10月19日
●迫田和代
お終いの皿の上なる青葡萄★★★
摘菜に上から水をザーザーと★★★
コスモスやコスモスらしく風を受け★★★★
コスモスは、いかにもコスモスらしく風を受けている。コスモスを吹く風はコスモスをコスモスらしくさせているのだ。言われて、然りだが、和代さんの真骨頂の句だと思う。(高橋正子)
●小口泰與
振り向くと利鎌の月に退さりけり★★★
夕映えや秋のちょうちょう急ぎゆく★★★
上州の風の無き日の種なすび★★★★
●多田有花
鉢植えの菊を運びし軽トラック★★★
雨あがり新高梨を買い求む★★★
十月桜雨の滴を宿し咲く★★★★
消え入りそうに咲く十月桜が、雨の滴を宿している。「滴を宿す」というが、十月桜は、滴に花が包まれている感じさえする。そんな美しさがある。(高橋正子)
●桑本栄太郎
山崎の隘路にコスモス畑かな★★★
大阪駅ビルの谷間の秋日影★★★
実ざくろの赤や芦屋の家々に★★★★
●祝恵子
腰落とせアナウンスの声運動会★★★
秋苗を植えれば学童帰りゆく★★★
しりとりをしつつ帰る子秋の暮★★★★
女の子たちであろうか。秋の暮をきりもないしりとり遊びをしながら帰る子どもたちが、かわいらしく、ほほえましい。作者の子らへの眼差しがやさしい。(高橋正子)
10月18日
●小西 宏
台風の遥かに去りし波の音★★★
海暮れて紅灯す芒の穂★★★
月昇る遥かに海を広げつつ★★★★
「海を広げつつ」に、新鮮な驚きがあり、臨場感がでた。月が昇るにしたがって、遥かの海を照らしていく。海の波がはっきり見てくる。少し寂しい月の夜である。(高橋正子)
●小口泰與
実むらさき清濁流す大河かな★★★
草紅葉志賀高原の空青し★★★★
志賀高原も草紅葉に彩られるようになった。澄んだ青空と草紅葉の対比にやさしさがある。(高橋正子)
やわやわと花そばゆるる山の裾★★★
●佃 康水
渋皮煮子らへ届けむ栗を剥く★★★★
栗の渋皮煮は手間暇がかかる。渋皮を破らないよう丹念に鬼皮をむき、剥いた栗を重曹で渋抜きをし、さらに砂糖を入れてことこと煮、それを一晩、二晩おいて味を含ませる。子らへの思いが、ひとつひとつの栗に、また作業に込められている。(高橋正子)
傷付けず栗剥き終えて渋皮煮★★★
明けやらぬ琵琶湖へ細き秋時雨★★★
●多田有花
部屋の戸をみな閉め切って秋深し★★★
ホットケーキに蜂蜜とろり秋の暮★★★
後の月テニスコートで見上げおり★★★
●下地鉄
秋風にゆられて返す穂波かな★★★
きりもなくよせる波音浜の秋★★★
その人から名の消え行く老いの秋★★★
●桑本栄太郎
浮かれ来るごとき青空野分晴れ★★★
朝日透き線路に沿いて芒の穂★★★
秋空へ赤きクレーンや高槻駅★★★
10月17日
●小口泰與
望郷や蜂の子飯の甘辛き★★★
近道や刈田の香りくゆり満つ★★★
空澄むや木槌の音の伸びやかに★★★★
建築中の家があるのだろう。木槌を打つ音が澄んだ空から響いてくる。木槌の伸びやかな音に昭和への郷愁が湧く。(高橋正子)
●桑本栄太郎
ぷちぷちと歩み躊躇い木の実踏む★★★
歩みつつ木の実を拾う家路かな★★★
鈴懸けの実の青空へ野分過ぐ★★★★
鈴懸と野分のとりあわせに意外性があるが、それは今年の季節の意外性といってよい。今年は十月になっても大型台風が来た。野分が過ぎた後、鈴懸の葉が落とされ、実が明らかになる。青空の中の鈴懸のかわいらしい実が印象的だ。(高橋正子)
●川名ますみ
風一陣過ぎ富士山に秋のいろ★★★★
一陣の風が過ぎ去り、富士山は拭われたように一気に秋のいろとなった。「風一陣」は印象が強く、又三郎か、風神いるかが起こした風のようだ。(高橋正子)
