6月2日

★八十八夜のポプラに雀鳴きあそぶ  正子
八十八夜と言えば童謡「茶摘み」を思い起こします。この頃は柔らかな日差しと眼にも優しい若葉がそよぎ爽やかな風を心地よく感じられる季節です。また雀たちは日脚の伸びた明るいポプラに何時までもその喜びに囀っていたのでしょう。若葉と囀り、明るさに満ち溢れた夏の近づく音を感じます。また、「鳴きあそぶ」に可愛い雀に対して作者の優しい眼差しをも思われます。 (佃 康水)

○今日の俳句
筍を茹でつつ糠を噴き零す/佃 康水
筍を茹でるとき油断すると灰汁を抜き、柔らかくするために加えた糠が吹きこぼれる。鍋や釜の縁に吹きこぼれた糠がこびりつくこともある。しかし、こういう事に季節の暮らしがある。(高橋正子)

○八十八夜

★磧湯(かわらゆ)の八十八夜星くらし/水原秋桜子
★きらきらと八十八夜の雨墓に/石田波郷
★逢ひにゆく八十八夜の雨の坂/藤田湘子
★旅にて今日八十八夜と言はれけり/及川 貞
★八十八夜都にこころやすからず/鈴木六林男

 八十八夜(はちじゅうはちや)は、雑節のひとつで、立春を起算日(第1日目)として88日目、つまり、立春の87日後の日である。21世紀初頭の現在は平年なら5月2日、閏年なら5月1日である。数十年以上のスパンでは、立春の変動により5月3日の年もある。
 あと3日ほどで立夏だが、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」などといわれるように、遅霜が発生する時期である。一般に霜は八十八夜ごろまでといわれているが、「九十九夜の泣き霜」という言葉もあり、5月半ばごろまで泣いても泣ききれない程の大きな遅霜の被害が発生する地方もある。そのため、農家に対して特に注意を喚起するためにこの雑節が作られた。八十八夜は日本独自の雑節である。
 この日に摘んだ茶は上等なものとされ、この日にお茶を飲むと長生きするともいわれている。茶の産地である埼玉県入間市狭山市・静岡県・京都府宇治市では、新茶のサービス以外に手もみ茶の実演や茶摘みの実演など、一般の人々も参加するイベントが行われる。
 「♪夏も近づく八十八夜…」と茶摘みの様子が文部省唱歌『茶摘み』に歌われている。
昭和7年(1932年)『新訂尋常小学唱歌 第三学年用』

茶摘/文部省唱歌
一、
  夏も近づく八十八夜、
  野にも山にも若葉が茂る。
  「あれに見えるは
  茶摘ぢやないか。
  あかねだすきに菅の笠。」
二、
  日和つづきの今日此の頃を、
  心のどかに摘みつつ歌ふ。
  「摘めよ、摘め摘め、
  摘まねばならぬ、
  摘まにや日本の茶にならぬ。」

○枇杷

[枇杷の実/横浜日吉本町]

★高僧も爺でおはしぬ枇杷を食す 虚子
★青峡の中に一樹の枇杷の鈴 風生
★飼猿を熱愛す枇杷のあるじかな 蛇笏
★枇杷の実の上白みして熟れにけり 石鼎
★降り歇まぬ雨雲低し枇杷熟れる 久女
★枇杷を吸ふをとめまぶしき顔をする 多佳子
★枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ 汀女
★枇杷の種赤く吐き出す基地の階 不死男

 枇杷(ビワ、学名: Eriobotrya japonica)は、バラ科の常緑高木およびその果実。中国南西部原産。英語の「loquat」は広東語「蘆橘」(ロウクワッ)に由来する。日本には古代に持ち込まれたと考えられている。またインドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本からイスラエルやブラジルに広まった。トルコ、レバノン、ギリシャ、イタリア南部、スペイン、フランス南部、アフリカ北部などでも栽培される。葉は互生し、葉柄は短い。葉の形は20cm前後の長楕円形で厚くて堅く、表面が葉脈ごとに波打つ。縁には波状の鋸歯がある。花期は11~2月、白い地味な花をつける。花弁は5枚。葯には毛が密に生えている。自家受粉が可能で、初夏に卵形をした黄橙色の実をつける。果実は花たくが肥厚した偽果で、全体が薄い産毛に覆われている。長崎県、千葉県、鹿児島県などの温暖な地域での栽培が多いものの若干の耐寒性を持ち、寒冷地でも冬期の最低気温-10℃程度であれば生育・結実可能である。露地成熟は5月~6月。

