10月30日-31日


10月31日

●祝恵子
吾影は右を離れず秋朝日★★★★
「影は右を離れず」が面白い。朝日があたたく気持ちよくなった秋の朝、つい影を意識する。影がずっと右にできているのは、南へ向かって歩いていることか。明るい方向だ。(高橋正子)

十月や押し花と遊ぶ楽しさ★★★
よく降って秋苗ぐんと伸び育つ★★★

●小口泰與
昃(かげ)り来て木犀匂う帰り路★★★
白樺ともみじの模写の水面かな★★★
間眼に漆もみじや黙を解く★★★★
「黙を解く」に、漆もみじのあでやかさが知れる。漆もみじに出会った瞬間、驚き、沈黙も言葉に代わる。(高橋正子)

●河野啓一
穂芒も揺れる畦道自転車で★★★★
芒の穂が揺れる道は、普段の生活のなかではあるが、少し違った世界を展開してくれる。その畦道を自転車をすいすい漕いでゆくのはたのしいことであろう。(高橋正子)

うろこ雲仰いで朝の冷気かな★★★
砂防ダム大雨に耐え秋高し★★★

●多田有花
朱に変わる熟柿に夕陽やわらかく★★★★ 
「夕陽やわらかく」がいい。夕陽が、まるで朱色に変わった熟柿のようだ。熟柿は熟柿で夕陽から色をもらったようだ。(高橋正子)

挨拶を交わして別れ菊の前★★★
暮の秋雲より漏れる光の矢★★★

●桑本栄太郎
山風の吹けば稲滓火煙りけり★★★★
一連の田仕事が終わって藁屑など集め火をつけて焼く。その稲滓火(いなしび)はもう静まっている。ところが山風が吹いてきて、またくすぶり始めた。稲刈りの後の田もまだ火が生きている。(高橋正子)

医科大の構内銀杏の黄葉かな★★★
十月の果つや夕日のビルに影★★★

●小西 宏
秋うらら黄の新しき欅道★★★
柿落ちて小犬惑える帰り道★★★
街燈に桜紅葉の薄明かり★★★

●黒谷光子
灯篭に触れる一枝薄紅葉★★★
青空を分かつ筋雲秋の昼★★★

里芋の初物真中に夕餉膳★★★★
自宅で収穫された里芋であろう。初めて掘り上げた里芋がほっくりと煮られて、夕餉の膳の真中にどっかりと座っている。初物を食べるうれしさは、それを作った人なら、なおさらのことであろう。(高橋正子)

30日

●小口泰與
渋柿の熟する頃や禽の声★★★

ごつき手に秋ばら提げて尋ね来し★★★★
自分で咲かせたバラであろうか、農作業などでごつくなった手にバラを提げてやってきた。ごつい手と華やかなバラとの対比に、バラの花はますますの美しさ、ごつい手の持ち主の素朴で頼もしく、あたたかい人柄が窺える。(高橋正子)

秋空や稲わらロールおちこちに★★★

●迫田和代
山歩き向こうの紅葉と水の音★★★★
山を歩くと、谷川の向こうの紅葉の美しさに目を瞠る。水も心地よい音を立てて流れ、山を歩く楽しさとなっている。(高橋正子)

祭終え澄んだ空には秋の月★★★
秋の雲流れ流れて何処へ行く★★★

●河野啓一
銀杏の零れし道をゆっくりと★★★★
銀杏が熟れて木を離れ道にこぼれている。拾うわけでもなく、銀杏特有の匂いがぷんとしてくる中、ゆっくりゆくのも晩秋の楽しみの一こまである。(高橋正子)

鳥威路傍の田にも存在し★★★
パラリンピック目指して秋のトレーニング★★★

●多田有花
地下足袋をはき晩秋の山歩く★★★★
晩秋、冬の薪の用意に地下足袋を履いて私の父などは山に入っていたが、有花さんの場合、登山靴に替えて地下足袋を履いて山を歩いた。地下足袋は、足裏に比較的直に土の感じが伝わってくる。晩秋と地下足袋が似合っている。すたすたと歩けたことであろう。(高橋正子)

