9月13日(水)

  尾瀬
★山小屋の湯にいて秋の笹の音  正子
山小屋の湯に浸り、旅の疲れを癒す、心身ともに安らぐひととき。その快さの中で聞く笹の葉擦れの音に、いっそう澄んだ秋の夜が感じられ、尾瀬の秋に身を置く作者の喜びが伝わってまいります。(藤田洋子)


「サワギキョウ」(尾瀬ヶ原)

サワギキョウ(沢桔梗、学名: Lobelia sessilifolia )はキキョウ科ミゾカクシ属の多年草。美しい山野草であるが、有毒植物としても知られる。
茎の高さは50cmから100cmになり、枝分かれしない。葉は無柄で茎に互生し、形は披針形で、縁は細かい鋸歯状になる。
花期は8月から9月頃で、濃紫色の深く5裂した唇形の花を茎の上部に総状に咲かせる。花びらは上下2唇に分かれ、上唇は鳥の翼のように2裂し、下唇は3裂する。萼は鐘状で先は5裂する。キキョウと同じく雄性先熟で、雄しべから花粉を出している雄花期と、その後に雌しべの柱頭が出てくる雌花期がある。
北海道、本州、四国、九州に分布し、山地の湿った草地や湿原などに自生する。普通、群生する。

○今日の俳句
窓越しの鳴き澄む虫と夜を分つ/藤田洋子
「夜を分かつ」によって、窓の外の虫音と内とが繋がって、しっとりと落ち着いた虫の夜となっている。「鳴き澄む」虫の声が透徹している。(高橋正子)

○数珠玉

[数珠玉/横浜・四季の森公園]

★数珠玉や歩いて行けば日暮あり/森澄雄
★数珠玉や家のまはりに水消えて/岸田稚魚
★じゅず玉は今も星色農馬絶ゆ/北原志満子
★数珠玉や流れの速き濁り川/天野美登里
★数珠玉の数珠の数個をポケットに/山内四郎

数珠玉を見るようになったのは、愛媛に住むようになってからである。この、どこにでもある数珠玉を高校時代までは見たことがなかった。知らないかったと言えばそれまでだが、数珠玉があれば、子どもたちはそれを集めて糸を通して遊ぶはずだが、そんな遊びはしたことがなかった。秋の初め野川と呼ばれるような川縁にある。初めは緑で指で潰せば潰れそうな未熟な実も、熟れると、つやつやと固くなって黒っぽい灰色の独特の色になる。大人でも、数珠玉があれば、用もないのに採りたくなる。

★数珠玉よ川にも空が映るなり/高橋正子
★数珠玉を採ってしばらく手のうちに/〃

 ジュズダマ(数珠玉、Coix lacryma-jobi)は、水辺に生育する大型のイネ科植物である。インドなどの熱帯アジア原産で、日本へは古い時代に入ったものと思われる。一年草で、背丈は1m程になる。根元で枝分かれした多数の茎が束になり、茎の先の方まで葉をつける。葉は幅が広い線形で、トウモロコシなどに似ている。花は茎の先の方の葉の付け根にそれぞれ多数つく。葉鞘から顔を出した花茎の先端に丸い雌花がつき、その先から雄花の束がのびる。雌花は熟すると、表面が非常に固くなり、黒くなって表面につやがある。熟した実は、根元から外れてそのまま落ちる。なお、ハトムギ(C. lacryma-jobi var. ma-yuen)は本種の栽培種である。全体がやや大柄であること、花序が垂れ下がること、実がそれほど固くならないことが相違点である。
 脱落した実は、乾燥させれば長くその色と形を保つので、数珠を作るのに使われたことがある。中心に花軸が通る穴が空いているので、糸を通すのも簡単である。実際に仏事に用いる数珠として使われることはまずないが、子供のおもちゃのように扱われることは多い。古来より「じゅずだま」のほか「つしだま」とも呼ばれ、花環同様にネックレスや腕輪など簡易の装飾品として庶民の女の子の遊びの一環で作られてきた。秋から冬にかけて、水辺での自然観察や、子供の野外活動では、特に女の子に喜ばれる。
 イネ科植物の花は、花序が短縮して重なり合った鱗片の間に花が収まる小穂という形になる。その構造はイネ科に含まれる属によって様々であり、同じような鱗片の列に同型の花が入るような単純なものから、花数が減少したり、花が退化して鱗片だけが残ったり、まれに雄花と雌花が分化したりと多様なものがあるが、ジュズダマの花序は、中でも特に変わったもののひとつである。まず、穂の先端に雄花、基部に雌花があるが、このように雄花と雌花に分化するのは、イネ科では例が少ない。細かいところを見ると、さらに興味深い特徴がある。実は、先に“実”と標記したものは、正しくは果実ではない。黒くてつやのある楕円形のものの表面は、実は苞葉の鞘が変化したものである。つまり、花序の基部についた雌花(雌小穂)をその基部にある苞葉の鞘が包むようになり、さらにそれが硬化したものである。この苞葉鞘の先端には穴が開いており、雌花から伸び出したひも状の柱頭がそこから顔を出す。雌花は受粉して果実になると、苞葉鞘の内で成熟し、苞葉鞘ごと脱落する。一般にイネ科の果実は鱗片に包まれて脱落するが、ジュズダマの場合、鱗片に包まれた果実が、さらに苞葉鞘に包まれて脱落するわけである。実際にはこの苞葉鞘の中には1個の雌小穂のほかに、2つの棒状のものが含まれ、苞葉鞘の口からはそれら2つが頭を覗かせている。これらは退化して花をつけなくなった小穂である。したがって、包葉鞘の中には、花をつける小穂(登実小穂)1つと、その両側にある不実の小穂2つが包まれていることになる。これら雌小穂と不実の小穂の間から伸びた花軸の先には、偏平な小判型の雄小穂が数個つく。1つの雄小穂にはそれぞれに2つの花を含む。開花時には鱗片のすき間が開いて、黄色い葯が垂れ下がる。

