2月2日(土)

★白木蓮冬芽の銀の日にまぶし   正子
温かな鱗片にくるまれ空へ向く白木蓮の冬芽、数多の冬芽の中で一際大きな存在感です。降り注ぐ日差しの中で、銀色に輝く冬芽の眩いばかりの明るさに、心和み、近づく春を感じます。 (藤田洋子)

○今日の俳句
葦原の枯れ尽くしても水の上/藤田洋子
「枯れ尽くしても水の上」は、意表をついて、新しい発見。蓮や菖蒲などは、枯れると茎や葉が折れて水に浸かってしまう。葦原の葦は、枯れながらもまっすぐに立ち、水には影を落とすのみ。なるほど、枯れ尽くしても水の上ある。(高橋正子)

○老鴉柿(ロウヤガキ)

[老鴉柿/東京・小石川植物園(2013年1月20日)]

 小石川植物園(2013年1月20日)
★寒天に散らばり朱し老鴉柿/高橋信之

1月20日、大寒であったが、信之先生が小石川植物園に花を探しに出掛けた。梅はまだであるし、大方は芽である。土佐水木の冬芽の明るい茶色に、土佐水木の淡い黄色の花が思い浮かんだ。冬の植物園でいちいち芽を探すには広すぎるのではと思われた。2008年の4月19日の小石川植物園吟行は、桜が散って、一面に桜蕊が降り重なって、踏めばやわらかなクッションとなって、足裏に応えてくれた。その記憶が今蘇った。

 小石川植物園(2008年4月19日)
★やわらかに足裏に踏んで桜蘂/高橋正子

ロウヤガキ(老鴉柿、学名:Diospyros rhombifolia)は、中国原産のカキノキ属の植物。ツクバネガキ(衝羽根柿)とも呼ばれる。葉は丸味を帯びた菱形で、3月から4月頃に花を着ける。液果は小さく尖った楕円形状で、熟すと橙に色付く。株は雌雄異株で、着果には雄株が必要である。渋柿で食用には向かないが、盆栽や庭木として広く用いられている。日本への導入は遅く、第二次世界大戦中に京都府立植物園初代園長である菊地秋雄が持ち帰ったとされる。

▼東京大学・小石川植物園:
http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/

◇生活する花たち「寒牡丹」(鎌倉・鶴岡八幡宮)

●添削2月①●

[2月1日~9日]

▼2/9

●高橋 秀之
一皿に三尾並んで目刺かな★★★
春寒し友と集いの夜の宴★★★
春となって、友と集い楽しい夜の宴であるが、体のどこか寒い。うすら寒い春の夜、なんとはなしの人の悲哀がある。(高橋正子)

声もなく目を閉じ電車の受験生★★★

●佃 康水
はらからと再会約す梅の寺★★★
集いゆく車窓へ瀬戸の春霞★★★
海光へ熟れし八朔日を弾く★★★

●桑本 栄太郎
目覚むればうすき明かりや春障子★★★
街角のビルに風巻く余寒かな★★★
春雪と云えど遠嶺の陽射しけり★★★

●多田 有花
いつまでもたどり着けない春の夢★★★
青竹の切り口揃う余寒かな★★★
日当たりのよき斜面から梅開く★★★

●黒谷 光子
春雪に日裏日表くっきりと★★★
靴跡の先ず土を見せ春の雪★★★
春雪に日差し明るき厨窓★★★

●小口 泰與
山風に逆らいつつも麦を踏む★★★
雪の間のほうれん草へ朝日かな★★★
公魚やセシウム出でてどっちらけ★★

▼2/8

●古田 敬二
走り根の大地へ太く春立てり★★★★
春立ちて木立の影も濃くなりぬ★★★
ほつほつと白きもの見え梅林★★★

●小西 宏
白梅の蕾みどりに枝の直(なお)★★★
一木に梅咲いて風なお寒し★★★
浅春の風寒ければ大き富士★★★

●桑本 栄太郎
梅ひらくつぼみ眺めつ空仰ぐ★★★
枝ごとの艶めき芽吹く雪やなぎ★★★
春の雪傘をさす間に陽射しけり★★★

●藤田裕子
遠き日も透くことうれし葛湯掻く★★★
遠山に春雪かがやき街始動★★★
畑に群れ菜の花ひといろ黄の淡し★★★

●多田 有花
風花の彼方に海の光りけり★★★★
風花は晴れていながら舞う雪片のことであるが、風花の舞う日の天候をそのまま描写して、景色が鮮明である。このところの冷え込みに風花が舞う日となったが、海の明るさに「春遠からじ」と思える。(高橋正子)

