5月21日-23日

5月24日

●迫田和代
新緑に囲まれている森の奥★★★
初夏になり」木陰もいいし風もいい★★★
流れゆく水音までも初夏の音★★★★

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)に雨そそぎけり柿の花★★★
老鶯の山ふところに鳴きそそり★★★
昇り藤谷川岳の聳てり★★★★

●桑本栄太郎
ひつそりと葉蔭に青く柿の花★★★
さみどりの早もあじさいつぼみけり★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
晴れて今日裸足の季節始まりぬ★★★★
裸足が気持ちがよいのは少し暑さが加わった晴れた日。今日はちょうどそんな日なので、裸足ですごすことに。「晴れて」裸足の季節が始まるという当たり前のようだが、そこに意外性がある。(高橋正子)

少女らの自転車薫風を駆ける★★★
繰り返し森の奥よりほととぎす★★★

●黒谷光子
隣村へどの道行くも姫女苑★★★★
隣村へは、自転車に乗ったり、すぐ近ければ歩いてゆくこともあるのだろう。隣村へ行く道がいろいろあるが、どの道をとっても姫女苑が揺れている。やさしい花の咲くさわやかな道はうれしい。(高橋正子)

堂裏の射干知らぬ間に咲き終わり★★★
蕗を剥き暫く残る手の香り★★★

5月23日

●小口泰與
柿若葉野川の水のきらきらと★★★★
柿若葉が美しい色を見せるころ、陽は明るく輝き、野川はきらめきながら、そうそうとと流れる。日本のいい風景だ。(高橋正子)

白めだか身をそぐようにたまご産み★★★
雨後の朝そこはかと匂う牡丹かな★★★

●佃 康水
じゃがたらの花段畑に揺れ揃う★★★★
大蘇鉄朽ちし幹より青葉出づ★★★
夏めくや帆を張り替える浜漁師★★★

●河野啓一
万緑や友の便りの嬉しくて★★★
さわさわと鳴りて新樹は日を反し★★★★
池の面に遠き浮草夕まぐれ★★★

●桑本栄太郎
さらさらと白き葉裏や新樹冷ゆ★★★
すかんぽの穂に夕日さす丘の上★★★★
青嵐の風落ち昏るる夕べかな★★★

●多田有花
短夜や朝日が部屋の奥深く★★★
淡路島青葉若葉のその向こう★★★★
きな粉かけヨーグルトかけバナナ食ぶ★★★

●川名ますみ
青空に溶けることなき青葉の線★★★★
青は多くの色合いを含む。青空の青、葉や草の青など。青空と青葉とは、連なるような色だが、それが截然として空と青葉の間に線が引かれる。はやり、盛り上がるような青葉の勢いのせいであろう。(高橋正子)

青天と青葉きりりと画されし★★★
泰山木大きくそちこちに花★★★

5月22日

●小口泰與
朝日受けきわやかなりし柿若葉★★★
石楠花や鳥語人語とあふれおり★★★★
山雨来て野良猫急きし麦の波★★★

●小川和子
バギー押す子と連れ立てる薔薇の昼★★★★
バギーにみどり児を乗せて押していくわが子と連れだって薔薇の咲く昼の道を歩く。なにもかもが幸せに繋がる。(高橋正子)

バギーの児薫風の中眩しげに★★★
ふくいくと薔薇薫りくる聖五月★★★

●祝恵子
獅子の舞うそろそろ田水張らる頃★★★★
この句の獅子舞は、田植えの始まる前に豊作を願って舞う獅子舞だろう。その獅子舞がくると田水が張られ田植えの準備が始まる。わくわくした気持ちにもなる。故郷の田植えを思いだされたのだろう。(高橋正子)

とりどりの花はフエンスにばらは咲く★★★
鉢に添え木夏の野菜の育ちゆく★★★

●桑本栄太郎
実となりし楓若葉の緋色かな★★★
歩みゆく歩道いろどり青嵐★★★★
虫食いの葉裏にありぬ柿の花★★★

●多田有花
夏浅き光のあふれ森の道★★★
寺へいく道をきかれし薄暑かな★★★★
紬着て白日傘ゆく昼下がり★★★

●河野啓一
若葉風高窓開けて招き入れ★★★★
水玉を光らせ若葉照り映える★★★
アマリリス窓辺の風をひとり占め★★★

●小西 宏
初雷の去ればたちまち青い空★★★★
若葉より光漏れくる雨上がり★★★
雷雲の夕日に照るを見ておりぬ★★★

●黒谷光子
濃く薄く森は緑を競い合う★★★
揺れるともなく揺れ池に蓮浮葉★★★
初夏の池廻るそれぞれの歩幅★★★★(信之添削)
初夏の池は心地よい風が吹き、その池を連れだって巡るにも、思い思いに、それぞれの歩幅でめぐる。それぞれが池畔を楽しむ。初夏のさわやかさがあればこそ。(高橋正子)

●高橋秀之
真ん中の牡丹の花は大きくて★★★★
花びらに雨のしずくが白牡丹★★★
歩を進め止まって歩む牡丹園★★★

5月21日

●小口泰與
速やかに溶岩(ラバ)色蜥蜴溶岩を越ゆ★★★★
蜥蜴の動きは滑るように「速やかに」だ。溶岩に入れば溶岩の色になり溶岩を越える。動かねば見付けにくいが、その動きも速い。それをよく捉えた。(高橋正子)

