藤沢
★栴檀の実に藤沢の白き雲 正子
藤沢と言えば東海道五十三次を散策された時の御句ですね?栴檀は高樹で身を反らし見上げると黄金の実が大空にたわわに見えて来ます。この日の晴れた空に白い雲が少し覆って居たのでしょう。「藤沢の白き雲」と「栴檀の実」の措辞に気品すら感じ、歴史的な背景も相まって、こころ豊かに散策されて居る様子が見える様です。(佃 康水)
○今日の俳句
出漁や妻に焚き火の温み置き/佃 康水
出漁まで夫婦で焚火をして体を温めていたのだが、体も温もって、妻を残して船音もかるく漁に出て行った。漁師夫婦の情愛が焚火をとおして温かく詠まれている。(高橋正子)
○太藺(ふとい)

[太藺/東京白金台・自然教育園]
フトイ(Scirpus tabernaemontani C. C. Gmelin)とはイグサに近い姿のカヤツリグサ科の植物である。「フトイ」という名前は「太い」ではなく「太藺」、つまり「太い藺草」の意味である。実際にはイグサ科ではなく、カヤツリグサ科ホタルイ属に属する。ただし、その姿はさほどイグサに似ている訳ではない。
湿地や浅い池などに生育する大柄な多年草で、高さは2m近くにもなる個体もある。地下茎は太くて横に這い、全体としてはまばらに花茎を立てて大きな群落を作る。地下茎の節から花茎を直立させる。花茎の基部には鞘があって、その先端は少しだけ葉の形になる。しかし花茎の長さに比べるとあまりに小さく、目立たない。花茎の断面はややいびつな円形。
花茎の先端には花序がつく。いくつか枝が出てその先端には小穂がつき、小穂の基部からさらに枝が出るようにして多数の小穂が散房状につく。花序の基部には苞が一つあるが、花序より短くて目立たない。そのためイグサのようには見えず、花序が花茎の先端に上を向いてついているように見える。日本全土に分布する。
日本では、時に庭園の池などで観賞用に栽培される。フトイの変種であるシマフトイは花茎に白い横縞模様があり、鑑賞価値が高いものとして栽培されている。国外では、チチカカ湖に自生するフトイの一種・トトラ(スペイン語: totora; S. clifornicus subsp. totora T. Koyama)がよく知られている。トトラは、湖上の民・ウル族の暮らしを全面的に支えている。 ウル族はトトラを刈り取って乾燥させ、その束を水面上に大量に積み重ねることによって浮島を作り、トトラで葺いた家をその上に建てて、水上の暮らしを営む。家の傍らに畑をもつ際にはトトラの根がその肥料にもなる。漁に用いる舟や移動用のボートもトトラから作るほか、食材、お茶、燃料、薬、身装品(帽子など)など、生活のあらゆる場面でトトラが用いられている。観光客相手にはトトラ細工が欠かせない土産品となっている。
◇生活する花たち「柊・茶の花・錦木紅葉」(横浜日吉本町)

★南天に日はうららかに暮れにけり 正子
花壇の花が少なくなる中、南天の赤い実のつややかな美しさがうれしいころです。冬でも風がなく暖かな日差しが降り注ぐ日は、ほのぼのとうれしい気持ちになります。(多田有花)
○今日の俳句
石蕗の花はや日輪の傾きぬ/多田有花
句の姿が整っている。暮れ急ぐ日にしずかに灯る石蕗の黄色い花が印象に残る。(高橋正子)
○冬椿
[冬椿/横浜西綱島]
★火のけなき家つんとして冬椿/小林一茶
★海の日に少し焦げたる冬椿/高浜虚子
★鶴とほく翔けて返らず冬椿/水原秋桜子
★まだ明日の逢はむ日のこる冬椿/中村汀女
★冬椿蕾ゆるきは肥後らしき/高橋正子
★誰からも見えぬ方向き冬椿/高橋正子
