11月8日

●小口泰與
冬耕や風のえぐりし岩襖★★★
北風に対い自転車懸命に★★★
夕暮れや赤城颪に対いゆく★★★

●小川和子
新しき朝よ聖なる山茶花よ★★★★
新しい朝が来て、山茶花が咲く。山茶花のきよらかなこと。季節の新鮮さが山茶花を「聖なる」と呼ばせた。(高橋正子)

風に乗りからからと舞う桜紅葉★★★
絹糸のごとき雨脚冬に入る★★★

●多田有花
よく晴れし冬の窓辺に鳥の声★★★★
気持ちよく晴れた窓辺はそれだけでも嬉しいが、鳥の声が聞こえればなお楽しくなる。鳥も冬晴れの天気を喜んでいる。鳥は友だ。

冬ぬくし薄き上着を脱ぎにけり★★★
冬菊やいま頂点に咲き誇る★★★

●桑本栄太郎
大根の味のしみ込む冬来たる★★★
バスを止め徒歩の家路や冬ぬくし★★★

散り頻る桜紅葉の落葉踏む★★★★
散る紅葉を惜しみつつも、色とりどりの紅葉を踏むちょっとした楽しさ。俳句だから言えるような心の内である。(高橋正子)

●古田敬二
木の実落ち三度踊ってから止まる★★★

落葉道桜欅と続きけり★★★★
落葉の降る道が、桜の紅葉、次に欅の黄葉と続いて、もみじの美しい変化が楽しめる。桜並木、欅並木と続いているのであろうが、はるか遠くへ続く道である。(高橋正子)

筋播きの大根芽生えやや曲がり★★★

●小西 宏
新しき風の匂いや冬初め★★★

篠懸の落葉踏み行き風の澄む★★★★
篠懸の落葉が続く道は瀟洒な風景だ。落葉を踏んでゆけば、風の澄む世界に入る。作者の目が澄まされたのだ。(高橋正子)

初冬の木立に細き夕の月★★★

11月7日(木)/立冬

  琵琶湖
平らかな湖水に向きて冬はじめ/高橋正子
お天気に恵まれた湖北吟行での情景と思われます。波一つない平らかな湖の広がりに心も澄みわたるようです。満々と水を湛えた湖面の輝かしさに、心明るく穏やかな冬のはじまりです。(藤田洋子)

○今日の俳句
しんとある鵜船の河畔冬初め/藤田洋子
「しんと」の擬態語がこの句のよさ。鵜飼の季節を終えた鵜舟が置かれている河畔の風景に、初冬に対する作者の気持ちが良く出ている。(高橋正子)

○立冬(冬立つ・冬に入る・冬来る/ふゆきたる・今朝の冬)
★百姓に花瓶売りけり今朝の冬 蕪村
★菊の香や月夜ながらに冬に入る 子規
★蜂の巣のこはれて落ちぬ今朝の冬 鬼城
★立冬やとも枯れしたる藪からし 亞浪
★冬来たる眼みひらきて思ふこと 鷹女

★妻子居て味噌汁うまし今朝の冬/高橋信之
★立冬の洗濯機なりよく回る/高橋正子

○神代植物公園
11月6日、調布市にある神代植物公園へ初めて出かけた。東京都の植物園では、三番目に人が多く訪れる植物園とのこと。三鷹駅からも、調布市のつつじが丘駅からもほぼ二十分ほどバスに乗ったところにあり、そばに深大寺がある。この日の見ごろは秋の薔薇とダリアであり、入り口では、盆栽仕立ての菊花展があった。入り口右手にダリア園があり、園の中央の広い場所に薔薇園がある。初夏の薔薇と違って、やはり、華やかさには欠けるが澄んだ花の色と、咲きほどける様子が美しい。中央に噴水が幾本もあがり、カリヨンの音色が響いている。薔薇園の向こうに大温室がある。水生植物園は、また別のところにある。薔薇園を楽しんだあと、武蔵野の面影の残る雑木林を抜けて、椿・さざんか園へ行く。椿は蕾が固い。山茶花は散ったのもあれば、見ごろのもある。紅葉には少し早い植物園であった。芝生広場には、パンパスグラが白い穂を風にそよがせていた。売店で軽食とアイスクリームを買い昼食とした。
 神代植物園へは自宅からグリーンラインで中山まで行き、JR横浜線に乗り換え八王子まで。八王子から中央線に乗って三鷹駅下車。そこより調布駅北口行のバスにのり、植物園前で下車。帰りは植物園前から京王線のつつじが丘駅までバスでゆき、そこより、京王線の橋本駅行きにのり、京王稲田堤で下車。徒歩五分ほどで南武線稲田堤駅まで。そこから武蔵小杉駅まで乗り、東横線に乗り換えて日吉、それからグリーンラインで日吉本町という行程をとった。朝九時半に出かけ、四時前の帰宅となった。
稲田堤の小さいの和菓子店をのぞき、白小豆の羊羹と、すはまを買った。白小豆は初めて見たが確かに小豆の白いものである。鬼饅頭(蒸しパンにサツマイモの角切りをのせたもの)も売っていて、この店を開いて三年ということであった。どうも、定年退職後の商売であるようだった。

