今日の秀句/8月21日-31日

[8月30日]
★稲干して古き時代を語りけり/河野啓一
刈りとった稲を干して、昔の稲刈りのことなど話たのであろう。今は刈りとりと同時に脱穀までしてしまうほど機械化されて、あっけない感じがする。昔ながらの方が、稲に対する思いが清らかなように思う。(高橋正子)

[8月29日]
★霧の朝子はしんしんと眠りけり/福田ひろし
「霧」は秋の季語。子は、秋となって、「しんしん」と静かに深く眠り、安らかである。特別なことではないが、平和な、いい生活がある。(高橋信之)

[8月28日]
★白波の立ちし榛名湖荻の声/小口泰與
榛名湖に白波を立たせて吹く風は、また荻を吹く風でもある。荻を吹く風はすでに秋のわびしさを感じさせる風なのだ。(高橋正子)

[8月27日]
★霧動き白樺静かに現われり/古田敬二
白樺と霧の実景に詩情がある。それを「静かに現われり」と、合唱の幕が徐にあがるように詠んだのが魅力。(高橋正子)

[8月26日/2句]
★時折は硬き音たて秋雨降る/小川和子
秋雨の降る音を聞いておれば、静かな音のなかに、時折、硬くものを叩いて降る音が聞こえる。一様でない秋雨の降り方に、聞く心も心なし揺らぐ。(高橋正子)

★手のとどく丈に椎の実弾け居り/桑本栄太郎
幼いころ椎の実を食べた思い出のある作者だろう。手を伸ばせば届く位置に椎の実が弾けている。あまりの懐かしさに、また、この秋という感傷的な季節に、一句となった。(高橋正子)

[8月25日]
★野の草をしとどに浸し秋出水/河野啓一
大雨のあとの川をのぞくと、出水が川辺の草を水草のように巻き込み、浸して流れている。災害をもたらすほどの雨でないのが幸いで、勢い流れる出水に「野の草をしとどに浸す」風情を見た。(高橋正子)

[8月24日/2句]
 神戸の港湾
★秋澄むや港湾跨ぎ大橋梁/桑本栄太郎
港湾に架かる橋梁は硬質の力と美がある。大気が澄み、海の水も青さを増して、港湾の景色が魅力を増す。(高橋正子)

 広島土石流災害
★秋出水乾かぬ泥の匂い立つ/佃 康水
このたびの広島の土石流の災害は、まったく酷い。「泥の匂い立つ」が罹災された人たちの悲しみと、現場の生々しい惨状を伝えている。(高橋正子)

[8月23日]
★子らの絵の行灯並び地蔵盆/黒谷光子
地方によって地蔵盆の送り方はいろいろであろうが、光子さんの地方は、行灯に子どもが絵を絵を描き、それを幾灯も灯しているようだ。微笑ましい行灯の絵に囲まれた本当に子どものための地蔵盆だ。(高橋正子)

[8月22日/2句]
★蝶のせて女郎花揺る万博の森/祝恵子
女郎花に蝶がのって揺れる可憐な姿は、山にある女郎花とは趣の違った、万博の森の女郎花。女郎花は意外にも強い花だが、目にはいかにもしなやかだ。(高橋正子)

★荒れ畑の野鳥の声や野分晴/小口泰與
野分が去ったあとの、すっきりと晴れた空。その晴れた空の下に荒れた畑があるが、野鳥が嵐が去ったことを喜び鳴き交わしている。荒れた畑は野鳥たちの喜ぶ自然の野なのだ。(高橋正子)

[8月21日/2句]
★燕すでに去りにし空の飛行機雲/多田有花
残暑の暑さに空を見るのを忘れていたが、空の燕はいつの間にか去って、さびしくなった空には飛行機雲が線を描いて伸びている。もう秋が来ているのだ。(高橋正子)

★街の灯の清らに見ゆる秋の夜/小西 宏
まだ暑さが残る頃、昼間の空気は澄んでいるとは思えないが、夜になると、街にともる灯は、清らかに澄んで見える。街の灯がきれいな夜は気持ちも爽やかになる。(高橋正子)

8月21日-31日

8月31日

●小口泰與
逆光の数多のしずく稲穂かな★★★
笹を食む山羊や秋野の蒼き空★★★
田の面を白き腹見せ秋つばめ★★★★

●河野啓一
八月尽秋の雨をば憾みつつ★★★
秋の日を浴びて柿の葉揺れており★★★
秋澄めり島熊山のレストラン★★★★
島熊山(しまくまやま)は、大阪万博の開かれた千里丘陵にある一番高いところと聞く。今は住宅地として開発はされているものの、見晴らしのよいレストランからの眺望に「秋澄めり」をしっかりと感じ取られた。(高橋正子)

●多田有花
不揃いの産地直売梨を食ぶ★★★
朝空の青さを仰ぐ八月尽★★★
桃色の鶏頭囲む角の家★★★★
【添削】桃色の鶏頭の囲む角の家
【添削2】鶏頭の桃色が囲む角の家

●桑本栄太郎
青空の胡桃色づくバス通り★★★
いつせいに雀飛び翔つ稲田かな★★★
さわさわと溝の流れや彼岸花★★★★
彼岸花が溝川の流れに沿って咲いている景色はよく見かけるが、溝川の流れが「さわさわ」としているので、気持ちのよい句になった。さわさわと流れる水と、赤い彼岸花がよく季節を表している。(高橋正子)

●古田敬二
一葉だけ白樺落とす木曽初秋★★★
北へ行く列車に揺れる芒原★★★
秋海棠白磁の花挿し木曽の店★★★★

8月30日

●小口泰與
ひぐらしや鍬打つ婆の長き影★★★★
秋の闇畷の猫と小犬かな★★★
つれなくも忽ち過ぐる秋祭★★★

●河野啓一
稲干して古き時代を語りけり★★★★
刈りとった稲を干して、昔の稲刈りのことなど話たのであろう。今は刈りとりと同時に脱穀までしてしまうほど機械化されて、あっけない感じがする。昔ながらの方が、稲に対する思いが清らかなように思う。(高橋正子)