有史より続く火の山麦の秋★★★
草肥や背戸の流れの急(せ)かれしよ★★★

●河野啓一
若楓谷間を埋めて箕面山★★★★
雨上がり水も滴る夏セーター★★★
更衣袖吹き抜ける風さやか★★★

●祝恵子
池の花アイリスの黄をしばし見る★★★
無人店引き返して買う夏の花★★★★
駅出れば催促賑やか子の燕★★★

●多田有花
高らかに森に響きしほととぎす★★★
波白く砕けて沖は初夏の青★★★★
五月の雨あがれば伸びし草の丈★★★

●桑本栄太郎
降り来れば筍流しと想いけり★★★
若楓ゆらぐ葉影の網目かな★★★
杭たどり風にあらがう糸とんぼ★★★★

●小西 宏
菜の色も海の香もあり冷やしソバ★★★★
冷やしソバに、畑の菜もあれば、海の香りのするものも載せてある。海の香りで一度に夏が来た。それを引き立てるのが菜の色だ。涼しさを誘う冷やしソバだ。(高橋正子)

日の影に野良猫眠るバラの花★★★
睡蓮に波少し寄せ鯉の鰭★★★

5月17日-20日

5月20日

●小口泰與
黄牡丹のすなおに散って重なりぬ★★★★
「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片/蕪村」の句にあるように、牡丹は散って花弁を重ねることが多い。この句の黄牡丹は牡丹らしくない色と言える。それがさりげなく、すなおに散って、やはり、どの牡丹とも同じように花弁を重ねている。(高橋正子)

かるの子や畦の醜草もこもこと★★★
雨さんざすべなき吾の浴衣かな★★★

●河野啓一
夏潮の色あざやかに福江島★★★★
水しぶき子ら次々と夏の川★★★
芝庭に紅い花植え夏舘★★★

●黒谷光子
葉桜を透く陽のきらら水音す★★★★
アイリスの紫溢る畑の隅★★★
アイリスを切り持ち帰る一抱え★★★

●桑本栄太郎
櫟より風に垂れいる毛虫かな★★★
姫女苑の風に抗いむらさきに★★★
蚕豆のコンとボウルに豆をむく★★★★

●小西 宏
動く虫咥えて忙し親燕★★★
紫陽花の花芽の緑雨を待つ★★★
羅(うすもの)やざんばら髪の勝ち名乗り★★★

●古田敬二
万歩計鳴らして歩く若葉風★★★
鍬降れば根を切る音の心地好し★★★
亡き犬の走りし森の若葉風★★★★

5月19日

●小口泰與
郭公や牧草ロールおちこちに★★★★
心地よい夏の牧場の風景。郭公が鳴き、牧草ロールが遠く、近くに点在する。よい時間が流れている。(高橋正子)

単線の線路真直ぐ桐の花★★★
沢蟹や棚田をかけるやわき風★★★

●河野啓一
鳥声も愉し青空バラの苑★★★★
木漏れ日を浴びて耀く赤いバラ★★★
夕べ来て新樹は風にざわめきぬ★★★

●多田有花
谷空木咲く道たどり登山口★★★★
新緑に肺まで染まりぶなの森★★★
樹間よりはるかに五月の日本海★★★

●桑本栄太郎
<大蛇ヶ池公園>
海桐咲く池の木蔭や風の闇★★★
睡蓮の池畔の中に広げ居り★★★
青蘆の吾をいざなう葉風かな★★★

●小西 宏
香に触れて丘にゆたかな樫の花★★★
葉桜の空に眩しき下り坂★★★★
夕暮の風に汗引く散歩道★★★

●古田敬二
どの家も好きな色あり薔薇盛ん★★★★
今年は四月の気温が低く、いろんな種類の薔薇が一度に咲きだした。薔薇を咲かせている家々を見れば、その家好みの色がある。白が好きな家もあれば、ピンクが好きな家もある。また、赤や黄やと。そういう色が合わさって、「薔薇盛ん」なのだ。(高橋正子)

柏餅二つに割りやる妻がいる★★★
歯科医院出て薫風の中大股に★★★

5月18日

●小口泰與
万緑の山懐の葉ずれかな★★★★
万緑の山を外から眺めるのではなく、その懐に入ると緑の木々の葉ずれがさわさわと鳴り、自分を大きく包んでくれる。山懐に抱かれたとき、自然の大きさ深さが思われる。(高橋正子)

水はじく水車や池の糸とんぼ★★★
友釣りの鮎の長竿空をきり★★★

●黒谷光子
空晴れてくっきり伊吹の登山道★★★★
山も野も晴れて緑の色競う★★★
玉葱を引く一本の匂いくる★★★

●河野啓一
立ち止り鳥声聞けば木下闇★★★★
立ち止まって鳥の声に耳を傾けていると、そこは木下闇であることに気づく。涼しい木下と鳥の声が快い。(高橋正子)

