3月11日(火)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
早春の芽吹くものは殆どさみどりのものが多く、暖かい春への希望の色である。しかし時には寒の戻りの寒さもあり、寒暖定まらぬ早春の気候を山葵を通して情趣豊かに詠われた。 (桑本栄太郎)

○今日の俳句
 京都四条~祇園界隈
建仁寺塀の高みの藪椿/桑本栄太郎
建仁寺塀は竹の塀で美しい。丈高く組まれることが多いが、その塀の上に覗く藪椿が自然の様で風趣がある。(高橋正子)

○土筆

[土筆/横浜日吉本町]            [土筆/横浜・四季の森公園]

★土筆煮て飯くふ夜の台所/正岡子規
★土筆摘む野は照りながら山の雨/嶋田青峰
★土筆野やよろこぶ母につみあます/長谷川かな女
★子のたちしあとの淋しさ土筆摘む/杉田久女
★土筆伸ぶ白毫寺道は遠いれど/水原秋桜子
★白紙に土筆の花粉うすみどり/後藤夜半
★土ふかき音もたつなる 土筆摘む/皆吉爽雨
★まま事の飯もおさいも土筆かな/星野立子
★土筆なつかし一銭玉の生きゐし日/加藤楸邨
★山姥の目敏く土筆見つけたり/沢木欣一
★土筆摘む強腰にしてひとりもの/青柳志解樹

 ツクシは、正しくは「杉菜(すぎな)」の胞子茎(ほうしけい)というもので、「付子」とも書く。
 スギナ(杉菜、学名:Equisetum arvense)は シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物の一種。日本のトクサ類では最も小柄である。浅い地下に地下茎を伸ばしてよく繁茂する。生育には湿気の多い土壌が適しているが、畑地にも生え、難防除雑草である。
 春にツクシ(土筆)と呼ばれる胞子茎(または胞子穂、胞子体)を出し、胞子を放出する。薄茶色で、「袴(はかま)」と呼ばれる茶色で輪状の葉が茎を取り巻いている。丈は10-15cm程度。
 ツクシ成長後に、それとは全く外見の異なる栄養茎を伸ばす。栄養茎は茎と葉からなり、光合成を行う。鮮やかな緑色で丈は10-40cm程度。主軸の節ごとに関節のある緑色の棒状の葉を輪生させる。上の節ほどその葉が短いのが、全体を見るとスギの樹形に似て見える。なお、ツクシの穂を放置すると、緑色を帯びたほこりの様なものがたくさん出て来る。これが胞子である。顕微鏡下で見ると、胞子は球形で、2本の紐(4本に見えるが実際は2本)が1ヵ所から四方に伸びている。これを弾糸という。この弾糸は湿ると胞子に巻き付き、乾燥すると伸びる。この動きによって胞子の散布に預かる。顕微鏡下で観察しながら、そっと息を吹きかけると、瞬時にその形が変化するのをみることが出来る。また、「ツクシ」は春の季語である。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月10日(月)

★受験子の髪ふっくらと切り揃う   正子
受験子は女の子でしょう。切り揃えた髪が肩の上で揺れます。清潔なたたずまいが浮かんできます。(多田有花)

○今日の俳句
弁当を誰か広げている梅林/多田有花
「誰か」がいい。梅の花を楽しみながら静かに弁当と広げている。静かに日差している梅林を思う。

○ミモザ(銀葉アカシア)

[ミモザ/横浜日吉本町(左:2014年2月28日)・右:2011年3月27日)]
 