★冬椿鉄条網を隠しあり/高橋正子
★冬椿小さき白には青空を/高橋正子
冬に咲く早咲きのツバキ。寒椿(かんつばき)。[季]冬。
椿は、花が美しく利用価値も高いので万葉集の頃からよく知られたが、特に近世に茶花として好まれ多くの園芸品種が作られた。美術や音楽の作品にもしばしば取り上げられている。18世紀にイエズス会の助修士で植物学に造詣の深かったゲオルク・ジョセフ・カメルはフィリピンでこの花の種を入手してヨーロッパに紹介した。その後有名なカール・フォン・リンネがこのカメルにちなんで、椿にカメルという名前をつけた。19世紀には園芸植物として流行し、『椿姫』(アレクサンドル・デュマ・フィスの小説、またそれを原作とするジュゼッペ・ヴェルディのオペラ)にも主人公の好きな花として登場する。和名の「つばき」は、厚葉樹(あつばき)、または艶葉樹(つやばき)が訛った物とされている。「椿」の字の音読みは「チン」で、椿山荘などの固有名詞に使われたりする。なお「椿」はツバキとは無関係のセンダン科の植物チャンチン(香椿)の意味で使われることもある。
ツバキの花は花弁が個々に散るのではなく、多くは花弁が基部でつながっていて萼を残して丸ごと落ちる。それが首が落ちる様子を連想させるために入院している人間などのお見舞いに持っていくことはタブーとされている。この様は古来より落椿とも表現され、俳句においては春の季語である。なお「五色八重散椿」のように、ヤブツバキ系でありながら花弁がばらばらに散る園芸品種もある。
◇生活する花たち「椿・野葡萄・くこ」(横浜市都筑区東山田)


12月18日
●小口泰與
終バスや冬夕焼のあかあかと★★★★
朝戸出の我を襲いし空っ風★★★
参道の銀杏落葉やあさぼらけ★★★
●古田敬二
ウイーン市庁舎前クリスマスマーケット
ガラス玉に雪の降り来るマーケット★★★★
クリスマスツリーや部屋飾りに使う色んな色や絵の書かれたガラスボールは、オーストリアやドイツのクリスマスを象徴するようなもの。雪の降るクリスマスマーケットが詩的に思える。 (高橋正子)
市庁舎の尖塔聖樹となり高し★★★
旅真中聖樹の下のホットワイン★★★
●小川和子
眼差しを交わし嬰児笑むクリスマス★★★
新しき聖樹光れり児をあやす★★★★
冬空に軌跡描けり飛行機雲★★★
●多田有花
頂に沢庵漬を回す昼★★★
順々に山下りてくる冬帽子★★★★
冬の雨聞きつつどこへもいかぬ日★★★
●祝恵子
客を待つ冬の菜少し摘みながら★★★★
「冬菜摘み」も日常生活のことだが、「客を待つ」であれば、詩となる。「いい生活からいい俳句」が生まれる。 (高橋信之)
冬耕や深めに堀りてくわい畑★★★
冬河原腹這って撮るタンポポ★★★
●桑本栄太郎
冬麗の電車の窓の日射しかな★★★
パソコンを膝に眠る娘(こ)冬うらら★★★
階段を走りバスへとしぐれ雲★★★
12月17日
●小口泰與
夕映えを浴びし我が影冬田かな★★★
水洟や長き地下道土合駅★★★
寒菊や赤むらさきの明けの空★★★★
寒菊も花や葉が寒さに焼けて赤紫を帯びることがある。明けの空も、寒々と赤むらさきになる。菊も雲もである。(高橋正子)
●迫田和代
時ならぬ時雨に濡れし車椅子★★★★
外出の車椅子が、時ならぬ時雨に濡れてしまった。時雨の降り方は時としてこのように、急に降ることがある。時雨の本質をいい得ている。(高橋正子)
枯草の中の緑の生き生きと★★★
白い息吐きつつ歩く山影を★★★
●桑本栄太郎
木枯しや枝の烏の踏ん張りぬ★★★
大鍋の南無息災や大根焚き★★★
冬萌えや高槻平野のさみどりに★★★★