ひと休み佇む頃や木下闇★★★
若葉大きくなりて西日受け★★★

●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
薫風の空へと走るモノレール★★★★
白波の岸壁つたう卯浪かな★★★
新緑や埋め立て六甲アイランド★★★

●小西 宏
柔らかき若葉はカツラ明るい風★★★★
カツラの若葉はひときわ柔らかく、明るい。カツラは黄葉もほかの黄葉に比べ一段と明るいので、カツラの特性として、若葉のあかるさ、柔らかさが頷ける。(高橋正子)

青草に水の流れの聞こえ来る★★★
ママもぼくも五月の芝に初安打★★★

5月17日

●小口泰與
鯉の泥吐かせし小川若楓★★★
榛名嶺に朝日射しけり桜の実★★★★
浮石に飛び乗る吾や山女釣★★★

●迫田和代
ドーム見え新緑見えて川流れ★★★★
高層の窓からの眺め。ドームの丸い屋根が見え、新緑が見え、そして川が流れている。この景色は具体的には広島の原爆ドーム、平和公園の新緑、元安川の流れだが、戦禍を覆い隠して静かな季節である。(高橋正子)

薄暑の日木陰もいいし水もいい★★★
すぐそばに車椅子あり更衣★★★

●桑本栄太郎
花槐ゆらし吹きおり雨の風★★★★
神苑の杜の深きやいかる鳴く★★★
せせらぎに沿いて歩めば山法師★★★

●河野啓一
しゃがの花白くひっそり瀬のほとり★★★
囀りを空にちりばめ今朝の風★★★★
朝顔の苗植え竹を立ててやり★★★

●古田敬二
緑陰に入れば優しき心地なる★★★
句会終え緑陰優しき道帰る★★★

風吹けば若葉の影も柔らか★★★★
風が吹かなければ、若葉の影はどっしりとしているが、風が吹くと風もそよぎ、柔らかな影となる。柔らかな影は見ていて安らぐ。(高橋正子)

●小西 宏
そよ風に葉裏やさしく桜の実★★★★
老農の畑に雛罌粟ほそき揺れ★★★
木漏れ日に鳥聞こえ来て初夏の涼★★★

5月14日~16日

5月16日

●小口泰與
隠れ沼(ぬ)へしるべ辿りし時鳥★★★
桐の花しるき赤城の彫り深し★★★
牡丹散る清(すが)しき庭の風の道★★★★

●河野啓一
昼下がり揚羽が今日もやって来る★★★★
ヤタ鴉万緑の中ブラジルへ★★★
ヤタ鴉高く舞えよと柿若葉★★★

●桑本栄太郎
つまみ見るだけでは足らず桜の実★★★
竹皮を脱ぐやみどりの腰の丈★★★
ほろほろと雨降る茅花流しかな★★★★

●黒谷光子
夏の旅戒壇めぐりの真暗がり★★★
古刹へと登る石段緑濃き★★★
新緑の山あいを抜け美濃の旅★★★★

●多田有花
昼の陽を真白く返し手毬花★★★
はつ夏の満月雨あがりの空へ★★★★
筍を荷台に載せし軽トラック★★★

●小西 宏
朝の陽に滴る森よ時鳥★★★★
朝の陽が差す森はよく茂り、まだ濡れいている。輝いている。そこへ時鳥の声が聞こえる。麗しい初夏の森だ。(高橋正子)

水輝く五月の風の楓花★★★
三連の蝶舞い昇る花蜜柑★★★

5月15日

●小口泰與
掘り深き赤城や田畑夏浅し★★★★
笹音に振り向く吾や岩魚釣★★★
梅の実の路地一面を奪いけり★★★

●桑本栄太郎
若葉山つづく車窓の阪急線★★★★
槐咲く並木通りの風の闇★★★
黄菖蒲やルアーを手繰る池の畔★★★

●小西 宏
石楠花の身に影深し朝の雨★★★
雨の輪や子を失いし通し鴨★★★

梅の実のまだ小さきに紅を置く★★★★
梅の実がだんだんと太ってきた。まだ小さい実であるけれどほのかに紅色になっている箇所がある。小さいながら収穫ときの梅の様子を見せているのも驚き。(高橋正子)

●古田敬二
句会なる餡透き通るわらび餅★★★
森に座す若葉の陰に撫でられて★★★
紅秘めて薔薇は咲きかけ美しき★★★★

5月14日

●小口泰與
しるき斑を反転せしや山女釣★★★★
釣糸にからまる鰻へびの如★★★
夏蝉や乳を欲しいと泣く赤子★★★

●河野啓一
年毎に赤く咲き出すアマリリス★★★
カーネーションギフトはそっと土に埋め★★★

楠若葉並木一筋通学路★★★★
楠の若葉は盛り上がるように樹を覆う。その若葉が連なり重なる並木を通学する児童や生徒は健康的だ。(高橋正子)

