1月11日(木)

曇り
●家にいてばかりでは、いけないと思い、曇り空で寒そうではあるが、矢上川の放水門あたりの水はゆたかなプランクトンでなみなみとして、鴨やかもめも元気かもしれない、と出かけた。
昼前、寒空を見上げつつ鶴見川と矢上川の合流するあたりの鴨はどうなっているか見に行った。綱島街道の箕輪舟下のバス停までは家から3駅。ここまでバスで行き、そこから矢上川に向かって歩く。歩いているうち、この前来た街にきた。バス停前のたばこ屋に見覚えがある。となると、鶴見川はすぐそこになる。矢上川でなく、鶴見川にでる。川の土手に上る小さい階段にすぐ行きつくと川が見えた。オオバンが30羽以上いる。ヒドリ鴨も同じぐらいが混在して泳いで、陸にも上がって餌を食べている。土手を降りると鴨たちの黒い糞だらけ。よく見ると黒ではなく緑がかった黒。踏まないように気を付けて歩く。
アオサギ、ハクセキレイがいる。だれも来ないので、川風は寒いが座って、鴨やオオバンの様子を眺めた。オオバンが時々鳴く。鴨たちはこちらに気づいているようでもあるが、陸で餌を無心に漁っている。
しばらく座っていると向こうからリハビリで歩いているのか、老人がこちらに来た。近所の人らしいので、川の様子を聞きたいので「こんにちは。リハビリですか。」と挨拶をすると、返事を返してくれた。自分は板橋を自転車で渡っていて、橋がバウンドして自転車ごと転び、自転車にしがみついたばかりに、サドルに座ったままだったので、お尻の骨を骨折して3か月寝たきりだったと言う。「歩けるようになってよかったですね。この川、オオバンや鴨がいていいですね。」と言うと、「よく知ってるなあ。」と。「俳句を作っているので、少しは知ってますので。」「そうか。わしの家の近所に野鳥の会の会長がいるんで、オオバンだのコバンだの教えてくれる。いつも首にカメラを提げているがなあ。」もしや、その人は鶴見川近くで、チョウゲンボウや、オオタカ、ノスリがいると案内していた人ではと思った。
矢上川と鶴見川の合流地点まで老人と歩くと大きな裸木がある。「いい形の木ですが、なんの木ですか。」と聞くと「胡桃」だと言う。「じゃあ、秋になったら実がなるので来ますよ。」と言うと、いや「夏においでなさい。いい木陰ができるから。」と。行きどまりなので、土手から上がるところがないか見ていると、「あなたに、詩吟を一つ歌ってあげよう。」「ベンセイ シュクシュク ヨル カワヲ ワタル しか知りませんけど。」と言うと、しばらく川を見ていたが、「意味がわからんとなあ。」と言って「山川草木」をうたってくれると言う。寒風の中で歌う声に「山川草木」と「風なまぐさし」が耳に残った。年期を積んだ歌い方のように思えた。台湾で戦が終わって休むときにその隊に詩人がいて作った歌だという。
帰宅してネットでしらべたら、乃木希典の漢詩で、詩吟では知られているようだ。台湾の戦の話ではなく、大連の南山の日露激戦の地での話。
詩吟を行きずりに歌ってくれるとは、あまりにも不思議な体験。
金州城 乃木希典作
山川草木 転荒涼
十里風腥し 新戦場
征馬前まず 人語らず
金州城外 斜陽に立つ
きんしゅうじょう のぎまれすけ・さく
さんせんそうもく うたたこうりょう
じゅうりかぜなまくざし しんせんじょう
せいばすすまず ひとかたらず
きんしゅうじょうがい しゃようにたつ
詩の意味
 山も川も草も木も砲弾の跡が生々しく、見渡すかぎり荒れ果てた光景になっている。戦いがすんだ今もなお血生臭い風が吹いている。
 私が乗る軍馬は進もうとせず、兵士もまた黙して語らない。夕陽が傾く金州城外にしばらく茫然とたたずんでいた。
鑑賞
金州城外の無惨な戦場の跡
 本題は「金州城下の作」といいます。金州の南山は日露両軍が死闘をくりかえした激戦地で、山野は血で染まったのです。乃木将軍の長男勝典(かつすけ)もここで戦死する。将軍は南山に登り、山上より戦死兵の墓標が林立する地を望み、夕日をあびて万感の思いで茫然と立っていた。日本軍はここから南下して旅順を攻撃したのです。

