9月13日(日)

  尾瀬
★山小屋の湯にいて秋の笹の音  正子
山小屋の湯に浸り、旅の疲れを癒す、心身ともに安らぐひととき。その快さの中で聞く笹の葉擦れの音に、いっそう澄んだ秋の夜が感じられ、尾瀬の秋に身を置く作者の喜びが伝わってまいります。(藤田洋子)

○今日の俳句
窓越しの鳴き澄む虫と夜を分つ/藤田洋子
「夜を分かつ」によって、窓の外の虫音と内とが繋がって、しっとりと落ち着いた虫の夜となっている。「鳴き澄む」虫の声が透徹している。(高橋正子)

○数珠玉

[数珠玉/横浜・四季の森公園]

★数珠玉や歩いて行けば日暮あり/森澄雄
★数珠玉や家のまはりに水消えて/岸田稚魚
★じゅず玉は今も星色農馬絶ゆ/北原志満子
★数珠玉や流れの速き濁り川/天野美登里
★数珠玉の数珠の数個をポケットに/山内四郎

数珠玉を見るようになったのは、愛媛に住むようになってからである。この、どこにでもある数珠玉を高校時代までは見たことがなかった。知らないかったと言えばそれまでだが、数珠玉があれば、子どもたちはそれを集めて糸を通して遊ぶはずだが、そんな遊びはしたことがなかった。秋の初め野川と呼ばれるような川縁にある。初めは緑で指で潰せば潰れそうな未熟な実も、熟れると、つやつやと固くなって黒っぽい灰色の独特の色になる。大人でも、数珠玉があれば、用もないのに採りたくなる。

★数珠玉よ川にも空が映るなり/高橋正子
★数珠玉を採ってしばらく手のうちに/〃

 ジュズダマ(数珠玉、Coix lacryma-jobi)は、水辺に生育する大型のイネ科植物である。インドなどの熱帯アジア原産で、日本へは古い時代に入ったものと思われる。一年草で、背丈は1m程になる。根元で枝分かれした多数の茎が束になり、茎の先の方まで葉をつける。葉は幅が広い線形で、トウモロコシなどに似ている。花は茎の先の方の葉の付け根にそれぞれ多数つく。葉鞘から顔を出した花茎の先端に丸い雌花がつき、その先から雄花の束がのびる。雌花は熟すると、表面が非常に固くなり、黒くなって表面につやがある。熟した実は、根元から外れてそのまま落ちる。なお、ハトムギ(C. lacryma-jobi var. ma-yuen)は本種の栽培種である。全体がやや大柄であること、花序が垂れ下がること、実がそれほど固くならないことが相違点である。
 脱落した実は、乾燥させれば長くその色と形を保つので、数珠を作るのに使われたことがある。中心に花軸が通る穴が空いているので、糸を通すのも簡単である。実際に仏事に用いる数珠として使われることはまずないが、子供のおもちゃのように扱われることは多い。古来より「じゅずだま」のほか「つしだま」とも呼ばれ、花環同様にネックレスや腕輪など簡易の装飾品として庶民の女の子の遊びの一環で作られてきた。秋から冬にかけて、水辺での自然観察や、子供の野外活動では、特に女の子に喜ばれる。
 イネ科植物の花は、花序が短縮して重なり合った鱗片の間に花が収まる小穂という形になる。その構造はイネ科に含まれる属によって様々であり、同じような鱗片の列に同型の花が入るような単純なものから、花数が減少したり、花が退化して鱗片だけが残ったり、まれに雄花と雌花が分化したりと多様なものがあるが、ジュズダマの花序は、中でも特に変わったもののひとつである。まず、穂の先端に雄花、基部に雌花があるが、このように雄花と雌花に分化するのは、イネ科では例が少ない。細かいところを見ると、さらに興味深い特徴がある。実は、先に“実”と標記したものは、正しくは果実ではない。黒くてつやのある楕円形のものの表面は、実は苞葉の鞘が変化したものである。つまり、花序の基部についた雌花(雌小穂)をその基部にある苞葉の鞘が包むようになり、さらにそれが硬化したものである。この苞葉鞘の先端には穴が開いており、雌花から伸び出したひも状の柱頭がそこから顔を出す。雌花は受粉して果実になると、苞葉鞘の内で成熟し、苞葉鞘ごと脱落する。一般にイネ科の果実は鱗片に包まれて脱落するが、ジュズダマの場合、鱗片に包まれた果実が、さらに苞葉鞘に包まれて脱落するわけである。実際にはこの苞葉鞘の中には1個の雌小穂のほかに、2つの棒状のものが含まれ、苞葉鞘の口からはそれら2つが頭を覗かせている。これらは退化して花をつけなくなった小穂である。したがって、包葉鞘の中には、花をつける小穂(登実小穂)1つと、その両側にある不実の小穂2つが包まれていることになる。これら雌小穂と不実の小穂の間から伸びた花軸の先には、偏平な小判型の雄小穂が数個つく。1つの雄小穂にはそれぞれに2つの花を含む。開花時には鱗片のすき間が開いて、黄色い葯が垂れ下がる。

