11月20日(水)

★咳こぼし青年ふたり歩み去る  正子
青年とはいえ、常に頑強ではありません。殊に冬は喉をいため、咳をこぼしがち。足早に歩むほど丈夫ではあるけれど、今は風邪気味のふたりが、まるで挨拶のように空咳を交わしながら傍らを過ぎる。視界から消えてもコンコンと咳が響き、乾燥した街の人の往き来が、胸に沁みます。(川名ますみ)

○今日の俳句
一棟をきらきらと越す落葉風/川名ますみ
落葉を連れて風がマンションの一棟を越えていった。きらきら光るのは、落葉も、風も。明るく、高みのある句だ。(高橋正子)

○百日紅の実

[百日紅の実/横浜日吉本町]        [百日紅の花/横浜日吉本町]

★武家屋敷めきて宿屋や百日紅 虚子
★百日紅乙女の一身またたく間に 草田男
★朝雲の故なくかなし百日紅 秋櫻子
★百日紅われら初老のさわやかに 鷹女
★いつの世も祷りは切や百日紅 汀女
★女来と帯纏き出づる百日紅 波郷

 サルスベリ(百日紅=ヒャクジツコウ、Lagerstroemia indica)は、ミソハギ科の落葉中高木。葉は通常2対互生(コクサギ型葉序)、対生になることもある。花は紅の濃淡色または白色で、円錐花序になり、がくは筒状で6裂、花弁は6枚で縮れている。8月頃咲く。
 本年枝の先に円錐花序を付ける。花弁はほぼ円形だが、不規則に縮れ、基部に長い柄のようなもの(爪)がある。独特の花冠になる。雄しべは多数あるが、特に6本長いものがある。1つの花は1日花(実際には数日)だが、次々に花が開くため、長い間咲いているように見える。実は球形の果。熟すと6裂し、翼のある種子が出てくる。
 さるすべりには、白、赤、ピンクの花がある。赤とピンクの色は、微妙に違った花が見られる。夏の間、夾竹桃と並んで咲き継ぐのが「さるすべり」。幹がつるつるして木登り上手な猿が滑り落ちるから、こんな名がついたのか。四国松山に住んでいた頃、わが家の庭の真ん中にあったのが、薄紫に近いピンク。風が吹けばフリルのような花がこぼれる。真っ青な空も、炎昼の煙るような空にも似合う。さるすべりには、古木も多く、日吉の金蔵寺には、幹の半分以上がなくなっているが、残った幹がよく水を通わせるのか花を相次いで咲かせている。県の名木に指定されている。

◇生活する花たち「椿・野葡萄・くこ」(横浜市都筑区東山田)

11月20日

●小口泰與
茜さす雪の浅間や風ゆたか★★★★
「風ゆたか」が意外であり、この句を特徴づけている。まだ寒くない夕日に染まる浅間山である。(高橋正子)

冬空へ雲版強く叩きけり★★★
あけぼのや顔を打ちゆく北颪★★★

●多田有花
風吹けば赤さ冴えたり実南天★★★
めくや昼の地震が揺らす窓★★★
自転車をこいで去りゆく冬帽子★★★★
なんのことはない。冬帽子を冠った人が自転車を漕いで行ったということ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
青空のあくまで蒼く冬紅葉★★★
冬紅葉峰の奥まで日差しけり★★★★
紅葉すると、天文的にはそういう季節であることなのだが、日差しは斜めに遠くから差し入る。冬紅葉が透明感を増す。(高橋正子)

川べりの風の瀬音や冬紅葉★★★

●川名ますみ
着信は母の写せし散紅葉★★★
目黒川桜紅葉を載せ静か★★★

【原句】川の面に桜紅葉のふれ流る
【添削】川の面の桜紅葉にふれ流る★★★★
桜紅葉の枝が枝垂れて川面に届いている。川の水は桜紅葉をさらうことなく触れては流れている。桜の花の咲くころとは、また違った趣。(高橋正子)

●河野啓一
ポインセチア並ぶ街角明るくて★★★
朝日差す並木の紅葉は桜と銀杏★★★★
桜と銀杏の「もみじ」は、桜は紅葉、銀杏は黄葉と書き分けられる。その色の対比も美しいが、さらに朝日が差して桜紅葉も銀杏黄葉も色があざやかになった。(高橋正子)

山茶花のの苗掘り上げて鉢に植え★★★