伊豆
★わさび田の田毎に春水こぼれ落つ 正子
わさび田の、傾斜による田ごとに流れ落ちる水が、春の光を受けわさび葉の中に透明な水が落ちてゆく静かな風景です。(祝恵子)
○今日の俳句
蒲公英の数本は吾が影へあり/祝 恵子
なんとやさしい句だろう。自分の座っている影のなかに蒲公英の数本が入っている。日向にある蒲公英に比べて、自分の影の中の蒲公英は日陰っている。この明暗の差にある違いに作者の思いがある。(高橋正子)
○梅林

[梅/伊豆修善寺梅林(2011/02/22)]
○修善寺梅林10句/高橋正子
野に飛べる春鶺鴒や修善寺へ
修善寺の街のこぞって雛飾る
蕎麦に摺る山葵のみどり春浅し
春浅し川に突き出す足湯なり
紅梅がかすみ白梅がかすみ
梅林の丘をのぼりて伊豆連山
鮎を焼く炉火に手を寄せ暖をとり
梢より富士の雪嶺に風光る
わさび田の田毎に春水こぼれ落つ
天城越ゆ春の夕日の杉間より
2011年2月22日(火)
修善寺駅に到着してから、修善寺梅林へすぐ向かう。修善寺駅から東海バスの「もみじ林行」に乗る。この終点となっているもみじ林に梅林がある。梅見に行く老婦人たちが乗っているが、途中、梅林ではないところで、なんども降りようとする。運転手は、観光案内も兼ねて、そのたび、ここは違う、終点で降りると案内する。立てば、よろけないように注意する。もみじ林で下車。入り口の蕎麦屋と、四十八ヶ所の札所の小さい菩薩の石碑を一つを過ぎて山道を梅林へ。三ヘクタールあるという梅林。歩くと落葉樹が葉を落として、日がよく降り注いでいる。もみじ林の名の由来がわかる。若楓のころは、美しいことだろうと思いながら歩く。ほどなく、右手に西梅林の入り口がある。数歩入れば、漂う梅の花の香り。ここの梅の木はどれも古木。幹はウメノキゴケが覆っている。百年の古木もある。樹のかたちも写真家が喜びそうな形が多くある。梅林の中の竹林は竹の秋。紅白の梅の花の後ろの竹の秋は色がつやつやとしている。梅林は丘となったりしている。丘に登れば、何か見えそうだ。登って見る。伊豆の高い山々が見える。
丘を降りて谷を下ると東梅林へ。こちらは、修善寺温泉へ通じる道らしい。文人の句碑もある。石の鳥居を潜ってさらに下り、温泉への分かれ道のところから、また登る。すると、戸外に太い薪を組んで、大きな炉をつくり、鮎を串刺しにして焼いている。一匹が六百円。一本ずつ食べる。腸までがおいしく食べれる。寒いので炉のほとりに近寄りたいが、火の粉が散って服に穴が開くのでいけないという。食べ終われば、ポリタンクのお湯で手が洗える。鮎を食べて、また梅林を。今度は、雪どけのあと、ますます葉の色が青くなった水仙の小道がある。ここを辿り、もとの西梅林へ。だれか少し上から不意に現れ驚くが、写真を撮っていたらしい。気づくと富士山の山頂が見えている。ちょうどその人がいた場所が富士見には一番良いところだ。写真はもっぱら句美子が撮っているが、富士を収めて来た道をバス停まで下る。バスが来るまで二十分ほど。山すそにパンジーや菜の花の花壇があって、三椏の花が咲いている。咲いているものは、黄色い花簪のようで、かわいらしい。
◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・猫柳」(東大・小石川植物園)

