7月15日(火)

★ひるがおのこの世に透ける日のひかり  正子
野原や道端で他の草や木にからみ、朝顔に似た小さな花を開き、日中に咲いて夕べにはしぼむ可憐な昼顔に日が射している素晴らしい景ですね。 (小口泰與)

○今日の俳句
目高の子ぐいと水面を走りけり/小口泰與
平明な句で句意がはっきりしている。目高の子が水面を「ぐい」と蹴るように走る。目高の子の力強さが、生き生きとして涼しさを与えてくれる。命の涼しさ。(高橋正子)

○蓮の花

[蓮の花/横浜市港北区箕輪町・大聖院]

★蓮のかを目にかよはすや面の鼻 芭蕉
★蓮白しもとより水は澄まねども 千代女
★蓮の香や水をはなるる茎二寸 蕪村
★うす縁や蓮に吹かれて夕茶漬 一茶
★昼中の堂静かなり蓮の花 子規
★そり橋の下より見ゆる蓮哉 漱石

 一昨年の日記より:
 今朝、蓮の花を見に天聖院に信之先生と出掛けた。蓮は朝咲いて昼に凋むので早朝が見ごろだ。天聖院に蓮池というほどの池はないが一むら蓮がある。その他にも御手洗のほとり、奥まった山裾あたりには大きめのポリ容器で育てている。散華が蓮の葉にかかっていた。紅蓮ばかりで、大賀蓮ではないようだ。ちょうど新暦のお盆なのだが、特にお寺まいりの人もなく森閑としたなかにさいている。松山市の城北に長建寺という寺があるが、ここの蓮池は立派で、池に突き出た部屋からは、蓮池が良く眺められる。蓮の花を描くという妹について早朝この寺に出かけたが、蚊取り線香が必携であった。岡山の行楽園にも蓮がある。これも見事だ。岡山は祭すしで有名だが、蓮田も多くこの祭すしには蓮根が使われる。鎌倉八幡の源平池の蓮もよく知られている。蓮の風情からいうと、後楽園の方が好きだ。
 蓮の花について、一番なつかしいのは、学生時代の夏休みや結婚してからの帰省で予讃線から見た蓮田の景色だ。蓮田は松山から今治に近づくとところどころに見られる。はじめ遠く炎暑で煙る緑の蓮田が近づいてくると蓮の赤い花が見える。今年も蓮の花が咲いていると眺めながら、ディーゼル車のコトコト走る音を聞いた。とてもいい景色だった。

★蓮の葉にあまたかかりて蓮散華/高橋正子
★蓮の葉のそよげる中の蓮の花/〃
★煙りたる空の下なる紅蓮/〃

 ハス(蓮、学名:Nelumbo nucifera)は、インド原産のハス科多年性水生植物。古名「はちす」は、花托の形状を蜂の巣に見立てたとするのを通説とする。「はす」はその転訛。 水芙蓉(すいふよう、みずふよう)、もしくは単に芙蓉(ふよう)、不語仙(ふごせん)、池見草(いけみぐさ)、水の花などの異称をもつ。 漢字では「蓮」のほかに「荷」の字をあてる。ハスの花を指して「蓮華」(れんげ)といい、仏教とともに伝来し古くから使われた名である。 また地下茎は「蓮根」(れんこん、はすね)といい、野菜名として通用する。属名 Nelumbo はシンハラ語から。種小名 nucifera はラテン語の形容詞で「ナッツの実のなる」の意。 英名 lotus はギリシア語由来で、元はエジプトに自生するスイレンの一種「タイガー・ロータス」 Nymphaea lotus を指したものという。7月の誕生花であり、夏の季語。 花言葉は「雄弁」。原産地はインド亜大陸とその周辺。地中の地下茎から茎を伸ばし水面に葉を出す。草高は約1m、茎に通気のための穴が通っている。水面よりも高く出る葉もある(スイレンにはない)。葉は円形で葉柄が中央につき、撥水性があって水玉ができる(ロータス効果)。花期は7~8月で白またはピンク色の花を咲かせる。 早朝に咲き昼には閉じる。園芸品種も、小型のチャワンバス(茶碗で育てられるほど小型の意味)のほか、花色の異なるものなど多数ある。

◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)

7月14日(月)/京都祇園祭・パリ祭

★なでしこの苗に花あり風があり  正子
なでしこの苗には花の色が分かるようにひとつ二つの花があり、そしてその花が風に揺れている様子が、涼しさを伝えてくれます。(高橋秀之)

○今日の俳句
せせらぎの木陰のめだか動かずに/高橋秀之
せせらぎの木陰はすずしそうだ。涼しさを喜んで、目高が活発に泳ぐかと思えばそうではない。じっとして、木陰の水の涼しさを体で享受しているようだ。(高橋正子)

○巴里祭(パリ祭)

[パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祭日/クロード・モネ画]_[京都祇園祭/ネットより]

★汝が胸の谷間の汗や巴里祭/楠本憲吉
★パリ祭や手乗り文鳥肩に乗せ/鷹羽狩行
★濡れて来し少女がにほふ巴里祭/能村登四郎
★図書館で借る古今集パリー祭/品川鈴子
★重層の雨の鉄階パリー祭/岡本眸
★星空を怒濤の洗ふ巴里祭/小澤克己
★巴里祭空いつぱいの水しぶき/豊田都峰
★ピザ生地を大きく抛りパリー祭/斉藤和江
★巴里祭とろ火に鍋を預けをり/能村研三
★巴里祭机上の医書は閉ぢしまま/水原春郎

 「巴里祭」は、この映画を見た世代によく語られ、また俳句にも詠まれている。バスチーユ監獄襲撃というフランスの革命の記念日が日本で親しまれているのも不思議だが、邦題「巴里祭」の映画に大いによるものだろう。映画旺盛の時代のパリへの憧れもあったでろう。 詠まれている俳句は、それぞれが、それぞれの思いで「私の巴里祭」を詠んでいる句が多い。日本ではちょうど7月1日から1か月も続く京都の祇園祭の宵山が始まる。これに重ねれば、「巴里祭」も文化人たちののゆかしき一日なのかもしれない。

★巴里祭今日の予定に空を見る/高橋正子

パリ祭(ぱりさい)は、フランスで7月14日に設けられている国民の休日(Fête Nationale)。1789年同日に発生しフランス革命の発端となったバスチーユ監獄襲撃および、この事件の一周年を記念して翌年1790年におこなわれた建国記念日(Fête de la Fédération)が起源となっている。なお、フランスでは単に「Quatorze Juillet(7月14日)」と呼ばれ、「パリ祭」は日本だけの呼び名である。これは、映画『QUATORZE JUILLET』が邦題『巴里祭』として公開されヒットしたためで、邦題を考案したのは、この映画を輸入し配給した東和商事社長川喜多長政たちである。読み方について、今日では「ぱりさい」が一般的だが、川喜多かしこは「名付けた者の気持ちとしてはパリまつりでした」と語っている。当時の観客の大半も「パリまつり」と呼んでいたという。荻昌弘もまた「私の感覚では、これはどうあってもパリまつり、だ」と述べている。現在のイベントは、7月14日には、フランス各地で一日中花火が打ちあげられる。午前中にはパリで軍事パレードが開催され、フランス大統領の出席のもとシャンゼリゼ通りを行進する。その後、フランス共和国大統領の演説がおこなわれる。パレード終了後にはエリゼ宮殿において茶会が催される。パリ祭当日にはツール・ド・フランスが開催されている。(フリー百科事典「ウィキペディア」より)

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

◆ご挨拶/7月ネット句会◆

◆7月ネット句会◆
ご挨拶(高橋正子/主宰)
梅雨明けが待たれますが、今日も台風の後の暑い一日でした。今年は台風8号や大雨の被害が至るところにありましたが、皆様のところは被害はありませんでしたか。入賞の皆さまおめでとうございます。今月は添削教室から新しく福田ひろしさんがご参加くださいました。ご参加の皆さまには、選と丁寧なコメントをいただき、ありがとうございました。句会の運営や集計で信之先生、洋子さんお世話になりありがとうございました。
今夜のラジオを聞くともなく聞いておりましたら、「財政政策効果」と「金融政策効果」について新米でもなく、中堅でもないビジネスマン向けの話が耳に入りました。それら以外にも「幸福効果」というのがあって、実際幸福な人のそばにいると幸福感が増すそうです。そうなれば、私たちのネット句会も「俳句効果」が必ずあって、良い句の隣にいて、良い句ができたり、よい心境を伝播してもらったりできると確信しました。不順な天候ですが、ご体調に気をつけて、ご健吟ください。これで7月ネット句会を終わります。