野分中ときに閑かな音の来ぬ★★★
さあ富士を見せむと雲の野分晴★★★
10月16日
●小口泰與
昨晩の雨を鋤き込む秋の畑★★★
ざわざわと稲穂波だつ今朝の空★★★
初雁の火山灰の帯より往ぬるかな★★★
●黒谷光子
牛若を演ず少年さわやかに★★★★
牛若丸を題材にした能はいくつかあるようだが、この句は「鞍馬天狗」を鑑賞したときのことであろうか。美少年牛若のさわやかさが心に残る能である。(高橋正子)
篝火に天狗なお燃え秋の能★★★
能果てし神社を後に秋の雨★★★
●下地鉄
外にも出よ今日の秋日の美空かな★★★
荒芝に寄りあい老いの秋日かな★★★
秋風にカラカラ音する空弁当★★★★
「空弁当」にはっとした。空の弁当箱は、箸や仕切り板などがあって、提げればカラカラ音がする。秋風に吹かれて鳴るようでもある。秋風と空弁当、そして自分が、一つに、同じになったような心持が感じられて面白い。(高橋正子)
●桑本栄太郎
ぷちぷちと足裏優しく木の実踏む★★★
青空に風の名残りや辛夷の実★★★
<故郷の追憶より>
狛犬や鎮守の杜の椎拾ふ★★★★
●多田有花
雨あがり山野晩秋の色に★★★
台風の名残の雲が奥山に★★★
試みに新しき絵を描く秋★★★★
秋に「新しさ」を見た。仕切り直したり、また新たに始める。秋はそういった新しさに挑む季節のようだ。
★起きぬけの目にりんりんと曼珠沙華 正子
自然豊かな山里への旅の朝、真っ赤に大きな蘂を張り、活き活きと咲き誇る曼珠沙華が起き抜けの目に飛び込んで来ました。一瞬心も引き締まる程に燃え立っています。曼珠沙華の咲く朝のりんりんとした山里の風景が想われます。 (佃 康水)
○今日の俳句
稲刈機噴き出す藁の薄みどり/佃 康水
稲刈機が稲を刈り進む。まだ薄緑の稲藁を吹き出しながら刈り進むのだ。まだ命の通った薄黄みどりの稲藁は、それ自体が魅力だ。(高橋正子)
○秋の野芥子(アキノノゲシ)

[秋の野芥子/横浜日吉本町]
★丘に来て秋の野芥子は背高よ/高橋正子
アキノノゲシ(秋の野芥子、秋の野罌粟、学名: Lactuca indica)は、キク科アキノノゲシ属の一年草または二年草。和名は、春に咲くノゲシに似て、秋に咲くことから付けられた。高さ50~200cm。大柄だが柔らかく、全体につやがない。はじめは根出葉をロゼット状に出すが、やがて茎をたて、花序を出す。花期は8~12月。花は淡い黄色、直径2cmほどで舌状花だけでできている。種子はタンポポの綿毛を小さくしたような形をしている。東南アジア原産で、日本全土・朝鮮・中国・台湾・東南アジアに分布。稲作と共に日本へ渡って来た史前帰化植物。日当りの良い場所に生える。アキノノゲシには葉に切れ込みがあるが、切れ込みのない細い葉を持つものは、ホソバアキノノゲシ(学名: Lactuca indica f. indivisa)という。飼育するウサギの餌によく使われる。
◇生活する花たち「黄釣舟草・曼珠沙華・白曼珠沙華」(横浜・四季の森公園)

イギリス・コッツワルズ
★水澄んで白鳥軽く流れくる 正子
まるで絵本の世界のような村が点在し、古きよき建物や美しい田園風景のイギリスのコッツワルズとお聞きしています。澄みわたる秋の大気の中、水の流れにのる白鳥に、いっそうの清涼感と美しい景観を感じ、作者の軽やかな旅ごごろがうかがえます。(藤田洋子)
○今日の俳句
真珠筏浸し秋の海澄めり/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。(高橋正子)
