11月18日

●小口泰與
日を乗せて舟のくだるや小六月★★★★
下る舟を鳥瞰した図か。川をながめると、舟が日を乗せて下って行く。まさに小六月の日差しである。(高橋正子)

冬ばらの咲くに力の限りかな★★★
夢覚めて蹠つめたき仏間かな★★★

●小川和子
落葉踏む文学館へと続く道★★★
欅落葉どっと降らせて風去りぬ★★★★
一陣の風が欅の葉をどっと降らせたのだ。そして去って行った。風の又三郎の仕業を思う。見事というほかない。(高橋正子)

影を置くみずきに空の冴えゆけり★★★

●黒谷光子
団栗を踏みつつ山に佛花切る★★★★
光子さんは、仏花を探しに山へよく行かれる。花屋で求められるのではなく、この度は団栗を踏んで花を切った。季節折々の花や木の枝が気持ちを籠められて仏花となる。(高橋正子)

冬晴れの木の間はるかに竹生島★★★
あざやかに赤と黄杜の冬はじめ★★★

●多田有花
鉄塔がつなぐ山々十一月★★★★
冬になると、山々に立つ鉄塔が目につく。送電線が伸びて山々をつなぐ。ただそれだけの景色なのに、十一月の特徴をよく伝えている。(高橋正子)

峪深く金鉱跡や冬紅葉★★★
時雨去る露天のお湯にひとりいる★★★

●桑本栄太郎
散策の歩が伸び遠き冬田かな★★★★
散策も、ついつい予定より遠くへ来てしまった。そこからは、遠くに冬田が見える。望郷の冬田でもあるのだろう。(高橋正子)

冬紅葉どうだんつつじの緋の色に★★★
つわぶきや何処に在りても石の供★★★

11月17日(日)

★夜は軒陰に白菜星をほしいまま  正子
白菜がまるで人格を持っていて、軒下で星を眺めているような感覚があります。楽しい御句です。(多田有花)

○今日の俳句
街に入るひとかたまりの冬田過ぎる/多田有花
「ひとかたまりの冬田」が面白い。街にはいるまでは 冬田の景色を楽しむ。それから賑やかな街へだ。(高橋正子)

○皇帝ダリア

[皇帝ダリア/川崎市高津区子母口]      [皇帝ダリア/横浜日吉本町]

★植ゑかへてダリヤ垂れをり雲の峰 秋櫻子
★ダリア燃え浅寝の眼にはゆらぐなり 悌二郎
★うちあげしあはれ形代と黄ダリヤ 青邨
★千万年後の恋人へダリヤ剪る 鷹女

★皇帝ダリア咲かせて空のあやふさに/高橋信之

 皇帝ダリア(ダリア・インペリアリス)は、ダリアの原種でメキシコ原産で、木立ちダリア、帝王ダリア等の別名がある。草丈が3~4メートルにもなり、花はピンク色で直径約20センチメートルの大輪の花を茎の頂上につける。晩秋の頃、空にそびえて立つ姿は圧巻。
 ダリア(英語: dahlia、学名:Dahlia hybrida)は、キク科ダリア属の多年生草本植物の総称。観賞用に栽培。根は塊根で紡錘形に肥厚。高さ1~2メートル。葉は羽状複葉。夏から秋にかけ、頂に径5~15センチメートルの頭花をつける。花は一重または八重で、紅・白・黄・紫など、花色も花形も種類が多い。球根は非耐寒性であり、サツマイモに似た塊根。メキシコおよびグアテマラが原産地で、ヨーロッパに初めてもたらされたのは18世紀、スウェーデンの植物学者アンドレアス・ダール(Andreas Dahl)に因んで名づけられた。ナポレオンの皇后ジョセフィーヌの庭園で育てられたという。日本には1842年(天保13年)にオランダ人によってもたらされた。和名では「てんじくぼたん(天竺牡丹)」と呼ばれる。[季]夏。
 

◇生活する花たち「茶の花・花八つ手・木瓜」(横浜下田町・松の川緑道)

11月17日

●小口泰與
逆光をとらえ華やぐ枯尾花★★★
山茶花の二つ三つと咲きにけり★★★
小春日やお香の香り身の内に★★★

●河野啓一
ベランダの冬菜も摘んて鍋に入れ★★★★
ささやかなベランダ菜園。そこでの収穫はささやかさに反比例して嬉しいものだ。鍋の一品に加われば、なおのこと。(高橋正子)