そよ風の林を抜けて涼新た★★★
木々の葉も朝日に映えて彼岸花★★★

●桑本栄太郎
秋雨の書を読むままに眠りけり★★★
うそ寒やカーテンふくれ小窓閉ず★★★★
日の高きうちに湯浴みや新酒酌む★★★

●黒谷光子
秋草に本丸跡とう碑の一つ★★★
湖を見に公園よぎる萩の風★★★
夕近き湖はにび色秋はじめ★★★★

8月29日

●小口泰與
逆光の稲田黄金の雫満つ★★★★
鬼やんま来しあと何も足湯かな
新走り届くやこの日休刊日★★★

●河野啓一
白雲の生駒発して水澄める★★★
たちまちに秋冷来る朝の風★★★
園児たち揃いて挨拶爽やかに★★★★

●多田有花
薔薇を描く窓辺に秋蝉のかすか★★★★
部屋に差す朝の光の秋めける★★★
蜂一匹窓を出入りす秋の昼★★★

●桑本栄太郎
底紅忌しかと夜半の雨となる★★★
ベランダの鉢に鳴き初むきりぎりす★★★
鳩吹くやうすく色づく庭の木々★★★★

●川名ますみ
底紅の紅いっぱいに見せひらく★★★
まだ空を向いて巻きたる花木槿★★★
入り梨の集荷へ走る午後三時★★★★

●小西 宏
カーテンに吹き上げられて秋の空★★★
蜩に昼なお暗き雨上がり★★★★
雨上がり紅萎めたる花芙蓉★★★

●高橋秀之
水平線の上は大きく高き空★★★★
絹雲の広がる空に鳥の群れ★★★
秋の日が照らす対岸駒ヶ岳★★★

●福田ひろし
霧の朝子はしんしんと眠りけり★★★★
「霧」は秋の季語。子は、秋となって、「しんしん」と静かに深く眠り、安らかである。特別なことではないが、平和な、いい生活がある。(高橋信之)

目の見えぬ老犬に降る銀河かな★★★
缶コーヒーあおりて染みる秋の空★★★

8月28日

●小口泰與
稲の花靄を被りし赤城山★★★
秋暑し何かと言いてよく食ぶる★★★
白波の立ちし榛名湖荻の声★★★★
榛名湖に白波を立たせて吹く風は、また荻を吹く風でもある。荻を吹く風はすでに秋のわびしさを感じさせる風なのだ。(高橋正子)

●古田敬二
木曽音楽祭3句
秋雨に洗われ白樺いよよ白★★★
コンサート果てて薄暮に男郎花★★★★
弦楽の響き溢れて木曽は秋★★★

●桑本栄太郎
錦木の早やも紅差す秋の雨★★★
図書館へ向かうすがらや露しぐれ★★★

妻が寝てまだ書を読みし夜長かな★★★★
妻が寝てもまだ読み続けたい本がある。夜も長いことだし、ひとり本の世界に遊ぶ楽しみ。これこそ読書の楽しみではなかろうか。(高橋正子)

●小西 宏
窓多き家に雨降る秋の空★★★★
霧雨に蝉の音とおく消えゆける★★★
秋の蚊の追われて暗き部屋の隅★★★

●河野啓一
あわあわと散る百日紅雨の中★★★★
雨止んで苑の花畑ひろびろと★★★
軽やかに爪を摘む午後鳳仙花★★★

8月27日

●古田敬二
霧動き白樺静かに現われり★★★★
白樺と霧の実景に詩情がある。それを「静かに現われり」と、合唱の幕が徐にあがるように詠んだのが魅力。(高橋正子)

木曽は秋白き指弾くピチカート★★★
雨粒もひとつの花びら萩咲けり★★★

●小口泰與
秋蝉や老いの一徹鎌を研ぐ★★★★
稲妻や犬と散歩の田んぼ道★★★
稲の花もやの中より一嶺出づ★★★

●河野啓一
秋蝉の声気づかざるまま夜の明ける★★★★
マンション群ポプラ並木を見下ろして★★★
朝露に濡れし無花果そっと捥ぎ★★★

●多田有花
青空に翅きらめかせ赤とんぼ★★★★
青空にきらめく翅は、ガラスのように空の青さを透かせたイメージだが、そこに「赤とんぼ」が配されて、きらめく翅は、青い翅ではなかったと気付かされる意外性。青空を輝き飛ぶ一匹の赤とんぼだ。(高橋正子)

デラウェア食べつつ読めり遭難記★★★
掃除機の音を消したり秋驟雨★★★

●桑本栄太郎
秋雷の雲の彼方は日射しけり★★★
雨雲の街の空のみ秋の雷★★★
葉裏見せ花に雨降る葛嵐★★★★

●川名ますみ
店先の白木槿散り弁当屋★★★★
店先に木槿散らせし弁当屋★★★
笛の音のすこし寂しき盆踊★★★

●小川和子
花筒に供う竜胆青深む★★★★
秋暑し連山望む丘の墓地★★★
毬栗の青し甥らと義兄偲ぶ★★★

8月26日

●古田敬二
木曽へ来てなじみの店の今年そば★★★
新芋を塩つけて食う木曽の旅★★★★
恵那山は夏の名残りの雲が立つ★★★

●小口泰與
雨ながら朝顔けなげ色異(け)なり★★★
灯を透かす和紙の有り様長き夜★★★
新しき器となりて秋高し★★★★

●多田有花
雨音のやめばいつしか虫の闇★★★
情熱の落としどころやカンナ咲く★★★
雨あがり森に茸の色とりどり★★★★

●小川和子
時折は硬き音たて秋雨降る★★★★
秋雨の降る音を聞いておれば、静かな音のなかに、時折、硬くものを叩いて降る音が聞こえる。一様でない秋雨の降り方に、聞く心も心なし揺らぐ。高橋正子)

草むしる狗尾草を惜しみつつ★★★
萩の葉の雨滴にふるる蜆蝶★★★

●桑本栄太郎
手のとどく丈に椎の実弾け居り★★★★
幼いころ椎の実を食べた思い出のある作者だろう。手を伸ばせば届く位置に椎の実が弾けている。あまりの懐かしさに、また、この秋という感傷的な季節に、一句となった。(高橋正子)

耕衣忌の鉢の葱摘み味噌汁へ★★★
新駅の上はバイパス稲穂垂る★★★

8月25日

●小口泰與
秋雲の頓に形のかわりける★★★
秋の野や羨(とも)しむものに空の鳥★★★★
秋晴やこの頃とんと杖要らぬ★★★

●河野啓一
野の草をしとどに浸し秋出水★★★★
大雨のあとの川を除くと、出水が川辺の草を水草のように巻き込み、浸して流れている。災害をもたらすほどの雨でないのが幸いで、勢い流れる出水に「野の草をしとどに浸す」風情を見た。(高橋正子)

秋の鮎粗塩ちらし焼き上げる★★★
白木槿ふと目が合いし片えくぼ★★★

●桑本栄太郎
長雨の朝の路地行き地虫鳴く★★★
鴨川に立ち込み釣りや秋の鮎★★★
新涼や女子運転の阪急線★★★★

●高橋信之
曙の空も地も露けしと思う★★★★
この数日、一時の猛暑に比べれば、すずしい日だ。とくに、曙であれば、すずしく、「空も地も露けし」感じを抱く。曙であるのがよい。(高橋正子)

遠くのことを近くと思う秋出水★★★
物思う此の頃多く秋暑し★★★

8月24日

●小口泰與
あけぼののコスモスの空深き蒼★★★★
曙光の空の蒼が、コスモスと取り合わせて、深々と詠まれている。(高橋正子)

十州の山にかこまる林檎かな★★★
朝顔や鉄路の遠音聞こえしよ★★★

●桑本栄太郎
 神戸の港湾
秋澄むや港湾跨ぎ大橋梁★★★★
港湾に架かる橋梁は硬質の力と美がある。大気が澄み、海の水も青さを増して、港湾の景色が魅力を増す。(高橋正子)