◆7月ネット句会入賞発表◆

◆7月ネット句会◆
◆入賞発表/2014年7月13日◆

【金賞】
★水辺より生れて蜻蛉日に透ける/藤田洋子
水辺から生まれた蜻蛉の羽が日に透けている。透明な水から生まれたものが、日にも透明である。造化の不思議。(高橋正子)

【銀賞2句】
★捕虫網立て分け進む草いきれ/小西 宏
草いきれのする草を掻き分けて、捕虫網が突っ立たたまま進んでいる。虫や蝶を探す子どもの勢いが見えて微笑ましい。(高橋正子)

★草原の青さにまぎれ捩り花/小川和子
現実は草原の青に紛れた捩り花の桃色であるが、句の表現上では、草原の青色と捩り花の対比が鮮明ですっきりとした句。(高橋正子)

【銅賞3句】
★夏野菜売る声高く女の子/内山富佐子
トマトや茄子、胡瓜などの夏野菜は、露けくていかにも新鮮だ。それを売る女の子の声も溌剌と輝いている。眼にも、耳にも涼しい句だ。(高橋正子)

★初蝉の聞いてほどなく止みにけり/桑本栄太郎
初蝉の声を聞いた。鳴き続けるかと耳を傾けていたが、ほどなくして鳴き止んでしまった。始めは慎重な試し鳴き。本格的に鳴くのも、まもなくだ。(高橋正子)

★仙石原の原っぱ明るくノハナショウブ/高橋句美子
箱根の仙石原は薄で有名だが、湿原となっている原っぱは、花菖蒲の野生種であるノハナショウブが明るく彩る。よい情景だ。ノハナショウブは仙石原湿原の特徴的な花。(高橋正子)

【高橋信之特選/7句】
★塩さらさらと四万十の鮎にふる/藤田洋子
鮎にふる塩、焼ける香ばしいにおいまでしてくるようです。四万十がきいています。(祝 恵子)

★大西日連れて豆腐屋ラッパ吹く/古賀一弘
見事な夕日に照らされながら、自転車に乗ってラッパを吹く豆腐屋の姿が、色鮮やかに描かれています。赤々とした絵画的な美しさが句に凝縮されていりように思います。(福田ひろし)

★夏野菜売る声高く女の子/内山富佐子
★百合咲けりリュックの子より高い花/祝 恵子
★捕虫網立て分け進む草いきれ/小西 宏
★水辺より生れて蜻蛉日に透ける/藤田洋子
★仙石原の原っぱ明るくノハナショウブ/高橋句美子

【高橋正子特選/7句】
★夏潮を越えて島並みサイクリング/河野啓一
瀬戸内海の島々をサイクリングで巡っておられるのでしょう。橋で繋がれた街道をゆくのは、まさに夏潮を越えてゆく感じそのものだと思います。 (高橋秀之)

★初蝉の聞いてほどなく止みにけり/桑本栄太郎
★捕虫網立て分け進む草いきれ/小西 宏
★涼風に賽銭箱と吹かれけり/福田ひろし
★草原の青さにまぎれ捩り花/小川和子
★水辺より生れて蜻蛉日に透ける/藤田洋子
★ひと雨のあとの夕映え夏祓/藤田洋子

【入選/10句】
★いつまでもあの日に帰る原爆忌/迫田和代
私達にとってけっして忘れることのできないあの日。平和の祈りをさらりと明快に詠まれれた印象深い御句です。 (河野啓一)

★畦道の乾く暇なし半夏生/福田ひろし
半夏生は水辺や畦道などの湿地に生え、黄白色の穂状の花をつけ、葉の一部分が真っ白に変化して浮き出ています。その白い葉はじめじめとした梅雨の時期にはとても爽やかさを感じさせます。湿地に生える半夏生を見事に表現された御句です。(佃 康水)

