3月12日-13日

3月13日

●小口泰與
芽柳や気散じの歩を湖辺まで★★★
雪解川毛の三山の機嫌かな★★★

声は皆利根に鍛えし新入生 ★★★★
新入生といっても、高校生か、大学生だろう。中学、高校の部活で利根川に向かって張り上げ鍛えた声だ。練習風景を見てきた作者には、新入生になってもその声が耳に残っている。(高橋正子)

●桑本栄太郎
音もなく柳青める今朝の雨★★★★
「音もなく」は、「柳青める」と「今朝の雨」の両方に係っているいると読んだ。「音もなく柳青める」は、しなやかで明るい小さな柳の芽をよく表現してる。それは今朝の雨の静けさともよく呼応している。(高橋正子)

ととととと風に樋落つ春の雨★★★
春雨にけぶる在所の山河かな★★★

●小西 宏
枝に沿い花立つ梅の匂やかさ★★★

葉も若き河津桜の土手を行く★★★★
河津桜の咲く期間は長くひと月ぐらいだそうだ。花が咲きながら、若い葉が出ている。桜と言えば、染井吉野をつい思い浮かべるが、河津桜の世界はまた別だ。(高橋正子)

湖に大き船来る霞かな★★★

●多田有花
ビル街の風やわらかく浪花場所★★★★
浪速場所を楽しみにしておられる関西の方は多い。浪速場所の始まりが浪速の春の始まりなのだ。
ビル街にある場所にも春風がやわらかく吹いている。(高橋正子)

桟敷には舞妓がふたり三月場所★★★
春場所を打ち出され寿司を食べにいく★★★

●河野啓一
春の香を載せて筍ご飯かな★★★
春雨の滴るごとき曇り空★★★
お水とりほぼ終わりなる月半ば★★★

●古田敬二
春の葱抜けば真白な根を持てり★★★
畑を掘る畝に舞い来る春の雪★★★

つかの間の地上の形春の雪★★★★
春の雪は地に触れ、すぐに溶けてしまう。土の上には、触れたつかの間、形としてある。それが「地上の形」。春の雪のはかなさ、やわらかさ。(高橋正子)

3月12日

桑本栄太郎
<春の郷愁>
春日さす西国街道野を山へ★★★
<東日本大震災の鎮魂>
みちのくを想い黙祷春の昼★★★
春なれば陸奥(みちのく)青き海と空★★★

小口泰與
春昼や海豚のショーの水飛沫★★★
水槽の水母ほしいと泣く子かな★★★★
中天を海豚飛びけり春の潮★★★ 

河野啓一
春光の中を笑顔のバス走る★★★
真似たきや芽吹く気配の並木道★★★

木の芽晴れ丘の辺行けば水の音★★★★
春になって芽吹く木々の芽の総称を季語では「木(こ)の芽」という。そのころ降る雨を「木の芽雨」、そのころ吹く風を「木の芽風」という。それと同じようにその頃の晴れを作者は「木の芽晴れ」と季感をもたせて詠んだ。早春の明るさに満ちた晴天である。そんな丘を行けば水の音がころころと聞こえ、春が来たことを耳からも実感する。(高橋正子)

3月13日(木)

★春砂をゆきし足跡は浅し   正子
磯遊びなのか?或いは砂浜をお歩きになられたのか?後ろを振り返って見ると足跡の浅さに春の柔らかさを感じ取られたのでしょう。夏は沢山の人達の足跡が交差し賑やかさが有りますが、未だ人影も少なく、渚に打ち返す静かな波の音、さらさらとした美しい浅春の砂浜を想起致します。(佃 康水)

○今日の俳句
包み紙少し濡れいて蕗の薹/佃 康水
蕗の薹を包んでいる紙がうっすらと濡れている。朝早く採られた蕗の薹だろうか。蕗の薹の息吹であろうか。しっとりとした命の、春みずみずしさがある。(高橋正子)

