[12月1日~8日]
●迫田和代
初雪や原爆ドームの空に舞う★★★★
初雪はどこに降っても感動のあるものだが、とりわけ原爆ドームの空に舞うときは、さまざまなことが脳裏に浮かぶ。焼けたドームに透ける空に詩情がある。(高橋正子)
楽しみね何時もの道に冬日射し★★★
来春の艶を残して桜散る★★
杵突きの音も懐かし年の暮れ★★★
道端に咲ける野菊をただそれだけを★★★
一本の続く雪道に赤い傘★★★
●小口泰與
あけぼのの雨を弾きし青木の実★★★★
青木の実はやや楕円形で、つやつやと真っ赤に熟れる。あけぼのの冷たい雨を弾けば、艶も赤さも増して一層輝く。(高橋正子)
夕映えをたまわる雪の浅間かな★★★
大根引く赤城の裾野吹きさらし★★★
背を押され枯葉と駆けし風下へ★★★
群雀群れて降りたる冬田かな★★★
寒菊の此処のみ日矢の射しにけり★★★
●佃 康水
焚火して段取り話す浜漁師★★★★
冬の漁師浜は、寒さこの上なく、流木などを集めて焚火をする。漁の段取りの話も焚火を囲めば、いろいろ出てくることだろう。(高橋正子)
伐採の竹林冬の日矢とどく★★★
落葉掻く庭へ零るる群れ雀★★★
万両や奥まる庭へ真っ赤かな★★★
陽を湛え紅さす梅の冬芽かな★★★
風尖る家路へマフラー深く巻く★★
★印は、高橋信之先生が付け、コメントは、高橋正子先生が付けます。
■□添削10月
※★印は、高橋信之先生が付け、コメントは、高橋正子先生が付けました。
●藤田裕子
トンネルを抜けて眩しき稲穂田へ★★★★(正子添削)
「稲穂波」は使い古されて、言葉としてフレッシュさに欠けますので、添削しました。トンネルと稲穂田の明暗の切り替わりが鮮やかで、稲穂田の眩しさが強く目に焼きつきます。(高橋正子)
瀬戸の海釣り舟浮かべ秋の晴れ★★★
銀杏黄葉向こう駅舎の赤レンガ★★★
●藤田洋子
考古館
秋の日の勾玉一つ蒼く透く★★★★
勾玉は、単なる装飾ではなく魔よけなどの意味もあったようだ。秋の日なれば、蒼く透明に透く勾玉に弥生時代の人たちの魂が感じられるようだ。(高橋正子)
澄む秋の土師器一片籾のあと★★★★
組み上げし幟はためき秋祭り★★★★
御神灯戸毎に吊るし秋澄める★★★
新米の湯気を吹き上げ夕支度★★★
登り来て野萩の風のひとしきり★★★
一枝の萩に触れつつ丘登る★★★
青空の山道続き萩の花★★★
雲切れて見上げしところ月一つ★★★
一六夜ほのかに雲の奥を染め★★★
一六夜月の出を告げ夫帰る★★★
考古館
秋思ふと出土の甕に指を添え★★
●迫田和代
白菊や静かな日々をふり返る★★★★
白菊のたたずまいに、静かに過ごした日々が思い起こされる。清々しく、気高く香る日々のことを。高橋正子)
潮を見て向こうの島の冬仕度★★★★
刈り入れも終わりし稲田に道一つ★★★★
遠く来て白いりんどう目の前に★★★★
喘ぎつつ登る峠に野菊咲く★★★
さっと吹く風の冷たさ冬支度★★★
山水を含みてながむ薄紅葉★★★
窓の外朝日挿しこみ菊日和★★★
遠山の赤い輝き秋の暮★★★
瀬戸内に散ばる島々冬仕度★★★
国引きの大山全山紅葉かな★★★
冬咲きの苗を見ながらにっこりと★★
陽を浴びてフラフラフラと秋の蝶★★
花入れの野菊末枯れて次の花★★
秋冷の朝日眩しい細い腕★★
★大根の純白手中に面取りす 正子
寒くなって風呂吹き大根やおでんの季節がやってきました。真っ白な大根を手にとって角を削り、いわゆる面取りをしておられるところを詠まれた御句ですが、「純白手中に」の措辞が大変視覚的で臨場感感があり、湯気の立つ美味しい料理の出来栄えまでが読み手に伝わってくるようです。(河野啓一)