横浜港
★港湾の動きに満ちて春浅し 正子
見下ろす横浜の港は春の陽にきらめいている。行き交う船の動きも増え、港に活気が満ちてき始めた。まだまだ本格的な春ではないが、それに向かって自然も人間界も動き始めたことがはっきりと感じられる。春への期待が港の動きで表わされている。(古田敬二)
○今日の俳句
春耕す我が濃き影を野に映し/古田敬二
春なのだ。日差し次第に強くなり、耕している自分の影が濃く映る。耕す我に、我と同じに動く影という友がいる。(高橋正子)
○雲間草
[雲間草/横浜・四季の森公園] [雲間草/横浜日吉本町]
★春浅き庭の一角雲間草/杉竹
★夏の暁け目覚め早きや雲間草/百茶庵
★駅前の花屋に雲間草を買う/高橋信之
本種の雲間草(くもまぐさ、学名:Saxifraga merkii var. idsuroei)は、ユキノシタ科ユキノシタ属の日本原産の多年草で、北アルプスと御嶽山に自生する珍しい高山植物。標高3000m付近の雲の切れ間に咲くため「雲の合間の花」からクモマグサ(雲間草)と名づけられたと言われている。生花店などで栽培に販売されている品種は、ヨーロッパ、北欧を原産とするクモマグサの原種を品種改良した、ピンク色の花などの園芸品種で、西洋雲間草(せいようくもまぐさ、学名:Saxifraga rosacea)、または洋種雲間草(ようしゅくもまぐさ)と呼ばれる。日本種と比べ花の色や形状、開花時期などが異なる。開花時期は、雲間草が 7月~8月、西洋雲間草(洋種雲間草)が3月~5月。2月27日、3月22日の誕生花で、花言葉は活力、自信、愛らしい告白。
◇生活する花たち「さんしゅゆの花蕾・沈丁花の蕾・木瓜」(横浜日吉本町)
★二月はや雛の鼓笛を持たさるる 正子
雛人形を飾られるお宅では、二月も半ばとなれば雛人形が箱から出され、雛壇に並ぶのでしょう。五人ばやしの人形もそれぞれの楽器を持って、ひな祭りが近づくのを教えてくれます。(多田有花)
○今日の俳句
青空に斑雪の山の光りあう/多田有花
「光りあう」が、早春をよく表現している。少しずつ強くなってゆく日差しに、青空も斑雪の山も輝いている。(高橋正子)
○犬ふぐり

[犬ふぐり/横浜・四季の森公園]
★陽は一つだに数へあまさず犬ふぐり/中村草田男
★下船してさ揺らぐ足や犬ふぐり/能村研三
★犬ふぐり牛を繋ぎし綱ゆるむ/皆川盤水
★犬ふぐり野川に水が鳴り始め/高橋正子
★犬ふぐり黄砂来ぬ日はすずやかに/高橋正子
オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢、学名 Veronica persica)とはオオバコ科クワガタソウ属の越年草。別名、瑠璃唐草・天人唐草・星の瞳。路傍や畑の畦道などに見られる雑草。ヨーロッパ原産。アジア(日本を含む)、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、アフリカに外来種(帰化植物)として定着している。日本では全国に広がっており、最初に定着が確認されたのは1887年の東京である。早春にコバルトブルーの花をつける。まれに白い花をつけることがある。花弁は4枚。ただしそれぞれ大きさが少し異なるので花は左右対称である。花の寿命は1日。葉は1–2cmの卵円形で鋸歯がある。草丈10–20cm。名前のフグリとは陰嚢の事で、実の形が雄犬のそれに似ている事からこの名前が付いた。ただし、これは近縁のイヌノフグリに対してつけられたもので、この種の果実はそれほど似ていない。したがって正しくはイヌノフグリに似た大型の植物の意である。
◇生活する花たち「さんしゅゆの花蕾・雪割草・満作」(横浜・四季の森公園)

★ヒヤシンスの香り水より立つごとし/高橋正子
水栽培で育つヒヤシンス。直立する花茎に、無数に開く可憐な小花のみずみずしさを思います。春を呼び覚ますような爽やかな芳しさのヒヤシンスです。(藤田洋子)
○今日の俳句
春光につつまれし身のときめきよ/藤田洋子
この句を読むと、もの静かで明るい若い母親の姿が浮かぶ。うす紫の丸いヨークのセーターが、春光の中で、肩までの黒髪に映えていた。(高橋正子)
○孫橋元希二歳の誕生日
元希は2013年2月19日生まれ。
○猫柳