高槻平野は大阪のその地域の平野。生活のある平野である。その平野が冬萌えにさみどり色になり、明るく美しいことである。(高橋正子)
●多田有花
雲低く裏六甲の冬ざるる★★★★
「裏六甲」が珍しく、訪ねてみたい気持ちになる。「裏」と「冬ざるる」が微妙なところで付き過ぎでないのがよい。(高橋正子)
足音に親しく寄り来る緋鳥鴨★★★
山下りて炭火囲炉裏の牡丹鍋★★★
●小口泰與
甲高き二羽の鶏声冬田かな★★★★
冬田にまで聞こえる鶏声か。二羽が甲高く鳴き合っている。この甲高い鶏の声は、寒い冬を一層寒々とさせる。(高橋正子)
竹林に鳥影ありし暖炉かな★★★
うす雲を透かす落暉や枯尾花★★★
●祝恵子
庭師らは寺に冬苗運び入れ★★★★
何の苗か。正月を迎える葉牡丹などであろうか、あるいは苗木か。庭師が入って寺の庭が年末新たになる。(高橋正子)
冬芽吹く目を凝らして枝見れば★★★
風任せなれど落葉は遠くまで★★★
●多田有花
焚火囲む朝の仕事の始まりに★★★★
建築現場など早朝からの戸外の仕事は、まず、暖を取ってから。木くずなどを燃やして焚火をする光景は、昔から変わっていない。(高橋正子)
一年の長さ短さ忘年会★★★
連山の彼方に雪の降りしきる★★★
●桑本栄太郎
白き実の揺るる並木や風冴ゆる★★★
街をゆく吾を追いかけ木の葉舞う★★★
土乾き冬田ほろほろ日射しけり★★★
●古田敬二
ベートーベン落葉の公園にまみえけり★★★
石畳冷え初む夕べをオペラ座へ★★★
開演を待つ間のウイーンの夜の冷え★★★
●川名ますみ
青々と葉の付きしまま蜜柑着く★★★★
蜜柑の荷を開けると、明るいオレンジ色が目に飛び込んでうれしいものだが、それに青々とした葉がついていれば、色は一層鮮やかになる。送り主の心遣いも忍ばれる。(高橋正子)
聖樹背に笑い損ねし写真かな★★★
葉を捨てて桜にまるき冬木の芽★★★
★南天に日はうららかに暮れにけり 正子
今日一日が穏やかに暮れていく。南天に差す日もうららかである。(祝恵子)
○今日の俳句
水仙の目線にあれば香りくる/祝恵子
目線の位置から、すっと真っ直ぐ水仙のいい香りが届く。香りがたゆたわず、すっと真っ直ぐ届くところが、水仙の花らしい。(高橋正子)
○俳句同人誌「遊牧」12月号(代表・塩野谷 仁)に花冠創刊30周年記念号が紹介される。紹介記事は黒澤雅代氏。丁寧に読んで的確な書評をいただいた。的確に読んでいただけるのは大変うれしい。昨夜礼状を認めて投函した。
○梔子(くちなし)の実(山梔子/くちなし)
[梔子の実/横浜日吉本町]
★山梔子に提灯燃ゆる農奴葬/飯田蛇笏
★竜安寺道くちなしの実となりぬ/村上麓人
★山梔子の実のみ華やぐ坊の垣/貞弘 衛
★くちなしの実のつんつんと風の中/安斉君子
★くちなしの実の日に映えて黙しけり/かるがも
クチナシ(梔子、巵子、支子、学名:Gardenia jasminoides)は、アカネ科クチナシ属の常緑低木である。野生では森林の低木として自生するが、むしろ園芸用として栽培されることが多い。果実が漢方薬の原料(山梔子)となることをはじめ、様々な利用がある。樹高1-3 mほどの低木。葉は対生で、時に三輪生となり、長楕円形、時にやや倒卵形を帯び、長さ5-12 cm、表面に強いつやがある。筒状の托葉をもつ。花期は6-7月で、葉腋から短い柄を出し、一個ずつ花を咲かせる。花弁は基部が筒状で先は大きく6弁に分かれ、開花当初は白色だが、徐々に黄色に変わっていく。花には強い芳香があり、学名の種名「jasminoides」は「ジャスミンのような」という意味がある。10-11月ごろに赤黄色の果実をつける。果実の先端に萼片のなごりが6本、針状についていることが特徴である。また側面にははっきりした稜が突き出る。
