★紺碧の天と対いて刈田あり 正子
秋のある日には、突然全く雲の無い紺碧の空が拡がる事があります。全て刈田となった野面にはひつじ稲のみどりが見え、荒涼とした広さが余計に拡がりを見せてくれます。(桑本栄太郎)
○今日の俳句
バス待つ間も金木犀の充ち来る香/桑本栄太郎
バスを待っている間にも、待てば待つほど金木犀の香りが濃厚になってくる。香りが溜まってくる。それが「充ち来る」であろうが、そういった感じ方に新しさがある。(高橋正子)
○桂黄葉(かつらもみじ)

[桂黄葉/横浜・四季の森公園]
★桂黄葉の下をくぐって森の公園/高橋信之
★黄葉して桂の一樹しかと立つ/高橋正子
カツラ(桂、学名:Cercidiphyllum japonicum)は、カツラ科カツラ属の落葉高木。日本各地のほか、朝鮮半島、中国にも分布する。街路樹や公園樹に利用され、アメリカなどでも植栽されている。日本で自生するものはブナ林域などの冷温帯の渓流などに多く見られる。高さは30mほど、樹木の直径は2mほどにもなる。葉はハート型に似た円形が特徴的で、秋には黄色く紅葉する。落葉は甘い香り(醤油の良いにおいに似ている)を呈する。成長すると主幹が折れ、株立ちするものが多い。日本においては山形県最上郡最上町にある「権現山の大カツラ」が最も太く、地上から約1.3mの位置での幹周が20m近くにまで成長している。中国の伝説では、「桂」は「月の中にあるという高い理想」を表す木であり、「カツラ(桂)を折る」とも用いられる。しかし中国で言う「桂」はモクセイ(木犀)のことであって、日本と韓国では古くからカツラと混同されている(万葉集でも月にいる「かつらをとこ(桂男)」を歌ったものがある)。用途として、街路樹として植えられるほか、材は香りがよく耐久性があるので、建築、家具、鉛筆などの材料に使われる。また、碁盤、将棋盤にも使われるが、近年は市場への供給が減っており、貴重な木材となりつつある。桂皮(シナモン)は、同じ桂の字を使うがクスノキ科の異種の樹皮である。
◇生活する花たち「茶の花・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)

★ポプラ黄葉雲寄り雲のまた流る 正子
街路樹や牧場などに植えられている菱形の葉を持つポプラは高く伸び、特に樹形が美しく黄葉したポプラは秋の青空に映え、そのポプラの上を真っ白な雲がゆっくりと流れ、また、近寄っては流れていく素晴らしい景ですね。(小口泰與)
○今日の俳句
ままごとのお椀かろしや赤のまま/小口泰與
「お椀かろし」がいい。作者はたわむれにままごとのお客になったとも思えるが、赤のままをいれたお椀があまりにも軽いこと、そこに感銘がある。(高橋正子)
○黒鉄黐(クロガネモチ)

[黒鉄黐/横浜・四季の森公園]
★霧に育ち大根くゆりと葉を反らす 正子
霧の出る大地に育つ大根であろうか。だんだんと大きくなった葉も反らし始めた。くゆりと、何となく面白味があります。(祝 恵子)
○今日の俳句
芒日を透かしておりぬ寺静か/祝 恵子
日当たりのよい寺はだれも居ぬようだ。芒が日を透かし、これ以上ないような静けさと、穏やかな明るさが思われる。(高橋正子)
○ナガボノシロワレモコウ

[ナガボノシロワレモコウ/東京白金台・自然教育園]_[吾亦紅(ワレモコウ)/横浜市港北区松の川緑道]
★朴落葉空より吹かれ来て臥しぬ 正子
朴の木は高木で森や山路に見る事が出来ますが、恥ずかしながら朴落葉を今年初めて見ました。他の落葉の枯れ色に紛れず、その大きさが目立ちます。「空より吹かれて来て臥す」は高い木であること、また臥す(横たわる)と言えるほどに大きな葉で有る事が想像出来て朴落葉の詩情ある初冬の風景です。(佃 康水)
○今日の俳句
霜降の日松の菰巻き
菰巻きや縄目きりりと立ち揃い/佃 康水
新しい菰で幹を蒔かれ、縄をきりりと結んだ木は、風格が一段と増して見える。冬越しの準備が整い、気持ちが引き締まる思いだ。(高橋正子)
○山鳥兜(ヤマトリカブト、鳥兜・鳥頭・かぶと花)

