8月27日(火)

★りんりんと虫音に力のありて闇  正子
いよいよ秋到来の虫の声を聞ける季節になりました。「りんりんと」の措辞には虫の力一杯に鳴く声を表されていると同時に虫たちの棲む叢や茂みの闇の深さをも想起させ周辺の静寂に響いてくる涼やかな虫の音が聞こえて来そうです。(佃 康水)

○今日の俳句
賑わいの漁港の上の鰯雲/佃 康水
出船、入船、魚の水揚げなどで、賑わう漁港。その上の空高くに広がる鰯雲。生き生きとした漁港の美しい景色。(高橋正子)

○竜胆(りんどう)

[竜胆/横浜日吉本町]

★竜胆や風落ち来る空深し 龍之介
★山の声しきりに迫る花竜胆 亞浪
★山ふところの ことしもここに竜胆の花 山頭火
★笹竜胆草馬の脊を滑りけり 普羅
★龍胆の太根切りたり山刀 かな女
★龍膽をみる眼かへすや露の中 蛇笏
★かたはらに竜胆濃ゆき清水かな 風生
★好晴や壺に開いて濃竜胆 久女
★銀婚の妻のみちべに濃竜胆 青邨
★霧に咲く深山りんどう卓に咲きぬ 秋櫻子
★竜胆の花のあいだに立つ葉かな 素十
★子へ供華のりんだう浸す山の瀬に 貞
★一輪の龍膽餐けよ鶴の墓 青畝

野生の竜胆の花を近隣の野原で見ることはほとんどない。それだけに野生の竜胆を自分の目で見つけたときの感激は一入だ。初めて自分の目が見つけた竜胆は、40年ほども前の阿蘇の中の牧の草地であった。中ノ牧の草地は草丈が低く、平地ならばちょうど草を刈り取ってしばらく経ったときのような爽やかな草原である。秋、朝の日が足元にもほど良く差していた。一歩踏み出そうとしたその靴先に竜胆が一輪上を向いて咲いている。踏んでしまうところだった。いまもその一輪の竜胆の色と姿をよく記憶している。阿蘇には、もう一度行ってみたいと思う。

★竜胆の紺一輪が靴先に/高橋正子
★竜胆に日矢が斜めに差し来たり/高橋正子

リンドウ(竜胆、学名Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim.)とは、リンドウ科リンドウ属の多年生植物である。1変種 Gentiana scabra var. buergeri をさすことが多いが、近縁の他品種や他種を含む総称名のこともある。英名Japanese gentian。古くはえやみぐさ(疫病草、瘧草)とも呼ばれた。本州から四国・九州の湿った野山に自生する。花期は秋。花は晴天の時だけ開き、釣り鐘型のきれいな紫色で、茎の先に上向きにいくつも咲かせる。高さは50cmほど。葉は細長く、対生につく。かつては水田周辺の草地やため池の堤防などにリンドウやアキノキリンソウなどの草花がたくさん自生していたが、それは農業との関係で定期的に草刈りがなされ、草丈が低い状態に保たれていたためだった。近年、そのような手入れのはいる場所が少なくなったため、リンドウをはじめこれらの植物は見る機会が少なくなってしまい、リンドウを探すことも難しくなってしまっている。園芸植物として、または野草としてよく栽培されるが、園芸店でよく売られているのは別種のエゾリンドウの栽培品種のことが多い。生薬のリュウタン(竜胆)の原料の1種である。

◇生活する花たち「葛の花①・葛の花②・木槿(むくげ)」(横浜日吉本町)

8月27日-28日

8月28日

●小口泰與
秋光や利根の流れを要とし★★★
戯れに杖を立てけり秋茜★★★
烈風にもてあそばれし野萩かな★★★

●桑本栄太郎
秋雨の車窓滂沱や阪急線★★★
秋雨の上がり嶺の端青空に★★★
ひぐらしの想い出遠き母の里★★★

●多田有花
鳥取より来て初物の梨を売る★★★★
鳥取の梨は薄緑色の上品な味の「二十世紀」。幸水が終わるころ出始めるが、この梨が出ると朝夕はめっきり涼しくなるのだ。新涼のさわやかさがある句だ。(高橋正子)

群れ鴉秋夕焼けを高く帰る★★★
秋涼や森ゆくときも背をのばし★★★

●小西 宏
夏すだれ透けて夜明けの電車の音★★★★
「すだれ(簾)」は、夏の季語なので「夏」は不要。「秋簾」などと使う。夜明け、目を覚ましていると簾の向こうに電車の音が聞こえる。街も動き出している。(高橋正子)

雲高く見上げる谷戸の沢桔梗★★★
緑葉に白き蕾の紅芙蓉★★★

8月27日

●小口泰與
芙蓉咲く上毛三山雲も無し★★★★
上毛三山が見渡せるところ、山の青を背景に咲く芙蓉は、「雲も無し」で秋の気配十分となった。(高橋正子)
丸太橋踏む二の足や稲光★★★
秋ばらの蕾半分喰われけり★★★

●桑本栄太郎
大泣きの子供夜店や夏祭り★★★
とんぼうの編隊飛行や雨後の晴れ★★★
秋蝉の一おし二おし三におし★★★