★砂浜を蟹横走り児らの声/河野啓一
砂浜で遊ぶ子ども達の声が明るく響き、蟹もはさみを振り上げて走り、嬉しそうな様子が目に浮かびます。 (井上治代)

★古代蓮今日を咲く花よごれなき/小川和子
二千年の時を超えて開花する古代蓮。そのよごれなき姿に、悠久の時を経て今日を咲く、命の崇高さを見る思いがいたします。(藤田洋子)
今朝、咲き始めたばかりの蓮の汚れのないきれいな花を見ていると、希望に満ちた気持ちが高まります。(高橋秀之)

★梅雨晴れて遠くに連なる白き雲/高橋秀之
うんざりする梅雨の空に変わり空には明るい白い雲が連なっている。ホッとして嬉しい気持ちですね。迫田和代)

★紫陽花は線路に沿って旅人に/高橋句美子
ゴトゴトと線路は登り、紫陽花は旅人を楽しませるために色を添えて待っていてくれています。自然への感謝、出会いへの共感にあふれた作品だと思います。 (小西 宏)

★梅雨晴れの空の青さに未来あり/井上治代
雨の続く梅雨の時期のひとときの晴れ間。その晴れ間に垣間見える青空は、これから訪れるであろう夏本番、ひいては楽しいの未来の訪れを予感させてくれます。 (高橋秀之)

★靄晴れて睡蓮浮かぶ森の湖/佃 康水
★ばらの香と雫を共にきりにけり/小口泰與
★アセチレンランプの夜店なつかしき/矢野文彦

◆選者詠/高橋信之
★森に出会う山百合の大きな花よ
★池に近く野かんぞうの散らばり咲く
★梅雨まだ去らぬ森に散りばめ白花を

◆選者詠/高橋正子
★山百合に雨粒一つ二つ落つ
高さ一メートル4、5センチにもなり、清楚な白色で、内側に紅色の斑点を持つ大輪の香り高い美しい花に雨粒が一つ二つと落ちて続いて雨脚が強くなり、素晴らしい花を困らせる。(小口泰與)

★溝萩をはなれぬ沼の蝶なりき
★夏鶯外輪山に声長く

◆互選高点句
●最高点(5点/同点2句)
★紫陽花は線路に沿って旅人に/高橋句美子
★塩さらさらと四万十の鮎にふる/藤田洋子

※集計は、互選句をすべて一点としています。選者特選句も加算されています。
(集計/藤田洋子)

※コメントのない句にコメントをお願いします。

◆7月ネット句会清記◆

◆7月ネット句会◆
■清記/18名54句

01.七月の老木樹液光れるよ  
02.夏野菜売る声高く女の子
03.一面の蓮の葉揺れて花現われ
04.幼子のゑくぼ晴れやか柿若葉
05.大西日連れて豆腐屋ラッパ吹く
06.利根川の流れ蕩々麦の秋
07.靄晴れて睡蓮浮かぶ森の湖
08.樹々茂り古寺の大屋根埋もるる
09.夢乗せて行き交う電車二星号
10.熟梅の香りにひかれテントまで

11.ひまわりや二階より顔覗くかな
12.百合咲けりリュックの子より高い花
13.初蝉の聞いてほどなく止みにけり
14.つれづれと云う幸せよ梅雨きのこ
15.梅雨夕焼け青き空あり夕餉の香
16.老鶯や分校つとに廃校に
17.ばらの香と雫を共にきりにけり
18.萱草の群咲く畦や雨ざんざ
19.捕虫網立て分け進む草いきれ
20.夏蝶のキリキリ昇る日の柱

21.炎天の暮れ西空に深き紅
22.いつまでもあの日に帰る原爆忌
23.新緑が燃える道ありビル並木
24.峠駅雨にけぶって咲く合歓や
25.五月雨の雨だれ激し大仏殿
26.涼風に賽銭箱と吹かれけり
27.畦道の乾く暇なし半夏生
28.砂浜を蟹横走り児らの声
29.夏潮を越えて島並みサイクリング
30.台風の去りて森の辺静まれる

