●迫田和代
空からの風も避けるか薔薇園を★★★
今だから色も冴えてる冬紅葉★★★
足湯して輝く空には星月夜★★★★
夜気の寒さを忘れるほどの足湯のぬくもり。いつまでも見上げて居たい、星月夜である。(高橋正子)
●小口泰與
冬の日の山に落ちけり川に落つ★★★★
漠然とはや夕暮れや懐手★★★
息白し雨にカーテン替えており★★★
●祝恵子
渡り越し冬の海橋仰ぎ見る★★★
フグ刺の薄さと美味さを小倉にて★★★
炬燵には兄妹と居る嬉しさよ★★★★
炬燵を囲み、暖かさにくつろいで兄妹といるうれしさ。いつまでも兄の下の妹でいる幸せがある。(高橋正子)
●井上治代
四国八十八カ所86番札所志度寺
九輪塔高くそびえて冬の鵙★★★★
志度寺は香川県にある札所。五重塔の九輪がそびえ、冬の空に鵙がけたたましく鳴く。鵙の小さな命の声が広い境内を圧するようだ。(高橋正子)
紅葉黄葉いけばな展に色あふれ★★★
風の中蜜を求めて冬の蝶★★★
●桑本栄太郎
風吹けば銀杏落葉の道を往く★★★
釣り人の独りの黙や枯尾花★★★
節々の骨のきしみや嵐雪忌★★★
●多田有花
木枯しを踏む心地する山路かな★★★
凩や海金色に輝きぬ★★★★
鵯(ひよ)の声明るく響く霜の朝★★★
●高橋秀之
残る葉はわずかばかりの冬木立★★★
冬木立の上には広く青き空★★★
どこまでも途切れぬ落葉並木道★★★★
●小西 宏
樹をめぐり銀杏落葉の明るい円(まる)★★★★
地に落ちて子ら伸び伸びと銀杏黄葉★★★
風明るし木の葉踊れる大通り★★★
●河野啓一
橙の早やも切られし今朝の庭★★★
焼き芋の香り漂う厨口★★★
白波の海に太刀魚釣り来る★★★★
●高橋秀之
冬の蝶風が吹くまま流れゆく★★★
紅葉散る大川沿いの並木道★★★★
「大川沿い」であるのがよい。爛漫の桜を咲かせた大川沿いも、紅葉を散らす季節となった。紅葉の散る大川沿いの桜並木もまた風情がある。
(高橋正子)
冬の朝遠くの生駒が近く見え★★★
●小口泰與
枯れ切って夕日透け行く薄かな★★★★
枯れ切ってこそ薄は白く透明感が増す。夕日に透けて枯れの美しさを見せている。(高橋正子)
虎落笛静かにさせよ赤城山★★★
声冴ゆる赤城の襞の迫りおり★★★
●河野啓一
日の中にひときわ明るし桐枯葉★★★★
桐の枯葉が、日差しの中にひときわ明るい。その明るさが季節の寂しさを救っている。(高橋正子)
山道を冬のドライブ県境★★★
冬彗星陽に近付きて砕けけり★★★
●桑本栄太郎
<京都四条大橋南座界隈>
四条大橋渡りまねきや京時雨★★★
顔見世のまねき高々あがりけり★★★★
南座の顔見世は、これから一年間興行をする役者の顔を紹介する興行。歌舞伎の新年のようなもの。そのまねきが高々とあがり、見るものの心を逸らせている。(高橋正子)
鴨川のしぶきか顔に時雨降る★★★
●川名ますみ
冬紅葉樹下の二人が三人に★★★★
立冬後の紅葉は、時雨などに傷められ、色もあわれ深さが見える。そうとは知らずか、樹下に二人が話しているのだろう。もう一人加わり話が弾むようだ。(高橋正子)
初菊の花瓶の側にパスタ皿★★★
パスタ巻く菊の花瓶と隣り合い★★★
●小口泰與
夕照の逆光浴びし冬野かな★★★
竹林のかんかん鳴るや冬ごもり★★★★
「かんかん」という竹林の響きが、冬の空気をよく感じさせている。冬ごもりする身には聴力が鋭くなる。(高橋正子)
冬ばらの風の中なる朝日かな★★★
●迫田和代
木枯らしにころころ転がる枯れ落葉★★★
今日もまた庭を明るく緋連雀★★★
何処からかピアノ音色年の暮れ★★★
●多田有花
時雨忌や夜明けの窓に風の音★★★