JR横浜線で八王子へ、
★空晴れて穭田の生きいきとみどり/高橋信之
神代植物園三句
★山茶花の気ままに風に吹かれいる/〃
★秋の陽がさんさん白ばらに吾に/〃
★紫の秋ばら今日を静かに咲く/〃
★秋の陽の射し来てダリアの黄が鮮烈/〃

行き
★秋空の車窓はすでに武蔵野へ/高橋正子
★秋の野を下る電車にある速さ/〃

植物園
★カリヨンの響き渡れる秋の薔薇/高橋正子
★月光のうすむらさきの秋の薔薇
★ケネディを称えかなしも白き薔薇
★リンカンに捧ぐは紅濃き秋の薔薇
★秋日差しうすくれないの薔薇咲かす
★日の光あやに畳みて露の薔薇
★秋の日を眩しみ歩む薔薇の園
★武蔵野の林に入れば薄紅葉

帰り
★行けど知らぬ秋の武蔵野駅いくつ
★多摩川を越えて懐かし秋野原

○山茶花(さざんか)

[山茶花/横浜日吉本町]

★山茶花のここを書斎と定めたり 子規
★山茶花や日南に氷る手水桶 碧梧桐
★霜を掃き山茶花を掃くばかりかな 虚子
★山茶花や生れて十日の仔牛立つ 秋櫻子
★山茶花の樹々が真黄に母葬る 多佳子

山茶花が咲き始めると、もう、冬が近いんだぞと思う。冬物の服を早めに出したり、炬燵は、ストーブは、と冬支度が始まる。焚火の煙がうすうすと上って匂ってきたりすると、暖かいところが恋しくなる。椿と山茶花の違いはとよく効かれるが、山茶花は花弁が一枚一枚分かれて、咲き終わると散る。赤や白だけでなく、ほんのりピンクがかったものから、また八重のものまでいろんな花があるようだ。椿ほど改まってなくて、親しみやすい花だ。山茶花の垣根からいい匂いがこぼれると、そこを通るのがうれしい。

★山茶花の一期一会の花と吾/高橋信之
★山茶花にこぼるる目白の声ばかり/高橋正子

サザンカ(山茶花、学名:Camellia sasanqua)は、ツバキ科ツバキ属の常緑広葉樹で、秋の終わりから、冬にかけての寒い時期に、花を咲かせる。野生の個体の花の色は部分的に淡い桃色を交えた白であるのに対し、植栽される園芸品種の花の色は赤や、白や、ピンクなど様々である。童謡「たきび」(作詞:巽聖歌、作曲:渡辺茂)の歌詞に登場することでもよく知られる。漢字表記の山茶花は中国語でツバキ類一般を指す山茶に由来し、サザンカの名は山茶花の本来の読みである「サンサカ」が訛ったものといわれる。
日本では山口県、四国南部から九州中南部、南西諸島(屋久島から西表島)等に、日本国外では台湾、中国、インドネシアなどに分布する。なお、ツバキ科の植物は熱帯から亜熱帯に自生しており、ツバキ、サザンカ、チャは温帯に適応した珍しい種であり、日本は自生地としては北限である。サザンカには多くの栽培品種(園芸品種)があり、花の時期や花形などで3つの群に分けるのが一般的である。サザンカ群以外はツバキとの交雑である。

◇生活する花たち「山茶花(さざんか)」(東京調布・神代植物園)

