6月21日-30日

6月30日

●河野啓一
射干の朱を緑陰に散りばめて★★★★
射干(ひおうぎ)の花は古典的で気品のある、オレンジ色のかわいい花である。それが緑陰のくらがりに柔らかな朱色で、ぽつぽつ咲いているのは、夏らしい心和む光景だ。(高橋正子)

柿の葉の大きな葉陰に青柿揺れて★★★
荒梅雨やサイレンの音通り過ぐ★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き青田となりてビルの影★★★
株の間の一直線や青田晴れ★★★★
晴れ来たる音も明るき梅雨の雷★★★

●多田有花
夜の雨に濡れし山路の涼しさよ★★★
梅天や河内晩柑さっくりむく★★★★
陽の色をたたえて朝ののうぜん花★★★

●小口泰與
牧場の牛を囃すやほととぎす★★★
大沼のしじまを破る時鳥★★★★
あけぼのの白樺牧場ほととぎす★★★

●高橋正子
箱根・大湧谷
噴煙のうすうすのぼり山青葉★★★★
箱根の山白きものは山帽子★★★
夏雲の真白し硫黄の匂いたち★★★

6月29日

●小口泰與
利根川の瀬尻光れり夏帽子★★★★
あけぼのの鍋割山の滴れり★★★
からももや野鳥の声の千々なりし★★★

●多田有花
口笛で夏鶯に答えけり★★★★
夏山に入ると鶯が間近で鳴いている。鶯の声に答えて口笛で鳴き声を真似ると、それに鶯が答えて鳴くことがある。じつに楽しい。私も経験済みで、口笛を吹くと鶯が応えて鳴いてくれたことがある。(高橋正子)

泉北のはるかに見えて梅雨の晴れ★★★
夏燕くるり旋回水の上★★★

●桑本栄太郎
青桐の葉蔭重たき日差しかな★★★★
錐もみとなりてきらめく竹落葉★★★
遮断機の下りて待つ間や灸花★★★

●小川和子
青時雨みるみる濡れる石畳★★★★
青時雨の潔さ、さっぱりとした感じがよく出ている。言葉の色彩も青時雨の青と、石畳の石の色が、涼しそうだ。(高橋正子)

 茨木のり子展
展示さる詩の響きくる涼しさよ★★★
階段は螺旋の館緑さす★★★

●高橋正子
雲はれて日光黄菅の野にひかる★★★★
笹百合の倒れがちなり匂いつつ★★★
湿原のはるかな水に未草★★★

6月28日

●迫田和代
新緑の木陰の中で口笛が★★★★
新緑の木陰でだれかが口笛を吹いている。新緑の木陰の心地よさが楽しくて口笛を吹いたのだろう。身も心も軽い季節。(高橋正子)

淡い色腕(かいな)も白い更衣★★★
短夜や一人の時間あと少し★★★

●小口泰與
雨ふくみ枝垂れこぼるる薔薇(そうび)かな★★★
片陰や利根川(とね)は細りて石あふる★★★
郭公や朝の浅間山(あさま)の揺るぎなし★★★★

●桑本栄太郎
孤高とも見えず地道の蟇蛙★★★
梔子の八重の垣根や甘き香に★★★★
朽ちいても花の容や泰山木★★★

●古田敬二
泰山木東に向かい咲く構え★★★★
けがれ無く泰山木は高く咲く★★★
泰山木堂堂天へ開き切る★★★

●高橋秀之
大口を開いて真っ赤なアマリリス★★★
アマリリス雨のしずくを撥ね退ける★★★★
真っ直ぐに青葉が作る木陰道★★★

●高橋正子
夏布団かるき空気にふくらめり★★★★
夏の夜の家族の安眠を願って、主婦の日常の仕事だ。生活が重くならずに「かるき」ともなれば、家族の働きもいい結果を得ることだろう。(高橋信之)

旅立ちに梅雨の雨音玻璃にあり★★★
西瓜きれば甘き水の匂いせり★★★

6月27日

●古田敬二
行く道の空までまっすぐ夏木立★★★★
夏木立空へまっすぐ伸びるもの★★★
泰山木無垢なる白を誇り咲く★★★

●小口泰與
青柿のさわに落ちたる朝かな★★★★
翠黛の朝の赤城や青蛙★★★
夏の湖置酒高会の親族(うから)かな★★★

●黒谷光子
沙羅の花湖の光りを惜しみなく★★★★
沙羅咲くや数多の蕾を従えて★★★
紫陽花の色とりどりに湖畔まで★★★

●桑本栄太郎
稜線に鉄塔つらなり夏の嶺★★★
白百合の凜と高きや朝の風★★★★
老鶯の声たくましき池の藪★★★

●川名ますみ
花槐咲きしばかりの碧き白★★★★
槐はマメ科の落葉高木なので、花も豆の花のような蝶形花を円錐花序につける。その花は白いが、作者は咲いたばかりの花に「碧き白」を鋭敏にも感じ取った。(高橋正子)

