3月27日(木)

★夜桜にオリオン星雲浮いてあり  正子
子供の頃には東京でもオリオン星雲を肉眼で見ることが出来ました。ただぼんやりと、見えた気になっていただけなのかもしれませんが。春の夕には、オリオン座が西空に消え残ります。おぼろげな有様、やがて沈みゆく儚さなど、夜桜と星雲との対比が印象的です。(小西 宏)

○今日の俳句
陽の庭に白木蓮の花浮かぶ/小西 宏
さんさんと太陽が降り注ぐ庭に、白木蓮が鮮やかに咲いている。庭の陽のあまりの明るさに、花は「浮かぶ」感じだ。白木蓮の花の姿をよく表している。(高橋正子)

○犬ふぐり(オオイヌノフグリ)

[犬ふぐり(オオイヌノフグリ)/横浜日吉本町]

★陽は一つだに数へあまさず犬ふぐり/中村草田男
★構想をまとめ返す歩犬ふぐり/稲畑汀子
★眼を閉ぢて数ふやしけり犬ふぐり/鷹羽狩行
★東京へ歩いてゐるやいぬふぐり/岸田稚魚
★ゆきすぎて胸の微光はいぬふぐり/林翔
★ふかぶかと春の露おくいぬふぐり/瀧春一
★馬とびの馬のつぶれて犬ふぐり/小沢昭一

オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢、学名 Veronica persica)とはオオバコ科クワガタソウ属の越年草。別名、瑠璃唐草・天人唐草・星の瞳。路傍や畑の畦道などに見られる雑草。
 ヨーロッパ原産。アジア(日本を含む)、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、アフリカに外来種(帰化植物)として定着している。日本では全国に広がっており、最初に定着が確認されたのは1887年の東京である。
 早春にコバルトブルーの花をつける。まれに白い花をつけることがある。花弁は4枚。ただしそれぞれ大きさが少し異なるので花は左右対称である。花の寿命は1日。葉は1–2cmの卵円形で鋸歯がある。草丈10–20cm。
 名前のフグリとは陰嚢の事で、実の形が雄犬のそれに似ている事からこの名前が付いた。ただし、これは近縁のイヌノフグリに対してつけられたもので、この種の果実はそれほど似ていない。したがって正しくはイヌノフグリに似た大型の植物の意である。
犬ふぐりは、一般にはオオイヌノフグリをさす。俳句で詠まれている「犬ふぐり」の殆どが「オオイヌノフグリ」であり、在来種の「犬のふぐり」を見かけることは少ない。 

◇生活する花たち「しでこぶし・山吹・桜」(横浜市港北区下田町)

3月26日(水)

★宵風の白みて強し犀星忌  正子
穏やかな中にも、そこはかとなく感傷を誘う「犀星忌」の宵の情景です。「白みて強し」と捉えられた宵風に、不遇な境遇を不屈の精神で乗り越え、文学の道を歩んだ犀星を彷彿と感じさせていただきました。(藤田洋子)

○今日の俳句
水一つ提げて囀りの山に入る/藤田洋子
「水一つ」は、お墓参りのバケツの水か、または山歩きのための水筒かと思うのだが、大切な「水一つ」なのである。囀りの聞こえる山は、世を離れた明るい世界。柔らかな水、囀りの山に洋子さんらしい抒情がある。(高橋正子)

○三椏(みつまた)

[三椏の花/横浜・四季の森公園]

★三椏や皆首垂れて花盛り/前田普羅
★三椏の咲くや古雪に又降りつむ/水原秋櫻子
★三椏の花に暈見て衰ふ眼/宮津昭彦
★三椏やひそかに期することのあり/能村研三
★三椏の花の眠たくなる黄色/大橋敦子
★咲き終りても三椏の花なりし/稲畑汀子
★三椏の花じやんけんを繰り返す/大串章