秋潮の河口につどう神戸かな★★★
台船の起重機うごき秋の潮★★★

●多田有花
秋蝉のボリューム少し落ちし朝★★★
フリスビー犬が捕らえし秋初め★★★★
熱々の稲荷寿司食ぶ秋涼し★★★

●佃 康水  
 広島土石流災害 2句
秋出水乾かぬ泥の匂い立つ★★★★
このたびの広島の土石流の災害は、まったく酷い。「泥の匂い立つ」が罹災された人たちの悲しみと、現場の生々しい惨状を伝えている。(高橋正子)

救援の作業阻むや秋驟雨★★★
ふと日差す寸時に処暑の風通す★★★

●小西 宏
外野走り明るい空よ秋の雲★★★★
みな色に染まり傾げる猫じゃらし★★★
西空に嶺くっきりと秋の暮★★★

●黒谷光子
紅萩も白萩も咲き池めぐる★★★★
甲羅干す亀池の辺の秋芝に★★★
秋雨に心残りの茣蓙たたむ★★★

8月23日

●小口泰與
稲の花雨の帳となりにけり★★★
とどまると帽子にとどむ蜻蛉かな★★★★
水滴の次から次と秋の雨★★★

●黒谷光子
子らの絵の行灯並び地蔵盆★★★★
地方によって地蔵盆の送り方はいろいろであろうが、光子さんの地方は、行灯に子どもが絵を絵を描き、それを幾灯も灯しているようだ。微笑ましい行灯の絵に囲まれた本当に子どものための地蔵盆だ。(高橋正子)

地蔵会の子供に分ける袋菓子★★★
地蔵会の読経にまじる子らの声★★★

●多田有花
つくつくぼうし鳴く下をゆく森の朝★★★★
秋口や窓に午後の陽入り初めし★★★
髪切ってうなじに処暑の風受ける★★★

●河野啓一
秋出水人智を超えし土砂一瞬★★★
秋の虹箕面の滝にかかりおり★★★
百日紅並木となりて苑の道★★★★

●桑本栄太郎
<広島土石流災害追悼>
山肌の明かり哀しや秋出水★★★
<神戸へ>
淀川の鉄橋あまたや秋澄める★★★
芦屋には想い出多く酔芙蓉★★★★

●小西 宏
蜩の風の涼しき森に入る★★★★
森に入れば、そこは蜩が鳴き、涼しい風が吹いている。蜩の風にさざめくような鳴き声が、すこし寂しさを帯びている。(高橋正子)

朝露を駆けて濡れたる犬の腹★★★
雨上がり先触れ太鼓秋祭り★★★

8月22日

●祝恵子
蝶のせて女郎花揺る万博の森★★★★
女郎花に蝶がのって揺れる可憐な姿は、山にある女郎花とは趣の違った、万博の森の女郎花。
女郎花は意外にも強い花だが、目にはいかにもしなやかだ。(高橋正子)

鹿おどし秋水ちろろと流れおり★★★
桔梗咲く茶屋に座れば風ぬける★★★

●小口泰與
荒れ畑の野鳥の声や野分晴★★★★
野分が去ったあとの、すっきりと晴れた空。その晴れた空の下に荒れた畑があるが、野鳥が嵐が去ったことを喜び鳴き交わしている。荒れた畑は野鳥たちの喜ぶ自然の野なのだ。(高橋正子)

D五一の罐のあかあか花カンナ★★★
講堂の真夜の外の面(とのも)の虫の声★★★

●小西 宏
山土を黄の濁流に秋の雨★★★
二の腕をくすぐり笑う猫じゃらし★★★
ガラス窓に遠く揺らめく稲光★★★★

●桑本栄太郎
神戸へ
静かなる淀の大河や秋日さす★★★
さるすべり煉瓦の町の芦屋かな★★★
新涼の清流眼下にモノレール★★★★

●河野啓一
秋の雲コバルトブルーの画布の上★★★★
芋虫と速さを競う杖歩行★★★
法師蝉積もる話に割り込んで★★★

●高橋秀之
静けさの吉野の山に法師蝉★★★
初秋の吉野の道を一人歩く★★★
南朝の都跡地に秋日差す★★★★

8月21日

●小口泰與
葛の花渦巻く瀞にとどこおる★★★
群蜻蛉あぜ道を閉づ如きかな★★★
大沼の景色ととのう蜻蛉かな★★★★

●多田有花
燕すでに去りにし空の飛行機雲★★★★
残暑の暑さに空を見るのを忘れていたが、空の燕はいつの間にか去って、さびしくなった空には飛行機雲が線を描いて伸びている。もう秋が来ているのだ。(高橋正子)

蜘蛛の巣が絡みつきたる残暑かな★★★
秋めきて白蓮ひとつずつ終わる★★★

●桑本栄太郎
濃く淡く高槻平野の稲穂波★★★★
爽涼の木蔭の坂に風立ちぬ★★★
あな惜しと煩悩更なり法師蝉★★★

●小西 宏
街の灯の清らに見ゆる秋の夜★★★★
まだ暑さが残る頃、昼間の空気は澄んでいるとは思えないが、夜になると、街にともる灯は、清らかに澄んで見える。街の灯がきれいな夜は気持ちも爽やかになる。(高橋正子)

がっしりと残暑が風をはねつける★★★
風動かぬ残暑の部屋に蟄居せり★★★

今日の秀句/8月11日-20日

[8月20日/2句]
★青山椒こぼれる香り笊に盛り/河野啓一
山椒の青い実が採れるころになった。ごみなどと選り分けて、水洗いし笊にあげておくと、山椒の香りが辺りに立ち込め、実の青さにも増して、すがすがしい。(高橋正子)

★長雨のふと途切れては虫時雨/福田ひろし
しとしとと降る秋の長雨。ふと気付けば雨音に代わり、虫がしきりに鳴いている。自然界はすっかり秋になっている。(高橋正子)

[8月19日]
★紅蜀葵木陰を照らすその色よ/河野啓一
紅蜀葵の赤いいろは、緑濃い夏の風景のなかで目立つ。木陰のような薄暗がりでは、特にその色は印象的だ。(高橋正子)

[8月18日]
  鳥取へ盆帰省
★発電塔のプロペラゆるく秋暑し/桑本栄太郎
風力発電のプロペラがゆっくり回るのは、風が吹かないからで、秋暑しをいやでも感じさせる。(高橋正子)

[8月17日/2句]
★奥利根の更なる奥や法師蝉/小口泰與
奥利根のさらに奥に行くと法師蝉が鳴くばかり。「つくつくほうし」の鳴き声も哀調を帯びてくる。(高橋正子)

★かなかなの鳴く森を抜け薄い雲/小西 宏
ひぐらしの鳴く森を抜け、空を見上げると薄い雲が流れている。ひぐらしの「かなかな」の哀愁を帯びた透明感のある声と空の薄雲に通じ合うものがある。(高橋正子)