◇生活する花たち「露草・なんばんぎせる・玉珊瑚(たまさんご)」(東京白金台・自然教育園)

9月12日(火)

  尾瀬
★山小屋の湯にいて秋の笹の音  正子
山小屋でお湯につかっておられると、戸外で笹が擦れ合う音が聞こえてきました。山小屋の秋の夜の静かさ、清澄な空気が伝わってきます。 (多田有花)

○今日の俳句
傷に刃を当て傷物の梨をむく/多田有花
傷物の梨を剥こうとすれば、まず傷をとってからが普通の行為だが、「傷に刃を当て」と言われると神経がピリッとする。リアルな句だ。(高橋正子)

○瓢箪

[瓢箪/東京・向島百花園]          [瓢箪/横浜市緑区北八朔町]

★ありやうにすはりて青き瓢かな 涼菟
★花や葉に恥しいほど長瓢 千代女
★人の世に尻を居へたるふくべ哉 蕪村
★ひとりはえてひとつなりたる瓢かな 几董
★老たりな瓢と我影法師 一茶
★取付て松にも一つふくべかな 子規
★風ふけば糸瓜をなぐるふくべ哉 漱石
★吐せども酒まだ濁る瓢かな 碧梧桐
★露の蟻瓢の肩をのぼりけり 青畝
★あをあをとかたちきびしき瓢かな 蛇笏
★台風に傾くままや瓢垣 久女

私には弟がいて、男の子が喜ぶようなものとして、父が瓢箪と糸瓜を植えたことがあった。小型の瓢箪が沢山出来た。瓢箪の実から種を出さなければいけない。この種は水に瓢箪を付けて腐らせて出すのだと聞いたことがある。父がどのようにして種を抜いたか知らないが、いつの間にか、軽くなった瓢箪が家に転がっていた。おもちゃにした記憶はないが、なにかしら好ましい形で、我が家の瓢箪という感じだった。瓢箪は中にお酒を入れると艶よくなるそうである。瓢箪の好きなどこそこのご隠居さんは、お酒を含ませた布で毎日熱心に磨いているそうだと祖母が話していたこともある。最近は瓢箪集めという趣味も無くなってなっているのかもしれない、と思うと同時に、子供のころとは世の中が随分変わって来たのだと思う。昨年向島百花園に行ったときは、棚にうすみどり色のいい形の瓢箪が生っていた。

★瓢箪のさみどり色や向島/高橋正子

ヒョウタン(瓢箪、瓢?、学名:Lagenaria siceraria var. gourda)は、ウリ科の植物。葫蘆(ころ)とも呼ぶ。なお、植物のヒョウタンの実を加工して作られる容器も「ひょうたん」と呼ばれる。最古の栽培植物のひとつで、原産地のアフリカから食用や加工材料として全世界に広まったと考えられている。乾燥した種子は耐久性が強く、海水にさらされた場合なども高い発芽率を示す。日本では、『日本書紀』(仁徳天皇11年=323年)の記述の中で瓢(ひさご)としてはじめて公式文書に登場する。茨田堤を築く際、水神へ人身御供として捧げられそうになった男が、ヒョウタンを使った頓智で難を逃れたという。狭義には上下が丸く真ん中がくびれた形の品種を呼ぶが、球状から楕円形、棒状や下端の膨らんだ形など品種によってさまざまな実の形がある。かつては、実を乾かして水筒や酒の貯蔵に利用されていた(微細な穴があるために水蒸気が漏れ出し、気化熱が奪われるため中身が気温より低く保たれる)。利便性の高さからか、縁起物とされ羽柴秀吉の千成瓢箪に代表されるように多くの武将の旗印や馬印などの意匠として用いられた。瓢箪は、三つで三拍(三瓢)子揃って縁起が良い、六つで無病(六瓢)息災などといわれ、掛け軸や器、染め物などにも多く見られる。ちなみに大阪府の府章は、千成瓢箪をイメージしている。
ヒョウタンは水筒、酒器、調味料入れなどの容器に加工されることが多い。乾燥したヒョウタンは、表面に柿渋やベンガラ、ニスを塗って仕上げる。水筒や食器など、飲食関係の容器に用いる場合は、酒や番茶を内部に満たして臭みを抜く。軽くて丈夫なヒョウタンは、世界各国でさまざまな用途に用いられてきた。朝鮮半島ではヒョウタンをふたつ割りにして作った柄杓(ひしゃく)や食器を「パガチ」と呼び、庶民の間で広く用いられてきた。また、アメリカインディアンはタバコのパイプに、南米のアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルではマテ茶の茶器、またインドネシア・イリアンジャヤやパプアニューギニアなどでは先住民によってペニスケースとして使われている。ヒョウタンには大小さまざまな品種があり、長さが5センチくらいの極小千成から、2メートルを越える大長、また胴回りが1メートルを超えるジャンボひょうたんなどがある。ヒョウタンと同種のユウガオは、苦みがなく実が食用になり、干瓢の原料となる。農産物としても重要であり、近年は中国からの加工品輸入も増加している。主として生または乾物を煮て食べる。また、強壮な草勢からスイカやカボチャの台木としても利用される。

◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

9月11日(月)

★さわやかに行きし燕の戻り来る  正子
高く澄んだ空を、ついと燕の影がよぎります。南へ行くのかと見ていると、また戻る影。おそらく仲間が集まるのを待ち、少しずつ群れをなしてから、旅立つのでしょう。その影を見届けることの出来る、秋の空気の優しさ、清々しさを想います。 (川名ますみ)

○今日の俳句
受付に竜胆おかれ医師の古稀/川名ますみ
掛かりつけの医師が古希と伺ったのであろう。受付にさわやかに竜胆がさしてあることが、古希を迎えた医師に相応しい。医師の人となりを想像させ、また、医師の髪に混じる白を穏やかに印象付けている。(高橋正子)

●9月月例ネット句会の入賞発表をする。入賞発表の原稿を作りながら、みんなの句、自分の句をなるべく客観的であるように読む。自分の句については、納得度が大切か。

●民進党の山尾議員が週刊誌に誤解を受ける行動があったと報じられ離党した。それはいいとして、経歴にはミュージカル「アニー」の主役を演じた、とある。それには驚いたが、実は、2か月前にパッフィンブックの「アニー」、真っ赤な表紙に「Annie」と書いてあって、もとは「Little Annie」だったらしい、を買って読んでいた。「Annnie」を買うつもりはなかったが、適当な本がなくて買ったのだが、結構おもしろかった。大恐慌時代のニューヨークの孤児院での話。子供向けの本で、実にアメリカらしい話。2度読んだが、二度目は時々辞書に当たりながら読ん。孤児院での話なので、まあ、なんと悪態をつくいろんな言葉、院長が孤児をさげすむ言葉、どん底の子達の生活場面に出てくる言葉が、非常に珍しかった。日本でも人気のミュージカルらしい。

○萩
潜り入る萩のトンネル咲き初めし  正子
咲き満ちて眼にちらちらと萩の紅  正子

2011年九月八日、向島百花園に信之先生と行った。百花園の九月の花といえば、まずは萩の花だろう。もちろん、女郎花、藤袴、芒、なでしこ、桔梗、葛棚に葛が咲いているが、園内の至るところに咲く萩が見もの。萩は丸葉萩だろうか。この日に訪ねたときは、咲き始めたばかりのようで、たまに見ごろの萩があった。十日からの萩祭りには、もう少し紅色が増えるだろう。萩のトンネルは、竹を組んで作られて、十メートルばかりある。「花を潜る」はちょっとうれしいことだが、この季節のよい趣向だ。萩が咲くころは、まだ「秋暑し」の気候。萩など見終わって、百花園特製の「生姜シロップ」のかき氷をいただいたが、オツなもの。淡い琥珀色のシロップが白い氷にかかっている。

◇生活する花たち「葛の花・レンゲショウマ・萩」(東京・向島百花園)

■9月月例ネット句会/入賞発表■


■2017年9月月例ネット句会■
■入賞発表/2017年9月11日

【金賞】
★秋晴やものみなくっきり影を持つ/多田有花
ものの影は、日射しの強い夏よりも、秋晴の日のほうがくっきりする。大気が澄み、目に見えるものがくっきりとその存在を明らかにする。秋晴れの明るさが詠まれた。(高橋正子)

【銀賞/2句】
★松手入れ風に乗りたる音の良き/河野啓一
松を手入れする植木職人の鋏の音が、こころよく聞こえてくる。風に乗って来るのは、松葉の匂いもだろう。整えられてゆく松の木の爽やかな姿が想像できる。(高橋正子)

★朝刊の隅の一句の爽やかに/藤田洋子
朝刊の片隅のコラムに日々の一句が載る。その爽やかな句に、読むものにも季節の爽やかさくれるのだ。生活の中にある俳句と季節感。俳都松山ならでは。(高橋正子)

【銅賞/3句】
★冬瓜の実り確かな重さかな/古田敬二
よく実った冬瓜は、独特の形から、目で見てもその重さが計られそうだ。濃い緑の充実感。(高橋正子)

★月白や男が捌く鯉料理/小口泰與
鯉料理は、男に任せたい。月白に今日の客人をもてなそうとするのか。「月白」によって、捌く手元が神事めく。(高橋正子)

★新涼や雉鳩水を飲むところ/谷口博望 (満天星)
新涼の水たまり。雉鳩がやってきて、水を飲むところだ。野の鳥たちにも水が与えられる。(高橋正子)

【高橋信之特選/9句】
★松手入れ風に乗りたる音の良き/河野啓一
いい句だ。快い句だ。嬉しい句だ。下五の「音の良き」の平明さが成功した。(高橋信之)

★朝刊の隅の一句の爽やかに/藤田洋子
中七の「隅」がいい。真ん中でなく、「隅」が爽やかなのだ。(高橋信之)

★冬瓜の実り確かな重さかな/古田敬二
作者の実感を直に感じる佳句。中七の「確かな」は、作者自身の「確かな言葉」だ。生き生きとした農作業の成果を見る。(高橋信之)

★秋晴やものみなくっきり影を持つ/多田有花
秋が深まりゆくと共に空気は乾き、日向と日陰の明るさの対比が強くなります。秋晴の日は、このように「ものみなくっきり影を持つ」景色となり、当意即妙の描写が良い。(桑本栄太郎)