東アジア(中国、台湾、インドシナ半島等)に広く分布し、日本では本州の静岡県以西、四国、九州、南西諸島の森林に自生する。八潮市、湖西市および橿原市の市の花である。果実が熟しても割れないため、「口無し」という和名の由来となっている説もある。他にはクチナワナシ(クチナワ=ヘビ、ナシ=果実のなる木、つまりヘビくらいしか食べない果実をつける木という意味)からクチナシに変化したという説もある。(ウィキペディア)
◇生活する花たち「茶の花・茶の実・欅黄葉」(川崎市宮前区野川・影向寺)

★落葉踏み階踏みてわが家の燈 正子
○今日の俳句
冬夕焼一直線に街を射す/川名ますみ
寒々とした冬の街を夕焼けが染める。街をすべて染める「一直線」の夕焼けが力強い。(高橋正子)
○銀杏黄葉(いちょうもみじ)
[銀杏黄葉/横浜日吉本町] [銀杏黄葉/東海道53次藤沢宿・遊行寺大銀杏]
★赤を掃き黄を掃き桜もみぢ掃く/後藤比奈夫
★黄葉は今年最後の祭りかな/kudou
★空青し銀杏黄葉を輝かす/高橋信之
対象とする植物を全体として眺めたときに、その葉の色が大部分紅(黄)色系統の色に変わり、緑色系統の色がほとんど認められなくなった最初の日を、その植物の紅(黄)葉日とする。
カエデの紅葉やイチョウの黄葉は、秋になって気温がある値を下回ると色づきはじめ、一定期間ののち全体が紅(黄)葉する。したがって、気温が高ければ色づきが遅れ、低ければ早くなる。
イチョウは中国が原産地といわれる落葉高木で、社寺の境内や街路に多く植えられ、食用のぎんなんが実ることからもよく知られた植物である。雌雄異株で春に新葉が出るとともに、雄株は 2 cm 内外の房状の雄花を下垂してつけるが、雌株の花は目立たない。
気象庁が観測・統計を開始した 1953 年以降の気温とイチョウ黄葉との関係を見る。50 年間に約 11 日イチョウの黄葉が遅くなったことを示した。なお、カエデの紅葉についても同様に50 年間に約 16 日遅くなっている。(国立天文台が編纂する「理科年表オフィシャルサイト」より)
○東海道五十三次を歩く(戸塚宿~藤沢宿)/2011年12月15日の日記より
昨年の12月15日は、戸塚から藤沢宿まで約10キロほどの東海道を信之先生のお伴で歩いた。靴は、踵から着地できるよう設計されたウォーキングシューズ。この靴が頼りとなる。手袋と帽子、自分で編んだモヘアの小さいマフラー、いつものポーターの革リュックという出で立ち。朝8時過ぎに家を出て、グリーンライン・ブルーラインを乗り継いで、戸塚まで。結構乗っている時間がながいので、「東海道492キロ」という歩き方の本を読む。
戸塚の駅に降り立って、吉田茂を怒らせた「開かずの踏切」を渡る。わかりにくいのだが、右手にいって、家康の側室のお万の方が建てた清源院長林寺へ。奥のほうに芭蕉の句碑があったので、写真にとる。万両は、人の背丈ほどありそうなのがある。黄色い千両と赤い千両も。水仙は、冠のようなところも白い水仙があった。純白の水仙である。
観るほどのものはなく、15分ほどいて東海道となる道を行く。写真に収められる花があれば撮るつもりである。道端に、案内標識が出ていて、澤辺本陣跡とか、上方見附跡、お軽勘平の碑、松並木跡などがあった。
藤沢宿に近づくと、遊行寺がある。遊行寺は通称で、清浄光寺(しょうじょうこうじ)といい、時宗総本山の寺院。境内には、樹齢660年、樹高31メートルの大銀杏があった。一遍上人の念仏する姿の像もある。
