8月28日
ふるさとは山路がかりに秋の暮 臼田 亞浪(うすだ あろう)
亞浪もふるさとは、信州小諸である。山路がかる道を行けば、秋の暮がせまっている。そうでなくても早い秋の暮に山路がかりの秋の暮は早い。ふるさとの地を踏んだ懐かしさが、思いを深いものにしている。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月27日
夜更けて米とぐ音やきりぎりす 正岡 子規(まさおか しき)
その日の仕事をしまい終えた家人が夜更けに、明日朝炊く米をカシャカシャと問でいる。その音に交じってきりぎりすの声が間を置いて聞こえる。秋の夜更けの静かさと質素な生活が偲べる。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月26日
稲の花一両列車の速度増す 野仁志 水音(のにし みお)
旅を続け、一両列車の加速を体によく感じるほどになっている。列車から見える稲の花が、目に生き生きと新鮮に映っている。秋口の田園風景がのどか。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月25日
赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり 正岡 子規(まさおか しき)
筑波山の向こうから、東北が始まると言ってもいいだろう。池袋のサンシャインシティホテルから関東平野を見渡すとそう思える。関東平野の端まで来ると、筑波の嶺には、一片の雲もなく晴れて、明るい空をすいすいと赤蜻蛉が飛んでいる。澄んだ空気を感じさせて、鄙びた明るさのある句である。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月24日
はたはたのゆくてのくらくなるばかり 谷野 予志(たにの よし)
はたはたが飛び過ぎて行ったが、その行く手は日暮れではっきりと掴めない。飛んで行ったのは草むらか。夕暮れの早さと、日暮れとともに深まる静寂を「くらくなるばかり」と、空間を凝視して捉えた。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月23日
新涼や重ねし絹に鋏音 河 ひろこ(かわ ひろこ)
新涼のさわやかさの中で、布を断つよろこび。しなやかな絹を断つ鋏の音は、また絹の音とも感じられる。重ねた絹に鋏を入れるには、よほど布に慣れた人でないと勇気がいるものだが、それを自然にこなす腕のすばらしさも伺える。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月22日
葡萄園影にまみれて幹並ぶ 谷野 予志(たにの よし)
葡萄園に秋の日が差して、ちらちらと影と日向の班ら模様が出来ている。しかし、幹は影の部分となって立ち並んでいる。「影にまみれて」は葡萄棚の茂りを確固とした幹に着目し、葡萄園に生まれる影の美しさを余すところなく伝えている。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
8月21日
さやけくて妻とも知らずすれ違う 西垣 脩(にしがき しゅう)
詩人脩のことだから、心にさやけきことを思いめぐらし歩いたにちがいない。妻が通りすぎるのにも気づかずにいた、ということだ。妻と夫の距離がさわやかな空気のようである。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より
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8月20日(1句)
★とんぼうの岸辺の草を弓なりに/小口泰與
「岸辺の草」「弓なり」など具体的な表現があり、読み手が句の景色を想像できるのがいい。とんぼうが止った草の葉が弓なりなり、大きくクローズアップされて、強く印象付けているところもいい。(髙橋正子)
8月19日(1句)
★朝の田の上を群れ飛ぶ赤とんぼ/多田有花
日本の秋を象徴する風景が詠まれていて、ほっとする。「朝」が句を生き生きさせ、この風景がいきていることを実感させてくれる。技巧のない句だが、そのままがいい。(髙橋正子)
8月18日(1句)
★栗の毬まるまるとしてまだ青き/多田有花
初秋のころ、栗の木に青い毬がついているのが目に付く。葉よりも明るい緑の毬はまんまるで、生きいきしている。実が充実する本格的な秋へと進む構えが見える。(髙橋正子)
8月17日(1句)
★水平線の群青色や盆の海/桑本栄太郎
盆の海は秋の海。盆の海を眺めると、沖に群青色の水平線が一本引かれている。少しさびしい盆の海に群青色が力強く、見入れば見入るほど、励ましてくれるように思える。(髙橋正子)
8月16日(2句)
★雨風の新涼誘う朝かな/廣田洋一
猛暑が続き、暑さに疲れがでるころ、早くすずしくなるように願わずにおれない。おりしもの雨風に涼しくなって、一息つけるようだ。雨風が新涼を誘ってきたありがたさに自然に生まれた句だろう。(髙橋正子)
★名をつけて朝顔の鉢並びおり/多田有花
大切に育てた朝顔の鉢がたくさん並んで、涼を呼んでいる。見ると鉢には朝顔の名前が付けられ、珍しい色あり、絞りあり、八重咲きありで、目をたのしませてくれる。(髙橋正子)
8月15日(1句)
★広き海秋の鴎の強く舞う/小口泰與
広い海も秋になって、少しもの淋しさが加わってきた。その海を舞う鴎の姿が力強い。鴎の舞う姿を「力強い」見るのは、新しい感覚だ。作者の充実した気持ちが伝わる(髙橋正子)
8月14日(1句)
★上弦の月の軒端に宵の風/多田有花
今年の月遅れの盆の空には上弦の月が昇った。軒端に宵の風が通い、しみじみとした風情が漂う。きれいな句に心が洗われる。(髙橋正子)
8月13日(1句)
★座してすぐ木立の影や秋の午後/小口泰與
秋はものの影が長くなる。座ってそれほど時間が経たないのに、木立の影が伸びて黒々として、秋の午後の、日の傾きの速さを実感する。(髙橋正子)
8月12日(1句)
★山の日や播磨の山は快晴に/多田有花
山の日は、山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝することを目的として制定された国民の祝日。登山やハイキングを楽しんだりするが、単に近くの山を眺め、恩恵に感謝することも祝日の意義。作者の住む播磨の山が快晴の空の下で、晴れやかに姿を見せているのは誇らしいことである。(髙橋正子)
8月11日(1句)
★あおぞらの雲の間や秋気澄む/桑本栄太郎
あおぞらの雲の間にきれいな空の色を見た。その色に澄んだ秋気を感じ取った。何気ないところにも、季節の移り変わりとみとめることができる。(髙橋正子)