●河野啓一
病室の窓の眺めや秋彼岸★★★
箕面山秋深まりてせせらぎに★★★
澄み渡る大気や富士のご来光★★★
●小口泰與
山風にざわっと走る稲穂かな★★★★
山からの風が稲穂をざわっと走らせる。「ざわっと」に山風らしい、少々の粗さも見える。それが稲穂のある場所をよく想像させてくれる。(高橋正子)
秋の田や暁雲駆ける赤城山★★★
遠山の先のさきなる秋の雲★★★
●小川和子
銀杏の実熟れしが弾みつつ降りぬ★★★★
もう、銀杏の実が熟れて落ちる季節になったのかと思う。「弾みつつ落ちる」には作者のうれしさも込められているのだろう。銀杏の実も熟れて落ちるのがうれしいようだ。(高橋正子)
法師蝉森の空へと鳴き尽くす★★★
群れて咲く一本ずつの彼岸花★★★
●桑本栄太郎
路地を抜け秋の風鈴鳴るを聞く★★★
垣間見る庭の小径やみむらさき★★★
初孫の吾の故郷へ秋彼岸★★★
●佃 康水
煉り塀を越えし紫苑へ蜆蝶★★★
山裾へ飛火するかに彼岸花★★★
人参を撒きて袋を畑に挿し★★★
●高橋秀之
星空は明るく遠く秋の夜★★★
秋彼岸供花の水挿し満杯に★★★★
秋の彼岸は、暑さもまだ残る。供花の花入れ、水挿しに、水をなみなみといれる。花も生きいきとし、故人の喜びも一層であろう。(高橋正子)
貨物列車ゆく間鳴きやむ虫の声★★★
★パイプ椅子天の川へと向け置かれ 正子
夜も更け暮しの灯も落ちて来た頃、漆黒の夜空に輝く天の川をゆっくり眺めようと持ち運びし易いパイプ椅子を用意されたのでしょうか。澄み渡った今宵の空への期待と作者の心のゆとりまでも感じられる涼やかな御句です。(佃 康水)
○今日の俳句
ゆきあいの空へコスモス揺れどうし/佃 康水
「ゆきあいの空」がなんともよい。出会った空にコスモスゆれどうしている。そんな空に明るさと夢がある。(高橋正子)
○曼珠沙華

[曼珠沙華/東京白金台・国立自然教育園] [曼珠沙華/横浜・四季の森公園]
★曼珠沙花あつけらかんと道の端 漱石
★木曾を出て伊吹日和や曼珠沙華 碧梧桐
★駆けり来し大烏蝶曼珠沙華 虚子
★彼岸花薙がば今もや胸すかむ 亞浪
★悔いるこころの曼珠沙華燃ゆる 山頭火
★曼珠沙華無月の客に踏れけり 普羅
★崖なりに路まがるなり曼珠沙華 石鼎
★葬人の歯あらはに哭くや曼珠沙華 蛇笏
★曼珠沙華五六本大河曲りけり 喜舟
★投網首に掛けて人来る彼岸花 汀女
★曼珠沙華茎見えそろふ盛りかな 蛇笏
★曼珠沙華傾き合ひてうつろへり 泊雲
★むらがりていよいよ寂しひがんばな 草城
★考へても疲るるばかり曼珠沙華/星野立子
★曼珠沙華今朝咲きぬ今日何をせむ/林翔
★青空に声かけて咲く曼珠沙華/鷹羽狩行
★水に水ぶつかり勢ふ曼珠沙華/能村研三
曼珠沙華は、稲が熟れるころになると、突然に咲く。花が咲くころは、葉も茎もないから、ある日赤い蝋燭の炎のような蕾がついて、蕾があるな、と思うともう開くのである。稲田の縁や小川のほとりに数本のこともあれば、群れて咲くこともある。彼岸のころ咲くからだろう、学名がヒガンバナである。やっと気候がよくなって旅をすれば、車窓から真っ赤な曼珠沙華が稲田を彩って咲いているのをよく見かける。日本の秋には欠かせない花だ。曼珠沙華には毒があるから、さわったらよく手を洗うように言われた。摘んで帰っても、家に活けてはだめと言われた。
毒があると知りながらも、こどもたちは曼珠沙華を折って、茎を2センチほど、茎の表皮を残してに繋がるように折り、首飾りを作った。つくったけれど、首にかけたことはない。野原の草で遊んだころだ。
★旅すれば棚田棚田の曼珠沙華/高橋正子
★曼珠沙華日暮れの空の青きまま/〃
★起きぬけの目にりんりんと曼珠沙華/〃
日本には北海道から琉球列島まで見られるが、自生ではなく、中国から帰化したものと考えられる。人里に生育するもので、田畑の周辺や堤防、墓地などに見られることが多い。特に田畑の縁に沿って列をなすときには花時に見事な景観をなす。また、日本に存在するヒガンバナは全て遺伝的に同一であり、三倍体である。故に、種子で増えることができない。中国から伝わった1株の球根から日本各地に株分けの形で広まったと考えられる。学名のLycoris(リコリス)とはギリシャ神話の女神、海の精:ネレイドの一人、Lycoriasの名前からとられたもの。
◇生活する花たち「女郎花・葛の花・萩」(四季の森公園)