遊行寺を過ぎて、藤沢宿の本陣跡あたりを見て、藤沢宿の町並みを見る。紙問屋らしい古い造りの家が残っていたり、老舗の豊島屋という「松露羊羹」で知られる店もある。お茶屋には、古い茶壷などもあった。昔ながらの商いの店がこじんまりと並んでいる通りである。
この通りが藤沢本町通りで、その端にある小田急の藤沢本町近くの喫茶店で、遅い昼食をとり、きょうの東海道の歩き旅の終わりとした。(昨年の俳句日記より)
[戸塚]
清源院長林寺
水仙のまだ咲かぬ花芭蕉句碑
[大坂・原宿]
冬晴れの長き坂なり上りけり
栴檀の実に藤沢の白き雲
徒歩旅にはやも椿の赤い花
富士山はあちらかここに枯すすき
[遊行寺]
遊行寺坂落葉たまるも切りもなし
遊行寺坂日に透けいたる冬黄葉
[藤沢宿]
境川
本陣跡と札のみありて十二月
旧き家開かずの窓に冬日照り
山茶花の一樹咲き添う古き壁
ひとすじの門前町の十二月
◇生活する花たち「柊・茶の花・錦木紅葉」(横浜日吉本町)

★孟宗の冬竹林に日がまわり 正子
孟宗竹の藪。冬の日差しを受けてまっすぐな影である。冬の陽は動きが速い。往きに見た孟宗竹に当たる影とかえりに観るそれは明らかに違い、陽が動いたことが分かる。短い冬の日の藪のあり様が詠われている。(古田敬二)
○今日の俳句
山茶花や軒端の薪の真新し/古田敬二
山茶花が咲き、軒端には真新しい薪が積み重ねられて、本格的な冬を迎える準備が整った。「薪の真新し」がさっぱりとしている。(高橋正子)
○櫟黄葉(くぬぎもみじ)

[櫟黄葉/横浜・四季の森公園]
★冬紅葉長門の国に船着きぬ 誓子
★冬紅葉美しといひ旅めきぬ 立子
★強飯の粘ることかな冬紅葉 波郷
★楢櫟つひに黄葉をいそぎそむ/竹下しづの
★墓四五基櫟黄葉の下にあり/穴井研石
★櫟黄葉舞いて虚空の広さかな 格山
★露天湯や椚黄葉を傘として 光晴
★風と舞い谷をくだるや冬黄葉 陽溜
★鈍色の空にきはだつ冬黄葉 一葉
クヌギ(櫟)は、ブナ科コナラ属の落葉樹のひとつ。新緑・紅葉がきれい。クヌギの語源は国木(くにき)からという説がある[要出典]。古名はつるばみ。漢字では櫟、椚、橡などと表記する。学名はQuercus acutissima。樹高は15-20mになる。 樹皮は暗い灰褐色で厚いコルク状で縦に割れ目ができる。葉は互生、長楕円形で周囲には鋭い鋸歯がならぶ。葉は薄いが硬く、表面にはつやがある。落葉樹であり葉は秋に紅葉する。紅葉後に完全な枯葉になっても離層が形成されないため枝からなかなか落ちず、2月くらいまで枝についていることがある。花は雌雄別の風媒花で4-5月頃に咲く。雄花は黄色い10cmほどの房状に小さな花をつける。雌花は葉の付根に非常に小さい赤っぽい花をつける。雌花は受粉すると実を付け翌年の秋に成熟する。実は他のブナ科の樹木の実とともにドングリとよばれる。ドングリの中では直径が約2cmと大きく、ほぼ球形で、半分は椀型の殻斗につつまれている。殻斗のまわりにはたくさんの鱗片がつく。この鱗片が細く尖って反り返った棘状になっているのがこの種の特徴でもある。実は渋味が強いため、そのままでは食用にならない。