31.古代蓮今日を咲く花よごれなき
32.古墳へと登る草原野萱草
33.草原の青さにまぎれ捩り花
34.雨の中家族総出の田植終え
35.梅雨晴れの空の青さに未来あり
36.夏の蝶光をまとい流れゆく
37.塩さらさらと四万十の鮎にふる
38.水辺より生れて蜻蛉日に透ける
39.ひと雨のあとの夕映え夏祓
40.雨がやみ始まる蝉の大合唱

41.夏木立の下で一息雨宿り
42.梅雨晴れて遠くに連なる白き雲
43.アセチレンランプの夜店なつかしき
44.新しき義歯の重たしわらびもち
45.効きますか土用やいとは効きますよ
46.森に出会う山百合の大きな花よ
47.池に近く野かんぞうの散らばり咲く
48.梅雨まだ去らぬ森に散りばめ白花を
49.山百合に雨粒一つ二つ落つ
50.溝萩をはなれぬ沼の蝶なりき

51.夏鶯外輪山に声長く
52.紫陽花は線路に沿って旅人に
53.木下影ひつじ草の白ひとつ
54.仙石原の原っぱ明るくノハナショウブ

※選句を開始してください。

◆互選のご案内◆
①選句は、清記の中から5句を選び、その番号のみをお書きください。なお、その中の1句にコメントを付けてください。
②選句は、7月13日(日)午後6時から始め、同日(7月13日)午後10時までに済ませてください。
③選句の投稿は、下のコメント欄にご投稿ください。
※1) 入賞発表は、7月14日(月)午前10時です。
※2) 伝言・お礼等の投稿は、7月14日(月)午前10時~7月15日(火)午後6時です。

7月13日(日)

★ひまわりの黄色澄みしを供花にもす  正子
ひまわりが咲き始めました。ひまわりにも色々な種類がありますが、畑一面に黄色を振りまく小ぶりの花は、周囲のみどりとも相俟って、透き通るような黄色です。供花とすれば、明るい色にほとけさまも喜ばれる事でしょう。。(桑本栄太郎)

○今日の俳句
茄子苗の花の咲きつつ売られけり/桑本栄太郎
茄子の苗が売られているが、はや、紫の花がついて、みずみずしく勢いがある。植えればすぐに根付き、よく実を結ぶそうだ。(高橋正子)

○胡麻の花

[胡麻の花/横浜緑区北八朔]

★胡麻の花濡れしに思ひ至りけり/加藤楸邨
★足音のすずしき朝や胡麻の花/松村蒼石

 胡麻の花はうすむらさきである。畑につっと立った胡麻の茎に直接に咲いて、9月ごろ実がなり、葉が枯れると、花の付き具合が一目瞭然となる。農家で畑の隅に自家用の胡麻をほんの数畝植えていた。生家では、さつま芋の隣に落花生、胡麻を植えていた記憶がある。最近では横浜の北八朔で栽培しているのを見た。結構広く植えていたので、自家用ばかりではないのかもしれない。
尾瀬にゆく途中でも山裾の小さい畑に植えてあったが、これは自家用だけと見受けた。

★尾瀬へゆくバスが見せたる胡麻の花/高橋正子

ゴマ(胡麻、学名:Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草。アフリカのサバンナに約30種の野生種が生育しており、ゴマの起源地はサバンナ地帯、スーダン東部であろうというのが有力である。ナイル川流域では5000年以上前から栽培された記録がある。日本列島では縄文時代の遺跡からゴマ種子の出土事例がある。室町時代に日明貿易での再輸入以降、茶と共に日本全国の庶民にも再び広まった。古くから食用とされ、日本には胡(中国西域・シルクロード)を経由して入ったとされる。西日本の暖地の場合、5月から6月頃、畦に二条まきする。発芽適温は20度から30度で、適当な水分と温度とがあれば容易に発芽する。本葉が二枚になり草丈が成長してきたら、2回程度間引きを行い、株間を開ける。収穫は9月頃。日本で使用されるゴマは、その99.9%を輸入に頼っている。財務省貿易統計によると、2006年のゴマの輸入量は約16万トン。一方、国内生産量は、約200トン程度に留まっている。全体の僅か0.1%に相当する国産ゴマのほとんどは鹿児島県喜界島で生産され、8~9月頃の収穫時期には、集落内、周辺にゴマの天日干しの「セサミストリート」(ゴマ道路)が出現する。草丈は約1mになり、葉腋に薄紫色の花をつけ、実の中に多数の種子を含む。旱魃に強く、生育後期の乾燥にはたいへん強い。逆に多雨は生育が悪くなる。鞘の中に入った種子を食用とする。鞘から取り出し、洗って乾燥させた状態(洗いごま)で食用となるが、生のままでは種皮が固く香りも良くないので、通常は炒ったもの(炒りごま)を食べる。また、剥く、切る(切りごま)、すりつぶす(すりごま)などして、料理の材料や薬味として用いられる。また、伝統的にふりかけに用いられることが多い。種皮の色によって黒ゴマ、白ゴマ、金ゴマに分けられるが、欧米では白ゴマしか流通しておらず、アジアは半々。金ゴマは主にトルコでの栽培。

