●小口泰與
ちり鍋や捨てかねている釣道具★★★★
ちり鍋を囲みながらも、思うのは釣り道具。古くなった道具か、また、釣りとは縁を切ろうという思いが逡巡しているのか、捨てかねている。これもふつふつと煮える鍋料理の仕業と思える。(高橋正子)
夕照の浅間や風に乗る木の葉★★★
笹鳴きや置き忘れたるアイフォーン★★★
●桑本栄太郎
もくれんの冬芽しかじか尖りけり★★★★
「しかじか」は、「かように」という意味と解釈。もくれんの芽を一つ一つ見れば、かように尖っている。もくれんの芽を知るひとにはわかること。(高橋正子)
ちりちりと赤き山襞冬の嶺★★★
日が射せど風のおらぶや十二月★★★
●黒谷光子
冬の田を北へと糠を燃す煙★★★
糠の使い道もほどんどなくなったせいか、糠を田で燃やすようだ。糠を燃やす煙とその匂いは北へと靡く。穏やかな日和に風は南寄り。農村の冬の一風景である。(高橋正子)
特急の過ぎしホームの風寒き★★★
同年のよしみと集い忘年会★★★
●多田有花
風吹けば幾千万の落葉降る★★★
あいさつの声冬菊の向こうより★★★★
極月の三日月日々を丁寧に★★★
●小西 宏
盛り高く香を放ちいる葱の畝★★★★
大根の並ぶ葉のさま魔女の髪★★★
小春日や枝に鴉の熟し柿★★★
●小口泰與
炉話や和紙に包まる甘納豆★★★★
民話の世界の趣きの句。和紙、甘納豆が温かみを添えている。(高橋正子)
口切や白き波だつ湯檜曽川★★★
北風や焼饅頭の味噌の味★★★
●多田有花
冬うらら浮かぶがごとき航空機★★★
雲ゆっくり北の空ゆく小六月★★★
日ごと散る紅葉や空の透きとおる★★★★
●桑本栄太郎
焼き跡の黒き模様の冬田かな★★★
日溜りの壁に憩えば冬日燦★★★
橙の黄明かり重き土塀かな★★★
●小西 宏
味噌汁に冬日の恵み朝の窓★★★
金星の冬空蒼し峰の影★★★
青深く街の灯定む冬の闇★★★★
冬は大気が澄んで闇の暗さも「青」と捉えらえる。街の灯もくっきりと点るところに「定まる」。クリスマス前の冬の街を詠んで洒落ている。(高橋正子)
●黒谷光子
山茶花の垣根の向こう子らの声★★★★
山茶花は椿よりもさっくばらんな花である。子どもを取り合わせてよく馴染む。山茶花の垣根向こうの子の声が作者に明るく届く。(高橋正子)
自転車の篭に手編みの毛糸帽★★★
庭の木に生りしと蜜柑届けられ★★★
●小口泰與
電飾の女神や空に寒昴★★★★
あかあかと日の沈みけり生姜酒★★★
ごつごつの山襞迫り枯芭蕉★★★
●河野啓一
背の痛みふと忘れたる小春かな★★★
鳥飛ぶや大き柿の葉散りにけり★★★★
鳥が飛ぶと、その動きで大きな柿の葉がはらりと散る。なんでもないようなことだが、静かで、平らかな心に刻まれる現象である。(高橋正子)
大和より赤き大きい柿届く★★★
●多田有花
誰も居ぬさらに鮮やか冬紅葉★★★
海へゆく川のみ光り冬霞★★★★
海へゆく川は南へと流れているのだろう。冬霞の中で、光を反射する川のみが光っている。(高橋正子)
冬霧の晴れゆく今朝の快晴に★★★
●桑本栄太郎
枯萩の枝垂れて長き坂の道★★★★
長い坂道に沿って垂れ下がる萩。花の季節には花のたのしみがあった。今は黄葉し、枯れている萩の風情が楽しめる。それぞれがよい。(高橋正子)
山襞の赤の極みや冬の嶺★★★
散り終わり桜冬芽となりしかな★★★
●佃 康水
風立ちて銀杏落葉の路地駆ける★★★
畝ごとに色とりどりの冬菜かな★★★