●桑本栄太郎
ひかえめと云う華やぎや花卯木★★★
医科大の樟の大樹や聖五月★★★★
茉莉花の雨の予報に匂いけり★★★

●黒谷光子
夏野菜二人がかりに植え終える★★★★
水を遣り紫紺あざやか茄子の苗★★★
風除けの上から覗く茄子の苗★★★

●小西 宏
風渉る緑に若き桜の実★★★★
クローバーの花咲き満てる広さかな★★★
金柑の花のぞき咲く竹垣に★★★

5月11日~13日

5月13日

●小口泰與
頭から喰らいつきたる香魚かな★★★
あかあかと浅間を刷きし夕焼けよ★★★★
身ごもりし目高や居間のひとところ★★★

●古田敬二
うすみどりアカシア揺れて不器男の句★★★
薔薇の門咲きかけという美しさ★★★
緑陰という優しきものに潜りゆく★★★

●黒谷光子
城跡の麓の村も夏かすむ★★★
その上の城下を覆う夏霞★★★
夏霞棚引く裾野古戦場★★★★

●多田有花
城下町見下ろし若葉の風の中★★★★
雨に濡れ道の辺のジャーマンアイリス★★★
雨あがる森に響きし夏鶯★★★

●桑本栄太郎
咲くものは咲いて実となる風五月★★★★
五月のさわやかな風に吹かれる葉の蔭には、実がなっているのに気付く。桜の実もそうであるし、
梅や李、柿なども実となっている。うなずかされる。風五月が句に詩情を与えた。(高橋正子)

鴨川に川床の迫り出し整える★★★
大ぶりの葉の一畝や葱坊主★★★

●佃 康水
山水を集め寺裏菖蒲咲く★★★★
背後に山を控えている寺は結構多い。山から湧き流れる水を池などに集めて菖蒲を咲かせている。
山水と菖蒲の取り合わせが清冽な趣だ。(高橋正子)

河骨や大き葉裏を抜きん出で★★★
甘茶寺小花の鉢を賜りぬ★★★

●小西 宏
杜深く生きいる轟き青嵐★★★★
雨止んで梅の実一つ地に青し★★★
やわき黄のバラは零れるように咲き★★★

5月12日

●小口泰與
とめどなく小石湧きあぐ清水かな★★★★
清水が湧きあがる、涼しくきよらかな情景がよい。砂ではなく、小石が湧きあがることで、清水の湧く勢いが見える。(高橋正子)

夕映えを映す水田の緋鯉かな★★★
襲い来ししろがねの滝竜の如★★★

●桑本栄太郎
眼のまえの青き空揺れ窓若葉★★★★
堰堤の流れまぶしく夏は来ぬ★★★
青蘆の風をいざいなそよぎけり★★★

●黒谷光子
豌豆を採る間ときどき山を見て★★★★
たくさんの豌豆を採っているのだろう。手元ばかりを見て収穫するのではなく、ときどき新緑の山を眺めて見たりする。豌豆を収穫する時期は本当によい季節だ。(高橋正子)

手を洗う川のほとりの草茂る★★★
甘藷苗植えし夜更けの雨の音★★★

●小西 宏
バグパイプ木下に鳴らし牛蛙★★★
欅若葉うれしく枝を重くする★★★
泣く児背にアヤメ一列保育園★★★★

●古田敬二
高きよりキリンの見ている花吹雪★★★
抜け殻を背負いて速し天道虫★★★
風の道白くざわめく若葉山★★★★

5月11日

●小口泰與
ジーパンのしるき色なり夏野行く★★★
下闇や石碑に記す大津波★★★★
飛蚊症飛ぶや水別く岩つばめ★★★

●多田有花
石楠花の中抜け高野山を降りる★★★★
低地では石楠花の花は終わっているが、高野山では今、石楠花が盛りのようだ。高野山に参詣して、気持ちもすっきりとしたところで、山気漂う中、石楠花の道を下りた。(高橋正子)

はつ夏の海や小船を散りばめて★★★
薫風の高野山町石道★★★

●桑本栄太郎
生垣の坂道下る新茶かな★★★★
折り返すバスの田中や風薫る★★★
”かあさん”とつぶやきみたり母の日に★★★

◆今日の秀句/5月1日~10日◆

◆今日の秀句/5月1日~10日◆

[5月10日]
★森行けば卯月の風の葉裏かな/小西 宏
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

[5月9日]
★竹皮を脱ぐや一途に青空へ/桑本栄太郎
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

[5月8日]
★青空の今朝の輝き桐の花/多田有花
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

[5月7日]
★頂の優しき風へ黒揚羽/多田有花
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

[5月6日]
★朴の花見上げ葉影に憩いけり/桑本栄太郎
朴の花は高いところに咲くので、下からは見上げるだけ。しかし、その大いなる葉影で憩うときの心静かに涼しいこと。(高橋正子)

[5月5日]
★汁椀にますます蒼し山椒の芽/川名ますみ
山椒の芽、木の芽は香りがなんといってもよいが、その葉の緑も香りと合わせて楽しめる。汁椀に浮かぶと蒼さが引き立つ。(高橋正子)

[5月4日]
★木漏れ日の眩しさの中蝶々舞う/高橋秀之
木漏れ日のちらちらする中にまぎれるように飛ぶ蝶々。すずやかな光景だ。(高橋正子)

