6月10日(月)

●小口泰與
雨を得て和紙のようなり白あやめ★★★
風立つや瀞に渦まくえごの花★★★
そよぎては香り広ごるえごの花★★★

●河野啓一
黒潮の豊かに寄せて青岬★★★★
「黒潮」と「青岬」の取り合わせが絵画的で印象深い。黒潮寄せる、緑滴る岬。涼しさと強さをもった景色だ。(高橋正子)

緑陰に句帳離せぬ車椅子★★★
夏の雲窓開け放したるクールビズ★★★

●古田敬二
ヨシキリを遠くに聞いて鍬を振る★★★★
敬二さんの畑仕事は、周囲を楽しみながらの農作業である。鍬を振れば、ヨシキリが遠くで鳴いてくれる。よき野の友である。(高橋正子)

紫陽花にその色残し陽が沈む★★★
初胡瓜やさしき棘が我を刺す★★★

●桑本栄太郎
万緑を歩み辿れば池のふち★★★
人の世の世事は厭わず枇杷熟るる★★★
来てみればすでに波打つ青田かな★★★

●小西 宏
陽の丘に唐黍の苗縦一列★★★
紫陽花の庭に余りて咲き溢(こぼ)る★★★
ベランダの如露に緑のプチトマト★★★

6月9日(日)

●小口泰與
百合の蘂赤城の風に逆らわず★★★
黒雲の透けて日矢射す矢車草★★★
定かなる鍋割山や立葵 ★★★

●迫田和代
麦秋の色の風吹く墓参り★★★★
麦秋のころの墓参は、お彼岸やお盆の墓参りと違って、故人の命日だったり、あるいは、たまたま思い立っての墓参だったりする。麦秋の色の風がしみじみと、懐かしく故人を思い出させる。(高橋正子)

渓流の鮎釣りの人に鮎の影★★★
ぎらぎらと入日が残す初夏の香を★★★

●河野啓一
夏星の溢れロベリア鉢植えに★★★
緑陰に句帳離せぬ車椅子★★★
アマリリスたくさん咲きし写真撮る★★★

●桑本栄太郎
雨降らぬ日差しうべない山法師★★★
花胡瓜の支柱の丈にまだ足らず★★★
あちこちへ穂がゆれ茅花流しかな★★★

●多田有花
<同窓会>
麦の秋みな過ぎし日を語りつつ★★★★
「麦の秋」は、セピア色となった過ぎし時を思い出させる季節である。セピア色となってゆく学生時代を懐かしみ、集うにはいい季節であろう。(高橋正子)

<星の子館・天文観察会二句>
麦星を仰ぐ街の灯を遠く★★★
梅雨晴れ間土星を覗く望遠鏡★★★

●佃 康水
山鳩のくぐもる声へ緑雨かな★★★
石垣の隙間湧き出る蟻の列★★★
伐り呉し白紫陽花やうす緑★★★

●藤田裕子
古きノートめくれば遠き初夏の詩★★★
青梅の太る日々なり雨なくも★★★
一つまたハイビスカスの黄を咲かせ★★★

6月8(土)

●河野啓一
野萱草日ごとに切られ活けられて★★★★
野萱草は一日で咲き終わり、翌日はまた別の花が開く。日毎新しい花を切って活ける。清潔でいきいきとした一花を大切にする暮らしがいい。(高橋正子)

樹の陰にぽっかり赤い百合の花★★★
梅雨入りして毎日仰ぐ青い空★★★

●小口泰與
郭公や田水満たしてテータイム★★★★
田水も満たして、郭公の声を聞きながらのティータイム。のどかで、涼しく、心豊かなティータイム。(高橋正子)

昼顔や棚田の水のひろごれり★★★
山風に矢車草の綾なせり★★★

●桑本栄太郎
泰山木の花や陽射しのいま西へ★★★★
おおらかな泰山木の白い花に、西に傾く日が斜めに遠く日差している。泰山木の花は西日に少し染まっている。(高橋正子)

塀上の柏葉あじさい風のまま★★★
寄り添うて田の片隅や余り苗★★★

●河野啓一
島影の遠くに見えて瀬戸の夏★★★
緑陰に牛飼の像もあり花時計★★★
忘れ草日ごと摘まれて活き活きと★★★

6月7日(金)

●小口泰與
昼顔の田川を攻めてなだれ咲く★★★
老木を雁字搦めや青蔦ぞ★★★
早朝の山の大気や草いちご★★★

●桑本栄太郎
部活子の少年追い抜き風青し★★★
青柿の葉陰の風にまどろみぬ★★★
人絶えて更地なりしや花うつぎ★★★

●川名ますみ
花槐メトロ出口に降りそそぐ★★★
地下鉄の出口に降るは花槐★★★
据がれきて団地の庭に実梅落つ★★★

●黒谷光子
夏草に座し湖からの風を聞く★★★
卯の花の傾れて湖の面に届く★★★
辻いくつ曲がりて大寺立葵★★★

●小西 宏
サングラス樹下に入り来て音失せり★★★★
サングラスの必要な明るい戸外を歩き、樹下に入ると、樹下はしんとして音もない。明暗の対比でいっそう樹下がしんとする。(高橋正子)