◇生活する花たち「蛍袋・立葵・紅かんぞう」(横浜・四季の森公園)

7月12日(土)

 鎌倉街道
★竹林に夏の真青な水打たれ  正子
禅寺の境内にある竹林の小道をゆくと、飛び飛びに続く敷石に打ち水がなされ、しっとりと濡れています。真青な竹の葉や幹を透して届く夏の明るい光によって、その敷石や土までもが緑がかって揺らめいています。色も水も、そして静けさもみな瑞々しく、涼しげに感じられます。(小西 宏)

○今日の俳句
緑濃き風に吹かれて書道展/小西 宏
緑濃き風が吹き抜け、心地よい会場の書道展。緑濃き風に、墨色もいきいきと浮き上がってくる。(高橋正子)

○向日葵(ひまわり)

[向日葵/横浜市港北区箕輪町]        [向日葵/横浜日吉本町]

★日まはりの花心がちに大いなり 子規
★葉をかむりつつ向日葵の廻りをり 虚子
★日天やくらくらすなる大向日葵 亞浪
★向日葵や日ざかりの機械休ませてある 山頭火
★向日葵の月に遊ぶや漁師達 普羅
★向日葵やいはれ古りたる時計台 風生
★向日葵もなべて影もつ月夜かな 水巴
★向日葵や月に潮くむ海女の群 麦南
★日を追はぬ大向日葵となりにけり しづの女
★ひまはりのたかだか咲ける憎きかな 万太郎
★向日葵にとほき紺青の波の列 秋櫻子
★キリストに挿せし向日葵のみ新た 青邨
★向日葵の眼は洞然と西方に 茅舎
★向日葵のひらきしままの雨期にあり 汀女
★向日葵に天よりあつき光来る 多佳子
★ひまはりの昏れて玩具の駅がある 鷹女
★高原の向日葵の影われらの影 三鬼
★向日葵に澄む即興の子を守る唄 草田男
★われら栖む家か向日葵夜に立てり 誓子
★向日葵の蘂を見るとき海消えし 不器男
★塀出来て向日葵ばかり見ゆる家 立子
★向日葵や一本の径陰山へ 楸邨
★わだつみの辺に向日葵の黄ぞ沸きし 鳳作
★山畑に向日葵咲きて山よ濃し たかし
★向日葵にひたむきの顔近づき来 波郷
★ゴッホの向日葵切りとられ切口を見せ/高橋信之