 原義のミモザは、マメ科オジギソウ属の植物の総称(オジギソウ属のラテン語名およびそれに由来する学名がMimosa)。ミモザ(英: mimosa、独: Mimose)は、本来はマメ科の植物であるオジギソウを指すラテン語名。葉に刺激を与えると古代ギリシアの身振り劇ミモス”mimos”(マイム、パントマイムの前身)のように動くことからこの名がついた。ラテン語本来の発音はミモサ、英語発音はマモゥサあるいはマイモゥサとなり、日本語のミモザはフランス語発音に由来する。
 ミモザは、フサアカシア、ギンヨウアカシアなどのマメ科アカシア属花卉の俗称。イギリスで、南フランスから輸入されるフサアカシアの切花を”mimosa”と呼んだ事から。アカシア属の葉は、オジギソウ属の葉によく似るが、触れても動かない。しかし花はオジギソウ属の花と類似したポンポン状の形態であることから誤用された。今日の日本ではこの用例がむしろ主流である。鮮やかな黄色で、ふわふわしたこれらのアカシアの花のイメージから、ミモザサラダや後述のカクテルの名がつけられている。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)

3月9日(日)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
蕎麦の薬味にしようと山葵を擂る。その淡い緑に、迎えたばかりの春をそっと感じる。清流の音が聞こえてきそうな爽やかさです。(小西 宏)

○今日の俳句
海鳴りを柔らかに聞く春の浜/小西 宏 
春の浜で沖を見やりながら聞く海鳴りは柔らかい。この柔らかな海鳴りに、寒さから解き放たれた春のうれしさが読める。(高橋正子)

○沈丁花

[沈丁花/横浜日吉本町]

★沈丁の四五花はじけてひらきけり/中村草田男
★沈丁やをんなにはある憂鬱日/三橋鷹女
★にはとりの置去り卵沈丁花/皆川盤水
★沈丁の風にころがる鉋屑/高橋将夫
★風下のベンチまた空く沈丁花/木暮陶句郎
★ポストヘの道沈丁の香にも寄り/藤田宏
★沈丁や気おくれしつつ案内乞ふ/星野立子

 日本に栽培されているものは中国原産の常緑灌木で、高さい・5メートルに達し、生垣や庭先に植えられたものが多い。花は内面部が白く、外面が紫がかった桃色で、香気が強い。早春まだうそ寒い頃、または淡雪の下、夜気にこの花が匂うのは印象深い。
赤紫色の蕾が弾けると、内側の白い部分が表れて好対照をなす。うそ寒いころの、その香気が好きなために植えられる花であるかもしれない。砥部の庭にも門脇に一本あった。冷たい空気とともに吸うその香りは、肺深く入りこんで、今年も卒業や旅立ちの季節が来たなと思う。田舎の家の庭先にもよく植えられて、子供の間でも沈丁花が咲いたと話題になった。「じんちょうげ」というあの花くらいの重さの音が今も耳に残っている。

★沈丁の香の澄む中に新聞取る/高橋正子
★雪解けの雪が氷れる沈丁花/高橋正子

 ジンチョウゲ(沈丁花)とは、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
 2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
 沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

3月8日-9日

3月9日

●小口泰與
奥利根の木々の芽吹きや硬き風★★★★
神代より雪解雫の信濃川★★★

たんぽぽや背負い鞄の赤き色★★★★
たんぽぽが咲き、赤い背負い鞄が背中で弾んでいる。たんぽぽも赤い鞄の少女も春らしい映像と思える。(高橋正子)

●河野啓一
若ごぼう河内平野に時を得て★★★★
河内平野に育つごぼう。まだ、若いが早も収穫できるまでになった。豊かな土も香らんばかりだ。(高橋正子)

山裾のハウスの中で若ごぼう★★★
春雨や傘の下なる車椅子★★★

●祝恵子
子に詰める春の荷色々分けて入れ★★★
風に散る吾を越しゆく梅の花★★★

春きゃべつ値札は風に裏返る★★★★
春きゃべつは、形も特徴あって、葉も見るからにやわらかそうだ。値札が付けられ店頭に溢れるほど置かれているのだろう。寒々とした風に値札が裏返っている。春きゃべつはそんな季節の野菜だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
濃く淡く遅速もありぬ梅の園★★★
さざ波の揺れて眩しく春の鴨★★★

水底の透けて煌めき蘆の角★★★★
湿地の水が日差しに澄んで、蘆の緑の角が伸び始めた。枯から再生する緑の新芽が力強く美しい。(高橋正子)