○土佐水木(とさみずき)

[土佐水木/横浜日吉本町]

★土佐みづき山茱萸も咲きて黄をきそふ/水原秋桜子
★峡空の一角濡るる土佐みづき/上田五千石
★重い口開きたるかな土佐水木/遊歩
★大海の荒波見やる土佐水木/かるがも
★花揺らぎ潮の香りや土佐水木/かるがも
★料峭の空気の色に土佐水木/高橋正子

土佐水木(とさみずき、学名:Corylopsis spicata)は、マンサク科トサミズキ属。落葉低木。四国の山中に自生、また庭木とされている高さ2mほどである。高知(土佐)の蛇紋岩地に野生のものが多く見られるため、この名前がついている。また、葉の形がミズキ科の樹木と似てところからミズキといわれている。3-4月に葉に先立って短枝に明るい黄色の花を咲かせ、花穂は長く伸びて7輪前後の花をつける。レンギョウやマンサクと同様、江戸時代から庭木や盆栽、切り花として親しまれている。葉はまるっこい卵円形で、裏面は粉をふったように白っぽく毛がある。実は緑色で、熟すと中から黒い種子が出る。また海外へは19世紀、シーボルトにより紹介された。病害ではうどんこ病、虫害ではカイガラムシ類、テッポウムシなどによる被害がある。日向水木と比べて、一房の花の数が多くて花も大きい。土佐水木の仲間に支那水木がある。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

3月12日(水)

★片寄せに雪の残りて月おぼろ  正子
道路の除雪跡なのでしょうか。地面には片寄せされた雪が残っているけれど、夜空は、もう、おぼろながらも月があらわれ、幻想的な光景が感じられる夜となりました。(高橋秀之)

○今日の俳句
春暁の新しき水仏前に/高橋秀之
春の暁は、華やいだ感じはするが、空気がしんと冷えている。仏前に線香をあげ、汲みたての水をあげる。そこに充足した緊張感が生まれている。(高橋正子)

雪割一華(ゆきわりいちげ)

[雪割一華/東京白金台・自然教育園(2014年3月11日]

★春浅き一華うすうす紫に/高橋信之

雪割一華(ユキワリイチゲ)はキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草である。日本固有種である。本州の滋賀県から九州にかけて分布し、林の中や渓流沿いなどに生える。
 「雪割」は早春植物を意味し、「一華」は一茎に一輪の花を咲かせるという意味である。草丈は20から30センチくらいである。根際から生える葉は3小葉からなる。小葉は三角状の卵形でミツバの葉に似ていて、裏面は紫色を帯びる。茎につく葉は茎先に3枚が輪のようになって生える(輪生)。
 開花時期は3月から4月である。花の色は白く、淡い紫色を帯びている。花びらは8枚から12枚くらいである。ただし、花弁のように見えるのは萼片である。花の後にできる実はそう果(熟しても裂開せず、種子は1つで全体が種子のように見えるもの)である。
 花言葉は「幸せになる」である。属名の Anemone はギリシャ語の「anemos(風)」からきている。種小名の keiskeana は明治初期の植物学者「伊藤圭介さんの」という意味である。圭介はオランダ商館のシーボルトのもとで植物学を学んだ。学名:Anemone keiskeana (「花図鑑・雪割一華/龍 2010年3月14日」より)

◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・猫柳」(東大・小石川植物園)

3月10日-11日

3月11日

●小口泰與
初蝶のゆったり超ゆる大伽藍★★★★
大伽藍と小さな初蝶の対比、初蝶のういういしさ、可憐さ、うららかさをよく表すことになった。(高橋正子)