1月10日(水)

晴れ
●「前書きのある俳句」について俳壇より原稿依頼。2月14日締め切り。
「前書き」について『俳句 現代俳句辞典』(角川書店/昭和52年9月16日発行・編集人鈴木豊一)で調べる。「前書き」の項は草間時彦が担当。必要なところ、ほとんどだが、ノートに抜き書きした。これを踏まえて俳句を作る。
この辞典はよくできていて、俳句の疑問によく答えてくれる。鈴木豊一氏が編集人。名編集長と言われた方なので、それだけの値打ちのあっていつもずいぶん助けられている。『俳句編集ノート』(鈴木豊一著/柘榴社刊2011年)はいつかどこかで読んで、非常にいい本だと驚いたことがある。これが欲しくてネットで探すが、品切れで見つからない。もう、手に入れるのは無理かもしれない。西垣脩のところを読んだのだと記憶しているが、実際生身の人物と会っているので、人物に肉薄していて、著書や資料だけでは、とても敵わないという思いがした。

自由な投句箱/1月11日~1月20日(2024年)

※当季雑詠3句(新年・冬の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。

今日の秀句/1月11日~1月20日

1月20日(2句)

★凍星や昨日のメールはや古ぶ/小口泰與
星も凍る寒い夜、昨日のメールは、それがいつのメールかと思えるように、日が過ぎた思いがする。(髙橋正子)

★日の温みふわり抱へて福寿草/廣田洋一
「ふはり(ふわり)」に作者の優しさと、冬の日ざしの温みがよく読み取れる。(髙橋正子)

1月19日(2句)

★風防ぐビニール強し冬いちご/小口泰與
下に参考にあげた句は、同じ作者の句で、発想に似通うところがあるが、冬苺の句に新しさがあるように思う。「ビニール強し」には、作者の思いが素直に出ている。現実をよく写生していると言える。
(参考:霜防ぐわら束数多星の夜/小口泰與)
(髙橋正子)

★葱青々ところどころは折れながら/多田有花

畑に青々としている葱も、どれもがまっすぐではなく、ところどころに葉が折れている。折れた原因は風の仕業か、栄養状態なのかはわからないが、自然さがいい。(髙橋正子)
1月18日(2句)

★松過の夕刻にある明るさよ/多田有花
松過、松明は、関西では十五日、関東では七日と慣習的に言われている。冬至をすぎ、2,3週間のころで、日ごと昼間が長くなっていく。夕刻にも明るさが見えるようになった。夕刻の明るさに希望が見えるようだ。(髙橋正子)

★駅降りてどちらに行くか探梅行/廣田洋一
探梅に行く。初めての土地か、右に行っても左に行っても、北に行っても南に行っても、梅園はあるのだろう。どちらへ行くかは、あたりを見回して、勘に頼ってきめるのかもしれない。ちょっと迷って、それも楽しい探梅行だ。(髙橋正子)

1月17日(1句)

★ぽつぽつと朝日に目立つ冬木の芽/桑本栄太郎
冬木の枝に朝日が差すと、小さな冬木の芽が「ぽつぽつ」と浮かぶ。一番に朝日に目立つのである。小さい冬木の芽なが鋭い様子がうかがえる。(髙橋正子)
1月16日(1句)

★風花の光り溜めつつ躍りけり/桑本栄太郎
風花は遠くの峰などから吹かれてきた雪が、花びらのように舞うのを言うが、すぐに葉や地上に降りないで、ゆっくりと舞い落ちる。ゆっくり落ちる間に「光を溜め」ている。観察の細やかさによって、風花に光が生まれた。(髙橋正子)
1月15日(1句)

★茶の花や赤城颪に吹かれける/小口泰與
赤城颪の冷たい空っ風にきよらかな茶の花が吹かれている。愛おしさしきりである。(髙橋正子)

1月14日(2句)

★再びは会う事も無き冬の街/小口泰與
一度きて、再びは来ることもない街は人生経験を積むと意外とあるものだ。「来る」ではなく、「会う」としたことにその思いが深い。(髙橋正子)

★コーヒーに寒九の水を沸かすかな/廣田洋一
コーヒーは、水次第。一年で最も清らかで服薬によいとされる寒中九日間に汲まれる水で、コーヒーを沸かす。「沸かすかな」に待ち遠しさ、嬉しさがでている。すっきりとした味わい深いコーヒーが出来上がったであろう。(髙橋正子)