●小西 宏
梅の陽に父娘釣りする日曜日★★★
風清し青木芽立ちのうす緑★★★★
小犬嗅ぐ�壓縷(はこべら)の花咲く原を★★★

●黒谷光子
囀りや村中総出の道普請★★★
蕾いくつ付け我が植えし白椿★★★
ふっくらと咲き初む一輪白椿★★★★

●高橋秀之
起こしても変わらぬ寝顔大朝寝★★
新聞の一面踊る春闘の文字★★
寒戻る生駒の山がくっきりと★★★★

●多田有花
沿線の家々の庭梅咲きぬ★★★
たこ焼きを囲む三月のテーブル★★★

大阪のビルの谷間の淡紅梅★★★★
大阪のビルというと、近代的なビルさえも生活感にあふれている感じがする。そのビルの谷間にも淡い紅梅が咲き、淡く紅梅を咲かせる人間の生活が垣間見れる。(高橋正子)

3月8日

●迫田和代
今だから全てをあとに帰り鳥★★★
春の海傷んだ船の帰船あり★★★
足らぬ世辞皆の笑いの和の願い★★

●小口泰與
春昼の彼我の違いの釣の技★★★
百千鳥香煙流る大広間★★★
雪のひま三羽の烏かまびすし★★★

●桑本栄太郎
天辺の剥がれ落つとも春の雪★★★
かけ声の部活の娘等の春きざす★★★
ほつほつと垣根にこぼれ山茱萸黄★★★★

●小西 宏
まだ寒き風に舞い初む梅花びら★★★
ひとつずつ地に触れ消える春の雪★★★★
春の雪の降る行方を見ていると、雪片は一つずつ地に触れて消えてゆく。水分を多く含んだ春の雪の美しくも儚い様子。(高橋正子)

空青き枝に鴉の春眺む★★★

●高橋秀之 
春の海照り返す陽が波に揺れ★★★★
波に乗った春の日が照り返し、その波が揺れる。「照り返す陽が波に揺れ」は、なにげないようでいてユニークな捉え方。(高橋正子)

母の炊くいかなご今年も同じ味★★★
入り船も出船も春の波に乗り★★★

3月8日(土)

★辛夷の花枝ごと揺れて揺るる空/高橋正子
辛夷の花の咲く頃は、早春の強い風の吹く日が多くあります。季節の風に枝ごと煽られながらも、逞しくしなやかな辛夷の花を思います。高々と咲く辛夷の花の白さに、早春の澄みきった空が広がります。 (藤田洋子)

○今日の俳句
桃の花馴染みの声の店先に/藤田洋子
桃の花が店に活けてある。店先に馴染みの声が聞こえて、「あら」と思う。桃の花には、気取らない、明るい雰囲気があるので、「馴染みの声の店先に」言ってみるのだ。日常の一こま。(高橋正子)

○グランサム椿

[グランサム椿/東大・小石川植物園]

  小石川植物園二句
★香港の気風にみちて白椿/高橋正子
★了りつつ蕊の黄ゆたかな白椿/高橋正子

グランサム椿(グランサムツバキ、学名:Camellia granthamiana)はツバキ科ツバキ属の常緑小高木である。原産地は香港の九竜半島である。中国名を「大苞白山茶」という。日本へは昭和時代の中期に渡来した。樹高は3~8メートルくらいである。枝を疎らにつける。葉は楕円形で、互い違いに生える(互生)。葉の縁にはぎざぎざ(鋸歯)がある。葉の質は厚くて光沢があり、葉脈の部分がへこむ。開花時期は11~2月である。花の色は白く、花径が10~15センチくらいあり大輪である。茶(チャ)の花と似た感じで、黄色い雄しべは500本以上ある。花柱(雌しべ)の先は5つに裂ける。花びら(花弁)は7~10枚くらいで、咲き進むと花びらの先は反り返る。1955年に香港で見され、名は当時の香港総督アレキサンダー・グランサム (Alexander Grantham) 総督に由来。