無農薬無肥料続く庭の柿★★★
山茶花の苗をポットにお隣りへ★★★

●多田有花
小春日の谷あいの湯に母といる★★★★
鄙びた谷あいの湯はほっかりとした温かさがある。小春日和の暖かさも加わって、母と入る湯は深々としていい湯であっただろう。(高橋正子)

柿をもぐ小春の庭の広さかな★★★
冬紅葉囲む落人伝説の村★★★

●桑本栄太郎
ジャージーの校庭駆ける冬紅葉★★★
わた虫の浮かぶ葉陰の緋色かな★★★
籾摺りの日暮れて寒し精米所★★★

●小西 宏
葉の落ちて丸き枝先空へ張る★★★★
葉を落とした枝先に、「丸さ」を見た目が優しい。どんなに尖っているように見えても、よくよく見れば丸さがある。(高橋正子)

彩の木の葉ぶら下げプラタナス★★★
ハンバーガー買いシャンペンの小春かな★★★

●高橋秀之
朝食後みかんの皮が爪の先★★★
手に余る大きな荷物はみかん箱★★★

遠征の子の背に冬の朝日差す★★★★
遠征に出かける子を励ますような朝日の輝かしさ。それは親の心でもある。冬の朝日の緊張感と明るさが今日の試合の勝ちを約束しているようだ。(高橋正子)

11月16日(土)

★落葉ふる空の青さのどこまでも  正子
落葉の降る様を見上げていると、地に近づくに従い大きく広がっていくように見えます。その逆に、落ち葉の来る元は空の一点。焦点の如くどこまでも奥深くあり、その奥深くまでどこまでも青が深まっていくようです。先生の句から得た私の印象は、上の如きものでした。胸がいっぱいに広がる思いです。(小西 宏)

○今日の俳句
欅立つ落葉きらめく陽の中に/小西 宏
情景がよく整理されている。陽を受けてきらめきながら散る落葉。その中心に黄葉した大きな欅の存在が示されている。(高橋正子)

○欅黄葉(けやきもみじ)

[欅黄葉/横浜日吉本町]

★色付や豆腐に落て薄紅葉 芭蕉
★小原女の足の早さよ夕もみぢ 蕪村
★日の暮れの背中淋しき紅葉哉 一茶
★山に倚つて家まばらなりむら紅葉 子規
★瀑五段一段毎の紅葉かな 漱石
★阿賀川も紅葉も下に見ゆるなり 碧梧桐
★たかあしの膳に菓子盛り紅葉寺 虚子
★紅葉してしばし日の照る谷間かな 鬼城
★山門に赫と日浮ぶ紅葉かな 蛇笏
★岩畳をながるゝ水に紅葉かな 石鼎
★黄葉一樹輝きたてり紅葉山 泊雲

★仰ぎ見る欅黄葉と青空を/高橋信之
★欅黄葉いま北国の空が欲し/高橋正子

 千葉公園には、イロハモミジ、イチョウ、トウカエデ、ケヤキ、カツラ、ニワウルシ、シマサルスベリ、トチノキ、ハナミヅキ、ヒメシャラ、ドウダンツツジなどの紅葉・黄葉する樹木があります。10月中~下旬からケヤキ、サクラ、カツラなどが色づきはじめ、11月上旬から中旬にイロハモミジ、トウカエデ、トチノキが見ごろになり、11月下旬から12月上旬にはボタン園の大イチョウが見事な黄葉を見せます。
 今年の紅葉の見ごろ時期は、(社)日本観光振興協会の予想によれば「例年よりやや遅くなる見込み」だそうです。因みに東京(明治神宮外苑)の見ごろ時期は、12月上旬~中旬(例年11月下旬~12月上旬)の予想です。
 紅葉は最低気温が8度になると始まり、5~6度以下になると色づきが進むといわれます。前記の予想は、9月の平均気温から予想する気象庁作成の予測式を用いており、今年は9月の平均気温が例年より高かったため、紅葉の見ごろが「やや遅れる」予想結果となっています。
 紅葉・黄葉の色は樹種によって概ね同じですが、ケヤキの場合は、黄~橙~赤と樹木によって紅葉の色が異なります。同一の樹木が年によって紅葉色が変わることはなく、樹木の個体ごとに紅葉する色が遺伝的に決まっていることが分かっています。千葉公園でも、黄色のものから赤色のものまで色とりどりのケヤキが見られます。(千葉市のホームページより)