ミツマタ(三椏、学名:Edgeworthia chrysantha)は、ジンチョウゲ科ミツマタ属の落葉低木。中国中南部、ヒマラヤ地方原産。皮は和紙の原料として用いられる。
 ミツマタは、その枝が必ず三叉、すなわち三つに分岐する特徴があるため、この名があり、三枝、三又とも書く。中国語では「結香」(ジエシアン)と称している。春の訪れを、待ちかねたように咲く花の一つがミツマタである。春を告げるように一足先に、淡い黄色の花を一斉に開くので、サキサクと万葉歌人はよんだ(またはサキクサ:三枝[さいぐさ、さえぐさ]という姓の語源とされる)。園芸種では、オレンジ色から朱色の花を付けるものもあり、赤花三椏(あかばなみつまた)と称する。
 和紙の原料として重要である。ミツマタが和紙の原料として登場するのは、16世紀(戦国時代)になってからであるとするのが一般的である。しかし、『万葉集』にも度々登場する良く知られたミツマタが、和紙の原料として使われなかったはずがないという説がある。

◇生活する花たち「辛夷・花水木・柳の花」(横浜都筑・ふじやとの道緑道)

3月25日

●古田敬二
新美南吉記念館(愛知県半田市)3句
菜の花にやさしき風や南吉館★★★
菜の花の眩しき里に南吉館★★★

窓の外菜の花光童話読む
【添削】窓外に菜の花光り童話読む★★★★

●小口泰與
初蝶や棚田の水をつなぎおり★★★★
「水をつなぎおり」が上手。初蝶のやわらかさがうまく表現された。棚田にも水が張られてきているのだろう。(高橋正子)

へら浮子のけしき調う春の湖★★★
魚野川越の三山雪消かな★★★

●祝恵子
桜蕾むバックで戻るミニSL★★★★
遊園地だろうか。ミニSLが、後進してくるのが愉快。桜が蕾んでもうすぐ花見でにぎわうことだろう。(高橋正子)

何回も手作りの凧風に乗せ★★★
青き踏み足湯の先の森めざす★★★

●桑本栄太郎
赤瓦屋根や播州春の昼★★★
吉井川中州の木々の芽吹きけり★★★★
山肌を雲影走る木の芽山★★★

●小西 宏
崖道を仰ぎ歩けば花木五倍子(きぶし)★★★★
崖の上には雑木が生えていることが多いが、五倍子もその一つ。花が簪のように黄色い房になって
垂れ下がる。仰ぎみて知る五倍子の花に春の山の明るさを思う。(高橋正子)

池めぐり馬酔木花満つ能の庭★★★
黄昏にほの明かりして土佐水木★★★

3月25日(火)

★春の蕗提げしわれにも風が付く  正子
蕗は手折る時から或いは提げた時から香しい匂が漂ってきます。蕗を手にされた作者は主婦として色々なお料理を思い浮かべ「何を作ろうか?」などと楽しんで居られる姿を思い浮かべます。蕗のあの独特な風味、食感が味わえる美味しいお料理が食卓に並ぶ事でしょう。(佃 康水)

○今日の俳句
チェロの夕果てて仰げば春の月/佃 康水
チェロの演奏会が果て、余韻を引いて外に出れば春の月が出ている。「秋の月はさやけさを賞で、春の月は朧なるを賞づ」と言われるが、「澄んであたたかい感じ」の春月もよい。チェロの余韻が広がる。(高橋正子)

○蘆の芽・蘆の角・葦牙(アシカビ)

[蘆の芽/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★日の当る水底にして蘆の角/高浜虚子
★曳船やすり切つて行く蘆の角/夏目漱石
★舟軽し水皺よつて蘆の角/夏目漱石
★ややありて汽艇の波や蘆の角/水原秋櫻子
★さざ波の来るたび消ゆる蘆の角/上村占魚
★水にうく日輪めぐり葦のつの/皆吉爽雨
★蘆の芽や志賀のさざなみやむときなし/伊藤疇坪
★捨舟の水漬く纜葦の角/中村みづ穂

