5月30日(木)

 港の見える丘公園
★薔薇を見しその目に遠き氷川丸  正子

○今日の俳句
かしましき程の田道や揚ひばり/桑本栄太郎
田道は しずかに明るく、雲雀を邪魔するものもない。雲雀が野の明るさを謳歌している。(高橋正子)

○茄子の花

[茄子の花/横浜日吉本町(2010年6月3日)]_[茄子の花/横浜市都筑区川和町(2013年5月21日)]

★この辺でかみ合ふ話茄子の花/稲畑汀子
★ふだん着の俳句大好き茄子の花/上田五千石
★雨あとの土息づくや茄子の花/松本一枝
★茄子の花茄子に映つてをりにけり/木暮陶句郎

 茄子(なす)は、ナス科ナス属の植物。また、その果実のこと。原産地はインドの東部が有力である。その後、ビルマを経由して中国へ渡ったと考えられている。中国では広く栽培され、日本でも1000年以上に渡り栽培されている。温帯では一年生植物であるが、熱帯では多年生植物となる。日本には奈良時代に、奈須比(なすび)として伝わった。土地によっては現在もそう呼ばれることがある。女房言葉により茄子となった。以降日本人にとってなじみのある庶民的な野菜となった。葉とヘタには棘があり、葉には毛が生えている。世界の各地で独自の品種が育てられている。加賀茄子などの一部例外もあるが日本においては南方ほど長実または大長実で、北方ほど小実品種となる。本州の中間地では中間的な中長品種が栽培されてきた。これは寒い地域では栽培期間が短く大きな実を収穫する事が難しい上に、冬季の保存食として小さい実のほうが漬物に加工しやすいからである。しかし食文化の均一化などにより野菜炒めや焼き茄子など、さまざまな料理に利用しやすい中長品種が全国的に流通している。日本で栽培される栽培品種のほとんどは果皮が紫色又は黒紫色である。しかしヨーロッパやアメリカ等では白・黄緑色・明るい紫、さらに縞模様の品種も広く栽培される。果肉は密度が低くスポンジ状である。ヘタの部分には鋭いトゲが生えている場合がある。新鮮な物ほど鋭く、鮮度を見分ける方法の一つとなるが、触った際にトゲが刺さり怪我をすることがある。収穫の作業性向上や実に傷がつくという理由から棘の無い品種も開発されている。品種によってさまざまな食べ方がある。小実品種は漬物、長実品種は焼き茄子、米茄子はソテー。栄養的にはさほど見るべきものはないが、東洋医学では体温を下げる効果があるとされている。また皮の色素ナスニンは抗酸化作用があるアントシアニンの一種である。なかには、「赤ナス」のような観賞用として生け花などにも利用されているもの(熊本県などで「赤ナス」の商品名で栽培されている食用の品種とは別物)もある。赤ナスは食用のナスの台木としても用いられる(観賞用の赤ナスは味などにおいて食用には適さないとされる)。

 茄子の花は野菜の花のなかでも、句に詠まれることが多い。茄子は、濃い紫の茎、紫の色を残した緑の葉、うす紫の花、そして紫の実とその色合いが少しずつ違って一本となっている。その中で茄子の花の芯は一つ黄色で、そのおかげで花が生きている。夕方、野菜畑に水をやるときには、もっとも涼しそうな花である。

★茄子の花葉かげもっとも涼しかり/高橋正子
★茄子の木にもっとも淡し茄子の花/高橋正子

●8月号投句10句
夏来る空に
高橋正子

夏来る空に湧く雲流るる雲
薔薇垣と薔薇のアーチに人の住む
青嵐ふっと真昼の陰りたる
疲れ寝て覚めしところに風薫る
 東京白金台・自然教育園五句
浮葉抜け森の一花のあさざの黄
山あじさい辿れる道をふさぎ咲く
杜若残れる花の草に浮く
飯桐の落花あまたよ道濡れて
木にひたとこげら飛び来て森五月
茄子の木にもっとも淡し茄子の花

◇生活する花たち「紫陽花・カルミア・卯の花」(横浜日吉本町)

5月30日(木)

●川名ますみ
薫風に眠りし人よ雲のべつ★★★
梅雨入の今年は忌日より早く★★★
さくらんぼ炊いて隣にミントティ★★★

●小口泰與
登校の帽子の列や柿若葉★★★
大利根の中洲に降りし青鷺よ★★★
水際をさわに占めけり黒揚羽★★★

●河野啓一
梅雨入りして老いに優しき木々の色★★★
サツキ赤し益々赤し雨の中★★★
カレー食ぶこの蒸し暑さ吹き飛ばせ★★★

●桑本栄太郎
植え終わりすぐにそよぎぬ瓜の苗★★★★
苗物を植えて、すぐに根付いたようにそよぐのは嬉しいものだ。それが、瓜などの夏野菜となれば、涼しさを呼んでなおさらだ。(高橋正子)

水ふふむ風の匂いや梅雨に入る★★★
うす暗きひと日暮れゆく梅雨入りかな★★★

●小西 宏
熟れたるを犬と分け合う桜の実★★★
草刈の匂い沸き立つ日照り雨★★★
【原句】紫陽花の縁より青の広ぎゆく★★★
【正子添削】紫陽花の縁より青の広がりゆく
【正子添削】紫陽花の縁より青を広げゆく

●高橋秀之
早朝の窓から部屋へ若葉風★★★
目覚めれば夜明けの光若葉風★★★
ざわざわと木々の重なり夏の風★★★

5月29日(水)

●小口泰與
岩魚追う獣道をや登りけり★★★
鰻釣る蛇と見紛ううねりかな★★★
我立つと水面に集う目高かな★★★

●佃 康水
草叢の木苺朝の陽を返す★★★★
草叢の木に小さな実をつける木苺。つぶつぶの実が朝日をはね返すと、宝石のように輝く。小さく、フレッシュなものの可愛いさ。(高橋正子)

種々の樹のみな真っ白き花蜜柑★★★
老鶯や木魂のように啼き返す★★★

●桑本栄太郎
それぞれの丈にときめくルピナスよ★★★
医科大の樟の大樹や風薫る★★★
早苗田の山影よぎる車窓かな★★★

●藤田洋子
紫陽花にきれいな山の風が吹く★★★★
梅雨入りしたばかり。ときに、山には涼しく透明な、さらっとした風が吹く。それが「きれいな風。」紫陽花をさわやかに、軽やかにしている。(高橋正子)

見始めの紫陽花一つ大きなる★★★
紫陽花の毬それぞれに朝の色★★★

●小西 宏
草原を母さんと行く藁帽子★★★★
広く、青い草原を麦わら帽子を冠った母と子が行く。草原と母と子のみ。ことさらに何もない世界がいい。(高橋正子)

挨拶は軽鳧の子のこと草の池★★★
五月野を網持ち走るふくらはぎ★★★

●河野啓一
力矯めつぼみ抽き出すアマリリス★★★
アマリリス赤色秘めて伸び出る★★★
碁に負けて口惜しくもありアマリリス★★★

●川名ますみ
聖橋(ひじりばし)
緑蔭の先は明るき聖橋★★★★
聖橋は、お茶の水駅近くの神田川に架かるアーチ型の橋。湯島聖堂とニコライ堂をつなぐ橋という意味で、聖橋と命名されたという。湯島聖堂方面から見た光景が。橋の明るさが緑陰と対比されて、より明るい思いが感じられる。(高橋正子)

御茶ノ水橋の先蔦茂る橋★★★
御茶ノ水橋の向こうに青蔦の橋★★★