12月1日

●小口泰與
熱燗や大河を越ゆる風の音★★★★
大河は作者の住いから言えば、利根川であろう。川風の音は颪とはまた違った趣だが、寒々と川を渡り吹く風の音に酒も熱燗が嬉しい。(高橋正子

十州の境や山の眠りおり★★★
隼の風袈裟切りに飛びにけり★★★

●河野啓一
冬の川碧く光りて西の方★★★★
西の方に光る碧い静けさに惹かれる。眺めれば、冬の川が水も碧く光って横たわっているのが、西の方なのである。(高橋正子)

年相応不如意続きて師走かな★★★
鳥影の舞うかと見れば柿の葉散る★★★

●桑本栄太郎
紅と黄とみどりの交じる落葉踏む★★★★
落葉といえども、時期が来て同じように散るのではない。紅色や黄色になったもの、中には散るには早い緑の葉もある。色とりどりの紅葉の季節を踏む日常がある。(高橋正子)

ちりちりと満天星つつじの冬紅葉★★★
山襞の夕日に赤し冬の嶺★★★

●多田有花
冬晴れの播丹国境を歩く★★★
冬麗のなかに立ちおり千ヶ峰★★★
小春の山下りゆっくりとぬるめの湯★★★

●黒谷光子
頂上は初冠雪らし伊吹山★★★

洗い終え積めば輝く蕪の白★★★★
抜いてきた蕪を洗い、洗った分を積み上げ、ついに洗い終えると、輝くばかりの真っ白い蕪の山となった。これから漬物などに仕込まれるのだろうが、その見事なみずみずしさに、うれしさも湧く。(高橋正子)

蕪引きて煮物に汁にあちゃら漬け★★★

●小西 宏
セーターを脱いで湯気立つ遊びの子★★★★
遊んでいる子が暑くなってセーターを脱ぐと、体から湯気が立っている。子供の活動量はすざましい。(高橋正子)

枯れ芝をはたき夕日に腰上げる★★★
里山に残る夕日や冬もみじ★★★

●佃 康水
栴檀の実へ青空の近くなり★★★★
栴檀の実は熟れると金色になり、地上よりむしろ青空のものとなる。青空が近くなるのだ。(高橋正子)

藪深くかさり音たて笹子鳴く★★★
浅瀬に餌掘り出す鴨へ砂煙★★★

12月1日(日)

★鈍行のことこと芽麦を渡りいる  正子
鈍行列車が芽吹きだした麦畑を走りだした。ことことと。麦畑を見たことがない現在、絵を見ているような、幼かった田舎の風景が蘇ります。 (祝恵子)

○今日の俳句
わさわさと大きな蕪の一輪車/祝恵子
一輪車をはみ出して「わさわさと」運ばれる蕪の葉がまことに生き生きしている。(高橋正子)

○冬珊瑚(玉珊瑚)

[冬珊瑚/東京白金台・自然教育園]

★冬珊瑚東海に日は燃えいでぬ/豊長みのる
★冬さんご熟し四十路の悔ばかり/竹内定子
★掌にすくふ水のつめたさたまさんご/久松かつ子
★階段を上るも愉し冬珊瑚/819maker
★御稲荷さん入口の冬珊瑚かな/819maker

 茄子(なす)科。学名:Solanum pseudo-capsicum。ブラジル原産。明治中期に渡来。夏から冬にかけて鮮やかな色の丸い実をいっぱいつけるので、その姿を珊瑚に見立て、時期と合わせて「冬珊瑚」という名前になったとのこと。
 実の色の遷移がおもしろく、花を咲かせたあとで緑色の実になり、それが「緑 → 黄 → 橙」の順で色づく。いろんな段階の色の実が同居して緑色の実、黄色の実、橙色の実がほぼ同時に楽しめる。実はきれいだが毒があるらしく、食用にはならない。寒さに強い。
 別名「ビッグボーイ」「クリスマスチェリー」「玉珊瑚(たまさんご)」。いずれも、実の形からの命名のようだ。12月10日(世界人権デー・三億円事件の日・ノーベル賞授賞式・アロエヨーグルトの日)の誕生花

◇生活する花たち「山茶花・柊・桜黄葉」(横浜日吉本町)