★霧に育ち大根くゆりと葉を反らす 正子
「霧に育ち」に、冷え冷えとした大気の中に青々と伸びる大根の葉、また、地中に太りゆくみずみずしい大根の白さを思います。「くゆりと葉を反らす」大根の葉の細やかな描写が、霧の大地に育つ大根のありようを鮮明に伝えてくれます。(藤田洋子)
○今日の俳句
真珠筏浸し秋の海澄めり/藤田洋子
「浸し」が秋海の澄んだ水をよく感じさせてくれる。秋海の澄んだ水に浸され殻を育てている真珠は、美しく輝く珠となることであろう。(高橋正子)
〇自然教育園の吟行。
昨日、10月23日の白金台の自然教育園は晩秋の気配に満ちていた。入口には白嫁菜の花が一面に咲き雪崩れていた。白い野菊である。薄紫の柚香菊もまだ先残っていた。柚香菊は、野菊のなかでも蕊の黄色い部分が比較的大きい。歩道に沿って歩くと、山薄荷、花たで、ごしょ水引、タイアザミ、タイワンホトトギスがあり、実蔓(さねかずら)やからたちばな(百両)、藪柑子(十両)の実が目についた。茶の花がきれいだ。台風26号の風が、飯桐のオレンジ色の実やむくろじの実をたくさん落としていた。とくに花たでは縦横無尽に咲き、葉はもみじしている。ちょうど「蓼」の類の花が季節を迎えているようだ。
アケビを見に水鳥の沼への森の道を伝うと茶の花がそこここに咲いている。ちょうど咲き盛りと思える。沼のほとりには溝そばが清楚な花をひらいている。
水生植物園には、溝そば、花たで、白花さくらたで、釣舟草、オオニガナ、柚香菊(ゆうがぎく)、それにナガボノシロワレモコウが入り混じって、湿地の野原はやさしい秋の野となっている。ノハラアザミを見た。野葡萄は、わずか実をつけ色づいていた。ナンバンギセルもまだ元気に咲いていた。白色のげんのしょうこがまだ咲き残っていた。赤色のげんのしょうこは、門わきの草地にあったが。
武蔵野植物園では、竜胆がほころび始め、フジバカマは終わりかけであった。泡黄金菊(あわこがねぎく)が咲いている。泡黄金菊は、蕊のところが泡のようにも見える黄色い小さい野生の菊だ。
★草もみじして花たでの縦横に/高橋正子
★ふっくらと茶の花咲いて鳥の声 〃
★真っ赤なる実に驚けばさねかずら 〃
★溝そばの花をくぐれる水の音 〃
★咲き初むる竜胆花びら鋭く切れて 〃
★時をずらし時をずらして木の実降る 〃
★秋冷の黄蝶一匹木漏れ日に 〃
★飯桐の高く熟れたる実をあおぐ 〃
★榛の実の黒き緑にかかる雨 〃
★茨の実熟れて雲ある水鏡 〃
★野原あざみの紅むらさきが目を刺しぬ 〃
◇生活する花たち「茶の花・泡黄金菊・げんのしょうこ・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)
○無花果(いちじく)
[無花果/横浜日吉本町]
★いちじくをもぐ手に伝ふ雨雫 虚子
★無花果の岸へ着きたる渡舟かな 泊雲
★無花果の裂けていよいよ天気かな 石鼎
★手がとどくいちじくのうれざま 山頭火
★無花果や雨餘の泉に落ちず熟る 蛇笏
★無花果の背戸もきれひに掃いてあり 風生
★葉にのせて無花果呉れぬ二つ三つ 淡路女
★無花果を頒ちて食ぶる子等がゐて 誓子
★いちじくのけふの実二つたべにけり 草城
★いちじくや才色共に身にとほく 鷹女
★無花果をむくや病者の相対し 三鬼
★無花果や川魚料理ただの家 汀女
★枝葉に通ふ香の無花果を食べて自愛 草田男
無花果をもぐと白い乳汁がでる。これから連想してだろうが、無花果の枕詞として「たらちね」を使った川本臥風先生の俳句があって。句会で披講されたが、正確な句は今思い出せないが、納得した句であった。
★この空の青が無花果熟させる/高橋正子
