7月10日(7名)
●谷口博望
若竹
若竹や松陰の志士奮ひ立ち★★★
ほんのりと色づき始む石榴の実★★★★
足腰に力を溜めてカンナ燃ゆ★★★
●小口泰與
梅雨晴やうす墨色の赤城山★★★★
「梅雨晴」であれば、いつもの「赤城山」も墨絵に見るような美しい姿を見せてくれる。
身近に見る、美しい風景との出会いは、「梅雨晴」であれば、なお嬉しい。(高橋信之)
妻かかえ来しばらの香りのゆたけしや★★★
床の間の武者人形や冷し酒★★★
●多田有花
折れ茎の先にとまりし夏茜★★★
開け放つ窓を吹き抜け南風★★★
陽を受けて立つ梅雨の入道雲★★★★
●河野啓一
住吉の御田も青き田となりて★★★
祇園祭鉾立て手配裏通り★★★
アサガオの苗出そろいて網を張る★★★★
●桑本栄太郎
<鳥取帰省>
漁火の沖に滲むや夏の夜★★★
鷺の舞う日差し明るき青田晴★★★★
あじさいの色の褪せくる日差しかな★★★
●上島祥子
ベランダに一鉢増えて涼招く★★★★
水際に赤を添えたり合歓の花★★★
夏草や白を秘めつつ丈伸ばす★★★
●古田敬二
噴水は空に留まる術知らず★★★
紀の川に投網ひろがる梅雨晴間★★★
夕暮れて苗田を走る車の灯★★★★
日常の生活感のある句なので、ありふれた表現だと見られがちだが、この生活感がいいのだ。(高橋信之)
7月9日(7名)
●谷口博望
挫折とは生きる始まり蝸牛★★★
合歓の花夜の帳の下りにけり★★★
故郷の夜の川行く鵜舟かな★★★★
●小口泰與
紫陽花の露天湯警護するごとし★★★
次々に山女飛び出す夕まずめ★★★
あじさいや雨の露天湯音もなし★★★★
●多田有花
雨あがり梅雨の茸の濡れて立ち★★★★
西瓜食ぶ頂点の甘きところより★★★
一週間おいて食べよとマスクメロン★★★
●広田洋一
片陰の途切れし所駐車場★★★
片陰に車を止めて野菜売★★★★
車の移動販売の野菜売りが、片陰の涼しいところで、店を広げている。色とりどりの夏野菜が目に浮かび。夏は、生き生きと新鮮なものに気持ちが涼やかになる。「片陰」が効いている。(高橋正子)
片陰に松葉ボタンのプランター★★★
●桑本栄太郎
老鶯のドライブインの朝餉かな★★★★
ハイウェイの谷を飾るや合歓の花★★★
老鶯や裏山せまる叔母の家★★★
●河野啓一
初蝉やデイの門にてお出迎え★★★
初蝉の静かな声を聞く朝★★★★
梅雨明けを待ちかねたるや蝉の声★★★
●古田敬二
暮れなずむそこだけ明るき合歓の花★★★
梅雨雲の稜線まで来る吉野線★★★★(正子添削)
(もとの句には、季語がありません。)
水蘚の香りの岸辺に鳴く老鶯★★★
7月8日(5名)
●谷口博望
織姫の年に一度の逢瀬かな★★★
梅雨寒やトリプル台風発生す★★★
噴水の大樹のごとく揺れており★★★★
●小口泰與
定刻や植田見回る老夫婦★★★
梅雨晴の上目づかいの小犬かな★★★
袋掛途中や忽と雨気付く★★★★
●河野啓一
薄日差す今朝の嬉しき梅雨晴れ間★★★★
鬱蒼と低き雲間の夏木立★★★
垣根沿い紫蘭咲けども孫は来ず★★★
●桑本栄太郎
崩れいる八重の梔子まだ匂う★★★
梅雨晴や病院バスの左折のみ★★★
青柿をかざす日射しや雨あがる★★★★
●多田有花
梅雨明けを待ちつつ茹でる玉蜀黍★★★(正子添削)
飛行機の音に重なる初蜩★★★
遠くより雨音が来る梅雨の森★★★★
上五の「遠くより」がいい。「森」を詠んで詩の言葉となった。それも「梅雨の森」である。写生の心を失わずに詩となったのである。(高橋信之)
7月7日(6名)
●谷口博望
蛍狩幼児の記憶今もなほ★★★
鮎くれし碁の友今はいづこかな★★★★
出目金や松の廊下をずいずいと★★★
●祝恵子
二種類の香りを立たせ百合の咲く★★★
笑い持つ胡瓜娘の手に渡されて★★★
初西瓜井戸のことなど母のこと★★★★
今年初めて西瓜を食べながら、昔は井戸で西瓜を冷やしたこと、そのころ子どもたちの中心にいた母のことなど思い出された。西瓜はそういった昭和の生活を思い起こさせるところがある。(高橋正子)