新聞にくるんで保存新高梨★★★
残る虫テニスコートのそばの闇★★★

●桑本栄太郎
生垣のめぐる香りや金木犀★★★
実みずきの天向く紅や青空に★★★
三川の集う中州や芒照る★★★

●小西 宏
道濡れて秋落葉の黄の香り★★★
小さき鎌手に芋掘りの保育園★★★★
保育園児も芋掘にくわわり、小さい鎌まで持たせてもらっている。一人前の所作がほほえましい。(高橋正子)

枝撓め柿満々と大空へ★★★

●古田敬二
落花生干せばからから実る音★★★★
落花生を栽培されたようだ。掘り上げて乾かす作業がある。殻ごと干すと中の実がからからと鳴る。その音は「実る音」なのだ。秋の実りのよろこび。(高橋正子)

びっしりと殻に詰まりし落花生★★★
夕暮れの濡れ縁に干す落花生★★★

10月31日(木)

★金木犀こぼれし花もあたたかな  正子
小さな星のような花を枝に密集させている金木犀。そこからこぼれ落ちた花もまだ生き生きとしていて、明るさとあたたかさを持って地面で咲いているようです。(安藤智久)

○今日の俳句
花束を花瓶にほどく秋の夜半/安藤智久
花束をいただいた。帰り着いたのが夜となったのだろう。落ち着いてから、夜半に花束を花瓶に入れた。しっとりとした秋の夜半である。(高橋正子)

○泡黄金菊(あわこがねぎく)

[泡黄金菊/東京白金台・国立自然教育園]

 泡黄金菊(アワコガネギク)はキク科キク属の多年草である。本州の岩手県から九州の北部にかけて分布し、やや乾いた山麓や手などに生える。海外では、朝鮮半島や中国大陸にも分布している。和名の由来は、密集している花が泡のように見えることからきている。命名者は牧野富太郎博士である。
 環境省のレッドリスト(2007)では、「現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては『絶滅危惧』に移行する可能性のある種」である準絶滅危惧(NT)に登録されている。レッドリストでは別名の菊谷菊(キクタニギク)が用いられている。これは、自生地(京都府菊谷)からきている名前である。
 草丈は100センチから150センチくらいである。茎はよく枝分かれをする。葉の形は栽培菊に似ていて深い切れ込みがあり、裂片は尖らない。葉は互い違いに生える(互生)。開花時期は10月から11月である。頭花は舌状花も筒状花も黄色で、ひしめき合うように密につく。花径は15ミリから18ミリくらいと小さい。学名:Chrysanthemum boreale(=Dendranthema boreale)

◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

10月30日(水)

★朝はまだ木犀の香のつめたかり  正子

○今日の俳句
今日もまた広い空あり菊日和/迫田和代
「今日もまた」とあるから、日和続きの今日この頃である。菊の花の香る菊日和は、なんとも晴れ晴れとするよい天気だ。(高橋正子)

○柚香菊(ゆうがぎく)

[柚香菊/東京小金台・国立自然教育園]

★花開ききったり柚香菊そこに/高橋信之
★花びらの欠けるかに咲き柚香菊/高橋正子
★やや寒し柚香菊の白を帯ぶ/〃
★茎すっと伸びて岐れて柚香菊/〃
★湖の縁にならんで柚香菊/高橋句美子