○2013年の日記より:
 先月、2月14日の小石川植物園。いろんな万作が咲きみちていた。榛の花も咲いていた。万作の花を見ながら歩くと、榛の木へ至る道すがら、黄色い蕊の大きな白い花が目に入った。深緑の葉が、葉脈の筋が白い花をより魅力的にしている。なんの花だろう。ヨーロッパの花に違いない。近づくと「グランサム椿」と名札がある。決して椿の花の印象ではない。椿のように花が半開きではないのだから。おおらかに堂々と。威風堂々と。2月なのに、もう終わりかけている。そのはずで、花期は11月から2月とのことだから。この日、忽然と目の前に現れたグランサム椿の花に魅了され、一瞬は、「一体私はどこにいるんだろう。」とさえ思った。発見されたのは1955年でまだ新しい。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月7日(金)

 銀閣寺
★馬酔木咲く道を選べば山路めく/高橋正子
前書に銀閣寺とありますので、目の前に池泉回游式庭園が広がっていることが知れます。折しも馬酔木が咲きはじめその路を進めば、山路でも歩かれているような風情を感じられたのではないでしょうか。(小川 和子)

○今日の俳句
「もういいかい」子等の声澄むうららかに/小川 和子 
うららかさに誘われて、子供たちも外の遊びが楽しくなる。かくれんぼをする声がはっきりとよく通る。「声の澄む」にかわいさとうららかさが読み取れる。(高橋正子)

○白藪椿

[白藪椿/東大・小石川植物園]

★白椿昨日の旅の遥かなる/中村汀女
★咲き出でて汝こそ真処女白椿/林翔
★白藪椿空の高さに花の白/高橋正子
★藪椿も白藪椿も大樹なり/高橋正子

白藪椿(シロヤブツバキ、学名:Camellia japonica form. leucantha)は、ツバキ科ツバキ属の常緑高木である。分類上は藪椿(ヤブツバキ)の型の1つとされている。本州から九州にかけて分布し、山地に生える。樹高は5~10メートルくらいである。樹皮は灰白色を帯びる。葉は細長い楕円形で、互い違いに生える(互生)。葉の先は尖り縁には細かいぎざぎざ(鋸歯)がある。葉の質は硬く、表面は濃い緑色で艶がある。開花時期は2~4月くらいである。花の色は白く、花弁は5枚である。平開はせずに半開きのものも多い。

○小石川植物園吟行
①2008年4月19日のオフ句会報より
 今回の吟行地は、文京区白山にある「小石川植物園(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)」です。6万平米もの広大な土地に、桜の広場、薬草園、広葉樹の森、針葉樹の森、日本庭園などがあり、傾斜地、泉水地などの地形が自然のままに、活かされています。そして、学術的にも由緒ある植物や養生所時代の井戸などの遺構が残されており、日本最古の植物園としての趣も豊かです。
 前日は強い雨で、今朝もやや冷たく強い風が残っていましたが、園内は、葉桜のなかを散り抜ける残花、ちょうど満開の八重桜、タンポポやすみれなどなど、四月らしい華やかな色彩に溢れていました。散策にはたっぷり2時間はかかろうかという広さ。脇道に入ると山を行くような奥深さがあり、都会の真中にいるのを忘れてしまうほどです。思い思いに吟行を楽しんだのち、11時前には正門に集まり、七句投句をしていただきました。今回は、宇都宮の笠間淳子さんと、大阪からは高橋秀之さんがご参加くださいましたので、11名のにぎやかな句会となりました。ご体調のすぐれないところをご主人様とおいで下さった大給圭泉さんは、ご投句と写真撮影までをご参加くださいました。
 句会場は、信之先生が見つけて下さった茗荷谷駅前のイタリア料理店「ラ・クローチェ」で、カジュアルな雰囲気とおいしいお料理が魅力的なお店です。みのるさんのご発声で乾杯のあと、量り売りのワインを楽しみながら大いに盛り上がりました。お食事と会話の合間にそれぞれ選句をし、正子先生の選の発表がありました。その後、すぐ近くの「ジョナサン」に場所を移し、臼井愛代さんにより、それぞれの選が発表され、各句に先生やみなさんからのコメントが寄せられました。3時半ごろ散会。茗荷谷の駅よりそれぞれ家路につきました。
★どの藤も花咲きはじむ時が来る/信之
★たんぽぽの草の平らに散らばりぬ/正子