木々芽吹く今だ芽吹かぬ葡萄の木★★★
たらの芽や岸辺に数多稚魚のおり★★★★

●河野啓一
早春の晴れわたりたる朝の空★★★
枯枝の根元顔出す蕗のとう★★★

枯枝を揺らす鳥影大きくて★★★★
大きな鳥影からすれば、鳥は鵯だろうか。枝移りするたびに枝が揺れる。鳥の重さ、枯枝のしなやかさが感じ取れる句だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
菜園の背高き菜花明かりかな★★★
もとの樹へ未練の紅の落椿★★★
芽吹く枝のつぼみ宿せりゆきやなぎ★★★

●多田有花
大いなる渓谷へダイブ春の夢★★★
小綬鶏に呼ばれて締める靴の紐★★★

梅が香の真ん中にいて風を聞く★★★★
梅の香の漂うところに立てば、風が吹いている。目に触れる梅の花、鼻に嗅ぐ梅の香り、耳に聞く風の音。それ頬には早春の風も触れてゆくことだろう。感覚の大いに働いた句である。(高橋正子)

●古田敬二
三月の散歩は距離を長くして★★★
いぬふぐり咲きそろいけり陽は十時★★★★
春の日の、午前十時の陽はうらうらと輝き、新鮮である。その陽に照らされて、いぬふぐりの青い小花が咲きそろう。なんとうららかな春の景色だろう。(高橋正子)

畝打てば斜め後ろから春の雪★★★

3月10日

●小口泰與
山風に逆らいつつも麦踏めり★★★
鯉こくや千曲の雪解響きあう★★★★
千曲川の流れる小諸で花冠フェスティバルを行ったとき、鯉こくをいただいた。そのときの千曲川の瀬音を思い出したが、雪解の音で響き合う千曲川、そしてあたたかい鯉こくもいいものだと思う。(高橋正子)

白梅や白鳥北へ帰りおり★★★

●祝恵子
春の池狙うは翡翠カメラマン★★★
少年の釣りし春鯉リリースす★★★★
少年の初々しさが「春鯉」とよくマッチしている。釣った鯉をリリースするのも少年らしいことと思った。(高橋正子)

紅白梅重なり見える丘に立つ★★★

●河野啓一
曇り空晴れて受験子笑顔かな★★★
春場所や力士の汗と雪の花★★★
震災忌春未だしの野山かな★★★

●多田有花
春の雪ちらちらと舞い沖は晴れ★★★★
梅林の上流れ行く雲速し★★★★
リュックより首出す犬や春の山★★★

●桑本栄太郎
春北風や忽ち山河の真っ白に★★★
池めぐる間にも日差しの春の雪★★★
古木とて背の伸びきれず丘の梅★★★

3月11日(火)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
早春の芽吹くものは殆どさみどりのものが多く、暖かい春への希望の色である。しかし時には寒の戻りの寒さもあり、寒暖定まらぬ早春の気候を山葵を通して情趣豊かに詠われた。 (桑本栄太郎)

○今日の俳句
 京都四条~祇園界隈
建仁寺塀の高みの藪椿/桑本栄太郎
建仁寺塀は竹の塀で美しい。丈高く組まれることが多いが、その塀の上に覗く藪椿が自然の様で風趣がある。(高橋正子)

○土筆

[土筆/横浜日吉本町]            [土筆/横浜・四季の森公園]

★土筆煮て飯くふ夜の台所/正岡子規
★土筆摘む野は照りながら山の雨/嶋田青峰
★土筆野やよろこぶ母につみあます/長谷川かな女
★子のたちしあとの淋しさ土筆摘む/杉田久女
★土筆伸ぶ白毫寺道は遠いれど/水原秋桜子
★白紙に土筆の花粉うすみどり/後藤夜半
★土ふかき音もたつなる 土筆摘む/皆吉爽雨
★まま事の飯もおさいも土筆かな/星野立子
★土筆なつかし一銭玉の生きゐし日/加藤楸邨
★山姥の目敏く土筆見つけたり/沢木欣一
★土筆摘む強腰にしてひとりもの/青柳志解樹