まだ咲かぬ梅林歩く冴返る★★★
風やんで寒のもどりを残しゆく★★★

●河野 啓一
冬菜サラダ妻の自慢の自家栽培★★★
冴え返る陽のみ明るき朝の刻★★★
春浅き浜辺望めば海光る★★★

●迫田 和代
何となくいいことの予感春を待つ★★★
土を噛むごと野に咲くタンポポや★★★
瀬戸内の細魚の刺身ガラス器に★★★

●上島 祥子
スケート場常に前行く小学生★★★
ゆっくりとリンクを回る母娘かな★★★
スケーター踏み出す一歩に迷いなし★★★

●小口 泰與
あわあわと淡雪解けし棚田かな★★★
懐かしき会津駄菓子や春兆す★★★
利根川の流れ耀う春の朝★★★

▼2/7

●川名ますみ
療苑に伸び続けたる枯木立★★★
土近きよりひらき初む枝垂梅★★★
春来る大き役者のゆきし朝★★★

●桑本 栄太郎
春浅し梢つんつん青空に★★★
枝揺らし雨滴はらえり春の鳥★★★
うつすらと嶺に春雪雲去りぬ★★★

●小西 宏
雪解けの庭に皮靴並べ干す★★★
春風吹き池面はげしく輝けり★★★
鴉群れ乱れ吹き飛ぶ春の風★★★

●黒谷 光子
春寒の日差しの中を三輪車★★★

鐘の音に児ら寄ってくる春の夕★★★★
春の夕べ、まだ外で遊んでいた幼い子たちが鐘の音に不思議そうに、もの珍しげに寄ってくる。鐘を撞く人と幼い子のほのぼのとした世界が童画を見るようだ。(高橋正子)

春浅し両手に包む小さき手★★★

●多田 有花
白梅の一枝置きし昼の膳★★★
紅梅の南に向いてまず開く★★★
春光をきらきら返し池の水★★★

●河野 啓一
早春の光纏いて鳥は樹に★★★
丘に立ち港望めば春の潮★★★
春雨に濡れてきらきら庭の樹々★★★

●小口 泰與
山風に勢い勝る畦火かな★★★
ためらいて犬小屋みすう芝火かな★★★
今年また公魚釣の出来ぬかや★★★

▼2/6

●川名ますみ
朝澄みて枝垂れし先に梅一輪★★★
玻璃越しに梅の香どつと近寄れば★★★
近寄れば梅の香どつと玻璃を越え★★★

●高橋 秀之
水鳥の羽ばたきの音春空へ★★★★
冬の間も生きいきと暮らしていた水鳥が、北へ帰る日も近いのか、羽を広げ羽ばたきの音をさせる。春空へ向けて力強い羽ばたきである。(高橋正子)

春雨のライトに光る御堂筋★★★
大根の熱き味噌汁椀一杯★★★

●多田 有花
春の雨濡らす香住へ蟹食べに★★★
春早し大きな蟹に迎えられ★★★
春雨は沖よりあがり日本海★★★

●桑本 栄太郎
春迎へ光り耀く里の屋根★★★
鴨川の堰の耀き春迎ふ★★★
たちまちに春泥なりし今朝の雨★★★

●上島 祥子
暖かな夜明けの光厨窓★★★
飼い猫の膝に合わせて丸くなり★★★
スケートや吾子のようにままならず★★★

●河野 啓一
春雨や街の車も濡れながら★★★
雨もよい門辺に芽吹く黄水仙★★★
雨を得て芽も緩みくるチューリップ★★★

●黒谷 光子
春雪の予報に畑のもの囲う★★★
葱を煮て白根甘しを言い合えり★★★
春炬燵玻璃に日の差し雨上がる★★★

●井上 治代
山茶花の花びら数多散り敷きぬ★★★
霜焼けの耳たぶ少しあたたかし★★★

早も咲ける菜の花の丈低かりし★★★★
春も暦ばかりと思えるのに、早も菜の花が咲いて黄色い光を返している。先駆けの菜の花らしく「丈低かりし」であって、実在感がある花となっている。(高橋正子)