★真つ新な白きエプロン秋茄子/小口泰與
真っ新なエプロンの白と秋茄子の紫紺、くっきりとした色彩の対比が目に清々しく鮮明です。いっそう美味で新鮮な秋茄子を感じ、季節のものをいただく喜びが感じ取れます。 (藤田洋子)

★月白や男が捌く鯉料理/小口泰與
★新涼や雉鳩水を飲むところ/谷口博望 (満天星)
★新涼や木曽の白樺抜けてくる/古田敬二
★供花挿して秋の山水溢れしむ/藤田洋子

【高橋正子特選/9句】
★秋風を通す入口長屋門/祝恵子
「長屋門」は、母方の祖母の実家にあった。母方の母の従弟に正岡子規や大江健三郎が在学した旧松山中学(現松山東高)に通い、俳句で少し名を知らていたが、早世した。(高橋信之)

★鈴虫の鳴く声近く真暗闇/高橋句美子
鈴虫の素直な句で、下五に置いた「真暗闇」がいい。穏やかに、そして力強い言葉の「真暗闇」で一句を収めた。(高橋信之)

★松手入れ風に乗りたる音の良き/河野啓一
下五に置いた「音の良き」がいい。読み手の心に快く響く。(高橋信之)

★家々の裏手を流れ秋の水/多田有花
どの家の裏にも小川が流れ、秋には澄んだ水音が聞こえ木の橋が渡され季節と共にある豊かな「水の恵み」の生活が感じられます。 (柳原美知子)

★月白や男が捌く鯉料理/小口泰與
★新涼や雉鳩水を飲むところ/谷口博望 (満天星)
★秋晴やものみなくっきり影を持つ/多田有花
★朝刊の隅の一句の爽やかに/藤田洋子
★爽やかに今朝の襖の開け閉めよ/高橋信之

【入選/10句】
★鬼の子の独りあそびや風の友/桑本栄太郎
青葉の頃から、木の葉や枝を綴り合わせて蓑のような巣を作り樹上を移動して木を食べる蓑虫。その蓑虫が風に吹かれてまるで独り遊びのように揺れている素敵な景ですね。(小口泰與)

★田水落つ音に熟れゆく稲穂かな/桑本栄太郎
刈入れに備えてて水を落とす。その光景を無理なく描写されました。(河野啓一)

★せせらぎの木洩れ日揺らぎ秋の水/桑本栄太郎
せせらぎに刺し込む木漏れ日も秋の水の動きに合わせて揺れている、との景色が良く見える。(廣田洋一)

★水切りの石の行方や秋の蝉/小口泰與
水切りをして、つっと何回か跳ねて成功したときは、やったと思ったものです。石の行方なんて思ってもみませんでしたが。(祝恵子)

★斐駒ヶ岳(かいこま)が茜に染まる蕎麦の花/古田敬二
雄大な自然を背景にいっそう可憐な蕎麦の花を感じます。色彩豊かな美しい情景に、心洗われ澄み渡るようです。(藤田洋子)

★梨剥くも噛む音聞くも独りかな/廣田洋一
梨を剥く音、梨を噛む音は普通聞こえない。この音を聞くほどの静寂と孤独が伝わる。(谷口博望/満天星)
独り身にも秋は来る。果汁たっぶりの梨をむき食す。秋の夜の静寂感。(古田敬二)

★池底に糸を垂らして子らの秋/祝恵子
爽やかな秋風の吹く水辺に釣り糸を垂らす笑顔の子供たち。透明な水底にさす光も秋を感じさせます。(柳原美知子)

★鰯雲仰ぎつ丘の市場まで/柳原美知子
季節感のあふれる句だが、生活感のしっかりした実感がある。主婦ならではの佳句。(高橋信之)

★旅先の城址で見る鰯雲/高橋秀之
旅情あふれる句だ。下五の季題「鰯雲」が効いた。(高橋信之)

★秋風がさざ波立たす夜の川/高橋句美子
下五の「夜」がいい。秋の夜の静かな句だ。(高橋信之)

■選者詠/高橋信之
★一人起き朝の読書の爽やかに
秋になり、夏のころとは違い朝晩が涼しくなりました。そんな朝に一人先に起きて静かに読書を楽しめば、爽やかな気持ちになれることでしょう。(高橋秀之)

★爽やかに今朝の襖の開け閉めよ
襖の開け閉めの動きに加えて、スッと軽やかな襖の音。お暮らしの中で察知された朝の爽やかさが、快く新鮮に伝わります。日常の生活から生まれる一句の素晴らしさをあらためて教えていただきました。 (藤田洋子)

★天高く雲無き朝の楽しさよ
天高く馬肥ゆる秋の空。一読直ちに爽快さが胸に飛び込んできます。(河野啓一)

★爽やかに高きを雲の流れゆく
★朝爽やかに一杯の水を飲む

■選者詠/高橋正子

★秋潮の水の力に打ち返す
上五の「秋潮」にある季節感がいい。俳句の力を読む。(高橋信之)

★虫の音の眠ればそれきり木のベット
経験はありませんがログハウスのような山荘で虫の音に包まれて眠る快適さを想像してうれしくなりました。(河野啓一)

★秋風に絮飛ぶ浮遊する心
秋草の絮が風に任せて煌きながらふわふわと飛んでいる
様子をみていると、心も軽く絮と共に自由に宙を巡るような気持ちになります。爽やかな秋空までも飛べそうです。 (柳原美知子)

