4月19日(土)

★濃きお茶に春の灯しを入れて飲む  正子
濃いお茶は深い味わいとやわらかな渋みを含んでいます。ほっと一息ついた夕べ、濃きお茶とご家庭の暖かな春灯を感じながら喉を潤せば一日の疲労を優しく癒してくれる事でしょう。(佃 康水)

○今日の俳句
良き音を手元に鳴らし蕨摘む/佃 康水
蕨を折り取るときの、「ぽきっ」というみずみずしくて軽い音。それが「良き音」。次々にその音が鳴れば、うれしさもそれだけ増してくる。蕨採り、野山に遊ぶ嬉しさがさわやかに詠まれている。(高橋正子)

○幸田 延(こうだ のぶ)
今日の早朝、NHKラジオの深夜便で紹介される

 幸田 延(こうだ のぶ、明治3年3月19日(1870年4月19日) – 1946年6月14日)は、ピアニスト、ヴァイオリニスト、音楽教育家、作曲家。
 東京の幸田家に幸田露伴の妹として生まれる。兄に海軍軍人の郡司成忠、弟に幸田成友、妹に安藤幸がいる。音楽取調掛伝習生を経て、1889年からアメリカ、ドイツ、オーストリアに留学。1895年、帰国し、東京音楽学校教授として山田耕筰、久野久らを育てた。1895年に作曲したヴァイオリンソナタ変ホ長調(3楽章、未完)と1897年のヴァイオリンソナタニ短調(1楽章のみ)は、日本人による初のクラシック音楽作品である(現在、全音楽譜出版社から2曲とも出版されている)。1915年には大正天皇御即位を祝した混声4部合唱付交響曲「大礼奉祝曲」を作曲している。
 1906年従五位。1909年教授を辞したが、この際学校側で勝手に解雇し、出勤してそれを伝えられた延は憤然として帰宅し、同情と怒りの声があがったという。以後欧米を視察し、1912年審声会を創立、後進の指導に当たる。東宮職御用掛となり皇族に音楽を教授、1937年帝国芸術院設立とともに会員となる。
 1916年作曲の神奈川県立高等女学校(現・神奈川県立横浜平沼高等学校)校歌は、幸田の作った唯一の歌曲である(作詞は佐佐木信綱)。(ウィキペディアより)

○西洋おだまき

[西洋おだまき//横浜日吉本町(左:2012年6月15日・右:2013年4月18日)]

★をだまきや乾きてしろき吉野紙/水原秋桜子
★をだまきやどの子も誰も子を負ひて/橋本多佳子
★をだまきの花に風吹く陵の道/石原八束
★おだまきの花の造形こまやかに/高橋正子
★玄関の水栓隠す花おだまき/高橋正子
★西洋おだまき深山おだまき植え揃え/高橋正子

 西洋おだまきは、キンポウゲ科オダマキ属の耐寒性宿根草。花期4月ー6月。現在の日本で西洋オダマキと呼ばれているものは、ヨーロッパ原産のアクイレギア・ブルガリス(Aquilegia valgaris)と北米産の大輪の花を咲かせる数種との交配種をさすようになっています。オダマキの仲間はもともと雑種をつくりやすいこともあって、きわめて多数の園芸品種がありますが、多くの場合、国内では個々の品種名を明記せずに色別や混合種子の形で流通しています。いずれも丈夫な宿根草で、高さ30〜50cmになり、株の中心からまっすぐ伸びた茎に赤、黄、青紫、白、桃色などの4〜5cmの花を多数咲かせます。葉は根元にまとまってつきます。
 本来セイヨウオダマキの和名をもつアクイレギア・ブルガリスの変種に八重咲きのフローレ・プレノ(A. vulgaris var. flore-pleno)があり、変種のステラータ(A. vulgaris var. stellata)は同じ八重咲きでも、距(花の後ろに突き出した部分)のないタイプで八重咲きのクレマチスのような形の花を咲かせます。

◇生活する花たち「木苺の花・藤の花・姫林檎の花」(横浜日吉本町)