[8月16日]
  鳥取へ盆帰省
★渋滞の道路を挟み稲穂波/桑本栄太郎
自動車道は田んぼを貫いていることが多く、渋滞をしていても車窓からは稲穂の波が見られ、故郷の秋を感じさせてくれるのは幸せだ。故郷へ向かう懐かしい気持ちがさらに増してくる。(高橋正子)

[8月15日]
★青柿の並びさわさわ風に揺れ/河野啓一
青い柿の葉のなかにある青い柿の実。風が吹くと青柿がさわさわ揺れ、新涼のさわやかさを目にみせてくれる。(高橋正子)

[8月14日]
★蝉時雨その真ん中に座りけり/福田ひろし
情景は、「蝉時雨が四方八方から聞こえる」なのだが、「蝉時雨の真ん中に座る」と作者の行為を中心に捉えて、作者の存在感が強く打ち出された。(高橋正子)

[8月13日]
★浮雲のほのと明るし赤のまま/小口泰與
赤のままのやさしい抒情と、丸みを帯びた浮雲のほのと明るい情景がよくマッチしている。(高橋正子)

[8月12日/2句]
★青空の野山にひびき威し銃/桑本栄太郎
高く澄んだ青空の下の野山にこだまする威し銃。田の明るさと静かなさびしさをより深く感じさせる威し銃だ。(高橋正子)

★胸青きみんみん蝉の声高し/小西 宏
みんみん蝉の透き通った羽には、緑の筋が走っている。その緑の筋も魅力だが、青光りする胸にも
はっとさせられる。その胸を膨らませて声高く鳴くみんみん蝉が、いまだ「少年」を魅了する。(高橋正子)

[8月11日]
★嵐去り虫の音聞こえ初めにし夜/多田有花
嵐が去ると、季節がひとつ新しくなる。夜、静かに耳澄ませば、虫の音が聞こえる。聞えはじめた虫の音に秋の訪れを思う。はっきりとした句だ。(高橋正子)

8月11日-20日

8月20日

●河野啓一
青山椒こぼれる香り笊に盛り★★★★
山椒の青い実が採れるころになった。ごみなどと選り分けて、水洗いし笊にあげておくと、山椒の香りが辺りに立ち込め、実の青さにも増して、すがすがしい。(高橋正子)

水の辺を風吹き抜けて深緑★★★
雪の下葉も花も今盛りなる★★★

●多田有花
すぐそばでつくつくぼうしが鳴き始む★★★★
見上げれば朝の光に山澄みぬ★★★
秋めきてくっきり見える男鹿島★★★

●小口泰與
あけぼのの野川の風と虫の声★★★
眼間の雲遁走すほうせん花★★★★
あけぼのの田に限りなき露の玉★★★

●福田ひろし
八月の屋根たたきたる温き雨★★★
野分過ぎ夕空一朶の黒き雲★★★
長雨のふと途切れては虫時雨★★★★
しとしとと降る秋の長雨。ふと気付けば雨音に代わり、虫がしきりに鳴いている。自然界はすっかり秋になっている。(高橋正子)

●桑本栄太郎
秋めくや日差しと影の濃くなりぬ★★★★
嶺の端の雲の黄金や秋入日★★★
真夜の闇騒がせ秋の夜立ち来ぬ★★★

8月19日

●古田敬二
そこここに色ある楓秋に入る★★★
信号を待てば背中に吹く新涼★★★
庭に立ち虫の初音を妻と聴く★★★★

●小口泰與
えびずるや瀞の常陰(とかげ)へ浮子を打つ★★★★
歳月やちんちん電車霧に消ゆ★★★
時無しの利根の波間や秋の駒★★★

●多田有花
宵闇に踊りの歌が流れ出す★★★
秋茄子に味噌だれたっぷりかけて食ぶ★★★★
初秋の城を映せるドアミラー★★★

●福田ひろし
降りて照るやはりアジアの八月よ★★★

生温き雨のぼとりと秋暑し★★★
墓参り柏手を打つ子を叱る★★★

●桑本栄太郎
花びらの雨滴きらめき白木槿★★★★
畦豆や野辺の朝の耀きて★★★
新涼の窓の夜風にもの想う★★★

●河野啓一
紅蜀葵木陰を照らすその色よ★★★★
紅蜀葵の赤いいろは、緑濃い夏の風景のなかで目立つ。木陰のような薄暗がりでは、特にその色は印象的だ。(高橋正子)

鴨の子の群れて耀く疏水の水★★★
秋の風さやかに午後の美術展★★★

●小西 宏
本抱えDVD借り秋休み★★★
蜩に夕の山並み雲澄めり★★★★
サンゴ礁に白波を聞き天の川★★★

8月18日

●小口泰與
民宿の卓袱台古りぬ秋時雨★★★
山を分く坂東太郎男郎花★★★★
三山も靄にただよう酔芙蓉★★★

●河野啓一
四方山の話弾みて盂蘭盆会★★★★
蓮池や楽土の灯しほの紅く★★★
新涼の蝉の声聞く朝かな★★★

●桑本栄太郎
 鳥取へ盆帰省
発電塔のプロペラゆるく秋暑し★★★★
風力発電のプロペラがゆっくり回るのは、風が吹かないからで、秋暑しをいやでも感じさせる。(高橋正子)

糸とんぼ雨の墓石につらなりて★★★
追憶をたどり絆や盆の客★★★

●小西 宏
カンナ朱の立つ広き葉に青空に★★★★
故郷の新しき名の甲子園★★★
鴉ゆく空あかあかと秋の暮★★★

8月17日

●小口泰與
奥利根の更なる奥や法師蝉★★★★
奥利根のさらに奥に行くと法師蝉が鳴くばかり。「つくつくほうし」の鳴き声も哀調を帯びてくる。(高橋正子)

蜩や利根の瀬頭波やわし★★★
藤袴浅黄斑の飛び違う★★★

●古田敬二
夕焼けも秋の実りの色となり★★★★
新涼に行く散歩道新しく★★★
森戦ぐそこから我に涼あらた★★★

●迫田和代
白い雲ポカリ浮かんだ秋の空★★★★
懐かしい仏も集まる盂蘭盆会★★★
心にも走馬灯あり闇の中★★★

●多田有花
太陽の見えぬ日続く盆休み★★★
つくつくぼうし主役となりぬ蝉時雨★★★
新しき寝具が届く初秋に★★★★

●桑本栄太郎
<盆帰省の日本海>
長芋の砂地畑や盆の海★★★★
盆波のサーファー独り波の上★★★
潮騒の聞こえ寄せ来る盆の海★★★

●小西 宏
【原句】かなかなと鳴く森を抜け薄い雲
【添削】かなかなの鳴く森を抜け薄い雲★★★★
ひぐらしの鳴く森を抜け、空を見上げると薄い雲が流れている。ひぐらしの「かなかな」の哀愁を帯びた透明感のある声と空の薄雲に通じ合うものがある。(高橋正子)