11月7日

●小口泰與
十州の境ありけり信濃柿★★★

秋ばらの瑞枝立ちけり朝日起つ★★★★
神代植物公園で、秋ばらを見たばかりなので、「瑞枝立ちけり」は、地味ながらよく実感できる。すっくと伸びた瑞枝に朝日が当たると、「朝日起つ」となる。眩しくやわらかな瑞枝である。(高橋正子)

塵泥(ちりひじ)のすそ野巨大やそばの花★★★

●桑本栄太郎
小雨降りはらり眼前や柿紅葉★★★
陸橋の手のうちなりし銀杏黄葉★★★
新駅のホームはずれや藁の塚★★★

●多田有花
立冬の山寺風が吹くばかり★★★

本棚の歳時記入れ替え冬に入る★★★★
歳時記も一冊になったものもあれば、四季分冊になったものもある。立冬の今日、普段よく読み使う歳時記を本棚に入れ替えた。これも冬用意の一つ。(高橋正子)

ランドセルほどの白菜抱え出る★★★

●小西 宏
秋空は高き欅の触れる処★★★★
秋空は高い欅の聳えるところにある。秋空の青さに欅黄葉が触れているのは美しいがそれを見事に詩的表現に変えた。(高橋正子)

立冬の雨に聞こえる園児の歌★★★
よちよちと歩くおつむに落葉ふる★★★

●河野啓一
桜紅葉散り初む小道今朝の冬★★★
桜紅葉色濃くなりて雨もよい★★★
森の辺の時雨群れ行く鴉かな★★★

11月6日(水)

★紺碧の天と対いて刈田あり  正子
刈田跡の広々とした上空には真っ青な秋の空があり、刈田と紺碧の空の間の空間が更に大きく広がって感じる・・・。晩秋の秋晴れの情景が清々しい一句です。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
バス待つ間も金木犀の充ち来る香/桑本栄太郎
バスを待っている間にも、待てば待つほど金木犀の香りが濃厚になってくる。香りが溜まってくる。それが「充ち来る」であろうが、そういった感じ方に新しさがある。(高橋正子)

○桂黄葉(かつらもみじ)

[桂黄葉/横浜・四季の森公園]

★桂黄葉の下をくぐって森の公園/高橋信之
★黄葉して桂の一樹しかと立つ/高橋正子

カツラ(桂、学名:Cercidiphyllum japonicum)は、カツラ科カツラ属の落葉高木。日本各地のほか、朝鮮半島、中国にも分布する。街路樹や公園樹に利用され、アメリカなどでも植栽されている。日本で自生するものはブナ林域などの冷温帯の渓流などに多く見られる。高さは30mほど、樹木の直径は2mほどにもなる。葉はハート型に似た円形が特徴的で、秋には黄色く紅葉する。落葉は甘い香り(醤油の良いにおいに似ている)を呈する。成長すると主幹が折れ、株立ちするものが多い。日本においては山形県最上郡最上町にある「権現山の大カツラ」が最も太く、地上から約1.3mの位置での幹周が20m近くにまで成長している。中国の伝説では、「桂」は「月の中にあるという高い理想」を表す木であり、「カツラ(桂)を折る」とも用いられる。しかし中国で言う「桂」はモクセイ(木犀)のことであって、日本と韓国では古くからカツラと混同されている(万葉集でも月にいる「かつらをとこ(桂男)」を歌ったものがある)。用途として、街路樹として植えられるほか、材は香りがよく耐久性があるので、建築、家具、鉛筆などの材料に使われる。また、碁盤、将棋盤にも使われるが、近年は市場への供給が減っており、貴重な木材となりつつある。桂皮(シナモン)は、同じ桂の字を使うがクスノキ科の異種の樹皮である。

◇生活する花たち「茶の花・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)

11月6日

●小口泰與
りんうや遠の連山引き寄する★★★

単線の尾灯はるけき刈田かな★★★★
もう暗い夕方であろうか。刈田の中を走り過ぎる電車の尾灯遠く見送る。しかも「単線の尾灯」であるから、「はるけき」に込められた気持ちもしみじみと読み手に伝わる。(高橋正子)

秋ばらの瑞枝あえかや風の中★★★

●祝恵子
秋のバラびろうど色が目に溢れ★★★
幼子と広場でおにぎり秋の芝★★★★

幼子と食事をするのは、ことに戸外なら、心なごんで楽しいものだ。広々とした秋芝の上でおにぎりを頬張るひと時が和やかだ。(高橋正子)