[猫柳/東大・小石川植物園(2013年2月14日]_[猫柳/横浜・四季の森公園(2012年3月22日)]
★ぎんねずに朱ケのさばしるねこやなぎ/飯田蛇笏
★ひもすがら日は枯草に猫柳/松村蒼石
★猫柳奈良も果てなる築地越し/加藤楸邨
★猫柳高嶺は雪をあらたにす/山口誓子
★そばへ寄れば急に大きく猫柳/加倉井秋を
★ときをりの水のささやき猫柳/中村汀女
★二月はや天に影してねこやなぎ/百合山羽公
★猫柳四五歩離れて暮れてをり/高野素十
★猫柳大利根ゆるぎなく流れ/渡辺潔
★猫柳今日水音の高きこと/稲畑汀子
★谿風の鳴る日鳴らぬ日猫柳/山田弘子
★猫柳水を鏡に呆け初む/皆川盤水
★子を肩に猫柳しかない空ぞ/加藤かな文
★水音は川幅を出ず猫柳/鷹羽狩行
★猫柳さざ波向こうから寄せて/高橋正子
ネコヤナギ(猫柳、学名:Salix gracilistyla)は、ヤナギ科ヤナギ属の落葉低木。山間部の渓流から町中の小川まで、広く川辺に自生する、ヤナギの1種である。北海道〜九州までの河川の水辺で見られ、早春に川辺で穂の出る姿は美しいものである。他のヤナギ類の開花よりも一足早く花を咲かせることから、春の訪れを告げる植物とみなされる。他のヤナギ類よりも水際に生育し、株元は水に浸かるところに育つ。根本からも枝を出し、水に浸ったところからは根を下ろして株が増える。葉は細い楕円形でつやがない。初夏には綿毛につつまれた種子を飛ばす。花期は3〜4月。雌雄異株で、雄株と雌株がそれぞれ雄花と雌花を咲かす。高さは3mほど。銀白色の毛で目立つ花穂が特徴的であり、「ネコヤナギ」の和名はこれをネコの尾に見立てたことによる。花穂は生け花にもよく用いられる。ネコヤナギの樹液はカブトムシやクワガタムシ、カナブン、スズメバチの好物である。
◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)

★青空の果てしなきこと二月なる 正子
二月の空はどこまでも青く、高く広がっています。地上では野の花が咲き、天道虫が草の上を這っています。これから、少しずつ暖かくなり、命あふれる季節がやってきます。二月の空の様子を見事な一句にされていて感心しました。(井上治代)
○今日の俳句
川岸の菜の花明かり水明かり/井上治代
川岸をこぼれそうな菜の花。川の水の明かり。どちらもがほのかに、あかるい「明かり」となって、対象を見る作者の心を満たしている。溶け合うような「明かり」の世界が美しい。(高橋正子)
○菊咲き一華(キクザキイチゲ)

[菊咲き一華/横浜・四季の森公園]
★うちとけて一輪草の中にゐる/古館曹人
★一輪草強気な色を投げらるゝ/鈴木早春
★山の日は一輪草に届かざる/田中かつ子
★一華咲く春の確かな陽の中へ/高橋信之
★うす青き沼の光りに一華咲く/高橋正子
キクザキイチゲ(菊咲一華、学名:Anemone pseudoaltaica)はキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。キクザキイチリンソウ(菊咲一輪草)とも呼ばれる。本州近畿地方以北~北海道に分布し、落葉広葉樹林の林床などに生育する。高さ10~30cm。花期は3~5月で、白色~紫色の花を一輪つける。キクに似た花を一輪つけることからこの名がついた。春先に花を咲かせ、落葉広葉樹林の若葉が広がる頃には地上部は枯れてなくなり、その後は翌春まで地中の地下茎で過ごすスプリング・エフェメラルの一種。山梨県など複数の都道府県で、レッドリストの絶滅危惧種(絶滅危惧I類)や絶滅危惧II類などに指定されている。近縁種は、アズマイチゲ(東一華、学名:Anemone raddeana)、ユキワリイチゲ(雪割一華、学名:Anemone keiskeana)。
イチリンソウ属(イチリンソウぞく、学名:Anemone )は、キンポウゲ科の属の一つ。日本の種にシュウメイギク(帰化)、ユキワリイチゲ、キクザキイチゲ、イチリンソウ、ニリンソウ、サンリンソウ等がある。
◇生活する花たち「シナマンサク・マンサク・ハヤザキマンサク」(東大・小石川植物園)

東海道53次川崎宿
★下萌えの六郷川の水青し 正子
冬枯れの地面のそこかしこから、野にも川辺にも萌え出た草を見出す事が出来、春らしい景色の中六郷川の川の水も春の青空を映してゆったりと流れている素晴らしい景ですね。(小口泰與)
○今日の俳句
蕗の芽や利根の支流に毛鉤打つ/小口泰與
蕗の芽が出はじめ、利根川の支流の愛着の川だろうが、春を待ちかねて毛鉤を打った。川の水にも蕗の芽にもある早春の息吹が何よりも嬉しい。(高橋正子)
○雪割一華(ユキワリイチゲ)