◇生活する花たち「十両(やぶこうじ)・万両・白文字(しろもじ)」(東京白金台・国立自然教育園)

11月16日

●迫田和代
花柚子の話の渦に故郷を★★★★
「花柚子」は、柚子の花のことではなく、本柚子に対して花の香りを楽しむもので料理の付け合わせやジャムなどに主に利用されるとのこと。花柚子の話題が盛り上がり、故郷の花柚子を思い起こした。話題が自分の心に広がった。(高橋正子)

遠回り桜紅葉の落花避け★★★
秋雨や遠い旅にも別れあり★★★

●小口泰與
小春日や木組み大橋奈良井宿★★★
山茶花のつぼみほころぶ朝かな★★★
帰り花はらから集う法事かな★★★

●多田有花
枯蓮の無残を愛でて池巡る★★★
階段を下りる足音冬の朝★★★
お湯を出て母と眺める冬紅葉★★★

●桑本栄太郎
小雨降る川の真中やつがい鴨★★★
柿灯る雨の明かりの土塀かな★★★

もみづれば在所愛しくありにけり★★★★
もみじすると、いつも住まうあたりも美しくなり、なかなか良いところではないかと改めて思う。(高橋正子)

●黒谷光子
万歩計つけて駅へと冬帽子★★★★
「万歩計」と「冬帽子」とのとりあわせが自然であって、絶妙。防寒に帽子を冠り、しっかりと歩く。心身ともに健やか。(高橋正子)

近道をして通る路地花八つ手★★★
夕映えになお濃く燃えて冬紅葉★★★

●河野啓一
日の中に庭の小菊の咲き乱れ★★★
山茶花の真白に咲けるしおらしさ★★★
冬バラの小さき花のわびしくて★★★

●祝恵子
市場ではマグロの解体呼び物に★★★
イベントに大魚の並ぶ冬始め★★★
水槽の河豚一匹を掬い見せ★★★

●小西 宏
雲がありその影があり雪の富士★★★

【原句】しんとして湖みどりなる冬木立
【添削】しんとして湖(うみ)みどりなり冬木立★★★★
冬木立としんとしずまった湖のみどり。静謐な絵画を見るようだ。そしてまた、洒落た句だ。(高橋正子)

街路樹の枝光りだす冬初め★★★

11月15日(金)

★たて笛の音色幼し冬初め   正子
たて笛を吹いているのは、きっと小学生、それも低学年の子どもなのでしょう。冬の初めに聴こえる幼さの感じる音色はここまでの子どもの成長も感じられる音色だと思います。 (高橋秀之)

○今日の俳句
大根を手に余らせてすりおろす/高橋秀之
大きな水気たっぷりの大根がすぐさま思い浮かぶ。手に余るほどの大根を摩り下ろすのは、ちょっと大変だが、それも大根らしいところ。(高橋正子)

○桜落葉

[桜落葉/横浜日吉本町]

★踏みてゆく桜ばかりの落葉かな/野村喜舟
★桜落葉嵩なしてゐる兵舎跡/皆川盤水
★納骨へ桜落葉の坂くだる/宮津昭彦
★いつの間に桜紅葉の落葉して/稲畑汀子

★すれ違う彼も桜の落葉踏む/高橋信之
★桜落葉が靴をうずめるほどの道/高橋正子
★桜紅葉水平線のけむりたる/高橋正子

 新宿御苑の桜落葉:今日も朝から雨模様。とはいえ、雨が雪に変わりそうなほどの寒さも今日はいく分か和らぎました。昨日から続く雨に、しっとりと舞い落ちたサクラの葉。イギリス風景式庭園では、地面に色とりどりの落ち葉のじゅうたんが敷き詰められました。おなじみの場所でも、落ち葉が積もると、ずいぶん雰囲気が変わるものですね。武蔵野の雑木林を思わせる母と子の森は、さまざまな種類の紅葉が楽しめる自然観察フィールド。野山の木々の色づきのような、素朴な味わいが魅力です。
 じつは、ここ母と子の森も、落ち葉のじゅうたんを楽しめるスポットのひとつ。地面にきれいな色模様を描いているのはサクラの落ち葉。しっとりと水分を含み、踏みしめると足に柔らかな感触が伝わります。木の枝についていた時はピンと張りつめていた葉も、落葉するとくるくると丸まり、何とも可愛らしい印象に。春に芽吹き、夏の太陽をめいっぱい浴びた葉が、いま役割を終えて、最後の彩りをのせて散り落ちていく。季節とともに巡る、自然の息づかいを身近に感じ、落ち葉の一枚一枚もいとおしく思えてきます。コンクリートの多い都会では落ち葉を掃除してしまうことがほとんどですが、新宿御苑では、園路など安全への配慮が必要な場所と、葉を残す場所を分けて管理を行っているため、自然のままに降り積もる落ち葉も楽しめます。(新宿御苑のホームページより)