②2008年5月5日の日記より
 全国こども俳句協会の設立総会が、江東区の芭蕉記念館で9時半より行われ、設立総会小石川植物園を吟行。藤の花は大方終わり。ハンカチの木の花(苞)が、散り始めていた。散るさまは、空からハンカチが振られて落ちてくるよう。一枚ひろってみると、やわらかな白い葉っぱのような苞である。そばにガク空木の白い花が満開。むんむんとした匂いを放つ。ジャーマンアイリスの豊満な花がよく咲いている。日本庭園は黄菖蒲が花時。ニワトコの花は終わり、青いちいさな実がついていた。
 植物園の入園券を売るお店で、山と渓谷社のはっぱの本を買う。お店と言っても品物はほとんどないので、袋にはいった人形焼を申し訳に買って、はっぱの本に添えて、秀之さんにお子さんへのお土産にしてもらった。
 追記:句会でニュートンの林檎の詠んだ句があり、話がそれに及ぶ。何故ニュートンの林檎の木が小石川植物園にあるのかと。答え「それは、植物園が東大のものだからですよ。元の木は枯れて、その子孫がこの植物園にあるわけですよ。買ったんだよ。」ちなみに、ハンカチの木は中国からの贈り物。
★ハンカチの花の降り来る立夏の空
★銀杏大樹青葉の青という力
★盛り上がる新緑空へまでゆかず

③2013年2月14日の日記より
 先日2月14日に小石川植物園に行った。園内を巡り、売店で柚子茶を飲んでもう帰ろうかと思ったところ植物園で作業をしている男性に出会って立ち話を少々した。一旦別れ、歩いているとまた出会って「下にユキワリイチゲの蕾がちょうど出たところだよ。神社の下の小さい池がある辺り。」と東北訛りで教えてくれた。神社は太郎神社、小さな沼池は榛の木が生えているところと見当がついた。危うく見逃すところだったが、言われた所に行くと、榛の木の生えている少し上に名札が立ててあるのに気付いた。近づくと、紫がかった三つ葉の葉に似た叢に小さな白い蕾が見える。名札がなければ、発見は難しいところだった。一輪だけが咲きかけていた。白い小さな蕾が葉に浮くように、どれも向こうを向くか横向きであった。沼に足を滑らせないように気をつけて、写真を撮った。
★雪割一華へ浅春の陽が燦々と/高橋信之
★榛の木の根方一華の蕾みたり/高橋正子

▼小石川植物園
http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/

◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・猫柳」(東大・小石川植物園)

3月6日~7日

3月7日

●河野啓一
真青なる朝空嬉し梅の花★★★★
梅の花が咲くころはきれいな青空の日が意外に多い。真っ青に晴れ渡り、凛と冷たい朝空に咲く梅の花は本当にきれいだ。「嬉し」という素直な表現が句を優しくしている。(高橋正子)

播磨灘岩に寄せ来る春の波★★★
沖遠くサワラを漁りて戻る船★★★

●小口泰與
湯の町のきざはし飾る雛かな★★★★
伊香保などの湯の町を想像する。石段をのぼる傍らの家々に雛が飾られている。湯の町情緒に浸りながら、雛を楽しめる春先の小さな旅はいいものだ。(高橋正子)