[ユキワリイチゲの花/東京白金台・自然教育園]
★雪割一華へ浅春の陽が燦々と/高橋信之
★一華咲く春の確かな陽の中へ/高橋信之
四季の森公園で初めて「キクザキイチゲ」を見た。去年3月22日のこと。「イチゲ」とは、どんな字を書くのだろうと名札のカタカナを見ながら思った。「一華」である。一茎に一つ花を咲かせる。
先日2月14日に小石川植物園に行った。園内を巡り、売店で柚子茶を飲んでもう帰ろうかと思ったところ植物園で作業をしている男性に出会って立ち話を少々した。一旦別れ、歩いているとまた出会って「下にユキワリイチゲの蕾がちょうど出たところだよ。神社の下の小さい池がある辺り。」と東北訛りで教えてくれた。神社は太郎神社、小さな沼池は榛の木が生えているところと見当がついた。危うく見逃すところだったが、言われた所に行くと、榛の木の生えている少し上に名札が立ててあるのに気付いた。近づくと、紫がかった三つ葉の葉に似た叢に小さな白い蕾が見える。名札がなければ、発見は難しいところだった。一輪だけが咲きかけていた。白い小さな蕾が葉に浮くように、どれも向こうを向くか横向きであった。沼に足を滑らせないように気をつけて、写真を撮った。
★うす青き沼の光りに一華咲く/高橋正子
★榛の木の根方一華の蕾みたり/高橋正子
雪割一華(ユキワリイチゲ、学名:Anemone keiskeana)はキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草である。日本固有種である。本州の滋賀県から九州にかけて分布し、林の中や渓流沿いなどに生える。「雪割」は早春植物を意味し、「一華」は一茎に一輪の花を咲かせるという意味である。草丈は20から30センチくらいである。根際から生える葉は3小葉からなる。小葉は三角状の卵形でミツバの葉に似ていて、裏面は紫色を帯びる。茎につく葉は茎先に3枚が輪のようになって生える(輪生)。開花時期は3月から4月である。花の色は白く、淡い紫色を帯びている。花びらは8枚から12枚くらいである。ただし、花弁のように見えるのは萼片である。花の後にできる実はそう果(熟しても裂開せず、種子は1つで全体が種子のように見えるもの)である。花言葉は「幸せになる」である。属名の Anemone はギリシャ語の「anemos(風)」からきている。種小名の keiskeana は明治初期の植物学者「伊藤圭介さんの」という意味である。圭介はオランダ商館のシーボルトのもとで植物学を学んだ。(花図鑑、©龍&華凛)
◇生活する花たち「満作・椿・蝋梅」(神奈川・大船植物園)
★向こうからさざ波寄する猫柳 正子
ゆったりとさざ波が寄せてくる河畔に、ふくらみはじめた銀色の猫柳を思いうかべました。懐かしい感じのする早春の景です。(小川和子)
○今日の俳句
二月の陽を反射させつつバス来たる/小川和子
バスを待っていると、向こうから陽を反射させながらバスがやって来た。光は、早くも明るい二月の光。二月の光を連れて来たバスである。(高橋正子)
○雪割草

[雪割草/横浜・四季の森公園(左:2013年2月10日/右:2012年3月22日)]
★雪割草雲千切れとぶ国上山/朝妻 力
★雪割草佐渡がもつとも純なとき/中嶋秀子
★雪割草垂水の滝は巌つたふ/山口草堂
★雪割草風透き通るこの辺り/高澤良一
★日に飢ゑし雪割草と灯をわかち/軽部烏頭子
★森の空高し雪割草に吾に/高橋信之
★雪割草の色いろいろに咲く日向/高橋正子
○国営越後丘陵公園(新潟県長岡市)の雪割草まつり
○2013年3月16日(土)から4月7日(日)開催
○主なイベント:展示会講演会花苗・資材販売
平成20年3月1日に「新潟県の草花」に指定された雪割草。長い冬を耐えて可憐な花をつける雪割草の魅力を屋内展示や群生地にてご鑑賞いただけます。4月上旬には約9万株の雪割草の群生地が見頃を迎えます。「新潟県の草花」雪割草。
「雪割草」は、キンポウゲ科ミスミソウ属( Hepatica )の園芸名で、北半球に9種類の分布が知られています。日本にはその中の1種類( H.nobilis )から分かれたミスミソウ・スハマソウ・オオミスミソウ・ケスハマソウが自生しています。これら雪割草の中で最も注目される「オオミスミソウ」。自生地は新潟県を中心とする日本海側にあります。このオオミスミソウは、雪割草の中でも最も変異の幅が広く、さまざまな色や形が楽しめ、しかも性質が丈夫であるため交配に熱中する愛好家も増えています。また、個体もさることながら色とりどりの群生の素晴らしさも言い尽くせません。早春、木立の中で愛らしい花々が咲き乱れ、互いを引き立てながら調和しあう美しさは、出会った人々にすばらしい思い出を与えてくれることでしょう。
http://echigo-park.jp/guide/flower/hepatica/index.html
◇生活する花たち「福寿草・菜の花・紅梅」(横浜日吉本町)