★虫の音の研ぎ澄まされて行く真闇
★沸きし湯の落ちるに響く虫の声

■互選高点句
●最高点(5点/同点3句)
★秋晴やものみなくっきり影を持つ/多田有花
★爽やかに今朝の襖の開け閉めよ/高橋信之
★月白や男が捌く鯉料理/小口泰與

※集計は、互選句をすべて一点としています。選者特選句も加算されています。
(集計/高橋正子)
※コメントのない句にコメントをお願いします。

■9月月例ネット句会清記


■9月月例ネット句会清記
2017年9月10日
14名70句

01.山ひとつ影蔽い居り秋の雲
02あきつ飛ぶ風に序列のあるらしき
03鬼の子の独りあそびや風の友
04田水落つ音に熟れゆく稲穂かな
05せせらぎの木洩れ日揺らぎ秋の水
06真つ新な白きエプロン秋茄子
07月白や男が捌く鯉料理
08稲妻の行方や利根川(とね)は永久に利根川(とね)
09水切りの石の行方や秋の蝉
10渓流の岩にた走る初紅葉

11曼殊沙華あの世の臭うグロテスク
12いなびかり雲の形相すさまじく
13ビル影に磯鵯の赤と青
14被爆跡のひずむ九輪や水引草
15新涼や雉鳩水を飲むところ
16さまざまな色艶ありて鶏頭花
17松手入れ風に乗り足る音の良き
18あき雨のカヌー下りや吉野川
19水澄める箕面川原の楓かな
20男の子なら遠く旅せよ椰子の実よ

21秋晴やものみなくっきり影を持つ
22秋晴の山際にあり朝の月
23模擬店に並ぶ週末秋日和
24家々の裏手を流れ秋の水
25焼きし指流るる秋水に浸す
26新涼や木曽の白樺抜けてくる
27甲斐駒ヶ岳(かいこま)が茜に染まる蕎麦の花
28冬瓜の実り確かな重さかな
(紀伊の国文蔵の滝)
29青空と滝壺繋ぐ水太し
30駒ヶ根を白く流れる秋の水

31旅先の城址で見る鰯雲
32秋麗ら二人で巡る武家屋敷
33台風が過ぎて眩しき朝の空
34顔洗う手がひんやりと秋の水
35月映る大雨の後の溜まり水
36威銃当てる気もなく夕日落つ
37神事終え化粧直しの秋祭り
38梨剥くも噛む音聞くも独りかな
39秋の雨町も野原も水浸し
40裏山を根こそぎ崩す秋出水

41秋風を通す入口長屋門
42広縁にお手玉転がし秋うらら
43秋の空合掌造りの屋根高し
44水底に糸を垂らして子らの秋
45数体のかかし今年も水の中
46青芒朝の雨滴に光り出す
47一雨過ぎ子規忌近づく空の青
48朝刊の隅の一句の爽やかに
49?ぎたての秋茄子水にキュッと鳴る
50供花挿して秋の山水溢れしむ

51茹栗の笊にあげられ湯気が立つ
52秋の月丸く浮かぶ薄い雲
53鈴虫の鳴く声近く真暗闇
54秋風がさざ波立たす夜の川
55傘さして銀杏落葉の正門を
56爽やかに今朝の襖の開け閉めよ
57一人起き朝の読書の爽やかに
58天高く雲無き朝の楽しさよ
59爽やかに高きを雲の流れゆく
60朝爽やかに一杯の水を飲む

61虫の音の眠ればそれきり木のベット
62虫の音の研ぎ澄まされて行く真闇
63秋風に絮飛ぶ浮遊する心
64沸きし湯の落ちるに響く虫の声
65秋潮の水の力に打ち返す
66.鰯雲仰ぎつ丘の市場まで
67.青空に色づき初めし柿揺れて
68.一面の田の匂う道月澄める
69.梨をむくナイフに指に水滲む
70.稲穂垂るまだ入りし水黄にそめて

※互選を開始してください。雑詠から一人5句、水の句から1句、計6句選をし、その中の一句にコメントをつけてください。選句は、この下のコメント欄にお書きください。

9月10日(日)

★赤とんぼいくらでもくる高さなり  正子
秋と云えば赤とんぼ。小さな存在だが、それが手の届きそうな高さに乱舞している。そこに秋たけなわの歓びを感じます。「いくらでもくる」が、作者の驚きの気持ちを含めたユニークな措辞で、印象的です。(河野啓一)

○今日の俳句
海見ゆる牧に草食む秋の馬/河野啓一
海の見える牧場。ゆったりとして草を食む馬との取り合わせに、新鮮味がある。(高橋正子)

●9月月例ネット句会。今回は、俳句αあるふぁに投稿する水の句も同時に投句。
心に残る水の句は、「石投げて心つながる秋の水/木下夕爾」を取り上げることに決めた。

句美子が2時ごろ来て、ネット句会を手伝ってくれた。

昨日現代俳句協会がら「現代俳句」7,8.9月号と領収書が届いた。

俳句界の結社広告11月号用原稿を送信。俳句に関しては、少しずつだが、途切れなく仕事がある。ネット句会をしながら、結社広告と、水の俳句の原稿を考える。暑くて、少しストレス気味で、かき氷を2個続けて食べる。

見るべきは十月桜のみの園     高橋正子   
清純な空の青さに小鳥来る     井上治代
初冬のマルシェに求むフランスパン 河野啓一
りんどうの一輪青く陽にあたる   高橋句美子

◇生活する花たち「白むくげ・ひおうぎ・女郎花」(東京・向島百花園)