○孔雀草(くじゃくそう)

[孔雀草/横浜日吉本町]
★開ききり咲き重なって孔雀草/高橋正子
きのうの朝は、日吉本町2丁目あたりを散歩した。2丁目は、3丁目が洋風な花が多いのに比べ、古風な花が多い。野牡丹や葉鶏頭をきれいに咲かせている。その2丁目にはコーポの団地があって、ここも花好きな住人がいるのか、紅蜀葵やゼラニュウムなどの昔ながらの花と、今風な、センスのいい花壇を作っている。一番後ろに紫系のハープの花、その前に薄紫と白の孔雀草、その前に千日紅の牡丹色と白が植えられて、同系色の色彩でまとめた花壇であった。秋らしくていいと思った。庭の花も年期である。
孔雀草(くじゃくそう、学名:Aster hybridus 英名:Frost aster)は、キク科シオン属の多年草。Aster : シオン属、hybridus : 雑種の、Aster(アスター)は、ギリシャ語の「aster(星)」から。花のつき方のようすに由来。北アメリカ原産で、わが国には昭和30年代に導入された。花壇や切り花によく用いられている。よく分枝して株立ちし、高さは40~120センチになる。葉は披針形から倒披針形で互生し、7月から9月ごろ、白色から淡紫色の花をいっぱい咲かす。別名で孔雀アスター、キダチコンギク(木立紺菊とも呼ばれます。9月5日、11月23日の誕生花(孔雀草)。花言葉は 「いつも愉快、ひとめぼれ」。似ている花は、都忘れ、紫苑、紺菊、関東嫁菜。
◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)

★色ようやく見えてくれない菊蕾
○今日の俳句
★吾が窓に雲一片もなき秋天/川名ますみ
「吾が窓」にきょうは、一片の雲もない秋天が見える。読み手は、秋天の青を限りなく想像し、楽しむことができる。(高橋正子)
○零余子(むかご)

[零余子/横浜日吉本町] [零余子/ネットより]
★きくの露落て拾へばぬかごかな 芭蕉
★うれしさの箕にあまりたるむかご哉 蕪村
★汁鍋にゆさぶり落すぬか子哉 一茶
★ほろほろとぬかごこぼるる垣根哉 子規
★手一合零余子貰ふや秋の風 龍之介
★黄葉して隠れ現る零余子哉 虚子
★むかごこぼれて鶏肥えぬ草の宿 鬼城
★蔵かべに這ひ上りたるぬかごかな 石鼎
★音のして夜風のこぼす零余子かな 蛇笏
★露膨れむすびこぼるる零余子かな 青畝
★ぬかご拾ふ子よ父の事知る知らず かな女
★一本の矢竹にからむ零余子かな 青邨
★蔓曳けばたばしり落つるぬかごかな 淡路女
★むかごもぐまれの閑居を訪はれまじ 久女
★四阿にとりためしあり零余子かな 素十
子どもの目につくところにむかごはあったが、採ってもいくらほどにもならない。それを料理して食べさせてもらった記憶もない。高度成長期、食事どころで、田舎風の食事を出す店がはやり、むかご飯などが供された。花冠でも四国札所の山寺の岩屋寺で合宿を行ったとき、村の小さな売店でむかごを只同然のように売っていたので、首都圏から参加した同人は大喜びで土産にかった。そのとき私も買ってむかご飯にしたのだ。おいしいというほどでもないが、秋の味覚として一度は味わいたいご飯であろう。
おとといも、日吉本町の農家の植木にからまっているむかごを見つけた。よく太って丸まるしている。今夜ご飯を炊くとき上にぱらぱら載せて炊くよていである。大洲の芋炊きセットを送っていただいたので、それとあわせて。今夜は秋の味を楽しむこと。
★むかご採る三人家族の足るほどに/高橋信之
★むかご飯朴訥なるは淋しさか/高橋正子