湧き水の闇に毒痛み大き群れ★★★
木道の青葦にある遠い鶯★★★

●古田敬二
芍薬に振れれば散れり潔し★★★
芍薬の薄紅一片残し散る★★★
潔く芍薬散るよ触れるとき★★★

6月6日(木)

●小口泰與
石楠花や日矢の降りくる山の寺★★★
夏富士や山道人の切れ目無く★★★
黒雲の忍びより来し雷雨かな★★★

●多田有花
緑濃くなればつるりと冷奴★★★
山歩く片手にありぬ汗拭い★★★
頂はそこだけ日差し夏帽子★★★

●桑本栄太郎
立葵明日を生きるしるべとも★★★
まつとうに生きて働き梅雨の闇★★★
おうおうと部活の声や青嵐★★★

●黒谷光子
青芝を踏みて湖畔の句碑めぐる★★★★
湖畔の青芝がすっきりとして涼しげである。そんな所に立つ句碑の句をあれこれ読んで頷くのも、いいものだ。(高橋正子)、

葉桜を洩る陽きらめく湖の風★★★
空の色湖の色あり紫陽花苑★★★

●河野啓一
天と地を結ぶ棚田の早苗かな★★★★
早苗を植えた棚田が地から天まで続く。天と地が薄緑の早苗で結ばれた。この発想が大きい。(高橋正子)

庭の隅むらさき露草涼しげに★★★
夏落葉の見分け方聞く苑の道★★★

6月5日(水)

●小口泰與
花茄子や水やる農婦太き指★★★
麦秋や戦後の御代のコッペパン★★★
湖風に苗代寒の朝かな★★★

●桑本栄太郎
梅雨空の降るとも云えぬ曇りかな★★★
曇りても日差し明るき五月空★★★
芒種はや風に湿りのふふみけり★★★

●多田有花
直立に濃く咲き登り立葵★★★★
立葵の花は、ピンク、白、赤色など様々ある。この句の立葵は、濃い色のもの。可憐な花の姿をしながら、「直立に」「濃く」咲いて、生命力のある花だ。(高橋正子)

緑陰の日差しを踏んで歩きけり★★★
新馬鈴薯のころころ小さきをもらう★★★

●河野啓一
焼き穴子煙たなびく魚の棚★★★
うすみどり昨日植えらる植田らし★★★
いとけなき細苗並ぶ植田かな★★★

●古田敬二
寝転べば足裏に明るき五月の陽★★★
紫に光る初茄子二つ採る★★★
芋の苗等間隔に寝かせ植え★★★

●祝恵子
鴨のいて花菖蒲池は賑わいを★★★
菖蒲園奥には小舟浮かばせて★★★
揚羽蝶吸い込まれそうに花の奥★★★

6月4日(火)

●小口泰與
【原句】香水の香を残しけり昇降機★★★
【正子添削】香水の香の残りたる昇降機
アカシヤの花や牧場の牛の声★★★
水打ちて飛び石の熱冷ましけり★★★

●佃 康水
青枇杷の産毛山雨を弾きけり★★★★
青枇杷の産毛が弾くのが「山雨」であるのがよい。野性味をおびた青枇杷が生き生きとしている。(高橋正子)

葉裏まで濃き赤紫蘇や雨に伸ぶ★★★ 
植田からちろちろ溢る余り水★★★

●桑本栄太郎
京都へと向かう車窓や青葉山★★★
バス停の待つ間も風に金糸梅★★★
御田植えの赤き裳裾の神事かな★★★

●河野啓一
花の名を問われ見上げし泰山木★★★
ミシシッピー流るや花は泰山木★★★
雲海のかなたに広き奥丹波★★★

●一般・新会員①●

●増田泰造
泰山木の花咲きましたと写真載る★★★★
事実の報告だが、他人の喜びをさらりと共有して句にしたところが良い。(高橋正子)

草笛を夕日に向いて子らは吹く★★★★
「草笛」「夕日」「子ら」といった素材がいい。「夕日に向いて」には、懐かしさがある。(高橋正子)

麦秋の美瑛の丘に夕日落つ★★★
いつしかに児は眠りおり風車★★★
地下を出る人に炎天まとひつく★★★
最上川母も摘みしか紅の花★★★
さくらんぼ山形訛りの電話聞く★★★

