現代俳句一日一句鑑賞/8月25日

8月25日

赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり   正岡 子規(まさおか しき)
  
 筑波山の向こうから、東北が始まると言ってもいいだろう。池袋のサンシャインシティホテルから関東平野を見渡すとそう思える。関東平野の端まで来ると、筑波の嶺には、一片の雲もなく晴れて、明るい空をすいすいと赤蜻蛉が飛んでいる。澄んだ空気を感じさせて、鄙びた明るさのある句である。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より

現代俳句一日一句鑑賞/8月24日

8月24日

はたはたのゆくてのくらくなるばかり   谷野 予志(たにの よし)

 はたはたが飛び過ぎて行ったが、その行く手は日暮れではっきりと掴めない。飛んで行ったのは草むらか。夕暮れの早さと、日暮れとともに深まる静寂を「くらくなるばかり」と、空間を凝視して捉えた。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より

現代俳句一日一句鑑賞/8月23日

8月23日

新涼や重ねし絹に鋏音  河 ひろこ(かわ ひろこ)

 新涼のさわやかさの中で、布を断つよろこび。しなやかな絹を断つ鋏の音は、また絹の音とも感じられる。重ねた絹に鋏を入れるには、よほど布に慣れた人でないと勇気がいるものだが、それを自然にこなす腕のすばらしさも伺える。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より

現代俳句一日一句鑑賞/8月22日

8月22日

葡萄園影にまみれて幹並ぶ  谷野 予志(たにの よし)
 葡萄園に秋の日が差して、ちらちらと影と日向の班ら模様が出来ている。しかし、幹は影の部分となって立ち並んでいる。「影にまみれて」は葡萄棚の茂りを確固とした幹に着目し、葡萄園に生まれる影の美しさを余すところなく伝えている。
『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より

現代俳句一日一句鑑賞/8月21日

8月21日

さやけくて妻とも知らずすれ違う  西垣 脩(にしがき しゅう)

 詩人脩のことだから、心にさやけきことを思いめぐらし歩いたにちがいない。妻が通りすぎるのにも気づかずにいた、ということだ。妻と夫の距離がさわやかな空気のようである。

『現代俳句一日一句鑑賞』(髙橋正子著/水煙ネット/2005年発行)より

自由な投句箱/8月11日~8月20日

※当季雑詠3句(夏の句・秋の句)を<コメント欄>にお書き込みください。
※投句は、一日1回3句に限ります。
※登録のない俳号やペンネームでの投句は、削除いたします。(例:唐辛子など)
※★印の基準について。
「心が動いている」句を良い句として、★印を付けています。

今日の秀句/8月11日~8月20日

8月20日(1句)

★とんぼうの岸辺の草を弓なりに/小口泰與
「岸辺の草」「弓なり」など具体的な表現があり、読み手が句の景色を想像できるのがいい。とんぼうが止った草の葉が弓なりなり、大きくクローズアップされて、強く印象付けているところもいい。(髙橋正子)
8月19日(1句)

★朝の田の上を群れ飛ぶ赤とんぼ/多田有花
日本の秋を象徴する風景が詠まれていて、ほっとする。「朝」が句を生き生きさせ、この風景がいきていることを実感させてくれる。技巧のない句だが、そのままがいい。(髙橋正子)
8月18日(1句)

★栗の毬まるまるとしてまだ青き/多田有花
初秋のころ、栗の木に青い毬がついているのが目に付く。葉よりも明るい緑の毬はまんまるで、生きいきしている。実が充実する本格的な秋へと進む構えが見える。(髙橋正子)
8月17日(1句)

★水平線の群青色や盆の海/桑本栄太郎
盆の海は秋の海。盆の海を眺めると、沖に群青色の水平線が一本引かれている。少しさびしい盆の海に群青色が力強く、見入れば見入るほど、励ましてくれるように思える。(髙橋正子)
8月16日(2句)

★雨風の新涼誘う朝かな/廣田洋一
猛暑が続き、暑さに疲れがでるころ、早くすずしくなるように願わずにおれない。おりしもの雨風に涼しくなって、一息つけるようだ。雨風が新涼を誘ってきたありがたさに自然に生まれた句だろう。(髙橋正子)