むかご(零余子)とは植物の栄養繁殖器官のひとつ。主として地上部に生じるものをいい、葉腋や花序に形成され、離脱後に新たな植物体となる。葉が肉質となることにより形成される鱗芽と、茎が肥大化して形成された肉芽とに分けられ、前者はオニユリなど、後者はヤマノイモ科などに見られる。両者の働きは似ているが、形態的には大きく異なり、前者は小さな球根のような形、後者は芋の形になる。いずれにせよ根茎の形になる。ヤマノイモなどで栽培に利用される。
食材として単に「むかご」と呼ぶ場合、一般にはヤマノイモ・ナガイモなど山芋類のむかごを指す。灰色で球形から楕円形、表面に少数の突起があり、葉腋につく。塩ゆでする、煎る、コメと一緒に炊き込むなどの調理法がある。また零余子飯(むかごめし)は晩秋・生活の季語である。むかごをつくる植物に、ヤマノイモ、ナガイモ、オニユリ、ノビル、ムカゴイラクサ、シュウカイドウ、ムカゴトラノオ、ムカゴネコノメ、ムカゴユキノシタなどがある。
◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

●小口泰與
百千の鵙や電線我が物に★★★
秋深き赤城の襞の迫りくる★★★
山風に南へ藁塚の倒れけり★★★★
風によって南へ倒れるということは、もう、北風が吹き始めたのだろうか。刈田に立つ藁塚の倒れた様におかしみもあるが、寂しさもある。(高橋正子)
●河野啓一
あぜ道をたどれば秋日鳥の声★★★
森の辺の雑木色づく秋夕日★★★
さざめいていろは楓は渓のなか★★★
●桑本栄太郎
コスモスの宙の背丈よ青空に★★★★
青空の遠き木の枝や朝の鵙★★★
校庭の駐輪数多や体育の日★★★
●多田有花
澄む秋を映して青し音水湖★★★★
「音水湖(おんずいこ)」というのを初めて知ったが、西播磨の揖保川支流にできた人工湖とのこと。春は桜、秋は紅葉が楽しめるようだ。水はひたすらに青く、まさに「澄む秋」をそのまま映した湖だ。すっきりとした句だ。(高橋正子)
山里の青空に映え柿の色★★★
ひやひやと秋の雨降る午後となる★★★
●小西 宏
源流を滑らかに聞き赤のまま★★★
雨のごと木の実音する日暮れ道★★★
家閉じて台風を待つオンザロック★★★
★手の中の木の実の熱き山の暮れ 正子
山を散策していてふといくつかの木の実を手にした。木の実は熟し切って、夕日に照らされて耀いている。愉しく季節感にあふれた御句と思います。(河野啓一)
○今日の俳句
苅田広き明日香村なる棚田かな/河野啓一
奈良、明日香村も稲刈りがほとんど済んで刈田が広がっている。棚田のある村に古代より繋いできた人々のゆかしい暮らしが見える。(高橋正子)
○烏瓜

[烏瓜の実/横浜日吉本町] [烏瓜の花/ネットより]
★蔓切れてはね上りたる烏瓜/高浜虚子
烏瓜の朱色の実を見つけると、手繰り寄せて採りたくなる。蔓は雑木などに絡まっているので、蔓をひっぱっても、易々と手元には来ない。蔓が切れて、引っ張った力の反動で「はね上がる」。「はね上がる」が面白い。はね上がった実が揺れ、悔しがるものが居る。(高橋正子)
★烏瓜映る水あり藪の中/松本たかし
★をどりつつたぐられて来る烏瓜/下村梅子
烏瓜は、普段の生活での利用法を聞いたことがないが、形や色が面白いので、飾ったりする。夏には烏瓜のレースのような花を見よう懐中電燈を用意して出掛けたがあいにく咲いていなかった。信之先生は、その前に凋んだ花を写真に撮ってはいたが。その花もさることながら、楕円形の朱色の実も面白い。熟れても青い実の時の縞がうっすら残っている。猪の子を「瓜坊」というが、この烏瓜から来たのかも知れないと思うほどである。木などに蔓が絡まって、危なげなところにあったり、また川向うにあったりして、見つけても、やすやすとは手に入らない。運が良ければ、すぐ採れるが。しかし、インテリアにもされるが、俳人ごのみの植物であろう。