人はみな時の旅人芭蕉の忌★★★★
芭蕉の奥の細道の「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。」を思い出させる句だが、芭蕉忌の頃は、一年も終わろうとする頃で、時の過ぎる速さを感じ、また来る時を思う。「人は時の旅人」は人間の側から時を捉えた。(高橋正子)
梅の枝剪定されて冬めく日★★★
●桑本栄太郎
綺羅星のごとく山茶花つぼみけり★★★
朝よりも木の葉散り敷く家路かな★★★
綿虫やおまえは寒くないのかい★★★
●小口泰與
朝冴ゆるあけぼの色の赤城かな★★★★
朝の冴えた空気に、赤城山の山容があけぼの色に染まるのが、ほのかにあたたかい。(高橋正子)
山風の直滑降や頬凍つる★★★
底冷えの納戸や居間の賑わえり★★★
●多田有花
冬紅葉いよよ紅さの増しにけり★★★
公孫樹輝き師走の近づきぬ★★★
鉄骨の冬めく空へ吊られおり★★★★
冬めく灰色の空につられた鉄骨の危なさと武骨さがよく詠まれた。(高橋正子)
●桑本栄太郎
朝日射す方の並木や冬黄葉★★★★
朝寒の黄葉に日が差すと黄葉の黄色が浮き上がる。並木がどこまでも通じていく感じがする。(高橋正子)
冬紅葉窓に巡らせ迂回バス★★★
乗り換えの冬の紅葉の嵐山線★★★
●河野啓一
大滝のしぶきに濡れて紅葉かな★★★★
滝しぶきに濡れた紅葉は、風情が一段とましている。大滝からは風も吹き起こっているであろうから、紅葉の枝も濡れながら揺れて今現在を意識させてくれる。(高橋正子)
銀杏の木濃黄色に並ぶ朝★★★
名畑家の隅に大菊植えており★★★
●小口泰與
木守や遠の連山はなだ色★★★
火の山の噴煙起つや大根干す★★★★
大根を干すころは、風も寒くなり、温かさが恋しくなる。火の山の噴煙も目に温かさを運ぶ。そういう意味で取り合わせが成功している。(高橋正子)
噴煙の流るる先の木の葉かな★★★
●古田敬二
風が今梢に来たらし欅散る★★★★
風の子どもがいるようだ。梢に来た風の子は欅を散らした。(高橋正子)
昼の陽が上手い具合に柿吊るす★★★
二人して真昼の陽光布団干す★★★
●多田有花
あつあつの大きを頬張る牡蠣フライ★★★★
揚げたてのものはおいしい。牡蠣フライなどはことに揚げたてで大きなものがジューシーでおいしいのだ。寒い季節、あつあつが嬉しい。(高橋正子)
風雨去り窓に静かな冬落暉★★★
山へ向く道たっぷりと木の葉降る★★★
●佃 康水
鐘一打遠のく峡の冬紅葉★★★
【原句】塩むすび桜紅葉へ載せて食み
【添削】塩むすび桜紅葉へ載せて食ぶ★★★★
木の葉に食べ物を載せて食べるのは、風流だ。桜紅葉に白い塩結びが載れば色彩的にも美しい。(高橋正子)
四阿を叩きどんぐり転がり来★★★
●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
冬空へ大きく乗り出すモノレール★★★★
「大きく乗り出す」がいい。モノレールが大きくクローズアップされた。(高橋正子)
鉄橋の車行き交う冬の空★★★
クレーンのコンテナ吊りし冬の空★★★
●小西 宏
わが庭はふくら雀のひかり中★★★
遠くまで落葉ぬれたる柔らかさ★★★
冬空に聳ゆソーラー発電機★★★
●小口泰與
寒暁のあからむ山の彫り定か★★★★
次第に明けてゆく山容が、すっきりと詠まれている。(高橋正子)
あけぼのや境内かざる冬もみじ★★★
冬ばらのほころぶ力なかりけり★★★
●古田敬二
冬服を鞄にぎっしり旅支度★★★
包丁に昼の陽光らせ柿を剥く★★★★