イチジク(無花果、映日果)は、クワ科イチジク属の落葉高木。また、その果実のこと。原産地はアラビア南部。不老長寿の果物とも呼ばれる。「無花果」の字は、花を咲かせずに実をつけるように見える[1]ことに由来する漢語で、日本語ではこれに「イチジク」という熟字訓を与えている。「映日果」は、中世ペルシア語「アンジール」(anjīr)[2]を当時の中国語で音写した「映日」に「果」を補足したもの。通説として、日本語名「イチジク」はこれの音読「エイジツカ」の転訛とする[3][4]。 中国の古語では他に「阿駔[5]」「阿驛」などとも音写され、「底珍樹」「天仙果」などの別名もある。伝来当時の日本では「蓬莱柿(ほうらいし)」「南蛮柿(なんばんがき)」「唐柿(とうがき)」などと呼ばれた。いずれも“異国の果物”といった含みを当時の言葉で表現したものである。属名 Ficus (ficus)はイチジクを意味するラテン語。 イタリア語: fico, フランス語: figue, スペイン語: higo, 英語: fig, ドイツ語: Feige など、ヨーロッパの多くの言語の「イチジク」はこの語に由来するものである。
葉は三裂または五裂掌状で互生する。日本では、浅く三裂するものは江戸時代に日本に移入された品種で、深く五裂して裂片の先端が丸みを帯びるものは明治以降に渡来したものである。葉の裏には荒い毛が密生する。葉や茎を切ると乳汁が出る。
初夏、花軸が肥大化した花嚢の内面に無数の花(小果)をつける。このような花のつき方を隠頭花序(いんとうかじょ)という。雌雄異花であるが同一の花嚢に両方の花をつける。栽培品種には雄花がないものもある。 自然では花嚢内部にはイチジクコバチが生息し、受粉を媒介する。日本で栽培されているイチジクはほとんどが果実肥大にイチジクコバチによる受粉を必要としない単為結果性品種である。果実は秋に熟すと濃い紫色になる。食用とする部分は果肉ではなく小果(しょうか)と花托(かたく)である。原産地に近いメソポタミアでは6千年以上前から栽培されていたことが知られている。地中海世界でも古くから知られ、古代ローマでは最もありふれたフルーツのひとつであり、甘味源としても重要であった。 最近の研究では、ヨルダン渓谷に位置する新石器時代の遺跡から、1万1千年以上前の炭化した実が出土し、イチジクが世界最古の栽培品種化された植物であった可能性が示唆されている。日本には江戸時代初期、ペルシャから中国を経て、長崎に伝来した。当初は薬樹としてもたらされたというが、やがて果実を生食して甘味を楽しむようになり、挿し木で容易にふやせることも手伝って、手間のかからない果樹として家庭の庭などにもひろく植えられるに至っている。
◇生活する花たち「ノダケ・シロバナサクラタデ・ユウガギク」(東京白金台・国立自然教育園)

●小口泰與
木犀や夕べの風を身の内に★★★
群れなして阿鼻叫喚の稲雀★★★
風に反り風にたわわや散る柳★★★
●河野啓一
秋野行く厚き雨雲仰ぎつつ★★★
庭先の小菊を摘めば雨模様★★★★
菊日和という言葉もあるが、ときには小雨が降る日もある。庭先に咲いた小菊を少し摘むと、今にも雨が降りそうな曇り具合。小菊はそんな日も、輝いている。(高橋正子)
柿の実の雨に濡れたる艶の良き★★★
●黒谷光子
秋晴れに宗祖の遺蹟訪ぬ旅★★★
筋塀の続く寺町薄紅葉★★★
街の灯のひろびろ秋の高速道★★★
●桑本栄太郎
双葉菜の列の乱れに野風かな★★★
秋蝶の日差しに酔いてさ迷える★★★
木の実降る水面の楽となりにけり★★★
●古田敬二
夕されば濡れてさびしき柿落葉★★★
子を待てば濡れてさびしき柿落葉★★★
あけび揺れるほんのちょっぴりほほ笑んで★★★
●小西 宏
団栗の茶の濃くなりぬ艶放ち★★★★
団栗は、熟れるとつやつやしてきて、茶色の色も濃くなる。充実した木の実となる。(高橋正子)
椋鳥の柿の実散らし騒がしき★★★
日を避けて通りし径の今は黄葉★★★
★呼んでみるかなたの空の雲の秋 正子
どこまでも澄む秋の空、遠くにさらっと掃いたような雲が流れています。その雲を見ればどこか懐かしいような切ないような気持ちになり、そっとその雲に呼びかけてみます。秋の晴れた空なればこその情感です。(多田有花)
