、いろいろな形態が栽培される。なかには花弁の重なりが少なくフヨウやタチアオイと似た形状の花をつけるものもある。

生活する花たち「白むくげ・萩・藤袴」(東京・向島百花園)

9月24日

●小口泰與
秋寒や今朝の赤城のあさぎ色★★★
おしろいや暮るる早さの赤城山★★★
黒雲に乗りて吹き降り稲妻よ★★★

●河野啓一
透明で静かな秋の朝が来る★★★★
隣人と交わすおはよう声澄みて★★★
うすもみじの頃近くなりけり箕面山★★★

●祝恵子
花花の中に目立ちて実紫★★★
切り口は段々上へオクラ切る★★★
秋夕焼け釣りする子らの影の濃く★★★

●桑本栄太郎
溜めて来し地熱噴くかに彼岸花★★★

畦刈られ彼岸花のみひと群れに★★★★
畦がきれいさっぱりと刈られた後、彼岸花が固まって咲いている光景は日本の秋という感じだ。蕊を張る赤い花と清潔な畦が好対照。(高橋正子)

キラキラとテープきらめき稲田風★★★

●小西 宏
断崖に黄葉明るき山桜★★★
椎の実の硬きを噛めば土器太し★★★
澄む秋に葉と実を掲げ花水木★★★★

●下地鉄
秋雲のまとめて動く島の空★★★★
「まとめて動く」に島だからこそ感じられる雲の動きが読め、その感じ方、見方に驚いた。秋の島の空がぐっと身近になった。(高橋正子)

蜻蛉の静止のままの飛翔かな★★★
雨雲の去り行く後の今日の月★★★

9月24日(火)

★霧に育ち大根くゆりと葉を反らす  正子
黒い畝に霧が流れ込んでくる。大根の首が間もなく土を割って顔を見せる。大地と陽の光の恵みで、ゆさゆさ揺れるほどの葉にそだち、大根が葉をそらす。土の黒色、霧の白色、大根の葉の緑色のコントラストが印象的である。(古田敬二)

○今日の俳句
 書道展
秋の字が黒々生まれる太い筆/古田敬二
墨痕の鮮やかさが一番引き立つのは季節でいえば、秋ではなかろうか。太筆で黒々と書かれた字が力を得ている。(高橋正子)

○杜鵑草(ほととぎす)

[杜鵑草/横浜日吉本町]           [ヤマホトトギス/東京白金台・国立自然教育園]

★杜鵑草暮れ母の忌の仏間暮る/林 翔
★時鳥草顔冷ゆるまで跼(セグク)みもし/岸田稚魚
★紫の斑の賑はしや杜鵑草/轡田 進
★杜鵑草壺中にくらき水湛う/養学登志子

「杜鵑」は鳥のほととぎす。「杜鵑草」と書けば、植物のほととぎすである。我が家の庭の下草に植えていた。なかなか丈夫で秋になると赤紫の班がある花をつける。暗いようでもあり、にぎやかなようでもある。玄関に花がない日には、この花を一茎摘んで籠に挿した。それだけで結構様になる。庭や近くの野辺の一輪の花が空間にうるおいを与えてくれた。杜鵑草もそんな花のひとつである。

★活けたれば花が飛びたる杜鵑草/高橋正子

 ホトトギス属(杜鵑草属、学名 Tricyrtis)は、ユリ科植物の属の多年生草本植物である。山野の林下や林縁、崖や傾斜地などの、日当たりの弱いところに自生する。葉は互生し、楕円形で長く、葉脈は縦方向で、表面には毛が生える。花期は初夏から秋にかけてで、雌雄同花で上向きに咲き、花弁が 6枚で直径数cm程度のもので 2〜4日程度咲くことが多い。東アジア(日本、台湾、朝鮮半島)に分布し、19種が確認されている。そのうち日本では 13種(変種を除く)が確認されており、うち 10種は日本固有種である。 日本列島を中心に分布していることから、日本が原産であると推定されている。
 ホトトギス Tricyrtis hirta (Thunb.) Hook 代表種。草丈は 1m になり、花は葉腋に 1〜3個ずつ付き、4日間咲く。花期は秋。関東・新潟県以西に分布する。 ヤマホトトギス Tricyrtis macropoda Miq. 関東以西の太平洋側および長野県に分布し、草丈は 1m ほどになる。花は 2日間で、茎の先に花序を伸ばし、晩夏に咲く。花びらの折れたところに斑紋が入らず、花びらが反り返るところで判別できる。