9月9日(土)

★つまみ菜を洗えば濁る水の色  正子
小さいつまみ菜には土も付いていない程でしょうが、それでも僅かに濁る水の色。小さく弱いつまみ菜を大切に洗っておられるのでしょう。湯掻けばほんの一握りですが、おいしいお浸しが食卓を賑わします。(黒谷光子)

○今日の俳句
どの道を行くも稲の香漂いて/黒谷光子
どの道を行っても稲の香がしている、静かであかるい村。稲の熟れるころを自然体で詠んでいて、いつまでも残したい日本の風景。(高橋正子)

○過去(2011年) 向島百花園
 昨日、墨田区の向島百花園へ花の写真を撮りに出掛ける。午前9時、信之先生と自宅を出て、帰宅は、午後3時であった。東急東横線の日吉駅から日比谷線に乗って終点の南千住、北千住で乗り換え、東武伊勢崎線を乗り継いで東向島駅で降りる。徒歩10分ほどで向島百花園に着いた。園内は、萩、女郎花、藤袴、葛など秋の七草の盛りであったが、樹が茂って、写真撮影には、光が不足していた。 園内には、庭造りに力を合わせた文人墨客たちの足跡もたくさんあり、芭蕉の句碑を含め、合計29の句碑が随所に立っていた。
 江戸の町人文化が花開いた文化・文政期に造られた百花園は、花の咲く草花鑑賞を中心とした「民営の花園」であった。当時の一流文化人達の手で造られ、庶民的で、文人趣味豊かな庭として、小石川後楽園や六義園などの大名庭園とは異なった美しさをもっていた。民営としての百花園の歴史は昭和13年まで続いたが、東京市に寄付された。昭和53年10月に文化財保護法により国の名勝及び史跡の指定を受けた。
[過去]
○米国のプロバイダーからのアクセスがあって、ためしに そこの検索に、<masako takahashi>
を入れてみたら、以下のように、私の記事が10番目くらいに出てきた。この記事がインターネット上に残っていることは、大変ありがたい。[POETRY ON THE PEAKS

○キフネツリソウ(尾瀬ヶ原)

◇生活する花たち「白むくげ・ひおうぎ・女郎花」(東京・向島百花園)

9月8日(金)

★虫籠に風入らせて子ら駈ける  正子
夕べの原っぱを駆ける、子らの虫籠へ真っ先に入るのは、きっと澄んだ秋風でしょう。籠をからからと鳴らし吹き渡る風に、虫の音への想いも募ります。さあ、籠にはどんな虫が入ったのでしょうか。(川名ますみ)

○今日の俳句
秋風に洗濯物のやさしい色/川名ますみ
一読、「やさしい色」に納得した。秋風に吹かれる洗濯物が、やわらく、色もやさしい。秋の日差し、風の具合のせいもあるだろう。(高橋正子)

●久しぶりに鯛ケ崎の丘に信之先生と上る。10時から11時まで。片道30分ということ。鯛ケ崎公園の病葉か、落葉か、急ぐように散っている。丘の上の貸農園は、今年は、いろんなものが育って農園らしくなっている。目立つのはピーナツ。厳重に網をかけてる。オクラの花も涼しそうだ。里芋、さつまいももあり。
木のベンチとテーブルが設えてあったので、一休み。街が見える。

○2012年
8月27日と28日尾瀬に出かけた。暑い日差しにも関わらず、尾瀬は初秋を迎えていた。水芭蕉やゆうすげの季節は過ぎていたが、今思い返すと、咲き残る夏の花や初秋のさわやかな花々に多く出会えたのは随分幸運だった。曙草は、星形の五弁の白い2センチほどの花に、紫いろの斑点と黄緑色の丸い点がある。そういうのが曙草と知っていればすぐに見分けがつく。ところが私が見たのは、花弁が6弁。そのほかは曙草の特徴を持つ。これも、山小屋にある尾瀬の植物図鑑で調べたが、6弁あるものについては記述を見つけることができなかった。曙草の花は白とは言うが、丸い点のせいで、黄緑がかって見える。これを夜明けの星空と見たようだ。曙草は尾瀬ヶ原でも奥のほうにある赤代田へ辿る木道の脇で見つけた。夕方4時までには山小屋に着きたい一心で歩いていたのだが、「私はここよ」という感じで、足を引き留められ写真を撮った。山小屋で寝ながら思った。山の出立は早い。早朝4時に出発する人たちも中にはいる。そんな人たちは夜明けの星空を見るのだが、曙草はその人たちが名づけた名前かもしれないと。

★尾瀬に泊(は)つ曙草を見し日には/高橋正子
★目を落とす湿原帯の曙草/〃

○曙草

[曙草/国立公園尾瀬]       [曙草/ネットより]

★曙草日差せば水のほの匂ふ/小松崎爽
★曙草晩秋の虚追憶す/荒川じんぺい

アケボノソウ(曙草、Swertia bimaculata)は、リンドウ科センブリ属の多年草。北海道から九州の、比較的湿潤な山地に生育する。花期は9-10月。湿地や林床などの、比較的湿った場所に生える。2年草であり、発芽後1年目はロゼットのまま過ごす。2年目に抽苔し、高さ80cm程度まで茎を伸ばす。茎の断面は四角形で、葉は10cm程度の卵状で互生する。ロゼットの根生葉は柄があるが、茎生葉は柄がないことが特徴的である。9-10月の花期、分枝した茎の先端に径2cm程度の白い花をつける。花は5弁で星型。花弁には紫色の点と、黄緑色の特徴的な丸い模様がつく。和名アケボノソウの名前は、この模様を夜明けの星空に見立てた名前。別名キツネノササゲ。