蜩の清き身をもて森ゆらす★★★
秋茄子を肴に政治談議かな★★★

●高橋秀之
伏見から見渡す京と秋の山★★★
法師蝉聞きつつ歩く下り道★★★★
鳴く声の途切れることなし秋の蝉★★★

8月16日

●小口泰與
青空へ一朶の雲や秋薊★★★
湯の町の長き石段秋めける★★★★
横丁の灯ともりけり虫の声★★★

●多田有花
土砂降りの中を出かける墓参り★★★
彫像の如くに盆の守宮かな★★★
茄子の馬岸辺の波に洗われて★★★★

●河野啓一
緑赤黄とり合わせたる夏料理★★★★
大文字ほのお見納め霊送る★★★
青葦の濡れて戦ぐや川尻に★★★

●桑本栄太郎
<鳥取へ盆帰省>
渋滞の道路を挟み稲穂波★★★★
自動車道は田んぼを貫いていることが多く、渋滞をしていても車窓からは稲穂の波が見られ、故郷の秋を感じさせてくれるのは幸せだ。故郷へ向かう懐かしい気持ちがさらに増してくる。(高橋正子)

トンネルの入り口飾り葛垂るる★★★
百日紅咲く石州瓦の赤き屋根★★★

8月15日

●小口泰與
夕さりの城址に立つや法師蝉★★★
秋日射す茄子の茎の撓みけり★★★
今朝赤城山(あかぎ)紫紺や利根川(とね)の風さやか★★★★

●河野啓一
青柿の並びさわさわ風に揺れ★★★★
青い柿の葉のなかにある青い柿の実。風が吹くと青柿がさわさわ揺れ、新涼のさわやかさを目にみせてくれる。(高橋正子)

暮れ初めて夕立ちは星の涙雨★★★
白き香を雨に滲ませ花蜜柑★★★

●小西 宏
残暑などどこ吹く風と百日紅★★★
蜩の寝転んでいま青き空★★★
孫と見るのび太の恋の秋清し★★★★

8月14日

●小口泰與
色鳥や一朶の雲へ朝日差し★★★★
止め腹の鮭を吊るすや潮の風★★★
秋鯖をでんと我が前夕餉かな★★★

●福田ひろし
蝉時雨その真ん中に座りけり★★★★
情景は、「蝉時雨が四方八方から聞こえる」なのだが、「蝉時雨の真ん中に座る」と作者の行為を中心に捉えて、作者の存在感が強く打ち出された。(高橋正子)

熱帯夜途切れ安らぐ子の寝息★★★
もつれ飛ぶ蜻蛉二匹の速さかな★★★

●小西 宏
ひぐらしの切り裂き流る森の揺れ★★★
秋の蚊のわが手に触れて小さきこと★★★
虫の音の公園夜のサイクリング★★★

●高橋信之
丘の家に盆来て盆の瓜なすび★★★★
丘の家は、風がよく通い、陽もよく当たり、空に近い。そこに盆が来て、瓜やなすびの馬が霊迎えのために置かれている。盆の瓜なすびが「明らか」だ。(高橋正子)

丘の坂上がれば盆の瓜なすび★★★
盆が来て吾に父あり母ありき★★★

8月13日

●小口泰與
浮雲のほのと明るし赤のまま★★★★
赤のままのやさしい抒情と、丸みを帯びた浮雲のほのと明るい情景がよくマッチしている。(高橋正子)

とんぼうやつと迫りたる浅間山★★★
野路の秋背後気にするチワワかな★★★

●多田有花
盆花をおのおのカートに積み並ぶ★★★
開き初む白蓮に盆の朝日さす★★★
シベリアの脱出記読む盂蘭盆会★★★★

●小西 宏
草の原踏めばバッタの空青し★★★★
父さんと走るサッカー盆の入り★★★
蜩のひとり鳴くこそ秋澄めれ★★★

●高橋信之
三角に切られ西瓜の立ち並ぶ★★★★
葡萄の粒の一つ一つに灯を映し★★★
鮎すらりとして黄緑が皿に載る★★★

●高橋正子
白皿に山河の色の鮎並び★★★★
鮎の姿がありありと眼に浮かんでくる。山河の色をして、天然の姿を見せてくれるのだ。(高橋信之)
       
黒々と葡萄の粒が粉をふく★★★
西瓜切って西瓜の匂いを囲む子ら★★★

8月12日

●小口泰與
虫の音や小犬と語る独り酒★★★
湯の町の検番消ゆる露の秋★★★
検番のいにしえ語り秋扇★★★

●桑本栄太郎
青空の野山にひびき威し銃★★★★
高く澄んだ青空の下の野山にこだまする威し銃。田の明るさと静かなさびしさをより深く感じさせる威し銃だ。(高橋正子)

嵐去り月中天に満ちにけり★★★
走りゆく雲輝かせ盆の月★★★

●河野啓一
野分過ぎ青空覗く木の梢★★★★
萩の寺ようやく去りぬ雨嵐★★★
かささぎの渡せる橋を探す夜★★★

●古田敬二
観音像をまわりて戻るオニヤンマ★★★
蓮の葉に花びら水玉ゆったりと★★★
花びらと光る水玉蓮の葉に★★★★

●佃 康水
打球追う子らへ湧き出づ赤蜻蛉★★★
夏休み父の手借りて逆上がり★★★★
朝の陽へ白さ眩しむ花木槿★★★

●小西 宏
胸青きみんみん蝉の声高し★★★★
みんみん蝉の透き通った羽には、緑の筋が走っている。その緑の筋も魅力だが、青光りする胸にも
はっとさせられる。その胸を膨らませて声高く鳴くみんみん蝉が、いまだ「少年」を魅了する。(高橋正子)

初秋の朝のジョギング並び合い★★★
朝の陽の塩辛とんぼ水澄めり★★★

8月11日

●小口泰與
浮雲を放つ浅間山(あさま)や秋桜★★★★
「放つ」という表現に、浮き雲の軽さ、浅間山の雄大さが読み取れる。浮き雲を放つ浅間山を向こうにして秋桜がそよそよと揺れている。すっかり秋だ。(高橋正子)

次々に県境違う七変化★★★
コスモスや雲育て上ぐ浅間山★★★

●多田有花
嵐去り虫の音聞こえ初めにし夜★★★★
嵐が去ると、季節がひとつ新しくなる。夜、静かに耳澄ませば、虫の音が聞こえる。聞えはじめた虫の音に秋の訪れを思う。はっきりとした句だ。(高橋正子)

枝あまた山路に落ちし台風過★★★
蓮池の畔を巡る秋日傘★★★

●古田敬二
コーヒーは少し熱めに今朝の秋★★★★
今朝の秋の爽やかさに、朝一番に飲むコーヒーは、少し熱めに淹れた。この少し熱めの温度が、心身に快い。(高橋正子)