秋小雨抹茶の泡の口当たり★★★

●多田有花
冬隣る朝日が屋根を染めてゆく★★★
秋惜しみつつ少し遠くまで歩く★★★
あったかいお弁当です冬隣★★★★
お弁当は冷めていてもおいしいものだが、冬隣となれば、やはり温かい弁当が嬉しい。それをそのまま句にした。(高橋正子)

●桑本栄太郎
日を透きし尾花の波の丘の上★★★
写メールの青空添える照葉かな★★★★
葉の色の枝垂れ黄色や萩は実に★★★

●河野啓一
木の実落つ音一つ拾いけり★★★★
木の実を実際に拾ったのではなく、「音一つ拾いけり」と解釈したが、これが面白い。音を拾って、実際木の実を拾ったと同じ気持ちになる。
それも、心楽しいことと思われる。(高橋正子)

桜道ほんのり紅く冬近し★★★
交差点黄色く染まり秋は往く★★★

●小西 宏
葉の紅き欅も風に葉を鳴らす★★★★
欅のもみじは、黄色が主だが紅色も混じる。それも残らず「もみじ」がうち揃って風に葉を鳴らしている。欅の葉が鳴る音が言葉となって聞こえそうだ。(高橋正子)

黄落の道に陽の影細くあり★★★
西空の茜に月や暮れの秋★★★

11月5日(火)

★紺碧の天と対いて刈田あり  正子
やや黒みをおびた秋空の蒼に対いて、稲を刈り終わったあとの田は面がにわかに広々として、一面に切り株が並ぶ刈田と秋の透き通った蒼空との対比が素晴らしいですね。(小口泰與)

○今日の俳句
ままごとのお椀かろしや赤のまま/小口泰與
「お椀かろし」がいい。作者はたわむれにままごとのお客になったとも思えるが、赤のままをいれたお椀があまりにも軽いこと、そこに感銘がある。(高橋正子)

○黒鉄黐(クロガネモチ)

[黒鉄黐/横浜・四季の森公園]

★赤がうれし黒鉄黐に朝が来て/高橋正子

クロガネモチ(黒鉄黐、学名 Ilex rotunda)は、モチノキ科モチノキ属の常緑高木。高木に分類されるものの、自然状態での成長は普通10m程度にとどまり、あまり高くならない。明るいところを好む。葉は革質で楕円形やや波打つことが多く、深緑色。表面につやがある。若い茎には陵があり、紫っぽく色づくことが多い。春4月に新芽を吹き、葉が交替する。雌雄異株で、花は淡紫色、5月から6月に咲く。たくさんの果実を秋につける。果実は真っ赤な球形で、直径6mmほど。本州(茨城・福井以西)・四国・九州・琉球列島に産し、国外では台湾・中国・インドシナまで分布する。低地の森林に多く、しばしば海岸林にも顔を出す。しばしば庭木として用いられ、比較的都市環境にも耐えることから、公園樹、あるいは街路樹として植えられる。「クロガネモチ」が「金持ち」に通じるから縁起木として庭木として好まれる地域もある。西日本では野鳥が種を運び、庭等に野生えすることがある。材木は農機具の柄としても用いられる。

◇生活する花たち「秋の野芥子・銀木犀・金木犀」(横浜日吉本町)

11月5日

●小口泰與
蔓も葉も寡ってお粥やさつま芋★★★
写真家の山路行きかうもみじかな★★★
蒼空や覚満淵の草もみじ★★★

●河野啓一
木枯しの吹きしとテレビ伝えけり★★★
並木道桜紅葉はうす紅葉★★★
木々の葉の散り初め街に冬近し★★★

●桑本栄太郎
山粧ふ山に向かいて丘をゆく★★★★
「山に向かいて」も「丘をゆく」おおらかなリズムがある。そのリズムが内容とマッチして素晴らしい。(高橋正子)

数珠玉や遠きふるさと想いおり★★★
草むらのみどりに絡む赤のまま★★★

●小西 宏
霧雨のそこにあるべきスカイビル★★★

冬近し青染み来る朝の窓★★★★
「青染み来る」の感覚の冴えが、「冬近し」をよく捉えている。厳しくも大変美しい朝の窓である。(高橋正子)

