6月10日(3句)
★緑陰や丸太小屋よりジャズ流れ/小口泰與
丸太小屋は、北アメリカの西部開拓の象徴のようなものだが、日本にも伝わって丸太小屋を楽しむ人たちがいる。その人たちはやはり開拓時代の文化にあこがれるのか、ジャズが好きで、緑陰の丸太小屋でジャズを流して、ゆとりある生活を楽しんでいる。(高橋正子)
★冷麦や一箸ごとに鳴る氷/廣田洋一
俳句でこそ詠みたいシーン。氷水に浮かべた冷麦を箸で掬うとそのたびに氷がふれて涼しそうな音を立てる。氷の音もごちそうに。(高橋正子)
★真夜中の月こうこうと植田を渡る/多田有花
真夜中の月は空高くのぼり、植田をこうこうと渡ってゆく。植田の月は、すばらしく美しい。(高橋正子)
6月9日(2句)
★噴煙の伸び行く先の青葉かな/小口泰與
日々眺めている浅間山の噴煙は、今日は青葉の方へ伸びていった。生き生きとした青葉と噴煙の伸びる様子が力強くて夏らしい。(高橋正子)
★皮脱ぎし竹のすらりと瑞々し/多田有花
皮を脱いだ竹がすらりと天にのびている姿は、見ていて気持ちがいい。「瑞々しい」と感じるのは、その若竹の色としなやかな戦ぎのせいだろう。(高橋正子)
6月8日(3句)
★紫陽花の香にむせたるや茶を喫す/廣田洋一
紫陽花の花がたくさん咲いている傍にいるのか。紫陽花は、近くにいると、力強い青くさい匂いがする。お茶を飲もうとすると、むせるような匂いだ。紫陽花を視覚だけでなく、嗅覚でとらえた句で、梅雨時のうっとしさを感じるリアルさがある。(高橋正子)
★集落の水音高く植田へと/多田有花
「集落」というは把握の仕方で、植田の水音が集中して高らかに聞こえる。単純化されたとらえ方がいい。(高橋正子)
★つつましき小花くりやに花南天/桑本栄太郎
くりやの窓などに小さな花を置いて楽しむことは、私もよくする。なんの花でも、一輪あれば台所仕事がたのしくなる。花南天の花がつつましく活けられて、いい暮らしがしのばれる。(高橋正子)
6月7日(2句)
★早苗田に棟映りて真昼なる/多田有花
うす緑の早苗を溺らすほど水が張られて、薄紫の花の棟を映している。「真昼なる」で、静かな明るさがたしかなものとなった。(高橋正子)
★サングラス掛けて歩めば影の濃く/桑本栄太郎
サングラスを掛けると、景色はうす暗くなるのだが、単に、うす暗くなるのではなく、
影となっているところは、濃いと、意外な発見。サングラス姿が粋になる。(高橋正子)
6月6日(1句)
★あめんぼの堰に至りて慌てけり/桑本栄太郎
水の流れも気にせず、あめんぼが気持ちよく泳いでいたが、堰のところにきて、席を落ちそうになり、そのはずではなかったと、慌てて脚を動かす。水の生き物ながら、その様子がおかしい。(高橋正子)
6月5日(2句)
★青胡桃利根上流の石の間に/小口泰與
利根川の上流には胡桃の木があって、風などで落ちた青胡桃が石の間に流れることもなく、挟まっている。青胡桃の小さな運命をそこに見た。(高橋正子)
★ショーウィンドウ薄暑の街を映しおり/多田有花
薄暑の街には、ショーウィンドウが強くなりはじめた日差し返している。日差しを強く反射して、街ゆく人や車、向こう側のビルなど映して、もうひとつ街を作っている。こんな景色に初夏の明るさが見える。(高橋正子)
6月4日(1句)
★青空に染まらぬ黄金麦の秋/廣田洋一
麦が熟れると畑は黄金色になる。熟れ麦の黄金色は、けっして青空を染めることはなく、截然と青と黄金を際立たせている。麦の熟れる季節のからっとした明るさがいい。
(高橋正子)
6月3日(1句)
★駅前に鐘を鳴らして氷菓売/廣田洋一
アイスキャンデーを売って移動する人をあまり見かけなくなったが、駅前で、チリンチリンを鐘を鳴らしてアイスキャンデーを売っている。これぞ夏の風物詩という光景だ。
(高橋正子)
6月2日(1句)
★木洩れ日の高き梢や青銀杏/桑本栄太郎
日を透かす銀杏の木に青い実がついている。緑の葉の中の青銀杏は、目に涼やかで気持ちのよいものだ。(高橋正子)
6月1日(1句)
★あめんぼうはや水捉ふ棚田かな/小口泰與
棚田に水が入れば、すぐに水の生き物たちが動き始める。あめんぼうも早速、水を捉えて、泳ぎ始めた。「捉える」にあめんぼうの手始めの慎重さがあって面白い。(高橋正子)