11月6日

●小口泰與
りんうや遠の連山引き寄する★★★

単線の尾灯はるけき刈田かな★★★★
もう暗い夕方であろうか。刈田の中を走り過ぎる電車の尾灯遠く見送る。しかも「単線の尾灯」であるから、「はるけき」に込められた気持ちもしみじみと読み手に伝わる。(高橋正子)

秋ばらの瑞枝あえかや風の中★★★

●祝恵子
秋のバラびろうど色が目に溢れ★★★
幼子と広場でおにぎり秋の芝★★★★

幼子と食事をするのは、ことに戸外なら、心なごんで楽しいものだ。広々とした秋芝の上でおにぎりを頬張るひと時が和やかだ。(高橋正子)

秋小雨抹茶の泡の口当たり★★★

●多田有花
冬隣る朝日が屋根を染めてゆく★★★
秋惜しみつつ少し遠くまで歩く★★★
あったかいお弁当です冬隣★★★★
お弁当は冷めていてもおいしいものだが、冬隣となれば、やはり温かい弁当が嬉しい。それをそのまま句にした。(高橋正子)

●桑本栄太郎
日を透きし尾花の波の丘の上★★★
写メールの青空添える照葉かな★★★★
葉の色の枝垂れ黄色や萩は実に★★★

●河野啓一
木の実落つ音一つ拾いけり★★★★
木の実を実際に拾ったのではなく、「音一つ拾いけり」と解釈したが、これが面白い。音を拾って、実際木の実を拾ったと同じ気持ちになる。
それも、心楽しいことと思われる。(高橋正子)

桜道ほんのり紅く冬近し★★★
交差点黄色く染まり秋は往く★★★

●小西 宏
葉の紅き欅も風に葉を鳴らす★★★★
欅のもみじは、黄色が主だが紅色も混じる。それも残らず「もみじ」がうち揃って風に葉を鳴らしている。欅の葉が鳴る音が言葉となって聞こえそうだ。(高橋正子)

黄落の道に陽の影細くあり★★★
西空の茜に月や暮れの秋★★★

11月5日

●小口泰與
蔓も葉も寡ってお粥やさつま芋★★★
写真家の山路行きかうもみじかな★★★
蒼空や覚満淵の草もみじ★★★

●河野啓一
木枯しの吹きしとテレビ伝えけり★★★
並木道桜紅葉はうす紅葉★★★
木々の葉の散り初め街に冬近し★★★

●桑本栄太郎
山粧ふ山に向かいて丘をゆく★★★★
「山に向かいて」も「丘をゆく」おおらかなリズムがある。そのリズムが内容とマッチして素晴らしい。(高橋正子)

数珠玉や遠きふるさと想いおり★★★
草むらのみどりに絡む赤のまま★★★

●小西 宏
霧雨のそこにあるべきスカイビル★★★

冬近し青染み来る朝の窓★★★★
「青染み来る」の感覚の冴えが、「冬近し」をよく捉えている。厳しくも大変美しい朝の窓である。(高橋正子)

うす赤き鎌の月なり暮れの秋★★★

●多田有花
下山する木枯し一号吹く中を★★★★
近畿地方ははや木枯しが吹いたという。第一号の木枯し下山を余儀なくされた、というより、木枯しに付き添われて下山した感じだ。(高橋正子)

秋山に詩吟する人笛吹く人★★★
猪が土掘り起こす山路かな★★★

11月4日

●小口泰與
ひつじ田や初冠雪の浅間山★★★

牧の馬声高らかや草の花
牧馬の声高らかや草の花★★★★(正子添削)
「声高らかや」に「草の花」を対比させたので、句の情景が大きくなった。馬の嘶きも空高く届き、草が花をつけた牧場が広がる。晴れやかで、穏やかな牧場を想像させる。(高橋正子)

ひつじ田や雲影抱く山の肌★★★

●河野啓一
コリウスの色鮮やかに秋深し★★★
孫二人柿の熟しを待つごとく★★★

黄落の大往生や叔父逝きぬ★★★★
黄落の季節にあわせるように、大往生をされた。この世の生滅を自然のめぐりとして大きく受け入れている。ご冥福をお祈りいたします。(高橋正子)

●多田有花
紅葉愛でつつ岩棚の下で食事★★★★
岩棚の下は、屋根の下にいるようなもので、紅葉を愛でながらの食事は雰囲気が変わって愉快だろう。辺りの紅葉山の景色が想像できる。(高橋正子)

時雨来て今日の登頂断念す★★★
山里の秋の日暮れの早かりし★★★

●桑本栄太郎
坂道のお茶の花咲く垣根かな★★★
箒木の庭にもみづる山の里★★★

コスモスの風湧き上がる丘の畑★★★★
丘のコスモス畑。コスモスに吹いてきた風がコスモスを揺らし、包むように湧き上がっている。上昇気分の爽やかさがいい。(高橋正子)