 ユウガギク(柚香菊、学名:Kalimelis pinnatifida) は、キク科ヨメナ属の多年草で、やや湿性の高い場所に自生し、いわゆる「野菊」の仲間である。草丈50cmほどで、しばしば1mを越える。上部で花茎を分け、花期は6月下旬~11月、茎頂に径3cm前後の白から淡紫色の典型的なキク型の花をつける。葉は、幅3cmほど、長さ8cm前後の卵状長楕円形で、通常、葉縁に鋭く浅い切れ込みか、または羽状の中裂が入る。本州の近畿地方以北に分布し、関東地方以北に分布するカントウヨメナにとてもよく似ている。近年、シロヨメナをヤマシロギクの別名としたり、その逆としたり、シロヨメナとヤマシロギクを混同する記載が結構目立つ。シロヨメナとヤマシロギクはともにノコンギクの亜種だが、別種である。ヤマシロギクは東海地方以西に分布し、シロヨメナの分布は本州~九州・台湾である。シロヨメナはしばしばヤマシロギクとの間に雑種を作るのでこのような混同がおきているのかもしれない。「柚香菊」は、ユズの香りがするとの命名だが、葉を揉んでもユズの香りは確認できていない。

★野菊持ちし女の童に逢ひぬ鈴鹿越/正岡子規
★足元に日のおちかかる野菊かな  一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな/夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香/前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり/原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址/杉田久女
 横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子

 柚香菊は、野菊の仲間である。野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
 野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本である。

◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

10月29日(火)

★秋水湧く波紋をそのまま手にすくう  正子
秋の澄みきった湧き水、その清らかな波紋をそっと手にすくってみる。冷たい水に心洗われる心地である。 (祝恵子)

○今日の俳句
しりとりをしつつ帰る子秋の暮/祝恵子
女の子たちであろうか。秋の暮をきりもないしりとり遊びをしながら帰る子どもたちが、かわいらしく、ほほえましい。作者の子らへの眼差しがやさしい。(高橋正子)

○薬師草(やくしそう)

[薬師草/横浜・四季の森公園]

 ★森に咲く薬師という名の菊凛と/高橋信之

 ヤクシソウ(薬師草、学名:Youngia denticulata)は、キク科オニタビラコ属の二年草。高さは30-120 cm。初期には根出葉があるが、花時にはほとんどなくなり、茎葉だけになる。茎葉は基部が張り出して茎を抱く。葉は互生し、長さ5-10 cm、幅2-5 cmの長楕円形-倒卵形。茎や葉を折ると苦味のある白い乳液を出す。花期は9-11月で枝の上部に直径1.5 cmほどの黄色い花を固まって咲かせる。花は上向きに開くが、花が終わると下向きになる。 和名の由来は不明であるとする説や、葉の形が薬師如来の光背に似ているとする説、かつて薬草(民間薬として皮膚の腫れものに外用)に使われたことによるとする説がある。中国名は「苦菜」。学名の「denticulata」は、「細歯のある」の意味である。
 朝鮮半島・中国・台湾・インドネシア・ベトナム・インドなどと日本の北海道・本州・四国・九州・屋久島の日当たりのよい乾いた山野に生える。奥秩父や四国山地などの石灰岩、蛇紋岩地帯の岩壁にも分布する。新しく林道をつけた斜面の裸地に真っ先に侵入するパイオニア植物である。花の外観は同科のアキノノゲシやハナニガナなどに似ている。

◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)

10月29日

●小口泰與
老斑の掌(て)や秋の夜の独り酒★★★
身綺麗に歳をとりたや蔦紅葉★★★
山風や身の丈越えし花すすき★★★

●河野啓一
青空に揺れて耀く柿の赤★★★
夕陽浴び柿に群がる小鳥かな★★★
列島の空秋晴れる偏西風★★★

●桑本栄太郎
新築の捗る庭に金木犀★★★★
金木犀のある庭に家が建っている。建て替えなのか、日々見ているとずいぶん早く工程が進んでいる。冬が来る前には入居したい気持ちも見える。金木犀もいい匂いだ。立ち上がったら落ち着いた家になるだろう。(高橋正子)

