チェロ
髙橋正子
チェロが背負われて行く。
革靴がきゅっきゅつと
同じテンポで
春の夜道を歩いていく
チェロは背負われて
帰っていく
チェロは背中で
光っていた。
チェロケースのプラスチックが
紺いろに光っていた。
夜の道を
男に背負われて
帰っていく。
ああ、ここは都会だ。
田舎では チェロさえ見なかった。
見たとしても、
いや、見たことはなかった。
セロ弾きのゴーシュが
ほんとうに下手なのか、
知らない。
チェロがどんなものなのか、
それが男のものなのか、
女のものなのか。
ときどき見る
電車のなかに運び込まれる。
へえー と思って見る。
田舎では見なかった。
ここは都会なのだ。