●高橋秀之
雨上がり薄い日差しも空高く★★★
一鉢のコスモス僅かな風に揺れ★★★

秋の蝶ゆっくり羽ばたき大空へ★★★★
「ゆっくり」によって秋の蝶の存在が確かになっている。小さくも確かな蝶が大空へ羽ばたくのが印象的。(高橋正子)

11月3日

●小口泰與
山風にさざ波よする穭かな
秋ばらの雨に濡れたり和紙のよう★★★

上州の風硬き日の種なすび★★★★
「種なすび」の寂びた風格がいい。上州の風に揉まれた種茄子の一味ちがった味わい。(高橋正子)

●河野啓一
川沿いに飛び去る大き銀やんま★★★★
川水に沿い光りながら飛ぶ銀やんまのゆうゆうとした姿が目に残る。水と銀やんまの出会いもいい。(高橋正子)

湯上りの冷気うれしい秋の午後★★★
稲藁を小脇に抱え農の人★★★

●多田有花
鳥取より秋のメロンを売りに来る★★★
次々と手が出る炒りたて落花生★★★
たい焼きの温みに秋を惜しみける★★★

●桑本栄太郎
切り口の古ぶ薪(まき)積み秋深し★★★★
切り口の古びた薪の色は、まさに「秋深し」の色。わびしくは質実な色を思う。(高橋正子)

黒き実の古きもありぬ柿熟るる★★★
もちの実のびつしり赤き大樹かな★★★

●小西 宏
窓に入る秋日が小犬抱いている★★★
紅葉の山に桜の香の仄か★★★

団栗の降る音靴に踏まるる音★★★★
くぬぎ林に入ると団栗がびっしりというほど落ちている。一方で木からは団栗がしきりに降ってくる。秋の森の明るさと深さに温かく包まれる。(高橋正子)

●祝恵子
気まぐれに赤のまんまを手折り持つ★★★
秋耕や花苗のこと頼み来る★★★
稲刈りの今朝も足元ぬかるみて★★★

●佃 康水
 文化の日の公民館祭り2句
餅撒きやぴたり手に受く菊日和★★★
たおやかな友の書仰ぐ文化の日★★★

萩は実になりて山路の豊かさよ★★★★
山路を花で飾った萩は、いまはすっかり実になっている。萩の花ではなく、実に着目し、それを「豊かさ」と見たのは、それこそ落ち着いた心の豊かさである。(高橋正子)

11月2日


●小口泰與
小流れの韻(おと)の蛇行や紅葉山★★★
あけぼのの雨の清めしもみじかな★★★★
「あけぼの」という時の設定がよい。冷たくも清々しいもみじだ。(高橋正子)

九十九折り忽と息のむ紅葉かな★★★

●小川和子
霧がかる出湯の里の初紅葉★★★

山襞を紅葉染めあぐ明るさよ★★★★
「紅葉」が明るいというのがいい。晴れやかな紅葉は嬉しいもの。(高橋正子)

硫黄の香濃き湯治場に秋惜しむ★★★

●桑本栄太郎
梢入れ携帯写真に銀杏黄葉★★★
山風を胸に吸い込み秋の田へ★★★
さらさらと里の小川や石蕗の花★★★

●小西 宏
霧雨の降るともなくて杉木立★★★
柿実るみどり色濃き柿の木に★★★
雨止んで池面に黄葉しずかなり★★★

●佃 康水
一枚の畑染め上げて花らっきょ★★★★
らっきょの花は濃いめ薄紫の可憐な花で、らっきょ畑一面が紫色になる。冬を経て、初夏にはらっきょ漬け用に掘り起こされる。(高橋正子)

明るさに近寄りゆけば花らっきょ★★★
無縁墓黒ずむ石へ野菊咲く★★★

●川名ますみ
鰯雲ほどけ大きな青空へ★★★★
空一面を覆っていた鰯雲がいつの間にかほどけて、そのあとには「大きな」青空が広がった。鰯雲は天気が下り坂になる前兆だが、青空が広がったのは心が託せるようでうれしい。(高橋正子)

広がれば空にとけたり鰯雲★★★
初紅葉中学校の校門に★★★

11月1日

●小口泰與
秋冷や目路の赤城の空ゆたか★★★
しなやかな秋の朝日や日のぬくみ★★★
山風のやわらぐ朝や吾亦紅★★★★
風の荒い上州の山風もやわらぐ朝があって、おだやかな日和に気持ちがなごむ。その気持ちに沿うように咲く吾亦紅に愛しさを感じる。(高橋正子)