★葦の角水面かがやき通しけり/高橋正子
★葦芽ぐみ寂しさこれで終わりけり/高橋正子
★ふるさとに芦の川あり葦角ぐむ/高橋正子

日本のことを、「豊葦原瑞穂の国」といい、葦は国生みのころの日本の国土を象徴するような植物だったのだろう。

 ヨシまたはアシ(葦、芦、蘆、葭、学名: Phragmites australis)は、イネ科ヨシ属の多年草。「ヨシ」という和名は、「アシ」が「悪し」に通じるのを忌んで(忌み言葉)逆の意味の「良し」と言い替えたのが定着したものであるが、関東では「アシ」、関西では「ヨシ」が一般的である。標準和名としては、ヨシが用いられる。これらの名はよく似た姿のイネ科にも流用され、クサヨシ、アイアシなど和名にも使われている。3 – 4の種に分ける場合があるが、一般的にはヨシ属に属する唯一の種とみなされている。日本ではセイコノヨシ(P. karka (Retz.) Trin.)およびツルヨシ(P. japonica Steud.)を別種とする扱いが主流である。
 条件さえよければ、地下茎は一年に約5m伸び、適当な間隔で根を下ろす。垂直になった茎は2 – 6mの高さになり、暑い夏ほどよく生長する。葉は茎から直接伸びており、高さ20 – 50cm、幅2 – 3cmで、細長い。花は暗紫色の長さ20- 50cmの円錐花序に密集している。
 古事記の天地のはじめには最初の二柱の神が生まれる様子を「葦牙のごと萌えあがる物に因りて」と書き表した。葦牙とは、葦の芽のことをいう。その二柱の神がつくった島々は「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国」といわれた。これにより、日本の古名は豊葦原瑞穂の国という。更級日記では関東平野の光景を「武蔵野の名花と聞くムラサキも咲いておらず、アシやオギが馬上の人が隠れるほどに生い茂っている」と書き残し、江戸幕府の命で遊郭が一か所に集められた場所もアシの茂る湿地だったため葭原(よしはら)と名づけられ、後に縁起を担いで吉原と改められた。

◇生活する花たち「山桜・やまるりそう・すみれ」(東京白金台・自然教育園)

3月24日(月)/彼岸明け

★片栗の花と光とせめぎあう  正子
片栗の花は日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返り、日差しがない日は終日花が閉じたままであるそうです。まさに花と光がせめぎあい、春の日差しのありがたさを感じさせてもらえるようです。 (高橋秀之)

○今日の俳句
左胸に花を挿したる卒業生/高橋秀之
卒業生の左胸を飾る花。卒業を祝う花を一人一人が付けてもらって、誇らしく卒業してゆく。皆の祝意の籠った花だ。(高橋正子)

○連翹(れんぎょう)

[連翹/横浜日吉本町] 

★連翹や真間の里びと垣を結はず/水原秋桜子
★連翹の一枝づつの花ざかり/星野立子
★連翹のこぼれもあへぬ別れかな/中川宋淵
★連翹の黄が咲き誇るアジアの端/高橋正子

  レンギョウ(連翹)とは、広義にはモクセイ科レンギョウ属(学名: Forsythia)の総称(それらから品種改良で作られた園芸品種をも含める)。狭義には、レンギョウ属の種の一つ、学名 Forsythia suspensa の和名を指す。一般には広義の意味で称されることが多い。
 狭義のレンギョウ(連翹、学名: Forsythia suspensa (Thunb.) Vahl)は、モクセイ科レンギョウ属の落葉性低木広葉樹。別名、レンギョウウツギ(連翹空木)。古名は、いたちはぜ、いたちぐさ。中国名は黄寿丹。英名はゴールデンベル (golden bells, golden bell flower)。種小名の suspensa は、枝が“垂れる”意味である。雌雄異株。
 繁殖力が旺盛で、よく繁る。樹高は1 – 3mまで育ち、半つる性の枝は湾曲して伸び下に垂れ、地面に接触すると、そこからも根を出し新しい株ができる。枝は竹のような節を持つ。また、枝の髄が早期に消失するため、節の部分を除いて中空になる(このことから“空の木”、レンギョウウツギ(連翹空木)という別名が付いた。この呼称は最初、本来の連翹(トモエソウ)との誤用に気付いた時、区別するために使われた)。まだ葉が芽吹く前の早春(3 – 4月頃)、2 – 3cmの黄色い4弁の花が、細い枝に密に多数開く。その花が咲き終わる頃、入れ違うかのように今度は、緑色の葉(長さ3 – 10cm、幅2 – 5cmの長卵型。葉先は鋭尖で、葉縁にまばらな鋸歯がある)が対生に芽吹き、それが秋になると濃緑色、概憤色(くすんだ黄緑色)、紫色と順に変色し、最後に落葉する。付いた果実は漢方薬として用いられる。中国原産。日本への渡来は古く、『出雲風土記』や『延喜式』にもレンギョウの名前が見られる(薬用として平安時代初期に渡来したといわれているが、実際に渡来した時期は定かではなく、江戸時代前期に栽培の記録があることから、江戸時代だという説もある)。
 4月2日は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883年 – 1956年)の命日で、これを連翹忌とも呼ぶ。これは、高村が生前好んだ花がレンギョウであり、彼の告別式で棺の上にその一枝が置かれていたことに由来する。