★菜の花に蛇行の川の青かりし 正子
○今日の俳句
春立つや空の青さに海の色/下地鉄
「春立つ」の声を聞けば、空の色、海の色に春らしい明るさを感じるのも人の心。春は空の色、海の色から始まる。(高橋正子)
○菜の花

[菜の花/伊豆河津(2011年2月22日)] [菜の花/横浜日吉本町(2013年2月3日)]
★菜の花や月は東に日は西に/与謝蕪村
★家々や菜の花いろの灯をともし/木下夕爾
★菜の花に汐さし上る小川かな/河東碧梧桐
★菜の花の遥かに黄なり筑後川/夏目漱石
★菜の花の暮れてなほある水明り/長谷川素逝
★菜の花に汐さし上る小川かな/河東碧梧桐
★一輌の電車浮き来る菜花中/松本旭
★寝足りたる旅の朝の花菜漬/稲畑汀子
★咳こもごも流転身一つ菜種梅雨/目迫秩父
★白鷺の飛びちがへるに菜種刈る/木村蕪城
★菜殻火に刻々消ゆる高嶺かな/野見山朱鳥
★うしろから山風来るや菜種蒔く/岡本癖三酔
★まんまるい蕾もろとも花菜漬け/藤田裕子
まんまるい、黄色も少し見える蕾もろとも漬物に付け込むには、心意気がいる。日常生活が身の丈で表現された句。(高橋正子)
★菜の花へ風の切先鋭かり/高橋正子
★菜の花も河津桜も朝の岸/高橋正子
★菜の花の買われて残る箱くらし/高橋正子
菜の花(なのはな、英語:Tenderstem broccoli)は、アブラナまたはセイヨウアブラナの別名のほか、アブラナ科アブラナ属の花を指す。食用、観賞用、修景用に用いられる。アブラナ属以外のアブラナ科の植物には白や紫の花を咲かせるものがあるが、これを指して「白い菜の花」「ダイコンの菜の花」ということもある。
3月のこの季節、菜の花は季節の食材として店頭にも多く並ぶようになった。3月18日に家族で椿山荘で食事をしたとき、菜の花のからし酢味噌かけがあった。天もりは、芽紫蘇。若い者たちも「菜の花のからし酢味噌かけ」が一番おいしかったと答えた。味のリズムと触感と彩りと季節感があったのだろう。
◇生活する花たち「さんしゅゆの花蕾・沈丁花の蕾・木瓜」(横浜日吉本町)
★さきがけて咲く菜の花が風のまま 正子
未だ寒い冷たい時期では有りますが、さきがけて咲いた瑞々しい菜の花が風の吹くままに揺れています。菜の花自身が春を喜んでいる様にも思え、又、私たちにも春の到来を告げてくれている様にも思え、早春の明るい風景が見えて参ります。 (佃 康水)
○今日の俳句
まんさくの丘へ親子の声弾む/佃 康水
まんさくは、「先ず咲く」の訛りとも言われる。春が兆したばかりの丘に、母と子が声を弾ませ、楽しそうである。春が来たと思う光景だ。(高橋正子)
○榛の木(ハンノキ)の花