●河野啓一
干し柿を作ると植えし柿の苗★★★★
柿の木を植え、それから実がなるまで育てて、実がなればそれを干し柿にする。長い月日がいるものの、それも楽しみ。我が家の干し柿は格別うれしいもの。わたしも、中高生のころ渋柿の皮を剥いて干し柿づくりを手伝ったことがある。(高橋正子)

銀杏の葉色付き初めて陽のひかり★★★
暮れの秋まばらになりし訪ね人

●古田敬二
香を嗅げば木犀は散る光りつつ★★★★
金木犀も散るときがきたのか、香りが嗅げば、はらはらと光がこぼれるように散った。思わぬ金木犀の散り方に、また美しさに驚く。(高橋正子)

秋の実の一粒ずつが光りあう★★★
秋の蝶静かに羽ばたく息遣い★★★

●多田有花
茶の花の金色の蕊よき日和★★★★
特によい日和に咲く茶の花は印象に残る。そんな日には、黄色い蕊も金色に輝いて見える。(高橋正子)

秋光や木々の間の蜘蛛の糸★★★
見ていても見えてないこと身に入みて★★★

●桑本栄太郎
白き実の爆ぜて照葉や南京櫨★★★
せり出して瀬音聞きおり石蕗の花★★★
つぼみ黄の咲けば白なる小菊かな★★★

●小西 宏
桐一葉風なき窓をそっと閉ず★★★
団栗の小屋に小犬と握り飯★★★★
黄落の峰やわらかき西明り★★★

●高橋秀之
夜が明けて小さな朝顔ひとつ咲く★★★
薄紅葉の作るトンネル並木道★★★★
並木道の両側が薄紅葉している。これから次第に紅葉が進んでくるが、うす紅葉もいい感じだ。薄紅葉のトンネルのほんのりした暗さも魅力。(高橋正子)

朝焼けの淡き色した空高し★★★

10月30日-31日


10月31日

●祝恵子
吾影は右を離れず秋朝日★★★★
「影は右を離れず」が面白い。朝日があたたく気持ちよくなった秋の朝、つい影を意識する。影がずっと右にできているのは、南へ向かって歩いていることか。明るい方向だ。(高橋正子)

十月や押し花と遊ぶ楽しさ★★★
よく降って秋苗ぐんと伸び育つ★★★

●小口泰與
昃(かげ)り来て木犀匂う帰り路★★★
白樺ともみじの模写の水面かな★★★
間眼に漆もみじや黙を解く★★★★
「黙を解く」に、漆もみじのあでやかさが知れる。漆もみじに出会った瞬間、驚き、沈黙も言葉に代わる。(高橋正子)

●河野啓一
穂芒も揺れる畦道自転車で★★★★
芒の穂が揺れる道は、普段の生活のなかではあるが、少し違った世界を展開してくれる。その畦道を自転車をすいすい漕いでゆくのはたのしいことであろう。(高橋正子)

うろこ雲仰いで朝の冷気かな★★★
砂防ダム大雨に耐え秋高し★★★

●多田有花
朱に変わる熟柿に夕陽やわらかく★★★★ 
「夕陽やわらかく」がいい。夕陽が、まるで朱色に変わった熟柿のようだ。熟柿は熟柿で夕陽から色をもらったようだ。(高橋正子)

挨拶を交わして別れ菊の前★★★
暮の秋雲より漏れる光の矢★★★

●桑本栄太郎
山風の吹けば稲滓火煙りけり★★★★
一連の田仕事が終わって藁屑など集め火をつけて焼く。その稲滓火(いなしび)はもう静まっている。ところが山風が吹いてきて、またくすぶり始めた。稲刈りの後の田もまだ火が生きている。(高橋正子)

医科大の構内銀杏の黄葉かな★★★
十月の果つや夕日のビルに影★★★

●小西 宏
秋うらら黄の新しき欅道★★★
柿落ちて小犬惑える帰り道★★★
街燈に桜紅葉の薄明かり★★★

●黒谷光子
灯篭に触れる一枝薄紅葉★★★
青空を分かつ筋雲秋の昼★★★

里芋の初物真中に夕餉膳★★★★
自宅で収穫された里芋であろう。初めて掘り上げた里芋がほっくりと煮られて、夕餉の膳の真中にどっかりと座っている。初物を食べるうれしさは、それを作った人なら、なおさらのことであろう。(高橋正子)

30日

●小口泰與
渋柿の熟する頃や禽の声★★★

ごつき手に秋ばら提げて尋ね来し★★★★
自分で咲かせたバラであろうか、農作業などでごつくなった手にバラを提げてやってきた。ごつい手と華やかなバラとの対比に、バラの花はますますの美しさ、ごつい手の持ち主の素朴で頼もしく、あたたかい人柄が窺える。(高橋正子)