○今日の俳句
栗の毬数多落ちたる尾根の道/多田有花
尾根伝い自体楽しいものだが、それに栗の毬が落ちていたりすると、深まる秋を感じさせられ、特に拾うわけでもないのに楽しい気持ちになる。(高橋正子)
○蜜柑
[蜜柑/横浜日吉本町] [蜜柑の花/横浜日吉本町]
★蜜柑を焼いて喰ふ小供と二人で居る/尾崎放哉
★み佛に剥きたる蜜柑供へあり/皆川盤水
★仲直りしてをり蜜柑剥いてをり/小澤克己
★山は如何に日向の卓に蜜柑照り/林翔
★蜜柑山ふもとに布団たたく音/大串章
★手に蜜柑故郷日和授かれり/村越化石
西日本で生まれ、育ったものにとっては、蜜柑は普段の普通の果物。わざわざ「果物」と呼ぶのも違和感を感じるほど。蜜柑は蜜柑。9月中ごろから出回る青蜜柑に始まり、2月立春過ぎに酸味と甘みが抜けるころまでが蜜柑のシーズン。蜜柑は冬の季語。10年ぐらい前までは、正月用に箱で買う家庭が多かった。今は少人数で、一箱の分量も少ない。昔は蜜柑箱と言えば木であったから、それを勉強机にした話もよくあった。蜜柑を炬燵において、一つ二つと手を伸ばし結構な数を平らげて、手指が黄色にになることもあった。剥きやすく食べやすい。蜜柑を盛った籠が食卓や炬燵にあれば、部屋が明るくなる。
40年以上も住んだ愛媛は、蜜柑の日本一の産地。おいしい蜜柑のなかでも、またおいしい蜜柑はどこの産かということもよく知っている。5月ごろ辺りから蜜柑の花の匂いが漂ってくるのが普通の生活だった。秋になれば、一盛りいくら、バケツ1杯がいくらというような売り方もされる。ジュース工場に蜜柑を運ぶトラックが目の前をよく通る。一度は子供たちと近くに蜜柑狩りに出かける。瀬戸内海の素晴らしい景色と温暖な気候に育まれ、蜜柑が照るように熟れるのだ。10年ほど前だったろう。花冠の大会が松山であって、全国から同人が集まった。盛岡から参加された方が、松山城の二の丸庭園に蜜柑や伊予柑が生っているのを、しげしげと離れ難そうに見ておられた。初めて見たとのこと。もし、逆に私が盛岡を訪ねたならば、林檎が生っている木を離れ難くしげしげ眺めることだろうと思った。
生家には蜜柑の木が二本と八朔の木一本が庭先にあった。八朔は申し分なく立派な木でおいしい実をたわわにつけた。蜜柑は、皮が厚く、酸っぱく、秋の終わりがきそうなのに、なかなか熟れない。子どもは、待ちきれなくて、まだ青いのを採って食べる。だからよけい酸っぱく、爪も痛くなる。改良される前の蜜柑だったのだろう。そんな記憶が蘇る。
思い出したが、子供のころは、焚火をよくしていた。もちろん大人がするのだけれど、大人が去ったあとくすぶるような火に蜜柑の皮を剥いて、木切れに挿して焚火にかざして焼いた。火鉢で餅網の上で焼いたこともある。なんのために焼いたのかよくわからないが、焚火や炭火からぷうんと蜜柑の匂いが立って、蜜柑の渋皮が少し焦げて焼きあがる。温かい蜜柑だ。あまりに寒すぎて、蜜柑が冷たすぎるので、焼いていたのかも知れない。
昨年イギリスに行ったときも、地上に降りて初めてスーパーで買ったのが、蜜柑に近いオーストラリア産のマンダリンオレンジと、林檎。これを夕食後に部屋で毎日のように食べた。これが旅行中の体調管理に結構よかったのである。蜜柑様々だ。
ウンシュウミカン(温州蜜柑、学名:Citrus unshiu 英名:satsuma)は、ミカン科の常緑低木。またはその果実のこと。様々な栽培品種があり、食用として利用される。日本の代表的な果物で、バナナのように、素手で容易に果皮をむいて食べることができるため、冬になれば炬燵の上にミカンという光景が一般家庭に多く見られる。「冬ミカン」または単に「ミカン」と言う場合も、普通はウンシュウミカンを指す。甘い柑橘ということから漢字では「蜜柑」と表記される。古くは「みっかん」と読まれたが、最初の音節が短くなった。「ウンシュウ」は、柑橘の名産地であった中国浙江省の温州のことであるが、イメージから名産地にあやかって付けられたもので関係はないとされる。欧米では「Satsuma」「Mikan」などの名称が一般的である。 タンジェリン(Tangerine )・マンダリンオレンジ(Mandarin orange) (学名は共にCitrus reticulata)と近縁であり、そこから派生した栽培種である。