●小口 泰與
赤城嶺の彫の深さや犬ふぐり★★★
片栗の花や越後の空のどか★★★
雪の間に巨大な影やクロッカス★★★

▼2/5

●河野 啓一
数えれば愛しきつぼみ庭椿★★★
春浅き庭の鳥声烏鷺囲む★★★
チューリップ芽生え可愛いや雨もよい★★★

●川名ますみ
どの枝も伸び続けたる枯木立★★★
山茶花の散つて明るき家路なり★★★

春隣窓辺のパセリ少し摘む★★★★
窓辺のパセリは、まだまだ小さく縮こまっているが、春の兆しを感じて少し育ってきているように思える。少しだけ摘んた。小さな収穫の喜びと春がそこまで着ている嬉しさが読みとれる。(高橋正子)

●桑本 栄太郎
立春の湾処に人の釣りの輪に★★★
川浪のきらきら耀き寒明ける★★★
嶺の背にぽつかり雲の春立てり★★★

●小西 宏
火の気なき炬燵に座り戦後史読む★★★
艶やかに木の芽ぬれおり温き雨★★★
ゆきやなぎ花芽みどりの霞なす★★★

●多田 有花
立春の塩味まんじゅう緑茶かな★★★
ストーブを点けたり消したり寒明ける★★★
頂に薄き日差しや春寒し★★★

●小口 泰與
榛名嶺に淡き夕映えミモザかな★★★
まんさくや浅間南面斑なり★★★★
浅間山の南面は雪が解け始めたところもあるのだろう、斑になっている。その山を背景に春を先駆けるまんさくが咲いている。色彩的にも美しい早春の景色である。(高橋正子)

下萌えの河原の寒き夕べかな★★★

▼2/2

●古田 敬二
一閃の光となりてメジロ来る★★★
指先に快音折り取るブロッコリー★★★
葉に霜を載せて咲きかけイヌフグリ★★★
霜がまだ葉に固く置いているのに、もうイヌフグリが咲きかけた。霜の置いた小さな葉と青い小さな花が健気にも可憐だ。(高橋正子)

●川名ますみ
人参の剥く皮の香を語りけり★★★
挨拶は梅のつぼみの膨らみに★★★
母の指す先に一輪梅咲けり★★★

●小西 宏
紅梅の蕾の雨に色浮かぶ★★★
空の色春めき淡き峰の影★★★
水仙の断崖に海ひかり一筋★★★

●桑本 栄太郎
枝先の雨滴艶めき春近し★★★
二ン月の哀しくなりぬ今朝の雨★★★
スケボーの技を競いぬ春隣り★★★

●多田 有花
金色に塗りしキャンバス冬終わる★★★
摩尼車静かに回り冬尽きぬ★★★
鍵失くしありがたきかな寒ぬくし★★★

●下地 鉄
窓にみる街の灯びはや睦月★★★  
ミモザ咲く空の青さに色を染め★★★      
春菊の香りも味の一つかな★★★

●小口 泰與
薄氷の風に割られて離れけり★★★
日溜りのあちらこちらに冬芽かな★★★
隼の風を味方や利根河原★★★

▼2/1

●小西 宏
沼涸れて緑明るき竹林★★★
枯れ果てて蒲の穂綿の吹き積もる★★★
冬木の芽小雨滴たる暖かさ★★★

●黒谷 光子
菰巻の大松池に影落とす★★★★
菰が巻かれた大松。池に落とすその影も堂々とゆるぎない。堂々としたものの、普遍的な良さ。(高橋正子)

餌を撒かれ素早き動き鴨の群★★★
鴨群れる中の一羽は瑠璃光る★★★

●多田 有花
蝋梅に誘われ坂を下りにけり★★★
涸池に二羽の家鴨が水を飲む★★★
菜の花のはや開きおる春隣★★★

●桑本 栄太郎
カーテンを開けて玻璃透き寒緩む★★★
丘上の朝日燦々ニン月に★★★
中庭に声弾む子等日脚伸ぶ★★★

●小口 泰與
碧天や雪煙り起つ浅間山★★★
柿の蔕数多のこりし枯木かな★★★
山風に瀬頭荒れし氷柱かな★★★