 枇杷の実で思い出すことはいろいろある。昔は田舎には、どの家にもというほどではなかったにしろあちこちに枇杷の木があった。雨がちな季節に灯をともすような明るさを添えていた。晩秋、枇杷の花が匂い、小さな青い実をいつの間にかつけて、この実が熟れるのを待っていた。枇杷が熟れると籠いっぱい葉ごともぎ取っていた。おやつのない時代、子どもは枇杷が大好きで沢山食べたがったが、大人から制裁がかかった。衛生のよくない時代、赤痢や疫痢を恐れてのことであった。サザエさんの漫画にもそんな話がある。枇杷を買ってきて、子どもに内緒で夜、大人だけこっそり食べる話。ところが寝ぼけた子どもが起きてきて、急いで食卓の下に枇杷を隠したものの、結んだ口から枇杷の種がポロリとこぼれ、露見するという話。
もうひとつ、童謡に「枇杷の実が熟れるよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ」「枇杷の木がゆれるよ、ねんねこ、ねんねこ、ねんねこよ」という歌詞があった。灯ともすような枇杷の実の色は、幼子をやすらかな眠りに誘うような色だ。
今は、茂木枇杷など、立派で高価な枇杷が果物屋に宝物のように箱に詰められて並んでいる。

★枇杷の実の熟れいろ雨に滲みたり/高橋正子

◇生活する花たち「紫陽花」(北鎌倉・東慶寺)

●自由な投句箱/6月1日~10日●


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今日の秀句/6月1日~10日


[6月10日]

★万緑を吉野へ向かう鉄路かな/古田敬二
万緑の中を吉野へとさらに深く分け行く鉄路。沿線の緑の深さに心豊かになってゆく心地を楽しむ作者が見える。(高橋正子)

[6月9日]

★山の宿さっぱりとした藍浴衣/小口泰與
山の宿の涼しさを思うと、藍染めの浴衣が一層涼しくさっぱりと思える。「さっぱり」から、糊の効いた藍が匂うような浴衣が想像できる。(高橋正子)

[6月8日]

★父の日のセーター薄からず厚からず/河野啓一
父の日は、梅雨寒の日もある6月の第三日曜日。夏とは言え、一枚上着が欲しい日も。「薄からず厚からず」のセーターは、もってつけの一枚だ。「薄からず厚からず」を心がける贈り手の情愛も読み取れる。(高橋正子)

★万緑の一隅新し木のベンチ/古田敬二
万緑というからには、木々は歳月を経ている。万緑の一隅に木の香りも新しいベンチが据えられた。万緑の下で憩う快さが提供された。万緑の緑色と、木の椅子の白さが対比されて互いがより鮮やかだ。(高橋正子)

[6月7日]

★昼顔や牛の鳴き声おちこちに/小口泰與
うす桃色の昼顔が咲き、あちこちに牛がのどかに鳴く。日常忙しく過ごしているものには、別世界のように、ゆっくりとした、優しいところだ。(高橋正子)

[6月6日]

★花火の夜駅に湧きたる浴衣かな/廣田洋一
花火がある夜は、駅に浴衣を着た人たち、特に若い子たちが駅に湧きあふれる。浴衣の良さ、花火の美しさは、日本の夏の風物詩。(高橋正子)

★衣更えて自転車に髪なびかせ/小口泰與
衣更えをして夏服になった女生徒が、颯爽と自転車で通り過ぎる。眺めても爽やかですがすがしい。

[6月5日]

★森の気を吸いて老鶯啼き止まず/河野啓一
老鶯と言われる夏の鶯は、繁殖のために山に上がって来た鶯。山気のひんやりとした中で鶯は、長々と歌い続ける。美しい声は、「森の気を吸っている」からこそと作者は思う。(高橋正子)

[6月4日]

★夏帯の色をピンクと決めにけり/上島祥子
夏帯の色を、ピンクと決めた。ご自分のではなく、お子さんの帯だろう。夏帯のピンクはかわいらしく涼しげだ。「決めた」はこれが今もっとも季節にも、帯を締める子にもふさわしいからだ。(高橋正子)