★川水はきらきら烏瓜が熟れ/高橋正子
★一日の楽しみに置く烏瓜/高橋正子
カラスウリ(烏瓜、Trichosanthes cucumeroides)はウリ科の植物で、つる性の多年草。朱色の果実と、夜間だけ開く花で知られる。 地下には塊根を有する。原産地は中国・日本で、日本では本州・四国・九州に自生する。林や藪の草木にからみついて成長する。葉はハート型で表面は短い毛で覆われる。雌雄異株で、ひとつの株には雄花か雌花かのいずれかのみがつく。別名:玉章(たまずさ)・ツチウリ・キツネノマクラ・ヤマウリ。
4月~6月にかけて塊根から発芽、あるいは実生する。花期は夏で、7月~9月にかけての日没後から開花する。雄花の花芽は一ヶ所から複数つき、数日間連続して開花する。対して雌花の花芽は、おおむね単独でつくが、固体によっては複数つく場合もある。花弁は白色で主に5弁(4弁、6弁もある)で、やや後部に反り返り、縁部が無数の白く細いひも状になって伸び、直径7~10cm程度の網あるいはレース状に広がる。花は翌朝、日の出前には萎む。 こうした目立つ花になった理由は、受粉のため夜行性のガを引き寄せるためであると考えられており、ポリネーターは大型のスズメガである。カラスウリの花筒は非常に長く、スズメガ級の長い口吻を持ったガでなければ花の奥の蜜には到達することはできず、結果として送粉できないためである。雌花の咲く雌株にのみ果実をつける。
果実は直径5~7cmの卵型形状で、形状は楕円形や丸いものなど様々。熟する前は縦の線が通った緑色をしており光沢がある。10月から11月末に熟し、オレンジ色ないし朱色になり、冬に枯れたつるにぶらさがった姿がポツンと目立つ。鮮やかな色の薄い果皮を破ると、内部には胎座由来の黄色の果肉にくるまれた、カマキリの頭部に似た特異な形状をした黒褐色の種子がある。この果肉はヒトの舌には舐めると一瞬甘みを感じるものの非常に苦く、人間の食用には適さない。鳥がこの果肉を摂食し、同時に種子を飲み込んで運ぶ場合もある。しかし名前と異なり、特にカラスの好物という観察例はほとんどない。地下にはデンプンやタンパク質をふんだんに含んだ芋状の塊根が発達しており、これで越冬する。夏の間に延びた地上の蔓は、秋になると地面に向かって延び、先端が地表に触れるとそこから根を出し、ここにも新しい塊根を形成して栄養繁殖を行う。
種子はその形から打ち出の小槌にも喩えられる。そのため財布に入れて携帯すると富みに通じる縁起物として扱われることもある。かつては、しもやけの薬として実から取れるエキスが使用された。 若い実は漬物にするほか、中身を取り出し穴をあけてランタンにする遊びに使われる。近年ではインテリアなどの用途として栽培もされており、一部ではカラスウリの雌雄両株を出荷する農園も存在する。
◇生活する花たち「十月桜・金木犀・茶の花と実」(横浜・東慶寺)

★甘藷よく実入り刃物に当たる音 正子
サツマイモの時期です。ちょうど今鬼まんじゅうを作っているところです。昨日収穫したイモと先日朝市で買ったイモではほうちょうの刃の入り方が違います。新鮮なイモは素直に刃を受けて切れますが古くなると水分が抜けて切る面がデコボコになります。よく実入りした甘藷はサクサクといい音をして切れてゆきます。さてどんなごちそうになるのでしょう。そんなことを想像させる句です。 (古田敬二)