開ける窓少しだけにし夜の秋★★★
カーテンをふうわり押して秋が来る★★★

●桑本栄太郎
対岸のはるか遠くや秋出水★★★
嵐去り今夜はスーパー満月に★★★
野分凪ぎ青き実の散るバス通り★★★★

●黒谷光子
捨て舟の一艘囲み葦の花★★★★
止まりたる木肌の白さ秋の蝉★★★
夕暮れの声こと更に秋の蝉★★★

●小西 宏
扇風機まわして街の工場の音★★★
家おおう藍朝顔にガラスきらめく★★★★
嵐去り月昇りくる屋根の影★★★

今日の秀句/8月1日-10日

[8月10日]
★高架路をカーブしかなかなの森へ/川名ますみ
高架の路をカーブすると、かなかなの鳴く森へ入った。「高架」「カーブ」が案内する別世界は、かなかなの声が響き渡る、森の童話を思わせるようなところ。(高橋正子)

[8月9日]
★亡き父の好物だった新豆腐/迫田和代
新豆腐は、今年できた大豆で作られる。残暑きびしい中で食べる新豆腐は、夏ばてした体を元気にしてくれるようだ。新豆腐に亡き父の笑顔が思い浮かんでくる。(高橋正子)

[8月8日/2句]
★川底の魚のしるきや秋近し/小口泰與
秋が近づくと水も澄んでくる。川底の魚もはっきりと見える。自然界は、こんなところから秋になっていく。(高橋正子)

★鱸釣り大物提げし男かな/河野啓一
鱸(すずき)の旬は6月から8月で夏の代表的魚。すらりとした精悍な顔つきの鱸は、出世魚でもあり、その大物を提げた男の姿は実に逞しい。(高橋正子)

[8月7日/2句]
★女子高生連れ立ち帰る青田道/多田有花
女子高校生は、青田のような時代。若く溌剌としている。その青田道を連れ立って帰るのは、農村地帯の純朴そうな女子高生。その女子高生と青田道の取り合わせがいい。(高橋正子)

★大空は淡き水色今朝の秋/高橋秀之
「今朝の秋」が実感をもって詠まれて、それがさわやかだ。「大空」もいい。広々とした空が淡い朝の水色で詩情がある。(高橋正子)

[8月6日]
 広島平和記念式典参列
★黙祷や雨の青芝踏みしめて/佃 康水
広島平和記念式典は、8月6日の原爆投下の日に行われる。原爆投下の日は、暑い日であったことを思えば、青芝に雨が降る式典は戦後69年経った歳月の経過を思わせる。式典に参列したケネディ大使がレインコートを着る新聞を見て、広島がこの日雨だったことを知った。(高橋正子)

[8月5日]
★ベランダにピザとワインの遠花火/小西 宏
ベランダで涼みながらピザとワインを楽しもうとしていると、遠くに花火の音が聞こえ、見えるのだろう。花火でワインとピザを楽しむ生活が今風で洒落ている。(高橋正子)

[8月4日/2句]
★夏富士の風乾くとき影の濃し/小西 宏
「風乾く」は、風が肌にさらりと感じられる日だろう。そういった日遠く眺められる富士山の影が濃い。あきらかである。(高橋正子)

★大皿に白く四角い冷奴/高橋秀之
大人数に用意された冷奴。大皿の白く四角な冷奴が、「白」「四角」のイメージで如何にも冷たく涼やかだ。(高橋正子)

[8月3日/2句]
★どこまでも波打つ稲穂のうすみどり/黒谷光子
どこまでも波打つ稲田のあるのどかな村。稲の穂のうすみどりが新鮮だ 。(高橋正子)

★バッグ背にバスに乗り来る日焼の子/桑本栄太郎
夏休みのちょうど真ん中。すっかり日焼けた子がバッグを背負って勇んでバスに乗ってきた。
夏休みを楽しんでいる子、それに温かいまなざしを注ぐ作者がいる。(高橋正子)

[8月2日]
★故郷の青い鬼灯水の音/迫田和代
故郷の夏の思い出は青い鬼灯と水の音である。鬼灯にはお盆と重ねて、暑い戦争の夏を思い出させるものがある。(高橋正子)

[8月1日]
★草むしり清められたる慰霊碑前/佃 康水
旧盆近くなると、墓の草取りや屋敷周りの草取りをして、きれいさっぱりとしてお盆を迎える。慰霊碑の周囲もきれいに除草されて、御霊を迎える。ただ草を取るのではなく「清める」のである。(高橋正子)

8月1日-10日

8月10日

●小口泰與
黄昏の城址に立つや秋の声★★★
大屋根の葺き終わりけり秋の風★★★
ご祝儀はおおかた奇数秋うらら★★★★

●川名ますみ
高架路をカーブしかなかなの森へ★★★★
高架の路をカーブすると、かなかなの鳴く森へ入った。「高架」「カーブ」が案内する別世界は、かなかなの声が響き渡る、森の童話を思わせるようなところ。(高橋正子)

かなかなの声が一時車窓から★★★
首都高にかなかなの森聴き過ぎぬ★★★

●小西 宏
公園の棚田の荒れて沢桔梗★★★★
夜の更けてまで二つ三つ秋の蝉★★★
降りて止みまた吹きなぐり秋の雨★★★

●桑本栄太郎
雨音の硬き音立て颱風来る★★★★
咆哮の木々の雄叫び颱風圏★★★
刻々と警報メールや颱風圏★★★

●古田敬二
草はらへ前進前進かぼちゃ蔓★★★
畑の外へ自由に伸びてかぼちゃ蔓★★★★
街に出るウイーン生まれのパナマ帽★★★

●多田有花
台風はいま我が頭上通過中★★★
台風下宅配便の届きおり★★★
濁流の上の青空台風過★★★★
台風が過ぎ去り、青空となったが、川は逆巻き濁りながら流れている。この対比に、台風のすざましさがある。(高橋正子)

8月9日

●小口泰與
谷川岳(たにがわ)の薙の修羅場や秋の晴★★★
ゆったりと田川流れし秋日和★★★
雲放つ赤城の嶺や虫の声★★★★

●黒谷光子
初秋の川音よりも雨の音★★★
桃の箱ゆるりと蓋を持ち上げる★★★
仏前のほのかに匂う桃三つ★★★★

●迫田和代
亡き父の好物だった新豆腐★★★★
新豆腐は、今年できた大豆で作られる。残暑きびしい中で食べる新豆腐は、夏ばてした体を元気にしてくれるようだ。新豆腐に亡き父の笑顔が思い浮かんでくる。(高橋正子)

台風が幸いそれて雨走る★★★
流星や遠い空の旅無事に終え★★★

●多田有花
ゆっくりと台風南方海上に★★★★
八月の嵐大気のひんやりと★★★
接近する嵐を待ちぬ長崎忌★★★

●桑本栄太郎
なだれ込む蝉のしぐれや自動ドア★★★★
自動ドアが開くとドア一枚で遮られていた内と外。外の蝉音がまさに「なだれ込む」。「なだれ込む」が身体的実感である。(高橋正子)