梢より紅葉初め居り嵐あと★★★
生駒嶺や秋の夕日の茜雲★★★

●佃 康水
通草の実三つ葉添えある道の駅★★★
石蕗咲きて鯉跳ね上がる音近し★★★
色変えぬ松へ耀く被爆川★★★

●小西 宏
虫食いの桜紅葉の鉄仮面★★★
十月の冷たき細き雨の薔薇★★★
松茸に見立てエリンギ二人鍋★★★

●古田敬二
子を待てば木の実落ち来る音たてて★★★
夜のうちに庭に降り敷く秋の花★★★
のぼたんの色鮮やかに敷くあした★★★

10月28日(月)

★秋水湧く波紋をそのまま手にすくう  正子
静かに砂を動かしながら湧き出てくる泉。水面には柔らかな丸い波紋を作っている。その泉を静かに掬う。波紋を掬うという表現にユニークさを感じました。(古田敬二)

○今日の俳句
落日に白く光れる芒原/古田敬二
いよいよ日が落ちようとすると、芒原が一面に白く輝く。やわらかい、白い光の美しさが侘しさを伴って広がる景色がよい。(高橋正子)

○花蓼(ハナタデ)

[花蓼/東京小金台・国立自然教育園]_[犬蓼/横浜市港北区松の川緑道]

★犬蓼の花くふ馬や茶の煙 子規
★赤のまま摘めるうまごに随へり 亞浪
★山水のどこも泌み出る赤のまま 汀女
★われ黙り人話しかくあかのまま 立子
★水際の赤のまんまの赤つぶら/高橋正子

★白花の蓼が群れ咲く水ほとり/高橋信之
★それぞれが群れ赤い蓼白い蓼/高橋正子

 タデ(蓼、英語: water pepper)は、タデ科イヌタデ属の1年草。単にタデと言う場合は、ヤナギタデ(柳蓼、学名: Persicaria hydropiper)を指す。「蓼食う虫」の蓼もヤナギタデである。和名は、葉がヤナギに似ていることから。特有の香りと辛味を持ち、香辛料として薬味や刺身のつまなどに用いられる。野生の紅タデがもっとも辛く、栽培種の青タデは辛さが少ない。辛味成分はポリゴジアール。タデの葉をすりつぶして酢でのばしたものはタデ酢と呼ばれ、アユの塩焼きに添えられる。品種としては、柳タデ(本タデ)、紅タデ、青タデ、細葉タデなどがある。食用タデについては、福岡県朝倉市で日本国内生産の約7割を占める。ベトナムでは付け合わせとしてよく食べられている。
 イヌタデ(犬蓼、Polygonum longisetum あるいは Persicaria longiseta)は、タデ科の一年草。道ばたに普通に見られる雑草である。茎の基部は横に這い、多く枝分かれして小さな集団を作る。茎の先はやや立ち、高さは20-50cm。葉は楕円形。秋に茎の先端から穂を出し、花を密につける。花よりも、その後に見られる真っ赤な果実が目立つ。果実そのものは黒っぽい色であるが、その外側に赤い萼をかぶっているので、このように見えるものである。赤い小さな果実を赤飯に見立て、アカマンマとも呼ばれる。雑草ではあるが、非常に美しく、画材などとして使われることもある。名前はヤナギタデに対し、葉に辛味がなくて役に立たないために「イヌタデ」と名付けられた。
 シロバナサクラタデ(白花桜蓼、学名:Persicaria japonica)は、タデ科イヌタデ属の多年草。北海道~九州の湿地に生え、根茎は地中で長くのび、枝を分けてふえる。茎は直立し、高さは30~100cmになり、紅色を帯びる節がある。葉は披針形。鞘状の托葉は長さ1~2.5cmで、粗い伏毛があり、縁には長毛が生える。枝先に花序を1~5本出し、花を多数つける。花被は白色で腺点があり、長さ3~4mm。雄しべは普通8個、雌しべは1個で花柱は2~3岐。花には長花柱花と短花柱花との2型がある。そう果は3稜形またはレンズ状で黒色で光沢がある。花期は8~10月。よく似たサクラタデは花被が長さ5~6mmと大きい。