中国の温州にちなんでウンシュウミカンと命名されたが、温州原産ではなく日本の鹿児島県(不知火海沿岸)原産と推定される。農学博士の田中長三郎は文献調査および現地調査から鹿児島県長島(現鹿児島県出水郡長島町)がウンシュウミカンの原生地との説を唱えた。鹿児島県長島は小ミカンが伝来した八代にも近く、戦国期以前は八代と同じく肥後国であったこと、1936年に当地で推定樹齢300年の古木(太平洋戦争中に枯死)が発見されたことから、この説で疑いないとされるようになった。発見された木は接ぎ木されており、最初の原木は400 – 500年前に発生したと推察される。中国から伝わった柑橘の中から突然変異して生まれたとされ、親は明らかではないが、近年のゲノム解析の結果クネンボと構造が似ているとの研究がある。
ウンシュウミカンは主に関東以南の暖地で栽培される。温暖な気候を好むが、柑橘類の中では比較的寒さに強い。5月の上・中旬頃に3cm程の白い5花弁の花を咲かせ、日本で一般的に使われているカラタチ台では2-4mの高さに成長する。果実の成熟期は9月から12月と品種によって様々で、5 – 7.5cm程の扁球形の実は熟すにしたがって緑色から橙黄色に変色する。日本では通常は接ぎ木によって繁殖を行う。台木としては多くはカラタチが用いられるが、ユズなど他の柑橘を用いることもある。
◇生活する花たち「秋の野芥子・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

★足先がふっと蹴りたる青どんぐり 正子
山路や雑木林を歩いていると柏や櫟などから椀状の殻斗に包まれた青どんぐりが落ちてきた。その青どんぐりを偶然蹴った作者の驚きと楽しさが秋の青空に響いている素敵な景ですね。 (小口泰與)
○今日の俳句
山風に南へ藁塚の倒れけり/小口泰與
風によって南へ倒れるということは、もう、北風が吹き始めたのだろうか。刈田に立つ藁塚の倒れた様におかしみもあるが、寂しさもある。(高橋正子)
○野葡萄

[野葡萄/北鎌倉・東慶寺]
★野葡萄の色に遠野の物語 佐藤みほ
★野葡萄の瑠璃の惜別牧を閉づ 村上光子
★野葡萄や岩の迫り出す漁師町 仲尾弥栄子
★野葡萄の葉擦れの音も冬に入る 清水伊代乃
★野葡萄や滝を見にゆく道々に 阿部ひろし
★蒼穹に野葡萄が実をかかげたり 山村修
★野葡萄の色付き初めし城址かな 内田和子
★野ぶだうや湖畔の杜の写生会 大島英昭
★野葡萄の熟れ豊頬の石地蔵 中山純子
★野葡萄や四囲の山稜雲生みて 大竹淑子
★野葡萄の同じ瑠璃色ひとつも無し 栗田れい子
★野ぶだうの透明をただ呟きて 井上信子
★野葡萄をふふみて森の人となる 石田きよし
★野葡萄や何処に立つも水の音 飯田角子
★野葡萄の聯はそのままそのままに 瀬川公馨
ノブドウ(野葡萄、Ampelopsis glandulosa var. heterophylla)はブドウ科ノブドウ属に属するつる性落葉低木。日本全国のほか東アジア一帯に分布し、アメリカにも帰化している。やぶに多く見られ、都市でも空地などに見られる。
葉はブドウやヤマブドウに似ることもあるが、別属であり、特に果実は葉と交互につくなどブドウ類とは異なる。 果実は、熟すと光沢のある青や紫などに色づくが、食味は不味い。園芸植物として栽培されることがある。
ノブドウ属(Ampelopsis)の植物はアジア・アメリカに20種ほどある。ウドカズラ(A. leeoides または A. cantoniensis)日本に自生し、葉はウドに似た2回羽状複葉で、実は赤く熟する。カガミグサ(白斂:ビャクレン、A. japonica)中国原産。漢方薬に使われる。
◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)

●小口泰與
朝寒の雨粒いよよ白きかな★★★★
朝はうすら寒くなった。雨が降れば、雨粒に白ささえ見える。辺りに「白さ」を感じるは秋なのだ。(高橋正子)
鳶を追う阿修羅の鴉秋の暮★★★
白波を起こす風道秋の湖★★★
●迫田和代
今日もまた広い空あり菊日和★★★★
「今日もまた」とあるから、日和続きの今日この頃である。菊の花の香る菊日和は、なんとも晴れ晴れとするよい天気だ。(高橋正子)
春竹の林の穴から朝日射し★★★
実を落としだけど青々銀杏の葉★★★
●河野啓一
柿の葉のきらきら光る朝の風★★★★
柿熟れて葉のきらきらと朝の風(正子添削)
もとの句は季語がないので添削した。柿が熟れるころは晴天続きで、ひんやりとした朝の風に柿の葉もきらきらと光って、心楽しい朝である。(高橋正子)
台風の進路気になる昨日今日★★★
秋冷の気を切りさいてバイク行く★★★
●多田有花
秋晴れや信号は全て青で過ぎ★★★
澄む水をたたえし寺の手水鉢★★★
石蕗の花黄色き蝶の来てとまる★★★
●桑本栄太郎
杓子菜の穫られ菜屑の乱れけり★★★
コスモスの風の狼藉絶え間なし★★★
蘆刈の空開かれて明らかに★★★★
背丈が人の丈以上もある蘆が刈られると、そこだけすっぽりと空が開かれたようになる。明らかに空がある。蘆を刈り取ったあとの空が新鮮で、さっぱりとしている。(高橋正子)
●小西 宏
アカゲラのせせらぎに来て枝の揺れ★★★★
アカゲラもせせらぎに来ることがあるようだ。せせらぎへと伸びた枝に止まったのだろう。アカゲラがいて、枝が揺れている。間近にアカゲラの動きを見るのは楽しいことだ。(高橋正子)
脚弾む道に団栗うかと踏む★★★
黄落の白樺染める夕日影★★★
●古田敬二
秋祭り果て山影に月上る★★★
秋冷の入り来る列車止まるたび★★★
朝の陽に落ちしばかりの栗光る★★★
●小口泰與
花そばや溶岩の傾斜に道祖神★★★
峪筋の禽の高音や紅葉時★★★
ままごとのお椀かろしや赤のまま★★★★
「お椀かろし」がいい。作者はたわむれにままごとのお客になったとも思えるが、赤のままをいれたお椀があまりにも軽いこと、そこに感銘がある。(高橋正子)
●河野啓一
麗らかや妻はパン屋へパン買いに★★★★
秋麗(あきうらら)妻はパン屋へパン買いに(正子添削)
「麗らか」は春の季語。この句は、今作られたことであるし、「麗らか」より、「秋麗」のほうが、句意に沿っている。
パンには、洒落た雰囲気がある。秋空高く、天気のよい日は気持ちも楽しくなって、パン屋へおいしいパンを買いに出かける。心軽さが身上の句。(高橋正子)
虫食いの葉でもまあるい柿の実が★★★
はらからに電話を掛ける秋の午後★★★
●桑本栄太郎
秋雨や楚々と色づく庭の木々★★★
雨雲の峰駆け昇り山粧ふ★★★
実みずきの桂西口駅の雨★★★
●小西 宏
朝日差す黄葉うすき白樺に★★★★
白樺の黄葉は、白い幹を際立たせて洒落た美しさがある。朝日が差すと日に透けて黄葉はさらに美しくなる。(高橋正子)
休耕の畑よりの湯気霧深む★★★
笹青き知床五胡のきりぎりす★★★
●古田敬二、
杜鵑草旅終え帰れば真っ盛り★★★★
旅を終えて家に帰ると、旅に出る前はまだほつほつ咲いていた杜鵑草だが、今を盛りに咲いて迎えてくれた。旅に出ている間も、杜鵑草は花を咲かすべく確実に日々を過ごしていたのだ。(高橋正子)
赤々と入日に映える唐辛子★★★
陽の色の唐辛子採る夕来たる★★★
●佃 康水
楝の実空の青さへ磨かれる★★★
池淵へ寄り来る鯉へ石蕗の花★★★
掌へ全き熟柿捥ぎくれる★★★★
「全き熟柿」は、透けるような朱色で、今最高点の熟れ具合の柿。その熟柿を崩さないよう掌にそっと受けている。時の完熟を掌に受けているとも言えそうだ。(高橋正子)