[5月3日]
★リュック置き若葉の丘へ子ら散りぬ/佃 康水
遠足の子どもたちであろう。リュックを置き、一目散に若葉の丘へ散っている。子どもたちも自由で、若葉もまぶしい。(高橋正子)

[5月2日]
★茶畑も八十八夜青々と/河野啓一
八十八夜の茶摘みは唱歌にも歌われて、茶摘みの景色が思い浮かぶ。八十八夜の茶畑が青々として、いよいよ茶摘みのシーズンを迎えて、心地よい5月の風景だ。(高橋正子)

[5月1日]
★新しき五月や白きハナミズキ/小西 宏
「新しき五月」が、いかにも新鮮。これは「聖五月」と表現される感覚かもしれないが、自分の感じ取った感覚を吟味している。白いミズキが、光を反射して、「新しき」を印象付けている。(高橋正子)

5月7日~10日

5月10日

●小口泰與
籐椅子やうすき靄刷く赤城山★★★★
縁側に持ち出した籐椅子だろうか。籐椅子に座り赤城山を眺めるとうすく靄が刷かれている。靄を「刷く」と捉えたところに、気持ちの優雅さが読める。(高橋正子)

日を乗せてはしる車窓の清和かな★★★
老鶯やぬか漬樽の古色なる★★★

●黒谷光子
野の花や庭の花あり花御堂★★★
甘茶仏花いっぱいの屋根重き★★★★
花御堂ところどころに造花など★★★  

●小西 宏
森行けば卯月の風の葉裏かな★★★★
「葉裏」が印象的なのは、さわやかさ、涼しさを求めるころ。卯月という古風な呼び名にも拘わらず、新鮮な句だ。(高橋正子)

坂道を紗の羽織着て黒日傘★★★
髪長き少女投球風薫る★★★

●桑本栄太郎
遠近の水田鏡や五月晴れ★★★
さざ波の代田の水のにごりけり★★★
風薫る村の辻名は南茶屋★★★★

●高橋秀之
夏風邪の床から見える青き空★★★
衣替え黒から白に部屋の中★★★★
葉桜の続く川沿い道長く★★★

5月9日

●河野啓一
緑陰を風吹きぬける昼下がり★★★
遅咲きもまた良し白いチューリップ★★★★
古池に目高群れおり輪になって★★★

●小口泰與
北軽の高原駆けるむぎわら帽★★★
波音と風のはこびし皐月かな★★★
新築のお披露目つどう若楓★★★★

●上島祥子
千切りを高く盛り付け春キャベツ★★★
千切りの響き高らか春キャベツ★★★
夏立つ日水をたたえて用水路★★★★
水がうれしい季節になった。用水路に水が満々と流れ、夏立つ日を実感させられる。初夏の明るさ、涼やかさのある句。(高橋正子)

●桑本栄太郎
<洛西の田園散策>
夏ひばり田水の天に歌いけり★★★
まんまんとさざ波湛え代田かな★★★
竹皮を脱ぐや一途に青空へ★★★★
「一途に」に若竹のぐんぐんと伸びる様子が作者の感嘆の気持ちを添えて、よく表現されている。皮を脱ぎ、一晩で、1、2メートルも伸びる竹が青空へ向かう様子には目を瞠る。(高橋正子)

●多田有花
青空へ楓若葉を透かし見る★★★
夏浅き夜の雷雨のなか帰る★★★
葉桜の青々と身を揺すりけり★★★★

5月8日

●小口泰與
五分刈りの坊主頭や風かおる★★★★
風薫る丸太橋見ゆ露天風呂★★★
新緑や山路の雨のしめやかに★★★

●古田敬二
うすみどり揺れてアカシア香りけり★★★★
ブロンズ像若葉の揺らめき空見上げ★★★
夏来る子どもあふれし乳母車★★★

●多田有花
風香る頂の木陰に座る★★★
青空の今朝の輝き桐の花★★★★
今朝の青空の輝き。これほど素晴らしいものはないと見れば、そこに高々と桐の花。薄紫の釣り鐘型の房様の花は、やはり古風な品があって遠目にもよくわかる。(高橋正子)

信号はすべてススメに青嵐★★★

●桑本栄太郎
蔓ばらの園の歌声高らかに★★★★
野の風の淡きピンクや姫女苑★★★
一畝に蝶を狂わせ葱坊主★★★

●河野啓一
瀬戸内に夏潮満ちて日暮れどき★★★
夏潮をひとまたぎして淡路島★★★
伊予水軍夏潮分けしその昔★★★★
夏潮の流れるさまを見れば、その昔、この夏潮を分けて伊予水軍が活躍したことが偲ばれる。とうとうとした夏潮の流れである。(高橋正子)

●黒谷光子
葦の間を流れ来る水清ら★★★★
豌豆の初採りほんの一握り★★★
踊子草地蔵の祠を囲むかに★★★

5月7日

●小口泰與
はっか飴舌にのせたる涼しさよ★★★
鳴きやみて忽と消えたるひばりかな★★★★
悠久の目路の榛名や夏の色★★★

●河野啓一
流れ来る調べや窓は新緑に★★★★
青柿のいと小さきが葉の陰に★★★
みどり背に真っ赤な小さいバラの花★★★

●多田有花
頂の優しき風へ黒揚羽★★★★
風が心地よく吹く頂で、黒揚羽がしなやかに飛んでいる。自然界は今優しい時だ。(高橋正子)