 ツクシは、正しくは「杉菜(すぎな)」の胞子茎(ほうしけい)というもので、「付子」とも書く。
 スギナ(杉菜、学名:Equisetum arvense)は シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物の一種。日本のトクサ類では最も小柄である。浅い地下に地下茎を伸ばしてよく繁茂する。生育には湿気の多い土壌が適しているが、畑地にも生え、難防除雑草である。
 春にツクシ(土筆)と呼ばれる胞子茎(または胞子穂、胞子体)を出し、胞子を放出する。薄茶色で、「袴(はかま)」と呼ばれる茶色で輪状の葉が茎を取り巻いている。丈は10-15cm程度。
 ツクシ成長後に、それとは全く外見の異なる栄養茎を伸ばす。栄養茎は茎と葉からなり、光合成を行う。鮮やかな緑色で丈は10-40cm程度。主軸の節ごとに関節のある緑色の棒状の葉を輪生させる。上の節ほどその葉が短いのが、全体を見るとスギの樹形に似て見える。なお、ツクシの穂を放置すると、緑色を帯びたほこりの様なものがたくさん出て来る。これが胞子である。顕微鏡下で見ると、胞子は球形で、2本の紐(4本に見えるが実際は2本)が1ヵ所から四方に伸びている。これを弾糸という。この弾糸は湿ると胞子に巻き付き、乾燥すると伸びる。この動きによって胞子の散布に預かる。顕微鏡下で観察しながら、そっと息を吹きかけると、瞬時にその形が変化するのをみることが出来る。また、「ツクシ」は春の季語である。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

3月10日(月)

★受験子の髪ふっくらと切り揃う   正子
受験子は女の子でしょう。切り揃えた髪が肩の上で揺れます。清潔なたたずまいが浮かんできます。(多田有花)

○今日の俳句
弁当を誰か広げている梅林/多田有花
「誰か」がいい。梅の花を楽しみながら静かに弁当と広げている。静かに日差している梅林を思う。

○ミモザ(銀葉アカシア)

[ミモザ/横浜日吉本町(左:2014年2月28日)・右:2011年3月27日)]
 
 原義のミモザは、マメ科オジギソウ属の植物の総称(オジギソウ属のラテン語名およびそれに由来する学名がMimosa)。ミモザ(英: mimosa、独: Mimose)は、本来はマメ科の植物であるオジギソウを指すラテン語名。葉に刺激を与えると古代ギリシアの身振り劇ミモス”mimos”(マイム、パントマイムの前身)のように動くことからこの名がついた。ラテン語本来の発音はミモサ、英語発音はマモゥサあるいはマイモゥサとなり、日本語のミモザはフランス語発音に由来する。
 ミモザは、フサアカシア、ギンヨウアカシアなどのマメ科アカシア属花卉の俗称。イギリスで、南フランスから輸入されるフサアカシアの切花を”mimosa”と呼んだ事から。アカシア属の葉は、オジギソウ属の葉によく似るが、触れても動かない。しかし花はオジギソウ属の花と類似したポンポン状の形態であることから誤用された。今日の日本ではこの用例がむしろ主流である。鮮やかな黄色で、ふわふわしたこれらのアカシアの花のイメージから、ミモザサラダや後述のカクテルの名がつけられている。

◇生活する花たち「桃の花蕾・藪椿・梅」(横浜日吉本町)

3月9日(日)

★蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し   正子
蕎麦の薬味にしようと山葵を擂る。その淡い緑に、迎えたばかりの春をそっと感じる。清流の音が聞こえてきそうな爽やかさです。(小西 宏)

○今日の俳句
海鳴りを柔らかに聞く春の浜/小西 宏 
春の浜で沖を見やりながら聞く海鳴りは柔らかい。この柔らかな海鳴りに、寒さから解き放たれた春のうれしさが読める。(高橋正子)

○沈丁花

[沈丁花/横浜日吉本町]