秋空や稲わらロールおちこちに★★★

●迫田和代
山歩き向こうの紅葉と水の音★★★★
山を歩くと、谷川の向こうの紅葉の美しさに目を瞠る。水も心地よい音を立てて流れ、山を歩く楽しさとなっている。(高橋正子)

祭終え澄んだ空には秋の月★★★
秋の雲流れ流れて何処へ行く★★★

●河野啓一
銀杏の零れし道をゆっくりと★★★★
銀杏が熟れて木を離れ道にこぼれている。拾うわけでもなく、銀杏特有の匂いがぷんとしてくる中、ゆっくりゆくのも晩秋の楽しみの一こまである。(高橋正子)

鳥威路傍の田にも存在し★★★
パラリンピック目指して秋のトレーニング★★★

●多田有花
地下足袋をはき晩秋の山歩く★★★★
晩秋、冬の薪の用意に地下足袋を履いて私の父などは山に入っていたが、有花さんの場合、登山靴に替えて地下足袋を履いて山を歩いた。地下足袋は、足裏に比較的直に土の感じが伝わってくる。晩秋と地下足袋が似合っている。すたすたと歩けたことであろう。(高橋正子)

新聞にくるんで保存新高梨★★★
残る虫テニスコートのそばの闇★★★

●桑本栄太郎
生垣のめぐる香りや金木犀★★★
実みずきの天向く紅や青空に★★★
三川の集う中州や芒照る★★★

●小西 宏
道濡れて秋落葉の黄の香り★★★
小さき鎌手に芋掘りの保育園★★★★
保育園児も芋掘にくわわり、小さい鎌まで持たせてもらっている。一人前の所作がほほえましい。(高橋正子)

枝撓め柿満々と大空へ★★★

●古田敬二
落花生干せばからから実る音★★★★
落花生を栽培されたようだ。掘り上げて乾かす作業がある。殻ごと干すと中の実がからからと鳴る。その音は「実る音」なのだ。秋の実りのよろこび。(高橋正子)

びっしりと殻に詰まりし落花生★★★
夕暮れの濡れ縁に干す落花生★★★

10月29日

●小口泰與
老斑の掌(て)や秋の夜の独り酒★★★
身綺麗に歳をとりたや蔦紅葉★★★
山風や身の丈越えし花すすき★★★

●河野啓一
青空に揺れて耀く柿の赤★★★
夕陽浴び柿に群がる小鳥かな★★★
列島の空秋晴れる偏西風★★★

●桑本栄太郎
新築の捗る庭に金木犀★★★★
金木犀のある庭に家が建っている。建て替えなのか、日々見ているとずいぶん早く工程が進んでいる。冬が来る前には入居したい気持ちも見える。金木犀もいい匂いだ。立ち上がったら落ち着いた家になるだろう。(高橋正子)

梢より紅葉初め居り嵐あと★★★
生駒嶺や秋の夕日の茜雲★★★

●佃 康水
通草の実三つ葉添えある道の駅★★★
石蕗咲きて鯉跳ね上がる音近し★★★
色変えぬ松へ耀く被爆川★★★

●小西 宏
虫食いの桜紅葉の鉄仮面★★★
十月の冷たき細き雨の薔薇★★★
松茸に見立てエリンギ二人鍋★★★

●古田敬二
子を待てば木の実落ち来る音たてて★★★
夜のうちに庭に降り敷く秋の花★★★
のぼたんの色鮮やかに敷くあした★★★

10月28日

●小口泰與
雨粒のとうかんかくや草の花★★★
岩削り白波起つや蔦もみじ★★★
無残やな一夜に消ゆるもみじかな★★★

●河野啓一
秋高しパソコントラブル解消し★★★
虫食いの柿小さくも柿は柿★★★
うす紅葉庭梅今年もごくろうさん★★★

●桑本栄太郎
バスを待つ間にも充ち来る金木犀
バス待つ間も金木犀の充ち来る香★★★★(正子添削)
バスを待っている間にも、待てば待つほど金木犀の香りが濃厚になってくる。香りが溜まってくる。それが「充ち来る」であろうが、そういった感じ方に新しさがある。(高橋正子)

実みずきの葉の落ち天へ青空へ★★★
”のぞみ号”秋の西日へ奔りけり★★★

●多田有花
朝霧の晴れゆく平野を見下ろせり★★★★
高くに登って平野を見ろすと、ベールをめくるように朝霧がすうっと晴れていき、朝日の差す平野が見える。その面白さと秋の朝のすがすがしさが読み取れる。(高橋正子)

白菊や朝の空気の清しさに★★★
まだありし晩稲に日差し傾きぬ★★★