2012年の日記より:
  マンションに住んでからは向日葵を咲かせようと思ったこともなかったが、今年は、サカタのタネにミニ向日葵の種を注文した。注文する切っ掛けはあるにはあるのだが、小学生でも育てられる朝顔と向日葵を選んだ。まだ、今日のところはまだ葉っぱが成長中で蕾も見られない。よその向日葵はよく咲いている。町には青空をバックに並んだ向日葵のポスターもあって見るものに元気くれる。
 わが家から東へ数軒先に毎年決まって向日葵を咲かせる家がある。小さな用事の外出に通りすがりに見上げて楽しむ。この家には、2年ほど続けて2メートル以上になる「木立ダリア」が咲いていたが、何の花だろうと、これも見上げて楽しんだ。背丈の高い花がお好きなようだ。
 最近大輪の向日葵を見ることが少なくなった。子どものころの向日葵は大輪だった。種が実ると重くて頭を垂れた。この大輪が「ロシア向日葵」だということを、はるか昔、たぶん中学生のころだろうが、知った。ロシアンケーキ、マ-マレードを入れる紅茶、ロシア民謡など、ロシアのイメージの一つとして記憶していた。それを、今日ここで思い出した。
 向日葵の原産地は北アメリカ西部で、ネイティブアメリカンの食用作物だったとのこと。食用向日葵に、ノースクイーンとか、アメリカンスナックという品種があるらしいが、もっともなこととうなづける。が、私のイメージは、向日葵は東欧かロシアの花のイメージが強い。食用向日葵の種子の生産の先進国は、ロシアとのこと。理由は、ロシア正教のものいみの食品制限で、油脂食品の禁止食品に向日葵が入っていなかったので、ロシアで盛んに栽培されたとのこと。こういうこともあるのか。
丘をなす一面の向日葵畑は、ロマンティックな叙情がある。ゴッホの向日葵も有名だ。ゴッホの向日葵は、向日葵とその背景の色彩が、さすがゴッホと思わせる素敵な色だ。これは大輪ではない。花瓶に活けられた向日葵もまたよい。

 ★向日葵に空の青さがあり余る      高橋正子

◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)

7月11日(金)

 箱根湿性花園
★湿原のはるかな水に未草  正子
実際に行ってみたことはありませんが有名な箱根の湿性花園です。湿原が遠くまでつづいて、可憐な睡蓮やその他の水草たちが点在する、広々とした景色が目に浮かびます。 (河野啓一)

○今日の俳句
隣家の窓に今朝より青簾/河野啓一
隣家の窓を見ると、今朝からは、青簾がかかって目にも涼しげ。隣家も夏支度が整って、夏本番を迎える。(高橋正子)

○金魚草

[金魚草/横浜日吉本町]

★金魚草よその子すぐに育ちけり/成瀬櫻桃子
★裏庭の色を集めて金魚草/稲畑汀子
★金魚草風に溺るることのあり/行方克巳

「金魚草」と聞くだけで、金魚を想像して、かわいらしく、涼しい思いになる。パフスリーブの夏服を着た小学2.3年生の女の子のようだとも思う。ビロードがかった口唇形の花の色も赤、白、黄色などシンプルだし。夏の花壇をかざってくれる、子ども時代の私にとっては、夏休みの花である。夏休みのもろもろを思い出す。絵日記、植物採集、夏休みちょう、海水浴、昼寝、アイスキャンデー、西瓜、まくわうり、井戸水、日向水、打ち水、縁側拭きなど。江戸末期に渡来したようだが、当時はハイカラな花だったに違いない。

★裏庭に洗濯物干し金魚草/高橋正子
★金魚草金魚鉢には金魚いて/高橋正子

キンギョソウ(金魚草 Antirrhinum majus)はゴマノハグサ科(APG分類体系ではオオバコ科に入れる)キンギョソウ属の植物。南ヨーロッパと北アフリカの地中海沿岸部を産地とする。その名の通り金魚のような花を穂状に数多く咲かせる。花の色は赤・桃 ・白 ・橙 ・黄 ・複色。種は微細だが性質は強健で、こぼれ種でよく殖える。一般的には秋蒔きの一年草で、寒冷地では春蒔きにする。本来は多年草の植物であり、年月が経つにつれて茎が木質化する。金魚の養殖で有名な愛知県弥富市の市の花にもなっている。

◇生活する花たち「蛍袋・時計草・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

7月10日(木)

★子が去りしことも静かや夏の歯朶  正子
子どもとともに楽しく過ごしていた時間がすぎ、部屋には静寂な空気が流れているばかりです。歯朶の清涼な感じとの取り合わせが洒落ていると思いました。(井上治代)

○今日の俳句
何かしら飛び出て楽し草取りも/井上治代
夏になると草が生い茂る。草取りの作業もたいへんだが、バッタが​ぴょんと飛び出したり、天道虫が飛び立ったりする。それが案外楽​しいのだ。(高橋正子)

○紅蜀葵(こうしょっき・もみじあおい)

[紅蜀葵(もみじあおい)/横浜日吉本町]

★紅蜀葵肘まだとがり乙女達/中村草田男
★沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵/中村汀女
★黄蜀葵花雪崩れ咲き亡びし村/加藤楸邨