森渡る五月の風へ耳を澄ます★★★
若楓美しかりし人の影★★★

●桑本栄太郎
<初夏の洛西散策>
垂れ下がる虫の糸曳く聖五月★★★
新緑の木洩れ日こぼれ花の寺★★★★
ほいほいと村中よぎる五月かな★★★

●古田敬二
ヨシキリ鳴く池の夕波光る時★★★★
ヨシキリと光る夕波は、写真にも撮りたい風景だ。「夕波光る時」でこの句が引き締まった。(高橋正子)

葉桜を行けば池に水の音★★★
葉桜の覆いかぶさる東海道★★★

5月4日~6日

5月6日

●小口泰與
同胞としばらく会わず春の雷★★★★
春の暮榛名は紺をしぼりけり★★★
夕映えのしみ入る浅間雪消かな★★★

●小西 宏
新緑の欅並木の三車線★★★
地に青き葉の影の揺れ夏初め★★★★
池五月花くっきりと寒枯藺(かんがれい)★★★

●佃 康水
抜きん出て早や陽を弾く今年竹★★★★
  ひろしまフラワーフェスティバル2句
真っ直ぐな若葉の街を鼓笛隊★★★
新緑や流し踊りの連なりて★★★

●多田有花
釣竿を持つ少年の夏近し★★★★
釣竿を持っている少年を見ると、夏が来たことを実感させられる。少年の釣りは水遊びの気持ちがある。(高橋正子)

夏来る緑へ静かな雨連れて★★★
飛行機雲新緑の山の彼方より★★★

●河野啓一
初夏の朝陽さわやか晴れ渡る★★★
軽やかに鳥新緑をくぐり抜け★★★★
鳥もよほどうれしいのだろう。新緑をくぐるときの「軽やか」な身のこなし。新緑のやわらかさのが鳥喜ばせている。おりしも愛鳥週間。(高橋正子)

菊挿して鉢並べたる人の居て★★★

●桑本栄太郎
朴の花見上げ葉影に憩いけり★★★★
朴の花は高いところに咲くので、下からは見上げるだけ。しかし、その大いなる葉影で憩うときの心静かに涼しいこと。(高橋正子)

日を透けば崩れそうなるチューリップ★★★
漫々と日を集めたる浮葉かな★★★

●高橋秀之
新緑の隙間の向こうに大空が★★★
新緑と大空の色だけが見え★★★★
夏来るおはようの声も元気よく★★★

●古田敬二
風の道白くざわめく若葉山★★★
葉桜のざわめきの空明日は晴れ★★★
赤目樫夕日射し来て透き通る★★★★

5月5日

●小口泰與
行く春やしどろに作る小鳥小屋★★★
しなやかに風にしないし柳かな★★★
白波のしばしば起つや緑立つ★★★

●河野啓一
陽を受けて新樹は風にそよぎおり★★★★
蜂が飛び蝶もひらひら昼下がり★★★
鯛釣りの釣果ぞ白き刺身かな★★★

●祝恵子
土準備すれば増えおり春の苗★★★
ふっと揺れ団地に風抜け牡丹咲く★★★
鉄線花おしゃべりする児の愛らしさ★★★★

●小西 宏
子供らのままごと語りハナミズキ★★★
棘少し柵に覗かせ花蜜柑★★★★
蕗焚いて色やわらかき香り噛む★★★

●小川和子
無垢の児の日毎健やか菖蒲の日★★★★
卯の花の真白よ全き容以て★★★
夏近し百合の木新葉濃くなりぬ★★★

●桑本栄太郎
みどり濃き雨の山河や夏は来ぬ★★★
父母ありし頃の想い出こどもの日★★★
乙訓の山すそ火照り竹の秋★★★

●古田敬二
白皿に薄紅色もある春野菜★★★
風来れば葉に見え隠れ豆の花★★★★
忘れ鍬一本立てりネギ坊主★★★

●高橋秀之
銭湯の大きな湯船菖蒲の湯★★★★
銭湯の菖蒲湯はたっぷりとお湯があり、いい気分なものだ。この日は子どもたちもお湯をどぼどぼとかき混ぜたり、まさか泳ぐものはいないだろうか、賑やかであったことだろう。(高橋正子)

軒下の一竿小さな鯉のぼり★★★
葉をめくり手につく香り柏餅★★★

●川名ますみ
あす立夏山椒の苗を植え付ける★★★
汁椀にますます蒼し山椒の芽★★★★
山椒の芽、木の芽は香りがなんといってもよいが、その葉の緑も香りと合わせて楽しめる。汁椀に浮かぶと蒼さが引き立つ。(高橋正子)

青天に一条の影つばくらめ★★★

5月4日

●小口泰與
白藤や今朝の浅間は斑なり★★★★
里山の古木静けき落花かな★★★
山の日の定かに沈む桐の花★★★

●小西 宏
柔らかな五月の風に白躑躅★★★
葉擦れして風香しき薄暑かな★★★
水音の静かに聞こえ若楓★★★★

●多田有花
藤の花下がりし下を女学生★★★★
窓開けてお昼ごはんや夏隣★★★
オートバイ集団でゆく黄金週間★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日の大き葉影や朴の花★★★★
降りつもるものの数多の暮春かな★★★
新月の朧となりて雲の影★★★