●小口泰與
滝つぼや馬の尿する牧の窪★★★
ランドセル忽と集いし蛇の殻★★★
走り来て杏を知らぬ園児かな★★★★
●河野啓一
カサブランカ咲いて今年も晴れやかに★★★★
庭さきの青柿しんと静まれる★★★
白南風の時季を待ちつつ留守居かな★★★
●広田洋一
台風の進路計りつ予定立つ★★★
台風一過心静まる青き空★★★★
物干場満艦飾の台風過★★★
●佃 康水
七夕の和菓子の出来て友招く★★★★
七夕の和菓子を手作りし、友を招く。七夕の和菓子は、七夕への思いがあって、童心に帰ったように、友と楽しいお茶の時間が持てたのだろう。よろこびたい。(高橋正子)
小さき手の大き夢書く笹飾り★★★
庭箒ふと樹に触れて青時雨★★★
7月6日(4名)
●河野啓一
射干の朱くチラチラ窓越しに★★★★
青芝にゴール求めて球を蹴る★★★
ようやくに検査終わりぬ月見草★★★
●谷口博望
まんまるの風船葛灯を点し★★★
凌霄花地に落ちてなほ夢の中★★★
向日葵や壺の中なるゴッホの絵★★★★
●小口泰與
凌霄花や長き裾野へ雲一朶★★★
青田風田川滔滔流れける★★★★
から桃を枇杷と言うたる園児かな★★★
●上島祥子
橋からは瀧を目指して歩を速め★★★★
橋を渡れば、瀧へと一段と近づく。景色も変わって、瀧を訪ねる気持ちが逸る。歩く速度も早まる。瀧の様子を思い浮かべながらのこと。涼しさに出会うのも間もなくだ。(高橋正子)
夏の昼芝生広場の青々と★★★
向日葵の一輪夏を宣言す★★★
7月5日(4名)
●谷口博望
空蝉や青い地球のあるかぎり★★★★
空蝉をどう受け止めるかが問題だが、この句では、命の生まれたあとものという意味だろう。青い地球がある限り、命は生まれ続ける。(高橋正子)
尊きや命生まれし蝉の殻★★★
空蝉や同期の桜帰らざる★★★
●小口泰與
凌霄花や雲たたなわる赤城山★★★★
声こえの牧へ谺やほととぎす★★★
錬雲雀竹かご背負う老夫婦★★★
●広田洋一
青スイレン水の青きを滲みだせり★★★★
睡蓮の色はさまざまで、水色のような青色の睡蓮もある。水に浮かぶと、水の青さを滲ませたような感じだ。水に生れる花、睡蓮を観察してこそ見出したこと。(高橋正子)
一つずつ灯の点るごと未草★★★
ほいほいと顔出して笑む睡蓮かな★★★
●河野啓一
七月や笹に送られ車出る★★★
軒下に七夕竹を立てにけり★★★★
戦後70年
七夕を祭るときなしその昔★★★
7月4日(3名)
●小口泰與
蓮沼や声の沸き立つ遊覧船★★★★
おりおりに鳥の鳴きける苔清水★★★
老いてこそ頼むは連れぞ風かおる★★★
●多田有花
向日葵が高く咲き初めし朝★★★★
朝の空に、向日葵がすっと伸びて、高く花をつけた光景に、心が洗われるような明るさがある。俳句は心境の詩。(高橋正子)
舗装路をすれすれに飛び夏燕★★★
お弁当広げる梅雨の頂に★★★
●谷口博望
半夏生散水中の薬草園★★★
時計草交番は今巡回中★★★
白粉花塀の向こうのテニス音★★★★
7月3日(5名)
●河野啓一
雑草をものともせずにミント伸び★★★
ハッカ飴香りは薄く空へ抜け★★★★
ハッカ飴を口に含むと、すうすうとして清涼感がある。薄荷の香りが、すうっと空へと抜けていく気分もまたいいものだ。(高橋正子)
薄荷油の歴史北見の記念館★★★
●広田洋一
風死せり吐息ばかりの運動場★★★
あちこちに行けど風死す吉田山★★★★
風死すやちょっと横になりにけり★★★
●小口泰與
山間の青き芥子をば知らざりき★★★
利根川を下り来し雲走馬灯★★★
病葉や町並み古りぬ中心街★★★★
●上島祥子
木曽川を越えて夏山引き寄せん★★★
完熟のトマト並べる直売所★★★
木漏れ日や林へ誘う夏の蝶★★★★
夏の蝶が誘いゆく先が林であるのが、うれしい。蝶は、木漏れ日に紛れ飛び、林へと誘ってくれた。(高橋正子)
●谷口博望
宝珠てふ美しき木槿の蕾★★★
ヘリの音風船葛密やかに★★★★