●藤井 擴
雷や地震原発長寿命★★★
五月雨や川の始めの丸木橋★★★
マンションの網戸いつも柵の内★★★
これらの3句は、川柳に近い句ですね。俳句では、自然を見る。自然を読む。自然に親しむ。そして、自分の内面に帰る。(高橋信之)

●藤井 擴
道でない渓谷くだれば梅雨に入る★★★
渓谷の道のないところは、青葉が茂り、下草などにも露が置いている。いかにも梅雨に入ったようだ。(高橋正子)

癌検診結果出る日の梅雨寒し★★★
犬だけが元気に鳴きて梅雨に入る★★★

●神山大河
気象士の開花を告げる声清ら★★★★
「声清ら」が、桜の花のイメージをよく伝えている。桜の開花にふさわしい、清らかな声であると感じた感覚がよい。(高橋正子)

[以上90名]どかっと立つや卒業生★★★★
卒業生の名前が一人ずつ呼ばれる。全員で90名。一学級ではなく、一学年であろう。いっせいに90名が起立する「どっか」という重量感。一人一人の重み。その瞬間じんと胸に来るものがある。(高橋正子)

名残り雪沢庵ぴりり沁みるかな★★★
名残り雪のころ、保存食として漬けた沢庵も時期的には終わり。名残雪の寒さも手伝って、辛めの沢庵か、「ぴりり」と沁みるに哀感がある。(高橋正子)

●増田泰造
白妙の雪に晴着や成人式★★★
雪に成人式の晴れやかな晴着が映えて、初々しくとても美しい。(高橋正子)

●大西義久
花弁からこぼれる春や天満宮(原句)
梅の花散ってこぼれし天満宮★★★(正子添削)
天満宮なら花は梅。梅の花弁がこぼれて、今や春。こぼれる梅の花弁に春を感じた。(高橋正子)

山燃ゆる古都の寒明け冬花火(原句)
冬花火山に揚げたり古都寒明け★★★(正子添削)

山茶花の衣めくりし春の風(原句)
山茶花の花びら吹ける春の風★★★(正子添削)

6月3日(月)

●小口泰與
伽羅蕗や子供ら帰省する事稀に★★★★
子供たちもそれぞれ家庭をもって、日常に忙しく、帰省も稀になった。みんなで囲む色どり豊かな食卓から、夫婦二人の食卓に。質素で、味わい深い伽羅蕗がそんなことを思わせる。(高橋正子)

蜜豆や湖畔に集うオープンカー★★★
山道や汗湧き出でて滝の如★★★

●河野啓一
せせらぎを渡り乱舞す蛍の火★★★
六甲の山並み青し梅雨晴れ間★★★
風そよぐ窓辺に置かれアマリリス★★★

●多田有花
紋黄揚羽梅雨の光をまとい飛ぶ★★★
不如帰高らかに鳴き森静か★★★
ビル街に流れる雲や明易し★★★

●桑本栄太郎
曲がり来る影や植田のモノレール★★★★
モノレールが植田の上を走っている。カーブするところは、モノレールの影が映りやすい。颯爽と走るモノレールと、植田とが好対照ながら、まとまった風景となっている。(高橋正子)

梅雨晴れの風に明るき湿りかな★★★
彼の人の逝きて七年枇杷熟るる★★★

6月2日(日)

●小口泰與
洗い鯉日は浅間へと急ぎけり★★★
ひやひやの秩父の在の夏氷★★★
賜わりし天然氷滝しぶき★★★

●祝恵子
植田には田水深ぶか満たされて★★★★
「田水深ぶか」がいい。豊かな水が涼しそうであるし、満ちている安心感がある。(高橋正子)

夏野菜支柱に雨滴ずうらりと★★★
金糸梅通れば増える金の花★★★

●桑本栄太郎
水弾き朝の日差しに瓜の苗★★★
片側の車線工事や夏の昼★★★
梅雨晴の雉鳩遠くに聞こえけり★★★

●多田有花
姫女苑抱かれ電車に手を振る子★★★★
姫女苑の優しさと、抱かれた幼い子のやわらかい可愛さが、童画的に詠まれている。(高橋正子)

青羊歯の盛んなるかな谷を埋め★★★
不如帰きのうも今日も曇り空★★★

●佃 康水
グミの実の小枝や棘の鋭かり★★★
明日田植え庭にエンジン試さるる★★★
田植機の上がり手直す老婆かな★★★

●小西 宏
梅雨晴や朝鳥騒ぐ屋根の光★★★
水遣りの路地に紫陽花色広ぐ★★★★
崖下に山紫陽花の青灯る★★★

●河野啓一
星の色灯し蛍の舞う夕べ★★★
梅雨晴れ間鋏ひびかせ植木屋さん★★★★
野萱草咲くや隣家の百合の花★★★