●高橋秀之
木漏れ日の眩しさの中蝶々舞う★★★★
木漏れ日のちらちらする中にまぎれるように飛ぶ蝶々。すずやかな光景だ。(高橋正子)

店先は花いっぱいの商店街★★★
散歩道葉桜の陰で一休み★★★

●黒谷光子
山峡の茶わん祭りにバスの列★★★
新緑を映す渓流光りつつ★★★★
一瞬の光り残して初燕★★★

●古田敬二
今年竹夕日が当たる高さまで★★★
俎板に新玉ねぎは水こぼす★★★★
ズミの花夕べの風に白く揺れ★★★

●佃 康水
摘みし葉の光り溢るる茶籠かな★★★★
茶籠いっぱいに摘まれた若いお茶の葉はつやつやとして、光を溢れるように反射させる。まぶしいばかりの茶葉の光に接すると気持ちが明るくなる。(高橋正子)

絣の子揉む新茶の香園に満ち★★★
お手植えの菩提樹放つ若葉光★★★

5月1日~3日

5月3日

●小口泰與
入口は連翹明かりの隧道ぞ★★★★
隧道を抜けると青葉若葉かな★★★
門前にしたたか散りし蘇芳かな★★★

●迫田和代
春日傘たたんで木陰の人となる★★★★
日傘がいるような春の日は、初夏のような陽気。木陰に入ればほっとする。一読、さわやかな風が吹く心地。(高橋正子)

目の前の光を裂いた初燕★★★
雨やんで新緑鮮やか森の道★★★

●佃 康水
リュック置き若葉の丘へ子ら散りぬ★★★★
遠足の子どもたちであろう。リュックを置き、一目散に若葉の丘へ散っている。子どもたちも自由で、若葉もまぶしい。(高橋正子)

螺旋坂彩とりどりに躑躅燃ゆ★★★
ハンカチの花や夕日へ揺れ止まず★★★

●黒谷光子
風の出て飛び立ちそうに花豌豆★★★
風の午後花豌豆の揺れどおし★★★
細き蔓宙に巻き上げ貝母百合★★★★

●多田有花
遠足の小学生に風光る★★★★
八十八夜大阪のビルの眩し★★★
急がずに行くことの良し春惜しむ★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日の風のみどりや聖五月★★★
葉の裏の白き風ぬけ五月来る★★★
みどり為す山河憲法記念の日★★★★

●河野啓一
初夏のよき日生まれし法(のり)の日ぞ★★★★
日本国憲法が施行された日は5月3日の風薫る初夏のよき日。この日を憲法記念日として祝える日本国民は、幸せである。(高橋正子)

湯上りの団扇なつかし頃となる★★★
干し河豚をあぶり思うは旅のこと★★★

●小西 宏
艶やかに草匂いする薄暑かな★★★
ひとすじの青すがすがし韮の花★★★★
葉桜に一直線の空がある★★★

●古田敬二
アカシアの棘まだやわらかき若葉(信之添削)★★★★
ワサワサと枝ごと揺れる柿若葉★★★
夕暮れの低きに広がるウマゴヤシ★★★

5月2日

●小口泰與
花ふぶき天竜川の満々と★★★
諏訪湖より発する川や桜魚★★★★
鳥鳴くや水田にはゆる桃の花★★★

●河野啓一
茶畑も八十八夜青々と★★★★
八十八夜の茶摘みは唱歌にも歌われて、茶摘みの景色が思い浮かぶ。八十八夜の茶畑が青々として、いよいよ茶摘みのシーズンを迎えて、心地よい5月の風景だ。(高橋正子)

柿若葉透かしてそそぐ陽の光★★★
柿若葉カシューナッツもねじれおり★★★

●祝恵子
藤の花棚にまつわり空青し★★★
店舗みな藤鉢花を咲かせおり★★★
春深し土産に抹茶入りの酒★★★★

●川名ますみ
壕向こう白詰草にけぶる芝★★★★
次の角今年もきっと鯉幟★★★
青空に水木の花の白浮ける★★★

●桑本栄太郎
こでまりの花の小枝や丘の風★★★
見上げれば葉影となりぬ朴の花★★★
赤き穂の高く日当たる酸葉かな★★★★

●小西 宏
裏崖の茂みに明かし藤の花★★★
野良猫の首に躑躅の花飾り★★★

水に立つ緑明るし黄の菖蒲★★★★
黄菖蒲は花菖蒲とはまた別のもので、水から抜け出て立つ葉は、一段と明るい緑だ。そこに単純に黄色の花が咲く。涼しい感じの句だ。(高橋正子)

●古田敬二
半分に分ければ香る蓬餅★★★
ネギ坊主高低ありて風に揺れ★★★
蓬の香強き香りの餅を食う★★★★
蓬餅で一番うれしいのは、やはり蓬の香り。蓬のしっかりと匂う蓬餅は、季節の餅を味わったという満足感がある。その気持ちを正直に詠んでいる。(高橋正子)

