5月24日-26日

5月26日

●小口泰與
産土の利根をそびらに花胡桃★★★★
夕暮れの雀騒(ぞめ)くや麦扱機★★★
湖の波染む夕焼けのにぎにぎし★★★

●黒谷光子
蕗を剥く香り厨に収まらず★★★★
蕗は皮を剥くと独特の香りするが、料理をする台所だけではなく、ほかの部屋までも匂ってくる。生気溢れる蕗の匂いに、初夏という季節が強く印象づけられる。(高橋正子)

伽羅蕗を煮詰め色濃し夕厨★★★
菜園の苺の形まちまちに★★★

●多田有花
風薫る堂島川の遊覧船★★★★
水の音親しく聞きし街薄暑★★★
仰ぎ見る高層ビルや天清和★★★

●桑本栄太郎
姫女苑風の行方を示しつつ★★★
桑の実や巨木となりて青空に★★★★
金糸梅部活の子等の下校どき★★★

●小西 宏
夏蝶に魅かれ山葵の沢に入る★★★★
涼しそうな夏蝶の魅力に導かれるように進むと山葵沢に入った。蝶はここへ案内したかったのかとさえ思う。涼しい心境の句。(高橋正子)

初夏の風みどりなる箱根路★★★
青葉影し土匂いする湿り道★★★

●古田敬二
一音階下げて応える牛蛙★★★
若葉風昔バンカラ下駄の街★★★★
玉ねぎを吊るせば香る薄闇に★★★

5月25日

●小口泰與
日照雨去り木々の匂いの聖五月★★★★
夕暮れや浅間を側む二重虹★★★
桐咲くや奇岩聳ゆる妙義山★★★

●佃 康水
万緑や大き玻璃戸の美術館★★★★
美術館に大きなガラス戸がはめられ周辺の緑がそっくり見えるように設計されている。それがそのまま美術的でもあるが、展示の美術品をひろやかな気持ちになって鑑賞できることもうれしいものだ。(高橋正子)

黄菖蒲の根方へ山の水滲む★★★
夕暮れの雲へあわあわ花楝★★★

●桑本栄太郎
あおぞらの窓の額絵や青嵐★★★
ハンガーに晒し掛けおり更衣★★★

そらまめのふつくら炊けて釜の飯★★★★
「釜の飯」に家庭のあたたかさが読める。ふっくらと炊けたそらまめご飯は素朴で季節のたのしみなご飯だ。(高橋正子)

●河野啓一
辿りきて峠越えれば海の青★★★★
アマリリスビロード赤の逞しき★★★
夏場所も果てて熱気の静まりぬ★★★

●小西 宏
十薬の野に置かれざる高貴かな★★★
縁台に休み天城の冷抹茶★★★
谷間(たにあい)の水に早苗の影淡し★★★★

●川名ますみ
青き葉に包まれ紫陽花の莟む★★★
紫陽花の莟めば白のやさしさに★★★★
山法師樹下に次々ランチを広げ★★★

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

5月26日(月)

★金魚鉢きらめくものを子が飼えり  正子
金魚鉢の中で生きる小さな命たち。その「きらめく」命の輝きを日々いとおしみ、観察し育てる子どもたち。また、その子どもたちの姿を見守る母の、慈愛に満ちた眼差しを感じさせていただく御句です。(藤田洋子)

○今日の俳句
開いては菖蒲の高さ揃いたり/藤田洋子
菖蒲のあでやかな花が印象づけられる。どれも同じ丈に咲きそろう菖蒲の見事さ。(高橋正子)

○スイートピー

[スイートピー/横浜日吉本町]

★スイートピー薩摩切子の藍深く/水原春郎★
★百本のスイトピーとて一握り/稻畑汀子★
★来客を待つ卓上のスイートピー/羽根田和子★
★レントゲン終へてスイートピーの部屋にゐる/田中章子★
★風のあるさまに活けたるスイートピー/塩路隆子★
★スイートピー眠くなるほど束にする/高橋正子

 スイートピー (Lathyrus odoratus) は、マメ科レンリソウ属の植物。和名では、ジャコウエンドウ(麝香豌豆)やカオリエンドウ(香豌豆)、ジャコウレンリソウ(麝香連理草)などと呼ばれている。地中海沿岸原産で、日本では主に観賞用として栽培される。品種によって一年草や多年草がある。酸性用土ではうまく育たず、直根性で移植を嫌う。ふつう秋蒔きする。中世までは雑草扱いされていた。園芸植物として栽培されるようになってからも改良のスピードは遅く、本格的に改良、交配が進むのは19世紀後半に至ってからであった。トレヴァー・クラークとヘンリー・エックフォードの尽力により、多彩な品種が誕生した。エドワード朝のアレクサンドラ王妃はスイートピーを愛し、祝いの場では装飾としてスイートピーがふんだんに用いられ、エドワード朝を象徴する花となった。
 有毒植物であり、成分は同属の種に広く含まれるアミノプロピオニトリル (β-aminopropionitrile) で、豆と莢に多く含まれる。多食すればヒトの場合、神経性ラチリスム (neurolathyrism) と呼ばれる痙性麻痺を引き起こし、歩行などに影響が出ることがある。他の動物では骨性ラチリスムと呼ばれる骨格異常が生じることがある。
 スイートピーを題材とした歌に『赤いスイートピー』があるが、この歌が世に出た1982年1月当時に、赤色の花をつけるスイートピーは存在していなかった。しかし、写真にもあるように、その後、品種改良によって赤色のスイートピーも誕生した。花言葉は「門出・思い出・別離」といわれている。2月15日、3月15日、3月20日、6月9日の誕生花。

◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)