日向に柿と包丁を持ち出して、日向ぼっこをしながら、干し柿を作ろうとしているのだろう。すると、刃先に太陽が当たって、刃を光らせるのだ。刃物の鋭さと、柿の色がいい取り合わせだ。(高橋正子)
濡れ縁に陽光浴びて柿を剥く★★★
●河野啓一
手向け山古都の紅葉は神のまにまに★★★
枯れ葉舞う斑鳩町の旧家かな★★★
欅もみじ色さまざまに高々と★★★★
欅もみじは、黄色一色ではない。細やかに色の変化がある。そして高々と空に聳える。これがいい。(高橋正子)
●多田有花
頂に青空向いて冬木立★★★
冬紅葉古刹へ車の列続く★★★
冬の雨冬の嵐となりし午後★★★
●桑本栄太郎
冬めくや笑うごとくに鴉啼く★★★
葛の実の風の冷たき葉陰かな★★★
土乾く畝の並びや冬菜畑★★★★
高く作られた畝であろう。寒風にさらされた冬菜の畝が乾いている。それと好対照に、冬菜は青々と茂っているのだ。(高橋正子)
●小川和子
みどり児の重み抱き上ぐ小六月★★★
みどり児のこぶし幼く青すだち★★★
音たてて十一月の夜半更けぬ★★★★
●黒谷光子
ふっくらと一輪挿しの冬椿★★★
道いっぱい濡らし除雪車試運転★★★
色極む村の神社の冬紅葉★★★
●小口泰與
熱燗や赤むらさきの赤城山★★★
木枯しや榛名の肌の焦げ茶色★★★
蓼科の湯宿の古りし炬燵かな★★★
●桑本栄太郎
光陰の過ぎし習いや芒枯る★★★
下校子の駅へとつづく冬田かな★★★★
冬田の中を下校の子がつぎつぎと駅へ向かって歩く。駅も、下校の子たちも冬田との関わり合いでいい生活風景となっている。(高橋正子)
風吹けば彩の舞いおり木の葉飛ぶ★★★
●多田有花
丘の上冬の朝日が当たる家★★★
坂道が冬青空へ抜けてゆく★★★★
坂道のその上は青空へつながる。坂道の魅力はこんなところに大いにある言える。(高橋正子)
冬枯れの川べりをゆくクラシックカー★★★
●佃 康水
広島 三瀧寺紅葉祭り
冬瀧や朱の葉隠れに音激し★★★
磨崖仏の顔を掠めて散紅葉★★★
日の温み残る欄干紅葉散る★★★★
陽だまりの欄干にたたずめば、紅葉が散ってくる。日に照り映える紅葉や日の温みなど、心が温かく癒される思いだ。(高橋正子)
●古田敬二
良き知らせ真っ盛りなる石蕗の花★★★★
石蕗の花の明るさが、良き知らせそのもののようだ。(高橋正子)
逆光に透かして盛りの黄葉樹★★★
ドングリの豊かに膨らみ輝けり★★★
●小西 宏
音遠き落葉の森に日の斜め★★★
落葉掃く八十余歳来し方を★★★
富士の雪うす影にしてひとつ星★★★
●小口泰與
寒暁の湖や白波かがよえり★★★
冬雲や待合室の重き黙★★★
四段の飛び箱飛びし小春かな★★★
●迫田和代
縁側で西日厭わず柿を食ぶ★★★
大いなる幸を喜ぶ菊日和★★★
道々で村の祭りや遠出の日★★★
●古田敬二
温き陽の桜紅葉の尾根に出る★★★★
「温き陽の桜紅葉」がよい。尾根の見晴らしのよさ、心地よさが伝わる。(高橋正子)
億年の模様の石ころ冬陽浴び★★★
淡き影まっすぐに立てて冬の竹★★★
●多田有花
順々に枯枝となり陽のあたる★★★
冬の蝶ひらひら日差しの中へ出る★★★★
日差しの中のか弱い冬蝶が、光の精のように思える。(高橋正子)
展望を指差す小春の頂に★★★
●桑本栄太郎
校門の空や桜の冬紅葉★★★★
校門の空と言われれば、そこには大きな空がある。春は満開の桜で新入生を迎えたであろうが、今は冬紅葉となって凋落の前の美しさを見せている。(高橋正子)
踏みしだく落葉さくさく乾きおり★★★
ひと跨ぎほどの川面やつがい鴨★★★
●小西 宏
農夫老い太く真っ赤な薩摩芋★★★
芝草に残る冬日のドッジボール★★★