★名をつけて朝顔の鉢並びおり/多田有花
大切に育てた朝顔の鉢がたくさん並んで、涼を呼んでいる。見ると鉢には朝顔の名前が付けられ、珍しい色あり、絞りあり、八重咲きありで、目をたのしませてくれる。(髙橋正子)
8月15日(1句)

★広き海秋の鴎の強く舞う/小口泰與
広い海も秋になって、少しもの淋しさが加わってきた。その海を舞う鴎の姿が力強い。鴎の舞う姿を「力強い」見るのは、新しい感覚だ。作者の充実した気持ちが伝わる(髙橋正子)

8月14日(1句)

★上弦の月の軒端に宵の風/多田有花
今年の月遅れの盆の空には上弦の月が昇った。軒端に宵の風が通い、しみじみとした風情が漂う。きれいな句に心が洗われる。(髙橋正子)
8月13日(1句)

★座してすぐ木立の影や秋の午後/小口泰與
秋はものの影が長くなる。座ってそれほど時間が経たないのに、木立の影が伸びて黒々として、秋の午後の、日の傾きの速さを実感する。(髙橋正子)

8月12日(1句)

★山の日や播磨の山は快晴に/多田有花
山の日は、山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝することを目的として制定された国民の祝日。登山やハイキングを楽しんだりするが、単に近くの山を眺め、恩恵に感謝することも祝日の意義。作者の住む播磨の山が快晴の空の下で、晴れやかに姿を見せているのは誇らしいことである。(髙橋正子)

8月11日(1句)

★あおぞらの雲の間や秋気澄む/桑本栄太郎
あおぞらの雲の間にきれいな空の色を見た。その色に澄んだ秋気を感じ取った。何気ないところにも、季節の移り変わりとみとめることができる。(髙橋正子)

8月11日~8月20日

8月20日(4名)
小口泰與
さもあらばあれ湖の面に秋日差す★★★
とんぼうの岸辺の草を弓なりに★★★★
秋薔薇や虫の飛び交う朝の庭★★★

多田有花
飛び交わす帰燕となる日近き朝★★★
今朝曇り長き残暑の落ち着きぬ★★★
白杖の若者前をゆく初秋★★★

廣田洋一
クレーンの伸び行く先に秋の雲★★★
手入れ良き庭を揺るがす秋桜★★★
一房の葡萄分け合う兄妹★★★★

桑本栄太郎
秋雨の真夜に聞く音哀しかり★★★
秋蝉のぴたり鳴き止む昼下がり★★★
うそ寒や路面濡れゆく午後の雨★★★
「うそ寒」は、晩秋の季語です。(髙橋正子)
8月19日(4名)

小口泰與
秋蝉の声の高きや森の中★★★
今朝の森秋翡翠の揶揄に覚む★★★
眼間に秋の夕焼奇岩かな★★★

廣田洋一
底の石くっきりと見え秋の川★★★
野の光集めつくせし青葡萄★★★
英字紙の袋のかかる梨畑★★★

桑本栄太郎
落蝉のあまた鋪道の木蔭かな★★★
買物の急ぐ家路や秋暑し★★★
昼前のぴたりと止まる蝉の声★★★

多田有花
朝の田の上を群れ飛ぶ赤とんぼ★★★★
えのころや風と光にころころと★★★
秋茄子のつややかな丸さ愛でにけり★★★
8月18日(4名)

廣田洋一
八つ切りの西瓜を一つ買いにけり★★★
銀やんま二匹飛び交う川の縁★★★
さくさくと梨噛む音や一人の夜★★★

小口泰與
庭刈られ虫のさ迷う夕間暮れ★★★
身にしむや彩色褪める浅間山★★★
山の沼秋色褪める夕間暮れ★★★

多田有花
稔りゆく田水に映る空の色★★★
栗の毬まるまるとしてまだ青き★★★★
秋の向日葵寄り添いて咲きぬ★★★

桑本栄太郎
それぞれの家族集いぬ盆の家★★★
名乗り出で朝より鳴きぬ法師蝉★★★
天よりの息吹か風の稲穂かな★★★
 
8月17日(4名)