[榛の木の雄花)/東大・小石川植物園] [榛の木の雄花と雌花/国立自然教育園]
★はんの木のそれでも花のつもりかな 一茶
★渓声に山羊啼き榛の花垂りぬ/飯田蛇笏
★空ふかく夜風わたりて榛の花/飯田龍太
★はんの木の花咲く窓や明日は発つ/高野素十
★榛咲けり溝には去(こ)年(ぞ)の水さびて/川島彷徨子
★百姓の忙しくなる榛咲けり/樋口玉蹊子
★榛の花いつかは人の中で死ぬ/岩尾美義
★空深し榛の花とは垂るる花/高橋正子
ハンノキの花は単性で雄花と雌花は別々につく。雄花穂は、枝先に5cmぐらいの長さで尾状に下垂し、雌花穂は、雄花穂の付け根の近くの葉腋に高さ2cmほどの小さな楕円状になって直立する。両花穂とも小さな花の集合体で、目立つような花弁もなく、よく注意をしないと花とは気がつきにくい。
ハンノキ(榛の木、学名:Alnus japonica)は、カバノキ科ハンノキ属の落葉高木。日本、朝鮮半島、ウスリー、満州に分布する。日本では全国の山野の低地や湿地、沼に自生する。樹高は15~20m、直径60cmほど。湿原のような過湿地において森林を形成する数少ない樹木。花期は冬の12-2月頃で、葉に先だって単性花をつける。雄花穂は黒褐色の円柱形で尾状に垂れ、雌花穂は楕円形で紅紫色を帯び雄花穂の下部につける。花はあまり目立たない。果実は松かさ状で10月頃熟す。葉は有柄で長さ5~13cmの長楕円形。縁に細鋸歯がある。良質の木炭の材料となるために、以前にはさかんに伐採された。材に油分が含まれ生木でもよく燃えるため、北陸地方では火葬の薪に使用された。近年では水田耕作放棄地に繁殖する例が多く見られる。
◇生活する花たち「さんしゅゆの花蕾・雪割草・満作」(横浜・四季の森公園)

★下萌えは大樹の太る根もとより 正子
春の日差しが木の枝や幹を温め、その温みが地にも伝わって、先ず樹の根元から草の芽が吹き出すのでしょう。そういえば、雪解けも樹の根元から丸く始まりますね。丸々とした大樹の太さと小さな下萌えの対比が軽妙です。(小西 宏)
○今日の俳句
枝ゆらし光ゆらして春の鳥/小西 宏
枝に止まった鳥が、枝移りをするのか枝が揺れる。それを見ていると、光も揺らしているのだ。枝を張る陽光に満ちた木、枝移りする鳥が、なんと早春らしいことよ。(高橋正子)
○節分草

[節分草/東京白金台・自然教育園]
★雨光る節分草の咲く日より/後藤比奈夫
★節分草つぶらなる蕊もちゐたる/加藤三七子
★節分草渓の水引く村の風呂/鈴木政子
★大峰の秘湯ゆたけし節分草/竹内美登里
★節分草よき木漏日のありにけり/渡辺玄子
★たまゆらのもれびこもれび節分草/大堀柊花
★節分はおとといなりき節分草/高橋正子
セツブンソウ(節分草)Shibateranthis pinnatifida (Maxim.) Satake et Okuyama は、キンポウゲ科セツブンソウ属の多年草。関東地方以西に分布し、山地のブナ林など、落葉広葉樹林の林床に生え、石灰岩地を好む傾向がある。高さ10cmほど。地下の1.5センチほどの塊茎から、数本の茎を伸ばし、不揃いに分裂した苞葉をつける。花期は2~3月で花茎の先に2センチほどの白色の花をつけるが、花弁に見えるのは、実は萼片である。花弁自体は退化して黄色の蜜槽となり、多数のおしべと共にめしべの周りに並んでいる。めしべは2~5個あり、5月の中ごろに熟し、種子を蒔いた後で地上部は枯れてしまう。和名は、早春に芽を出し節分の頃に花を咲かせることからついた。可憐な花は人気が高く、現在は、乱獲や自生地の環境破壊によって希少植物になっている。 節分草の自生地として有名な場所は、埼玉県小鹿野町(旧両神村地区)、栃木県栃木市(星野の里)、広島県庄原市(旧総領町地区)などがある。
千曲市戸倉のセツブンソウの群生地は地域の人達が丁寧に守り保護して来ました。千曲市では昨年の2006年に「珍奇または絶滅にひんした植物の自生地」などとして、戸倉の1万2000平方メートルと倉科の約2000平方メートルを市の天然記念物に指定。両地域では2006年11月以降、市民らによる下草刈りや遊歩道の整備をして、一般公開に踏み切った。戸倉地域では2007年2月に発足した「戸倉セツブンソウを育てる会」(会員約60名)が毎日群生地を見回っている。地域では「群生地は地域の誇り、貴重な花への理解を深めてほしい」と呼び掛けている。
◇生活する花たち「福寿草・節分草・榛の花」(東京白金台・自然教育園)