[6月3日]

★六月や世界中からヒロシマへ/谷口博望(満天星)
今まで、このようなことがあったろうか。5月にオバマ大統領が広島を訪問し、その意義で世界中の注目を集めた。核廃絶し、平和を目指す世界の意志の表れが、6月になって急に進んだということであろう。(高橋正子)

[6月2日]

★跣にて土踏み鳴らす幼児たち/廣田洋一
跣がうれしい季節になった。跣で過ごせる開放感は、人間の素に還った気持ち。なかでも幼児は、跣になって、走り回ったり、どろんこ遊びなどするのは大好きだ。幼児たちの歓声が聞こえる。(高橋正子)

[6月1日]

★山上湖眼間に見ゆ星涼し/小口泰與
山上湖は固有名詞ではなく、山の上にある湖。水が澄んで平らな水面には周囲の山容を映し、釣り人には魅力の湖らしい。山の上の湖では、星も眼間に見える。空気も澄んで星はさらに美しく涼しく目に映る。それを詠んだ。(高橋正子)

6月1日~10日


6月10日(6名)

●廣田洋一
幽霊を出迎え動く玩具かな★★★
下枝の広がり咲きし立葵★★★
夏野原木陰辿りて過ぎりけり(原句)
夏野原木陰辿りて過ぎりゆき★★★★(正子添削)

●河野啓一
薫風や雨上がりたる箕面山★★★
木漏れ日の狭庭に光る百合の花★★★
緑陰を出でて小雀パン屑に★★★★

●小口泰與
昼顔や田川の流れ滔滔と★★★★
上州の鍋割山も梅雨を溜め★★★
補陀落を越え来し雲よ安居寺★★★

●谷口博望(満天星)
余生てふスローライフや時計草★★★
梔子の花匂いけり夜の散歩★★★★
茎赤き珊瑚樹の咲く城址かな★★★

●桑本栄太郎
金色となりし川辺や小判草★★★
雨つぶのしずく煌めきねぶの花★★★★
木苺の鉢に色づくケーキ店★★★

●古田敬二
万緑のトンネル抜けて万緑へ★★★
万緑を吉野へ向かう鉄路かな★★★★
万緑の中を吉野へとさらに深く分け行く鉄路。沿線の緑の深さに心豊かになってゆく心地を楽しむ作者が見える。(高橋正子)

早苗田に白き点描鷺集う★★★

6月9日(6名)

●谷口博望(満天星)
折鶴のオバマの願い夏来る★★★★
傘差して行き交う人や花菖蒲★★★
毎日がフリータイムや時計草★★★

●小口泰與
更衣母の遺せし鯨尺★★★
山の宿さっぱりとした藍浴衣★★★★
山の宿の涼しさを思うと、藍染めの浴衣が一層涼しくさっぱりと思える。「さっぱり」から、糊の効いた藍が匂うような浴衣が想像できる。(高橋正子)

★隠り沼(こもりぬ)の鯉のあぎとう五月晴★★★

●廣田洋一
梅の実の緑光れる葉の合間★★★★
梅の実の届かぬ先は棒叩き★★★
実梅採り先頭に立つ祖母なりし★★★

●古田敬二
緑陰という名に包まれ森を行く★★★
真四角のモザイク麦秋早苗田も★★★★
大和路を歩く苗田をみぎひだり★★★(正子添削)

●迫田和代
朝日受け鮮やかな新緑の散歩道★★★★
いい木陰日傘を閉じて涼風を★★★
白波の音といっしょに夏の海★★★

●桑本栄太郎
雨蛙鳴いて訪いを報らせけり★★★
食い初めの創作料理や額の花★★★
集落の植田に映る入日かな★★★★

6月8日(6名)

