今日の秀句/2月21日~28日


2月28日(2句)

★芽柳の風に和したる朝かな/小口泰與
風が吹くと芽柳の枝が、柔らかく靡く。風に誘われ、風のままに、早緑の枝をなびかせる。朝の風が少し寂しくさせる。(高橋正子)

★山茱萸の咲いて垣根の朝かな/桑本栄太郎
山茱萸が真っ黄色に咲く垣根。朝日があたって、早春の朝がきらめいている。そんな景色と空気感がいい。(高橋正子)

2月27日(2句)

★こぼこぼと暗渠流るる春の水/桑本栄太郎
暗渠から、水がこぼこぼと流れる音が聞こえてくる。その音を聞き、流れを想像する。水が急ぎ踊っているような「こぼこぼ」という音。その音こそ春の水音だ。(高橋正子)

★春の水脈エンジン音にやや遅れ/古田敬二
遊覧船やフェリーの船尾に立って、航跡がうまれるのを見るのは、切もなくて面白い。気をつければ、船のエンジンに少し遅れて、水脈が生れる。そこに気づいた。(高橋正子)

2月26日(2句)

<熊本城>
★春空へクレーン立ちおり天守閣/多田有花
熊本城は、先の地震で、石垣が崩れ無残な姿になったが、ただいまも修復中。春空に聳える熊本城と、クレーンの珍しい取り合わせとなった。(高橋正子)

<大原野山裾の村>
★菜の花の山里照らす明かりかな/桑本栄太郎
大原野の里は、今も大原女の姿が見えそうな感じだ。菜の花が、時が巻き戻されたように、山里を明るくてらしている。(高橋正子)

2月25日(2句)

★採りためて三和土に並ぶ蕨かな/小口泰與
山行きのついでに、その度、少し採ってきた蕨。早蕨は、特にうれしいものだが、食べるほどではなく、冷たい三和土に並べてある。三和土の冷たさ、蕨の冷たさが重なってリアルだ。(高橋正子)

★白梅の伸び行く枝に白き雲/廣田洋一
白梅の枝が伸びて、白い雲に近づくように思え、梅の白と雲の白が重なって、やわらかな早春の景色となっている。(高橋正子)

2月24日(3句)

★したたかに雪代山女遡上せり/小口泰與
「雪代山女」は、春の雪解けの頃の山女。雪解け水に白く濁る川を遡上する山女は、夏の渓流釣りで楽しむ山女とは違って、「したたかさ」を感じる。釣り人にとって、冷たい川では餌の食いつきが悪く釣れにくいというより、山女がしたたかなのだと思う。(高橋正子)

★春光のどどっと過ぎ行く新幹線/桑本栄太郎
春光をまとい高架を走り過ぎる新幹線は、春光そのものになって、どどっと過ぎて行くのだ。このスピード感ある美は、未来的な美を感じさせてくれる。(高橋正子)

★ベランダがまねく光を蜜蜂を/川名ますみ
春、高層階のベランダは、光でいっぱいになる。蜜蜂までもやってくる。「ベランダが光と蜜蜂をまねく」
は詩的な詠みだ。(高橋正子)

2月23日(1句)

★春の服柔らかき風呼びこめり/廣田洋一
春服をまとったとたん、服が「柔らかき゚風」を呼び込んだ。軽い柔らかな素材でできた春の服は、その柔らかさゆえに、「柔らかき゚風」を服の中に呼び込んだ。「呼びこめり」が上手い。(高橋正子)

2月22日(2句)

★こぼこぼと溝の流れや春の水/桑本栄太郎
身近を流れる溝川の流れがこぼこぼと音を立てている。春の水とは、こんなにも豊かに音を立てるのだ。(高橋正子)

★芽吹き待つふるさとの山の丸きかな/古田敬二
芽吹く前の山は丸い。「ふるさとの山が丸い」は、感傷ではなく、事実やさしく丸いのだ。芽吹いた山の淡い色合いが今から待たれるのだ。(高橋正子)

2月21日(2句)

★片減りの鍬もて八十路の春耕す/古田敬二
鉄でできている鍬も長年使われれば、使う人の癖などもあって、片減りする。相棒のような、自分の歴史のような愛着の鍬での春耕のたのしみは、健康の褒美でもあろう。(高橋正子)

 二上山登山
★春の森抜ければ峠の空に出る/多田有花
「森を抜けて」出たところが「空」であった。ここが素晴らしい。360度の春空の眺めだ。 (高橋正子)