うす赤き鎌の月なり暮れの秋★★★

●多田有花
下山する木枯し一号吹く中を★★★★
近畿地方ははや木枯しが吹いたという。第一号の木枯し下山を余儀なくされた、というより、木枯しに付き添われて下山した感じだ。(高橋正子)

秋山に詩吟する人笛吹く人★★★
猪が土掘り起こす山路かな★★★

11月4日(月)

★ポプラ黄葉雲寄り雲のまた流る  正子
ポプラの大きな樹も黄葉になったきた。その黄葉に寄り添うように又、流れるように雲がゆくのが見える。(祝恵子)

○今日の俳句
芒日を透かしておりぬ寺静か/祝恵子
日当たりのよい寺はだれも居ぬようだ。芒が日を透かし、これ以上ないような静けさと、穏やかな明るさが思われる。(高橋正子)

○ナガボノシロワレモコウ

[ナガボノシロワレモコウ/東京白金台・自然教育園]_[吾亦紅(ワレモコウ)/横浜市港北区松の川緑道]

  東京白金台・自然教育園
★吾亦紅の白花を垂れ池近し/高橋信之
  百花園
★吾亦紅スカイツリーのある空に/高橋正子
  松山
★吾亦紅コーヒー店のくらがりに/高橋正子

 吾亦紅をこれでもか、というほど見た。四季の森公園、近所の庭。しかし、白い吾亦紅があるのは、思いもしなかった。ナガボノシロワレモコウというのがあると、自然教育園の写真を見せてくれた。穂が長いので、一見ワレモコウには見えない。

★まぼろしのごとくナガボノワレモコウ/高橋正子

 ナガボノシロワレモコウ(Sanguisorba tenuifolia)は、バラ科ワレモコウ属の多年草で、湿原や湿性の草原に生育する。北海道・関東地方以北の本州、樺太に分布するが、中国地方などにも隔離分布している。湿原に生育する植物は、氷河時代に分布したものが生き残っていることがあり、ナガボノシロワレモコウもその例の1つである。地下に太い根茎があり、8月から10月にかけ、高さ1mほどの茎を出して花を付ける。茎の上部は枝分かれして長さ2~5cm程の花穂を出し、長いものは垂れ下がる。花は先端から咲き始め、花弁はない。萼片は4枚で白色であり、これが花の色となっている。雄しべは4本で長く、黒い葯が目立つ。葉は11~15の小葉からなり、小葉の幅は狭いく、三角形の鋸歯がある。
 ワレモコウ(吾亦紅、吾木香)は、バラ科・ワレモコウ属。日本列島、朝鮮半島、中国大陸、シベリアなどに分布しており、アラスカでは帰化植物として自生している。草地に生える多年生草本。地下茎は太くて短い。根出葉は長い柄があり、羽状複葉、小葉は細長い楕円形、細かい鋸歯がある。秋に茎を伸ばし、その先に穂状の可憐な花をつける。穂は短く楕円形につまり、暗紅色に色づく。「ワレモコウ」の漢字表記には吾亦紅の他に我吾紅、吾木香、我毛紅などがある。このようになったのは諸説があるが、一説によると、「われもこうありたい」とはかない思いをこめて名づけられたという。また、命名するときに、赤黒いこの花はなに色だろうか、と論議があり、その時みなそれぞれに茶色、こげ茶、紫などと言い張った。そのとき、選者に、どこからか「いや、私は断じて紅ですよ」と言うのが聞こえた。選者は「花が自分で言っているのだから間違いない、われも紅とする」で「我亦紅」となったという説もある。

◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

11月4日

●小口泰與
ひつじ田や初冠雪の浅間山★★★

牧の馬声高らかや草の花
牧馬の声高らかや草の花★★★★(正子添削)
「声高らかや」に「草の花」を対比させたので、句の情景が大きくなった。馬の嘶きも空高く届き、草が花をつけた牧場が広がる。晴れやかで、穏やかな牧場を想像させる。(高橋正子)

ひつじ田や雲影抱く山の肌★★★

●河野啓一
コリウスの色鮮やかに秋深し★★★
孫二人柿の熟しを待つごとく★★★

黄落の大往生や叔父逝きぬ★★★★
黄落の季節にあわせるように、大往生をされた。この世の生滅を自然のめぐりとして大きく受け入れている。ご冥福をお祈りいたします。(高橋正子)

