4月9日

●小口泰與
かたくりや山を囃せる鳥の声★★★★
片栗や杖をたよりて三毳山(みかもやま)★★★
雨しずくふふむ杏の紅の色★★★

●古田敬二
美濃路来て蓬を摘めばよく香る★★★★
黄水仙矢作の川風を重たげに★★★
初蝶や白きを見てから黄も見る★★★

●多田有花
くくられて山吹の花咲きにけり★★★★
山吹の枝はかなり奔放に伸びるので、くくられている。くくられたままで花を咲かせているのを見ると、山吹の花と人間の生活のとの身近さがうかがえる。(高橋正子)

山の道たどれば赤き藪椿★★★
青空に大島桜の真白き花★★★

●桑本栄太郎
朝の日にみどり透き居る木の芽かな★★★★
剥きながらふるさと語る春の蕗★★★
パソコンの入れ替え終わり四月来る★★★

●佃 康水
良き音を手元に鳴らし蕨摘む★★★★
蕨を折り取るときの、「ぽきっ」というみずみずしくて軽い音。それが「良き音」。次々にその音が鳴れば、うれしさもそれだけ増してくる。蕨採り、野山に遊ぶ嬉しさがさわやかに詠まれている。(高橋正子)

連翹や友大作の生け花展★★★
手漕ぎして鳥居を潜る花見船★★★

●黒谷光子
ぬめぬめと逃げる構えの花うぐい★★★
さみどりに紅の鮮やか楓の芽★★★
水音を聞き満開の花の土手★★★★

●小西 宏
薄みどり下向き芽吹く楢の道★★★
山桜ときおり散れば鳥の声★★★★
六人で外野を守り紋黄蝶★★★

●河野啓一
散り初めし桜を惜しむバスの窓★★★
醍醐寺の花を見んとて妻出かけ★★★
花吹雪池の面埋めてカーペット★★★

4月8日

●小口泰與
ねぎの花咲くや疾風の在所なり★★★★
紅梅を苛む風となりにけり★★★
菜の花や牛舎に集う鳥の数★★★

●桑本栄太郎
サッカーのボール遊びや木の芽晴れ★★★★
豆の花支柱高きに蔓伸びて★★★
芽吹く木の早もみどりの艶めけり★★★

●古田敬二
落日が影成す斜面に春菜摘む★★★★
一句に多くの言葉が入り過ぎているのが気になる。春菜の育つ山の畑であろうか。落日のころもやはり春の陽、温かみと明るさが残っている。(高橋正子)

草餅を友の数だけ求めけり★★★
山々に桜もこぶしも温泉街★★★

●小西 宏
陽の下に花のトンネル花ちらす★★★★
陽の下の華やかな花のトンネルが、花を散らし始めた。満開を過ぎて散る桜のはかなさ、またその美しさが詠まれている。(高橋正子)

花屑のまばらに白き坂の道★★★
風凪いで残る桜の蕊の色★★★

●黒谷光子
桜満つ八瀬大原に水の音★★★★
京都八瀬の桜は、市内の桜が葉桜になりはじめるころに満開となると聞いている。八瀬駅を出れば川の水音が響く中に、遅がけの桜に巡り合える。静かに味わう桜である。(高橋正子)

青空に浮くかに高き花辛夷★★★
ほのぼのと朱を走らせて花うぐい★★★

4月7日

●小口泰與
青柳の揺れの隠せる流れかな★★★
山風の素直になりぬ雪柳★★★
牡丹の芽和紙の如くにほぐれけり★★★

●河野啓一
木犀の芽吹き夕日にうす茜★★★★
車椅子そろりそろりと花の下★★★
チューリップ若き彩り開きゆく★★★

●桑本栄太郎
雲を出で雲に入る飛機春の朝★★★★
鳥ならば、雲を出て雲に入ることはないような気がする。飛行機は雲を出てまた雲に入り、そこに物質的、機械的なまっすぐな方向を感じさせる。それも春の朝の高い空での出来事だ。(高橋正子)

グランドの光り長閑や初黄蝶★★★
径ふさぐ白き小枝や雪やなぎ★★★

●黒谷光子
遠かすむ比良を借景式部歌碑★★★

山つつじ左右に京への峠道★★★★
「京にのぼる」という言葉を昔話でよく聞いた。「京への峠道」には、いろんな物語がありそうだ。その峠道も山つつじが明るく咲く季節を迎えた。(高橋正子)