★大寺の水あるところ水澄んで 正子
静かな寺の境内には、手や口を清める水があり、また池があります。その水面には青空が映り、美しく輝いています。どこからか鐘の音も聞こえてくるようです。 (井上治代)
○今日の俳句
新涼や樹間の空の青深し/井上治代
新涼の季節、空をゆっくりと眺めることができるようになり、早も青が深くなった。空の青に魅了される新涼である。(高橋正子)
○柿
[柿/横浜日吉本町]
★祖父親まごの栄や柿みかむ 芭蕉
★柿主やこずゑは近きあらし山 去来
★柿の葉の遠くちりきぬ蕎麦畠 蕪村
★残る葉と染かはす柿や二ツ三ツ 太祇
★渋柿や嘴おしぬぐふ山がらす 白雄
★渋いとこ母が喰ひけり山の柿 一茶
★柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 子規
★此里や柿渋からず夫子住む 漱石
★草の家に柿十一のゆたかさよ 龍之介
★渋柿の滅法生りし愚さよ/松本たかし
★西へ行く日とは柿山にて別る/山口誓子
★柿もぐや殊にもろ手の山落暉/芝不器男
★老い母は噂の泉柿の秋/草間時彦
★店の柿減らず老母へ買ひたるに/永田耕衣
★雨降つて八犬伝の里に柿/大串 章
★柿二つ読まず書かずの日の当り/小川双々子
★柿むいて今の青空あるばかり/大木あまり
★換気孔より金管の音柿熟るる/星野恒彦
★柿博打あつけらかんと空の色/岩城久治
★母よりの用なき便り柿の秋/西山春文
★柿ひとつ空の遠きに堪へむとす/石坂洋次郎
★柿熟れる朝空晴れて濃き青に/高橋信之
カキノキ(柿の木)とはカキノキ科の落葉樹である。東アジアの固有種で、特に長江流域に自生している。熟した果実は食用とされ、幹は家具材として用いられる。葉は茶の代わりとして加工され飲まれることがある。果実はタンニンを多く含み、柿渋は防腐剤として用いられ。現在では世界中の温暖な地域(渋柿は寒冷地)で果樹として栽培されている。
雌雄同株であり、雌花は点々と離れて1か所に1つ黄白色のものが咲き、柱頭が4つに分かれた雌しべがあり、周辺には痕跡的な雄しべがある。雄花はたくさん集まって付き、雌花よりも小さい。日本では5月の終わり頃から6月にかけてに白黄色の地味な花をつける。果実は柿(かき)と呼ばれ、秋に橙色に熟す。枝は人の手が加えられないまま放って置かれると、自重で折れてしまうこともあり、折れやすい木として認知されている。
日本から1789年にヨーロッパへ、1870年に北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われている。英語で柿を表す「Persimmon」の語源はアメリカ合衆国東部の先住民であるアルゴンキン語族の言葉で「干し果物」を意味する名詞「ペッサミン」であり、先住民がアメリカガキ(Diospyros virginiana L.)の実を干して保存食としていた事実に基づく。近年、欧米ではイスラエル産の柿(渋抜きした「Triumph」種)が「シャロンフルーツ(Sharon Fruit)」という名称で流通するようになったため、柿は「Persimmon」よりも「Sharon Fruit」という名で知られている。
◇生活する花たち「ノダケ・シロバナサクラタデ・ユウガギク」(東京白金台・国立自然教育園)

★しいの実の青くていまだ石の間に 正子
しいの実のまだ小さい熟せぬものが落ちている。何だか可愛そうな気もするが、そのうちに熟した実が落ちるような秋本番になるのでしょう。 (祝恵子)
○今日の俳句
秋夕焼け飛行機雲も包まれて/祝恵子
夕焼けの中に延びる飛行機雲。その飛行機雲までも夕焼けにすっぽり包まれて茜色に染まっている。秋夕焼けに染まる空を見れば、温かい思いになる。(高橋正子)
○葉鶏頭(ハゲイトウ)

[葉鶏頭/横浜日吉本町]
★葉鶏頭の三寸にして真赤也/正岡子規
★雁来紅や中年以後に激せし人/香西照雄
★水乞ふやねむらざる眼に葉鷄頭/瀧春一