★沈丁の四五花はじけてひらきけり/中村草田男
★沈丁やをんなにはある憂鬱日/三橋鷹女
★にはとりの置去り卵沈丁花/皆川盤水
★沈丁の風にころがる鉋屑/高橋将夫
★風下のベンチまた空く沈丁花/木暮陶句郎
★ポストヘの道沈丁の香にも寄り/藤田宏
★沈丁や気おくれしつつ案内乞ふ/星野立子

 日本に栽培されているものは中国原産の常緑灌木で、高さい・5メートルに達し、生垣や庭先に植えられたものが多い。花は内面部が白く、外面が紫がかった桃色で、香気が強い。早春まだうそ寒い頃、または淡雪の下、夜気にこの花が匂うのは印象深い。
赤紫色の蕾が弾けると、内側の白い部分が表れて好対照をなす。うそ寒いころの、その香気が好きなために植えられる花であるかもしれない。砥部の庭にも門脇に一本あった。冷たい空気とともに吸うその香りは、肺深く入りこんで、今年も卒業や旅立ちの季節が来たなと思う。田舎の家の庭先にもよく植えられて、子供の間でも沈丁花が咲いたと話題になった。「じんちょうげ」というあの花くらいの重さの音が今も耳に残っている。

★沈丁の香の澄む中に新聞取る/高橋正子
★雪解けの雪が氷れる沈丁花/高橋正子

 ジンチョウゲ(沈丁花)とは、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
 2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
 沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。

◇生活する花たち「紅梅・赤花満作・山茱萸(さんしゅゆ)」(横浜・四季の森公園)

3月8日-9日

3月9日

●小口泰與
奥利根の木々の芽吹きや硬き風★★★★
神代より雪解雫の信濃川★★★

たんぽぽや背負い鞄の赤き色★★★★
たんぽぽが咲き、赤い背負い鞄が背中で弾んでいる。たんぽぽも赤い鞄の少女も春らしい映像と思える。(高橋正子)

●河野啓一
若ごぼう河内平野に時を得て★★★★
河内平野に育つごぼう。まだ、若いが早も収穫できるまでになった。豊かな土も香らんばかりだ。(高橋正子)

山裾のハウスの中で若ごぼう★★★
春雨や傘の下なる車椅子★★★

●祝恵子
子に詰める春の荷色々分けて入れ★★★
風に散る吾を越しゆく梅の花★★★

春きゃべつ値札は風に裏返る★★★★
春きゃべつは、形も特徴あって、葉も見るからにやわらかそうだ。値札が付けられ店頭に溢れるほど置かれているのだろう。寒々とした風に値札が裏返っている。春きゃべつはそんな季節の野菜だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
濃く淡く遅速もありぬ梅の園★★★
さざ波の揺れて眩しく春の鴨★★★

水底の透けて煌めき蘆の角★★★★
湿地の水が日差しに澄んで、蘆の緑の角が伸び始めた。枯から再生する緑の新芽が力強く美しい。(高橋正子)

●小西 宏
梅の陽に父娘釣りする日曜日★★★
風清し青木芽立ちのうす緑★★★★
小犬嗅ぐ�壓縷(はこべら)の花咲く原を★★★

●黒谷光子
囀りや村中総出の道普請★★★
蕾いくつ付け我が植えし白椿★★★
ふっくらと咲き初む一輪白椿★★★★

●高橋秀之
起こしても変わらぬ寝顔大朝寝★★
新聞の一面踊る春闘の文字★★
寒戻る生駒の山がくっきりと★★★★

●多田有花
沿線の家々の庭梅咲きぬ★★★
たこ焼きを囲む三月のテーブル★★★

大阪のビルの谷間の淡紅梅★★★★
大阪のビルというと、近代的なビルさえも生活感にあふれている感じがする。そのビルの谷間にも淡い紅梅が咲き、淡く紅梅を咲かせる人間の生活が垣間見れる。(高橋正子)