●小口泰與
滝つぼへ日矢の差しけり魚の影★★★
山にまだ日の在るうちや岩魚釣★★★★
五月晴浮子の流れのみるみると★★★

●廣田洋一
鷺草や白く染めたり鉢の上★★★
鷺草や水玉光る雨上がり★★★★
鷺草や心和みて佇めり★★★

●谷口博望(満天星)
合歓の木の花咲く下で犀眠る★★★★
菩提樹の花の笹船天竺へ★★★
パラパラと毛虫の糞は桜色★★★

●河野啓一
辣韮の浅漬け嬉し朝の膳★★★
梅雨入りして白き花々目立ちたる★★★
父の日のセーター薄からず厚からず★★★★
父の日は、梅雨寒の日もある6月の第三日曜日。夏とは言え、一枚上着が欲しい日も。「薄からず厚からず」のセーターは、もってつけの一枚だ。「薄からず厚からず」を心がける贈り手の情愛も読み取れる。(高橋正子)

●桑本栄太郎
山口の青嶺遠嶺の車窓かな★★★★
徳利に笠の山頭火碑や梅雨に入る★★★
梅雨闇の嶺の端確とありにけり★★★

●古田敬二
万緑という季語嬉しく森を行く★★★
万緑の一隅新し木のベンチ★★★★
万緑というからには、木々は歳月を経ている。万緑の一隅に木の香りも新しいベンチが据えられた。万緑の下で憩う快さが提供された。万緑の緑色と、木の椅子の白さが対比されて互いがより鮮やかだ。(高橋正子)

薫風に座す新しき木のベンチ★★★

6月7日(4名)

●(満天星)
クレイ舞うリングの記憶墜栗花雨★★★
せせらぎの山路を行けば河鹿鳴く★★★★
花栗の香を纏いけり雨雫★★★

●小口泰與
黄薔薇の色の調う山家かな★★★
昼顔や牛の鳴き声おちこちに★★★★
うす桃色の昼顔が咲き、あちこちに牛がのどかに鳴く。日常忙しく過ごしているものには、別世界のように、ゆっくりとした、優しいところだ。(高橋正子)

紅ばらや中野昆布の赤き箱★★★

●廣田洋一
梅雨入りや庭の草々生き々と★★★
風薫る池の端にて一服す★★★★
せせらぎの音絶え間なし風薫る★★★

●桑本栄太郎
<孫のお食い初めに山口へ>
麦秋のコンバインゆく曇り空★★★★
食い初め赤子あくびや七変化★★★
赤瓦屋根に入日の植田かな★★★

6月6日(4名)

●谷口博望(満天星)
天守閣ライトの影に青葉木菟★★★★
紅白の夾竹桃やちらほらと★★★
首痛の始まりにけり梅雨の入り★★★

●小口泰與
自転車の髪なびかせし衣更(原句)
衣更えて自転車に髪なびかせ★★★★(正子添削)
衣更えをして夏服になった女生徒が、颯爽と自転車で通り過ぎる。眺めても爽やかですがすがしい。

※「更衣」と、「衣更う」は、違いますので、ご確認ください。

居酒屋の伊達の漢や冷奴★★★
残照浅間悶絶冷し酒★★★

●廣田洋一
隣人と見上げる花火和みけり★★★
大空に咲きし花火や美しく散る★★★
花火の夜駅に湧きたる浴衣かな★★★★
花火がある夜は、駅に浴衣を着た人たち、特に若い子たちが駅に湧きあふれる。浴衣の良さ、花火の美しさは、日本の夏の風物詩。(高橋正子)

●河野啓一
街の雨一列白き山法師★★★★
色比べ鉄砲百合と白アジサイ★★★
デイの風呂修理開始や梅雨入りして★★★

6月5日(4名)

●谷口博望(満天星)
干潮の泥に紛れて夏の鴨★★★
梯梧咲き沖縄の空広島に★★★
花合歓の鵞鳥家族や山上湖★★★★

●小口泰與
ばら散りて風に弾みし夕べかな★★★★
流れ着く河原さわの青胡桃★★★
青芝のあだにおちこち土竜道★★★

●廣田洋一
リオ目指し江の島沖のヨットかな★★★★
梅雨最中みたらし団子せがむ子ら★★★
梅雨に入り物干台の人気無し★★★

●河野啓一
森の気を吸いて老鶯啼き止まず★★★★
老鶯と言われる夏の鶯は、繁殖のために山に上がって来た鶯。山気のひんやりとした中で鶯は、長々と歌い続ける。美しい声は、「森の気を吸っている」からこそと作者は思う。(高橋正子)