ヘリコプターの音が空の静寂を破っているが、風船蔓は、かわいらしい緑の風船たくさんつけている。ヘリの音とは別の世界。(高橋正子)
被爆樹の青桐今や花万朶★★★
7月2日(6名)
●福田ひろし
黒南風に暖簾の重く揺れにけり★★★★
黒南風は梅雨の陰鬱な空模様のときに吹く南風。じっとりと湿気を含んで、風が通る暖簾が「重く」揺れる。梅雨が明ければ、風が軽やかに暖簾を揺らすだろうに。(高橋正子)
北の地へ行きたし今日の合歓の花★★★
夏服の老女小さく蕎麦すする★★★
●河野啓一
ヒマラヤの空遥か蒼いけしの花★★★★
芥子粒のごとく吾ら宇宙に漂える★★★
ひなげしや色とりどりのロウ細工★★★
●桑本栄太郎
梅雨晴や嶺につらなる送電塔★★★★
梅雨晴になると、それまで雨や靄に煙っていた峰々の送電塔が、はっきりと見えるようになる。遠くまで連なる様子に、軽快な気持ちが湧く。(高橋正子)
白と黄の木槿垣根を教会へ★★★
忽然と嶺に明るき梅雨の月★★★
●小口泰與
籐椅子や強き日の差す山上湖★★★★
山上湖は、甲府のヘラ鮒つりで有名な湖だろうか。籐椅子にゆったりと座れば、山の日差しが強く届く夏の時間だ。(高橋正子)
あじさいやずぶ濡れの猫過ぎ行ける★★★
雨粒にたわむ葉っぱの菖蒲かな★★★
●多田有花
合歓の花の香り漂う朝の森★★★★
合歓の花の香りは、「朝の森」であれば、その香りはよりよく届いたことだろう。(高橋正子)
網持ちて夏茜追う夫婦かな★★★
風羅堂跡に咲いたる富士薊★★★
●谷口博望
美しき白鷺歩く潮干川★★★★
潮の引いた川の干潟に、白鷲が歩きながら餌を探している。一羽の白鷺が潮干川の涼しそうな夏の景色としている。(高橋正子)
兄弟で川へ遠出の鴉の子★★★
向日葵は花といふには似合わざる★★★
7月1日(7名)
●川名ますみ
髪を切る鏡の奥の夕焼雲★★★★
髪を切ってもらうとき、鏡の奥に映る夕焼雲のきれいなこと。鏡の中へ入ってあの夕焼雲のところへ行ってみたい気持ち。(高橋正子)
サンドレス病みし躰にこともなげ★★★
病める身を包みて明るサンドレス★★★
【添削】病める身を包みて明るいサンドレス
●広田洋一
黒き土白く乾けり酷暑かな★★★★
土の色の黒から白への変化は、酷暑による乾燥によるものだが、白い土はいかにも暑そうだ。 (高橋正子)
アスファルト湯気をたておる酷暑かな★★★
酷暑かな野菜冷やして凌ぎけり★★★
●桑本栄太郎
木槿咲く愁いの色と見る吾に★★★★
木槿には、真っ白いもの、宗旦木槿など、白い花の中心に赤い色のあるもの、薄紫や薄紅のものといろいろある。憂いの色と映ったのは、薄紫の色だろうか。 (高橋正子)
爪先のネイルアートやサンダルに★★★
梅雨晴れや遺跡に集う説明会★★★
●多田有花
一本は必ず倒れグラジオラス★★★★
グラジオラスの球根は、あまり根を深く張らず、花も多く重いためか、全部がまっすぐ立っていることは少ない。どれかが倒れている。梅雨の時期雨を受けているときは特にそんな様子が見れる。面白いことだ。 (高橋正子)
夏萩に揚羽蝶来る雨あがり★★★
七月の濁流見下ろし頂に★★★
●河野啓一
あわあわと合歓の大樹の明かりかな★★★★
合歓の大樹なればこそ、たくさんの花があって、その様子があわあわとしているのだろう。「あわあわ」に花の様子が目に浮かぶ。 (高橋正子)
友尋ぬ合歓の花咲く昼下がり★★★
孫ひ孫ねむの花咲く山路かな★★★
●小口泰與
夏つばめ一閃せりや波の上★★★★
一閃の「鋭さ」と、波の「やわらかさ」とが引き立てあって夏つばめの本質を言いえている。 (高橋正子)
掬いたる金魚の数の漏れもなし★★★
雨粒を並べ菖蒲の葉っぱかな★★★
●谷口博望
蟇の声安保法制許すまじ★★★★
「原爆ゆるすまじ」を叫んできたのに、またもや違憲と言われる安保法制を可決しようとしているが、これには、黙ってはおれない。「蟇の声」がやりきれない怒りを物語っている。難しい題材をよく詠んでいる。 (高橋正子)
楸の大樹高きに花と実と★★★
棚に同窓会の団扇かな★★★