★虫籠に風入らせて子ら駈ける 正子
虫かごに入っているのは、バッタなのか、トンボなのか、いずれにせよ、虫取りは子どもにとって心躍るものです。「風入らせて」に子どもたちのその様子が反映されています。(多田有花)
○今日の俳句
はや桜紅葉始まる明るき午後/多田有花
「明るき午後」が魅力。暑さがようやく落ち着いたかと思うと、はやくも、桜は紅葉しはじめる。真夏の眩しさがぬけて、しずかな明るさに変わるころ。(高橋正子)
○向島百花園
昨年の9月8日、墨田区の向島百花園へ花の写真を撮りに出掛ける。園内は、萩、女郎花、藤袴、葛など秋の七草の盛りであったが、樹が茂って、写真撮影には、光が不足していた。 園内には、庭造りに力を合わせた文人墨客たちの足跡もたくさんあり、芭蕉の句碑を含め、合計29の句碑が随所に立っていた。江戸の町人文化が花開いた文化・文政期に造られた百花園は、花の咲く草花鑑賞を中心とした「民営の花園」であった。当時の一流文化人達の手で造られ、庶民的で、文人趣味豊かな庭として、小石川後楽園や六義園などの大名庭園とは異なった美しさをもっていた。民営としての百花園の歴史は昭和13年まで続いたが、東京市に寄付された。昭和53年10月に文化財保護法により国の名勝及び史跡の指定を受けた。
百花園の九月の花といえば、まずは萩の花だろう。もちろん、女郎花、藤袴、芒、なでしこ、桔梗、葛棚に葛が咲いているが、園内の至るところに咲く萩が見もの。萩は丸葉萩だろうか。この日に訪ねたときは、咲き始めたばかりのようで、たまに見ごろの萩があった。十日からの萩祭りには、もう少し紅色が増えるだろう。萩のトンネルは、竹を組んで作られて、三十メートルばかりある。「花を潜る」はちょっとうれしいことだが、この季節のよい趣向だ。
向島百花園には百花はあるけれど、どれもたくさん咲いているわけではない。桔梗は花が一つ残り、なでしこは2,3本あったのが、すっかり枯れていた。偶然にも。れんげしょうまが一本、唐糸草がもう終わりかけて、やっとその色と形が残る程度のが二つあった。唐糸草は初めて見たが、山野草の部類に入る。えのころ草の穂よりも少し大きいが、紅色の雄しべが日に透けると大変美しいということである。ちょっと粋な長い紅色の雄しべは雨に濡れると、猫が雨に濡れたようになるそうだ。撮ってきた写真を見ながら「唐糸」はいかにも江戸好みらしいと思う。終わりかけの花のみすぼらしさの中にも、きれいな紅色が想像できるから不思議だ。大いにその名前「唐糸」のお蔭であろう。園内にいる間は、なんと花に勢いのないこと、と思っていたが、写真を見ると、一つの情緒がある。文人好みの庭に造られたせいでもあろう。虫の声を聞く会、月見の会も催されるようだから、暮らしの中の花として、少しを植えて楽しむのもささやかながら、都会人のよい楽しみであろう。
★藤袴スカイツリーのいや真直ぐ 正子
★曙草日差せば水のほの匂ふ/小松崎爽
★曙草晩秋の虚追憶す/荒川じんぺい
一昨年8月27日と28日尾瀬に出かけた。暑い日差しにも関わらず、尾瀬は初秋を迎えていた。水芭蕉やゆうすげの季節は過ぎていたが、今思い返すと、咲き残る夏の花や初秋のさわやかな花々に多く出会えたのは随分幸運だった。曙草は、星形の五弁の白い2センチほどの花に、紫いろの斑点と黄緑色の丸い点がある。そういうのが曙草と知っていればすぐに見分けがつく。ところが私が見たのは、花弁が6弁。そのほかは曙草の特徴を持つ。これも、山小屋にある尾瀬の植物図鑑で調べたが、6弁あるものについては記述を見つけることができなかった。曙草の花は白とは言うが、丸い点のせいで、黄緑がかって見える。これを夜明けの星空と見たようだ。曙草は尾瀬ヶ原でも奥のほうにある赤代田へ辿る木道の脇で見つけた。夕方4時までには山小屋に着きたい一心で歩いていたのだが、「私はここよ」という感じで、足を引き留められ写真を撮った。山小屋で寝ながら思った。山の出立は早い。早朝4時に出発する人たちも中にはいる。そんな人たちは夜明けの星空を見るのだが、曙草はその人たちが名づけた名前かもしれないと。
★尾瀬に泊(は)つ曙草を見し日には/高橋正子
★目を落とす湿原帯の曙草/〃
アケボノソウ(曙草、Swertia bimaculata)は、リンドウ科センブリ属の多年草。北海道から九州の、比較的湿潤な山地に生育する。花期は9-10月。湿地や林床などの、比較的湿った場所に生える。2年草であり、発芽後1年目はロゼットのまま過ごす。2年目に抽苔し、高さ80cm程度まで茎を伸ばす。茎の断面は四角形で、葉は10cm程度の卵状で互生する。ロゼットの根生葉は柄があるが、茎生葉は柄がないことが特徴的である。9-10月の花期、分枝した茎の先端に径2cm程度の白い花をつける。花は5弁で星型。花弁には紫色の点と、黄緑色の特徴的な丸い模様がつく。和名アケボノソウの名前は、この模様を夜明けの星空に見立てた名前。別名キツネノササゲ。
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