青空の雲の疾く行き野分めく★★★
新涼の窓より来たる夜半の風★★★

●河野啓一
海近き大川染めて秋入り日★★★★
秋の森を描きし額を壁に架け★★★
渦巻ける巨き雨雲秋台風★★★

●小西 宏
初秋の空の白むを蝉に知る★★★★
台風の未だ来ぬ空に雲巻ける★★★
露草の葉の群れたるに花も群れ★★★

●高橋秀之
台風に備えて船が出港す★★★★
台風が来ると、小舟は港に入るけれど、大型船は港の外へ出て碇を下ろす。来つつある台風に備えて、何隻もの船があわただしく出港する。台風前の港の活写。(高橋正子)

台風の近づくニュース夜は更けて★★★
束の間の晴れ間の後に台風が★★★

8月8日

●祝恵子
手に余るものはポッケにミニトマト★★★★
朝一番水たっぷりと夏野菜★★★
寝そべりし犬の鼻先白粉花★★★

●古田敬二
睡蓮や薄紅色の縁どりに★★★
打ち水や工事現場の守衛さん★★★★
夏草やサッカーボールの忘れ物★★★

●小口泰與
川底の魚のしるきや秋近し★★★★
秋が近づくと水も澄んでくる。川底の魚もはっきりと見える。自然界は、こんなところから秋になっていく。(高橋正子)

あけぼのや利根本流の波さやか★★★
北軽の草の波打つ秋気かな★★★

●河野啓一
鱸釣り大物提げし男かな★★★★
鱸(すずき)の旬は6月から8月で夏の代表的魚。すらりとした精悍な顔つきの鱸は、出世魚でもあり、その大物を提げた男の姿は実に逞しい。(高橋正子)

初秋の月淡くして中天に★★★
初秋や午後の紅茶とカステーラ★★★

●桑本栄太郎
土砂降りと云うほかはなし蝉時雨★★★
夏果ての蔓の葉黄ばむ支柱かな★★★
陸橋を走り驟雨のバスに乗る★★★★

●小西 宏
登り来て一杯の水お花畑★★★★
刺青のごと二の腕の日焼跡★★★
里山を行きヒグラシの波の中★★★

●高橋秀之
初秋の朝の晴れ間が夕に雨★★★
秋初め雲が真っ直ぐ流れ行く★★★★
立ち止まる秋の暑さの淀屋橋★★★

8月7日

●古田敬二
穂先から実りの色へ猫じゃらし★★★★
穂先から実り輝く猫じゃらし★★★
触れ合いて実りの色を猫じゃらし★★★

●小口泰與
大旱の金輪際の犬の舌★★★
頭(ず)に肩に雨を伴うさるすべり★★★★
雷鳴に寝屋より落ちぬ小犬かな★★★

●河野啓一
青空の見え隠れして秋立ちぬ★★★★
ホクホクと煮えし南瓜を皿に盛る★★★
新小豆思うや丹波の農の人★★★

●多田有花
女子高生連れ立ち帰る青田道★★★★
女子高校生は、青田のような時代。若く溌剌としている。その青田道を連れ立って帰るのは、農村地帯の純朴そうな女子高生。その女子高生と青田道の取り合わせがいい。(高橋正子)

青田波跨ぎ螺旋のバイパス路★★★
ゆく夏を空の青さに送りけり★★★

●桑本栄太郎
青空に向けて喇叭やダチュラ咲く★★★★
せせらぎの川風生むや白木槿★★★
さやさやと窓より夜気の涼夜かな★★★

●佃 康水
小さき森成せる札所や蝉時雨★★★★
盆用意先ずは仏具を磨き終ゆ★★★
平和の鐘余韻波打つ晩夏かな★★★

●小西 宏
広島や行く川土手に緑濃し★★★
土手走り追いし花火の落下傘★★★★
鳥目覚め囁く声や今朝の秋★★★

●高橋秀之
大空は淡き水色今朝の秋★★★★
「今朝の秋」が実感をもって詠まれて、それがさわやかだ。「大空」もいい。広々とした空が淡い朝の水色で詩情がある。(高橋正子)

今朝の秋窓から吹き込む風涼し★★★
秋に入る遠くの生駒がくっきりと★★★

8月6日

●小口泰與
秋近し朝の赤城山(あかぎ)の迫りける★★★
土用芽のいきおい猛し風の中★★★★
雲の峰生垣伸びし伸びしまま★★★

●河野啓一
たましいの底の嘆きや原爆の日★★★★
人の世の平和を希う原爆忌★★★
百日紅散りくる花の淡きこと★★★

●桑本栄太郎
君逝きしより八年や原爆忌★★★
茜さす通夜の日暮れや芙蓉咲く★★★
殺生のなき世なれやと蝉放つ★★★★

●小西 宏
向日葵の夢のでっかし隠れんぼ★★★★
白砂の熱き底なる蟻地獄★★★
部屋全て吹き抜きにして処暑の風★★★

●佃 康水
 広島平和記念式典参列
黙祷や雨の青芝踏みしめて★★★★
広島平和記念式典は、8月6日の原爆投下の日に行われる。原爆投下の日は、暑い日であったことを思えば、青芝に雨が降る式典は戦後69年経った歳月の経過を思わせる。式典に参列したケネディ大使がレインコートを着る新聞を見て、広島がこの日雨だったことを知った。(高橋正子)
 
広島忌雨の激しくテント打つ★★★
夾竹桃雨に散り敷く祈りの日★★★      

●古田敬二
本棚の「はだしのゲン」へ黙祷す★★★★
八時十五分蝉も慟哭広島忌★★★
殷殷と止まぬ鐘の音広島忌★★★

●多田有花
空に雲高々と立ち原爆忌★★★★
原爆忌の空に雲が高々と湧きあがる。暑い日であるが、きのこ雲でなく白い峰雲であることに
今日の日を思う。私は6日、横浜の空にめったに見ないかなとこ雲を見た。(高橋正子)

秋隣る頂に聞く風の音★★★
見上げれば六甲連山夏の雲★★★

8月5日

●小口泰與
D五一の罐の火あつし朝曇★★★
土用芽や顔くろぐろと夏季練習★★★★
ひまわりや半世紀過ぐ同窓会★★★

●小川和子
細き沢流れ避暑地の樹々深し★★★★
木立の間を細い沢が流れて、避暑地らしい風景だ。「樹々深し」に樹間を通る光をさまざま想像する。(高橋正子)