◇生活する花たち「茶の花・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)

10月28日

●小口泰與
雨粒のとうかんかくや草の花★★★
岩削り白波起つや蔦もみじ★★★
無残やな一夜に消ゆるもみじかな★★★

●河野啓一
秋高しパソコントラブル解消し★★★
虫食いの柿小さくも柿は柿★★★
うす紅葉庭梅今年もごくろうさん★★★

●桑本栄太郎
バスを待つ間にも充ち来る金木犀
バス待つ間も金木犀の充ち来る香★★★★(正子添削)
バスを待っている間にも、待てば待つほど金木犀の香りが濃厚になってくる。香りが溜まってくる。それが「充ち来る」であろうが、そういった感じ方に新しさがある。(高橋正子)

実みずきの葉の落ち天へ青空へ★★★
”のぞみ号”秋の西日へ奔りけり★★★

●多田有花
朝霧の晴れゆく平野を見下ろせり★★★★
高くに登って平野を見ろすと、ベールをめくるように朝霧がすうっと晴れていき、朝日の差す平野が見える。その面白さと秋の朝のすがすがしさが読み取れる。(高橋正子)

白菊や朝の空気の清しさに★★★
まだありし晩稲に日差し傾きぬ★★★

10月27日

●小口泰與
湯煙に誘われ落つるもみじかな★★★
峪もみじ激つ瀬力ゆるめざる★★★

高らかに馬の雄叫び秋高し★★★★
秋空高くいななく馬の声が響く。秋空につやつやと映える馬の毛並も健康的だ。雄々しく、高らかなものに触れるとすがすがしい思いになる。(高橋正子)

●河野啓一
大和川秋水注ぐちぬの海★★★
秋日和六甲山は西の空★★★
柿二つ枝に揺れおり昼下がり★★★

●多田有花
故郷の庭になりたる無花果食ぶ★★★★
無花果はもぎ取ると白い乳汁のようなものがでる。これがまた母郷を忍ばせて、人に懐かしさを覚えさせる。幼いころの思い出もふくめ無花果を食べたであろう。(高橋正子)

嵐去り峰のもみじ葉始まりぬ★★★
柿を干す陽のよくあたる軒先に★★★

●小西 宏
秋高し母誕辰の小さな窓★★★
大柄の葉に秋深しプラタナス★★★
辛酒を酌んで次第に暮れの秋★★★

●古田敬二
見事さを土に並べて掘る甘藷★★★
鍬先に期待の大きさ薩摩芋★★★
夕風に吹かれしなやか芒叢★★★

●桑本栄太郎
双葉菜の稚き列のうねりけり★★★
畝ごとの背丈や秋の蔬菜畑★★★
放棄田の風透き通る泡立草★★★

●高橋秀之
ゆっくりと歩む金木犀の横の道★★★★
「横の道」と言ったとろこに真実味がある。金木犀のいい香りに、歩みがゆっくりとなった。肺には金木犀の香りが満ちていることだろう。(高橋正子)

空からの眩しい木漏れ日薄紅葉★★★
一面の堤のススキは同じ向き★★★

10月26日

●迫田和代
ごみ箱にごみのない部屋秋晴れや★★★
遠く来て違う秋晴れ空仰ぎ★★★

大橋に車多くて秋深し★★★★
秋も深まり、行楽日和ともなれば、大橋を渡る車も俄然増える。これも「秋深し」の中の光景に違いない。(高橋正子)

●小口泰與
白樺のもみじや志賀の空ゆたか★★★★
「空ゆたか」の感じ方が素晴らしい。志賀高原の空に映える白樺の黄葉は、透明感があって、それいてゆたかなのがいい。(高橋正子)