3月8日

●迫田和代
今だから全てをあとに帰り鳥★★★
春の海傷んだ船の帰船あり★★★
足らぬ世辞皆の笑いの和の願い★★

●小口泰與
春昼の彼我の違いの釣の技★★★
百千鳥香煙流る大広間★★★
雪のひま三羽の烏かまびすし★★★

●桑本栄太郎
天辺の剥がれ落つとも春の雪★★★
かけ声の部活の娘等の春きざす★★★
ほつほつと垣根にこぼれ山茱萸黄★★★★

●小西 宏
まだ寒き風に舞い初む梅花びら★★★
ひとつずつ地に触れ消える春の雪★★★★
春の雪の降る行方を見ていると、雪片は一つずつ地に触れて消えてゆく。水分を多く含んだ春の雪の美しくも儚い様子。(高橋正子)

空青き枝に鴉の春眺む★★★

●高橋秀之 
春の海照り返す陽が波に揺れ★★★★
波に乗った春の日が照り返し、その波が揺れる。「照り返す陽が波に揺れ」は、なにげないようでいてユニークな捉え方。(高橋正子)

母の炊くいかなご今年も同じ味★★★
入り船も出船も春の波に乗り★★★

3月8日(土)

★辛夷の花枝ごと揺れて揺るる空/高橋正子
辛夷の花の咲く頃は、早春の強い風の吹く日が多くあります。季節の風に枝ごと煽られながらも、逞しくしなやかな辛夷の花を思います。高々と咲く辛夷の花の白さに、早春の澄みきった空が広がります。 (藤田洋子)

○今日の俳句
桃の花馴染みの声の店先に/藤田洋子
桃の花が店に活けてある。店先に馴染みの声が聞こえて、「あら」と思う。桃の花には、気取らない、明るい雰囲気があるので、「馴染みの声の店先に」言ってみるのだ。日常の一こま。(高橋正子)

○グランサム椿

[グランサム椿/東大・小石川植物園]

  小石川植物園二句
★香港の気風にみちて白椿/高橋正子
★了りつつ蕊の黄ゆたかな白椿/高橋正子

グランサム椿(グランサムツバキ、学名:Camellia granthamiana)はツバキ科ツバキ属の常緑小高木である。原産地は香港の九竜半島である。中国名を「大苞白山茶」という。日本へは昭和時代の中期に渡来した。樹高は3~8メートルくらいである。枝を疎らにつける。葉は楕円形で、互い違いに生える(互生)。葉の縁にはぎざぎざ(鋸歯)がある。葉の質は厚くて光沢があり、葉脈の部分がへこむ。開花時期は11~2月である。花の色は白く、花径が10~15センチくらいあり大輪である。茶(チャ)の花と似た感じで、黄色い雄しべは500本以上ある。花柱(雌しべ)の先は5つに裂ける。花びら(花弁)は7~10枚くらいで、咲き進むと花びらの先は反り返る。1955年に香港で見され、名は当時の香港総督アレキサンダー・グランサム (Alexander Grantham) 総督に由来。

○2013年の日記より:
 先月、2月14日の小石川植物園。いろんな万作が咲きみちていた。榛の花も咲いていた。万作の花を見ながら歩くと、榛の木へ至る道すがら、黄色い蕊の大きな白い花が目に入った。深緑の葉が、葉脈の筋が白い花をより魅力的にしている。なんの花だろう。ヨーロッパの花に違いない。近づくと「グランサム椿」と名札がある。決して椿の花の印象ではない。椿のように花が半開きではないのだから。おおらかに堂々と。威風堂々と。2月なのに、もう終わりかけている。そのはずで、花期は11月から2月とのことだから。この日、忽然と目の前に現れたグランサム椿の花に魅了され、一瞬は、「一体私はどこにいるんだろう。」とさえ思った。発見されたのは1955年でまだ新しい。

◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)