廣田洋一
秋茄子の取り忘れ有り道の端★★★
引き売りの車を停めてカンナかな★★★
コスモスや入乱れたる赤と白★★★

小口泰與
やや寒や猫のさ迷う利根河原★★★
稲妻やチワワ忽然飛び上がり★★★
子を育て帰燕の準備怠るな(原句)
「帰燕の準備怠るな」に換喩が含まれている考えても、無理があります。(髙橋正子)
子を育てし帰燕よ準備怠るな(正子添削)

多田有花
露持ちて稲穂垂れ初めし朝に★★★★
風受けて田に舞い踊る鳥脅し★★★
田の縁に群れ集いたる稲すずめ★★★

桑本栄太郎
水平線の群青色や盆の海★★★★
列車待つ無人駅舎や葛茂る★★★
ひるがえる葉裏白きや盆の風★★★
8月16日(3名)
小口泰與
風強き沼に動かぬ秋翡翠(原句)
翡翠が止まっている具体的な場所を示すとよいと思います。(原句)
風強き岩に動かぬ秋翡翠(正子添削例)

蜻蛉の飛び交う沼や岩に亀★★★
様ざまな恋の鳥語や秋の森★★★

廣田洋一
鳴声のとぎれとぎれに秋の蝉★★★
切り売りの西瓜きれいな肌を見せ★★★

雨風も新涼誘う朝かな(原句)
雨風の新涼誘う朝かな(正子添削)

多田有花
新涼のなかで珈琲を淹れる★★★
「新涼のなかで」は、「新涼に」でいいのではないかと思います。(髙橋正子)

残暑より逃れて北東の部屋に★★★

名前入りの朝顔の鉢並びおり(原句)
名をつけて朝顔の鉢並びおり(正子添削)
8月15日(2名)
多田有花
涼新た夜明けの窓を入る風に★★★★
八月の部屋のがらんと心地よし★★★
終戦日地球の上にも訪れよ★★★
小口泰與
広き海秋の鴎の強く舞う★★★★
とんぼうの水面つんつん沼の面★★★
とんぼうの水面を舐めし山の沼★★★
8月14日(3名)
小口泰與
妻待ちて心さすらう新酒かな★★★
外灯の影にさまよう草雲雀★★★
日輪の褪むる妙義や秋の雲★★★

多田有花
上弦の月の軒端に宵の風★★★★
初盆や位牌仏壇なけれども★★★
名も知らぬ先祖の写真盂蘭盆会★★★

廣田洋一

迎え火やせっかちな母先頭に★★★
迎え火や献杯したるご仏前★★★
目の前の建物壊され盆の月★★★

8月13日(3名)

小口泰與
座してすぐ木立の影や秋の午後★★★★
初鴨の流石魚を捕らえたり★★★
初紅葉さすが赤城のすそ野かな★★★

多田有花
八月の風に身を任せし真昼★★★
カートにはおのおの供花盆用意★★★
宵の空月の日ごとに育ちゆく★★★

廣田洋一
幼き子婆の横にて踊りおり★★★
踊り子の列あでやかに町流す★★★
白粉花花壇の縁を取りており★★★
8月12日(3名)
小口泰與
夕方の縁台将棋子と父と★★★
翡翠や目薬差して湖の岸★★★
大岩魚釣上げすべて忘れたり★★★

多田有花
涼風至洋服ダンスを解体す★★★
山の日や播磨の山は快晴に★★★★
台風の余波なる風の強く吹き★★★

桑本栄太郎
朝涼の一枚羽織る未明かな★★★
色いろと点検ありぬ盆帰省★★★
集う日の連絡密に盆帰省★★★
8月11日(3名)
小口泰與
翡翠の沼をくるりと回りけり★★★
捨て舟の水に孑孑数多かな★★★
今日の朝風の中なる百日紅★★★