山裾を飛びゆく霧や笹の音★★★
しゃりしゃりとりんごを食むや志賀の空★★★

●祝恵子
小粒の実雨に光らせ実紫★★★

今朝の雨干されし稲の雫落つ★★★★
稲架に掛けられた稲が、今朝の雨の雫を落としている。静かにそろった稲の穂先と伝う雨雫に秋のわびしさが読める。(高橋正子)

鵙猛る雨去りいまだ暗き空★★★

●桑本栄太郎
黄葉初む銀杏並木や青空に★★★★
銀杏は、黄葉するのが思ったよりも遅いと私はいつも思うのだが、黄葉し始めると、なにか嬉しい気持ちになる。黄葉し始めた銀杏並木が青空に聳えているのも、美しい景色だ。(高橋正子)

朝日射す狭庭明るく杜鵑草★★★
山里の道のすがらや威し銃★★★

●古田敬二
作務僧が床掃く本堂秋入日★★★
だんじりの屋根の御幣に秋の風★★★

我が家まで木犀香る雨の午後★★★★
「雨の午後」が効いている。ちょっとつまらない雨の日も我が家まで、木犀が香ってくれるとうれしい。(高橋正子)

●河野啓一
通天閣商店街の秋夕日★★★

寺町の坂をひらひら秋の蝶★★★★
寺町という落ち着いたところの、それも坂道を、ひらひら秋の蝶が飛んでいる。静かで、あかるく、秋の蝶がことさらに輝いている。(高橋正子)

秋空にひびくうたごえデイの午後★★★

●小西 宏
ポケットに手を入れ暮れの秋の街★★★★
秋の夕方の街。そぞろ寒さに手が自然にポケットに入る。そしてポケットに手を入れたまま歩く自画像もまた、秋の暮を象徴しているのだ。(高橋正子)

台風に土ごと濡れし野原踏む★★★
団栗をごつり踏みゆく足の裏★★★

10月27日(日)

★ふっくらと茶の花咲いて鳥の声  正子
「茶の花」を「ふっくら」と捉えられたところに、茶畑のふくらみ、茶の花の清楚な柔らかさを感じさせてくれます。そこに透き通って聞こえる小鳥の声。(小西 宏)

○今日の俳句
月昇る遥かに海を広げつつ/小西 宏
「海を広げつつ」に、新鮮な驚きがあり、臨場感がでた。月が昇るにしたがって、遥かの海を照らしていく。海の波がはっきり見てくる。少し寂しい月の夜である。(高橋正子)

○実蔓(さねかずら)

[実蔓/東京白金台・国立自然教育園]

 ★葉隠れに赤き鹿の子の実蔓/かるがも
 ★葉隠れに息飲む色の実蔓/かるがも

 サネカズラ(実葛、学名: Kadsura japonica)はマツブサ科サネカズラ属の常緑つる性木本。ビナンカズラ(美男葛)ともいうが、これは昔、つるから粘液をとって整髪料に使ったためである。葉は長さ数cmでつやがあり、互生する。ふつう雌雄異株で、8月頃開く花は径1cmほど、10枚前後の白い花被に包まれ、中央におしべ、めしべがそれぞれ多数らせん状に集まる。雌花の花床は結実とともにふくらみ、キイチゴを大きくしたような真っ赤な丸い集合果をつくる。花は葉の陰に咲くが、果実の柄は伸びて7cmになることもあり、より目につくようになる。単果は径1cmほどで、全体では5cmほどになる。果実は個々に落ちて、あとにはやはり真っ赤なふくらんだ花床が残り、冬までよく目立つ。
 関東地方以西、西日本から中国南部までの照葉樹林によく見られる。庭園に植えることもある。盆栽として栽培もされる。果実を漢方薬の五味子(チョウセンゴミシ)の代わりに使うこともある。古歌にもしばしば「さねかづら」「さなかづら」として詠まれ、「さ寝」の掛詞として使われる。
 名にし負はば 逢坂山のさねかづら 人に知られで くるよしもがな(藤原定方、百人一首25/後撰和歌集)

◇生活する花たち「秋の野芥子・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)