2月5日-6日

2月6日

●小口泰與
下萌や牧舎の牛の高き声★★★★
蕗の芽や利根の支流に毛鉤打つ★★★★
蕗の芽が出はじめ、利根川の支流の愛着の川だろうが、春を待ちかねて毛鉤を打った。川の水にも蕗の芽にもある早春の息吹が何よりも嬉しい。(高橋正子)

早春の風を呼びたる黒き雲★★★

●多田有花
春早しブログ始めて十周年★★★
春の雪日当たりながら降ってくる★★★★
寒戻る冷たき頬に触れてみる★★★

●河野啓一
雪山に遊ぶ雷鳥銀世界★★★
北摂の野を飾りたる牡丹雪★★★★
「北摂」を静かで明るい眼差しで詠んでいる。北摂に降る牡丹雪がはなやかだ。(高橋正子)

霜の下芽生え逞し春田かな★★★

●桑本栄太郎
雨だれの紅のしずくや梅一輪★★★
西山の峰の雲晴れ春の虹★★★

土手に群れ線路華やぐ野水仙★★★★
野水仙の咲き乱れる土手に線路が通っている。線路も、電車も、その乗客も野水仙に飾られて絵になっている。楚々とした中にも華やぎが
ある。(高橋正子)

●小西 宏
ほつほつと梅開きいて谷戸澄めり★★★★
「谷戸澄めり」に実感があって、読み手にも景色が鮮明に浮かぶ。梅の開きはじめは、あたりの空気も冷たさのなかに清潔さが感じられる。(高橋正子)

紅梅と白梅並ぶ畑の道★★★
迷子猫探すポスター春浅し★★★

2月5日

●小口泰與
春時雨農婦に道問う夕べかな★★★

春なれやシャッター音の快し★★★★
シャッターを上げ下げする音も、春の暖かさで滑りがよくなったのか、快い音を立てる。生活のこんなところも春が来ている。(高橋正子)

菜の花や羽音高らか群雀★★★

●多田有花
早春の霰の中へ歩きだす★★★★
灰色の雲飛ぶ空よ冴返る★★★
春北風に木の軋みあう音響く★★★

●桑本栄太郎
春雪の山河一気に覆いけり★★★

【原句】風花の日射す青空ちりばめて
【添削】青空に風花ちりばめ日射したり★★★★
元の句は、「ちりばめ」(他動詞)の使い方に問題があります。

ひるがえる干し物入れるしまき雲★★★

●古田敬二
五弁という約束守りて梅開花★★★
梅開花花弁に薄き蕊の影★★★
数えられる程の開花や白梅林★★★

2月3日-4日

2月4日

●小口泰與
荒ぶれる坂東太郎太郎月★★★★
太郎月は1月の異称。長男は太郎と名付けられるが、1月も最初の月だから太郎月と呼ばれて、人間味を帯びてくる。利根川の坂東太郎も坂東の雄者ぶってくる。繰り返す「太郎」によいリズムが生まれている。(高橋正子)

蕗の芽や利根の支流のごうごうと★★★
病院の暗き廊下や春嵐★★★

●下地鉄
しっかりと親子の絆郁子の花★★★★
郁子の花は、古風で品のある感じだ。そこからも優しさや「親子の絆」の麗しさが思われる。(高橋正子)

他に早く森を彩る島桜★★★★
梅園より野に咲くそれの色香かな★★★

●多田有花
立春の東の空の明けてくる★★★
立春の冷たき風の中歩く★★★立春の青空に風ごうごうと★★★

●桑本栄太郎
スキップして少女散歩の春隣り★★★★
土堤に沿い黒きうねりや畦火跡★★★
ちろちろと土管の音の春の水★★★

●小西 宏
クレヨンで面太く描き鬼は外★★★★
クレヨンでぐいぐいと太い線で描かれた鬼の面は愉快で強そうだ。「鬼は外」の声も高らかで鬼も即刻退散したであろう。

熱き湯を注ぎ立春のミルクティー★★★
立春の雨まだ寒き楢林★★★

2月3日

●小口泰與
大いなる雪の浅間や風の道★★★★
どっしりと坐った雪の浅間山。その浅間山に向かい行けば、浅間山から風が吹き下ろす。それを「風の道」と解釈した。(高橋正子)

寒明けやチワワ食卓とび降りし★★★
起重機の春満月を上げにけり★★★

●多田有花
頂に立つ春近き靄の中★★★★
気温の上昇で、靄が立ち込めた日であったが、山の頂の靄はなおさら濃く立ち込めたことであろう。春がそこまで来ているのだ。(高橋正子)

山靴で電車に揺られ冬尽きぬ★★★
節分の午後は静かに雨となり★★★

●桑本栄太郎
馥郁と枇杷の花咲く垣根坂★★★★
垣根の続く坂沿いを歩いていて不意に枇杷の花に出会ったのだろう。冬の引き締まった空気のなかに、枇杷の花の香り高い匂いには惹かれる。
ちなみに枇杷は、バラ科である。(高橋正子)

寒ゆるむ南茶屋とや辻看板★★★
一羽翔び皆とび去りぬ寒すずめ★★★

2月1日-2日

2月2日

●小口泰與
友去りて居間の広さや春隣★★★
電線に等間隔や寒雀★★★
白鳥の舞い下る影や夕日影★★★

●河野啓一
青空に一輪紅き蔓バラや★★★★
黄水仙大杯掲げ咲き初める★★★
春浅きキウイの輪切り口に入れ★★★

●桑本栄太郎
蒼天の楽譜となりぬ冬芽かな★★★

ぱつちりと土手にちりばめ犬ふぐり★★★★
この句の問題点は、「ちりばめ」の主語が何かということ。犬ふぐりが主語なら、「ちりばめられ」、「ちらばり」になる。
犬ふぐりの花は、ぱっちりと開いた小さな青い瞳のようだ。土手に散らばって咲く姿がまた可憐である。(高橋正子)

末黒野と言うにほどなき土手の跡★★★

●下地鉄
春宵や止めた喫煙欲しくなり★★★

囀りの止まり足音また聞こえ★★★★
囀っている鳥が足音を聞きつけたのか、ぴたりと鳴き止んだ。するとその静寂に足音がまた聞こえる。「また聞こえ」に鳥と人間の関わり読み取れて面白味がある。(高橋正子)

すたすたと足取り軽く春の風★★★

2月1日

●小口泰與
白菜や黒雲かずく榛名富士★★★

寒暁の鴇色の空禽の声★★★★
寒の終わりが近づくと、寒暁の空が鴇色の美しい色に染まるときがある。それに禽の声が加わって、春の間近さが思われる。(高橋正子)

寒暁の夥しけれ明烏★★★

●多田有花
新しきレインウェアに春隣★★★★
晴れ晴れと神前結婚春隣★★★
漆喰の白きに山茶花の赤し★★★

●下地鉄
春立つや空の青さに海の色★★★★
「春立つ」の声を聞けば、空の色、海の色に春らしい明るさを感じるのも人の心。春は空の色、海の色から始まる。(高橋正子)

麗らかや老いも若きも軽やかに★★★
料峭や老婦の急ぐ帰り道★★★

●桑本栄太郎
<洛西、正法寺の梅林>
琴の音の寺苑に流れ寒ゆるむ★★★
探梅や堅きつぼみの風の谷★★★
ほころびの一つ二つや梅二月★★★