花槐散りくる前のしろきこと★★★
どの路地も槐の花の好きな街★★★

●小西 宏
行き交える電車の過ぎて蔦の青★★★★
電車が行き交っている間は、向こうにあるものに目が届かないが、過ぎた向こうには蔦が青々と茂っているのが目に鮮やかに飛びこむ。行き交う電車にこの蔦は煽られ揺れていたであろうが。(高橋正子)

雨くぐり何処の軒へ夏燕★★★
梅雨晴れの杜や上野にパリ匂う★★★

●高橋正子
やわらかに梅雨の朝日に染まるビル★★★★
朝顔の一輪ひらく網戸越し★★★
日日草千日紅に風うごく★★★

6月26日

●小口泰與
雨含むばらの崩るる朝かな★★★
おうとつの瑠璃より見ゆる茂りかな★★★
三山もしるきや朝の青田風★★★★

●佃 康水
糸蜻蛉水の光りへ紛れけり★★★★
糸蜻蛉の体の細さは、注意していなければ、すぐ見失う。ましてや水の光りが輝く中では、蜻蛉か、光か、と見まがうようにも。「水の光り」が涼やかだ。(高橋正子)

臥す姉へ紅の紫陽花剪り見舞う★★★
山裾に群れて浮き立つ半夏生★★★

●黒谷光子
万緑の山を四方に湖静か★★★★
湖の静かさは、いろいろあるが、四方に万緑の山々があり、湖水に山影が映っているときなどは、特に奥深い静かさを思う。(高橋正子)

さざ波の寄する湖畔や紫陽花苑★★★
はつ夏の湖おだやかに誓子句碑★★★

●桑本栄太郎
天までにもう届きそう立葵★★★
紫陽花の青色吐息の日差しかな★★★
夏萩や淡き風吹く坂の道★★★★

●多田有花
回り道して花菖蒲咲く池のそば★★★
頂に出れば一面夏霞★★★★
河川敷に救難訓練梅雨晴間★★★

●高橋正子
青葉冷ゆ朝のバターのよく香り★★★★
上五の「青葉冷ゆ」がそれに続く「朝のバターのよく香り」という生活にリアリテイーを与えた。季節の言葉は、日常の生活に今という現実を与えてくれる。「青葉冷ゆ」に臨場感があって、詠み手の実感が伝わってくる。(高橋信之)

朝ごとに千日紅の紅が増ゆ★★★
梅雨寒にアガパンサスの薄紫★★★

6月25日

●小口泰與
単線の大曲せり独活の花★★★★
あけぼのや声の千々なる雨蛙★★★
病葉や小魚の甕にごりたり★★★

●多田有花
尾根に出れば風の親しき夏至の山★★★★
尾根に出れば、それまでの登山道とは違って汗の身に心地よい風が吹く、夏至となれば、完全に夏山の風。身になじんだ親しい風。(高橋正子)

梅雨の雷遠くの空の明るくて★★★
青羊歯に朝日輝く道をゆく★★★

●桑本栄太郎
うき草や稲株ふとく育ち居り★★★★
田にうき草が増えてくるころには、稲株もしっかりと太く育ってくる。梅雨の雨に稲はぐんぐんと育つ。タガメなども育って、水田が元気なときだ。(高橋正子)

映画果て街の眩しき夏日かな★★★
梅雨晴れや”ノアの方舟”見し街に★★★

●河野啓一
癒さるる緑の陰に檜扇が★★★
古池に睡蓮ひとつ薄明り★★★
俄かなる大きな雹や梅雨荒れる★★★★

●小西 宏
池離れ草原歩む通し鴨★★★
人遠き崖に水木の花の条(すじ)★★★
素ガラスの飯場の塀の青葡萄★★★★

●高橋秀之
夏蒲団朝は丸まり足元に★★★
網戸から夜風が部屋へ吹き抜ける★★★★
すりガラスに映り込む影揚羽蝶★★★

●古田敬二
夏雲へクレーンゆっくり伸びゆけり★★★
泰山木高きに咲くという誇り★★★
空へ咲く泰山木の色深し★★★★

6月24日

●小口泰與
石垣の模様のちがう苔の花★★★
暁近き浅間や佐久のおとり鮎★★★
端座して四方開けたり時鳥★★★★

●古田敬二
風の来て植田に夕焼け広がれり★★★★
植田は田の面に水が見え、夕焼けが一面に広がる。それも風が来て広げた夕焼けだ。風が生きている。(高橋正子)