○今日の俳句
ひそと鳴る秋播き種はポケットに/古田敬二
秋播きの種をポケットに入れて、これから畑に出かけるのか。「ひそと鳴る」には、種の小ささもあるが、その音を一人聴きとめた作者の種への愛おしみがある。軽やかながら味わいがある句。(高橋正子)
○力芝(チカラシバ)
[力芝/横浜・横浜市港北区松の川緑道] [力芝/横浜・四季の森公園]
★力芝ひかりまみれの昼下がり/高橋正子
★畦道の力づよさに力芝/高橋正子
★理科教師力芝をまず教え/高橋正子
チカラシバ(力芝、学名:Pennisetum alopecuroides)は、単子葉植物イネ科チカラシバ属の多年草。道端によく見かける雑草のひとつで、ブラシのような穂が特徴的である。地下茎はごく短く、大きな株を作る、根元から多数の葉を出す。葉は細長く、根元から立ち上がる。葉はやや丸まる。花茎は夏以降に出て、真っすぐに立つ。花軸は枝分かれせず、先端近くの軸に多数の針状の毛に包まれた小穂がつく。小穂は最初は軸から斜め上に向けて出るが、果実が熟するにつれて軸から大きい角度をもつようになり、つまり開出して、全体としてビン洗いのブラシや、試験管洗いのような姿になる。果実が熟してしまうと、果実は小穂の柄の部分から外れるので、あとには軸だけが残る。小穂は短い軸の先に一つだけつく。小穂の基部の軸から針状の毛が多数伸びる。小穂は披針形で長さ7mmほど、二つの小花を含むが、一つ目は果実をつけず、雄花となることも多い。第一護頴はほとんど退化、第二護頴は小穂の長さの半分。果実は先端の毛と共に外れ、これが引っ掛かりとなって大型動物の毛皮に引っ掛かるようになっている。いわゆるひっつき虫で、毛糸などの目の粗い衣服によく引っ掛かる。果実の先端から潜り込むようにして引っ掛かることが多い。
日本、朝鮮半島、中国からフィリピン、マレー半島からインドまで分布する。日本国内では北海道南西部以南のほとんど全土で見られる。道端にはえる雑草で、大きな株になる。非常にしっかりした草で、引き抜くにも刈り取るにもやっかいである。和名の「力芝」もひきちぎるのに力がいることに由来する。穂から多数の毛が伸びてブラシ状になるものとしては、他にエノコログサ類があるが、たいていは穂の先がたれる。また、他にも穂に多数の毛や芒を出すものはあるが、このようなブラシ状のものはあまりない。
◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

10月14日
●小口泰與
雀らの高音となりし刈田かな★★★
母郷へと高ぶる帰心初もみじ★★★
鳥渡る風雅の旅へ行きたしよ★★★
●多田有花
秋祭り太鼓の音の麓より★★★
秋陽強し屋台が町を巡行す★★★
栗の毬数多落ちたる尾根の道★★★★
尾根伝い自体楽しいものだが、それに栗の毬が落ちていたりすると、深まる秋を感じさせられ、特に拾うわけでもないのに楽しい気持ちになる。(高橋正子)
●桑本栄太郎
青空に朝の旗火や体育祭★★★★
「旗火」は、昼花火とは別物で、鳥取地方の方言かもしれないが、運動会などで開催を知らせる音だけの花火のこと。青空に向かって体育祭の開催を知らせる音だけの花火がばばーん揚がる。子供のころの運動会を思い出すような、秋冷の朝である。(高橋正子)
秋天の生駒嶺遠くうねりけり★★★
やわらかなみどり膨らむ芙蓉の実★★★
10月13日
●高橋秀之
陽に向かい赤く大きくハイビスカス★★★