あけぼのの雪間にぎわす百舌鳥の群★★★
雪汁を被りし利根の岩硬し★★★

●佃 康水
 縮景園 松の菰外し
春の雪松の菰取る朝にかな★★★
菰外れ松の木肌や風光る★★★

啓蟄や松の菰解く鋏音★★★★
啓蟄に合わせての松の菰外し。春の日差しに植木屋の使う鋏の音も軽快だ。菰を解かれた松は、緑の色もいきいきと輝き出してくるだろう。(高橋正子)

●多田有花
山の名を呼びけり春の頂に★★★★
春山の山頂から、あの山の名は何々、この山の名は何々と指さし呼んでみる。春山の頂からの眺めに心も柔らかに開放されたからだろうが、山への親しみがあって楽しいことだ。(高橋正子)

見上げれば紅梅白梅青い空★★★
雪こぼす雲去り切株に春陽★★★

●桑本栄太郎
下萌えや支柱張り出す梨畑★★★
耕さる畝の干乾び風光る★★★
色めきて枝の三叉や芽もくれん★★★★

●黒谷光子
梅園をめぐる開演の時までを★★★★
演劇や音楽会の開演までの余裕の心。開演をたのしみそれまでを梅園巡りで梅の花をたのしむ。これもまた至福のときだ。(高橋正子)

朝日差し見る間に溶ける春の雪★★★
紅梅の二本並びて咲き競う★★★

3月6日

●多田有花
吹かれ来て春雪日差しの中へ降る★★★★
春の日が差しながら雪がちらちら舞っている。その雪もどこからか吹かれてきていかのだ。明るくて、不思議な世界が生まれている。(高橋 正子)

昼の月出しところに梅咲きぬ★★★
白梅にほろほろ雪のこぼれ降る★★★

●桑本栄太郎
 京都四条~祇園界隈
建仁寺塀の高みの藪椿★★★★
建仁寺塀は竹の塀で美しい。丈高く組まれることが多いが、その塀の上に覗く藪椿が自然の様で風趣がある。(高橋正子)

提灯の早くも都踊りかな★★★
芽柳の橋のあまたや高瀬川★★★

●小西 宏
さざ波の光り走るよ池の春★★★
葦の田を起こして畔の耀ける★★★★
先生に投げる春日のドッジボール★★★

●黒谷光子
下萌えの足裏にやさし池巡る★★★★
池の土手を巡りながら、足裏に柔らかさを感じる。土手はもう下萌えている。足裏より全身に伝わる柔らかさが春の訪れを実感させている。
(高橋 正子)

春の鴨殊に美しきが群れのなか★★★
池巡る遠近に群る春の鴨★★★

●小口 泰與
家に飼う犬と小魚春の雪★★★★
日常生活を詠んで気負いがない。春の雪に、小さい生き物たち、飼っている犬と小さい魚とで家籠りとなる。(高橋 正子)

山風に雪解の畑を鳶の笛★★★
風の郷支う赤城に花辛夷★★★

●佃 康水
 竹原(竹の町)雛巡り
享保雛飾る町屋の梁太し★★★★
「梁太し」であれば、その町屋には歴史があり、「享保雛」にも歴史がある。「雛」と「梁」との取り合わせは、一見意外に思われるが、歴史があれば、不思議なことではない。いい風景を見せていただいた。未来へと残してもらいたい日本の風景だ。(高橋信之)

梁太き二階を占める雛飾り★★★
工房や手焙り据えて竹を編む★★★ 

●高橋信之
白梅の五弁をしかと団地の空に
白梅が青い空に五弁の花びらをしっかりと開き仄かな香りを漂わせています。凛と咲き春の陽気に包まれた団地の爽やかな景色が見えて参ります。 (佃 康水)

早咲き桜さくら色して満開に
あしび咲く今日のこの刻はなやかに

3月6日(木)

★海に向き伊豆の椿の紅きなり   正子
春の暖かな日を浴びてつやつやした葉の間に大輪の艶麗な紅の花を咲かせる椿の素晴らしさと伊豆の踊り子の小説を思い出させていただきました。ありがとうございます。(小口泰與)