麦秋の日暮に色のなお濃くて★★★
日没の麦秋尾灯まっすぐに★★★

●小西 宏
夏富士の糸切れ切れに雪の跡★★★
一株のアジサイ庭を宇宙とす★★★
どろどろと暮れ果ててまで雷の鳴る★★★★

●桑本栄太郎
夏草に埋もれ置かる廃車かな★★★
晴れ上がり雲の峰ともよべぬ雲★★★★
小雀の必死に低く飛び去りぬ★★★

●祝恵子
朝に切るカサブランカは客を待つ★★★★
尺当てて胡瓜の長さ計る朝★★★
梅酒漬け最後のリカーは夫の手に★★★

6月23日

●小口泰與
五月晴れ半身浴の露天かな★★★
若竹や鳴り物入りの新入生★★★★
たおやかに揺れし植田や鳥の朝★★★

●古田敬二
助手席にかぼちゃ転がせ野良帰り★★★★
畑にできたかぼちゃを持ち帰るのに、籠などにいれるのではなく、相棒のように車の助手席に転がして持ち帰った。楽しいことである。(高橋正子)

どの庭も生き生き濡れて梅雨の花★★★
ジャズ聴きに早苗の道を急ぎけり★★★

●桑本栄太郎
梅雨晴れや奔り追い抜く新幹線★★★★
重い梅雨の雨も晴れあがり、青空の下を疾駆する新幹線の姿は、すっきりとして格好がよい。(高橋正子)

夏至の雨晴れて山河のみどりかな★★★
浮かぶとも降るとも知れず梅雨の雲★★★

●小西 宏
夏至今朝の雨上がりたる木々の青★★★
マンションの子ら日曜の草むしり★★★
梅雨の日の砲艦海に動かざる★★★★

●高橋信之
風吹きゆかす花びら薄き花菖蒲★★★
驚きにまた楽しみにカラーの黄★★★
のうぜん咲いて土曜の朝の自由がある★★★★

●高橋正子
きのうより高きに朝顔咲き上る★★★★
朝顔の開きし花を目で数う★★★
青紫蘇を数枚採りて娘にもたす★★★

6月22日

●小口泰與
ばらを得て土器は生気を得たりけり★★★★
土器は、広義には陶磁器をさすこともあるようだが、この句のイメージからは、粘土を乾燥させて焼いたものと考えられる。縄文、弥生の時代を思わせる土器も、ばらを活けられ、ばらの色に生気をもらって、互いに引き立つようになった。(高橋正子)

たっぷりと雨を含みしばらの朝★★★
夏の月心たる日は史記を読み★★★

●桑本栄太郎
乙訓の山河滴る在所かな★★★
谷間に十字架のぞむ梅雨の山★★★
枇杷の実の熟れて久しき空き家かな★★★★

●多田有花
夏の朝森の光の清々し★★★
額の花テニスコートのそばに咲く★★★★
朝の陽の静かに差すや花菖蒲★★★

6月21日

●古田敬二
東山見下ろし膨れる夏の雲★★★
梅雨晴間豆腐屋ラッパ裏小路★★★
 十津川村にて
祈りつつ天空の滝見上げけり★★★★

●小口泰與
たくわえし葉先のしずく雨後のばら★★★
あぜ道を急ぎて渡れ蝸牛★★★
ばらの葉の雨粒忽と消えにけり★★★★

●桑本栄太郎
のうぜんの花に夕日と夕風と★★★★
夕日の染めるのうぜんの花は、夕日の色と相和して輝かしく咲いている。そこに夕風が吹き花をそよがせ、しずかにも華やぎのある夕方の景色となっている。「夕日」「夕風」と、「夕」を繰り返したのも、無駄ではない。(高橋正子)

のぼりつめアンテナ覆い蔦茂る★★★
沙羅の花落ちて矜持の白さかな★★★

●小西 宏
語らいの樹下のベンチに蚊やり焚く★★★★
睡蓮の立つまま眠る緩き午後★★★
山桃の幹のまるさや実の満てる★★★


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