4月19日

●小口泰與
夕暮れの野川を駆ける落花かな★★★
借景に南アルプス桜咲く★★★
十州に連なる国や山桜★★★★

●佃 康水  
  厳島桃花祭 ご神能
神能の笛に燕の飛び交えり★★★★
能笛の流れるところを、しきりに飛び交う燕。奉納の能とは無関係なように飛ぶ燕だが、燕もご神能もこの季節の中にいるのだ。(高橋正子)

奉納の舞楽へ満たす春の潮★★★
皐月咲く隣家に洩るる笑い声★★★

●桑本栄太郎
歩む子の写真メールや花は葉に★★★★
花が葉桜になるころ、歩きはじめた子を写真メールで見たうれしさ。(高橋正子)

からし菜の花菜明かりの中州かな★★★
釣り人の前に水脈曳く春の鴨★★★

●河野啓一
春深し杖突き一歩外に出る★★★
展望台丘の辺にあり風光る★★★★
街の灯の淡くにじみて朧かな★★★

●小西 宏
晴朗にして鶯の長き声★★★★
ゴールデンウィークも近くなると鶯の声も一段とよくなる。天気晴朗にして、ろうたけた鶯の声。
心地よい日々を過ごされているようだ。(高橋正子)

花摘んで湯に浮かべんと八重桜★★★
午後の日の窓覆いたる藤の花★★★

●古田敬二
木漏れ日の眩しき高みに木の芽採る★★★
心地よき音たて木の芽採りにけり★★★★
水の音風の音だけ山笑う★★★

4月18日(金)

★春ほのぼの棚にあげたる書の紙も  正子
冬には冷え冷えとした白さを覚える書の紙も、春ともなると、明るい柔らかさを醸しだしてくれるようです。棚に置かれた書の紙が、まるで出番を待っているかのように「春ほのぼの」としたあたたかさを感じさせてくれます。(藤田洋子)

○今日の俳句
柳青みて水に照り水に垂る/藤田洋子
「柳青みて」の上七に力強さがある。以下「水に照り水に垂る」の五・五と続く五音のリズムも力強い。柳はしなやかなものとして詠まれることが多いが、この句は柳を力強く詠んで成功した。

○苧環(おだまき)

[おだまき/横浜日吉本町] 

★おだまきや旅愁はや湧く旅のまへ/水原秋桜子

 オダマキ属(オダマキぞく)は、キンポウゲ科の属の一つ。ラテン名のアキレギアやアクイレギア(Aquilegia)ということもある。本属の植物の総称がオダマキ(苧環)である。苧環は元来は機織りの際に麻糸をまいたもののことで、花の形からの連想である。日本、アジア、ヨーロッパに約70種くらい自生し、日本のものは山野草として愛好される一方、外国産のものには品種改良が行われ、園芸植物として広く市場に出回っているものがある。日本にはヤマオダマキ、ミヤマオダマキの2種が山地から高山にかけて分布する。ミヤマオダマキはむしろ山野草として栽培される。
 花の外側の花弁のようなものは、じつは花弁ではなく萼である。花弁はその内側にあって、ややまとまって筒状になる。花弁の基部からは角状の距が伸び、萼の間から突き出る。根出葉は普通2回三出複葉で細かく分かれ、先端には丸っこい小葉がつく。茎が高く伸びるものでは、やや小型の茎葉が出る。全草が有毒。

◇生活する花たち「花水木・いちはつ・藤)」(横浜日吉本町)

4月18日

●小西 宏
海棠の咲く鉢ひとつ豪奢なり★★★
満天星の花に明るき葉の緑★★★★
大路なる空に銀杏の木の芽色★★★

●河野啓一
行く春を惜しむや風のうす緑★★★★
風をうす緑と捉えた感覚が新鮮だが、その風に「行く春を惜しむ」感懐が加わり、味わいのある句となった。(高橋正子)