◇生活する花たち「女郎花・葛の花・萩」(四季の森公園)

9月7日(木)

★胡麻の花稲の花咲くその続き  正子
優しく淡い色合いの可憐な胡麻の花と、小さいながらも白く清楚な稲の花。夏から秋へ向かう田の、清々しい季節感あふれる情景です。いずれも収穫の期待を高めてくれる胡麻の花と稲の花に、やがて訪れる実りの秋の喜びを感じさせていただきました。(藤田洋子)

○今日の俳句
新刊の一書机上に秋初め/藤田洋子
秋が来たと思う爽やかさに、さっぱりと片付いた机上に一冊の新刊書が読まれんとして置いてある。生活が新鮮に詠まれている。(高橋正子)

●立秋の朝日がビルの斜めより/正子
朝顔の蕾ゆるみて青見ゆる/正子

○女郎花(おみなえし)

[女郎花/横浜・四季の森公園]       [女郎花/横浜・都筑中央公園]

★ひよろひよろと猶露けしや女郎花/松尾芭蕉
★とかくして一把になりぬをみなへし/与謝野蕪村
★女郎花あつけらこんと立てりけり/小林一茶
★裾山や小松が中の女郎花/正岡子規
★遣水の音たのもしや女郎花/夏目漱石
★女郎花の中に休らふ峠かな/高浜虚子
★山蟻の雨にもゐるや女郎花 蛇笏
★女郎花ぬらす雨ふり来りけり 万太郎
★馬育つ日高の国のをみなへし 青邨
★波立てて霧来る湖や女郎花 秋櫻子
★杖となるやがて麓のをみなへし 鷹女
★をみなへし信濃青嶺をまのあたり 林火
★村の岐路又行けば岐路女郎花/網野茂子
★女郎花そこより消えてゐる径/稲畑汀子
★女郎花二の丸跡に群るるあり/阿部ひろし
★とおくからとおくへゆくと女郎花/阿部完市
★夜に入りて瀬音たかまる女郎花/小澤克己

 秋の七草のひとつに数えられる女郎花。萩、桔梗、葛、尾花、撫子、藤袴、女郎花とあげてくれば、どれも日本の文化と切り離すわけにはいかない草々だ。どれも風情がいいと思う。藤袴、女郎花については、名前にはよくなじんでいるものの、実物を見るようになったのは、20代を過ぎて、30代になってからと思う。藤袴、女郎花はどのあたりに生えているかも知らなかった。故郷の瀬戸内の低い山裾などでは見ることはなかった。女郎花は、生け花にも使われるが、粟粒状の澄んだ黄色い花が魅力だ。栽培しているものをよく見かけるようになったが、決してしなやかな花ではない。むしろ強靭な花の印象だ。葛だってそうだし。

★おみなえし雲を行かせたあと独り/高橋正子
★女郎花山の葛垂る庭先に/〃

 オミナエシ(女郎花 Patrinia scabiosifolia)は、合弁花類オミナエシ科オミナエシ属 の多年生植物。秋の七草の一つ。敗醤(はいしょう)ともいう。沖縄をのぞく日本全土および中国から東シベリアにかけて分布している。夏までは根出葉だけを伸ばし、その後花茎を立てる。葉はやや固くてしわがある。草の丈は60-100 cm程度で、8-10月に黄色い花を咲かせる。日当たりの良い草地に生える。手入れの行き届いたため池の土手などは好適な生育地であったが、現在では放棄された場所が多く、そのために自生地は非常に減少している。 日本では万葉の昔から愛されて、前栽、切花などに用いられてきた。漢方にも用いられる。全草を乾燥させて煎じたもの(敗醤)には、解熱・解毒作用があるとされる。また、花のみを集めたものを黄屈花(おうくつか)という。これらは生薬として単味で利用されることが多く、あまり漢方薬(漢方方剤)としては使われない(漢方薬としてはヨク苡仁、附子と共に調合したヨク苡附子敗醤散が知られる)。花言葉:約束を守る。名前の由来:異説有り。へしは(圧し)であり美女を圧倒するという説、へしは飯であり花が粟粒に見えるのが女の飯であるという説、など。

◇生活する花たち「桔梗・風船かずら・芹の花」(横浜都筑区ふじやとの道)

9月6日(水)

★娘の秋扇たたまれ青き色の見ゆ  正子
娘さんとご一緒にお出かけの光景でしょうか。何気なく使われていた閉じた扇子の青色が見えたとのこと、見守られている優しさが伺えます。(祝恵子)

○今日の俳句
畑の井戸囲んでおりぬ稲の花/祝恵子
畑の井戸は旱のときの灌漑用であろう。旱の続きの猛暑の夏も終わり、無事稲が花をつけている。いよいよ、稲は実をつけ、熟れよて実りのときを迎えるのだ。(高橋正子)

●九州や松山は30度を超える残暑らしい。東京は23度の予報。10月初めの感じ。
これまで活動してきた資料が部屋に分散。一家に一つ事務的なものを保管管理処理する一室が必要。

○烏瓜の花
 
[烏瓜の凋んだ花/横浜日吉本町]      [烏瓜の花/ネットより]