薄茶待つ古刹の茶屋に初火鉢★★★★
●小西 宏
陽の崖の落葉だまりに猫眠る★★★
寒風を蹴り少女らの逆上がり★★★★
くっきりと街の灯定む冬の闇★★★
●小口泰與
隼や風の鍛えし里の子等★★★★
子供は風の子ではあるが、赤城颪で有名な上州の子は「風の鍛えし」という表現が当てはまる。隼はその風を受けて飛ぶのだ。(高橋正子)
夕暮れの風にさわだつ落葉かな★★★
電飾や冬夕焼のあかあかと★★★
●祝恵子
城壁の巨石に影を冬紅葉★★★★
「巨石」が効いた。紅葉の枝が城壁の石垣に垂れて影を映しているのだろう。冬紅葉の影が割れることなく趣き深く垂れている。(高橋正子)
鳥居抜け紅葉と幟の七五三★★★
冬ざくら橋より見送る遊覧船★★★
●桑本栄太郎
着水の飛沫耀よう冬の池★★★
朝日背にルアー投げ入れ冬の池★★★
佇めば蘆を抜けゆく冬の風★★★★
佇んで初めてわかること。枯蘆の中を風が抜けている。「冬の風」は、また蘆の冬の姿を想像させてくれる。(高橋正子)
●多田有花
登る足朴の落葉の上に置く★★★
ふかふかと落葉に埋もれ下りけり★★★★
山の路はすっかり落葉に埋もれてしまった。山路を下れば落葉がふかふかとして足を埋めるほどだ。山路もすっかり冬になった。(高橋正子)
冬の昼山下りし身を泡風呂に★★★
●小西 宏
森奥のひと光なり花八手★★★
【原句】午後の日の影長き野に木の葉踏む
【添削】午後の日に木の影長し落葉踏み★★★★
木の影が長々と落葉に映っているところを踏んでゆく午後の静かな明るさがよい。
木の葉旧る小楢の道に癒される★★★
●小口泰與
熱燗や大河を越ゆる風の音★★★★
大河は作者の住いから言えば、利根川であろう。川風の音は颪とはまた違った趣だが、寒々と川を渡り吹く風の音に酒も熱燗が嬉しい。(高橋正子
)
十州の境や山の眠りおり★★★
隼の風袈裟切りに飛びにけり★★★
●河野啓一
冬の川碧く光りて西の方★★★★
西の方に光る碧い静けさに惹かれる。眺めれば、冬の川が水も碧く光って横たわっているのが、西の方なのである。(高橋正子)
年相応不如意続きて師走かな★★★
鳥影の舞うかと見れば柿の葉散る★★★
●桑本栄太郎
紅と黄とみどりの交じる落葉踏む★★★★
落葉といえども、時期が来て同じように散るのではない。紅色や黄色になったもの、中には散るには早い緑の葉もある。色とりどりの紅葉の季節を踏む日常がある。(高橋正子)
ちりちりと満天星つつじの冬紅葉★★★
山襞の夕日に赤し冬の嶺★★★
●多田有花
冬晴れの播丹国境を歩く★★★
冬麗のなかに立ちおり千ヶ峰★★★
小春の山下りゆっくりとぬるめの湯★★★
●黒谷光子
頂上は初冠雪らし伊吹山★★★
洗い終え積めば輝く蕪の白★★★★
抜いてきた蕪を洗い、洗った分を積み上げ、ついに洗い終えると、輝くばかりの真っ白い蕪の山となった。これから漬物などに仕込まれるのだろうが、その見事なみずみずしさに、うれしさも湧く。(高橋正子)
蕪引きて煮物に汁にあちゃら漬け★★★
●小西 宏
セーターを脱いで湯気立つ遊びの子★★★★
遊んでいる子が暑くなってセーターを脱ぐと、体から湯気が立っている。子供の活動量はすざましい。(高橋正子)
枯れ芝をはたき夕日に腰上げる★★★
里山に残る夕日や冬もみじ★★★
●佃 康水
栴檀の実へ青空の近くなり★★★★
栴檀の実は熟れると金色になり、地上よりむしろ青空のものとなる。青空が近くなるのだ。(高橋正子)
藪深くかさり音たて笹子鳴く★★★