ムベ(郁子、野木瓜、学名:Stauntonia hexaphylla)は、アケビ科ムベ属の常緑つる性木本植物。別名、トキワアケビ(常葉通草)。方言名はグベ(長崎県諫早地方)、フユビ(島根県隠岐郡)、イノチナガ、コッコなど。
日本の本州関東以西、台湾、中国に生える。柄のある3~7枚の小葉からなる掌状複葉。小葉の葉身は厚い革質で、深緑で艶があり、裏側はやや色が薄い。裏面には、特徴的な網状の葉脈を見ることが出来る。
花期は5月。花には雌雄があり、芳香を発し、花冠は薄い黄色で細長く、剥いたバナナの皮のようでアケビの花とは趣が異なる。
10月に5~7cmの果実が赤紫に熟す。この果実は同じ科のアケビに似ているが、果皮はアケビに比べると薄く柔らかく、心皮の縫合線に沿って裂けることはない。果皮の内側には、乳白色の非常に固い層がある。その内側に、胎座に由来する半透明の果肉をまとった小さな黒い種子が多数あり、その間には甘い果汁が満たされている。果肉も甘いが種にしっかり着いており、種子をより分けて食べるのは難しい。自然状態ではニホンザルが好んで食べ、種子散布に寄与しているようである。
主に盆栽や日陰棚にしたてる。食用となる。日本では伝統的に果樹として重んじられ、宮中に献上する習慣もあった。 しかしアケビ等に比較して果実が小さく、果肉も甘いが食べにくいので、商業的価値はほとんどない。
茎や根は野木瓜(やもっか)という生薬で利尿剤となる。

◇生活する花たち「露草・なんばんぎせる・玉珊瑚(たまさんご)」(東京白金台・自然教育園)

9月23日(月)

 四国88ヶ所45番札所 岩屋寺
★月明の寺に湯浴みの湯をたまわり  正子
月明かりの中での湯浴みは、心身の疲れをゆっくりとほぐしてくれることでしょう。ちなみに今日は満月で、二階の窓から見る月は美しく輝いています。(井上治代)

○今日の俳句
廃屋の増えゆく里や白木槿/井上治代
廃屋が増えていく村里と白槿の寂しさとがよく呼応しています。(高橋正子)

○オクラ(秋葵)

[オクラの花と実/横浜日吉本町]      [黄蜀葵(トロロアオイ)/ネット(野平美紗子)より]

★口楽しオクラの種を噛むことも/中村文平
★薄刃もて刻むオクラの糸を引く/松下裕子
★陽を浴びるオクラの花を訪ひにけり/山元重男
★一晩の時間オクラのふとりかな/松田秀一
★黄蜀葵花雪崩れ咲き亡びし村/加藤楸邨
★市原野とろろあふひの花咲かす/加藤三七子
★空を謳歌するごと黄蜀葵/野平美紗子
★オクラの花と実と出会う小さな旅よ/高橋信之
★秋葵川は南へ流れ去る/高橋信之
★秋葵花は黄色を澄ましきる/高橋正子

 オクラの実は最近こそ食べるが、それまでは食べたことがない。軽く茹でて刻み、鰹節にだし醤油をかけて食べたり、天ぷらにする程度だ。ごく最近は、山芋とオクラの薄く切ったものを合わせて、だし醤油で味を付けて食べる。山芋もオクラも食べたい人向き。比較的評判はよい。さてオクラの花だが、綿の花に似ている。綿は小学生ごろまで我が家で栽培していた。夏休みに綿の実が弾ける。それを摘み集める。その後はどうなったがよく知らないが、綿の花と弾けた実の記憶はある。息子や娘たちに綿を育てて見せたことがあった。オクラの花よりも綿の花のほうが印象強く残っている。
「綿の花」で思い出したが、あの9.11の事件が起きる直前、「詩によるダイアローグ」という国連主導の仕事をしたとき、その仕事のあと、その時の仲間が、私のネット句集をアメリカで出してくれることになった。「綿の花」と題をつけてメールで送っていたが、その編集中に、9・11事件が起き、その話は立切れになった。アメリカがそれどころではなくなったのだろう。オクラや綿の花を見ると、全く関係ないような個人の私も、9.11事件の影響を思うのである。