浅間岳晴れて眩き雲の峰★★★
木の十字架晩夏の空に仰ぎけり★★★

●河野啓一
初秋の木々の葉擦れに風を知る★★★
秋台風そろりりそろりと列島に★★★
青柿の顔を並べて空にあり★★★★

●多田有花
窓閉めて終日の雨秋近し★★★
青空と夏雲映しガラスのビル★★★★
桜葉の色づき初めし晩夏かな★★★

●桑本栄太郎
かしましき寺苑となりぬ蝉しぐれ★★★
菜園の葉の黄ばみ来る晩夏かな★★★
涼風の窓より来たる夜気の闇★★★★

●小西 宏
犬の舌曳き炎天の大通り★★★
とんぼ蚊を追いつつ鳥に食われけり★★★

ベランダにピザとワインの遠花火★★★★
ベランダで涼みながらピザとワインを楽しもうとしていると、遠くに花火の音が聞こえ、見えるのだろう。花火でワインとピザを楽しむ生活が今風で洒落ている。(高橋正子)

●高橋秀之
夏の風雲と雲とが交差する★★★
夏風と木々のざわめきリズムよく★★★
南から北へと夏風船は航く★★★★

8月4日

●小口泰與
地下足袋の屋根葺く人や油照★★★★
炎昼の職人屋根にたむろせり★★★
朝焼けや傘を携え旅に出づ★★★

●祝恵子
お昼には採りたて野菜とソーメンと★★★★
屋上の祭り提灯連なりぬ★★★
目標の土手の花合歓夕歩き★★★

●河野啓一
雨上がり銀杏並木は浅緑★★★★
透明な空の画布かな飛行機雲★★★
夕顔の太き蔓かな逞しき★★★

●桑本栄太郎
蝉しぐれ小雨の午後も鳴き止まず★★★
雲つどう雨の予報の晩夏かな★★★★
じりりりと蝉の寝言や真夜の闇★★★

●小西 宏
夏富士の風乾くとき影の濃し★★★★
「風乾く」は、風が肌にさらりと感じられる日だろう。そういった日遠く眺められる富士山の影が濃い。あきらかである。(高橋正子)

真夏日に花ゆらゆらと百日紅★★★
丘越えて音やわらかき宵花火★★★

●高橋秀之
大皿に白く四角い冷奴★★★★
大人数に用意された冷奴。大皿の白く四角な冷奴が、「白」「四角」のイメージで如何にも冷たく涼やかだ。(高橋正子)

雨上がりと同時に蝉の大合唱★★★
真っ青な南の空に雲の峰★★★

●古田敬二
睡蓮や目瞑り立てる観音像★★★
睡蓮や慈母観音像の真正面★★★★
睡蓮も観音像も真っ白に★★★

8月3日

●小口泰與
雨粒を揺らしておりぬ百合の蕊★★★
土用芽や再生の槌遅々として★★★
あけぼのの千曲の流れさやけしや★★★★
「千曲」に詩情が湧く。暮らしの周りは暑い時なのに、あけぼのの千曲の流れはさやかだ。(高橋正子)

●古田敬二
しなやかに実りて揺れる猫じゃらし★★★★
草の穂も実る季節になった。猫じゃらしも実り、「実りてしなやか」なのが猫じゃらしの特性。(高橋正子)

天辺へ咲き切り膨れる百日紅★★★
しなやかな曲線揺れる猫じゃらし★★★

●河野啓一
岐阜提灯組み立て今年も盆用意★★★★
先祖の霊を迎えるお盆にふさわしく、岐阜提灯は薄紙が張られ繊細な草草が描かれ、灯を入れれば、静かに透ける。今年もお盆の用意の一つに岐阜提灯の組み立てがある。(高橋正子)

夏空へ朝の飛翔や鳥の群れ★★★
ビーチバレー浜辺に水着ジャンプして★★★

●黒谷光子
どこまでも波打つ稲穂のうすみどり★★★★
どこまでも波打つ稲田のあるのどかな村。稲の穂のうすみどりが新鮮だ 。(高橋正子)

朝の畑いろ鮮やかに茄子胡瓜★★★
初生りは先ず仏前に真桑瓜★★★

●桑本栄太郎
バッグ背にバスに乗り来る日焼の子★★★★
夏休みのちょうど真ん中。すっかり日焼けた子がバッグを背負って勇んでバスに乗ってきた。
夏休みを楽しんでいる子、それに温かいまなざしを注ぐ作者がいる。(高橋正子)

故郷のブランドミルクやかき氷★★★
街灯のあかりを惜しみ蝉しぐれ★★★

●小西 宏
海あおあお丸き地球に夏の雲★★★
息詰めて潜るメガネに熱帯魚★★★★
小さき砂に波音の揺れ北斗星★★★

●佃 康水 
 夏休みの子供達へ 寺祭り
素麺を茹で上げ小さく纏めおく★★★
境内に竹樋の素麺流しかな★★★★
読み聞かせ子らの集える夏休み★★★

8月2日

●小口泰與
山霧のとよむ鍋割山(なべわり)眼間に★★★★
学生の合宿長し百日草★★★
玉虫や妹の買いたる宝くじ★★★

●迫田和代
故郷の青い鬼灯水の音★★★★
故郷の夏の思い出は青い鬼灯と水の音である。鬼灯にはお盆と重ねて、暑い戦争の夏を思い出させるものがある。(高橋正子)

何もない風だけ通る夏座敷★★★
口だけで笑ってくれるサングラス★★★

●桑本栄太郎
夏草や廃車埋もる赤き色★★★★
旅ごころ想い果てなく秋近し★★★
涼風の窓に哀しき夕べかな★★★

●河野啓一
木から木へ渡りてすだく蝉の恋★★★
青空の四方に耀く雲の峰★★★★
雲光りいざ本番とアロハシャツ★★★

●小西 宏
まだ明けぬ森動き初む一つ蝉★★★★
太陽に汗かき叫べ油蝉★★★
夕日陰る向かいの丘に涼しい風★★★

●多田有花
夜の秋静かに雨の降りだしぬ★★★★
夜はいくぶん涼しくなってきた。遠いところにいる台風の雨かもしれないが、「静かに」降りだした。その静かさは秋だ。(高橋正子)

すれ違う暑いですねと言い交わし★★★
寄ればふわり飛び立つ紋黄揚羽★★★

●古田敬二
高台へ角を曲がれば来る涼風★★★★
高台は耳に鳴るほど吹く涼風★★★
一粒ずつ色付き実るぶどう棚★★★

8月1日

●小口泰與
向日葵や胸板厚き高校生★★★★
松籟や雨を含みし百日紅★★★
遠き日や吹かれて来る落し文★★★

●桑本栄太郎
忽然とみんみん蝉や昼さがり★★★
突然の風吹き雨の晩夏かな★★★
嶺の端の茜真紅や大西日★★★★

●佃 康水
草むしり清められたる慰霊碑前★★★★
旧盆近くなると、墓の草取りや屋敷周りの草取りをして、きれいさっぱりとしてお盆を迎える。慰霊碑の周囲もきれいに除草されて、御霊を迎える。ただ草を取るのではなく「清める」のである。(高橋正子) 

山水の桶に押し合うとまとかな★★★
網張られごろごろ太る大西瓜★★★

●小西 宏
西風の草そよがせて夏の暮★★★
雷鳴を聞き雨となる地の香り★★★
出汁(だし)に漬け彩りを添え夏野菜★★★★