◇生活する花たち「薬師草・山茶花・桂黄葉」(横浜四季の森公園)

11月15日

●小口泰與
冬霧の覆わる丘の灯しかな★★★★
詩情のある句。冬霧に覆われた丘に静かに点る灯が、なお柔らかな灯となっている。冬霧の季語が効いている。(高橋正子)

トンネルを出づや目交冬紅葉★★★
素朴なる冬の黄葉や奈良井宿★★★

●河野啓一
柿の葉の実を養えば色褪せず★★★
坂道を下れば浜辺冬の浪★★★
枯れ蓮の残りし池や散歩道★★★

●小西 宏
梯子より上は鴉に柿を干す★★★

子のひとり落葉の中の滑り台★★★★
落葉の積る公園だろうか。ひとりの子どもが滑り台をしている。幾度も幾度も滑っているのだろう。滑り台を楽しむというより、好きで集中している子に面白さ、頼もしさを見る。(高橋正子)

静空の枝に音触れ木の葉ふる★★★

●桑本栄太郎
活き活きと雨の畑の冬菜かな★★★
ワイパーの時折振れて時雨れけり★★★
蔦紅葉バスの家路の坂道に★★★

●多田有花
近隣の銀杏色づき冬の雨★★★
雨あがりすぐに日差しや冬紅葉★★★
昼の陽に蝶の飛び来て冬菜畑★★★

11月14日(木)

★鴨泛かぶ池の青さのまっ平ら  正子
冬の到来とともに鴨の大軍が飛来する。旅の疲れからか青く澄んだ池にうかぶ。鴨がいない時と違って鴨の存在によって池の青さと水面の真っ平らであることが一層はっきりする。池に射す陽光も穏やかで初冬の穏やかな一日を鴨とともに享受する作者を想像する。 (古田敬二)

○今日の俳句
木の実あまた落ちたばかりの輝きに/古田敬二
落ちたばかりの木の実は、驚くほどつやつやしている。それが「あまた」なので、あたりの森や、その木のゆたかさが思われるできる。(高橋正子)

○石蕗の花(つわのはな)

[石蕗の花/横浜日吉本町]         [石蕗の花/横浜いずみ野]

★せせらぎの水音止まず石蕗の花/高橋正子
★葉の強さよりも明るき石蕗の花/高橋正子

 ツワブキ(石蕗、艶蕗、学名:Farfugium japonicum)とはキク科ツワブキ属の多年草。イシブキ、ツワともいう。ツワブキの名は、艶葉蕗(つやばぶき)、つまり「艶のある葉のフキ」から転じたと考えられている。沖縄方言では「ちぃぱっぱ」という。日本では本州の福島県・石川県以西から四国、九州、琉球諸島(大東諸島と魚釣島を除く)に、日本国外では朝鮮半島、中国、台湾に分布する。低地から山地の日陰や海岸に多い。有毒物質のピロリジジンアルカロイドを含有している。
 多年草で、草丈は50cm程度。地下に短い茎があり、地上には葉だけが出る。葉は根生葉で葉身は基部が大きく左右に張り出し全体で円形に近くなる。長い葉柄を持ち、葉柄は大きく切れ込んだ葉身の中心につく。これらの点はフキによく似ている。その葉は厚くて表面につやがあり、緑色が濃く、若いときには綿毛が多い。花期は10-11月。葉の間を抜けて花茎を伸ばし、その先端に散房花序をつけ、直径5cm程度の黄色い花を数輪咲かせる。フキが夏緑性であるのに対して、ツワブキは常緑性である。
 日陰でもよく育ち、園芸植物として、日本庭園の石組みや木の根元などに好まれる。斑入りの葉を持つものもある。民間薬(生薬名たくご)として、茎と葉を打撲や火傷に用いる。フキと同じように茎を食用とすることもあり、フキを原料にした煮物と同様に「キャラブキ」と呼ばれることもある。津和野町の名前の由来は「石蕗の野」であるという。
 俳句歳時記では「石蕗の花」が冬の季語となっている。