クヌギは幹の一部から樹液がしみ出ていることがある。カブトムシやクワガタなどの甲虫類やチョウ、オオスズメバチなどの昆虫が樹液を求めて集まる。樹液は以前はシロスジカミキリが産卵のために傷つけたところから沁み出すことが多いとされ、現在もほとんどの一般向け書籍でそう書かれていることが多いが、近年の研究で主としてボクトウガの幼虫が材に穿孔した孔の出入り口周辺を常に加工し続けることで永続的に樹液を浸出させ、集まるアブやガの様な軟弱な昆虫、ダニなどを捕食していることが明らかになった。いずれにせよ、樹液に集まる昆虫が多い木として有名であり、またそれを狙って甲虫類を捕獲するために人為的に傷つけられることもある。ウラナミアカシジミという蝶の幼虫はクヌギの若葉を食べて成長する。またクヌギは、ヤママユガ、クスサン、オオミズアオのような、ヤママユガ科の幼虫の食樹のひとつである。そのため昆虫採集家はこの木を見ると立ち止まってうろうろする。
クヌギは成長が早く植林から10年ほどで木材として利用できるようになる。伐採しても切り株から萌芽更新が発生し、再び数年後には樹勢を回復する。持続的な利用が可能な里山の樹木のひとつで、農村に住む人々に利用されてきた。里山は下草刈りや枝打ち、定期的な伐採など人の手が入ることによって維持されていたが、近代化とともに農業や生活様式が変化し放置されることも多くなった。(ブログ「菜花亭日乗」より)
◇生活する花たち「アッサムチヤ・グランサム椿・からたちの実」(東京・小石川植物園)
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12月15日
●小口泰與
百年の酵母や冬の醤油蔵★★★
木守や酵母あふるる太柱★★★
干大根利根の河原のひろごれり★★★★
干大根の色と冬景色となった河原の色がよくなじんで、風の吹く様、日の照る様が想像できる。(高橋正子)
●古田敬二
色づけり冬のシベリア夕景色★★★
冬の旅動かぬ位置に北極星★★★★
昔、北極星は動かないことから旅をする人の目印であった。今でも旅にあれば方位を確かめるための目印となる。「冬の旅」が荒涼とした星空
を想像させてくれる。(高橋正子)
シベリアを飛ぶ主翼の先の冬の星★★★
●桑本栄太郎
山膚のうすく赤きや冬の朝★★★
新駅の高架ホームや冬田晴れ★★★★
冬田の中の新駅の高架ホームは突如として現れたコンクリートと鉄の塊の趣き。それに対して冬田の上に広がる晴天の空のさっぱりと晴れやかなこと。(高橋正子)
萎れゆく風の窓辺の懸菜かな★★★
●黒谷光子
(永観堂)
冬紅葉見返り佛の堂包む★★★
冬紅葉開山堂へと臥龍廊★★★
見返り佛脇より拝み冬ぬくし★★★
12月14日
●小口泰與
喉飴を口に入れたる小春かな★★★
焙煎の上々に出来小春かな★★★
神の旅浅間は雪を賜わりぬ★★★★
●迫田和代
冬帝に土手道駆ける子に幸を★★★
楽しいな冬日の射す道今日もまた★★★★
「楽しいな」はためらいのない、そのままの気持ち。冬日がぽかぽかと差す道は今日もまた楽しい道となるのだ。(高橋正子)
窓の外風にも負けずに冬の薔薇★★★
●桑本栄太郎
錦木の残る紅葉や剣の先★★★
しぐれつつ青空のぞく嶺の奥★★★
ベランダの窓に小さき干菜影★★★
●古田敬二
機窓から句帳へ冬の陽が明るい★★★★
乗り物の車窓側に乗るとこんな場面によく出合う。句帳のページの白さに気持ちよく句が認められそうだ。(高橋正子)
雲海の果てなきを見る冬の旅★★★
雲海を崩して走る冬の風★★★
★山茶花の高垣なればよく匂う 正子
山茶花の高い垣根に、ことさら鮮やかに美しい山茶花が見え、咲き満つ山茶花の芳香が漂ってきます。垣根の家にお住まいの方にとっても、道行く人々にとっても、嬉しい冬の彩りと香りです。(藤田洋子)
○今日の俳句
音立てて山の日差しの落葉踏む/藤田洋子
「山の日差しの落葉」がいい。山の落葉にあかるく日があたり、そこを歩くとほっこりとした落葉の音がする。(高橋正子)