若緑立ちて四月を送るかな★★★
公苑の丘に遊べるニ羽の蝶★★★

●小口泰與
ゆさゆさと古木の揺れし落花かな★★★
畑の雉鋭声を発し翔けりけり★★★
桃の花小犬もあくびしたまえり★★★

●桑本栄太郎
 山中湖
遊覧船に乗るや湖上の春の風★★★
 東名高速へ
さみどりの新茶輝く牧野原★★★
 浜松
鰻食べ旅の果ており春の夕★★★

●古田敬二
 相生山散策
白秋さん今日枳殻が咲きました★★★
遠く見ゆ枳殻薄暮に咲きにけり★★★
ヒメシャガの大木に沿い咲く薄暮★★★★

●川名ますみ
花ふぶき車に触るる音うれし★★★★
花ふぶきが車に、走っている車にだろうが、触れるとき音がする。その音が聞こえるほど敏感な作者でもあるし、すざましい花ふぶきであることが知れる。そういった花ふぶきに出会った嬉しさは一入だろう。(高橋正子)

木の芽雨銀杏並木の吹き揃う★★★
銀杏の芽すべての枝にあさみどり★★★

※句会の投句は、前書きを書かないのが普通とされています。

4月17日

●小口泰與
まれに見る春雨しげき山路かな★★★
鳥鳴きて落葉松萌ゆる山路かな★★★
竹秋や利根の流れの滔々と★★★

●小西 宏
山桜散りくる崖の空眩し★★★★
山桜が散るころは、もう初夏を思わせる日差しになる。崖から見える空は、特に眩しいほどだ。山桜が散るころの淡く眩しい空は、春と夏の季節の狭間の空である。(高橋正子)

色変えて森やわらかき木の芽色★★★
少女らの汗のごとくに躑躅咲く★★★

●小川和子
一抹の淋しさ残し散るさくら★★★
岐路の目に濃き桃色の花蘇芳★★★★
朝空へ浅黄に解れハナミズキ★★★

●桑本栄太郎
 富士五湖・精進湖
忽然と雲晴れ来たり春の富士★★★★
富士山の姿を楽しみに富士五湖を巡るが、残念ながら、山頂に雲がかかる時も多い。ところが忽然と雲が晴れて富士の雄姿が現れる。春の富士の山容を間近にした喜び。(高橋正子)

 富士五湖・西湖へ
陰雪の落葉松林のつづきけり★★★
 富士五湖・西湖、いやしの里
茅葺の村の水車や春の湖★★★

●黒谷光子
一木のまわり紅色落椿★★★
満開も葉を覗かせて桜かな★★★
ときどきは降る花を浴び池めぐる★★★

●多田有花
よく晴れて残花に風の心地よし★★★★
花も終わると、晴れた日には初夏を思わせるような風が吹く。残花に吹く風は心地よい。春を惜しむ間もなく、来る季節の明るさがすかっとした気持ちで詠まれている。(高橋正子)

八重桜見上げる空は薄曇り★★★
晩春の石段手をひかれおりる★★★

●古田敬二
春の陽に池面に揺らぐフラミンゴ★★★
春の水こぼしてまどろむヒグマかな★★★
貴婦人の歩み若葉のキリンかな★★★

4月16日(水)

★岩に滾る水にかがやく猫柳  正子
猫柳は早春に咲く。川べりに多く、その花は銀色でやわらかである。。岩の間から滾る春の水に映って、その銀色がますます美しい。早春の川べりの情景が浮かんでくる。(古田敬二)

○今日の俳句
どの木々も根元まっすぐ春の影/古田敬二
「根元まっすぐ」がすっきりしていてよい。冬の間に寒風に晒され、雨雪に耐えた木々である。余分なものを落としての「根元まっすぐ」だ。その影が春の影として柔らかなのがいい。(高橋正子)

○クレマチス(鉄線花)

[鉄線花/横浜日吉本町] 