鄙の田の空映したる鳥の声★★★
老鶯や阿讃山脈遠からず★★★

6月4日(3名)

●谷口博望(満天星)
夏薊父を知らずに七十年★★★
花樗急ぎ散りけり青き実に★★★★
泰山木の花は闇世を照らす★★★

●小口泰與
老農の畷闊歩や雲の峰★★★
水鉄砲雀軒端へ並びにける★★★
この雨の上がれよ庭の白薔薇★★★

●上島祥子
夏帯の迷わずピンクに決めにけり
夏帯の色をピンクと決めにけり★★★★(正子添削)
夏帯の色を、ピンクと決めた。ご自分のではなく、お子さんの帯だろう。夏帯のピンクはかわいらしく涼しげだ。「決めた」はこれが今もっとも季節にも、帯を締める子にもふさわしいからだ。(高橋正子)

プレートの改められて夏花壇★★★
スイミング昇級の報駆け足で★★★

6月3日(5名)

●谷口博望(満天星)
六月や世界中からヒロシマへ★★★★
今まで、このようなことがあったろうか。5月にオバマ大統領が広島を訪問し、その意義で世界中の注目を集めた。核廃絶し、平和を目指す世界の意志の表れが、6月になって急に進んだということであろう。(高橋正子)

仄かなり泰山木の花匂う★★★
高きよりダンディーな声四十雀★★★

●河野啓一
夏木立せせらぎに沿い静まれる★★★
歯科治療みどりの中を車椅子★★★
緑陰に吊り床ゆらし空を見る★★★★

●小口泰與
昇り藤園児の帽の赤白黄★★★
手をつなぎ駈け出す園児いちご畑★★★★
ずみの花湖の波立つ朝まずめ★★★

●桑本栄太郎
田植機のビルの間や青き風★★★★
ひらひらと風の木蔭の四葩かな★★★
緑陰や赤信号の何処までも★★★

●廣田洋一
谷間に一筋白き滝の水★★★
薔薇園や日米欧の美を競う★★★
池端の蔓草除く庭師達★★★★

6月2日(4名)

●小口泰與
薫風や習字手本の卓上に★★★★
夏霧の奇岩に湧きて峡に去る★★★
西日中チワワまるまる五キロ肥ゆ★★★

●谷口博望(満天星)
老鶯や大亀耳を傾けぬ★★★
夏めくや烏の行水まのあたり★★★★
夏薊静御前が道を行く★★★

●廣田洋一
夏野原細き道行く昼下がり★★★
裸足の子忍び足にて虫捉ふ★★★

跣にて土踏み鳴らす幼児たち★★★★
跣がうれしい季節になった。跣で過ごせる開放感は、人間の素に還った気持ち。なかでも幼児は、跣になって、走り回ったり、どろんこ遊びなどするのは大好きだ。幼児たちの歓声が聞こえる。(高橋正子)

●桑本栄太郎
鞍馬山夏のかすみの遠嶺かな★★★★
重き荷を背負うと見たりかたつむり★★★
バス出れば揺れ止まざるよ金糸梅★★★

6月1日(5名)

●谷口博望(満天星)
赤手蟹松ぽっくりの傍に死す★★★
山桜桃の実妻は昔を懐かしむ★★★★
嗅ぎたきや泰山木の花の香を★★★

●小口泰與
雷鳴や庇の下に魚籠吊られ★★★
山上湖眼間に見ゆ星涼し★★★★
山上湖は固有名詞ではなく、山の上にある湖。水が澄んで平らな水面には周囲の山容を映し、釣り人には魅力の湖らしい。山の上の湖では、星も眼間に見える。空気も澄んで星はさらに美しく涼しく目に映る。それを詠んだ。(高橋正子)

ねじ花や里の田川のみな曲がる★★★

●廣田洋一
更衣とつくに済ませノーネクタイ★★★
紫陽花やピンクの手毬跳ね上がる★★★
水牛車虻を引き連れ川渡る★★★★

●桑本栄太郎
十字架を抱く青嶺や摂津峡★★★
山影の映る植田の隘路かな★★★★
夕映えの水田鏡や山の影★★★

●河野啓一
黴嫌う時期とや吾らは共に棲む★★★
永らくも目高を飼わぬ翁かな★★★
ビオトープありて薫風青い空★★★★