●多田有花
紅葉愛でつつ岩棚の下で食事★★★★
岩棚の下は、屋根の下にいるようなもので、紅葉を愛でながらの食事は雰囲気が変わって愉快だろう。辺りの紅葉山の景色が想像できる。(高橋正子)

時雨来て今日の登頂断念す★★★
山里の秋の日暮れの早かりし★★★

●桑本栄太郎
坂道のお茶の花咲く垣根かな★★★
箒木の庭にもみづる山の里★★★

コスモスの風湧き上がる丘の畑★★★★
丘のコスモス畑。コスモスに吹いてきた風がコスモスを揺らし、包むように湧き上がっている。上昇気分の爽やかさがいい。(高橋正子)

●高橋秀之
雨上がり薄い日差しも空高く★★★
一鉢のコスモス僅かな風に揺れ★★★

秋の蝶ゆっくり羽ばたき大空へ★★★★
「ゆっくり」によって秋の蝶の存在が確かになっている。小さくも確かな蝶が大空へ羽ばたくのが印象的。(高橋正子)

11月3日(日)

★霧に育ち大根くゆりと葉を反らす  正子
「霧に育ち」で霧の流れてくる山間の大地に活き活きと育っている大根畑が浮かびます。その大地には白い大根の肩が見え、くゆりと反らした葉っぱも青々としています。当に収穫の時期を迎えた証しでしょうか。「大根の白」「葉っぱの青」「冷やかな霧」に初冬の景色のイメージを強く致します。 (佃 康水)

○今日の俳句
 霜降の日松の菰巻き
菰巻きや縄目きりりと立ち揃い/佃 康水
新しい菰で幹を蒔かれ、縄をきりりと結んだ木は、風格が一段と増して見える。冬越しの準備が整い、気持ちが引き締まる思いだ。(高橋正子)

○山鳥兜(ヤマトリカブト、鳥兜・鳥頭・かぶと花)

[ヤマトリカブト/横浜・四季の森公園]    [オクトリカブト/尾瀬ヶ原]

★今生は病む生なりき鳥頭(トリカブト)/石田波郷
★かぶと花手折りて何を恋ひゆくや/石原君代
★鳥兜毒持つことは静かなり/東金夢明
★オキシドール泡立ちており鳥兜/河村まさあき
★国境へ鳥兜の原広がりぬ/久保田慶子
  横浜・四季の森公園
★鳥兜のむらさき優しこの森は/高橋信之
★鳥兜斜めがちにて色淡し/高橋正子

 ヤマトリカブト(山鳥兜、学名:Aconitum japonicum)は、 キンポウゲ科トリカブト属の多年草。トリカブト属の中には、オクトリカブト、ミヤマトリカブト、ハコネトリカブトなどがあり、ヤマトリカブトは、オクトリカブトの変種で、中国原産。花の形が、舞楽のときにかぶる、鳳凰(ほうおう)の頭をかたどった兜に似ていることから「鳥兜」。また、山地に生える鳥兜なので「山~」となった。ふつう、「鳥兜」と呼ぶ場合は、この「山鳥兜」を指すようで、単なる「鳥兜」という名前の花はない。英名の”monkshood”は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意。
 トリカブト(鳥兜)の仲間は日本には約30種自生している。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。花時には草丈90~130cmほどになる。茎は斜上することが多く、稀に直立する。 秋に、花茎の上部にいくつかの青紫色の長さ4cmほどの兜(かぶと)型の花をつける。花の色は紫色の他、白、黄色、ピンク色など。葉は大きさはいろいろあり、径7~12cmほどの偏円形ですが、3~5深裂(葉の基部近くまで裂けている)し、裂片はさらに細かく中~深裂(欠刻状の鋸歯)しているのが特徴で、見た目では全体に細かく裂けているように見える。
 塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来「附子」は、球根の周り着いている「子ども」のぶぶん、中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。ドクウツギ、ドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされる。ヨーロッパでは、魔術の女神ヘカテーを司る花とされ、庭に埋めてはならないとされる。ギリシア神話では、地獄の番犬といわれるケルベロスのよだれから生まれたともされている。狼男伝説とも関連づけられている。富士山の名の由来には複数の説があり、山麓に多く自生しているトリカブト(附子)からとする説もある。また俗に不美人のことを「ブス」と言うが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある。10月13日の誕生花(鳥兜)、花言葉は「騎士道、栄光」(鳥兜)。

◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)