夕暮れの雲間に白く秋の月★★★
秋いずこ三十度超す温度計★★★
●小口泰與
田の刈られ畔にありあり曼珠沙華★★★★
熟田の畔に沿って咲く曼珠沙華は色彩が鮮やかで日本の秋を象徴する景色の一つになっているが、稲が刈られたあと、畔に残された曼珠沙華が一抹の寂しさ、姿がありをもって咲いているのも、ありありとした姿が見えて惹きつけられる光景だ。(高橋正子)
我が在の赤城の風の冷ゆるかな★★★
秋蝶の万里の波濤越え行けり★★★
●多田有花
水平線はるかに秋の海光る★★★
秋空より飛行機ゆっくり降りてくる★★★
六甲の山襞に秋の夕日影★★★
●桑本栄太郎
雲影の稜線走り秋の峰★★★
雨雲の中に青空野分めく★★★
走り根につまずき歩む天高し★★★
★秋宵宮星に声あぐ子の行列 正子
秋の大祭の宵宮。子供神輿の行列でしょうか。いつの世になってもお祭りでの子の声と行列は元気いっぱいです。(高橋秀之)
○今日の俳句
朝霧が包む港に汽笛鳴る/高橋秀之
素直な句で、朝霧に鳴る汽笛がのびやかに聞こえる。朝霧に包まれた港がこれから動き出そうとしているのであろう。(高橋正子)
○葛の実
[葛の実/横浜・四季の森公園(2011年10月20日)]_[葛の花/横浜日吉本町(2012年8月9日)]
★葛の実の鈴なりなれど軽きかな/高橋正子
★葛の実の茶毛いかにも野草らし/高橋正子
葛の花はその濃紫の色もさることながら、芳香が楽しめる。葛の根は、葛粉となって高価なもの。本物の葛粉で作った葛餅は、喉越しがまるで違う。すっきりとした水を味わうような感じだ。葛は日本中に蔓延っている。葛の実を意識して見ることは私自身ほとんどないが、秋風が葛の葉を白く裏返して吹くときなど、枝豆のような莢が目に入る。葛は豆科かなと思う。それにしては、莢が枯れそうになっても実が充実しないなと思うような具合だ。莢を割って見ようなど思ったこともないが、ゴマ粒ほどの小さな豆が入っているようだ。
クズ (Pueraria lobata) は、マメ科のつる性の多年草。根を用食品の葛粉や漢方薬が作られ、花は、万葉の昔から秋の七草の一つに数えられる。漢字は葛を当てる。
葉は三出複葉、小葉は草質で幅広く、とても大きい。葉の裏面は白い毛を密生して白色を帯びている。地面を這うつるは他のものに巻きついて10メートル以上にも伸び、全体に褐色の細かい毛が生えている。根もとは木質化し、地下では肥大した長芋状の塊根となり、長さは1.5メートル、径は20センチにも達する。花は8-9月の秋に咲き、穂状花序が立ち上がり、濃紺紫色の甘い芳香を発する花を咲かせる。花後に剛毛に被われた枝豆に似ている扁平な果実を結ぶ。花色には変異がみられ、白いものをシロバナクズ、淡桃色のものをトキイロクズと呼ぶ。和名は、かつて大和国(現:奈良県)の国栖(くず)が葛粉の産地であったことに由来する。
葛の実は、8月から9月にかけて咲く花の後、すぐに緑の豆の莢となって鈴生りにぶら下がる。その後に時間をかけて成熟してきた実は、くすんだ焦げ茶色に変色し、枯れた葉と共に舞い落ちる。落ちてくるときは、たいてい一莢ずつになっているが、たまにはいくつかつながったままのこともある。莢の幅は1cm弱ほど、長さは3~6cmほど、厚みも重さもほとんど感じられない。莢の表面は茶色の毛で覆われている。莢を開いてみると、莢の内側は光沢があり、そして、長さ2mm、幅1mm強ほどの小さな豆が出てくる。
◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)