◇生活する花たち「椿・野葡萄・くこ」(横浜市都筑区東山田)

11月14日

●小口泰與
赤城より風にはらりと時雨かな★★★
北颪ビルの谷間を駆け行けり★★★
冬ばらの新芽あえかや風の中★★★

●祝恵子
楽しみは湯葉と湯豆腐京歩き★★★★
湯葉と湯豆腐はいちばん京都らしい料理。丁寧にこまやかな心配りの行き届いた湯葉と湯豆腐の料理は、心が和むもの。それを楽しみにというのもほのかな温もりが感じられる句。(高橋正子)

窓越しに一輪ざしの椿挿し★★★
石蕗の路地を入れば通り雨★★★

●多田有花
ふと思うあのころのこと焚火の香★★★★
最近は焚火で暖をとることもほとんどなくなった。焚火を囲んで温まりながら、焚火の匂いをかぎなら、何か話したり周りで遊んだ。ふとそんなころのことを思う。(高橋正子)

縦横に飛行機雲や冬の空★★★
すぐ消えるものゆえ強し冬夕焼★★★

●河野啓一
桜紅葉を明るく照らす午後の日よ★★★★
冬鴉群れて大きく森を越え★★★
からからと枯れ葉吹き抜け風に舞う★★★

●桑本栄太郎
高黍の高き穂空に仰ぎたり★★★
黒き実となりて茄子の枯れゆけり★★★
もくれんの綿毛まだ無き冬芽かな★★★

11月13日(水)

★眩しかり渚に並ぶゆりかもめ  正子
渚には波が陽に輝き、そこに並ぶ白いゆりかもめも輝いてみえ、ゆりかもめの愛らしい姿を想像することができました。 (井上治代)

○今日の俳句
冬鵙に雲一片もなかりけり/井上治代
一片の雲もなく晴れ渡った空に、けたたましいはずの冬鵙の声が、のびやかに聞こえる。(高橋正子)

○帰り花(りんごの花)

[帰り花(つつじ)/横浜港北区日吉本町・]  [帰り花(りんごの花)/横浜・四季の森公園]

★凩に匂ひやつけし帰花 芭蕉
★かへり花暁の月にちりつくす 蕪村
★春雨と思ふ日もあり帰り花 蓼太
★ニ三日ちうでゐにけりかへり花– 太祗
★茗荷畑ありしあたりか忘れ花 也有
★帰り咲く八重の桜や法隆寺 子規
★一輪は命短し帰花 漱石
★ひとり磨く靴のくもりや返り花 龍之介
★日に消えて又現れぬ帰り花 虚子
★藁積んで門の広さや帰花 鬼城
★返り咲く園遅々とゆく広さかな 蛇笏
★返り花その日その日の来ては去る 万太郎
★梨棚や潰えんとして返り花 秋櫻子
★真青な葉も二三枚返り花 素十
★梨棚のところに来たり帰花 青畝
★ひと枝にうすく真白く返り花 草田男
★返り花三年教へし書をはさむ 草田男
★帰り花日かげりぬればさやかなる 草城
★返り花俳人兵のことぎれし 静塔
★人の世に花を絶やさず帰り花/鷹羽狩行
★帰り花鶴折るうちに折り殺す/赤尾兜子
★礼服をしばらく吊りぬ返り花/山下知津子
★返り咲く花は盛りもなく散りぬ/下村梅子
★太陽のとほれる道に返り花 長谷川櫂
★寂庵の仏に捧ぐ返り花 高田正子

 十月も終わりごろだったと思うが、横浜四季の森公園近くの民家に林檎の帰り花を見たのは、はじめてのこと。桜と紛れてしまうような林檎の花も小春日和の空に咲いているのを見ると、皐月などと違って、なにがしかの風情がある。
 帰り花(かえりばな)とは、11月頃の小春日和に、桜、梅、桃・梨・山吹・つつじなどに多く見られる現象で、本来の季節とは異なって咲かせた花のこと。ひとが忘れた頃に咲くので、「忘れ花」といった言い方もされる。「返り花」とも書き、「二度咲」「狂い咲」ともいい、俳句では冬の季語の一つとなっている。

★歳月は還らず返り咲く花よ/高橋正子

◇生活する花たち「たいわんつばき・石蕗の花・小菊」(神奈川・大船植物園)