アメリカ芙蓉という花がある。芙蓉に似て、大ぶり赤い花色が華やかだ。芙蓉に少し似た紅蜀葵もその赤さは、日本の花ではないなと思わせる。調べると北米原産とあるから、さもありなん。近所では、市営アパートのわずかの空地に住人が植えたものがある。通りすがりにちらっと見て、紅蜀葵が咲いているな思うわけであるが、植えた人は昭和を生きた人であろうと想像する。

★市民アパート誰が咲かすか紅蜀葵

モミジアオイ(紅葉葵、学名:Hibiscus coccineus)は、アオイ科の宿根草。別名は、紅蜀葵(こうしょっき)。北米原産。背丈は1.5~2mくらいで、ハイビスカスのような花を夏に咲かせる。茎は、ほぼ直立する。触ると白い粉が付き、木の様に硬い。同じ科のフヨウに似るが、花弁が離れているところがフヨウと違うところ。和名のモミジアオイは、葉がモミジのような形であることから。
トロロアオイ(黄蜀葵、学名:Abelmoschu manihot )は、アオイ科トロロアオイ属の植物。オクラに似た花を咲かせることから花オクラとも呼ばれる。原産地は中国。この植物から採取される粘液はネリと呼ばれ、和紙作りのほか、蒲鉾や蕎麦のつなぎ、漢方薬の成形などに利用される。花の色は淡黄からやや白に近く、濃紫色の模様を花びらの中心につける。花は綿の花に似た形状をしており、花弁は5つで、朝に咲いて夕方にしぼみ、夜になると地面に落ちる。花びらは横の方向を向いて咲くため、側近盞花(そっきんさんか)とも呼ばれる。

◇生活する花たち「あさざ・野萱草(のかんぞう)・山百合」(東京白金台・自然教育園)

7月9日(水)

 愛媛・久万中学校
★教室の窓に夏嶺の高々と  正子

○今日の俳句
赤味さす眉月七月の街に/川名ますみ
赤味を帯びた眉月はやはり夏の月である。街の灯の上に、広い夜空にはかなく、神秘的だ。(高橋正子)

○合歓の花(ねむのはな)

[合歓の花/横浜・四季の森公園]

★そのすがた人にうつすやねぶの花/加賀千代女
★雨の日やまだきにくれてねむの花/与謝野蕪村
★山風の暁落ちよ合歓の花/芥川龍之介
★花合歓や凪とは横に走る瑠璃/中村草田男
★旅多くなりし合歓咲きそめし頃/稲畑汀子
★雲運び合歓の花吹き風飽きず/宮津昭彦
★合歓の花南瓜の花と呼び交す/大串章
★川の辺に潮上りくる合歓の花/能村研三
★花合歓の光あふるる下に居る/高橋信之
★梅雨出水しぶくをねむの木ねむの花/高橋正子

ネムノキ(合歓木、Albizia julibrissin)はネムノキ科(広い意味でマメ科)の落葉高木。別名、ネム、ネブ。葉は2回偶数羽状複葉。花は頭状花序的に枝先に集まって夏に咲く。淡紅色のおしべが長く美しい。香りは桃のように甘い。果実は細長く扁平な豆果。マメ科に属するが、他のマメ科の植物とは花の形が大きく異なる。イラン、アフガニスタン、中国南部、朝鮮半島、日本の本州・四国・九州に自生する。陽樹であり、荒れ地に最初に侵入するパイオニア的樹木である。河原や雑木林に生え、高さは10mにもなる。芽吹くのは遅いが、成長は他の木と比較すると迅速である。ネムノキ属は主として熱帯に150種ほどが分布するが、その中でネムノキは飛び抜けて耐寒性が強く高緯度まで分布する。温帯で広く栽培され、一部で野生化している。和名のネム、ネブは、夜になると葉が閉じること(就眠運動)に由来する。漢字名の「合歓木」は、中国においてネムノキが夫婦円満の象徴とされていることから付けられたものである。花言葉は「歓喜」。夏の季語であり、万葉集や松尾芭蕉、与謝蕪村の句に登場する。

◇生活する花たち「あさざ・山紫陽花・コアジサイ」(東京白金台・自然教育園)