廣田洋一
縁側に子らの並びて西瓜食む★★★
西瓜の皮浅漬けにして食卓に★★★
初秋の光りとなりて堰落ちる★★★★

桑本栄太郎
句集入れ薬も入れて帰省かな★★★
あおぞらの雲の間や秋気澄む★★★★
クレープのシャツとすててこ円朝忌★★★

自由な投句箱/8月1日~8月10日

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今日の秀句/8月1日~8月10日

8月10日(2句)

★山の日や雲に隠され富士の山/廣田洋一
「山」と言えば日本一の高さと優美な姿を誇る富士山が誰にも思い浮かぶ山だろう。洋一さんは、富士山の見えるところにお住まいだ。山の日の今日は雲に隠された富士の山で、残念に思うだろうが、目裏には、くっきりと富士山の姿が見えている。(髙橋正子)

★新涼の風乾きおり野に街に/桑本栄太郎
新涼の風のさわやかさを、「風乾き」と感じた感覚が新しい。湿潤な空気から乾いた空気に変わったことで新涼の空気となったのだ。野に街に新涼の気が満ちている。(髙橋正子)
8月9日(1句)

★窓を拭きおれば秋燕近く飛び/多田有花
「秋燕」(しゅうえん)という音がきれいで、拭かれてきれいな窓に添えられて、さわやかな透明感のある句になっている。(髙橋正子)

8月8日(2句)

★赤とんぼ甍の上を群れて飛ぶ/多田有花
「赤とんぼ」と「甍」に日本の原風景が詠まれて、だれにも郷愁をさそう句になっている。(髙橋正子)

★新涼の雲育て居り峰の上/桑本栄太郎
「新涼の雲」がすっきり、さわやかでいい。峰の上の空に新涼の雲が「育て」られている。「育て」に読み手は雲の姿をいろいろ想像できる。(髙橋正子)
8月7日(1句)

★窓開けて立秋の風存分に/多田有花
暦の上の秋と言われる立秋だが、よく観察すれば、猛暑と言われながらも、太陽の高度は確実に変わり、日差しも違う色に見えて来る。窓を大きく開けて風を存分に入れると、爽やかな気持ちになる。(髙橋正子)
8月6日

該当句無し
8月5日(1句)

★駅前に雲水の立つ夏の果/廣田洋一
「雲水」は禅宗の修行僧の事さすが、修行のひとつとしての托鉢がある。托鉢は寺を出て市街地に出向き、経文を唱えながら食べ物や金銭を鉢で受け取る修行である。この雲水は、こういった托鉢僧のことだろう。「夏の果」は、いよいよ夏も終わり、朝夕は涼しさを覚え、心が秋へ傾くとき。そういうとき、托鉢の雲水を駅前で見かけたときの心に動くものがある。(髙橋正子)

8月4日(2句)

★水馬寄せ来る波に抗えり/廣田洋一
水馬と言えば、水面をすいすい移動している姿をよく見かける。この句ではそうではなく、風が水面を波立たせているのか、その波に必死で抗っているようだ。そんな水馬への驚きとまた、親しみが感じられる句。(髙橋正子)

★白壁を朝顔の紺のぼりきる/川名ますみ
白壁と朝顔の紺色の対比が目にくっきりとして、涼しそうだ。「のぼりきる」でずいぶん高いところまで咲いているのだろう。目を楽しませてくれている。(髙橋正子)

8月3日(1句)

★鉢植えの胡麻の背丈や秋近し/桑本栄太郎
胡麻は普通畑で栽培されるが、それを鉢植えで育てて、胡麻を収穫しようとしているのが面白い。胡麻の丈は意外と高く、ずいぶんと伸びていることだろう。(髙橋正子)
8月2日(1句)

★未明より威し銃鳴る山の里/桑本栄太郎
「未明」が山の里の露けさを感じさせている。人もいないところで、突然に鳴る威し銃が、空気だけでなく、稲穂までも揺らすようで、豊作を思わせる。(髙橋正子)

8月1日(1句)

★夜の海見に行く浴衣白々と/廣田洋一
「夕涼み」と言う言葉も、クーラーがどの家庭にも取り付けられて、聞かなくなったが、いまも涼しい夜の海へ浴衣姿で出かけるのもいい。夜の暗がりに白地の浴衣が浮かび上がるのが印象的。(髙橋正子)