★葉鶏頭と競はむとして空青き/能村登四郎
★葉鶏頭ほどのはげしき色欲しや/鷹羽狩行
★折れてゐる葉鶏頭あり抜いておく/高橋将夫
★雁来紅弔辞ときどき聞きとれる/池田澄子
★殊に濃き天誅村の葉鶏頭/塩路隆子
★山羊の怪我たのまれ診るや葉鶏頭/三嶋隆英
★剣道着干すや燃え立つ葉鶏頭/宇都宮靖
このごろ葉鶏頭を見ることがまれになった。コリウスというシソ科の葉鶏頭に似たものが見るが、葉鶏頭はさっぱり。それでも建てこんだ民家の庭先に葉鶏頭を育てている家がある。家というよりそこの主婦であるが、葉鶏頭の写真を撮らせてもらおうとしていると、如露を持って出てきた。そして、「写真をお撮りになるのなら、あとで水を遣りますよ。」と家の中に引っ込んでしまった。野牡丹と並んで植えられていた葉鶏頭だった。
★葉鶏頭老女出て来て水を遣り/高橋正子
ハゲイトウ(葉鶏頭、雁来紅、学名Amaranthus tricolor) はヒユ科の一年草。日本には明治後期に渡来し、花壇の背景、農家の庭先を飾る植物として、広く栽培されている。アマランサス(ヒユ属)の1種である。主に食用品種をヒユ(莧)とも呼ぶが、アマランサスの食用品種の総称的に呼ぶこともある。
属名の Amaranthus は、「色が褪せない」の意味。そのために「不老・不死」の花言葉があるが、これは以前この属に属していたセンニチコウによるものである。種小名の tricolor は「三色の」の意。英名は旧約聖書に登場するヨセフにヤコブが与えた多色の上着のことで、鮮やかな葉色をこの上着にたとえている。
熱帯アジア原産の春まきの草花で、根はゴボウ状の直根で、茎は堅く直立し、草丈 80cm から 1.5m ぐらいになる。葉は被針形で、初めは緑色だが、夏の終わり頃から色づきはじめ、上部から見ると中心より赤・黄色・緑になり、寒さが加わってくるといっそう色鮮やかになる。全体が紅色になる品種や、プランターなどで栽培できる矮性種もある。タネは細かいが、発芽は比較的よく、こぼれ種でも生えるくらいである。排水と日当たりの良いところに4月下旬頃に直まきし、タネが見え隠れする程度に覆土する。観葉植物として利用される。 食用の近縁種はアマランサスだが、南米では、インカ帝国の昔から種子を穀物として食用にしてきた。日本でも健康食品として販売されている。ヒモゲイトウ (Amaranthus caudatus) がそのなかでも最も大規模に栽培されている。
◇生活する花たち「秋海棠・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

●小口泰與
うつし世の日の出のようや花かんな★★★
どんぐりの沼に落ち込む力かな★★★
花そばや毛の三山に雲の無し★★★
●河野啓一
色付きし柿の実眺むまだ薄き★★★
秋雨のそぼ降る中や門に立つ★★★
白秋の雲薄くして空広し★★★★
●高橋秀之
瀬戸内のその先遠く高き空★★★★
瀬戸内海の島々が浮かぶその先が遠くまで広がり、そこに高い秋の空がある。穏やかな瀬戸内海の秋の風景が楽しめる。(高橋正子)
胡堂前道行く人に今年酒★★★
路地裏の格子戸秋の薄日差す★★★
●多田有花
茹でてから皮を剥くのよ里芋は★★★
囲われて菊ゆっくりと開花する★★★
降る雨に紅葉かつ散る桜かな★★★
●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランド埠頭へ>
秋潮の空へと滑りモノレール★★★
秋潮の海辺のカフェの日差しかな★★★
さんざめく風の波頭や秋の潮★★★
●小西 宏
雲紅く染めて台風去りし朝★★★★
台風が去ったあとの朝焼けの空。まだ、不安が残る朝の空だが、台風が去ったことには間違いない。これからすっきりと晴れてくるだろう。(高橋正子)
烏賊舟の並び輝く月の海★★★
秋の葉の色混ぜて山夕映える★★★
※好きな句の選とコメントを<コメント欄>にお書き込みください。