1月13日(1句)

★焚火たく地域バザーや土曜日に/桑本栄太郎
土曜日に地域のバザーがある。広場では、暖をとるために焚火が焚かれて、大鍋には湯気もたっているであろう。色とりどりの物も売られているだろう。地域コミュニティの賑わいが見える。(髙橋正子)

1月12日(2句)

★淑気満つ秋田訛りの行き交うて/弓削和人
秋田には秋田の正月がある。淑気が満ちるなか、秋田訛りで新年の挨拶が交わされる。それを見ているのは秋田訛りをめずらしく思う作者。おのずと秋田人となっていく。(髙橋正子)

   兵庫県立あわじ石の寝屋緑地
★大観覧車見下ろせば冬の海/多田有花
大観覧車の下は冬の海。観覧車の立地として海の近くが選ばれる。上空に上れば、海の真上に出た感じがする。冬の海を真下にする感覚が実感できる。(髙橋正子)

1月11日(1句)

★島に来て八幡宮へ初詣/多田有花
八幡宮は、八幡神をまつる、宇佐八幡を総社とする神社。全国には大きな神社から地域の小さい神社を数えると何万となるであろう。島には島の八幡宮があり、島の住人にもなったように気軽に参詣した。そこが数ある神社のよさ。(髙橋正子)

1月11日~1月20日(2024年)

1月20日(名)
小口泰與
風に咲く侘助ひとつ日暮れかな★★★
凍星や昨日のメールはや古ぶ★★★★
白鷺の嘴を大きく振舞うぞ★★★
多田有花
大寒やピアノソナタを聴き比べ★★★
珍しやこぬか雨降る大寒に★★★
この冬は雪無きままに過ぎゆくか★★★
廣田洋一
大寒の鯛焼き食べる親子かな★★★
日の温みふはり抱へて福寿草★★★★
街角の花屋を覗き春隣★★★
桑本栄太郎
露凝るや愛しき人の名を窓に★★★
しぐれ降る黒雲嶺を被いけり★★★
しつとりと身ほとり雨に寒雷忌★★★
1月19日(4名)

小口泰與
足出でて衾取り合う真夜の風★★★
霜防ぐわら束数多星の夜★★★★
風防ぐビニール強し冬いちご★★★★

多田有花
葱青々ところどころは折れながら★★★★
寒暁や珈琲豆を挽き淹れる★★★
寒さやや弛みおりけり雨の朝★★★

廣田洋一
マフラーをぐるぐる巻きて顔埋もれ★★★
寒紅葉丸めたる葉の光りをり★★★
白き雲群なし走る寒の空★★★

桑本栄太郎
山茶花の散り敷く中をバス停へ★★★
照る降る何れか知れず雪しぐれ★★★
マスク子の目線に気付く友の顔★★★
1月18日(4名)

小口泰與
山峡の九十九折なる霜の朝★★★
左義長や赤城の裾野賑やかす★★★
児の時のいまだ懐かし根深汁★★★

多田有花
ハイドンの旋律明るし日脚伸ぶ★★★
大霜に湯を用意して車へと★★★
松過の夕刻にある明るさよ★★★★

廣田洋一
駅降りてどちらに行くか探梅行★★★★
探梅や甘き香りに群がれり★★★
厳寒の共通テスト始まりぬ★★★

桑本栄太郎
竹づつの祈る灯りや阪神忌★★★
いつせいに屋根の現るしづり雪★★★★
干し物をためらい軒に雪しぐれ★★★
1月17日(3名)

小口泰與
電線に群並びたる寒雀★★★
古びたる写真機愛でて寒の内★★★
麦の芽や浅間へ落ちし夕日影★★★

多田有花
タイマーをかけて運動寒の内★★★
緩く巻くマフラーに顎を埋めおり★★★
立働く事こそよけれ寒の朝★★★

桑本栄太郎
「ともに」との祈る想いや阪神忌★★★
ぽつぽつと朝日に目立つ冬木の芽★★★★
霜朝のちりちり萎れ枯むぐら★★★
1月16日(4名)

小口泰與
雪被る地蔵のありて通学路★★★
「ありて」、あるいは、「通学路」のところを工夫されるといいと思います。(髙橋正子)
電線に群並びたる霜の朝★★★
新年会古き交わり今年また★★★