さざ波のままに一群れ春の鴨★★★

●佃 康水
水草生う御手洗川へ日の躍る★★★ 
古民家の釣瓶井跡に壺すみれ★★★★
宮島や花の雲間に海光る★★★★ 

●高橋秀之
夜更かしも終わる春休み最終日★★★
食事会最後の締めは桜餅★★★
傘なくも走って帰る春時雨★★★

●小西 宏
雨やんで濡れたる桜しめやかに★★★
よく晴れて芽吹きの枝に雀たち★★★
はらはらと花散り時の流れゆく★★★★

4月6日

●小口泰與
山茱萸の散るや鳥語のあふれおり★★★
山茱萸の褪せて杏の咲く日かな★★★
花辛夷山の獣も目覚めけり★★★

●桑本栄太郎
鈍行の駅のホームや花の雨★★★★
つぎつぎに句の生まれいる春意かな★★★
散り敷きて道に片寄る花の冷え★★★

●河野啓一
さくら背に乱れ咲きおり雪柳★★★
小さき手を広げ芽立ちや柿若葉★★★
霞立つ朝空を行く鳥の群れ★★★★

●高橋秀之
呉線の車窓に桜延々と★★★★
呉線は、山陽本線から分かれて元軍港のあった呉へと回る線路である。トンネルが多いことでも知られるが、それだけ山裾を走るということ。車窓にも桜が延々と咲き続く。(高橋正子)

花マーク桜まつりのシャトルバス★★★
大桜周りの木々を従えて★★★

4月5日

●小口泰與
これやこの飛蚊症とや朧月★★★
梅の梢(うれ)かすかに揺れし鳥の居る★★★
春暁の榛名へ流る星ひとつ★★★★

●祝恵子
陶器市器をなでる花の風★★★★
陶器市に並べられた陶器には、直に外の風が当たる。花の下の陶器市なら、花を吹く風がやわらかく陶器の肌をなでる。陶器のやわらかな艶が目に浮かぶ。(高橋正子)

花海棠白いセットのテーブルイス★★★
黄の並ぶ畝の数列チューリップ★★★

●小西 宏
さざ波のきらめき霞む九十九里★★★★
小綬鶏の藪を旅する声のあり★★★
ベランダの鉢小さくて沈丁花★★★

●黒谷光子
葦の芽の伸び古葦は折れもして★★★
遠近の花の盛りを見る車窓★★★
晴れ上がる城址の山に辛夷満つ★★★

●桑本栄太郎
<鳥取より京都の帰路>
一山の濃淡かさね花の雲★★★★
坂道に沿いて三軒春の山★★★
春景の車窓に流れ旅終る★★★

●高橋秀之
大空へ初蝶くるくる舞い上がる★★★★
「くるくる舞い上がる」と見た目は、童心そのもの。大空へ舞い上がる初蝶に元気があってかわいい。(高橋正子)

寒戻るひっそりと点く防犯灯★★★
街灯に照らされ夜桜より白く★★★

4月4日

●小口泰與
夕映えを浴びし白梅風の中★★★
さえずりや庭に出たがる室内犬★★★
山風のこよなき匂い四月かな★★★★
春の山は萌え出る木の芽や落葉の匂いが混じって、「春の山の匂い」を特別に感じさせる。山風にのって運ばれる「こよなき匂い」は、四月こその匂い。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<故郷より帰宅の家路>
菜の花の畑の彼方に伯耆富士★★★★
葉の切られ畑に起ちおり春大根★★★
<高速米子道~中国道へ>
蛇行せる遥か眼下や春の川★★★

●多田有花
夜桜を正面に見て球を打つ★★★
雨あがり桜へ霧の立ち昇る★★★
花びらの舞い散る中を山に入る★★★★
花の舞い散る山は、花が終わりかけ、新緑に変わろうとする山で、季節の変わりざまが目に、体に感じ取れる。山には、いち早く季節がめぐって来ているようでもある。(高橋正子)

●小西 宏
午後の日を黄緑にして菜花畑★★★
安房よりは春波を越え三浦見ゆ★★★★
花映す大岡川の夜の明かり★★★

●高橋秀之
新しき白靴の列新入生★★★★
ぎこちなく不揃いの列入学式★★★
入学式終えて写真を母と撮る★★★

4月3日

●小口泰與
春の日や芝の雑草おちこちに★★★
ほつほつとふふむ紅梅風の中★★★★
春やはる春爛漫のひと日なり★★★

●小西 宏
タンカーのゆるりと浮かび春の冨士★★★★
日の光樹心に孕み桜満つ★★★
シャボン玉はじけピアノの音を聞く★★★

●祝恵子
花に吊る提灯の列影落とす★★★★
昼間だろう。花に吊るされた提灯の連なった影が落ちている。明るい日差しに咲く桜ももちろんながら、色とりどりの提灯も花見の気分をもりあげる。面白いところに目が行っている。(高橋正子)

公園に新の自転車春休み★★★
連翹に子らの声飛ぶここまでも★★★

●桑本栄太郎
<故郷の春景>
揚ひばり田ごとに天のありにけり★★★★
雲雀は田よりまっすぐに揚がって天に囀る。こちらの田の上にもあちらの田の上にも雲雀が鳴き、田ごとに天がある。実にうまく詠んでいる。(高橋正子)