○今日の俳句
大屋根の雪解滴や光りあう/小口泰與 
「大屋根」にインパクトがある。雪解滴もあちこちから滴り、賑やかに光りあう。(高橋正子)

○椿

[椿/横浜日吉本町]

★赤門を入れば椿の林かな/正岡子規
★飯食へばまぶたに重き椿かな/夏目漱石
★十本に十色の椿わが狭庭/稲畑汀子
★咲き出でて汝こそ真処女白椿/林翔
★虚子の忌の風たをやかな椿山/皆川盤水
★侘助や波郷破顔の大写真/水原春郎
★またひとつ鉦に落ちけり藪椿/言水
★一日を陽を見ぬ谷戸の藪椿 鈴木卓
★藪椿かがやく電車停まるたび/小島みつ代
★城垣の石の番号藪椿/大塚禎子
★侘助や茶釜に湯気の立っており/多田有花
★慎ましき白き椿の初あらし/高橋信之

★侘助へ寺の障子の真白かり/高橋正子
★日表も葉影も侘助うす紅/高橋正子
★庭の樹の間に咲けり初あらし/高橋正子

 ツバキ(椿)は、ツバキ科ツバキ属の植物、学名Camellia japonicaであり、日本原産の常緑樹。野生種の標準和名はヤブツバキ。国内外でヤブツバキや近縁のユキツバキから作り出された数々の園芸品種、ワビスケ、中国・ベトナム産の原種や園芸品種などを総称的に「椿」と呼ぶが、同じツバキ属であってもサザンカを椿と呼ぶことはあまりない。照葉樹林の代表的な樹木。花期は冬から春にかけてにまたがり、早咲きのものは冬さなかに咲く。「花椿」は春の季語であるが、「寒椿」「冬椿」は冬の季語。海柘榴とも表記する。花が美しく利用価値も高いので万葉集の頃からよく知られたが、特に近世に茶花として好まれ多くの園芸品種が作られた。美術や音楽の作品にもしばしば取り上げられている。
 日本のツバキはヤブツバキ、ユキツバキ、ワビスケ。
ヤブツバキ(原種)は、南西諸島から青森県夏泊半島まで分布している。これはツバキ属の自生地の北限である。西日本にはほぼ全域に分布しているが、東日本では温暖な地域に自生している。
 ユキツバキ(雪椿)は、花糸が黄色 ユキツバキの学名はCamellia rusticana (シノニム:Camellia japonica var. decumbens/Camellia japonica subsp. rusticana)。上記のヤブツバキとは別種、またはヤブツバキの豪雪地帯適応型変種、あるいは亜種という見解があり、ヤブツバキに比べ、枝がしなやか、花弁が水平に開く、等の特徴がある。花の変異が多く八重咲きの品種改良に大きく貢献した。別名サルイワツバキ。ヤブツバキとの交雑系統を「ユキバタツバキ」と呼ぶ。
 ワビスケ(侘助)は、中国産種に由来すると推測される「太郎冠者(たろうかじゃ)」という品種から派生したもの。「太郎冠者」(およびワビスケの複数の品種)では子房に毛があり、これは中国産種から受け継いだ形質と推測される。一般のツバキに比べて花は小型で、猪口咲きになるものが多い。葯が退化変形して花粉を生ぜず、また結実しにくい。なおヤブツバキの系統にも葯が退化変形して花粉を付けないものがあるが、これらは侘芯(わびしん)ツバキとしてワビスケとは区別される。 花色は紅色~濃桃色~淡桃色(およびそれらにウイルス性の白斑が入ったもの)が主であり、ほかの日本のツバキには見られないやや紫がかった色調を呈するものも多い。少数ながら白花や絞り、紅地に白覆輪の品種(湊晨侘助)などもある。 名前の由来としては諸説あり、豊臣秀吉朝鮮出兵の折、持ち帰ってきた人物の名であるとした説。茶人・千利休の下僕で、この花を育てた人の名とする説。「侘数奇(わびすき)」に由来するという説。茶人・笠原侘助が好んだことに由来する説などがある。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)