○今日の俳句
枯れ芙蓉枯れつくしたるを剪られけり/河野啓一
芙蓉の花が終わると、実が付く。その実がからからと枯れ、葉もほとんどが落ち、枯れ切ってしまうと、剪るにためらうことはない。さっぱりとした清潔感がある。(高橋正子)
○櫟黄葉(くぬぎもみじ)

[櫟黄葉/横浜・四季の森公園]
★冬紅葉長門の国に船着きぬ 誓子
★冬紅葉美しといひ旅めきぬ 立子
★強飯の粘ることかな冬紅葉 波郷
★楢櫟つひに黄葉をいそぎそむ/竹下しづの
★墓四五基櫟黄葉の下にあり/穴井研石
★櫟黄葉舞いて虚空の広さかな 格山
★露天湯や椚黄葉を傘として 光晴
★風と舞い谷をくだるや冬黄葉 陽溜
★鈍色の空にきはだつ冬黄葉 一葉
クヌギ(櫟)は、ブナ科コナラ属の落葉樹のひとつ。新緑・紅葉がきれい。クヌギの語源は国木(くにき)からという説がある[要出典]。古名はつるばみ。漢字では櫟、椚、橡などと表記する。学名はQuercus acutissima。樹高は15-20mになる。 樹皮は暗い灰褐色で厚いコルク状で縦に割れ目ができる。葉は互生、長楕円形で周囲には鋭い鋸歯がならぶ。葉は薄いが硬く、表面にはつやがある。落葉樹であり葉は秋に紅葉する。紅葉後に完全な枯葉になっても離層が形成されないため枝からなかなか落ちず、2月くらいまで枝についていることがある。花は雌雄別の風媒花で4-5月頃に咲く。雄花は黄色い10cmほどの房状に小さな花をつける。雌花は葉の付根に非常に小さい赤っぽい花をつける。雌花は受粉すると実を付け翌年の秋に成熟する。実は他のブナ科の樹木の実とともにドングリとよばれる。ドングリの中では直径が約2cmと大きく、ほぼ球形で、半分は椀型の殻斗につつまれている。殻斗のまわりにはたくさんの鱗片がつく。この鱗片が細く尖って反り返った棘状になっているのがこの種の特徴でもある。実は渋味が強いため、そのままでは食用にならない。
クヌギは幹の一部から樹液がしみ出ていることがある。カブトムシやクワガタなどの甲虫類やチョウ、オオスズメバチなどの昆虫が樹液を求めて集まる。樹液は以前はシロスジカミキリが産卵のために傷つけたところから沁み出すことが多いとされ、現在もほとんどの一般向け書籍でそう書かれていることが多いが、近年の研究で主としてボクトウガの幼虫が材に穿孔した孔の出入り口周辺を常に加工し続けることで永続的に樹液を浸出させ、集まるアブやガの様な軟弱な昆虫、ダニなどを捕食していることが明らかになった。いずれにせよ、樹液に集まる昆虫が多い木として有名であり、またそれを狙って甲虫類を捕獲するために人為的に傷つけられることもある。ウラナミアカシジミという蝶の幼虫はクヌギの若葉を食べて成長する。またクヌギは、ヤママユガ、クスサン、オオミズアオのような、ヤママユガ科の幼虫の食樹のひとつである。そのため昆虫採集家はこの木を見ると立ち止まってうろうろする。
クヌギは成長が早く植林から10年ほどで木材として利用できるようになる。伐採しても切り株から萌芽更新が発生し、再び数年後には樹勢を回復する。持続的な利用が可能な里山の樹木のひとつで、農村に住む人々に利用されてきた。里山は下草刈りや枝打ち、定期的な伐採など人の手が入ることによって維持されていたが、近代化とともに農業や生活様式が変化し放置されることも多くなった。(ブログ「菜花亭日乗」より)
◇生活する花たち「木瓜・いそぎく・千両」(横浜日吉本町)