浅瀬に餌掘り出す鴨へ砂煙★★★
●迫田和代
空からの風も避けるか薔薇園を★★★
今だから色も冴えてる冬紅葉★★★
足湯して輝く空には星月夜★★★★
夜気の寒さを忘れるほどの足湯のぬくもり。いつまでも見上げて居たい、星月夜である。(高橋正子)
●小口泰與
冬の日の山に落ちけり川に落つ★★★★
漠然とはや夕暮れや懐手★★★
息白し雨にカーテン替えており★★★
●祝恵子
渡り越し冬の海橋仰ぎ見る★★★
フグ刺の薄さと美味さを小倉にて★★★
炬燵には兄妹と居る嬉しさよ★★★★
炬燵を囲み、暖かさにくつろいで兄妹といるうれしさ。いつまでも兄の下の妹でいる幸せがある。(高橋正子)
●井上治代
四国八十八カ所86番札所志度寺
九輪塔高くそびえて冬の鵙★★★★
志度寺は香川県にある札所。五重塔の九輪がそびえ、冬の空に鵙がけたたましく鳴く。鵙の小さな命の声が広い境内を圧するようだ。(高橋正子)
紅葉黄葉いけばな展に色あふれ★★★
風の中蜜を求めて冬の蝶★★★
●桑本栄太郎
風吹けば銀杏落葉の道を往く★★★
釣り人の独りの黙や枯尾花★★★
節々の骨のきしみや嵐雪忌★★★
●多田有花
木枯しを踏む心地する山路かな★★★
凩や海金色に輝きぬ★★★★
鵯(ひよ)の声明るく響く霜の朝★★★
●高橋秀之
残る葉はわずかばかりの冬木立★★★
冬木立の上には広く青き空★★★
どこまでも途切れぬ落葉並木道★★★★
●小西 宏
樹をめぐり銀杏落葉の明るい円(まる)★★★★
地に落ちて子ら伸び伸びと銀杏黄葉★★★
風明るし木の葉踊れる大通り★★★
●河野啓一
橙の早やも切られし今朝の庭★★★
焼き芋の香り漂う厨口★★★
白波の海に太刀魚釣り来る★★★★
●高橋秀之
冬の蝶風が吹くまま流れゆく★★★
紅葉散る大川沿いの並木道★★★★
「大川沿い」であるのがよい。爛漫の桜を咲かせた大川沿いも、紅葉を散らす季節となった。紅葉の散る大川沿いの桜並木もまた風情がある。
(高橋正子)
冬の朝遠くの生駒が近く見え★★★
●小口泰與
枯れ切って夕日透け行く薄かな★★★★
枯れ切ってこそ薄は白く透明感が増す。夕日に透けて枯れの美しさを見せている。(高橋正子)
虎落笛静かにさせよ赤城山★★★
声冴ゆる赤城の襞の迫りおり★★★
●河野啓一
日の中にひときわ明るし桐枯葉★★★★
桐の枯葉が、日差しの中にひときわ明るい。その明るさが季節の寂しさを救っている。(高橋正子)
山道を冬のドライブ県境★★★
冬彗星陽に近付きて砕けけり★★★
●桑本栄太郎
<京都四条大橋南座界隈>
四条大橋渡りまねきや京時雨★★★
顔見世のまねき高々あがりけり★★★★
南座の顔見世は、これから一年間興行をする役者の顔を紹介する興行。歌舞伎の新年のようなもの。そのまねきが高々とあがり、見るものの心を逸らせている。(高橋正子)
鴨川のしぶきか顔に時雨降る★★★
●川名ますみ
冬紅葉樹下の二人が三人に★★★★
立冬後の紅葉は、時雨などに傷められ、色もあわれ深さが見える。そうとは知らずか、樹下に二人が話しているのだろう。もう一人加わり話が弾むようだ。(高橋正子)
初菊の花瓶の側にパスタ皿★★★
パスタ巻く菊の花瓶と隣り合い★★★
●小口泰與
夕照の逆光浴びし冬野かな★★★
竹林のかんかん鳴るや冬ごもり★★★★
「かんかん」という竹林の響きが、冬の空気をよく感じさせている。冬ごもりする身には聴力が鋭くなる。(高橋正子)
冬ばらの風の中なる朝日かな★★★