山の端に日の残りいて冬紅葉★★★
●河野啓一
大通り黄葉落葉の清掃車★★★
川沿いにネオンきらめく冬の街★★★
暖簾越しおでんの湯気は道頓堀★★★
●黒谷光子
空よりも濃き冬の海東尋坊★★★
冬晴れの岸壁を打つ波真白★★★
冬紅葉南北朝の館跡★★★
●小口泰與
白壁に二人の影や冬帽子★★★
電柱の影のゆれおる枯野かな★★★
夕映えを湖に収めし白ショール★★★
●黒谷光子
自転車の篭に降り来る紅葉かな★★★★
紅葉の散る季節になった。自転車の篭にも色美しく降ってきている。自転車で出かけようとして、その色合いを楽しんだことだ。ささやかなよろこび。(高橋正子)
陽の燦々桜紅葉の並木出て★★★
木洩れ日の桜紅葉の並木道★★★
●古田敬二
そこだけが今朝から明るし石蕗の花★★★★
石蕗の花は明るい。葉を落とした木や花の少なくなった庭では特にそうである。(高橋正子)
人ごみに男の大根見え隠れ★★★
芒枯れ風の行く道見えにけり★★★
●多田有花
コンビニへ荷物受取り冬の夜★★★
明けてくる小雪の朝鳥の声★★★
シリアルを温め初めし小雪に★★★
●河野啓一
瀬戸の島夕陽の海に浮かびおり★★★
隣家の垣根に顔出す穂芒2本★★★
小粒ですがと柿配りゆく夕べかな★★★★
自宅で取れたものはなんでも嬉しいが、ご近所に配れることもさらに嬉しい。「小粒ですが」も奥ゆかしく暖かい近所づきあいが思われる。(高橋正子)
●桑本栄太郎
堰堤の水の蒼さよ冬の風★★★
丘上に登れば風の冬日照る★★★
青空に風のさざめき木の葉舞う★★★
●川名ますみ
色葉散る空に樟の葉青々と★★★
樟の葉のみどり輝く冬紅葉★★★
【原句】散紅葉少女ばかりが追うて来ぬ
【添削】散紅葉少女ばかりが追うており★★★★
紅葉が散るのを少女ばかりが喜んで追っている。子どもは散る紅葉をも遊びにしてしまう。散る紅葉に少女たちが混じった風景はよいものだ。(高橋正子)
●小口泰與
初霜や長き廊下の診療所★★★★
初霜のおりた朝の診療所。寒いせいか、来院の患者も静かにして、幾分かの不安に廊下の長さが目につく。(高橋正子)
きりきりと身の引き締まる寒さかな★★★
上州や赤城颪とあまないて★★★
●多田有花
山寺の皇帝ダリアに冬陽燦★★★★
皇帝ダリアは木立ダリアとも呼ばれ、丈の高いダリアだ。お寺の方は意外とハイカラで新しいものを受け入れておられる。薄桃色の花が冬陽のなかで燦然と輝いている。(高橋正子)
山頂は凩のエアポケット★★★
凩や海と甍は銀色に★★★
●桑本栄太郎
静謐と言うは朴の葉落葉かな★★★★
大きな朴の落葉が地に落ちている様子を「静謐」と呼んだ。たしかに朴があるところは、たとえ森でなくても、空間に静けさが生まれている。落葉の季節なら特に。(高橋正子)
落葉掃く後へあとへと散りにけり★★★
あおぞらに軽き枝垂れや萩枯るる★★★
●河野啓一
春は花秋は紅葉の丘うれし★★★
初冬の空の青さと日の光★★★
篭いっぱい買いこみ帰る新玉葱★★★★
玉葱は、ふつう夏に収穫されるが、最近はこの季節、沖縄などで作られた新玉葱が出回っているようだ。サラダにすれば甘みがあっておいしく、新ものは喜ばれる。篭いっぱいも買いたくなる。(高橋正子)
●小西 宏
落葉焚く匂いわが街子ら多し★★★★
少子化が進む現代といわれるが、落葉焚ができるような地域もマンションが建ち住宅地となって子供が多い。我が家の近辺も住宅地のせいか、子供が多いと感じる。落葉焚と子どものとリ合わせに詩情がある。(高橋正子)
やわらかき柿しゃぶりおり陽だまりに★★★
日の影の野を追われゆく冬の午後★★★