★鉄線を活けて有馬の筆作り/大坪景章
★クレマチス咲く中年は美しき/永井潮
★鉄線花みな平らかに空を向く/高橋正子

 クレマチスはつる性植物の女王といわれるに相応しく、美しい大輪の花を咲かせる。しかも蔓は枯れることなく、毎年新しい枝を伸ばしては、その先に花を咲かせ続け、数年たつうちには、たくましく成長して大きな株になり、夥しい花を咲かせる。
 クレマチスというと外来の花のようにも思われるが、今我々が普通に眼にしてい るものは、日本に自生していたものをベースにしている。日本人はそれを鉄線といって長い間愛でてきた。今日でもクレマチスの総称として、鉄線という言葉を使う人は多い。
 詳しく言うと、日本のクレマチスには、鉄線と風車とがあった。鉄線は花びらが6枚で、風車のほうは8枚だから、容易区別できる。もっとも花弁に見えるものは、萼が発達したもので、本来の花弁は退化して存在しない。
 風車の名は、その形状から来ている。八方に広がった羽のような花びらの形があたかも風車を思わせるのだ。一方鉄線は丈夫な蔓が鉄線のようだからだろう。こちらは中国伝来のものである。
 クレマチスは北半球に広く分布している。欧米のものは花が小さい。そこで日本のように鉢仕立ては余り行われず、修景用に用いられることが多い。最近は日本のものとヨーロッパのものを掛け合わせて、多彩なクレマチスが作られている。
 花言葉は美しさや高潔に関連したものが多い。花の持つ優雅さの現われだろう。

◇生活する花たち「藤①・藤②・石楠花」(横浜箕輪町・大聖院)

4月16日

●小口泰與
うすうすとしかも定かや糸柳★★★
中天にしきりに翔る揚ひばり★★★
わなわなと落花しきりや川速し★★★★

●上島祥子
次々と流れに加わり花筏★★★
玄関の白に溢れて花水木★★★

田に映る人影大きく春の夕★★★★
春の夕方田を巡って驚くこと自分の影だろう、人の影がやわらかく大きく映っている。 春の夕べの暖かさ、やわらかさである。(高橋正子)

●古田敬二
水温む故郷を来し木曽の川★★★★
手を浸す木曽川確かに水温む★★★
白鷺の大きな羽ばたき春の木曽川★★★

●桑本栄太郎
<富士五湖・精進湖>
残雪の親子富士見ゆ湖畔かな★★★
<富士五湖・西湖>
山風の吹くや西湖の桜芽木★★★
春水の水車に流れ落ちにけり★★★★

●河野啓一
あわあわと遠きを埋めレンゲかな★★★★
レンゲソウの薄桃色の花が遠い田を埋め尽くしている。遠いところだけに遥かなもの、淡きものへの思いが湧く。(高橋正子)

花散りて街一面のみどりかな★★★
いっせいに街の銀杏の浅緑★★★

4月15日(火)

★欅若葉空をうずめて浅みどり  正子
山地や人家の庭に20メートルにも達する大木が新鮮でみずみずしい若葉で空一面をふさぐように萌え出る景はとっても素晴らしいですね。(小口泰與)

○今日の俳句
山風のこよなき匂い四月かな/小口泰與
春の山は萌え出る木の芽や落葉の匂いが混じって、「春の山の匂い」を特別に感じさせる。山風にのって運ばれる「こよなき匂い」は、四月こその匂い。(高橋正子)

○豌豆の花

[豌豆の花/横浜日吉本町]         [豌豆の花/横浜都筑区川和町]

★花豌豆大学生の下宿せり/高浜虚子
★花豌豆定年までの右顧左眄/品川鈴子
★豌豆の花の白さを見つつゆく/阿部ひろし
★豌豆の白花ばかりなりしなり/堀志皋
★花豌豆渚に潮の満つる音/成智いづみ