●迫田和代
木枯らしにころころ転がる枯れ落葉★★★
今日もまた庭を明るく緋連雀★★★
何処からかピアノ音色年の暮れ★★★
●多田有花
時雨忌や夜明けの窓に風の音★★★
人はみな時の旅人芭蕉の忌★★★★
芭蕉の奥の細道の「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。」を思い出させる句だが、芭蕉忌の頃は、一年も終わろうとする頃で、時の過ぎる速さを感じ、また来る時を思う。「人は時の旅人」は人間の側から時を捉えた。(高橋正子)
梅の枝剪定されて冬めく日★★★
●桑本栄太郎
綺羅星のごとく山茶花つぼみけり★★★
朝よりも木の葉散り敷く家路かな★★★
綿虫やおまえは寒くないのかい★★★
●小口泰與
朝冴ゆるあけぼの色の赤城かな★★★★
朝の冴えた空気に、赤城山の山容があけぼの色に染まるのが、ほのかにあたたかい。(高橋正子)
山風の直滑降や頬凍つる★★★
底冷えの納戸や居間の賑わえり★★★
●多田有花
冬紅葉いよよ紅さの増しにけり★★★
公孫樹輝き師走の近づきぬ★★★
鉄骨の冬めく空へ吊られおり★★★★
冬めく灰色の空につられた鉄骨の危なさと武骨さがよく詠まれた。(高橋正子)
●桑本栄太郎
朝日射す方の並木や冬黄葉★★★★
朝寒の黄葉に日が差すと黄葉の黄色が浮き上がる。並木がどこまでも通じていく感じがする。(高橋正子)
冬紅葉窓に巡らせ迂回バス★★★
乗り換えの冬の紅葉の嵐山線★★★
●河野啓一
大滝のしぶきに濡れて紅葉かな★★★★
滝しぶきに濡れた紅葉は、風情が一段とましている。大滝からは風も吹き起こっているであろうから、紅葉の枝も濡れながら揺れて今現在を意識させてくれる。(高橋正子)
銀杏の木濃黄色に並ぶ朝★★★
名畑家の隅に大菊植えており★★★
●小口泰與
木守や遠の連山はなだ色★★★
火の山の噴煙起つや大根干す★★★★
大根を干すころは、風も寒くなり、温かさが恋しくなる。火の山の噴煙も目に温かさを運ぶ。そういう意味で取り合わせが成功している。(高橋正子)
噴煙の流るる先の木の葉かな★★★
●古田敬二
風が今梢に来たらし欅散る★★★★
風の子どもがいるようだ。梢に来た風の子は欅を散らした。(高橋正子)
昼の陽が上手い具合に柿吊るす★★★
二人して真昼の陽光布団干す★★★
●多田有花
あつあつの大きを頬張る牡蠣フライ★★★★
揚げたてのものはおいしい。牡蠣フライなどはことに揚げたてで大きなものがジューシーでおいしいのだ。寒い季節、あつあつが嬉しい。(高橋正子)
風雨去り窓に静かな冬落暉★★★
山へ向く道たっぷりと木の葉降る★★★
●佃 康水
鐘一打遠のく峡の冬紅葉★★★
【原句】塩むすび桜紅葉へ載せて食み
【添削】塩むすび桜紅葉へ載せて食ぶ★★★★
木の葉に食べ物を載せて食べるのは、風流だ。桜紅葉に白い塩結びが載れば色彩的にも美しい。(高橋正子)
四阿を叩きどんぐり転がり来★★★
●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
冬空へ大きく乗り出すモノレール★★★★
「大きく乗り出す」がいい。モノレールが大きくクローズアップされた。(高橋正子)
鉄橋の車行き交う冬の空★★★
クレーンのコンテナ吊りし冬の空★★★
●小西 宏
わが庭はふくら雀のひかり中★★★
遠くまで落葉ぬれたる柔らかさ★★★
冬空に聳ゆソーラー発電機★★★