[ヤマトリカブト/横浜・四季の森公園] [オクトリカブト/尾瀬ヶ原]
★秋海は青より銀に由比ヶ浜 正子
○今日の俳句
秋天に伸びゆくものの数多あり/多田有花
秋の天に高く伸びてゆくものを読み手はいろいろ想像する。鉄塔であったり、高層ビルであったり、聳える木であったり。秋天にある飛行機雲も。秋麗の日差し、空気、まさに「秋」がよく表現されている。(高橋正子)
○がまずみ

[がまずみの実/東京白金台・自然教育園]_[がまずみの花/東京白金台・自然教育園]
★冷たさも露けさもスライスオニオン 正子
「スライスオニオン」に露けさをお感じになり、またそこに冷たさも味わわれて、晩秋の白さのようなものを造形なさいました。その澄明さに見とれ、句のリズムに聞き惚れます。(小西 宏)
○今日の俳句
蟷螂の路上を這える青きまま/小西 宏
秋になると蟷螂も枯れ色をしたのが眼に付く。ところが、路上に出てきた蟷螂がゆっくりとした動きだが、青きまま。「青きまま」が却ってあわれを誘う。(高橋正子)
○金水引(キンミズヒキ)

[金水引/横浜・四季の森公園]_[銀水引/東京・向島百花園]
★金木犀こぼれし花もあたたかな 正子
小さな星のような花を枝に密集させている金木犀。そこからこぼれ落ちた花もまだ生き生きとしていて、明るさとあたたかさを持って地面で咲いているようです。(安藤智久)
○今日の俳句
花束を花瓶にほどく秋の夜半/安藤智久
花束をいただいた。帰り着いたのが夜となったのだろう。落ち着いてから、夜半に花束を花瓶に入れた。しっとりとした秋の夜半である。(高橋正子)
○泡黄金菊(あわこがねぎく)

[泡黄金菊/東京白金台・国立自然教育園]
泡黄金菊(アワコガネギク)はキク科キク属の多年草である。本州の岩手県から九州の北部にかけて分布し、やや乾いた山麓や手などに生える。海外では、朝鮮半島や中国大陸にも分布している。和名の由来は、密集している花が泡のように見えることからきている。命名者は牧野富太郎博士である。
環境省のレッドリスト(2007)では、「現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては『絶滅危惧』に移行する可能性のある種」である準絶滅危惧(NT)に登録されている。レッドリストでは別名の菊谷菊(キクタニギク)が用いられている。これは、自生地(京都府菊谷)からきている名前である。
草丈は100センチから150センチくらいである。茎はよく枝分かれをする。葉の形は栽培菊に似ていて深い切れ込みがあり、裂片は尖らない。葉は互い違いに生える(互生)。開花時期は10月から11月である。頭花は舌状花も筒状花も黄色で、ひしめき合うように密につく。花径は15ミリから18ミリくらいと小さい。学名:Chrysanthemum boreale(=Dendranthema boreale)
◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

★秋水湧く波紋をそのまま手にすくう 正子
○今日の俳句
★星月夜明日はよきこときっとある/内山富佐子
星月夜の美しさは、心を澄ませてくれる。見上げれば、明日はきっとよいことがあると思う。(高橋正子)
○柚香菊(ゆうがぎく)