◇生活する花たち「菜の花・片栗の花・山桜」(横浜・四季の森公園)

3月24日

●小口泰與
雪代に浮子の乱舞や朝まずめ★★★
牡丹の芽けわしき風に堂々と★★★
百千鳥木隠れ沢も活き活きと★★★★

●河野啓一
菜花摘む名張の里の陽の光★★★★
「名張」は、三重県伊賀地方にあって、今は奈良や大阪のベッドタウンとなっているようだが、里ののどかな明るさがいい。菜花を摘むのも摘み草のようだ。(高橋正子)

春潮に魚貝育む里の海★★★
今は昔信貴山城址の春の色★★★

●桑本栄太郎
<孫の初誕生日お祝い>
幼子のまといつく日や春の昼★★★
山口の菜香亭や馬酔木咲く★★★

一升餅を背負い歩む子春きざす★★★★
初誕生に一升餅を背負わせて歩かせる風習は、私の育った備後地方にもあったが、頼もしいお子さんだ。(高橋正子)

●黒谷光子
葱坊主出そうな兆しの葱を採る★★★★
葱を収穫できるのもそろそろ終わりに。あやうく葱坊主となってしまうところだった。(高橋正子)

法蓮草紅き根揃え洗い上げ★★★
先ずは葉のほどけ現る牡丹の芽★★★

●小川和子
陽の通る雑木林のみな芽吹く★★★
近寄れば桜花芽の紅ほのか★★★

さらの風寄せて馬酔木の鳴りやまず
【添削】さらの風馬酔木の花の鳴りやまず★★★★
季節が変わってまず吹く風に新しさを感じる。その風が馬酔木の可憐な花を鳴らしづめている。馬酔木の咲く頃の風の具合がよく想像できる。(高橋正子)

●多田有花
はくれんや碧色淡き空に咲く★★★★
真っ青な空ではなく、碧色が淡くなる空がある。はくれんが咲くころが丁度そうだ。はくれんは、やわらかな碧空が似合う白さだ。(高橋正子)

炊き立てのご飯の上の桜蝦★★★
蝶が飛ぶ頂となり沖霞む★★★

●小西 宏
フンボルトペンギン見てい春ひと日★★★
掌(てのひら)にヒヨコのうぶ毛春うらら★★★
あの下に雪崩のあるや春の冨士★★★

3月23日(日)

★雪割草のひらく時きて日があふる  正子
日が当たり、 小さな花の雪割草が咲きだしました。可憐な花の誕生です。(祝恵子)

○今日の俳句
少年の釣りし春鯉リリースす/祝恵子
少年の初々しさが「春鯉」とよくマッチしている。釣った鯉をリリースするのも少年らしいことと思った。(高橋正子)

○木五倍子(キブシ)の花

[木五倍子の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]

★谷かけて木五倍子の花の擦れ咲/飯島晴子
★山淋し木五倍子がいくら咲いたとて/後藤比奈夫
★雨ながら十々里が原の花きぶし/古館曹人
★源流はもとより一縷木五倍子咲く/大岳水一路
★身心を山に置いたる花木五倍子/各務耐子
★木五倍子咲く地図には載らぬ道祖神/北澤瑞史