★ふはふはと泡かと咲けり烏瓜/松本たかし
★烏瓜咲く一穢なき妖しさに/水原春郎
★烏瓜の花におどろく通夜帰り/松崎鉄之介
★烏瓜の花に逢はせむ話など/宮津昭彦
★去るものは去らして烏瓜の花/神蔵器
★雨音の明るし烏瓜の花/下田恭子
★青々と暮れて烏瓜の花/北畠明子
★烏瓜の花咲き誰もゐない駅/藤井英子
★夜の闇の深くてからすうりの花/中村洋子

★蔓切れてはね上りたる烏瓜/高浜虚子
烏瓜の朱色の実を見つけると、手繰り寄せて採りたくなる。蔓は雑木などに絡まっているので、蔓をひっぱっても、易々と手元には来ない。蔓が切れて、引っ張った力の反動で「はね上がる」。「はね上がる」が面白い。はね上がった実が揺れ、悔しがるものが居る。(高橋正子)

★烏瓜映る水あり藪の中/松本たかし
★をどりつつたぐられて来る烏瓜/下村梅子

烏瓜の花はレースのようであるとは、知っていた。朱色の実が思わぬところに熟れているのをよく見けるが、実の生る前に花があることを思うことはなかった。ところが、8月の終わりだったか、信之先生が早朝の散歩で、烏瓜の花の凋んだところを写真に撮ってきた。烏瓜の花とは思うが、確かとは言えないので、ネットで烏瓜の花の写真をいろいろと見て、間違いないだろうと結論づけた。烏瓜の花は夕方6時半ごろから2時間ほどかけて完全に咲くので、咲いたところを見たくなった。レースのような花なので見たくてたまらない。夜なので、一人は危ない。また危ないところに烏瓜がある。翌晩にでも行きたかったが、いろいろ用事があってすぐ行けない。5日ほどたって花があった場所に二人で懐中電灯をもって出かけた。それらしきを写したが、どうも新しい葉のようだった。昼間蕾を確かめておかねばならなかった。ここ日吉本町辺りは、今年は花の時期は過ぎたかもしれない。

★闇暑し烏瓜の花はどこ/高橋正子
★烏瓜の花の凋みしは悔し/〃

 カラスウリ(烏瓜、Trichosanthes cucumeroides)はウリ科の植物で、つる性の多年草。朱色の果実と、夜間だけ開く花で知られる。 地下には塊根を有する。原産地は中国・日本で、日本では本州・四国・九州に自生する。林や藪の草木にからみついて成長する。葉はハート型で表面は短い毛で覆われる。雌雄異株で、ひとつの株には雄花か雌花かのいずれかのみがつく。別名:玉章(たまずさ)・ツチウリ・キツネノマクラ・ヤマウリ。
 4月~6月にかけて塊根から発芽、あるいは実生する。花期は夏で、7月~9月にかけての日没後から開花する。雄花の花芽は一ヶ所から複数つき、数日間連続して開花する。対して雌花の花芽は、おおむね単独でつくが、固体によっては複数つく場合もある。花弁は白色で主に5弁(4弁、6弁もある)で、やや後部に反り返り、縁部が無数の白く細いひも状になって伸び、直径7~10cm程度の網あるいはレース状に広がる。花は翌朝、日の出前には萎む。 こうした目立つ花になった理由は、受粉のため夜行性のガを引き寄せるためであると考えられており、ポリネーターは大型のスズメガである。カラスウリの花筒は非常に長く、スズメガ級の長い口吻を持ったガでなければ花の奥の蜜には到達することはできず、結果として送粉できないためである。雌花の咲く雌株にのみ果実をつける。
 果実は直径5~7cmの卵型形状で、形状は楕円形や丸いものなど様々。熟する前は縦の線が通った緑色をしており光沢がある。10月から11月末に熟し、オレンジ色ないし朱色になり、冬に枯れたつるにぶらさがった姿がポツンと目立つ。鮮やかな色の薄い果皮を破ると、内部には胎座由来の黄色の果肉にくるまれた、カマキリの頭部に似た特異な形状をした黒褐色の種子がある。この果肉はヒトの舌には舐めると一瞬甘みを感じるものの非常に苦く、人間の食用には適さない。鳥がこの果肉を摂食し、同時に種子を飲み込んで運ぶ場合もある。しかし名前と異なり、特にカラスの好物という観察例はほとんどない。地下にはデンプンやタンパク質をふんだんに含んだ芋状の塊根が発達しており、これで越冬する。夏の間に延びた地上の蔓は、秋になると地面に向かって延び、先端が地表に触れるとそこから根を出し、ここにも新しい塊根を形成して栄養繁殖を行う。
 開花後落花した雄花にはミバエ科のハエであるミスジミバエ Zeugodacus scutellatus (Hendel, 1912) の雌が飛来し、産卵する。落花した雄花はミバエの幼虫1個体を養うだけの食物量でしかないが、ミスジミバエの1齢幼虫の口鉤(こうこう:ハエの幼虫独特の口器で、大顎の変化した1対の鉤状の器官)は非常に鋭く発達しており、他の雌が産みつけた卵から孵化した1齢幼虫と争って口鉤で刺し殺し、餌を独占する。
 種子はその形から打ち出の小槌にも喩えられる。そのため財布に入れて携帯すると富みに通じる縁起物として扱われることもある。かつては、しもやけの薬として実から取れるエキスが使用された。 若い実は漬物にするほか、中身を取り出し穴をあけてランタンにする遊びに使われる。近年ではインテリアなどの用途として栽培もされており、一部ではカラスウリの雌雄両株を出荷する農園も存在する。

◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)