土筆野となりて荒れおり屋敷畑★★★
蛙鳴きほだつく畑の春の昼★★★

●黒谷光子
芍薬の芽のあかあかと二三寸★★★★
「あかあかと」に目が覚める。つやつやとした芍薬の芽が二三寸伸びたときの生命感よく詠まれている。(高橋正子)

母の目は子の後を追う花筵★★★
青空へ子らの歓声辛夷咲く★★★

●川名ますみ
主なき篦鹿(へらじか)舎にさくらさくら★★★★
桜というのは、意外とどこにでも咲いている。動物園の篦鹿舎には、篦鹿はいないが、さくらは篦鹿舎を飾るように咲いている。さくらの明るさが主のいないさみしさを一層感じさせる。(高橋正子)

初蝶のことさら健やかに来たり★★★
檻の中ソメイヨシノの咲くばかり★★★

4月2日

●小口泰與
ころおいや山茱萸の花雨と散る★★★★
赤城より風の荒める雪間かな★★★
春の田や二羽の鴉に鳶追われ★★★

●小西 宏
城山に海見下ろせば山桜★★★
石段を仰げば桜空に咲く★★★
川沿いの電車の窓に夜の桜★★★★

●桑本栄太郎
せせらぎの中へ緋色や落椿★★★
初つばめ見てより低く軒へ翔ぶ★★★

一畝の野風となりぬ花大根★★★★
種を取るために残された一畝の薄紫の大根の花は、ひっそりと野に立っている。風が吹けば野の風のままに、野の風となって吹かれる。菜の花とはまた違った趣だ。(高橋正子)

●多田有花
本堂の扉桜へ開かれる★★★★
暗い本堂の扉が明るい桜へと開かれ、明暗の対比がくっきりとした。(高橋正子)

花の丈桜若木のまだ低し★★★
頂を囲み躑躅の咲き初めし★★★

●黒谷光子
校庭も役所の庭も花の時★★★
遠目にも土手の桜の咲き初める★★★★
連翹の傾る野川の水の音★★★

●川名ますみ
丘の風辛夷の花を折りたたむ★★★★
丘の辛夷は風を受けやすい。咲き切った辛夷の花は、風を受けて花びら折れることもなく、折り畳んでいる。辛夷らしい姿。(高橋正子)

これ以上研げぬ青なり花の空★★★
花辛夷折り目をつけずたたむ風★★★

●古田敬二
満開へたか―いたかーいと嬰児揚げ★★★
桜咲く二足歩行の嬰子行く★★★
桜咲く隙間に空の見えぬほど★★★

4月1日

●小西 宏
菜の花の香の中を行く一筋に★★★★
菜の花の香りの柔らかさを、突き切って一筋に行く。突き切って行くことに人は何か爽快なものを感じる。(高橋正子)

冨士浮かぶ海青々と山桜★★★
桜見に来て山蔭の紅椿★★★

●小口泰與
木群より風の荒める春の湖★★★
かたくりや万葉集の三毳山(みかもやま)★★★
今飲みし珈琲濃ゆき日永かな★★★

●祝恵子
つばめくる同じ軒下何回も★★★★
南からやって来たつばめは、いくたびも同じ軒下を行ききする。さっそく巣作りをはじめたのか、その軒下が輝いて見える。(高橋正子)

梅の園ぽわっと膨らみ見えてくる★★★
ミツマタの水辺の沿いにひっそりと★★★

●黒谷光子
鬼女の面外せば妙齢春の能★★★
一番を固守して役所の桜咲く★★★
街路樹の根方何処も犬ふぐり★★★

●桑本栄太郎
<春の故郷鳥取へ帰郷>
春風にゆるりと廻る発電機★★★
饒舌と云う天空の揚ひばり★★★
廃校の母校の校門桜咲く★★★

●多田有花
花開く山を一望頂に★★★★
遠くより花見の客の声聞こゆ★★★
川流る山桜咲く峰の下★★★

●古田敬二
桜咲く大鐘楼は泰然と★★★★
桜は咲く場所によって雰囲気が違ってくる。桜が咲き、大鐘楼はますます泰然としている。(高橋正子)

風吹けば辛夷落花はまっすぐに★★★
辛夷落花まっすぐという潔さ★★★

●高橋秀之
風船の流れ行く先青き空★★★★
たくさんの風船が飛ばされたか、子どもの手を離れて飛んでいったのか。そんな風船は風に流れて、その行き先は青空となった。青空に受け止められた風船が明るい。(高橋正子)

春風を頬に真っ直ぐ道歩む★★★
朝の陽を浴び満開に桜草★★★