1月9日(木)

  横浜日吉
★霜柱すくすく育てローム層  正子
最近は霜柱も珍しくなった。見れる時もその丈は短い。子供のころの霜柱はもっと長かった。関東ローム層に見えた霜柱に子供のころの郷愁が重なりもっともっと高くなれと呼び掛ける作者である。(古田敬二)

○今日の俳句
寒禽の影滑る野に鍬を振る/古田敬二
野に懸命に鍬を振っていると、寒禽の影が滑っていった。土と我との対話があって、寒禽がそれに色を点じて景がたのしくなった。添削は、「冬禽」を「寒禽」として、鳥のイメージを際立たせ句に緊張感をもたせた。(高橋正子)

○沈丁花の蕾

[沈丁花の蕾/横浜日吉本町(2013/01/06)]_[沈丁花の花/横浜日吉本町(2012/03/11)]

★沈丁花どこかでゆるむ夜の時間/能村登四郎
★疲れゐて沈丁の香をすぐまとふ/加倉井秋を
★沈丁花の赤き蕾や路地晴れて/廣瀬雅男
★沈丁の蕾びっしり立ち止る/芝尚子
★沈丁花香り待つ日の紅蕾/成木文作
★沈丁の蕾の明日を待つことも/高橋信之
★卒業のときが近づく沈丁花/高橋正子

沈丁花は、蕾を付けてから咲くまでが長い。紅色の蕾を見ると、いつ咲くかと待たれるが、咲いたことに気付くのはその匂いが漂って来てからである。子どものころ、生家には沈丁花がなかったが、すぐ前の家の上級生の家に沈丁花があった。一緒によく遊んだが、沈丁花が咲くころになると、呼び寄せて、沈丁花の花の匂いを嗅がせてくれた。紅色の内側に反る白い花弁が魅力で、この白いところが匂っているのだと子どものころは思っていた。はたしてどこが匂っているのであろう。その匂いは、卒業の季節の希望と不安の入り混じったおぼつかない感覚を象徴していると思える。

★沈丁花どこかでゆるむ夜の時間/能村登四郎
★疲れゐて沈丁の香をすぐまとふ/加倉井秋を

上の二句は、沈丁花の咲くころの人間の感覚をよく捉えた実感の句だと思う。「ゆるむ夜の時間」は、次第に暖かくなってくる三月のふっくらとした夜の時間、そして、「疲れゐて」は、春浅い頃のなんとなくの疲労感が詠まれていて、私も実感するところである。

 ジンチョウゲ(沈丁花)は、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。チンチョウゲとも言われる。漢名:瑞香、別名:輪丁花。 原産地は中国南部で、日本では室町時代頃にはすでに栽培されていたとされる。日本にある木は、ほとんどが雄株で雌株はほとんど見られない。挿し木で増やす。赤く丸い果実をつけるが、有毒である。花の煎じ汁は、歯痛・口内炎などの民間薬として使われる。
 2月末ないし3月に花を咲かせることから、春の季語としてよく歌われる。つぼみは濃紅色であるが、開いた花は淡紅色でおしべは黄色、強い芳香を放つ。枝の先に20ほどの小さな花が手毬状に固まってつく。花を囲むように葉が放射状につく。葉は月桂樹の葉に似ている。
 沈丁花という名前は、香木の沈香のような良い匂いがあり、丁子(ちょうじ、クローブ)のような花をつける木、という意味でつけられた。2月23日の誕生花。学名の「Daphne odora」の「Daphne」はギリシア神話の女神ダフネにちなむ。「odora」は芳香があることを意味する。花言葉は「栄光」「不死」「不滅」「歓楽」「永遠」。

◇生活する花たち「茶の花・花八つ手・木瓜」(横浜下田町・松の川緑道)

1月9日

●小口泰與
目薬をさす暇なきくしゃみかな★★★
夕づきていとど厳しき空っ風★★★
利根川に岩岩いわの寒さかな★★★

●祝恵子
この寒さ乗り切れ花苗カンパニュラ★★★

早梅のいま咲きそうな膨らみに★★★★
早梅が今にも咲きそうなふくらみ具合になった。寒中の寒さになかなか花は開かないものだが、それだけに期待が膨らむ。(高橋正子)

立つ者も座する者いて居間二日★★★

●桑本栄太郎
つがいづつ啄ばみ翔ちぬ寒雀★★★
干しものの影ひるがえる虎落笛★★★

立ち呑みの浪速の春や宵戎★★★★
大阪浪速区の今宮戎神社の十日戎祭りの前夜。福笹や熊手を手に手に雑踏を行き交う人たちの賑わい。屋台もいろいろ。一杯ひっかける立ち呑みもある。まさに浪速の春だ。(高橋正子)

●多田有花
頂へ北より時雨の雲迫る★★★★
頂にはどこからでも風や雨が降ってくるようだが、やはり時雨の雲は北風に押しやられて頂に迫ってきた。押し迫る雲の迫力は平地では感じ取れないものだろう。(高橋正子)
 
花の色おのおの透かし梅冬芽★★★
たっぷりとレモン果汁へ寒の水★★★

●小西 宏
冬梅の門にバス降り幼稚園★★★★
雨降れば狭庭に宿る枇杷の花★★★
葉を伸ばす大根細きプランター★★★

●古田敬二
枇杷の花雨滴こぼして引き寄せる★★★
枇杷の花卓に飾れば故郷遠し★★★
音たてて落葉の道を大股に★★★★