◇生活する花たち「露草・なんばんぎせる・玉珊瑚(たまさんご)」(東京白金台・自然教育園)

9月ネット句会清記


9月ネット句会清記
16名48句

01.台風の過ぎゆく空の色軽し
02.あこがれる寂光浄土秋桜
03.藪からし小さき花は可憐なり
04.杉の実や戦場数多絶えも無し
05.杉の実や銃弾の数果ても無し
06.竜胆やいろはにほへと九十九折
07去来忌の水嵩ますや渡月橋
08.いしぶみの百人百句や秋の嵯峨
09.落柿舎の裏の塚かな柿ひとつ
10.木の実落つ音の静けさ森の道

11.銀漢に祈るや遠き人の世を
12.秋出水かく激しとは知らざりき
13.筏曳き瀬戸をゆく船いわし雲
14.無花果のネット潜りて捥ぎくれる
15.冬瓜や草を褥に横たわり
16.水澄みて今日を新たに迎えけり
17.秋の昼蕎麦屋の白き暖簾かな
18.目の合ひし秋刀魚夕餉の膳にあり
19.土手道の水音のするほうずきや
20.変わらない椅子に座って虫しぐれ

21.散らばった雲間から出る月仰ぐ
22.瓢箪に並ぶ実の影映りおり
23.友といて京路を歩く白露かな
24.枯山水静かに雨を迎える秋
<剣山登山>
25.湧きいずる霧のまにまに鳥兜
26.洪水の映像を見る天高し
27.秋蝉の声の消えたる森を歩く
28.赤とんぼの群れに真っ直ぐ突入す
29.目の前を右に左に赤とんぼ
30.背伸びする窓から差し込む秋日差し

31.朝顔の閉じゆく刻を母と見る
32.多摩川の嵩増し蒼し颱風過
33.水災の隣に伸びぬ鰯雲
34.瀬戸の航望む丘陵萩白し
35.野の風に枝を重ねて萩撓む
36.ひとしきり萩と吹かれて丘の上
37.無花果に思い出したる瀬戸の空
38.葛の花ふっと匂うは高みより
39.月光の曲にこおろぎ鳴き速む
40.新涼の風に吹かれて喜びぬ

41.さわやかに風吹く森の中を吹く
42.穂絮飛ぶ池の向こうを風が吹き
43.初秋の朝の光の庭に濃し
44.秋刀魚焼く帰りの遅き子にも焼く
45.露天風呂背中と通る風は秋
46.朝の窓鰯雲へと開け放つ
47.鈴虫の声澄みわたる市の奥
48.稲穂垂れ水路一筋黄に光る

※選句を開始してください。

◆9月ネット句会のご案内◆
①花冠会員・同人であれば、どなたでも投句が許されます。花冠会員・同人以外の方は花冠IDをお申し込みの上、取得してください。
②当季雑詠(秋の句)計3句を下の<コメント欄>にお書き込みください。
③投句期間:2015年9月7日(月)午前5時~9月13日(日)午後6時
④選句期間:9月13日(日)午後6時~9月13日(日)午後9時
⑤入賞発表:9月14日(月)正午