5月1日

●小口泰與
あけぼのの野川に沿いし黄水仙★★★
笛の音やみつばつつじの池明かり★★★★
竹林に古木一本八重桜★★★

●多田有花
絵具箱に色のとりどり春深し★★★★
絵具箱にあるとりどりの色は、明るい日差しや光にその色が印象付けられる。「春深し」絵具箱が絵になった。(高橋正子)

空映す川は海へと春惜しむ★★★
パンケーキに蜂蜜とろり暮の春★★★

●桑本栄太郎
駅ごとにつつじ燃えおり阪急線★★★★
八重なれど溝に散り敷く花の屑★★★
軒端まで土堤の明かりの花菜かな★★★

●黒谷光子
青空の光り受け止め花水木★★★
花水木薄紅を刷き空へ向く★★★★
ながながと藤房土手の一木に★★★

●小西 宏
軒潜るツバメ円弧の雨上がり★★★
老農の結びたる棚豆の花★★★
新しき五月や白きハナミズキ★★★★
「新しき五月」が、いかにも新鮮。これは「聖五月」と表現される感覚かもしれないが、自分の感じ取った感覚を吟味している。白いミズキが、光を反射して、「新しき」を印象付けている。(高橋正子)

4月30日

●小口泰與
利根の水まさるや田畑つばくらめ★★★★
うぐいすや靄のおおとつ梓川★★★
黄帝の絆をつぐや鳥雲に★★★★

●祝恵子
チューリップ小雨は森に去りました★★★★
森の近くのチューリップ畑。あまりにもかわいらしいチューリップに雨は少しだけ降って森へ去っていった。ここにメルヘンが生まれた。(高橋正子)

春紫苑ゆっくり水は田に流れ★★★
ポピー揺る丘一周を囲み咲き★★★

●古田敬二
山からの水音聞きつつ摘む蕨★★★★
持ち帰る香る山菜籠いっぱい★★★
山吹に触れて旅ゆく美濃路かな★★★

●黒谷光子
八重桜辻の地蔵の天蓋に★★★★
筍の包まれ湿る新聞紙★★★
到来の春の筍みずみずし★★★

●桑本栄太郎
木洩れ日の葉影に憩い花楓★★★
草むらのからすの豌豆うすき莢★★★
想い出の走り過ぎ往き四月果つ★★★★

●川名ますみ
こでまりの団地にあふれ風白き★★★★
木の芽いろ銀杏並木のどの枝も★★★
川岸に吹き揃いたる銀杏の芽★★★

●河野啓一
雨上がり水滴らせ新樹かな★★★★
ハナミズキ白花ことに輝ける★★★
四月尽リハビリ体操ままならず★★★

4月29日

●小口泰與
さえずりや醜草ふゆる花時計★★★
林泉に群鳥あそぶ花蘇芳★★★
ちょうちょうや棚田に水のまんまんと★★★★

●河野啓一
葉桜の並木つややか風の道★★★★
アイリスの今年もおだやか咲き上る★★★
チャールストン躍るごとくにバラの花★★★

●古田敬二
初蛙田んぼは美濃の山映す★★★★
桜散る一日三度来るバスに★★★
筍のごつりと当たる靴裏に★★★

●上島祥子
鯉のぼり仲良く泳ぐ水鏡★★★★
田水が張られ、その近くに民家があるのか。ま鯉、ひ鯉、子供の鯉とそろって吹かれている様が水に映って気持ちよさそうだ。(高橋正子)

春コートクレープ食べるテラス席★★★
ガレットの焼ける香りや春盛り★★★

●桑本栄太郎
みどり為す雨の山河や昭和の日★★★★
雨音のひと日暮れゆき春惜しむ★★★
黄金週間おとこ厨の留守居かな★★★

●佃 康水
筍を茹でつつ糠を噴き零す★★★★
筍を茹でるとき油断すると灰汁を抜き、柔らかくするために加えた糠が吹きこぼれる。鍋や釜の縁に吹きこぼれた糠がこびりつくこともある。しかし、こういう事に季節の暮らしがある。(高橋正子)

足場組むパイプの音や若葉寺★★★
膨れ寄す波へこぞりて松の芯★★★★

●小西 宏
マンションの庭に鶯こだまする★★★
水の音に小さく揺れて春紫苑★★★
雨雲の垂れ来て躑躅紅の濃し★★★★

●多田有花
にぎやかにラーメンすする春の山★★★
山下りて春の夕べの薬草風呂★★★
緑いきいき晩春の雨上がり★★★★

●高橋秀之
電車待つ夜の駅舎に初燕★★★★
初燕を見かけるのは、たいてい空の下だが、作者はたまたま電車を待っている夜の駅舎で見かけた。さっそうと飛ぶ燕ではないが、駅舎の灯に照らされた燕も初燕である。(高橋正子)

とんとんと窓を打つ音春の雨★★★
春寒し小雨の通夜の帰り道★★★

●黒谷光子
仰向けもうつ伏せもあり落椿★★★
足止める三つ葉躑躅の花に葉に★★★
久に繰る古きアルバム春の夜★★★