[柚香菊/東京小金台・国立自然教育園]
★花開ききったり柚香菊そこに/高橋信之
★花びらの欠けるかに咲き柚香菊/高橋正子
★やや寒し柚香菊の白を帯ぶ/〃
★茎すっと伸びて岐れて柚香菊/〃
★湖の縁にならんで柚香菊/高橋句美子
ユウガギク(柚香菊、学名:Kalimelis pinnatifida) は、キク科ヨメナ属の多年草で、やや湿性の高い場所に自生し、いわゆる「野菊」の仲間である。草丈50cmほどで、しばしば1mを越える。上部で花茎を分け、花期は6月下旬~11月、茎頂に径3cm前後の白から淡紫色の典型的なキク型の花をつける。葉は、幅3cmほど、長さ8cm前後の卵状長楕円形で、通常、葉縁に鋭く浅い切れ込みか、または羽状の中裂が入る。本州の近畿地方以北に分布し、関東地方以北に分布するカントウヨメナにとてもよく似ている。近年、シロヨメナをヤマシロギクの別名としたり、その逆としたり、シロヨメナとヤマシロギクを混同する記載が結構目立つ。シロヨメナとヤマシロギクはともにノコンギクの亜種だが、別種である。ヤマシロギクは東海地方以西に分布し、シロヨメナの分布は本州~九州・台湾である。シロヨメナはしばしばヤマシロギクとの間に雑種を作るのでこのような混同がおきているのかもしれない。「柚香菊」は、ユズの香りがするとの命名だが、葉を揉んでもユズの香りは確認できていない。
★野菊持ちし女の童に逢ひぬ鈴鹿越/正岡子規
★足元に日のおちかかる野菊かな 一茶
★湯壷から首丈出せば野菊かな/夏目漱石
★蝶々のおどろき発つや野菊の香/前田普羅
★頂上や殊に野菊の吹かれをり/原石鼎
★かがみ折る野菊つゆけし都府楼址/杉田久女
横浜日吉・慶大グランド
★サッカーの練習熱帯ぶ野菊咲き/高橋正子
柚香菊は、野菊の仲間である。野菊(のぎく)とは、野生の菊のことである。よく似た多くの種があり、地域によってもさまざまな種がある。一般に栽培されている菊は、和名をキク(キク科キク属 Dendranthema grandiflorum (Ramatuelle) Kitam.)と言い、野生のものは存在せず、中国で作出されたものが伝来したと考えられている。したがって、菊の野生種というものはない。しかしながら、日本にはキクに似た花を咲かせるものは多数あり、野菊というのはそのような植物の総称として使われている。辞典などにはヨメナの別称と記している場合もあるが、植物図鑑等ではノギクをヨメナの別名とは見なしていない。現在では最も身近に見られる野菊のひとつがヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。キク科の植物は日本に約350種の野生種があり、帰化種、栽培種も多い。多くのものが何々ギクの名を持ち、その中で菊らしく見えるものもかなりの属にわたって存在する。
野菊は、野生の植物でキクに見えるもののことである。キクはキク科の植物であるが、この類の花には大きな特徴がある。菊の花と一般に言われているものは、実際には多数の小さい花の集合体であり、これを頭状花序と言う。頭状花序を構成する花には大きく2つの形があり、1つはサジ型に1枚の花弁が発達する舌状花、もう1つは花弁が小さく5つに割れる管状花である。キクの花の場合、外側にはサジ型の舌状花が並び、内側には黄色い管状花が密生するのが基本である。
◇生活する花たち「十月桜・白ほととぎす・野葡萄」(横浜・東慶寺)

★金木犀こぼれし花もあたたかな 正子
木の周りを取り囲み散り敷いている金木犀の花。咲いているときも引き寄せられるような温かさが、散った花にもおなじく幸せな色である。(祝恵子)
○今日の俳句
しりとりをしつつ帰る子秋の暮/祝恵子
女の子たちであろうか。秋の暮をきりもないしりとり遊びをしながら帰る子どもたちが、かわいらしく、ほほえましい。作者の子らへの眼差しがやさしい。(高橋正子)
○薬師草(やくしそう)

[薬師草/横浜・四季の森公園]
★森に咲く薬師という名の菊凛と/高橋信之
ヤクシソウ(薬師草、学名:Youngia denticulata)は、キク科オニタビラコ属の二年草。高さは30-120 cm。初期には根出葉があるが、花時にはほとんどなくなり、茎葉だけになる。茎葉は基部が張り出して茎を抱く。葉は互生し、長さ5-10 cm、幅2-5 cmの長楕円形-倒卵形。茎や葉を折ると苦味のある白い乳液を出す。花期は9-11月で枝の上部に直径1.5 cmほどの黄色い花を固まって咲かせる。花は上向きに開くが、花が終わると下向きになる。 和名の由来は不明であるとする説や、葉の形が薬師如来の光背に似ているとする説、かつて薬草(民間薬として皮膚の腫れものに外用)に使われたことによるとする説がある。中国名は「苦菜」。学名の「denticulata」は、「細歯のある」の意味である。
朝鮮半島・中国・台湾・インドネシア・ベトナム・インドなどと日本の北海道・本州・四国・九州・屋久島の日当たりのよい乾いた山野に生える。奥秩父や四国山地などの石灰岩、蛇紋岩地帯の岩壁にも分布する。新しく林道をつけた斜面の裸地に真っ先に侵入するパイオニア植物である。花の外観は同科のアキノノゲシやハナニガナなどに似ている。
◇生活する花たち「犬蓼・金木犀・白曼珠沙華」(横浜四季の森公園)