 ★露消えしばかりの時間秋葵/高橋正子

 オクラ(秋葵、Okra、学名:Abelmoschus esculentus)は、アオイ科トロロアオイ属の植物、または食用とするその果実。和名をアメリカネリと言い、ほかに陸蓮根(おかれんこん)の異名もある。英名okraの語源はガーナで話されるトウィ語 (Twi) のnkramaから。沖縄県や鹿児島県、伊豆諸島など、この野菜が全国的に普及する昭和50年代以前から食べられていた地域では「ネリ」という日本語で呼ばれていた。今日では当該地域以外では「オクラ」という英語名称以外では通じないことが多い。
 以前はフヨウ属(Hibiscus)に分類されていたが、現在ではトロロアオイ属に分類されている。短期間で50cm-2mほどに生長し、15-30cmの大きさの掌状の葉をつけ、黄色に中央が赤色のトロロアオイに非常に似た花をつける。開花は夜から早朝にかけてで、昼にはしぼんでしまう。開花後、長さ5-30cmの先の尖った形の五稜の果実をつけ、表面に短毛が生えており、熟すと木質化する。原産地はアフリカ北東部(エチオピアが有力)で、熱帯から温帯で栽培されている。エジプトでは、紀元前元年頃にはすでに栽培されていた。アメリカ州では、主に西アフリカから移住させられた奴隷によって栽培が始まり、現在でもアメリカ合衆国南部、西インド諸島、ブラジル北部など、アフリカ系住民の多い地域でよく栽培されている。日本に入って来たのは明治初期である。熱帯では多年草であるが、オクラは少しの霜で枯れてしまうほどに寒さに弱いために、日本では一年草となっている。
 オクラは、刻んだ時にぬめぬめした粘り気が出るが、この粘り気の正体は、ペクチン、アラピン、ガラクタンという食物繊維で、コレステロールを減らす効果をもっている。日本では、生あるいはさっと茹でて小口切りにし、醤油、鰹節、味噌などをつけて食べることが多い。他にも、煮物、天ぷら、炒めもの、酢のもの、和えもの、スープ、すりおろすことによってとろろの代用にするなどの利用法がある。加工食品として、ソースやケチャップの原材料としても用いられる。種子は煎じてコーヒーの代用品として飲まれた歴史がある。
 トロロアオイ(黄蜀葵、学名:Abelmoschu manihot )は、アオイ科トロロアオイ属の植物。オクラに似た花を咲かせることから花オクラとも呼ばれる。原産地は中国。この植物から採取される粘液はネリと呼ばれ、和紙作りのほか、蒲鉾や蕎麦のつなぎ、漢方薬の成形などに利用される。花の色は淡黄からやや白に近く、濃紫色の模様を花びらの中心につける。花は綿の花に似た形状をしており、花弁は5つで、朝に咲いて夕方にしぼみ、夜になると地面に落ちる。花びらは横の方向を向いて咲くため、側近盞花(そっきんさんか)とも呼ばれる。

◇生活する花たち「犬蓼・吾亦紅・チカラシバ」(横浜下田町・松の川緑道)

9月23日

●河野啓一
芒生うる野に野兎の見え隠れ★★★

秋水をたどれば古き水車小屋★★★★
秋水の流れをたどってゆくと、そこに出現したのは古い水車小屋。そういった古い水車小屋が残されているところは、流れもきよらかだと思える。(高橋正子)

柿の実の赤く色づく丘の道★★★

●小口泰與
笠雲をいただく赤城芙蓉咲く★★★
秋せみや上えうええと木を昇り★★★
竹春や嶺々したがえて榛名富士★★★

●桑本栄太郎
雲水の電車降り来る秋彼岸★★★★
電車から雲水が降りてきた。普段ならそういうことがあっても、特に意には止めないだろうが、秋彼岸となれば、電車から降りた雲水に何かしら視線を注いでみるのだ。(高橋正子)

道の辺の供花のごときや曼珠沙華★★★
黒瓦屋根を稲田に家一軒★★★

●多田有花
秋の陽が穏やかに差し彼岸入り★★★

稲穂垂る中を駅まで朝の道★★★★
「朝の道」がすがすがしい。稲穂の垂れる道が駅まで続く。駅までの道に田んぼがあるのがうれしい。秋祭りも近い。(高橋正子)

稲穂の光東播磨の野に満ちて★★★

●小川和子
秋水に朽葉流るる音沿いぬ★★★
芝に飛ぶ赤とんぼうに陽の眩し★★★
踏み歩く遊びごころに木の実降る★★★

●高橋秀之
右に空地左に揺れる稲穂の田★★★★
友がもぎ友が箱詰め梨届く★★★
一周忌皆の笑い声は高き空へ★★★