 エンドウ(豌豆、学名:Pisum sativum L.)は、マメ科の一・二年草。広く栽培され、食用となっている。一般に、エンドウマメとも。別名にノラマメ、グリンピース(未熟の種子を食用とする場合の呼び方)、サヤエンドウ(莢豌豆・絹莢、未熟の莢を食用とする場合の呼び方)。日本での栽培種には、ウスイエンドウ、キヌサヤエンドウ、オランダエンドウ、がある。
 古代オリエント地方や地中海地方で麦作農耕の発祥とともに栽培化された豆で、原種は近東地方に今日でも野生している P. humile Boiss. et Noö. と推察されている。もともとは麦類の間で雑草として生えてきたこの原種の野生植物を、種実を食用にしたり、根粒菌による土の肥沃化に効果があるなどの利用価値を発見することで、麦類とともに混ぜ植え栽培するようになり、次第に栽培植物として品種改良が進んだと考えられている。この地域では農耕開始期に、カラスノエンドウもエンドウと同時に同様の利用が行われ始めたが、こちらの栽培利用はその後断絶し、今日では雑草とみなされている。また、同じ地域に起源を持つマメ科作物としては、ソラマメ、レンズマメ、ヒヨコマメが挙げられる。麦作農耕とともにユーラシア各地に広まり、中国に伝わったのは5世紀、日本へは9-10世紀には伝わった。 また、メンデルが実験材料としたことでも知られている。
 さやの硬さにより、硬莢種(こうきょうしゅ) P. s. ssp. arvense Poir. と軟莢種(なんきょうしゅ)P. s. ssp.hortense Asch. がある。硬莢種はその名のとおり莢(さや)が固く、主として完熟して乾燥した豆を収穫して利用する。花は紅色である。軟莢種は莢が柔らかく、未熟な莢をサヤエンドウとして利用したり、成長を終えて乾燥前の生の豆をグリーンピースとして利用する。花は白いものが多い。スナップエンドウは軟莢種の中でも豆が大きく成長しても莢が柔らかく、豆と莢の両方を野菜として利用できる品種である。
 原産地が冬に雨が多い地中海性気候の近東地方であるため、夏の高温期は成長適期ではなく、麦類と同様に基本的には秋まきして翌春収穫する。冬の寒さの厳しい東北北部や北海道では春まきして初夏に収穫する。連作に弱く、一度栽培した土地では数年間栽培が困難となる。また、原産地が土壌にカルシウムなどが多い乾燥地帯であることから想像できるように、酸性土壌にも弱い。

◇生活する花たち「いちはつ・藤・梨の花」(横浜市緑区北八朔町)

4月15日

●小口泰與
桃咲くやいまだ目覚めぬぶとうの木★★★
さえずりや等間隔の雨雫★★★
雨後の朝ここのみ日矢の桃の花★★★★

●祝恵子
春の池水に触れては魚を呼び★★★★
春になり水がぬるんでくると、水に手を入れたくなる。泳いでいる魚にも親しみを覚え、呼び寄せてみたくなる。人にも魚にものどかでいい季節だ。(高橋正子)

ふあっとくる水草の香りあたたかし★★★
中華街女子会と笑う春の卓★★★

●河野啓一
トンネルをぬけて緑の能勢の里★★★★
能勢街道花は吉野か嵐山★★★
遅桜したがえ鄙の町役場★★★

●黒谷光子
花筏引っ切り無しに村を出る★★★★
川は村を突き抜けて流れている。川端の桜が散らした花びらが連なり流れてゆく。留めておきたいけれど、「引っ切り無しに村を出る」。「村を出る」がいい。(高橋正子)

桜散る並木仰ぎつ通り過ぐ★★★
その上は決戦の地や桜散る★★★

●多田有花
散る桜すでに日陰に座す頃に★★★
ランナーのあと一陣の花吹雪★★★★
躑躅咲く明るき尾根を登りけり★★★

●桑本栄太郎
<同期会旅行石和温泉にて>
花屑の水路に浮かぶ旅の宿★★★
しみじみと湯に浸かりおり春薄暮★★★★
外つ人の按摩器つかう春の宿★★★

●佃 康水
  近所の農婦
朝な掘り春筍茹でる外かまど★★★★
農家には戸外にかまどをしつらえている家がある。大量の筍を茹でたりするのだが、「外かまど」に農家の暮らしが見えてくる。筍が生える季節には毎朝伸びてくる筍を掘り、茹でるのも忙しいが嬉しいことだ。(高橋正子)

母の忌や勿忘草の零れ咲き★★★
鋤簾より揚がる蜆の黄金色★★★

●小西 宏
散る花の何処よりかな日の眩し★★★
チューリップ開き過ぎたる昼の眠★★★
月昇る春ほのぼのと東空★★★★

●古田敬二
河馬は寝て池に動かぬ花筏★★★★
春泥を腹に乾かせ歩む犀★★★
眩しげに春の陽仰ぐアシカかな★★★