★呼んでみるかなたの空の雲の秋 正子
○今日の俳句
夕空にゴーギャンの青秋深し/福田ひろし
秋も深まり空の青さに感嘆することもしばしば。夕空を眺めれば美し青色。その青を「ゴーギャンの青」と称えた。(高橋正子)
○信之先生は、由比ガ浜に出かける。ブルーラインで戸塚まで。戸塚からJrで鎌倉へ。鎌倉から江ノ電で由比ガ浜コース。
○花蓼(ハナタデ)

[花蓼/東京小金台・国立自然教育園]_[犬蓼/横浜市港北区松の川緑道]
★犬蓼の花くふ馬や茶の煙 子規
★赤のまま摘めるうまごに随へり 亞浪
★山水のどこも泌み出る赤のまま 汀女
★われ黙り人話しかくあかのまま 立子
★水際の赤のまんまの赤つぶら/高橋正子
★白花の蓼が群れ咲く水ほとり/高橋信之
★それぞれが群れ赤い蓼白い蓼/高橋正子
タデ(蓼、英語: water pepper)は、タデ科イヌタデ属の1年草。単にタデと言う場合は、ヤナギタデ(柳蓼、学名: Persicaria hydropiper)を指す。「蓼食う虫」の蓼もヤナギタデである。和名は、葉がヤナギに似ていることから。特有の香りと辛味を持ち、香辛料として薬味や刺身のつまなどに用いられる。野生の紅タデがもっとも辛く、栽培種の青タデは辛さが少ない。辛味成分はポリゴジアール。タデの葉をすりつぶして酢でのばしたものはタデ酢と呼ばれ、アユの塩焼きに添えられる。品種としては、柳タデ(本タデ)、紅タデ、青タデ、細葉タデなどがある。食用タデについては、福岡県朝倉市で日本国内生産の約7割を占める。ベトナムでは付け合わせとしてよく食べられている。
イヌタデ(犬蓼、Polygonum longisetum あるいは Persicaria longiseta)は、タデ科の一年草。道ばたに普通に見られる雑草である。茎の基部は横に這い、多く枝分かれして小さな集団を作る。茎の先はやや立ち、高さは20-50cm。葉は楕円形。秋に茎の先端から穂を出し、花を密につける。花よりも、その後に見られる真っ赤な果実が目立つ。果実そのものは黒っぽい色であるが、その外側に赤い萼をかぶっているので、このように見えるものである。赤い小さな果実を赤飯に見立て、アカマンマとも呼ばれる。雑草ではあるが、非常に美しく、画材などとして使われることもある。名前はヤナギタデに対し、葉に辛味がなくて役に立たないために「イヌタデ」と名付けられた。
シロバナサクラタデ(白花桜蓼、学名:Persicaria japonica)は、タデ科イヌタデ属の多年草。北海道~九州の湿地に生え、根茎は地中で長くのび、枝を分けてふえる。茎は直立し、高さは30~100cmになり、紅色を帯びる節がある。葉は披針形。鞘状の托葉は長さ1~2.5cmで、粗い伏毛があり、縁には長毛が生える。枝先に花序を1~5本出し、花を多数つける。花被は白色で腺点があり、長さ3~4mm。雄しべは普通8個、雌しべは1個で花柱は2~3岐。花には長花柱花と短花柱花との2型がある。そう果は3稜形またはレンズ状で黒色で光沢がある。花期は8~10月。よく似たサクラタデは花被が長さ5~6mmと大きい。
◇生活する花たち「茶の花・柚香菊・実蔓(さねかずら)」(東京白金台・国立自然教育園)