★木五倍子の花風あるかぎり揺れており/高橋正子
★里山の目を遣るところ木五倍子咲く/高橋正子

キブシ(木五倍子、学名:Stachyurus praecox)は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株の落葉低木。別名、キフジともいう。樹高は3m、ときに7mに達するものもある。3-5月の葉が伸びる前に淡黄色の花を総状花序につける。長さ3-10cmになる花茎は前年枝の葉腋から出て垂れ下がり、それに一面に花がつくので、まだ花の少ない時期だけによく目立つ。花には長さ0.5mmの短い花柄があり、花は長さ7-9mmの鐘形になる。萼片は4個で内側の2個は大きく花弁状、花弁は4個で花時にも開出せず直立する。雄花は淡黄色、雌花はやや緑色を帯びる。雌花、雄花とも雄蕊は8個、雌蕊は1個あるが、雌花の雄蕊は小さく退化している。葉には長さ1-3cmの葉柄があり、互生する。葉は長さ6-12cm、幅3-5cm、葉身は楕円形または卵形で、先端は鋭形または鋭尖形、基部は円形、切形または浅心形になり、縁には鋸歯がある。果実は径7-12mmになる広楕円形、卵形または球形で、緑色から熟すと黄褐色になる。和名は、果実を染料の原料である五倍子(ふし)の代用として使ったことによる。
 日本固有種で、北海道(西南部)、本州、四国、九州、小笠原に分布し、山地の明るい場所に生える。成長が早く、一年で2mくらいは伸びる。先駆植物的な木本で、荒れ地にもよく出現する。生育環境は幅広く、海岸線から内陸の川沿いまで見られる。

◇生活する花たち「辛夷(こぶし)・木瓜・ミツバツツジ」(横浜日吉本町)

3月23日

3月23日

●佃 康水
黎明の初音に一日気の弾む★★★★
朝のはじめに良いことがあると、その日一日よい気持ちで過ごせる。黎明の鶯の澄んだ声には、「気の弾む」思いである。(高橋正子)
   
洗い場の水止め初音聞き澄ます★★★  
水換えて早や蹲踞へ椿落つ★★★ 

●小口泰與
けざやかに椿一輪竹林に★★★
三山とけじめをつける雪解山★★★
あしの芽や風のくれたる白き波★★★★

●多田有花
失いしものは戻らず鳥雲に★★★★
鳥が雲に入っていくのを見ていると、雲を突き抜けて、もう帰らないように思える。「失いしものは戻らず」の感が強まる。(高橋正子)

枝垂梅の下をくぐりて坂に出る★★★
梅林にそぞろ歩きの人多し★★★

●小西 宏

蜜蜂の渉る晴れたる黄の丘へ★★★★
蜜蜂が飛んでゆく様子を「渉る」と表現したので、蜜蜂の飛翔がリアルに、生き生きとしてきた。「黄の丘」は、一面の菜の花の咲く丘か。(高橋正子)

楠の幹高々と春の空★★★
鶯の響きや若し池の面(おも)★★★

●桑本栄太郎
<新幹線にて山口へ>
窓側の座席占めけり春の旅★★★
眼をほそめビール呑むのも春意かな★★★
徳山湾の舟の数多や春の海★★★

3月22日

3月22日

●小西 宏
春分の雲やわらかに富士の上★★★★
春分を迎え、寒さもやわらいぎ、富士山の上にもやわらかい雲が寄せている。この句のやわらかさは、普段の生活に富士山が見える人の句と言えよう。(高橋正子)

開花待つ心静かに春の雨★★★
池の面に流る彼岸の花芽風★★★

●小口泰與
夕さりを土咥えくる燕かな★★★
噴煙のすくっと伸びてつくつくし★★★★
春の宵水琴窟の音色かな★★★

●古田敬二
確かなる枝先芽ぐむもの丸し★★★★
枝先に芽ぐむものが、冬芽としてとがっていたものが、丸くなって、いよいよ芽をひらく季節がきた。「確かなる枝先」には、枝の強さが読み取れる。(高橋正子)

冴え返る森落日にシルエット★★★
春蘭を見て夕影長き踏む★★★

●多田有花
自転車の少女が増えて春休み★★★★
「少女が増えて」が、にぎやかで楽しそうだ。街のあちこちに、少女たちが思い思いの服装で、自転車を光らせて走っている。また、停めておしゃべりをしている。闊達な少女たちがいい。(高橋正子)

春分の大阪湾を一望す★★★
春分の六甲山頂樹氷かな★★★

●小川和子
枝ごとに雨滴連ねて芽木しずか★★★
夕日斜めに青々とほうれん草★★★
子ら駆ける公園遅日の明るさに★★★★

●桑本栄太郎
稜線の嶺くっきりと余寒風★★★
公園のゲートボールや春日さす★★★
菜園の支柱に低き豆の花★★★★