○夏椿(沙羅/しゃら)の冬芽

[夏椿の冬芽(2012年12月12日)/横浜日吉本町]_[夏椿の花(2011年6月20日)/横浜日吉本町]
★爪ほどの冬芽なれども天を指す/能村登四郎
★六百の冬芽に力漲りぬ/稲畑汀子
★雲移り桜の冬芽しかとあり/宮津昭彦
★大いなる冬芽何ぞやああ辛夷/林翔
★全山の冬芽のちから落暉前/能村研三
★沙羅の花捨身の落花惜しみなし/石田波郷
★夏椿葉かげ葉かげの白い花/高橋正子
★青天に冬芽の尖り痛きほど/高橋正子
冬芽(ふゆめ、とうが)は、晩夏から秋に形成され、休眠・越冬して、春に伸びて葉や花になる芽。寒さを防ぐため鱗片(りんぺん)でおおわれている。(デジタル大辞泉の解説)
すっかり葉を落とした冬の木々。あゝ、こんなに美しい枝ぶりだったのか…と改めて見つめてしまうことがあります。 ちょっと立ち止まって枝についている冬芽を見つけてみましょう。冬芽の形も木によって個性がありますね。更に葉痕が面白いのです。虫めがねでもないと肉眼ではなかなか分かりませんが、デジカメで撮影してパソコンに取り込んでみましょう。こんな所に妖精が住んでいたとは! 全く驚きです。花の少ない冬の時期、散策の楽しみが一つ増えました。(「鎌倉発“旬の花”」より)
これが夏椿だと最初に意識して見たのは、愛媛県の砥部動物園へ通じる道に植樹されたものであった。砥部動物園は初代園長の奇抜なアイデアが盛り込まれて、動物たちにも楽しむ我々にものびのびとした動物園であった。小高い山を切り開いて県立総合運動公園に隣接して造られているので、自然の地形や樹木が残されたところが多く、一日をゆっくり楽しめた。自宅からは15分ぐらい歩いての距離だったので、子どもたちも小さいときからよく連れて行った。その道すがら、汗ばんだ顔で見上げると、夏椿が咲いて、その出会いが大変嬉しかった。このとき、連れて行った句美子が「すいとうがおもいなあせをかいちゃった」というので、私の俳句ノートに書き留めた記憶がある。緑濃い葉に、白い小ぶりの花は、つつましく、奥深い花に思えた。
今住んでいる日吉本町では、姫しゃらや夏椿を庭に植えている家が多い。都会風な家にも緑の葉と小ぶりの白い花が良く似合っている。
◇生活する花たち「蝋梅・冬桜・さんしゅゆの実」(横横浜・四季の森公園)

●古田敬二
シベリアの雪山夕日に色づけり★★★
雪原に人の営み見えず真っ白★★★
シベリアの大地をまっすぐ雪の道★★★★
シベリアの大雪原のまっすぐな道。雪と無音の神秘的なまでの世界。機上からの眺めであろうか。(高橋正子)
●小口泰與
又しても浅間に雪や朝ぼらけ★★★
黙読し見上ぐる空や寒昴★★★★
黙読のあと、自分の世界から翻って空を見上げると、寒昴がくっきりと輝いている。遥かな昴の光が目に刻まれる。(高橋正子)
夕映えの河やマフラー纏わりぬ★★★
●河野啓一
髪白き二人の会釈師走の街★★★
奥丹波山粧いて霧の中★★★
冬空やオーストラリアのような雲★★★
●多田有花
寒風を戻りてあったかいなり寿司★★★
昼済めば日はすでに西日短か★★★
よき夢を見に羽蒲団の中に入る★★★
●桑本栄太郎
切干の乾き縮むや笊ふたつ★★★
山茶花の生垣白く日暮れけり★★★
短日のすでに没日や午後の五時★★★
●小西 宏
山茶花の花びら広く敷く日向★★★★
下五を「日向」で止めたのがよい。山茶花がまぶしいばかりに散り敷いた明るい日向である。(高橋正子)
母と子と手をつなぎ行く落葉道★★★
枯葉赤く小楢の山に夕日照る★★★