多田有花
ここもまた宅地となりぬ冬深し★★★
シートより薬押し出し小正月★★★
初えびすベビーカステラ売る屋台★★★

廣田洋一
寒稽古太極拳の息白し★★★
一輪また一輪と水仙花★★★★
水仙の花の並びし日向かな★★★

桑本栄太郎
うつすらと嶺に初雪被いをり★★★
風花の光り溜めつつ躍りけり★★★★
寒禽の翔つや花びら零れ居り★★★
 
1月15日(4名)

小口泰與
角巻や水輪沸き立つ沼の淵★★★
茶の花や赤城颪に吹かれける★★★★
降り出して雨仕切りにり枯芝へ★★★

廣田洋一
残りたる餅を焼きたり小正月★★★
ヘルパーさん頬紅付けて小正月★★★
鴨一羽ぱっと飛び立ち追ふ二羽や★★★★

多田有花
冬の山おりて食べたりしらす丼★★★
ゆっくりと昔の映画松の内★★★★
そぞろ歩く寒九快晴のなかを★★★

桑本栄太郎
黒雲の嶺につどいぬ雪催い★★★★
お隣と妻は語らい焚き上げに★★★
寒柝の闇夜にひびく団地かな★★★
 
1月14日(3名)

小口泰與
光無き待合室や冬の暁★★★
冬翡翠目の炯炯と水中へ★★★
再びは会う事も無き冬の街★★★★

廣田洋一
寒九の水を沸かせしコーヒーかな(原句)
コーヒーに寒九の水を沸かすかな(正子添削)
雪吊りのからりと晴れて神の庭★★★
熱き湯を車窓にかける霜の朝★★★

桑本栄太郎
あおぞらの日射し明るく冬日燦★★★
寒晴や遥か彼方に奥比叡★★★★
<JR嵯峨野線花園駅ホーム>
メロディーの鳴りて列車や寒晴るる★★★

1月13日(4名)

小口泰與
節節の痛みに寒の病かな★★★
翔つ前にふと我を見し鳰★★★
忽然と鳴きて飛び立つ二羽の鴨★★★

廣田洋一
買物籠下げたる道や日脚伸ぶ(原句)
買物籠提げて行く道日脚伸ぶ(正子添削)

露天湯に長く浸かりて日脚伸ぶ★★★
水仙の並び立ちたる門の前★★★

多田有花
<兵庫県立あわじ石の寝屋緑地三句>
大橋を背後から見て冬の雲★★★
山おりる傍らにあり帰り花★★★
水はられし日陰の田んぼ凍りおり★★★

桑本栄太郎
焚火たく地域バザーや土曜日に★★★★
山茶花の散りて襤褸や坂の道★★★
山間をのぼる道路や寒晴るる★★★

1月12日(5名)

小口泰與
人出でて沼の普請や冬の午後★★★
寒暁や待合室に光無き★★★
眼間の雪の浅間のふすぼるる★★★★

廣田洋一
冬の薔薇蕾の一つ膨らみぬ★★★
早梅や走り寄りたる枝の下★★★
早梅の蕊金色に光りをり★★★★

弓削和人
淑気満つ秋田訛りの行き交うて★★★★
除雪音の空の白妙響きけり(原句)
白妙の空に響けり除雪音(正子添削)
雪沓の底にしみいる羽後の風★★★★

桑本栄太郎
燦々と団地明るく寒晴るる★★★★
<能登半島地震>
倒壊の家屋微塵や能登寒波★★★
寒晴や婆のため息なゐの地に★★★

多田有花
<兵庫県立あわじ石の寝屋緑地三句>
冬景色あれは淡路か徳島か★★★
大観覧車見下ろせば冬の海★★★★
冬の風発電風車を回しおり★★★

1月11日(4名)

小口泰與
着ぶくれてよたよた歩む鳥の如★★★
冬更けて樹木の諸鳥定かなり★★★
冬深み鳥声いまだ盛んなり★★★

廣田洋一
レトルトのしるこ買ひたり鏡割★★★
濃ゆく日向に立ちし冬薔薇★★★
冬薔薇の棘は控へめ人を呼ぶ★★★

多田有花
島に来て八幡宮へ初詣★★★★
津波避難経路を辿りゆく寒★★★
<兵庫県立あわじ石の寝屋緑地>
ひさびさの寒中登山大展望★★★

桑本栄太郎
倒壊の能登の微塵に寒の雨★★★
避難所のビニールハウス寒の雨★★★
孤立せる村に無情や寒波来る★★★